駄犬通りの事件簿〜家出しました〜

■シリーズシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月16日〜09月23日

リプレイ公開日:2005年09月26日

●オープニング

 駄犬通りのぶどう屋敷では、今日も相変わらず夫人と居候が騒いでいた。
「これはニルのなのーっ」
「ばあやが私にって作ってくれたんですから、私のなの!」
 本日の言い争いの原因は、夫人オリンピアのばあやエリザベートがぶどうの蔓の刺繍をしてくれたハンカチーフだ。それを『世界のぶどうは全部自分のもの』と主張するシェリーキャンのニルと、『ばあやは私のばあやなのにー』と叫ぶオリンピアが奪い合っている。
 そんなの毎日のことなので、もう屋敷の誰も気にしなかった。
 ところが。

 場所は変わって、ドレスタットの冒険者ギルド。本日のぶどう屋敷からの依頼は、いかにも実直そうな、でもなんとはなしに変わった雰囲気もある男性からだった。
「奥様と、その乳母の方と、居候のシェリーキャンが家出したので連れ戻してほしい‥‥ですか。この三名、揃ってどこかへ行かれた訳で?」
 いやいやと、使用人を何人か連れてギルドを訪れた男性は首を横に振った。
「揃ってではありませんが、居場所は分かっておりますよ。オリンピアは我が家の屋根裏部屋から出ないと頑張っていて、ニルはぶどう畑の一番大きな木のうろにこもって、エリザベートは近くの修道院で泣き暮らしてます。妻とニルはこの際しばらくそのままでも構いませんが、エリザベートはなんとか家に戻るように説得してほしいのですよ」
 老齢のエリザベートが、相も変わらず些細なことで騒ぎ散らし、皆に迷惑を掛けているオリンピアとニルの反省のなさをはかなんで修道院に入ると飛び出してしまった。せっかく、のんびりした生活と好きな刺繍を楽しんでもらおうと近くの家を借り受け、長年の奉公に報いようと準備を整えた矢先のことである。
 オリンピアの夫は、妻が屋根裏部屋で寝起きしていても『そういうことが昔から好きなので』と取り合わない神経の持ち主だが、エリザベートには大変な感謝の心を抱いているらしい。
 そりゃあ、あの妻を延々と世話してくれたと思えばと、オリンピアを知る者は誰でも頷くだろうが。
「それに、もうぶどうの収穫が始まります。そうしたらオリンピアとニルは黙っていられずに出てきますよ」
「なるほど。では、ご依頼はエリザベートさんを説得して、修道院から戻ってもらうことでよろしいですか。奥様とシェリーキャンはどうします?」
「余裕があったら摘み出してもらって、おしりペンペンですな」
 おしりペンペンですか‥‥と、なんともいえない表情になった係員に必要事項を伝えて、依頼人はぶどう屋敷に帰っていった。付き添いの使用人達が顔色一つ変えなかったところを見ると、『おしりペンペン』はいつものことらしい。

 ともかくも、エリザベートの説得なのである。

●今回の参加者

 ea0926 紅 天華(20歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1931 メルヴィン・カーム(28歳・♂・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea2262 アイネイス・フルーレ(22歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3668 アンジェリカ・シュエット(15歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6153 ジョン・ストライカー(35歳・♂・ナイト・シフール・イギリス王国)
 ea6505 ブノワ・ブーランジェ(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

源真 結夏(ea7171)/ シエロ・エテルノ(ea8221

●リプレイ本文

 ぶどう屋敷のばあやことエリザベートが、奥方のオリンピアとシェリーキャンのニルの喧嘩に愛想を尽かし修道院に篭ってしまった。
 これを聞いて、これまでもぶどう屋敷からの依頼を受けたことのある面々は一様に思った。
「いよいよ来るべきときが来たということか」
 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)の整えられた髭を扱いての感慨に、他の七人も頷いたのだ。誰も驚いていない。
「そーだよねぇ、オリンピアさん一人でも大変なところにニルちゃんだもん」
 和紗彼方(ea3892)のある意味暴言も、誰からもたしなめられない。これまた皆の意見が一致したと見える。
 そうは言っても、微妙には違っている。
「前回の俺の歌が下手だったばかり、ご婦人達の心をこれほど傷付けてしまったとは‥‥」
 ぶどう屋敷までの道中、突然そんなことを言い出したジョン・ストライカー(ea6153)には、宗派の壁を越えて聖職者であるところの紅天華(ea0926)、アンジェリカ・シュエット(ea3668)、ブノワ・ブーランジェ(ea6505)が『それは勘違いだ』と告げたが思い込みは恐ろしい。
「話が混乱しないようにおとなしくさせるか?」
「でも‥‥歌の練習をしていらしたのは本当のようですし」
 呆れ顔のメルヴィン・カーム(ea1931)のこれまた暴言に、バードのアイネイス・フルーレ(ea2262)がとりなした。素人にはあまり分からないが、ジョンの歌は上達しているらしい。
 でも。
「エリザベート殿には刺激が強かろうて」
 天華が暗に『オリンピアかニルのところに行かせよう』と提案したのに、反対する者は一人もいなかった。
 ジョンの即興歌は、いずれも歌詞が過激で修道院には相応しくなかったのだ。

