【暁の翼】混沌の楔5.5
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■シリーズシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月24日〜05月02日
リプレイ公開日:2009年05月03日
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●オープニング
● 一通の手紙
その日、外出しようと扉の取っ手に手を掛けた滝日向は、それで負傷者を出すところだった。というのも、彼が開けるのと来客がほぼ同時だったからである。
「うわっ」
「は?」
驚いて扉を戻すと、目を丸くして固まっていたのはシフール。
とある処から日向宛の手紙を届けに来てくれたのだ。
「びっくりしたー!」
「すまん、大丈夫だったか?」
「ん、大丈夫! でも気を付けてよ!」
シフールは陽気に言い、目的を果たすと忙しそうに飛び立ってしまう。きっと次の仕事があるのだろう。
その背を見送り、手紙に目を通した日向は、ふと表情を引き締めて歩き出す。目的地は冒険者ギルド。
(「いよいよ動くか」)
手に握り締めた手紙。
それは、分国セレのヨウテイ領領主にして伯爵位にあるアベル・クトシュナスからのものだった。
*
『やぁ日向、元気かい?
私の方は何とかやっているが、‥‥しかしウィルの冒険者諸君は何とも淋しいね。君も彼らもあれ以来、何の連絡もくれないものだから、セレネとレヴィシュナ殿が臍を曲げそうさ。あの方たちの機嫌を取るのも大変なんだよ? ま、退屈はしないけれど。
と、話が逸れてしまったな。
君にこんな手紙を送った本題だ。
実は先日、ウィルの冒険者達がセレの領内に馬車を残して忽然と姿を消してしまったのだよ。何処に行ったのか探そうにも足取りは全く不明で困ってしまっている。更には、彼らが置いていった馬も車も、ウィル在住の業者のものだと言うじゃないか。悪いんだが、君が取りに来てくれないかな。このままでは延滞料がとんでもない事になりそうだ。
手数を掛ける事になるが、よろしく頼むよ。
追伸
セレの地では春の花々が咲き始め美しい景色が広がっている。
この景色を一緒に見たい友人達も誘っておいで。会えるのを楽しみにしているよ』
● そうして出された依頼は
「この馬車って‥‥」
冒険者ギルドで日向を迎えた職員のアスティ・タイラーは、彼から見せられた手紙に些か怪訝な顔付き。
「しかも、いまこの時に花を見に来いなんて‥‥っ、大体馬の返却ならご自分のシップで配下の方にお任せすれば良いじゃないですかっ」
だんだんと声音が荒くなっていくアスティに日向は失笑。
「違う、こんな時だから俺を呼んだんだ」
「え?」
「いろいろあるんだよ。――でな、依頼なんだが俺とアベルの名前をはっきりと出した上で、馬を迎えに行くって事で冒険者を募ってくれ。二人の名前が揃えば‥‥判る奴には判ると思う」
「‥‥そういう、事‥‥」
日向の真面目な表情と言葉の裏に潜むものを、アスティもようやく察したように表情を改めた。
「判りました。お任せ下さい」
「頼む」
そうして、ギルドの依頼書の中。
久方振りに分国セレの名が綴られる。
● 動き出すものは
日向がギルドで依頼を出すよう頼んでいた頃、セレの樹上都市に聳え立つ王城の一室で顔を揃えていたのはコハク王と、彼の側近の者達が数名、そして正騎士クレッグ・ヴィスランデン。
筆頭魔術師ジョシュア・ドースター。
各領地を治める者の中でも王に近しい者達――この中にはアベルも含まれ、そして月の高位精霊アルテイラことセレネ、天使レヴィシュナだ。
総数二〇名。
これは、ウィルからリグへの国境を無断で越えた冒険者達がいる事を知っていて、あえて知らぬフリをしている人物の総数でもあった。
「あちらはまだ動かぬか」
重臣の問い掛けに表情を曇らせたのは月姫。
『‥‥リグの国の影は日増しに強く‥‥恐ろしく‥‥ですが静かに、穏やかに‥‥闇は空を覆ってゆきます‥‥』
「それだけ危険が増していると判っていて、此方から手を出すわけにはいかぬなど‥‥っ」
騎士の一人が悔しげに顔を歪めた。
セレから動くとなれば、そこには騎士道に則った開戦への手順がある上に国内外にこの正当性を証明する事が求められる。そのためにはリグの国王がカオスの魔物と何らかの関係にある事を裏付ける証を立てる事が絶対条件だ。
