ゴーレム兵装、新規開発計画〜進水式直前
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■シリーズシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月10日〜07月17日
リプレイ公開日:2009年07月22日
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●オープニング
メイディアのゴーレム工房で、ゴーレムニストのエリカがいつものように自分の占拠した部屋でふんぞり返っていた。彼女が座っている椅子は、当人が持ち込んだ高級家具だ。たまたま室内に居合わせた人々に出された茶も、茶葉と茶器ともに最高級品。全部エリカの私物。珍しく大盤振る舞い。
「予定以上に時間が掛かったわ。でもこれで仕事に集中できるわね」
「もう揉め事もないことを願います」
お付きの鎧騎士プロコピウス・アステールの言葉が、こちらも珍しくきついのには、もちろん理由がある。
この一月あまり、何を考えたのか分からないが、エリカが自分の交友関係の縮小を図りだした。言い方を変えれば、たくさんいた深い仲の男性陣を片手で数えられるくらいに減らしたのだ。
当人は相手に合わせて切り方は変えたのだと主張するが、簡単に割り切れないのが男女の仲。エリカはよくても相手が嫌で、工房内外で揉め事が色々起こって大変だった。主に、エリカ以外の人々が。エリカは帰り道に刃物を持った元恋人に追いかけられようが、留守に家の中に押し入られようが、うまい具合に修羅場を潜り抜けて傷一つ負わずに平然としている。
平然としていられるのは、縁を切られなかった男性陣と、元々利害の一致で協力関係にある有力者達が支援を惜しまないからで、主君が切られなかった側に属するアステールはエリカの身辺警護で日々苦労をしたのである。
「もう大丈夫、そこは皆にちゃんとしてもらったから。やっと工房でも無茶せずにお金を動かせるようになったし、人も使えるし、副業でも儲けられるようになったのよ。お金出してくれるしか能がない男にいい顔してやらなくても、好きなことをして暮らせるってものね」
だから好きな仕事に邁進するのだとエリカは主張しているようだが、聞いた人々の思うことは別だ。
今までのあの生活のどこが、好き放題していなかったというのだろう?
訊いたらきぃきぃ怒りそうなので誰も口にしないが、エリカの主観では身辺整理を穏便に終えて、これからは仕事に集中して暮らす人生設計らしい。どこが穏便で、どこが仕事に集中しているのか、本日夜は支援者とお食事だとお抜かしあそばしていたのを耳にした人々には理解できないのだけれど。
まあ、これで鍛冶師や船大工達が早く完成させろと毎日文句を並べていた鉄製ゴーレムシップも完成して、実験まで漕ぎ付けられる事だろう。
それが成功すれば、すぐにも沿岸警備に回されるはずだ。もしくは、どこかの領地からの依頼で貸し出されるか。すでにエリカの元には幾つか打診が来ているのだが、いずれにもいい返事をしていないのは皆も察している。珍しく、貸し賃を釣り上げようとか考えているわけではないらしいのが不思議なところだが。
いずれにしても、鉄製ゴーレムシップの残りの製作と実験を済ませて、実用性を誇示したいところである。
●リプレイ本文
あぁ、やっぱりやっちゃった。
鉄製ゴーレムシップを開発中の冒険者ゴーレムニストのレン・コンスタンツェ(eb2928)、門見雨霧(eb4637)、布津香哉(eb8378)の三人は、予想が一瞬で現実になったことに全然驚かなかった。いきなり引っ叩かれたキース・レッド(ea3475)は、流石に言葉が出ないようだ。
「どの筋で噂になってるって? 依頼のことを不用意に言い触らして歩く輩なら、そこの海に沈めるわよ」
ゴーレムニスト・エリカと初対面のキースは、『あたしの世界はあたしを中心に回っている』と豪語する相手だとは知らない。で、ちょっと斜に構えて『ルシファー氏が過ぎ去りし後、鉄製ゴーレム機器の矛先はどこに向くのだろうね』と口走ったら、引っ叩かれたのだ。ついでに開発が噂になっているなどと言ったのが、一番よくなかった。
『情報漏洩源は貴様らかっ』と視線で問い掛けられて、三人は即座に首を振っている。情報管理については、これまでも事あるごとに念押しされてきたのだ。破ったとみなされて、工房出入り禁止などくらったら目も当てられない。
