ゴーレム兵装、新規開発計画 〜戦闘配備

■シリーズシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月16日〜09月23日

リプレイ公開日:2009年09月28日

●オープニング

 その日、メイディアのゴーレム工房では鎧騎士の愛称メイメイとその姉の真理、それからゴーレムニストのユリディスが呼び出されて、大量の衣類と装飾品を前に座らされていた。
 で、行われていたのが。
「ユリディスは服のサイズが合わないから、このネックレスなんかどう? 一度もつけたことはないから、貰いものだなんて分からないわよ。マリはリサイタル用に服がないと困るでしょうから、色々持っていったらいいわ。直しをしてくれるところも紹介してあげる」
 エリカによる、当人が使わない衣類と装飾品、ちょっとの靴を『あげるから持っていけ』という押し付けだった。いきなり呼び出して、皆の都合も聞かずに喋り続けている。
 衣類も装飾品も、ものは悪くないのだ。生地も仕立てもよいし、装飾品の大半は銀製品で時々金が混じっている。宝石類も使ってあったりと、いずれも高価な品物には違いない。ただしエリカのものだから、当然全体的に派手。
 挙げ句に、
「メイメイには、これをあげる。使ってないから、安心して着てちょうだい」
「‥‥この服、透けてますけど」
「ナイトガウンやネグリジェだもん。使え」
 メイメイには、命令形だ。姉の真理は元気がないのか、単に面白がって眺めているのか助け舟はない。メイメイはそんなものは着ないだろうが、どう断ったらいいのか考えている様子だ。そもそもネグリジェだから透けているって、そんなことは普通ではない。
 ついでに真理はともかく、工房に籍を置いているユリディスやメイメイには、この品物の出所がエリカが最近縁を切った愛人方からの贈り物だろうと察しが付く。物がよくたって、貰って嬉しいものではない。特にメイメイは、『こんなのどうすればいいというの』状態だ。
 だが。
「なによ、ユリディスったら。指輪一つで満足だなんて、欲がなさ過ぎるわ。あんたが貰わないんなら、猫にくれてやる、猫に」
 逢引用に持っていけばいいのよ、使わないなら猫の首輪にしなさいと、無茶を言ってエリカはユリディスの前に装飾品を、真理にはドレスと髪飾りを、メイメイには妖しい服を詰めた袋を積み上げた。すでに荷物運びを仰せつかった雑用担当の少年少女が、『貰ってくれないと八つ当たりされる〜』と顔に書いて傍らに佇んでいる。断ったら、彼らに悪い。
「直していいものなら、使えるかも知れないからいただくけど‥‥全然合わなかったら」
「好きにしていいわよ」
 最初に真理とエリカの間で話が済み、ユリディスは少年少女の縋るような目に仕方ないわねと苦笑した。メイメイだけは迷いに迷っていたが、エリカが無理やり抱えさせて押し出そうとする。
「ど、どうしていきなり、こんなに色々分けてくれる気持ちになったんですか」
 迷惑だとは言えないメイメイの、抗議にもならない問い掛けへの返答は。
「だって、今片付けておかないと後が大変かもしれないんだもの。あたし、しばらく実戦実験で留守にするから、仕事はよろしく」
 海賊退治で鉄製ゴーレムシップの実験してくるわーと朗らかに言われて、ぎょっとしたのは三人だけではなく、少年少女もだった。

 鉄製ゴーレムシップ。
 精霊砲を積み込めるようにならないかと色々調整していたはずの代物が、突然実戦に出されるのには当然訳がある。とりあえず大弩弓を載せたが、それは間に合わせ。長距離攻撃魔法の使い手を乗せたらとも提案されているが、エリカはそうした乗員が限られる方策には乗り気ではない。
 けれども、開発中から早期の使用希望が複数あったのを断り続けていたのが、申し入れていた貴族達の一部から不興を買った。中に根回しのうまいのがいて、エリカの対応より素早く鉄製ゴーレムシップを出す指示を工房の上に出させることに成功したのだ。多分、エリカとその利益分配者達は、現在報復行動中だろう。
 しかし、命令されたからには行かねばならず、エリカは海賊退治に鉄製ゴーレムシップと共に向かうことになったのだった。もちろん、お目付け役のプロコピウス・アステールも同行する。

