聖母が威光を地に広めよ〜夜に彷徨う魔物
|
■シリーズシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 46 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月15日〜08月28日
リプレイ公開日:2005年08月25日
|
●オープニング
ドレスタットから軽く五十キロは離れたブレダの街、そこから更に同じくらいの距離を離れた開拓地で、またも問題が持ち上がっていた。
「モンスター退治して、猿退治して、今度はアンデッドだ? 何かいわくつきなのか、この辺は」
「魔の森以外のいわくなんかあるもんか。ところであの変なズゥンビはどうやったら倒せる? 魔法使いにもっと来てもらうか?」
元々は魔の森と呼ばれるモンスターの巣食った森の周囲、これまで土地が肥沃なのは分かっていたのに開拓されなかった地域に人の手を入れることを決めて一年。開拓計画はこれでもかというくらいに遅れていた。
最初の魔の森のモンスター、ガヴィットウッド退治は順調だった。それが叶うまでに、予定されていた討伐計画はドレスタットへのドラゴン襲来その他の事情ですでに遅れていたが。
しかしその後、新設する教会の司祭候補が一向に決まらず、ようやく決まったら大猿が出てまた退治に時間を取られた。この時は冒険者から多額の寄進があって、けして悪いことばかりではなかったが。
そして今回は、周辺地域の確認のために半月がかりの探索へ出かけるはずだった一行が、おかしなズゥンビに襲撃されて逃げ帰ってきたところだ。一応何に遭っても大丈夫なように、精霊魔法使いが風、炎、水と揃い、剣が使える者も一人いたのだが、奇妙に動きがよく、また当初はズゥンビには見えなかったというアンデッドは、剣で刺されても動きが鈍らずに皆を苦戦させたらしい。
今回も難問が持ち上がったが、開拓計画は元々長期に渡るものだ。そしてブレダの領地は幸いにして裕福な部類に入り、計画が少し遅れたからと飢える領民がいるわけではない。将来を睨んでの開拓計画だ。
ただあまり遅れれば、移住計画がずれ込んで何かと不都合はあるし、蓄えた富も食いつぶされる一方になってしまう。現在の開拓地にいる責任者は、出来ればさっさとズゥンビを倒して計画を進めたいと思っているが‥‥
新設教会の司祭候補というには若く、ついでに態度が不遜な神父のヴィルヘルムは渋い顔付きだった。
「魔法使いといっても精霊魔法使いだろう。神聖魔法使いが欲しいな。それと、その先の村の様子を確認したい。かなり‥‥危険だと思うぞ」
「アンデッド相手だから、あんたの意見は尊重するが‥‥ズゥンビじゃないのか?」
木の皮を剥がして平らにしたものに、アンデッドの目撃証言を記していたヴィルヘルムは、彼にしては珍しく左右に視線を泳がせてから説明を始めた。
開拓地に事前準備の一団を送り込んだブレダの領主と、ヴィルヘルムを派遣したブレダ司祭のメドックは、領主の館での短い会合を終えた。両者の持つ知識と、そこから導き出される判断、更に領民から育て上げた精霊魔法使い達を投入した場合の経済的な理由その他を照らし合わせると、結論はおのずと決まってくるからだ。
そうして、助祭のアンリエットがドレスタットまでの使いに指名された。ヴィルヘルムの義妹にあたるアンリエットも、開拓地からの報告書には目を通している。その上で、領内で一番の神聖魔法の使い手がリカバーとアンチドートのみ使用できるヴィルヘルムでは危ないと、司祭に同意していた。
「‥‥元はエルフの方のようですが、その村というのは大丈夫なんでしょうか」
「さて、そもそも開拓地からでも歩けば五日くらいはかかるはずだからね。ここからだって最短距離が歩けたとして同じくらいだろう。それでなくても排他的も極まった村だから、この事態の中で見て来いとは言わないよ」
