四大精霊とカオスの魔物 5

■シリーズシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月21日

リプレイ公開日:2008年12月25日

●オープニング

 これが最後の課題だとジョシュア・ドースターは言葉を重ねる。
 分国セレの北西部に広がる『雪と氷に閉ざされた大地』。
 原因は、その地に住まう水の精霊シェルドラゴンだと老魔術師は明かしたが、何故そこにいるのか、どうして人の立ち入りを禁じるのか、その理由は話さなかった。
 ただ『それ』が精霊と魔法使いの『約束』とだけ。
 そして今、若きウィザード達に課されたのはシェルドラゴンとの新たな約束を交わす事だった。

『自分の立ち入りを拒む事なかれ』

 聖なる地の、聖なる力の解放は、ウィザードには不可能。
 しかし『解放を可能にする者達』をこの地へ導く事は、精霊の声を聞き、力を借りるウィザード達にしか出来ぬ事。
「もう間もなく、この世界はカオスの魔物らによって混沌の渦に呑まれるじゃろう‥‥そこから逃れる術の一端をそなたらが担うのじゃ」
 ドースターは告げる。
 だから決して気を抜くなと。
「しつこいようじゃが、の。これは非常に困難な課題‥‥命を落とす事も有り得る。きちんと互いの意思を確認し合い、最後の課題に臨むことじゃ」
 頼む。
 そうしてジョシュア・ドースターは、若き八人のウィザード達へその頭を下げる。
「これからの、この世界の未来を守るのはそなた達だ。それをくれぐれも忘れんでくれ。‥‥良いな?」
 真摯な眼差しに、白く豊かな顎髭がふわりと揺れた――。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5513 アリシア・ルクレチア(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb7898 ティス・カマーラ(38歳・♂・ウィザード・パラ・メイの国)
 eb8686 シシリー・カンターネル(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 荒れ狂う暴風雪は、ただ挑むだけであったなら、すぐ傍に居る筈の仲間の声すら彼らに届けなかっただろう。





 それぞれが可能な限りの防寒を行ったが、先へ進むにつれて敵が寒さだけでない事が明らかになる。上空からは何もないように見えた、ただどこまでも広がる雪原は、積雪量が尋常ではなかった。一番背の高いレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)でも膝まで来る積雪は、レン・ウィンドフェザー(ea4509)、ティス・カマーラ(eb7898)、元馬祖(ec4154)らの腿まで届き、一歩を踏み出す度に仲間の手を借りて足を動かさなければならず、もとより体力に恵まれていないウィザード達にとって、この雪原横断の困難さは半端ではなかった。
 風魔法の使い手たちがウィンドレス、レジストコールドといった、防風、防寒の術を幾度となく試み、防風の術はそれ相応の効果を発揮していたが、防寒の術は効果時間が僅か数分であること、一度に術を施せるのが一人だったこと、更にはこの術を使えるのがソフィア・カーレンリース(ec4065)だけだったこともあり、適時の使用に絞っても精神力の消耗が激しい。仲間達からソルフの実といった援護もあったものの、ソフィアに掛かった負担は相当のものだっただろう。
「わんっ」
「わんわんっ」
 元気なのは、レインが同伴して来た、寒冷地でもその機敏さを失うことのない愛犬達のみ。シシリー・カンターネル(eb8686)が連れて来た梟のバイフォーン、火属性のエレメンタラーフェアリーは彼女の腕の中でぐったりした様子だ。
「‥‥っ」
 吹き付ける風に身体を縮ませる。一歩後ろは無風、なのに前方は猛吹雪。ソフィアはもう何度目になるか数えるのも止めたウィンドレスを詠唱。再び視界が確保出来たのを確認してから歩を進めた。
「効果範囲の半分が来た道と被るのは、勿体無いですよね‥‥」
 ソフィアが言えば、ディーネ・ノート(ea1542)が励ますように口を切る。
「でも、効果時間中なら後ろにも無風状態が続いているわけだし、真っ直ぐに進んでいるっていう安心感が得られるわよ」
 それはレンが詠唱したストーンウォールも同様だ。真っ直ぐに現れた石の壁は、後方ならば彼らの足跡を伝え、前方ならば行く先を示す指針となる。
 それぞれの身体を、繋げたロープで結び、手を繋ぎ、決してはぐれないように注意しながら先へ。
 目印のない目的地を目指して進んでいった。





