シーハリオンの巫女〜降臨

■シリーズシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月24日〜05月01日

リプレイ公開日:2007年04月30日

●オープニング

●降臨
 シーハリオンの丘に巫女が降臨した――との情報を王宮は当初全く信じなかった。
 シーハリオンの丘は『嵐の壁』で守られている。そして『嵐の壁』を自由に行き来出来る者がいるなどとは、到底考えられない話だった。
 だが、実際にその巫女は、『ドラゴン・オブ・レインボウ(虹のドラゴン)』と呼ばれる伝説の竜を従えて麓の村に幾度か訪れては、再び丘へと去った。

 「本当ずら!」
 「わしら嘘なんぞついとらんち!」
 「あんたらも来て自分で確かめるがええだ!」
 と村人たちが再三騒ぎ立てるので、王宮は仕方なくシーハリオンの丘の麓へ調査団を派遣した。
 果たして巫女は現れた。竜も一緒だった。彼女は王宮でのアリオ王との謁見を求めた。
 ――が。
 調査団の報告を王宮はまたしても信じなかった。相当に頑固である。というか、まあ、現状カオス勢力を押さえ込む事にめいっぱいの国力を注いでいるのだから、嘘か真かはったりかも分らない夢物語に付き合いたくない気持ちも分からなくはない。
 ――が、しかし。

 「本当です!」
 「我らが嘘なぞ言うものか!」
 「あなた方も行って自分の目で確かめるべきです!」
 と調査団の隊員たちが再三騒ぎ立てるので、王宮は仕方なくシーハリオンの丘の麓へ調査団を再び派遣した。
 そうして5度目の派遣を終えて後、王宮はようやくその重い腰を上げたのであった。

●シーハリオンの巫女
 巫女の名はナナル・キシュと言う。見た目はただの普通の人間の少女だった。
「時は満ちた。聖なる竜に護られし其の魔剣は高潔なる志と、純潔なる血の証を汝らに求める」 
 これが、彼女が最初に村人に伝えた言葉である。
「其の魔剣とは、お前たちが『阿修羅の剣』と呼んでいるものだ」
 こう付け加えたのは、彼女の後ろに控えていた竜であった。竜は己の事を『虹のドラゴン』と名乗った。
 村人や調査団の前に姿を現す時の竜は、決まって身の丈3〜5mほどの大きさで、天井が痞える時は器用に身をくねらせたりして、なるべく人々の目線で会話をした。
 ヒュージドラゴンの本当の大きさがどのくらいのものなのかは、実際の所村人にも見当が付かなかった。

   ***

 さて、王宮は彼女を王都に招き入れる事を認めたが、今度は彼女が首を横に振った。
「まず、此処から王宮まで私を護衛する者として勇気ある強者たち、つまり冒険者を村に来させる事。次に、その者たちの『真の技量と志』を知る上で私から彼らに3つの課題を与えよう。もし彼らがその任に相応しい技量と志を備えていなかった場合、私は今暫く此処に留まり、さらに時が満ちるのを待たねばならない」
「課題ですか‥‥」
「阿修羅の剣は竜と精霊に守られし世界を動かす魔剣。それを復活させる事は、お前たちが思っているほど簡単な事ではないのだ」
 復活――とはどういう意味であろうか。
 ともあれ、彼女を迎えに行くために王宮は冒険者ギルドへ正式に依頼を発した。
 
■課題その1:シーハリオンの麓の村まで行き、ナナルの用意した試験を受ける事。
【筆記試験及び実技試験有り】

 筆記試験その1〜「魔剣を覚醒させるために仲間の誰かの命が奪われるとしても、貴方は剣の覚醒を望みますか?」

 筆記試験その2〜「貴方は阿修羅の剣が本当に世界を救えると信じていますか?」

 筆記試験その3〜「ナナルの事を可愛いと思いますか?」

 本日の実技試験(初級)〜村外れの湿原に群れているトリケラトプスのうち1頭の角に花で編んだ輪をかけて、頭を3回撫でる事。

※筆記試験については、各自Yes/Noで答えよ。(プレイングに書き込み要)
※筆記試験の結果は各個人に対して評価されるものではない。また、全員の意思を統一する必要も無い。
※実技試験について、トリケラトプスの頭を撫でるのは一人でも二人でも可。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6729 トシナミ・ヨル(63歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb9803 朝海 咲夜(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec1847 木村 美月(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ソウガ・ザナックス(ea3585)/ 斉 蓮牙(eb5673