 ところで、ぶどう屋敷には八人が初対面のオリンピアの夫がいた。商人としては優秀らしいが、妻と居候が閉じこもっていても平気なあたり、不可思議である。
「流石はオリンピアさんの旦那様よね。エリザベートさんの苦労もよく理解していらっしゃるわ」
 それでもアンジェリカが感心したように、エリザベートが飛び出した理由は十二分に承知していた。家出先の修道院には、当人が落ち着くまでの寄宿を依頼して、当座の身の回り品を届けさせ、寄付もしている。後はエリザベートの気が済んで、自分から帰ってきてくれれば大団円だ。
 対して、オリンピアとニルのことは『どうせ帰ってくるから』と気にしたところもない。これに感心するのもどうかと思う者もいたが、やはり冒険者全員の意見はほぼ一致していた。
「さすがは、あの女性を望んで妻に迎えられた方です」
 まさにブノワの言うとおりである。

 さて。八人はとりあえず三手に分かれた。行く先はオリンピアの閉じこもっている屋根裏部屋とニルのいるぶどう畑、エリザベートが身を寄せている修道院。ヘラクレイオスだけ、主のノーマンと話すことがあると残っている。
 ちなみに、『ご夫人の心を傷付けてしまった』と反省中のジョンと連れ立ったアイネイスと彼方は、オリンピアとニルの様子を確認して、エリザベートに伝えてあげるか、反省していれば一緒に連れて行って話をさせるつもりだったが‥‥
「ニルちゃんのところに行こうか」
「それがいいようですわ」
 先に屋根裏部屋に向かった彼女達は、早々に退散することにした。最初は彼方に『ばあやさんだって、喧嘩する人は側にいないほうが気楽だし』と脅かされ、アイネイスに『喧嘩は良くないことだとお分かりでしょう』と諭されて、反省の気配が漂っていたのだが、ジョンに『自分の歌のせいで心を乱してしまって申し訳なかった』と、ちょっぴりうまくなった歌を披露されたところでオリンピアの気配が変わってしまったのだ。
「まだまだ練習が足らないわ」
 仮にも良家の奥方が屋根裏部屋で寝起きしているだけでも驚きだったが、そこで竪琴作りに没頭していて、室内は季節の品の入った木箱の上から床から足の踏み場もない状態になっていた。それを、ジョンを座らせるのに木箱の上からあれこれ床に落としたので、更に見苦しいことになっている。
「いや、俺が歌いたいのはそういうものではなく! そう、例えるなら、傷付き心閉ざしてしまった婦人の心の牢獄を解き放つ鍵となるような歌なんだ!」
「そういうのは、基礎が大事。でもそれ以前に、あなたは作詞の才能が今ひとつ」
 突如として、厳しい修行の現場となった屋根裏部屋に、彼方とアイネイスは長居するような愚は冒さなかった。
 それからずっと、ジョンはオリンピアの押し付け作詞作曲教育に、独自の理論で立ち向かっていたらしい。
 一方、アイネイスと彼方の訪問を受けたニルもニルで。
「見て、オリンピアったら、エリザベートがせっかく作ってくれたのに破いちゃったのよ。しかも、その半分を渡してくれないんだから」
 ハンカチーフは力で負けるニルが取られないようにするために刺繍台の端に引っ掛け、そこから破けてしまったと目撃証言があるが、ニルはまるで反省しちゃいなかった。
「そんなこと言ってると、ばあやさん、ずっと帰ってきてくれないよ。いいの?」
「ニル様は、エリザベート様に戻ってきていただきたいのでしょう?」
「オリンピアが謝ったら、帰ってきてくれるでしょ?」
 二人はあずかり知らぬことだが、オリンピアもジョンに同様の発言を行っている。
 あまりの反省のなさというか、子供っぽさにアイネイスはどうしたものかと考え込んでしまったが、彼方は仕方ないと割り切った。ノーマンも『ワイン作りが本格化したら出てくる』と断言していたし、ここはエリザベートに集中したほうがいい。
「じゃ、オリンピアさんが謝らなかったら、ばあやさんはずーっと修道院だからね。もう二度と刺繍してくれないけど、しょうがないよね」
「‥‥せめてもの気晴らしに、刺繍の道具を持ってお伺いしましょう」
 ニルはシェリーキャンだし、オリンピアはああいうエルフだからもうどうしようもないが、エリザベートは本当に偉かったと頷きあいながら立ち去っていく二人のことを、ニルは指をくわえて眺めていた。
 彼女達がわざとゆっくり歩いていたことなんて、もちろん気付いていない。