 気付けば陽精霊の時間は終わりを告げていた。
 辺りを包む深い闇。アリシア・ルクレチア(ea5513)は、この雪原を歩くには重過ぎる荷物を持ち込んだため、そのほとんどを師が待っている場所へ置いて来ていたが、シシリー、ソフィア、馬祖が背負って来たテントで人数分は補えたため、ウィンドレスが効果を発揮しているその場所で朝まで休む事を決めた。
「荷物を背負えばどうしても行動が制限されますが‥‥危険な場所だと判っていればこそ、持って来ないわけにはいきませんから」
 そのために、さらに時間が掛かっても、それは受け入れる他ないと馬祖は言い、誰もそれを否定などしない。魔法を用いて火を焚き、輪を組み保存食で腹を満たす。寒さ対策にはアリシアが持参した酒を適量飲むことで対応。
「せきにんじゅーだいなのー。かならずドラゴンさんとやくそくしてかえるのー」
 火に当たりながら陽気に宣言するレンの言葉は、重く沈みそうだった場の雰囲気を何とか持ち堪えさせるのだった。





 数時間後、ディーネ、シシリー、レン、アリシア、レイン、馬祖の六人で交替しながら夜の番をし、この間は吹雪きにも必死に耐え、風の魔法使い達の魔力が回復するのを待って八人は再び雪原を歩き始めた。
 この時点でどれくらいの距離を進んできたのかも知る由はない。ただ歩き続けるしかなかった。
 そうして、ティス、ソフィアの魔法ウィンドレスがそれぞれに四回使われた頃、それは起きた。
「っ!?」
 先頭を歩いていたディーネの足元で響いたのはバリンッと何かが割れる音、同時に一瞬の浮遊感が彼女を襲う。
(「――落ちる‥‥!」)
 声を出す事も出来なかった。
「きゃっ」
「わっ」
 先頭の彼女が落ちればロープで繋がった全員が、落ちる。
「きゃああああ!」
 魔法による無風状態の空間に複数の悲鳴が響き、中ほどにいたティスは、ほんの僅かな時間ではあったが空に投げ出された自分達を目にした。
 底が見えない、暗闇に落ちて行く感覚。
 ――‥‥『崖の上から、今にも転落しそうな馬車がある』‥‥
 不意に師から出された課題が脳裏を過ぎった。
 目の前で転落しそうになったディーネに、自分は何が出来ただろう。
 こうして落ちている今は?
 転落の瞬間を目の当たりにし、実際に落ちるまでの間など有って無いようなものだった。その一瞬に、何が。
『何も出来ない』
 それが答えだ。


「‥‥っ」
 しかし落下の衝撃で全員が動けなくなる事だけは避けなければならない。ティスはリトルフライを瞬時に発動させて自分の体を浮かせたが、ロープで繋がっている以上は一緒に落ちて行くしかなく、その衝撃は受けたものの、他の女性達のように地面に叩きつけられる痛みからは回避した。あまりにも必死だったので周囲の音まで細かく聞き分ける事は出来なかったが、直前まで聞こえていた悲鳴は全て消えた。代わりに耳を打つのは複数の苦悶の声。
「ディーネさん?」
 ティスは暗闇に手を伸ばす。
「レンさん、アリシアさんっ、ぁっ‥‥!」
 伸ばした手に触れた生温かな液体、血だ。
「やっぱり怪我を‥‥っ」
 ティスは手探りで仲間の荷物を見つけ、ディーネのものと思われる鞄からリカバーポーションを拝借する。
 落ちる時には何も出来なかったけれど、落ちた後で出来る事は幾らでも見つけられる。
「ディーネさん、飲める?」
 体を起こさせて卵大の壷を口元に押し当てる。多少強引であったが相手の喉に押し込めば、それは確かな効果を発揮した。
「っ‥‥ぁ、あれ‥‥?」
「動ける? 他の皆にも治療薬を飲ませたいんだ」
「ぁ‥‥! 判ったわ」
 さすがは魔法の液体。すぐに回復したディーネはティスと協力して仲間達の治療にあたり、元気になったソフィアは、すぐにランタンに火を灯す。
「‥‥空洞‥‥?」
 自身の優れた視力も活用して、落ちてきたと思われる上空を仰ぐ。長さ一メートルくらいの裂け目から見える向こうには猛吹雪。十メートルは落下したのだろうか。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ええ、何とか‥‥」
 全員が回復したのを確認して立ち上がり、周囲を観察。
「‥‥何か妙だわ」
 ディーネが自分の手を見つめながら呟く。――その明確には掴めない「妙」の原因が精霊力のバランスが偏っているせいだと気付くのは、それから間も無くの事。足元に注意しながら先を進む八人の耳を打った、声。
『‥‥辿り着いたか』
「っ!」
「この声‥‥」
 空洞に響き渡る穏やかな声に、ウィザード達は足を止めて周囲を注視。すると少し先に小さな光が有る事に気付いた。
「出口かも‥‥?」
 レインの呟き。八人は互いの存在を確認しながら其方を目指した。
「っ」
 光に近付けば近付くほどに風が強まり、雪が吹き付けてくる。だが、もう誰も魔法で風を防ぐ事など考えなかった。そうして外へ出た、直後。
「――――!!」
 全員が息を飲む。
「‥‥シェルドラゴン‥‥」
 亀のような甲羅を持つ胴体に、ドラゴンの首と蛇の尾。全長二十メートル以上の、美しき青の姿。
 暴風雪は、いつしか柔らかな雪を舞わせるだけになっていた。