●リプレイ本文

●道中
「琢磨さんがっ‥‥ば、馬車から逃げるのも納得‥‥ですねっ、あわわっ」
 出発早々に大型馬車の中を小奇麗に片付け始めたソフィア・ファーリーフ(ea3972)が、立ち上がりざまにふらふらと倒れそうになるのを朝海 咲夜(eb9803)が横から助けた。
「予想以上に揺れますね〜。スピードもかなり出てますし」
「せっかくナーガの話をもっと聞かせようと思うとったに、なんぢゃ、上城さんはおらんのか」
「ええ、ちゃっかりリューズさんと相乗りを決め込まれたようです」
「若いもんはええのう」
 アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の返答に肩をすくめてみせるトシナミ・ヨル(eb6729)であった。
 すると、馬車の後方でなにやら呻き声が聞こえてくる。
「う‥‥うーん‥‥」
「烈さん、どうかなさいましたか?」
「ちょっと‥‥腹の具合が‥‥」
 やや不安な面持ちでお腹の辺りを摩っている風 烈(ea1587)を心配して、木村 美月(ec1847)が声を掛けた。
「先ほど食べた草が当たったのでしょうか」
 実直な烈は実技試験に備え、雑草を上手そうに食べる練習をしていたのである。
「いや、大した事は無さそうだ。じきに治ると思うよ」
「無理するでないぞ」
「烈さんの努力がばっちり結果に結びつくといいですね」
「うんうん、頑張りましょー!」
 まだ見ぬ巫女と虹のドラゴンを心に描きながら、冒険者たちは今回の旅への思いをそれぞれに熱く語り始めるのであった。

●嵐の壁
「お。来た来た〜」
「遅いぞ、琢磨殿」
 皆が待つ村の入口に、他の仲間たちより少し遅れてリューズ・ザジ(eb4197)と琢磨の乗るグリフォンが到着した。
「悪い、周囲の様子をあちこち見て回ってたらちょい遅くなった」
「リューズ、こいつに変な事されなかったろうな」
 と、矢庭に琢磨の耳を引っ張りながら陸奥 勇人(ea3329)が尋ねると、リューズが一瞬笑みを浮かべてから、ピンっと背筋を伸ばして答えた。
「『不可抗力』については致し方無い」
「ええ〜〜っ! 俺、何もしてないっすよ!!」
「どうだかな」
「流石にリューズ殿は大人だな」
 頷きあうグラン・バク(ea5229)とバルザー・グレイ(eb4244)の傍で琢磨が必死に弁明していると、村の長たちがやって来て彼らに声を掛けた。
「遠路遥々よお来て下さっただ。早速で申し訳ないだが、おらたちと一緒に来て下され」
 白髪頭に白くて長い顎髭を蓄えた村長はにっこり笑ってそう言うと冒険者の前に立って歩き始め、皆が慌ててそれを追った。
 
   ***

 村の北側にある小さな森を抜けると、そこには殺伐とした荒野が広がっていて、その先に丁度シーハリオンの丘が見えるはず――なのだが。
「なんだよ‥‥あれは」
 一様に遥か遠く一点を眺める彼らの先にあるのは噂に高い『嵐の壁』であった。
「あんなの‥‥今まで見た事ありません」
「ああ、自然現象としては通常有り得ない代物だな」
 琢磨の言葉に皆が眉をしかめて見せるが、村長はそれらを気にも留めずに更に歩を進めていった。
「もっと近くまで行きますじゃ。どうせ見物するなら、よお見える方がええだ」
「見物?」
 村長に言われるがままに『嵐の壁』に巻き込まれないぎりぎりまで接近すると、その事象の凄まじさに皆舌を巻いた。
 空は確かに青く晴れ渡っているというのに、自分たちの目の前には正真正銘、激しく轟き光る雷を伴った暴風雨がまさに壁の如く行く手を遮っていた。
 それはどうやら円柱状にシーハリオンの丘を囲っているようである。
「こんなんじゃ、蟻一匹入り込む事だって出来ねえな」
「入るなり骨が砕かれそうだ‥‥」
「しぃっ‥‥ぼちぼち始まりますじゃ」
 村長が言い終わらないうちに壁のある一点が眩く輝き始めたかと思うと、それはみるみるうちに大きな黄金の円となり、その中心から真下へ向かって一筋の深い裂け目が走って、その隙間から一斉に青白い閃光が漏れ放たれた。

