堕天使たちの砦〜再会
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■シリーズシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月12日〜06月18日
リプレイ公開日:2007年06月18日
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●オープニング
「ミルクを見失っただあぁぁ?」
「ああ」
「‥‥」
「ああで済むのかよ」
「済むんですか、だろ」
「自分でへまっといて、開き直るな!」
「お前‥‥俺がいつドジったってんだよ! 自慢じゃないが、KBCに入ってから俺が敵を仕留め損ねたのは、後にも先にも1度きりなんだよっ、いちどっきり!!!」
「ま、まあま‥‥」
「一旦セルナーへ帰るミルクの婚約者を王都の郊外まで送って、そこから彼女を連れて再び本部に戻る――こんな簡単な事が出来ないで『間抜け』と呼ばずして何て呼んだらいいんですか? 先輩」
「琢磨‥‥黙って聞いてりゃいい気になりやがって、貴様あ――――!」
「もう! 二人ともいい加減にして下さあああ――――――――――いッッッ!!!」
KBC本部施設のロビーのど真ん中で激しくいがみ合う琢磨とジョゼフを見かねて、遂にエドが怒鳴った。
「私がジョゼにお願いしたんです。ツキちゃんはお友達の行方を捜す為にメイディアを出ていますし、私も午前中は仕事が立て込んでしまっていて‥‥兎も角、此処で喚いていても仕方ありません。早急に彼女を探しましょう」
「ああ、でもミルクの行き先は見当が付く」
きっぱりとした口調で言い切る琢磨に、思わずエドは食い下がった。それは彼にも十分に予想出来た事なのだが、彼自身は認めたくは無かったのだ。
「東の砦‥‥ですか? まさか彼女一人でなんて、無理です! 無茶です! 無謀ですっ」
「確かにそうだ」
「確かにそうですね」
「でも、あのミルクじゃやりかねないだろ?」
「そうですねえ、困りましたねえ」
「そうそう、困って‥‥って、その声‥‥もしかして――――」
聞き覚えのある声に振り返った琢磨の瞳に、印象的な赤い髪と物静かなブロンズ色の瞳の美青年が映った。
(ラ・ニュイ――?)
「久しぶりですね、琢磨。それからエドガーさんと‥‥?」
「‥‥」
ジョゼフはラ・ニュイとは視線を合わさずに、足早に回廊の奥に消えた。
「何しに来たんだ。ひょっとして敵情視察とか?」
「まあ、それも有りますが――」
と、男が一歩退くと同時に、長いローブに身を包んで彼の影に隠れてるようにして立っていた人物が琢磨の前に歩み出て、顔を覆っていたベールを軽く持ち上げてみせた。
「‥‥ベリアルか?」
黄金の髪を草の染料で茶色っぽく染めているものの、その神々しいばかりの美麗な美しさは紛れも無く魔術師ベリアル――つまり、ミルクの姉のマリアであった。
「どうして‥‥これは一体どういう事だっ」
「事情を知った東の砦の大将が、戦が始まる前に一目妹さんに会う様にと彼女を説得したんですよ」
「『翼竜の魔戦士』が?」
琢磨は『翼竜の魔戦士』ことイザク・イスと、先の砦の調査の折に一度会っていた。
イザクに対して、残忍極まりない暴れ者という噂には相応しくない印象を持ったのは確かだったが‥‥。
「まあ、細かい事はお互い抜きにして、今は急いだ方がいい。ベリアルが此処にいたのでは『盗賊村』周辺の連中を抑える事も出来ません。砦を目指した妹さんが彼らの手に掛かる前に、なんとしても追い付かなければね」
「細かい事は抜きにして‥‥ね」
「ええ、こちらも先日の砦の騒ぎで、私の可愛い魔術師が手厚い持成しを受けたのです。お互い、言い出したらキリが無いでしょう?」
感に障る事に、ラ・ニュイの言う事にも一理有った。
また、背後の事情は兎も角、マリアが妹を想う気持ちに嘘偽りは無いだろう――琢磨は大人しく彼らの申し出を受ける事にした。
「私の方で早馬を用意しましょう。後はそちらで人手を集めて頂けますか? 勿論、報酬もこちらで持ちましょう。私は一緒に動けませんがベリアルが貴方がたと行動を共にします。そして妹さんに是非彼女を会わせてあげて下さい」
「ベリアルが砦に帰りたくないと言ったら?」
「それは有りえません。ミカエルの時と同様に――ね」
ラ・ニュイはいつもの様に余裕たっぷりの笑みを浮かべると、ベリアルを残して軽やかな足取りでその場を立ち去った。