 海賊が五隻の船団を組んで現われるのは、メイとジェドの境に当たる海域だ。多くの海賊は逃げ込める入り江などが多数ある沿岸部に出ることが多いが、こちらは海のど真ん中。ついでに先だって当主が死亡したイムレウス子爵領寄りだ。
 メイのイムレウス領と隣国ジェドはどちらも不穏な状況である。イムレウス子爵領の騒動の種は刈られたものの、後始末の方が大変ではないかという状況。どこかの勢力からはぐれた連中が、勝手知ったる海域で海賊行為に勤しんでいると見る向きがほとんどだ。
 勝手知ったる海域と判断されるのは、一日の潮の流れの変化をよく知っていて、自分達が有利な時間帯と方向から強襲をかけてくるため。一度掴まるとよく統率された集団に乗り込まれて、船ごと乗っ取られることが多いらしい。荷物は強奪、人はどうなったの分からない。
 そんな海域でもゴーレムシップであれば有利で、わざわざエリカ達が出て行くこともないのだが、上からの命令は命令だ。
「ゴーレムニスト以外に、今回は戦闘要員も必要だわね。どんだけ来てくれるかしら」
 ゴーレムシップ二隻とグライダー四機と共に出航する準備を整えつつ、呟いたエリカの表情には船乗り達が及び腰になったという。
 意に沿わぬことをさせられた憂さ晴らしを海賊でするのはいいが、味方の自分達が標的になりたくはないものだと、切実に感じたそうだ。

●今回の参加者

 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec4986 トンプソン・コンテンダー(43歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

 立案から九ヶ月。突貫工事に魔法付与でよくもここまで作ったものだが、やおら突然に初陣である。ここでしくじったら、開発責任者のエリカからの責任転嫁と理不尽な八つ当たりとその他諸々のろくなことにならない。でも実験だってろくにしていないのに、
「まったく気の早いこって‥‥」
「売られた喧嘩は買った上に高値で買い戻させるような人だしね」
 開発責任者のエリカと共に開発に携わったゴーレムニストの布津香哉(eb8378)と門見雨霧(eb4637)は、さも当然のように笑いながら出港準備に加わっていた。これを聞いた加藤瑠璃(eb4288)は、他国のゴーレムストとも複数面識があるのだが‥‥心の中で『ゴーレム工房の人って、どこも一風変わった人が多いのかしらね』と思っていたが、言わずにいたのは賢明だった。なにしろ門見の婚約者も、ゴーレムニストだ。
 ちなみにエリカは瑠璃の挨拶を受けた後、『あんた他国で働いたことがあるわね』と依頼の様子を尋ねたそうだったが、さすがに時間がない。同様にゴーレムシップ操船が出来ると名乗った鳳レオン(eb4286)も似たような追及を受けたが、そういうことは言えないと頑張っていた。実際幾つかは他言無用の依頼だから、他の事でも下手に口を割るべきではない。そこから手繰られて白状させられたら大変だ。
 そんな印象を鳳や瑠璃が持ったというのに、シャクティ・シッダールタ(ea5989)はまったく別の感想を抱いていた。
「羨ましいですわぁ。ドレスと首飾りがとっても良く合っていて」
 こんな時でもドレスに白衣、装身具いっぱい、化粧ばっちりのエリカに、うっとりだ。服は種族の違いでどうにもならないが、化粧の仕方くらいは教えてくれないだろうかと考えてみたり。すでに出航準備やゴーレムシップの操作手順の確認で忙しい他の面々とは大違いだが、そもそもの担当部署が異なるので元々あまり仕事がないのだ。
 反対に鎧騎士のトンプソン・コンテンダー(ec4986)は他の冒険者にゴーレムシップの船員、鉄製ゴーレムシップの操船経験がもっとも豊富なプロコピウス・アステールと鉄製ゴーレムシップの特性などを話し合っていた。出航する前にまずは少しばかり乗せてもらい、その後も時間が取れれば練習しておくことになった。帆船とは速度が段違いだが、そこに慣れれば方向転換も難しくはないそうだ。
「でも、どう説明を聞いても猪武者のような船ですわね」
 自分にも関係がある仕事の話に耳を傾けていたシャクティが、海上を縦横無尽に移動することは出来るだろうかと首を傾げたが‥‥はっきり言って、『縦横無尽』は無理な相談だ。敵船に対して有利な位置取りを外さず、どこまで素早く方向転換するか。操縦者の技量にかなり左右される。と聞いて、トンプソンがいやはやと困り果てていた。
「暴れ馬じゃのう。なんともすごいシロモノじゃが、他国への刺激にならんじゃろうか」
「素体がよけりゃ性能が上がるのはゴーレムニストの常識よ。ランのカーガンの研究くらいになると、話は別だけどさ。あのくらいお金が使えたらいいわよね」
 当人はほとんど何もしていないエリカが話に割って入って、トンプソンは目を瞬き、聞き覚えのある名前に瑠璃と鳳が手を止めた。非常に不穏当な発言を耳にしたからだが、すでにエリカはアステールに静かに、でもみっちりと叱られているところだった。
「ゴーレムニストって、目的のためならなんでもするって人が多い気がするのよね」
「マッドサイエンティストか。あ、多いだけで全員がそうだと言ってないぞ」
 全員がそうだったら、新型船の初陣なんて請け負わないと思ったかどうか、天界、地球人達は表情で『なんかとんでもないことだ』と語り合っていた。
 いずれにせよ準備が済んだら、いまだ名前が決まらない鉄製ゴーレムシップを含んだ船団が出航である。