「貴方が、この閉ざされた大地の主‥‥」
『いかにも‥‥』
 アリシアの言葉に精霊は応える。
『我はこの地を司る者‥‥汝ら、何用で我の土地を侵したか』
 決して責めるのではない問いかけに、ウィザード達は此処からが重要と己に言い聞かせ、言葉を紡いだ。
 最初はディーネ。
「あなたにお願いがあって来たの」
「いま、各地にカオスの魔物がすごい勢いで現れて人々を困らせているんだ」
 ティスが後を続け、現在までの魔物の侵攻状況、シェルドラゴンが住まうセレの大地にも魔の手が及んでいる事を説明した。
「混沌の渦から愛着のあるこの世界を護るために、‥‥力を貸してくれるとありがたいんだけども‥‥」
 相手が相手ならば素直に思いの丈を伝えるのが無難と判断したディーネが願えば、シェルドラゴンは僅かに首を動かした。
『力を、貸せとは』
「この大地に、私達が踏み入る事を許可して頂きたいのです」
 訴えたのはアリシア。
「師ドースターは、この地に聖なる力が眠ると教えてくださいました。私達には世界を護るためにその力が必要であり、その力を解放する方達を、この地へ導かねばなりません。そのためにも、この大地への立ち入りを許可して頂きたいのです」
 願いを繰り返すも、彼女の表情は厳しい。それは、この願いが容易に叶えられるとは思っていないからだ。
「ただ‥‥そう願う以前に、私達には判らない事が多過ぎます。あなたのお名前もそうですし、何故、この一部の地域のみを極寒の世界に変えているのかも‥‥」
 シェルドラゴンの事情を知らなければ身勝手に願う事は出来ない、そう真摯に告げる彼女に、精霊は楽しげに笑った。
『‥‥人の子も、エルフの子も‥‥なぜ「名」などを聞きたがるのか‥‥ましてや一部の地域のみを変えているなどと‥‥水の子らが河川に暮らすように、大地の子らが地に暮らすように、我もまた自らに適した場所に暮らしているだけのこと‥‥』
 遥か古の世界より、此処に暮らしていたのはシェルドラゴンの方であり、そこを人が国にしただけと精霊は語る。
「でもねー」と、次いで口を切ったのはレン。
「レンはねー、ドラゴンさんとおともだちになりたいのー♪」
 両腕を上げて朗らかに語るエルフの子。
「そのためにはおなまえをしりたいしー、たいせつだとおもうのー」
『友達か』
 精霊は面白そうに笑った。
『なぜ我と友情を結ぶことを望む。そなたには水の精霊力を欲する理由があるとも思えぬが』
 レンを見て精霊が言うと、即座に反応したのはレイン。
「信じて欲しいんです」
『信じる‥‥?』
「はい。‥‥私達には、出来ない事が多過ぎます。出来ないのに、したい事も多過ぎます。‥‥でも、みんなで力を合わせれば、出来る事がものすごく増えます。力を合わせるには、お互いに信じあう事が必要です」
『ならば汝らは、我に何を、どう信じろと言うのか。どう信じさせようというのか。我に汝らの言う『信頼』『友情』を示してみよ』
「それは‥‥」
 アリシアは言葉を詰まらせ、歯噛みしながらも正直に答える。
「判りません」
 嘘は吐けない。
 安請け合いは勿論のこと、確証のない約束や誓いは裏切りに通じる。自分達の力はあまりに弱く、現状で示せるものなど何一つ持たない。見得も打算も思惑もないままの交渉を考えたとて、結果を求めている時点でそれは不可能なのだ。
 出来るのは、正直な想いを訴える事だけ。
 この世界を守りたいという、その思いが真実である事を伝えるしか、今の彼らには出来ないのだ。
「‥‥っ」
 やはり気楽に受けられる課題ではなかったのだと唇を噛み締めたシシリー。
 けれど諦める事はしたくない。