こういう時は、別の話題を振るに限る。キースだってわざわざ精霊を連れて来てくれたのだから、追い返すわけにもいかないのだ。
だが。
「精霊は別に危険はないんじゃない? あんた達とは別行動で、併走のゴーレムシップか陸地から魔法を撃ってもらうだけだから」
酷使したり危険な目にあわせたりするようなら、開発から手を引くぞと釘を刺した布津に対して、エリカはそう言った。続けて『攻撃魔法くらい使えるでしょ?』と確認してきたのが、非常に恐ろしいが‥‥
「確かに戦場で使う予定だけど、まさかいきなり実戦形式の実験なんかするつもり?」
精霊をつれて来た布津はもちろん、門見も他国で行われたと噂の精霊から直接精霊力を引き出して能力を上げるようなことなら反対だったが、開発したばかりのゴーレムシップを攻撃させるつもりとは思わなかった。
しかしそれなら、どうして風と水と属性を限定したのか、月精霊魔法を使うレンには気になるところだが。
「精霊砲使うって、船には誰が乗るのにゃ?」
「あんた達」
操船はアステールが、攻撃は精霊と精霊砲で行なうから、身を持って衝撃や不具合の有無を確かめて来い。そのためにゴーレムシップが二隻、グライダーが二機、旧型とはいえフロートシップも一隻押さえたと言われれば、それは自分達が乗るしかないのだろうと四人とも思うが‥‥エリカはもちろん乗らないほうに決定していた。
「よく、こんな人と一緒に仕事が出来るね」
「働きに報いることは、一応ちゃんとしてくれるから‥‥かなぁ」
キースのぼやきに、レミエラ合成時に使うアイテムを貰った布津は、何とか自分を納得させつつ答えていた。後はやっぱり、自分も作ってみたいからだ。
鉄製の船は、錆もせずにきちんと四人の前に出されてきた。以前に注文を出した手すりと荷物固定用のフックが接合されていて、座席は木製で取り外しできるものが用意されている。
ただし、座席は今回の実験では使用しないことになっていた。なにしろ速度がどれだけ出るのか分からないから、乗員は出来るだけ低い位置に座っていた方が安全だろう。それに砲撃もあるから、どれだけ揺れるかわからない。
「鉄だろう? そんなに揺れるものか?」
「他のゴーレムシップと違って、小さいからにゃー」
速度によっては船体がかなり不安定になることも考えられる。でも尋ねられたって、レンもどんな風に出来上がっているのかはちょっと予想が付かなかった。模擬戦闘実験の前に牽引実験はしたいものだが、全然速度が出ないようでは改良が先になるだろう。
ちなみに高速が出ても、もちろんそれだけでは結果良好とはいかない。門見がエリカや職人達に説明したのは、航跡の確認の重要性だ。この辺りは船大工がよく分かっていたが、動く船の後方に歪んだ航跡や渦が出来るのは船体のどこかに歪みがあることになる。手漕ぎで不具合は発見されていないが、速度が上がれば上がっただけ小さな歪みの影響も大きくなっていく。この見極めは重要だ。
歪みから発生する影響は速度、強度、衝撃を受けた際の船体全体への被害の出方など。そうしたものが発見された場合の対策や航跡の見分け方などは布津も入って具体例で説明して、重要性は皆理解してくれた。この中にはレンとキースも入っている。
でも、最初の航行にはやっぱり布津も門見も乗船側。ゴーレムニスト達には理由が分かる。シップ系のゴーレム機器は、人型ゴーレムと違って搭乗員達全員の精霊力を使用して動くので長時間の稼動が可能だとされている。だから性能を引き出すためには、乗せている人数も出来るだけ多いほうがいいわけだ。
その後は人数を増減しての稼動実験があるはずだから、その時には乗せてやると決心した者が何人かいたかも知れない。
ともかくも初日から魔法付与は山ほど待っている。ゴーレムシップのための魔法より、レンと門見には精霊砲を作れ、布津には行動制御を頼むと次々と依頼が舞い込んできた。その度に関係する素体が置かれた場所に行かされる。大抵は誰かが迎えに来るから、
「ドナドナ?」
「ドナドナ」
地球人二人が顔を見合わせてうんうんと頷いていた。キースやレン、エリカには何のことだか分からないが、間違っても市場に子牛が連れて行かれる様子を歌った歌のことだとは言えない。
彼らがちゃんと仕事をしないで自分が不利益をこうむったとか、鉄製ゴーレムシップがうまく仕上がらなかったとか、まるで人買いに買われた幼子のように自分達が苦労していると思っているなんてことがエリカにばれたら、布津は『暴虐の限りを尽くされそうだ』と言い、門見はまったくそれに賛成だったから。後程意味を聞かされたレンとキースも、もちろん頷いた。