いずれの国にも入らず、またジーザス教の信仰も届いていない。そうした地域の中にブレダが作成した地図に載っている小さな村があった。エルフばかりが住んでいたらしいが、何が原因か他所の村や街との交流を断って長い。近くに他の村があるわけでもなく、今ではほとんど忘れられた存在だった。
ただ今回、開拓を進めるにあたって、一度はそのことを伝えておいたほうがよかろうと言う話になり、先日の探索隊はそこへの使者も兼ねていた。最低限現状の確認、出来ればノルマンに恭順させられると、なおいっそうよかったわけだが‥‥
その前に現れたのが、例のアンデッドである。
そうして、ドレスタットの冒険者ギルドに『アンデッド退治依頼』が出された。
「体が腐敗していなくて、目が赤く、剣で刺しても効果がなく、おそらく夜行性で牙がある? はっきりアレって言って欲しい‥‥」
係員が空虚な笑いを浮かべた程度に、難儀する話ではあるようだ。
●リプレイ本文
志士が二人、騎士が一人、ウィザードが二人、白クリレックが二人。合計七人の冒険者に、ブレダの街の助祭アンリエットは、最初に今回の相手がバンパイアだと告げた。グ―ルでなければそちらと目算をつけていた彼らが驚かなかったので安心したらしい。
「神聖魔法使いを希望って言うのは、やっぱりそれがあったからか」
ご期待に添えずと苦笑交じりに名乗ったニュイ・ブランシュ(ea5947)に、アンリエットは穏やかな笑みで答えた。魔法が使えれば、多分問題はないと。
相手が相手ゆえに、寸暇を惜しんで出発した一行は、街道では随分と目立つ存在になった。志士の龍宮殿真那(ea8106)と源真結夏(ea7171)が乗馬して、騎士のヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)は馬の手綱を引いている。乗らないのはセブンリーグブーツでかなりの速度が維持できるからだ。ニュイともう一人のウィザードのツヴァイン・シュプリメン(ea2601)と白クレリックの二人イサ・パースロー(ea6942)とブノワ・ブーランジェ(ea6505)も、揃って同じブーツを使っていた。アンリエットは借り物だ。
「やれ、急くのは仕方ないが、相手のことも知らねばのう。ヴぁんぱいあとやらは、白木の杭でないと倒せないのじゃったか?」
「魔法も有効だといわれます。元がジーザス教徒だと十字架を恐れる、大蒜の匂いが嫌い、川を渡れない、鏡に映らないなど、諸説ありますが‥‥」
「かなり不確かな風聞も混じっているようですよ」
僅かに取った休息の際、真那が口に昇らせた言葉に、イサとブノワが答えた。少なくとも通常の武具では効果がなく、太陽を嫌うのは間違いがないらしい。ただ太陽を嫌うからといって、日中には絶対現れないということでもないようだ。
「じゃ、いざって時はおやっさんにバーニングソードお願いしないと。あたしが自分でやるより効果的だし」
結夏がツヴァインに言い、ニュイも真那に同じ呪文を施すことになった。ヘラクレイオスは自分で魔法を使って、攻撃までの時間短縮を図る心積もりだ。神聖魔法はその場の状況で対応が変わるだろう。
人数こそ当初の募集より一人欠けたが、戦力配分は問題なく、そして予定より半日以上早くブレダの街にたどり着いた一行だったが‥‥
真那と結夏、ニュイの三人は初対面のヴィルヘルムに、揃って同じことを思った。『なんだ、これ』が『こいつ』ではないところが、三人とヴィルヘルムの性格を現している。
「言うことはもっともだが、依頼人の意向を無視して決めておくのは問題だな。そういうわけで、信仰に関係なく寄進名簿に名前載せてやる」
「態度は相変わらずじゃのう。ところでその服装はなんじゃ」
ヘラクレイオスがその強引な態度に呆れたような顔付きで言うが、一番気になったのは服装らしい。ブノワやイサのような聖職者然としたローブを着ていたはずが、まるで騎士見習いのような白い装束なのだ。他に色違いの同じ装束を身に付けている者が何人か。ツヴァインがその中に見知った顔を見付けて、なるほどと唸った。