 今回の目的は海賊退治。捕縛の指示がなく、味方が新型ゴーレムシップ以外は中型ゴーレムシップが二隻で、敵は五隻。よって冒険者と二隻の船長が相談した結果は、それぞれの思惑に差異がなかったともあって、速やかにまとまった。
 偵察はグライダー操縦が出来る布津と瑠璃に、交戦になったら上空からの攻撃も担う。海賊を発見したら、鉄製ゴーレムシップも加わっての追跡と攻撃だが、鉄製ゴーレムシップには操縦者としてトンプソンとアステール、攻撃手にスクロールを使うシャクティともう一人射手で鎧騎士が乗る。鳳はゴーレムシップの一隻の操舵、こちらは船長が戦闘指揮を取るので実質操船の責任者を兼ねる。もう一隻には門見が精霊砲の射手兼整備担当で乗り込むことになっていた。
 敵船の数が多いので、攻撃方法は帆やマストを狙って船足を止め、その後は撃沈するまで攻撃。シャクティはそのための準備もしていたが、敵船に乗り込んでの白兵戦は目的としないことになった。敵味方乱れるとグライダーからの攻撃が難しいし、
「鉄球の数が少ないな。でも似たようなのがたくさんあったけど、あれは鉄じゃないのか?」
 グライダーによる上空からの鉄球落下は攻撃力があるが、それとても数が揃えばのことだ。布津が出航前に見たところ、積荷に鉄球が沢山積まれていたようなのに、なぜかエリカの書いた搭載数が少ないので布津が書き間違いではないかと確かめている。そこそこ長い付き合いで、エリカが読み書きに堪能でないのは知っていての心配だ。
「油壺」
「燃やすのね。マストを狙ったほうがいいだろうけど、当てるコツってあるかしら」
 瑠璃が『帆を狙っても、ガソリンみたいには簡単に燃えないし』と心中心配していると、アステールが甲板上の移動を妨げる目的もあるから、船上ならどこでもよいのだと説明してくれた。今回はシャクティがファイヤーウォールのスクロールを主に使う予定だし、門見が使うのも火の精霊砲。油があれば魔法や精霊砲だけより引火しやすく、また足場が悪くなって敵の攻撃妨害にもなる。
「じゃあ、加藤さんに油を落としてもらって、そこにヒートハンドで熱した鉄球を落として、発火を狙える攻撃で‥‥うまくいったら最大効果か」
「油と鉄球が逆だと、なんで駄目なのさ」
「それは多分、油も温まらないと燃えにくいからじゃろう」
 布津の確認に、門見の質問があって、トンプソンが答えている。ついでに落ちた鉄球を狙って油壺を落とすより、飛び散った油のある場所に鉄球を落とすほうがまだ楽だからというのもある。
「なるほど。ではわたくしは皆様の後に狙いを定めて魔法を打てばよろしいのですわね」
 それでなくとも荒廃した地域に近い場所での海賊行為など許して置けない、仏罰を与えねばと気合十分のシャクティの言い分に反対意見はあろうはずもなく、作戦会議は綺麗にまとまったと思われたが。
「そうだ、余裕があればグライダーで停泊地を探して」
「停泊地? ああ、海賊船も港が必要か。あてもなく探すのは無理があるが、何か情報は?」
 船長達と海図を広げて、現地の海流の特徴を確かめていた鳳が、エリカの唐突な要求に皆の前に海図を広げなおした。地球の物とは比べ物にならない精度だが、おおまかにあたりを付けて動かなければ成果は見込めない。瑠璃と布津が現在地と陸地までの距離を教えてもらい、飛べる範囲を確かめている。
 大体このあたりと示された地域も広い上、入り組んだ入り江が幾つもあるので偵察行も難しそうだ。それでもどうしてそこだと判明したか、気になった者は何人もいる。答えは略奪品と同類の品の最近の流通具合だそうだ。これはメイディアの商人ギルドから流してもらった情報らしい。停泊地を押さえられれば、こちらに有利な状態で戦闘に持ち込めるし、なにより保管されている品物を回収も出来る。
「商人ギルドに恩を売って損はないしね。あと、生贄に出来れば何人か生け捕ってくれない」
「‥‥エリカさん、人体実験はなしだよ」
「海賊討伐の目に見える証拠と、被害者達の恨みをぶつける対象よ。役人も取調べと処刑をすれば面目が立つじゃない」
 それまでの間食わせるのが勿体無いけど、それは必要経費ってことでと、あっけらかんと言われると違和感を覚えなくもない。初対面の者ほどいいように使われている気分にもなるが、拒否するほど理不尽な内容ではないのが嫌だったり、弱ったり。
「そんなとこまで考えるかぁ」
 鳳がぼやくと、怪我人で十分だからと方向違いの答えが返って来た。
 布津と瑠璃は顔を見合わせて溜息をついたが、それでもグライダーの保管場所に向かっている。