四人共に、当然鉄製ゴーレムシップが完璧なものに仕上がっていて欲しい気持ちは変わらないが、こういうところで意見と気分がかみ合って、結びつきが強まっていた。
ゴーレムニストの三人は魔法付与が主な仕事だが、キースは防錆塗料を延々と塗っている。他の人も手が空けばやってくるが、なかなか忙しいのでほとんど一人で塗っている。流石に仕上げは専門の職人が来てくれるだろう。
そうした最中にも、レンがやはり飛び回っているエリカをようやく捕まえて、
「防御力付与を使わなくてもいいのかにゃ?」
装甲強化の相談をしていた。エリカは以前に一撃離脱式の強襲を行う船の心積もりで話していたから装甲が厚いに越したことはないし、なにより模擬戦闘があるなんて聞いてなかったし。
けれどもエリカはまずは基本の魔法のみで作って、防御力付与はシップに分散付与で効果があるかどうか確かめてからと珍しく慎重論だった。貴重な一隻目だから結果を出さねば次がないのと、色々試してどこがいけないのか分からなくなっても困るのだろう。
「なるほどにゃ。とりあえずこの船は実験用に置いといて、どうしても必要なところにだけ貸し出すのでいいと思うにゃ」
まだ用途ごとの実験も装甲も途中だし、なにより武装がない。門見からは船首に近い部分に重石役も兼ねて大弩弓を左右に設置してみたらどうかと意見が出ていた。船そのものの搭載重量の上限と使い勝手により、精霊砲か大弩弓のどちらを載せるか決まるだろう。
どちらにしてもまずは航行実験から始まるのだが、翌日にはその実験だとなった夕方に、布津が船大工に尋ねたことがあった。
「俺の国では進水式にはワインを船体にぶつけて入れ物を割ったり、お酒を奉納する習慣があったけど、こっちではどうするんだ?」
竜と精霊に感謝は捧げ、奉納品はその時の棟梁や船主などの趣向に沿って変わったりするらしい。エリカは金の指輪を用意してきて、船の上から海に投げ込むそうだ。
実際、翌日に海上に出された船がゴーレムシップとして起動するところまでは一緒に乗り込んでいたエリカは、金の指輪を惜しげもなく投下していた。
そう、鉄製ゴーレムシップはまず問題なく起動したのである。
海上には、冒険者四人とアステールが乗り込んだ新型ゴーレムシップ。乗っている五人は工房が手配した救命胴衣に関節と頭を守る防具を着け、ケミカルライトを持たされて、操舵担当のアステール以外は臨時に据えた座席から船縁をしっかりと握っていた。
「これ、折ると光るんだっけ? なんの役に立つんだい?」
「「夜まで遭難し続けた場合の目印」」
「この状況で夜まで放置されるなんてありえないにゃ‥‥」
「転覆したら船の回収が先だから、しばらくは溺れないように気を張っていてもらわないといけないが」
横合いと前方にはゴーレムシップ、上空にはグライダー二機とフロートシップがいる。こんなにいて、もしもの時には誰も自分達を助けてくれないのかと思うと寂しいが、まずは転覆などしないと信じるべきか。ひっくり返ったが最後、すぐに沈みそうな船だから回収が優先されるのもある意味仕方がないのだし。
風信器を通じて、エリカがカウントダウンを開始した。速度は上空のグライダーと比べて計算する。もちろんゴーレムシップとフロートシップも付いてくるが、小型ゴーレムシップは振り切るのが鉄製ゴーレムシップの第一目標だ。
そうして。
「「ありえないー!」」
「「やった、モーターボート!!」」
ジ・アース人と地球人で綺麗に反応が分かれて、それぞれ叫んでから態勢を崩したり舌を噛んだりしている。操縦しているアステールは口を開く余裕もない様子だ。
鉄製ゴーレムシップはゴーレムシップの中ではもっとも速いはずの小型船と旧型とはいえフロートシップを振り切った。まっすぐ航跡を引いただけだが、グライダー以外は付いて来られない。流石にグライダーは余裕を持って併走しているものの、けして遅くはないのが四人から見て取れる。
そんないい速度でまっすぐ航行して、予想以上に速度が出たと四人が喜んでいたら、アステールが風信器に向かってこう言った。
「私の技量では操りきれないようです。こちらから行きますから、一人追加で寄越してください」
ゴーレム操縦の腕がもっと上の者の操船によく反応するはずだとの報告に、若い鎧騎士が困惑しきりの表情でゴーレムシップから下ろされてきた。