「魔法の使い手の装束か。これだけいて、我々が必要か?」
「なんだよ、それ。面倒はよそ者に押し付けようってことか?」
ニュイが唇を尖らせたが、ヴィルヘルムに『実戦見本だ』と開き直られて言葉に詰まった。ブノワが『こういう人なんです』と言わなかったら、愚痴の一つ二つは口から飛び出していただろう。結夏と真那は、先ほどの感想のままに様子見の姿勢だ。
とりあえず、明日の行く先が、いかにもバンパイアのもといた場所らしい『排他的なエルフの村』から変更になるのなら早めに決めてもらわねばならなかった。それで荷物の中身も変わるのだから。
「ま、逃げる算段も出来ているようだし、行って来たらいい。ただジャパン人の娘さん達は警戒されるから、隠れているように」
「何年前から、行き来がないの?」
先方はジャパン人を見慣れていないからねと、引き合わされたメドック司祭ににこにこと注意を促された結夏が尋ねると、司祭は指折り数えて『四十五年くらい』と返した。
「俺が生まれた頃からか」
何気なくニュイが口にした台詞に、何人かが目を瞠って彼を見たが‥‥幸いにして当人は気付かなかったようだ。軽く十歳、場合によってはもっと年長に見られることを、ニュイだって喜んでいるわけではない。
なんにせよ、非常に距離感の怪しい地図の写しと、方向しか知らない案内人のヴィルヘルムを都合してもらって、彼らは翌朝問題の村へと向かったのだ。
問題の村まで、徒歩なら五日程度。一行の速度なら余裕を見て三日で辿り着くはず。その行程はおおむね順調だった。ニュイと真那がそれぞれの経験を活かして地図に補足をいれ、ヴィルヘルムが念のためにその写しを更に作りながらだが、移動速度は結構なものだ。
ただ、出発直前にアンリエットに何か痛烈な一言を食らったらしいブノワがちょくちょく転倒し、ヘラクレイオスが見兼ねて自分の馬に荷物を預かったり、イサが色々言ったりしているのだが、相変わらず転ぶ。
それを見ていたツヴァインと結夏は、なかなか辛辣だった。
「一発殴って気合入れる?」
「直前にしておけ。空元気が途中でまた抜けると始末が悪い。そもそも緊急時の手配を頼んで、なぜ断られるんだ」
ブノワが万が一にもバンパイアに咬まれる被害者が出たときの対応を頼んだはずだと知っているツヴァインは特にそっけなく、自分が歩くのに専念している。
「もしも咬まれたら馬で担いで帰ってくれ。着いたらすぐ凍らせてくれる手筈はついてる」
被害者とはいえ、バンパイアになる可能性がある者をドレスタットに連れて行くわけにはいかない。幸いブレダの街には精霊魔法の使い手が多いので、時間稼ぎは可能だ。最悪の場合のことだから、説明されても誰も嬉しくはないのだが、真那が『咬まれるとヴァンパイアになるのか』と問いかけたので、イサとヴィルヘルムが頷いた。
「咬まれた場合、浄化呪文でバンパイアにならずに済むという話があるんです。だからピュアリファイの使える方のところまでとお願いしたのですが」
「そうかそうか。で、ヴぁンぱいあーとやらは、人並みの知恵があるのじゃろう? 次々仲間を増やさぬのはどうしてじゃ」
「バンパイア。発音が今ひとつだな。咬まれて変化した者を隷属させる、高位の存在がいるとは言うから、次々と増やさない理由はそれに聞くしかないだろ」
ブノワの返事はいなして、真那はヴィルヘルムに追加の説明をさせて首をひねっている。実際にその高位バンパイアに遭いたいなど誰も思っていないが、問題の村にそれがいる可能性は高いのだ。
「その村が全部変化していたら、まさか我々だけで退治するのか?」
「司祭のお話では、五十年前で百五十人からの住民がいた、それなりに大きな村だったようです。我々だけと言うのは、さすがに無理でしょう。悪魔ならぬバンパイア崇拝などに取り憑かれていないといいのですが」
