●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者パーティ恒例の挨拶を交わし、信頼を築く冒険者達。
「俺は蒼天二刀流ファイターのリ・ル。リルでいいぜ」
まずファイターのリ・ル(ea3888)が名乗る。
「僕はギルス。小さき者達の伝道師、ギルスです」
続いてクレリックのギルス・シャハウ(ea5876)。彼の荷物を運んでいるリルには、剣術道場でも世話になっており、共に冒険する事になって張り切っている様子。
「好条件に釣られて思わず受けたけど‥‥どうも楽はさせて貰えそうにないな‥‥」
岩を眺めながらウィザードのロット・グレナム(ea0923)。
「ガンツさんは、どういった作品を? 熊の何が見たいのかしら?」
尋ねるナイトのミルク・カルーア(ea2128)に、
「作品は全部ギルフォードにあるんで良かったら今度見に来てくれよ。まだイメージは漠然としててな。現物を見りゃ閃くと思うんだ」
笑って答えるガンツ。
「しかし何だ‥‥わざわざこんなデカイ岩持ってく必要あるのか? 俺は彫刻の事は良く判らんが、こういうのを彫る時は先に描き起こしたりとかするもんだと思ってたぜ」
現場で直接彫るつもりなのかと苦笑いする浪人の陸奥勇人(ea3329)。だが内心、面白いとも思っている。
「俺は絵描きじゃない。彫刻家なんだ。モデルの前で魂を吹き込んでやりたいんだ」
ガンツの瞳は燃えていた。
「自分の道の為には身の危険も忘れ手段も選ばず‥‥か? なかなか面白い人だな。気に入った」
ナイトのシュナイアス・ハーミル(ea1131)自身も大熊との戦いを楽しみにしている様子。
「ところで、どうやって岩を運んできたの?」
「キャメロットで注文して、ここに届けて貰ったんだ。俺が運んだわけじゃねぇ」
尋ねる浪人の御山閃夏(ea3098)にガンツが答える。
「ともあれ、こいつを運ぶ荷車でも借りてこねぇとな」
勇人の提案で荷車を用意し、岩を荷車に固定して運ぶことにした冒険者達。
ナイトのシャルグ・ザーン(ea0827)と勇人が驢馬を提供し、順調に移動するが、それも付近の村までだった。
山は険しく、荷車で通るのは困難。幸い体力には自身のある者が多かったおかげで、協力して運ぶことは可能である。リルの編んだロープも役立っている。
「俺は頭脳労働が専門なんだけどな‥‥」
岩を支えつつ、ぼやくロット。また、『ブレスセンサー』で熊を探すのに協力している。
シフールのギルスは先行しての偵察役をしている。
また道中、岩運びで固くなった体をほぐすためと言って、手合わせするリルとシャルグ。
「強い相手との手合わせはいいものだな」
「流石であるな。手合わせできて光栄であるよ」
師範を務める腕前のリルと、オーラを併用したウーゼル流のシャルグ。あくまで稽古だが二人の高度な技が光る。
「熊もいいけど、この筋肉をモデルにしちゃあどうだい」
「いやはや見事なもんだ。次の作品のモデル、本気で頼もうかねぇ?」
ポージングするリルに、拍手するガンツであった。
野営では交代で見張りをし、大熊が出るという山を進んでいく冒険者達。
「ありゃ爪痕だな。俺の身長の倍以上の高さにあるぜ」
猟師としての知識もあるリルがそれを発見する。どうやら熊の縄張りに入ったようだ。
「冬場で食い物も減った頃だし、これで引っ掛かってくれるといいが」
熊を誘き寄せるため、『強烈な匂いの保存食』を仕掛ける勇人。
息を潜めて待つ冒険者達。
ほどなくして。
「来た、来た、来たよ〜」
上空から警戒していたギルスと、ロットの『ブレスセンサー』に反応があった。
すぐさま修得しているオーラをフルに掛けて戦闘準備するシャルグとシュナイアス。
「どんなに強い者でも頭上と背後からの攻撃には脆い‥‥戦術の基本だな」
ふわりと『リトルフライ』で浮き上がるロット。
「熊か。ジャパンじゃ一人、しかも素手で戦って倒した達人がいたって話だが。俺も挑戦してみてぇもんだな」
熊殺しは俺の憧れの一つだと付け加える勇人。だが、仲間達と協力して戦う事が嫌なわけではないようだ。
そして、姿を現したジャイアントベアは、真っ直ぐに『強烈な匂いの保存食』へと飛びつく。
「熊って言えば、コレだろ」
得物の大斧を担ぐリル。左手はナイフを抜けるようにしている。
「‥‥大熊か‥‥捕まえられたら大怪我だね‥‥」
日本刀とパリーイングダガーを構える閃夏。
「これだ、この本物の迫力が見たかったんだ!」
腕まくりをしてノミとハンマーを構えるガンツ。
「Guooッ!」
冒険者達に気づき、立ち上がり威嚇する大熊!
「でけぇ。こりゃ倒し甲斐があるぜ」
攻撃体勢になるリル!