 それから二日後のこと。
『迷わず殺しとけ!』
「生贄がいるんじゃなかったの!」
 グライダーの機上で、瑠璃は携帯型風信器に怒鳴っていた。通話相手はもちろんエリカだ。
 事は予想以上によく進んだ。流石にグライダーが出てくるとは考えていなかったらしい海賊は、陸地で普通に生活していて、煙が時折上がる場所があるのを瑠璃が発見したのだ。それを海図のどこと説明するのはやや難しかったが、方向と距離で概算して、推測した入り江に向かう。途中、離れた岬に人影が見えて、その報告をしたらエリカにさっくり殺れと指示された。船の通過を仲間に知らせる見張りだろうから、少人数で瑠璃でも対応可能だろうということらしい。かなり無茶。
『わたくしが参ります』
 通信にシャクティが入ってきて、瑠璃が下に目を向けると鉄製ゴーレムシップが岬目掛けてひた走っているところだった。そこからファイヤーバードのスクロールで岬に飛んで、取り押さえるつもりだろう。帰りはどうするのか分からないが、布津のグライダーも合流したので二機でシャクティと海賊を回収できるかもしれない。
 同じようなことを布津も考えていたが、攻撃時には操縦を鎧騎士に任せて鉄球落下に専念するつもりだった彼は、偵察時にはあまり武装をしていない。敵が複数いたらどう加勢するかと悩んでいたが、待つほどのこともなく陸地ではシャクティが手を振っていた。加勢の必要はないようだ。
 結局後で回収に来ることにして、見張りは立ち木にきつく括り、シャクティは履水珠を使ってゴーレムシップに戻る。それからこっそりと門見や鳳が乗り込むゴーレムシップに合流を目指して動き出した。
 海賊船の停泊地は、襲撃多発地点から潮と風がよければ二時間掛かるかどうかの場所だった。見張りがいた岬との連絡方法は不明だが、知らせが届いてすぐに出航できる準備はしてあるのだろう。
「海に引きずり出さないと、陸地から逃げられる可能性があるか。でも、この船を見てただの帆船とは思わないよな」
 さて出て来るかと、すでに操舵輪を任された鳳は同じ船に乗り合わせているエリカに問い掛けた。ゴーレムシップは通常帆船とは外見が激しく違うので、軍船と警戒して出て来ない可能性は元からあった。
「その時は敵陣の入り江を塞いで、居住地に精霊砲ね」
 積荷の回収のためにも出て来いと唸っているエリカは、携帯型風信器と通常風信器を使い分けて全体の状況を把握している。まだ敵船の姿は見えないが、万が一の場合に入り江閉鎖をする位置取りは鳳も自分の目で確かめていた。もう一隻と動きを合わせれば、閉鎖は出来る。
 だがそれだと鉄製ゴーレムシップの性能確認はやや難しいと考えていたら、入り江から最初の一隻が出てきたと連絡が入った。情報が不完全だったか、こちらの姿を認めたと思う頃に進路が乱れたが‥‥その頃にはすでに入り江から三隻目が出てきたところだった。
「全部出て来るまで、精霊砲は撃つな」