「お願いします、どうか‥‥!」
 訴える彼女にソフィアも続く。
「まだまだ僕達は未熟だけど、この世界を、皆を守りたい気持ちは同じです! 一人では無理でも、信頼出来る仲間となら、きっとそれが可能だと信じています。だから、お願いです! あなたの力を貸して下さい!」
「私達はこの世界に及ぼうとしているカオスの魔物達の侵略から、世界を守る力の一端を担いたいと思うんです。精霊魔法で魔物と戦う事はとても難しい‥‥けれど、精霊の声を聞き、精霊の力を貸してもらえるのはウィザードゆえ‥‥だからこそ精霊と心を通わせる事で魔物と直に戦う仲間の力になりたいんです」
 レインも必死で訴える。
「お願いします‥‥!」
 八人のウィザード達の切実な訴えに、しばし沈黙を通し見つめているだけであったシェルドラゴンは、不意に静かな笑いを零す。
『‥‥出来ぬ事を、出来ぬと認める強さを持つ者達よ。なれば我の試練に応えてみよ』
「! 試練‥‥、っ‥あ‥‥!」
 一体どんな‥‥そう見上げた視線の先に現れた思い掛けない姿にウィザード達は驚愕する。実際に会うのは初めて、しかし話を聞いたことのある者ならば数名。
「‥‥月姫‥‥セレネ‥‥?」
 アリシアが名を呼ぶと、彼女は穏やかに微笑んだ。
『‥‥セレの地より、集った子らです‥‥』
 そうして彼女が腕を広げると、小さなエレメンタラーフェアリー達が雪下に舞い踊る。
 風の子、火の子、土の子。それぞれの属性に合うソフィア、馬祖、レンの周囲を飛び交い、その肩に止まる。
『我の力に近しいそなたらには我の眷属を』
 シェルドラゴンが告げると、エレメンタラーフェアリーとは異なる水の精霊達がアリシア、ディーネの手に触れる。
『‥‥ふむ、そなたはその娘が気に入ったか』
「え‥‥」
 レインは背後に何かの気配を感じて振り返った。と、そこには自分とそれほど背丈の変わらない美しい娘が。
「え‥‥!」
 驚愕する彼女にくすくすと笑い、シェルドラゴンは告げる。
『我に信頼を示そうというのなら、その子らと絆を深め友情を育んでみよ‥‥次に汝らがこの地を訪れた時、その子らが汝らを信頼していると、我もまた信じられた時にはこの大地への立ち入りを許可しよう』
 それが、今は見せられぬ友情、信頼を示す術と精霊は告げる。
『‥‥そなたには、わたくしの眷属を‥‥』
 セレネの言葉に応じるように、ティスの頭上に舞い降りたのは、やはりエレメンタラーフェアリーとは異なる月の精霊。
 それは、精霊がティスを賢人と認め、またレインを精霊に心近しい者と認めた証であった。
『‥‥あなたには、既に火の子がいるのね‥‥』
 シシリーを見つめて告げる月姫は、それもまた縁と、彼女には精霊の力のみを委ねる。
『属性は違えど、共に過ごすは縁があればこそ‥‥大切に育てて下さい‥‥』
 これが、真に最後の試練。
 次にこの土地への立ち入りを望むならば、精霊の子らとの信頼を。
 友情を。
 それが、シェルドラゴンを信じさせる唯一の手段である――。





 シェルドラゴンとの対話を終えて戻った弟子達を迎えたドースター魔術師は、彼らがそれぞれに精霊を伴って帰ってきた姿に目を眇めた。
 そうしてウィルへ送っての別れ際、それぞれに一枚の衣を贈る。
『賢者の衣』と名付けたそれは、ドースターが祈りを込めて織り上げた魔法の衣。
「必ずやそなた達の力となるであろう。‥‥いずれ、また会う日もそう遠くはないはず‥‥楽しみにしているぞ」
 何をとは言わず、いつもの豪快な笑い声を上げる彼に、ウィザード達も応える。
 いずれ会う。
 その約束はきっと果たすから、と。