「リラとカインは何をしている‥‥っ」
更に別の騎士が拳を震わせるのを見て、アベルは嘆息。
「あちらが攻撃を仕掛けてくれれば最も簡単なのですがね。こちらは抵抗しただけだと言ってしまえる上に、ウィルへの侵攻が相手の目的だと知れれば、他の分国から力を借りる事も出来るかもしれない」
「アベル」
それは口が過ぎると正騎士が彼を睨むが、‥‥しかし本音は彼に近い。
国に危機が及んでいると知りながら、今は命を危険を冒してまでリグとカオスの魔物の関与の証拠を見つけようとしている冒険者達からの報せを待つしかないという、今の状況に己への憤りを深めない者などこの場にはいなかった。
「せめて民の命を守る手段だけは整えたいところだが‥‥」
そうして王の視線がアベルに向かうと、他の面々も。
皆の視線を一身に集めた彼は失笑と共に応える。
「ええ。冒険者達を呼びましたよ。――自然に恵まれたセレの地で花見をしようと」
花見。
そして、馬を迎えに来いと。
表向きはそのような呼び掛けだったけれど、きっと彼らなら気付いてくれる。表立っては動けぬ者達の代わりに。
そして、いま隣国の地で必死に動いてくれている彼らの代わりに、――必ず。
●リプレイ本文
●
一路、セレへ。
「ひさしぶりに、おししょーさまにあえるのー♪」
相棒のホワイトイーグルひよちゃんに騎乗して空の旅を謳歌するのはレン・ウィンドフェザー(ea4509)だが、騎乗は得意でないらしく時々危ない目に遭ったりも。
しかし互いの絆と、共に空を行くアースソウル――セレの筆頭魔術師と、彼の試験のために赴いた極寒の地でシェルドラゴンから託された地の精霊の朗らかな笑顔があって着実に目的地へと近付く。
同じ空の旅でも、フルーレ・フルフラット(eb1182)の場合はグリフォンのギルガメシュと一緒。こちらは騎乗技術も高く、相棒の飛行能力を最大限に生かしながらの道行きだった、が。
(「アベルさんから日向さんを通しての依頼と来れば、単なるお使いなわけがないッスし――」)
かくっ、と。
胸中にその名を呟くと同時に相棒の胴に掛けていた足が落ちる。
「‥‥っ」
ほんのりと熱を帯びた頬を片手で叩くフルーレ。
「‥‥うん、張り切るッスよ!」
勿論、依頼の方を。
陸路を行くのはソード・エアシールド(eb3838)だ。愛馬オニキスの疲労を考えながら休み休み先を急ぐ。その胸中に思い浮かべる姿は、セレの先、今は閉ざされた隣国で危険に身を投じている親友。
(「傍にはいられなくとも、あいつの力に‥‥」)
ただ一心にそれだけを願っている。
そうして此方、今回の依頼主でもある滝日向をセレまで連れて行くのは『空飛ぶ絨毯』、別名乗合タクシー。驚きか喜びか判断し難い声音の日向にレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)は苦笑。もう一枚の絨毯の持ち主であるケンイチ・ヤマモト(ea0760)や、アリシア・ルクレチア(ea5513)、華岡紅子(eb4412)の口元にも気心の知れた笑みが浮かぶ。
「滝さん座った方が良いわ。その体勢だと振り落とされるかもしれないもの」
「そ、そうか‥‥」
素直に応じた日向が絨毯の中央に腰を下ろすのを見て失笑したアリル・カーチルト(eb4245)だったが、ギロッと日向に睨まれ、誤魔化すようにレインを振り返ると片手を上げる。絨毯の同乗を快諾してくれた事への礼だ。
「後で一杯奢るんでよろしく頼むわ」
「気にしないで下さい。操縦はアリルさん達にもお願いしますし」
操縦を代わることで一人当たりの負担を減らし、移動時間の短縮にも繋げる。
こうして皆がセレの地に集まったのは、三日目の昼過ぎだった。
●
セレへの到着は各自でバラバラだったが、依頼期間の事を考えれば同じ相手に話を聞く場合には揃って接触した方が相手にとっても予定を立てやすい。そのため、最終的な集合場所をアベルの邸に決めた彼らは、先に他の面々との接触を図り、ケンイチとソードが対面したのは月姫だ。心近しい者達の呼び声には何処へでも姿を見せてくれる彼女に、代表して質問を投げ掛けるソード。
『‥‥やはり動くのですね』
リグの事で聞きたいと切り出した二人に月姫が見せた表情はひどく複雑そうで、けれど、笑顔で。
冒険者達がある種の確信を得るには充分だった。
「今のリグは貴女が長居出来ないらしいが‥‥そんな状態でも親しい者達に呼ばれれば赴けるのか?」