 ところでぶどう屋敷に残ったヘラクレイオスは、ノーマンと茶飲み話ならぬワイン飲み話に突入していた。この屋敷を訪れること四回目でようやく会えた、あのオリンピアの夫である。更に長男もいると聞いて、ヘラクレイオスは二人に尋ねてみたいことが幾つかあったのだ。
 まずはノーマンの要望で、これまでの依頼のいきさつなど語って聞かせたあと、彼は単刀直入に切り出した。
 オリンピアのあの性格はどうにも変化しないとしても、家族の誰か、ノーマンか息子のいずれかが家にいてくれれば、エリザベートの苦労も軽減されると思うと直言したわけだ。エリザベートに隠居を勧めるのであれば、尚の事である。
「正直、あの奥方の奔放な性格は御夫君でなければ受け止めきれぬと思うのじゃが」
「聞いたかね、奔放だよ。さすが騎士様は言葉の選び方が素晴らしい」
 主題と違うところで感心されたが、ノーマンもエリザベートに負担を掛けた自覚はあったようだ。聞けばノーマンは妻より、その乳母の方が歳が近いのだという。結婚したときに、夫婦の年の差が倍もあったのだからありえない話ではない。
「私も遠出をするのは身体が厳しくなってきて、家でのんびりと過ごしたいとこれに代替わりを目論んでいるところなのですが」
 『これ』呼ばわりの長男が嫌な顔をしたが、ノーマンは意に介さない。この半年あまり、長男を連れ歩いて得意先回りをした苦労を得々と語ってくれた。
「では、ノーマン殿もこれからは悠々とご自宅で過ごしたいわけですな。それはよい」
 長男が苦笑するのはさておき、ヘラクレイオスはそれならとばかりにエリザベートの隠居先を整える手伝いを申し出ていた。
 エリザベートの説得は、他の者を信頼して任せてあるのだ。

 そして、修道院に向かったメルヴィンと天華、アンジェリカとブノワは、ノーマンから話が通じていたと見えて、エリザベートとの面会はたやすく叶ったのだが‥‥
「何がいけなかったのでございましょうねぇ」
 予想はしていた。エリザベートがオリンピアやニルに比べて段違いに話が通り、年齢にふさわしい対応が出来て、我慢強く、でも今回泣いて飛び出したくなった苦労を強いられていることも分かっていた。ゆえにその苦労話や愚痴を聞くとなれば、一時間では済むまいと覚悟もしてきたが‥‥
 じっと座り続けていることが苦手なメルヴィンは、飲み物を用意する名目で逃げ出した。他の三人は聖職者なので、じっと座って人の話を聴くことそのものは苦痛ではない。問題は、エリザベートの語るオリンピアの『困った話』が、三時間経った現在もまだオリンピア五十歳時点の話なのだ。あと七十年分を聞き終える頃には、日が暮れて、月が昇って、中天から下り始めるほどの時間が必要かもしれない。
 それはさすがに、ぶどう屋敷と修道院の人々が心配するからありがたくない。出来ればぶどう屋敷に戻って、そこでゆっくりと聞いてあげたいところである。もちろんオリンピアに反省を促しながら。
 なにより修道院で心安らかに祈って過ごす時間は穏やかかもしれないが、商家の有力な使用人として采配を振るっていた身に楽しいとは限らない。またエリザベートは高齢だ。しばらく過ごすのは誰も反対しないが、この先一生は厳しかろうと思うのだ。
 これは白黒の違いはあれ修道院を知るアンジェリカもブノワも、宗派も違うが修行生活を知る天華も、修道院の静けさに『生活が違いすぎる』と口にしたメルヴィンも共通した感想だ。修道院が悪いとは言わないが、ノーマンが用意してくれた家のほうがきっとエリザベートには向いているだろう。
「まあね、彼方も言ってたけど、オリンピアさん一人でも大変なところにニルじゃ飛び出したくなるのも分かるよ。でも泣き暮らすのは良くないと思うな」
 ブノワがノーマンに譲ってもらったワインを温めてもらったものを運んできたメルヴィンが、とめどなく続いていたエリザベートの話を遮ったのは三時間と半が過ぎてからだ。聞き上手の三人が、気の済むまで話をさせそうな気配を察して割り込んだのだ。
「確かに、ここは乳母殿には静か過ぎるようじゃ」
「主に祈りを捧げるのは大切なことだけれど、ここで悲しい顔で泣き暮らしていてはいけないわ」
 天華とアンジェリカもこの機に口を挟んだ。なにより屋根裏部屋のオリンピアとぶどう畑のニル、そして屋敷のノーマンに挨拶もしていないのではないかと指摘されて、エリザベートははっとしたらしい。
「旦那様にご迷惑を掛けてしまって、お怒りでしょうね」
「怒ってはいらっしゃらなかったわ。とても心配していたけれど」
 アンジェリカに『これからゆっくりしてもらうために家を借りて、戻ってくるのを待っている』と知らされたエリザベートは、がっくりと肩を落としてしまった。今更戻っていいものだろうかと自問している。
「このワインは、あなたに会いに行くと告げてノーマン氏に譲っていただいたものです。どうやら大変良い品物を持たせてくださったようですよ」
 まずは一口とブノワに勧められて、エリザベートも杯を口に運んだ。この中ではワインに一番詳しいブノワが言うなら美味しいだろうと、他の三人も倣う。
「今まで飲ませてもらったのの中で、一番うまいかも」
「戻ってこなくていいなら、これほどのワインはいただけないでしょう。あの二人が貴女を慕って、与えられる目に見えるものを愛情の証として取り合うのとは別に、ノーマン氏も貴女を家族同然に思って心配していらっしゃいますよ」
 とつとつと語られた言葉は、白の教えについて。無償の愛とは言うが、人には達成しがたいそれは神から賜る恩寵ともいえること。代わりに、特定の誰かと与え与えられた愛情は、どんなに素晴らしい品物より人の心を潤すのだから。
「愛なき人生には何の価値もありません。あの二人も貴女を愛してこその我侭ですよ」
 いささか迷惑ではあるが、その我侭の暴走も謝る相手がいなくては解決しない。
 後刻、見事にエリザベートをぶどう屋敷に連れ戻したブノワの説法をメルヴィンがお大袈裟に感心して見せたところ、当人は『白のクレリックがここで気張らないでどうしますか』と軽くいなしたが、アンジェリカの『想い人とはどうなったの?』の問い掛けに足を滑らしていた。
「さて、こちらで静かに暮らせるようにせねばならんな」
 天華の一言がなかったら、もっと派手に転んでいたかもしれない。