応戦しようとする冒険者達!
「よっしゃキター! そのまま! そのまま! 立ったまま! まだ無闇に傷つけるなよ!」
岩にノミを叩き込みつつ、いきなり無茶なことを言うガンツ!
依頼人の言葉に、振りかざした武器を止めた冒険者達へと容赦なく襲いかかる熊の爪!
「くっ‥‥!」
それをシュナイアスが『デッドorアライブ』で耐える!
「依頼人の要求には従うさ‥‥もちろん、自分が死なない範囲でだけどな」
浮遊しつつ、真上をとったロットが呪文詠唱を中断する。
「あんまり無茶言わないで下さいね」
後方に下がりガンツの護衛を担当するミルク。道中すでに美術のセンスを認められていた彼女は助手としても作品を手伝っている。
「ま、それじゃ精々良いもんが彫れる様頑張りますか」
前衛に立ち、防御姿勢になる勇人。
まだ傷つけるなという要求に、仕方なく防戦に徹する冒険者達。
「ぬぅ、まだであるか、ガンツ殿」
『オーラシールド』での防御に徹するシャルグ。
「悪いが熊の向きを変えさせてくれ!」
更に注文してくるガンツであった。
「‥‥まぁ、ガンツさんの要望にはなるべく応えるけど‥‥」
熊の爪先がギリギリ届く範囲で、熊の攻撃をパリーイングダガーで受け流す事に専念していた閃夏。向きを変えさせようと立ち回るが、
「Gaooーッ!」
「やってくれる‥‥」
捕まりこそしなかったが、無理な動きで一撃貰ってしまう閃夏。すぐさま離脱して前衛を入れ替わる。
ガンツと彫刻に近づかせないよう立ち回る冒険者達。
「神様とガンツさんがじ〜っと見ています。ナイスポーズでがんばってください」
負傷した仲間の傷の具合を見て『リカバー』を効果調節して掛けるギルス。
「かたじけない」
回復したシャルグが礼を言い、また前衛へと立つ。
こうして時間を稼ぎ続ける冒険者達。
「悪いがお前さんの抱擁は遠慮させてもらうぜ」
「こいつとダンスなんて、洒落にならんな」
攻撃を誘発させて、回避に専念する勇人とリル。そうすることでガンツの観察にも貢献している。
「父と子と精霊の御名において、熊さんナイスポーズ!」
絶妙のタイミングでギルスの『コアギュレイト』が決まった!
「いいぞ! 最高だ!」
一心不乱に彫刻するガンツ。せっかくのチャンスだが攻撃するわけにもいかず、待つしか無い冒険者達。
「せいぜいカッコ良く彫ってくれよな」
いつでも対応できるようにしておくリル。
待つこと暫し。
「さて、ガンツさんよ。そろそろケリを着けさせて貰って良いか?」
大まかに形になってきた彫刻を見て、勇人が尋ねる。
「有り難うよ、みんな。もう完璧にイメージが出来上がったぜ!」
「GuRuaaaaーッ!!」
ガンツの言葉と大熊が動きを取り戻したのは、ほぼ同時だった。
一斉に攻撃体勢へと移行する冒険者達!
「いと優しき大空の守り手よ! 汝の怒りを以って我が敵を討ち滅ぼし給え!!」
まず、ロットが真上から『ライトニングサンダーボルト』を撃ち込む!
「援護します!」
続いて、ミルクの『オーラショット』が飛び、
「全開でいくよ!!」
閃夏とリルが『ダブルアタック』で斬りつける!
「刹那の見切りが真骨頂ってな」
勇人が熊の爪を引きつけ『オフシフト』で見切る!
「てやっ、往生せいっ!」
距離を取っていたシャルグが一気に『チャージング+スマッシュ』で突撃!
「その首貰ったぁ!!」
「Guooooー‥‥」
さらにシュナイアスの『スマッシュEX』がトドメとなり、倒れ伏す大熊であった。
まだ彫刻に没頭しているガンツ。もう脳内では完成図ができているのか、倒れた熊には見向きもしない。
「何でも珍味だって話を聞いた事があってな。後で食ってみようぜ」
熊の左手を切り落とす勇人。
結局、手だけと言わず、冒険者達の腹に収まる訳だが。
こうして大雑把に出来上がった熊の彫刻は、まだ仕上げ前だと言うのに動き出しそうな雰囲気さえあった。
それをロープで固定して大事に運び、無事帰還した冒険者達。
「神様はいつでも、あなたの創作活動をじ〜っと見守っていますからね、じ〜っと」
ガンツにニッコリ笑いかけるギルス。
「ここまで苦労したんだ。それ相応の作品を作ってもらわんとやってられんな」
独り言のようにシュナイアス。まだ未完成だが、それが素晴らしいものになるという確信は得られたようだ。
「本当に有り難うよ。じっくりと最高の作品に仕上げるぜ。そして、また次の作品にも良かったら力を貸してくれよな!」
ガンツは最高の笑みを浮かべて、冒険者達と握手を交わしていくのだった。