『もちろんです‥‥私達精霊は心で人間達と繋がるもの‥‥ただ、今のリグの国には魔物達の気配が強過ぎて‥‥あの地に留まる程にこの身は蝕まれて行くでしょう‥‥』
「蝕まれる?」
『時間が経てば癒えるとは思いますが‥‥しばらくは姿を現せなくなる事も考えられます‥‥』
その返答は、彼女という存在をリグにいる冒険者達との緊急の連絡係として考えて良いものか判断が難しい。ソードは続ける。
「月姫殿が行けぬ場所はあるのだろうか?」
『魔物の力が強ければ、私自身が無意識に飛ぶ事を拒否する事は考えられます‥‥』
それが生きる事を第一に考える命の本能だと説明されれば理解し易い。
「あと、これは俺からの質問ではないのだが」
続けて問うのはアリシアから預かってきた問い掛け。
「貴女は自主的に親しい者の傍へ行ったり、どの辺りにいるか知覚する事は出来るのだろうか?」
『いえ‥‥』
月姫は恐縮そうに左右に首を振った。
『私にそのような術はありません‥‥先程も言いました通り、私は彼らと心で繋がるもの‥‥あの方々が私を心に呼んで下さらなければ‥‥』
「ありがとうございます。たくさん質問をしてしまって済みませんでしたね」
心苦しそうな月姫にケンイチが穏やかに微笑み告げると、彼女も静かに微笑む。
『いいえ‥‥いつでも呼んで下さい‥‥私で力になれるのなら‥‥』
そうして、月姫はいつものように姿を消すのだった。
ソードに月姫への質問を預けたアリシアは、レインと二人、師ドースターの元へ赴いていた。
「よく来たの、ほっほっほっ」
無邪気に笑ってみせる彼にアリシアとレインは顔を見合わせ、きっと胸中で同じ事を思った。相変わらず食えない人だ、と。
それでも聞かなければ始まらない。
「単刀直入にお聞きしますわ。以前に赴いた雪原の地、あの場所でシェルドラゴンが封じる力とは一体何なのでしょう。そして、その封印を解く時が来るとすれば何時になるのか、そろそろ教えていただける時期かしら?」
それとも、まだ精霊が成長しきってはいないから時期尚早なのだろうか。
レインと二人、まっすぐに見つめてくる弟子達にジョシュアは顎鬚を弄りながら彼女達の背後に浮かぶ精霊を見た。
アリシアのウンディーネ。
レインのフィディエル。
他の属性の精霊達に力を借りる者にはエレメンタラーフェアリーを託し、その一つ目の成長を絆の証として判断するつもりだが、シェルドラゴンと同じ水属性の術を使う彼女達には既に成長した精霊達が渡されている。フェアリーよりも知能の高い精霊達にはその言動で絆の深さを示してもらうつもりであったが、‥‥そちらもクリアしているようだ。
「そろそろ、かのう」
「! シェルドラゴンさんの封印を解く方々を案内する鍵になれるだけの絆を深められた、って事ですか?」
レインが不安気な表情で、しかし期待に満ちた眼差しを向ければ彼は大きく頷いた。
「うむ、少なくともそなたらは合格じゃな」
「レンさんの地属性のフェアリーさんも、アースソウルに成長していました!」
「ほほぅ、それは頼もしいの」
いつものように声を立てて笑うジョシュアは、ふと真面目な顔を見せた。
「しかしの、あの地に封じた力を此処で明かすわけにはいかぬのだ。あの場所以外で語る事は封印している意味を損なう事にもなる‥‥ましてや『その時』はもうすぐそこじゃ。今しばらく待てぬか」
常とは異なる低い声音に、アリシアとレインは。
「‥‥それは‥‥以前に月姫様が言われていた『精霊を嘆かせし者』を警戒しているから‥‥とか、ですか?」
「『精霊を嘆かせし者』のう‥‥」
その名を繰り返す彼に、アリシアも言い募る。
「その魔物とは、一体どのような‥‥?」
「あらゆる精霊魔法を操る魔物らしいの。月姫が言っておった。風、火、水、土、陽、月。あの者が魔法を使うたび、力を貸す精霊達が苦しむのじゃと。‥‥そなたらは、それに勝たねばならぬぞ」
「っ」
そうして向けられた強い視線に少女達は思わず身を震わせた。
これまでとは明らかに異なる師の雰囲気。恐怖にも似た感情を抱きながら、しかし、それを振り払うようにレインが言う。
「あ、あの! もう一つ質問がっ。私達が雪原を抜けてシェルドラゴンさんに会いに行った時、先生はいつの間にかシェルドラゴンさんの住処にいらっしゃいましたよね。あれって、どういう事なんですか?」
アリシアもそれが知りたい。瞬間移動する精霊魔法なら月に属するはずだが、‥‥月?