 さて、修道院では『話が戻ったら困る』とメルヴィンに入れてもらえなかった彼方とアイネイスは、彼女達ならではの一計を案じていた。
 彼女達の案、『ばあやさんが戻ってきたお祝いに庭で宴会をして、オリンピアとニルをおびき出す』はノーマンの了解も得て、葡萄の収穫が本格化する前の景気付けも兼ねて賑やかに実行されることとなった。
「オリンピアさーん、ここにお夕飯置いておくねー。今夜はお祝いで、皆忙しいからー。ボクも踊るんだー」
 アイネイスが演奏してくれるしと、吟遊詩人には聞き捨てならない台詞も吐いて、彼方は階段を駆け下りた。
 ニルのところにはアイネイスが向かって誘い、もちろん断られてすごすごと戻ってきながら呟いた。
「ばあや様が、とっときの葡萄模様の食器を出してくださるとおっしゃったのに」
 残念という声が、全然残念そうではない。
 そうして、宴会が始まって‥‥
「あれで、ご夫婦仲が円満なのは不思議ね‥‥」
「見ようによっては楽しそうじゃぞ」
 竪琴を抱えて飛び出してきたオリンピアを捕まえたノーマンが、人目もはばからずに本当におしりを叩いたのを見て、アンジェリカと天華が呆然としている。
「ボクの期待通りだよ。飲ませてよかったー」
「彼方、それもどうかと思うぞ」
 同様に『自分がいないのに』と文句垂れ垂れ出て来たニルは、ワインで大分酔っ払ったエリザベートの前に座らされて、懇々と説教を食らっている。飲ませた彼方は大喜びだが、メルヴィンは呆れ顔だ。
「俺の特訓の成果を聞けー!」
「その前に歌詞の吟味をいたしましょう。あんまり過激すぎるのは良くありません」
 ジョンはオリンピアの特訓の成果を示したいのだが、なんで祝いの席に戦いの歌かとアイネイスに止められている。アイネイスは、歌を歌うより作るのが得意だ。
「なんじゃ、内装を手伝ったが、まだしばらくは必要なさそうじゃの。ブノワ殿、後学のために良く飲め。ブレダをワインの産地にするなら応援するぞ」
 ヘラクレイオスは酒樽を独り占めして、ブノワにも一応分けてやっている。周辺では、わんこが肴のおこぼれに預かろうと尻尾を振って待ち構えていた。

 彼らは明日から、葡萄の収穫とわんこの世話の手伝いと、歌の修行で忙しく過ごせるのだろう。