小刻みに震えているように見えるベリアルの肩を抱きながら、エドが心配無いと小さく呟いた。
砂漠が、再び彼らを呼んでいた――。
■依頼内容:『混沌の刻印』の噂を聞いて単身東の砦に向ったミルクを保護し、ベリアル(マリア)と無事再会させる事。
○魔術師ベリアルが冒険者に同行します。
○ミルクは結構な怪力の持ち主ではありますが、まだ幼い少女です。
○砦や盗賊村の周辺には、盗賊、人攫いなど悪党たちが個々にテントなどを張って住んでいます。
○最新情報によると、屯営で赤い髪の少女を見たという証言が挙がっています。同じく、野盗のテント付近で少女を見たという情報も入っています。
○テント■■に住む野盗は数人〜10人と言われています。
○砂漠周辺にはスコーピオン(蠍)が、稀にジャイアントスコーピオンが確認されています。
○琢磨は大人しく屯営で留守番してます。尚、ミルクと再会する前に兵士に『マリアがベリアルだ』とバレると少々厄介な事に成りかねません。屯営周辺ではご用心をば。
↑東の砦及び盗賊村へ
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□/「対砦攻め」の騎士団の兵舎
食/食糧庫
兵/見張り兵
━/低い壁
∴/砂漠
仝/木々
岩/岩場
■/野盗たちのテント
●リプレイ本文
●砂漠へ
「肉親や恋人を想いながら、同時に他人の命を平気で踏み躙る事も出来るとは‥‥。つくづく人の業の深さには恐れ入るばかりだな」
顎の先から滴り落ちる汗を拭いながらランディ・マクファーレン(ea1702)が地平の彼方を見詰めて呟いた。
恐獣よりも恐ろしいのは人かもしれない――。
「ランディ! 急がないと日が暮れるわよっ」
フォーリィ・クライト(eb0754)に促されて、ランディは慌てて休ませていた馬に飛び乗った。
冒険者たちは東の砦を目指し、空陸の手段を駆使して移動中であった。その中にはミルクの実姉であり敵方の魔術師でもあるマリアの姿もあった。
「ジブリールと言ったか、あいつはどうしている? まだ砦にいるのか」
アリオス・エルスリード(ea0439)が、ふいに後ろのマリアに尋ねた。二人はグリフォンの背に跨り、月精霊の仄かな明かりを頼りに夜空を駆けていた。
「‥‥。あなたがジブリールを寝台に縛り付けたのですね。翌朝強がってはいましたが、本当は怖かったのでしょう。あの子はまだ子供ですから」
「戦場で不要な恨みを買っていると酷い目に遭うという事を教えただけだ。俺の言っている意味、分かるよな」
「なぜ、彼をあのままに。その気になれば息の根を止める事も出来たでしょう。私たちは敵――なのですから」
「‥‥次は無い。あんたにしろ、ジブリールにしろ、『戦場』ではな」
アリオスはそれきり口を噤んだ。騎士団の屯営はもうすぐであった。
***
「うひゃー、一番乗りし損ねたッスね〜残念っ!」
夜明けを少し回った頃にフルーレ・フルフラット(eb1182)と音無 響(eb4482)の乗るグリフォンが屯営の入口付近の空き地に降り立った。
「ちょっとお喋りが過ぎたッスかね。んでも、響さんと一杯話せて良かったッス! 益々魅力的な女性に成長したッスね♪ 」
(まだ誤解されたままなんだ‥‥)
心で泣いても顔には出さず、響もやや眠そうな目を擦りつつグリフォンの背を降りた。
「さてっ、今日も頑張るぞ。絶対、二人を無事に再会させてあげるんだ!」
「そうッス!」
意気投合している二人の姿を見つけて、屯営の中にある煉瓦造りの建物の2階の大きな窓からベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が元気に手を振った。その隣でリューズ・ザジ(eb4197)が微笑む姿も見られた。
「おおーい! 全力で走れ〜〜若者よ! ミーティング始まるぞーっ」
フルーレたちは一番乗りし損ねたというよりも、一番ビリだったようである。
冒険者たちは琢磨が用意していた部屋で簡単な打ち合わせを行なった。
エルシード・カペアドール(eb4395)らが兵士から集めた情報から、ミルクがテント村に入ったのは確実と思われた。
「兎も角早々に俺たちも乗り込んで嬢を確保するとしてだ。だが、問題はその後にあって――」
グラン・バク(ea5229)がミルクの暴走を懸念し、それについて意見が交わされている所でクーフス・クディグレフ(eb7992)がこっそりとその輪から離れ、窓際にいた琢磨に小さく声を掛けた。