「「「眩し――――――――――いッッ!!」」」
 その光は仲間たちの目を痛烈に射抜いた。彼らがようやく目を開ける事が出来た時には彼らの目前の壁にぽっかりと大きな穴が空いている。
 『嵐の壁』は確かに唸りを上げて吹き荒れているというのに、地上から5mほどの高さで狭い空洞が出来て、その先にある丘に生えている緑が垣間見えたのだ。
 果たして、穴の中に巫女はいた。
 巫女は凛として正面を見据えると、呆然と佇む冒険者の前へすたすたと歩み寄った。
「よっこらしょ」
「れんちゃん、もっとでかい穴を開けても良かったのに」
「いや、シフールの子らが勇んで外に飛び出しても拙いからな。この間は彼らを捕まえて里に戻すのに苦労したのだ」
 彼女が誰と話しているのか皆はすぐに理解する事が出来なかったのだが、それがやがて具象として翼を持つ竜の形を取って現れてようやく『虹のドラゴン』である事を悟った。
「ドラゴンと‥‥巫女か」
「確かに‥‥」
「なんだ、お前たち挨拶もろくに出来ないのか。私の期待外れだったかな」
 愛らしい声で、その声には凡そ不似合いな威圧的な態度でものを言う巫女に皆の視線が集まる。
(なんで巫女がゴスロリなんだよ) 
 ゴスロリ――天界言葉でゴシックロリータ――風の派手な衣裳に琢磨が気を取られている間に、他の仲間たちは挙って巫女と竜の周りに群れた。
 皆は礼儀正しく敬意を払って接し、数々の非礼を詫びた。烈は彼らが阿修羅の剣復活のために来てくれた事に、ソフィアは偉大なる竜が人々の目線に気遣って話してくれる事に深く礼を述べた。
「お初にお目にかかる。ジ・アースはジャパンの浪人、陸奥勇人だ。早速だが、巫女殿にも竜殿にも普通に話し掛けて構わないか?」
「一向に構わん。それより余り時間もない。悪いがすぐに試験を始めるから皆席に着くように」
「席ぃ?」
 と訝っていると、突然目の前に長机と長椅子が現れた。
 冒険者たちは予め練っておいた文章を配られた羊皮紙につらつらと書き出した。勇人は筆記が苦手だったので、前もって自腹で代筆を頼んだものを巫女に差し出した。
 巫女は答案用紙を速やかに回収すると、昼食後に村外れのトリケラトプスの湿原に集合するよう言い残して、竜と共に『嵐の壁』の中へと姿を消した。

●実技試験
「ナナルちゃんと一緒にお食事がしたかったですね」
 少し寂しそうにソフィアが呟くと、グランが優しく励ました。
「食事ならきっとこの先いつだって出来るだろう。それより午後の実技試験、皆で精いっぱい頑張ろう」
「そうですね!」
 湿原では早々に食事を済ませた咲夜がトリケラトプスの巣の在処や土壌の感触、草の生え具合などを細かく調べていた。
 美月も双眼鏡を使って群れの様子を伺っている。他の者たちは生えている草花を摘んで、唄など歌いながらせっせと花輪を作った。獣が好みそうな草も予め集めておいた。
(これ程に大人しい恐獣もカオス勢の手に掛かれば兵器と化すのか)
 のどかな風景を愛しそうに眺めるリューズの胸に、刹那熱い思いが過ぎるのだった。
「狙いやすそうな獲物を物色して来ました」
 やがて、トリケラトプスの群からやや離れた所に集っている仲間の元へ咲夜がやって来た。
 彼は地形等を伝えた上で、仲間に一言忠告した。
「ええとですね‥‥子連れのトリケラトプスにも勿論要注意なんですが‥‥」
 と、彼はやや言い難そうに言葉を発する。
「ですが、何だよ」
「ですが――今回の一番の敵は――――『ふ○』です!!」
「「『ふ○』――――――――――――――――――――???」」
「はい。強烈ですから覚悟してくらはい‥‥」
 あの小さくてコロコロした羊のナニでさえ近くに寄ると相当だ。あの巨体の獣であれば尚の事――咲夜はすでに花、もとい鼻をやられたようである。
「皆、揃ったな。じゃ、実技試験はじめっ!」
 いつの間に現れたのか、巫女が冒険者の背後でそう合図を出し、彼らは一斉に身に着けていた武具を外すと顔や腕に泥を塗りたくった。
 勇人は上着も脱いで体にも泥を塗り付けた。
「はっ、そうら!」
「?」
 ふいに咲夜は小さな花輪を2つ手にして巫女の前に進み出た。
「こへ、良かったら‥‥ひっと似合ふよ。虹ドラさんにも‥‥はひっ」
 鼻に栓をしているので言葉は聞き取りにくかったが、咲夜は薄紫色の愛らしい花で作った首飾りをナナルの首に掛け、続けてもう一つを竜の頭に被せた。
 刹那、ナナルの頬がちょっぴり紅くなるのを仲間たちは嬉しそうに見守った。
「そーほーきまふね、こへは」
「我慢れふ。ひたふら我慢‥‥」
 噂の悪臭攻撃をもろに食らったのは『獣の隣で草食みお昼寝』チームだった。だが、彼らはよく耐えた。
 お昼寝にナナルを誘おうと思っていたグランだったが、この匂いを前にして流石にそれは躊躇われた。
 さて、彼らに釣られてお腹いっぱい好物の草を食んだトリケラトプスの1頭がうつらうつらと居眠りを始めたので、その機を逃さずトシナミが『花輪掛け&頭撫で撫で』に挑んだ。
 彼はリューズの進言通り、真正面よりはやや横から、出来るだけゆっくり飛んで角に輪を引っ掛けてそのまま獣の頭を3度撫でる事に成功した。
「(やたー!!)」
 皆の顔が歓喜に満ちる。実技試験は見事合格であった。