 鳳が伝声管に叫ぶと、鎧騎士から応じる声が返る。続いて少しだけ残していた帆を全て畳めと指示を出す。まだかなり離れている僚船も帆は畳んで、これから推進機関を活用してやってくるだろう。鉄製ゴーレムシップはどこにいるのか分からないが、海賊に見えない位置からこちらに戻ってきているはず。
 後は、こちらの姿が一隻だと高を括って攻めてくるか、それとも逃げるか。風の具合から、すぐに反転して入り江に立て籠もるには相当時間が掛かるはずだ。
「そろそろ撃つよー」
 もう一隻のゴーレムシップで、門見が携帯型風信器に向かって宣言した。戻るに戻れず、五隻目の半分が入り江から出たところ。それでもさすが五隻目はそこで止まろうとしていたので、させまじと帆に大穴を空けるべく精霊砲に手を掛けた。
 すでに瑠璃と布津は装備を整えなおして、グライダーで出撃した。先程のエリカからの通信転送によれば、鉄製ゴーレムシップは入り江近くで敵後方からの攻撃を加える予定らしい。借りた双眼鏡で適時巻き込まないように確かめつつ、操舵手が精霊砲の射程に敵船を入れるのを待った。
「予定外はお互い様だけど、こっちも失敗はクビに繋がるからさ」
 もう一隻が先頭の船に向かい、鉄製ゴーレムシップの位置も視界に収めて、門見の操る精霊砲が炎の柱を噴いた。
 炎の柱があっという間に目の前に迫り、その向こうに敵船がそびえるのを見つつ、トンプソンは舵を切った。
「ようやく慣れてきたぞい。お嬢、この距離ならよいな」
 シャクティが身振りで了解を示したので、次は先を進む船に向かう。同じ船を狙って無茶な方向転換を繰り返すより、ジグザグ走行で攻撃できる船に次々接近することにした。その連絡がちゃんと僚船に届いているか分からないが、精霊砲は彼らの位置と別の船を狙って移動するから安心していいだろう。
「はっはあ、空を駆ける気分とはこういうもんじゃろうな!」
 その上空からの攻撃も、手順に時折入れ替わりがあるものの順調に進んでいた。ヒートハンドで鉄球を熱していた布津だが、同乗者の集中を邪魔しないようにとことんまで熱したらどうなるかは試せていない。こればかりはまたの機会を作るほかないようだ。
 一時間ほど後には、五隻のうち三隻が炎を上げていた。他の二隻は横腹に大穴が開いて浸水し始めていた。
『馬鹿ーっ、誰が突っ込めと言ったかー!』
 一隻の横腹に目測を誤って突っ込んだ鉄製ゴーレムシップの風信器から、エリカの叫び声が届いている。他の人々からの安否を問う通信も入るが、返事をする余裕がある者はいない。シャクティは勢いで放り出された鎧騎士を助け上げるのに忙しく、トンプソンはどう方向転換をするか思いつく限りを試している。アステールはトンプソンの操船に合わせて、船体の舳先を櫂を使ってずらしていた。
 なんとかかんとか脱出したら、敵船から離れたところで精霊砲が立て続いて打ち込まれてきた。連絡してくれよと思っても、もう今更。
「いい動きしてたよ。後で報告書書くから、内容確認するか?」
 布津が戻ってきたトンプソン達を迎えた時には、鉄製ゴーレムシップが途中で確保した海賊数人以外は、海上には船も人も味方の姿ばかりが残っていた。