「パリのほうでは、このところデビルの話に事欠かぬようだしな」
先ごろパリに出向いていたヘラクレイオスが、イサの懸念に大きく頷いた。なぜそんなものをと皆が思っても、人に仇なす存在を崇拝する者はいるのだ。まして他所との交流がなければ、ことの善悪の基準など簡単にぶれてしまうだろう。
「依頼人代行のご意見は? やれって言われたら頑張るけど、限度ってものがあるわよ」
「やばかったら逃げる。以上」
さらりと言い切られて、結夏が大変に分かりやすいご返事でと苦笑する。彼女は敵に背を見せることを厭う性格だが、それでも無謀に突っ込んでいく蛮勇は持ち合わせていなかった。もちろん他の六人もだ。
道もなく、ただ林と林の合間の草がぼうぼうと生えた場所を進んでいく道程では、足の他に口を動かすくらいしかない。体力が不要に削られない程度の会話で、問題の村に着いたら誰がどう話を持ちかけるか、バンパイアを始めとする人ならざる者をどう捜索するかなど重要なことは次々と、一日目で決まった。
地図を作成している真那とニュイの意向を入れて、少し早めに野営の準備を始める。腰を落ち着けた僅かな間に、真那は結夏とヘラクレイオスに地形から推測される兵の置き方など、ニュイはイサと植生についてあれこれ話し込んでいる。ツヴァインは火の番をして、ブノワとヴィルヘルムは食事の支度をする。後は不寝番の順序を決めて、ただ寝るだけだ。
そんな単調な生活を二日続けて、三日目の太陽が中天に差し掛かる頃合に、常々目はよいと豪語していたニュイがそれを見付けた。もう少し進んで全員がそれほど大きくない火から立ち上ったと思われる薄い煙を確認した。
「煮炊きの煙、昨日の儀式の残り火、すでに村が焼失している。どれだと思う?」
ツヴァインの問いかけに、周辺の木を見渡したイサが答えた。
「このあたりは、朝方に通ったところより、実のなる木が多いようです。若い木もあるから、それらを残して木を間引いている者がいるのだと考えられますね」
全部がバンパイアなら、木の実の採取は必要ない。よって生者が近くに住んでいるはずだ。
「それほど遠くもないようじゃ。今からなら、十分に日の高いうちに様子が伺えようて」
ヘラクレイオスが皆を促し、一行は森の外れまで行った。林を出て、畑が拓かれている先に、幾つもの家屋が見える。村の反対端は、そのまま林に続いているようだ。林の奥は見通せない。
結夏と真那は、村から姿を見られない木陰に陣取って、皆の余分な荷物を預かった。布教に来た聖職者と、付き添いの学者、騎士の一行とするには、あまり余計な荷物はないほうがよい。
「今時、ノルマンでジャパン人ってなになんて事になるとは思わなかったわ」
「まったくじゃ。物珍しそうに見られることは時にあるがの」
木陰で見守る二人の視界に、村から飛び出してきた人影が幾つか見えた。線の細い体つきからして、エルフだろう。非常に警戒している印に、いきなり石を投げつけている。
石くらいなら自分達の加勢は必要ないと、高みの見物を巻き込んだ彼女達の耳に、なんとも耳障りな叫び声が届いてきた。
最初、ヘラクレイオスは相手の言葉がゲルマン語だとは思わなかった。しかしイサとニュイ、少し遅れてツヴァインとブノワもなんとも言い難い表情ながら、会話をしようとしている。それがゲルマン語のままなので、よくよく耳を澄ませると随分と発音に特徴のあるゲルマン語だと分かったのだ。
過去には布教に来た聖職者もいると聞いていたから、同族のイサが自分達の身分を語る。返ってくるのは石礫だが、さすがに彼やブノワ、ヴィルヘルムは声を荒げたり、顔を歪めたりすることはない。ツヴァインとニュイは、もう少し正直だ。
まったく会話にならない一方通行の呼びかけがしばらく続いてから、ツヴァインが口を挟んだ。