「あ」
言っていて気付く二人。ジョシュアの傍には月姫がいたのだ。一瞬にしては無理でも、月姫の力を借りれば瞬間移動術ムーンシャドウを繰り返すことで先回りは可能。
師は笑う。
「そなたらも、まだまだじゃのう」
その頃、ヨウテイ領に到着した冒険者達が面会を求めたのはもちろんアベル本人。取次ぎを頼んですぐに返答があり、再会は叶った。
‥‥その中で、妙にそわそわとしていたのはフルーレ。
(「アベルさんが、カインさんからヘンな話を聞いていない事を祈るばかりッス!」)
赤くなり。
(「一体どんな顔でお会いすれば‥‥」)
青くなり。
(「いやいやしかしっ、こんな事ではいけないッスよ! 自分は騎士ッス! 冒険者っ、依頼に集中しなければ!」)
決意新たに表情改め。
目まぐるしく変化するフルーレに、思わず指を差してしまった日向。
「‥‥どうした?」
「さてね」
くっくっと喉を鳴らすアリルに紅子も笑むが、それも廊下の足音が、彼らが待機していた部屋の前で止まるまでだ。
「失礼するよ」
聞き慣れた声と共に現れたのはアベル本人。
「やぁ、よく来たね」
日向と共に顔馴染みの面々が揃っているのを見て、彼の表情には微かな安堵が浮かんでいた。
●
「お花見へのお招きありがとう♪ それと、例の馬車の受け渡しも」
紅子が隙の無い微笑みと共に表向きの用件を切り出すも、そんな話で貴重な面会時間を削るつもりは毛頭無かった。
「――早速だけれどお話があるの、‥‥良いかしら?」
「‥‥何だ。花見の話をする雰囲気ではなさそうだな」
茶化すようなアベルの反応を冒険者達は肯定と取り、それを切り出した。
「アベルさんも察しがついていると思うけれど、まずはセレの現状について教えてもらいたいわ」
「現状、ね。以前よりは平和だよ」
国内に限れば、と付け加える言い方は暗に隣国を示す。
「一つ確認なんですが、隣国との戦ではなくカオスによる災禍への備えとしたなら、どの程度まで国は動けるッスか」
「カオスの魔物に対してなら、出来る事は何でもと言っていい。白魔法付与のゴーレム武器開発もその延長だ、カオスの脅威はこの世界全ての人々が知るもの。特定の地域に害為すものでない限りは咎められる事もない」
そのため、天使レヴィシュナの影響力にも頼りつつアトランティスに存在するクレリックに集まってくれるよう呼び掛けたりなど、そのクレリック達にも真実は伝えられないにしろ、人々の治療や警護に当たってもらっているという。
「ゴーレムの整備、増量に関しては至って順調。ノルンの新機種も上々の仕上がりだし、リグとの国境近辺に暮らしている人々が万が一の時には首都まで逃げられるよう道の整備も続けている。警備の騎士も増員したし‥‥他にも、ね。やれる事はしているつもりだ」
「やれる事と言ったら」
ふと声を上げたのは日向。
ソードから預かった質問を思い出したのだ。
「リラ達だが、連中と繋ぎを得る方法はないのか?」
「あの二人になら私の隼を託しているよ。特殊な訓練をさせた子だ、魔物で溢れかえる土地でも頑張ってセレまで戻って来てくれるだろう」
つまり、それは一度きりの連絡方法。二人が彼の地で息絶えるなら、それでも隼が単身戻るよう努めろと言うのが彼らに与えられた命令だったという。
それは決して褒められた話ではなく。
アベル自身も望んで実現した事態ではなかったはず。それでもこう動かざるを得なかったと言うのなら、やはり力になりたいと冒険者達は思うのだ。
「『暁の翼』の活動再開許可をもらえないかしら」
紅子の提案に静かな視線が向けられる。