「あれ? 勇人さんとバルザーさんが見当たりませんが‥‥」
 美月に言われて仲間たちが周囲を見渡すと、離れた所からアレクセイが駆け寄って来た。
「アレクセイ、勇人と一緒じゃなかったのか?」
「それが‥‥。勇人さんとバルザーさんは母親トリケラトプスに拉致されました‥‥」
「「『拉致』――――――――――――???」」
「どうやら彼らの子供と間違われたようです。無理に引き離すと危険なので‥‥」
「仕方あるまい」
「そだなー、あいつらなら絶対大丈夫だって♪」
 琢磨の言葉に他の仲間も頷いた。【チケット】を使ってフラワーティアラまで準備した勇人であったが、恐獣に冠を被せる事は遂に叶わなかった。

●結果発表〜花と実
 その日の夕方、村長の家の大広間に冒険者のためにと大層な膳が用意された。グランが村へ土産がてらに持参した酒もその場に運ばれた。
 屋敷の傍の空き地にはバルザーが用意した簡易テントが張られ、ペットたちがゆっくりと旅の疲れを癒した。
 巫女の衣裳を纏ったアレクセイの陽のフェアリーは主人が編んでくれた花飾りを嬉しそうに身に付け、はしゃいでいた。
「待たせてすまぬ」
 自力で母親トリケラトプスの元から逃げてきた勇人とバルザーが水浴びを終えて膳に着き、全員が揃った所にナナルと竜が入ってきた。
 彼女は村長に礼を述べて食事に箸をつけ、他の者もそれに倣った。
 食事が済んで後、ナナルは冒険者に今日の試験の結果を伝えた。全員――合格であった。
 仲間の誰かが筆記試験の感想を聞きたいと申し出ると、彼女は質問の2と3に関しては、単なる意識調査だとのみ答えた。
 ただ、冒頭の質問に関してのみ、彼女は説明を加えた。
「私が期待した答えを書いていたのは、一人だけだった」
「一人だけ!」
「いや、同じような思いを抱いていた者はいただろうが、言い当てたのは彼女だけだったな」
「‥‥」
「だが、お前たちの正直な思いが聞けたのは良かったと思っている」
 ナナルの隣でまったりとくつろいでいる虹竜も満足げに微笑んだ。竜が微笑む――そう感じただけかもしれないが。
「ナナル、あの話をしてはどうだ?」
「れんちゃん‥‥」
 彼女は『虹のドラゴン』をれんちゃんと呼んでいた。
「お前たちは、美しい花がなぜ咲き、なぜ散るのか知っているか」
「花ですか?」
「それは、受粉して実を結んで‥‥」
「そうだ。そうして未来へ種を残すのだ。花が散る事無くして実は結ばれぬ」
「つまり」
「つまり‥‥嫌でも避けられない事はあるという事か」
 バルザーが洩らした低い呟きにナナルは頷く。
「遅かれ早かれ、我らは『覚悟』を決めねばならない。自己犠牲の精神は確かに尊い。だが、その何十倍も辛く苦しい思いを我らは強いられるかもしれぬ――という事だ」
 ナナルの言葉に皆がしーんと黙り込んだ。
 ナナルと『虹のドラゴン』にもっともっと沢山聞きたい事はあったのだが、仲間たちはそれを一旦心に納めて早々に寝床に着いた。
 グランはかねてより切望していた竜との面談を希望する旨のみを彼女に伝えた。
 その夜、仲間たちは皆同じ夢を見ていた。
 シーハリオンの丘の上にある薄暗い洞窟の中で、『虹のドラゴン』の翼に抱かれるようにしてナナルが眠っている。
(お母さん‥‥ナナル、頑張るからね‥‥だから、ナナルが帰るまでナナルの事、忘れないで‥‥)
 翌朝、村から王都へと帰る仲間たちの胸の中に、竜と共に眠るあどけない少女の寝顔が不思議と焼き付いていた。