「正しい信仰が不要だというのは仕方がない。我々は、我らの街を広げているところだ。ここからはまだ遠いが、以前より距離が縮まったと、念のためそれだけは知らせておく」
種族の違いはあれ、外見は最年長のツヴァインの台詞は、それなりの効果があったらしい。いつの間にか人垣を作れる程度には増えていた村人の中から、投石を繰り返していた者達より随分と年嵩の男が現れた。
「話ハ聞いた。ダガ、お前達の神はイラヌ。我々ニハ加護がアル。帰れ」
「わかった。この村に精霊の加護があるよう、我らの神に祈っておこう」
大半が敵意の浮かんだ、中に怪訝そうな表情も含めた村人に凝視されながら、彼らは当初の予定通りに速やかに撤退をした。真那と結夏に合流したのは、村から大分離れた場所でだ。
村から明かりが見えないだろう位置で野営しつつ、それぞれが見て取ったものをすり合わせて八人は、見事に渋い表情を一致させた。
「魔法に反応はありませんでしたが、なにしろあの距離なので確たることは言えません。戻って詳しく調べますか?」
ブノワの提案は、イサとツヴァイン、ヴィルヘルムの反対にあった。言った当人もそれは予想していたようで、無理にとは押さない。いくら林と接しているところがあっても、相手はエルフだ。身を隠す心得もない者がうろうろしていたら、先ほどの比ではない歓迎を受けることだろう。
「目が赤いのは何人かいたけど、別に珍しくもないからな。それにあんだけ晴れてたのに、苦にした様子もないんだから、心配はないだろうな。でも人数が出てきただけで約三十」
今でも全部で百人は下らないくらいの住民がいるのではないかとのニュイの読みに、真那と結夏が同意した。彼女達は村人が男性陣に気を取られている間に位置を変え、村の家々の様子を伺っていたのだ。どの家も誰かが住んでいる気配がしたし、慌てて窓を閉めたり、外を伺うように人影が見えたりした。それに子供の服も干されていたそうだ。
これなら開拓地近くに現れたバンパイアは、この村の住人だったとしても単なる不幸な犠牲者で、村そのものがバンパイアの支配を受けているとは言えないのでは。そんな風に、聖職者達以外は思ったのだが‥‥
「精霊信仰でもなさそうだが、何かあるな」
ヴィルヘルムの言葉に、イサが珍しくも嫌そうに同意した。
「精霊の加護と言われて、何のことか分からないという顔をした方が若い方に何人か。ジーザスでも精霊でもない信仰というのは何か、非常に疑問です」
「‥‥ふむ、なんとも困った話じゃな。しかしここに留まっても好転はせぬ。こうなったら目撃されたバンパイアを捕らえて、あの村と繋がるものかどうか調べてみてはどうじゃ」
ヘラクレイオスの意見に促される形で、一行は翌早朝には速やかにブレダの街へと戻りだした。幸いにして、後を追われるようなことはない。
そして。
村への往復七日に渡った行程と、バンパイア目撃地点からその姿を探しての戻りに更に三日掛け、ブレダに戻った一行に示されたのは、これでもかとばかりに色々な魔法の痕跡が残るバンパイアのばらばらになった破片だった。頭はかろうじてきちんと残っているが、女性だと分かる以外に目立つ特徴はない。いや、バンパイアであることを示す牙はもちろんあったのだが。
結夏とニュイが焼けた左右の腕を一つずつ、真那が凍った跡のある足、ヘラクレイオスが二つに斬られた胴体、イサとブノワは頭部を見て、ツヴァインの言い分に深く頷いたのだった。
「潰れているのは、地の魔法だろう。確かに使い方を知らないようだな」
ただ。
「次の手を打つ前に教育しろという場合には、今回よりよほどいい扱いでなければ引き受けがたい」
この台詞には、反応はそれぞれだ。
なんにせよ、目撃された一体のバンパイアは一応退治され、エルフの村への開拓の知らせが済んだ。後は念のためにと、バンパイアの死体が火葬にされて、街の墓地の何箇所かに分けて埋められた。
それを見届けた冒険者達の気持ちが、晴れやかだったはずはない。