「表向きの理由は『暁の翼』の活動を国内に浸透させる事、この動きを通してセレの人達の支援を行う事にしてみてはどうかしら? 戦争のためじゃないわ、カオスの魔物達のせいで生活が苦しい人達を助けるために」
周りにさえそう思わせる事が出来れば、彼らにならば自然な形で人々を避難させる方法も取れるだろう。
アベルは頷く。
「その言葉が聞きたかったよ」
王には自分から伝えるとし、活動再開の手筈を整える件は任せて欲しいと続けた。
「礼、と言う訳でもないが今夜は花見の席を設けている。存分に楽しんでいってくれ」
「ええ。勿論」
「な?」
紅子、アリルと頷いて見遣る先には、フルーレ。
「なっ、何ッスか?」
頬を染めるフルーレは、しかししっかりと銘酒の数々を持参、花見を堪能する準備万端だったりもする。
「あ、ところでな」
アリルは思い出したように口を切る。セレに入るのは今回が初めての彼は顔繋ぎが第一目的だったが、話を聞けば自分にも出来る事は数多く見えてくる。
「工房の出入りってのは許可して貰えるのか? これでもドラグーンの操縦経験者だ、危険な品の稼動実験なんか手伝えるし、それに多少だが医療も齧ってる。クレリックじゃなくても人を治療出来る方法を教える事も出来るしな」
工房への出入りは少々厳しいと思うが、アリルの申し出を一蹴するのはあまりに惜しまれる。
「判った。それも『暁の翼』の行動指針として王に奏上しよう」
「頼んだ」
「こちらこそだよ」
今この時に冒険者達の助けが得られるという事が、どれほど有り難く、大切な事か。
アベルは思う。
リグの国が内戦を起こすにしろ、ウィルという国にまで災禍が及ぶにしろ、誰一人――冒険者達を含め、‥‥彼らも含め、誰一人欠ける事のない結末を迎えるためならば尽力を惜しんでなどいられない。
●
ソードが次に訪れたのはリグと国境を接する土地。もう二ヶ月も前に親友が通ったと思われる場所だ。
リグから難民が来ている、その事に些か引っ掛かりを覚えた彼は、人々にどの道を通ってセレまで辿り着いたかを確認したかったのだ。そのためには地理情報を得ておかなければならないと考えての行動。
同時に、心の片隅。
誰かが国境沿いに姿を現さないかという淡い期待もあった。
「‥‥?」
しかし、いまソードの五感が捕らえたのはウィルの仲間。レンが警備兵達の傍で子供らしい――実に子供らしい態度で話をしていたのである。
ははっと子供をあやすように笑った騎士達の内、ある一人が山岳地帯から流れている川に何かが流れてくるのに気付いて走り出した。
水面から掬い取ったのは、小さな瓶。
それを手にしたきり無言で立ち尽くしている彼にレンは声を掛ける。
「どーしたのー?」
「! い、いや‥‥何でもないよ‥‥ただのゴミさ‥‥」
言いながらそれを背後に隠した騎士。――しかし、その手の動きは離れて見ていたソードの目にしっかりと映り。
(「‥‥手紙‥‥?」)
「あ」
かと思えば、騎士はわざとらしく瓶を再び川に落としてしまった。
「しまった‥‥お嬢ちゃんが驚かせるから落としちゃったじゃないか」
「えーごめんなさいー」
「まぁ良いじゃないか、相手は子供だ」
「そ、そうですね‥‥」
怪しい‥‥実際に目にしたソードは勿論のことレンも内心では疑惑を募らせる。
「さあ、国境沿いはいろいろ危ないんだから帰りなさい。そろそろ暗くなるしね」
「はーい♪」
そうしてレンが退けば、ソードも気付かれぬよう国境沿いを後にする。得た情報は、確実に仲間に届けなければと思いながら――‥‥。