「まあまあ頑張ってよ。これが終わったら、宴会用意してあるから」
門見が励まし、更に実験継続。速度に変化はないが、確かに方向転換はアステールの時より切れがよい。とは言っても、船の大きさの割には速度があるせいで小回りが利かない。速度を落とせば大きさに見合った動きになるが、速度が上がるほど細かい動きは出来にくいだろう。敵とすれ違いつつの攻撃はいいが、そこから反転再攻撃は結構難しいということだ。
航跡は後刻、フロートシップに乗り換えた門見と布津が確かめたところ、問題はなさそうた。操縦者も複数変えたが、特に異常は感じないのでここは船大工と鍛冶師達の腕前を誉めるべき。
けれども牽引実験に入ると、速度が相当に落ちた。船体に荷重をかけての操船では目立って速度に変化が出ないから、本体以外のものを牽引するのには向いていないのだろう。
「エレメンタルキャノンを載せることは出来そうだけど、何か引っ張るのは厳しそうにゃ‥‥この速度なら、普通のゴーレムシップのほうが有効だしにょ」
レンも速度の表を見て、額にしわを寄せている。
だが、船体そのものの強度が予想より高かった。大きさの近いチャリオットの三倍増しくらいの強度があることが判明した。何で判明したかといえば、接岸時に木製の桟橋に激突したから。やってしまった鎧騎士は蒼くなっていたが、船乗り達が怒るより先にゴーレムニストと鍛冶師達が群がって、傷の有無だ壊れ具合で強度を計算するのだと大騒ぎになっていた。で、布津と門見が相変わらず他の人々に『よく分からん』といわれつつ計算した結果が、『チャリオットの三倍増しの最大強度』。ちょっとした傷は普通の鉄製品並に付くが、大きな衝撃にはかなり強いということ。
模擬戦闘ではキースと布津の精霊達は当然手心を加えた攻撃で、着弾余波の横波の影響を見るのに役に立った。でもエリカが直接撃ってきた火精霊砲は、門見とキースが髪の毛がちょっと縮れたと文句を叫んだくらいの近さで爆発。危うく何人か海面に投げ出されかけたが、船体の自重があるからか傾いても簡単には転覆しないようだ。
「俺はゴーレム素体にスレイヤー能力をつける魔法を開発するまでは死にたくないぞー」
布津がそんなことを口にしつつ、もごもごと誰かの名前を呼んでいたのをレンは聞いていた。ついでにキースと門見もだ。
「そんなことしてるのがばれたら、また苛められるにゃ」
『ユリディスに怒られたから、もうしないわよ』
「私らに恨みでもあるのかにょ〜」
『ない。でも軍船造ってるのに人道だの乗員の安全性だのをどこまでも優先しろとほざいたら、そんな奴はもう呼ばない』
精霊の模擬戦実験参加でも無茶させるなとの意見には、『依頼で前線に連れて行って攻撃に参加させることに比べたら、よほど安全だわよ』とお抜かしあそばしたエリカだけあって、風信器でレンのぼやきを聞き取って会話に参入してくる。確かに軍船建造中だが、その最中に味方に砲撃を食らう精神的衝撃を理解して欲しいものだと、鉄製ゴーレムシップに乗せられた人々は考えている。
これらの模擬戦実験でエリカが出した結論が、高速での小回りがまったく利かないことを考慮して、『一撃離脱、もしくは反転再攻撃の二発で敵に的確、絶大な効果を及ぼす武器の搭載』だった。当然精霊砲が候補筆頭だが、実際に載せて速度が維持出来るかなどはこれから確かめることだ。
ついでに更なる発展としてだろうが、布津があげていた『素体に特定スレイヤー効果ないしダメージ軽減効果を付与する』という『新規魔法開発』にも食指が動いているようだ。これはゴーレムシップの特性上ダイナソアとの戦闘が頭にあるらしい。
そうして門見は『魔法陣を模写したい』と希望して、『模写はいいけど、持ち出すな。代わりに冒険者ギルドの依頼でゴーレムニストが参加しているなら、ゴーレムと一緒に送り出す』と返されて、そのための模写をやっているのだろう。
ただ今現在、関係者一同が揃って門見出資で宴会を繰り広げているにもかかわらず、彼の姿がないのは多分そのためだ。
それと、キースのゼピュロスがエリカに貰ったご褒美の宝石を相棒に渡したのか、それとも自分で抱え込んでいるのかは、酔っ払いのからかいのネタにされている。
なんにしても次は搭載武器の改良か、船体そのものの発展開発だろうと予想される。布津の希望が叶うよりは、レンの考える装甲か精霊砲搭載の実現が先のはずだ。
ゴーレムニスト達は、こんな時でもあれこれと考えている。