「‥‥彼女の側にいるのは何故か落ち着かないな」
「そりゃ、そうだろう」
マリアを気にしながらそわそわした様子のクーフスを見て、琢磨がちょっぴり楽しげに返事を返した。
「これがフォーリィ殿なら全く問題無いのだがな」
「あー、それはよく分かる。あいつは女ってよりは‥‥」
「女がどうしたってえー?」
ふと振り返ると額に卍印を浮かべてフォーリィが立っていた。彼女の耳は地獄耳であった(らしい)。
男二人はさっと口を堅く閉じるといそいそと輪の中に戻り、村に入る準備を手伝った。
「村長さん」
「だだっ! 誰が村長――――‥‥えっ」
屯営を出た所で琢磨は唐突にフォーリィの腕を掴むと、強引に引き寄せては彼女のピンク色の温かな頬に軽く唇を寄せた。
「無茶すんなよ」
「‥‥‥‥‥‥!!!」
フォーリィは首の下まで真っ赤にすると、琢磨を振り向きもせずに無言でテント村に入っていった。
彼が殴り飛ばされなかったのは幸いであった。
●テント村
昼の砂漠は熱かったが、冒険者たちに弱音を吐いている暇は無い。彼らは移動の速度を考えて履物を選び、解毒剤や武具で蠍に備えた。
「盗賊たちは皆、魔戦士のいる砦に入りたがってるから、もしミルクちゃんがベリアルの身内だと知れば必ず利用しようとすると思うの。一気に成り上がるには絶好のチャンスだもんね」
「ともあれ、一番近いテントから順々にミルクさんを捜索ッス」
「まずは穏便に‥‥後はケース・バイ・ケースね」
ベアトリーセに続いてフルーレたちがテントに向かった。グランは連れて来た忍犬を放ってミルクの痕跡を調べさせ、リューズとクーフスは他のテントの様子にも注意を払いながら、テントの外側で待機した。
***
「赤毛の雌ガキに一杯喰わされてな。軽く礼をしてやりてぇんだが、こんな奴見なかったか?」
テントに入るなり、ランディはそう言って屯営でグランに描いて貰ったミルクの似顔絵を盗賊たちに見せた。
「こ‥‥これはっ!」
「この御方は!!」
(この‥‥御方?)
野盗の怯えるような様子に思わず首を傾げる冒険者だったが、彼らは素直にミルクが来た事を認め、この先のテントに向かった事を告げた。
彼らはやはりベリアルを知らないようで、マリアを見ても何も気付かなかった。
***
「金を盗まれたので追っている」
「こ‥‥これはっ!」
「この御方は!! ミルク様じゃ〜〜」
(ミルク様?)
彼らもやはりベリアルを知らないようだ。
「ミルク様なら岩場の向こうへ蠍退治に行かれましただ。俺たちが困っているのを見て『大蠍を退治する』とおっしゃられて」
「「「はあああ――――――――――――??」」」
「いくらシャルロットでも大蠍は危険です! 先に行きますっ」
マリアは咄嗟に魔法を唱えると火の鳥となってその場から飛び立った。仲間たちも慌ててその後を追いかけた。
岩場に着くと、そこにはすでにジャイアントスコーピオンと戦闘を始めているグランとミルクの姿があった。
『守より攻』重視の戦法を取る二人の勇士はさながら師弟の間柄のように思えた。
「シャルロット、そこをお退きなさいっ!!」
「お‥‥お姉ちゃん?」
やがて追い付いたフォーリィらも加勢に加わり、程なく大蠍は倒された。
●姉の決意
テントにいた盗賊たちは、お礼にと酒や食べ物を差し入れてくれた。こんな気のいい悪党だからこそ、あの『盗賊村』には入れないのかもしれない――と仲間たちは思った。
今からでも遅くは無いから、真面目に働きなさいとミルクが言うと、彼らは困ったように顔を見合わせながらも頷いた。
冒険者たちは岩場近くのテントを借りて、そこでミルクことシャルロットとマリアを再会させた。
空が紅に染まり、やがて夜の色に染まり始めても、二人は抱き合ったまま何も語らなかった。ただ、マリアがずっと小さな妹の背中を優しく摩り続けていた。
――が、そのうち意を決したようにマリアがその美しい唇を開いた。
「シャル、よくお聞きなさい。私が家に戻る事をお父様は望んではおられません。私がセルナーに戻れば大きな災いを招く事になるでしょう。でも貴方は違います。お父様には貴方が必要です。夜が明けたなら、直ぐにでも家に戻りなさい」
「いいえっ、私はマリアお姉様と一緒でなければ家には戻りません! その為に此処まで来たんですっ‥‥お父様の事は私が必ず何とかします。どうかシャルロットを信じて下さい!」
ミルクが食い下がるも、マリアはただ首を横に振るだけであった。
「イザクと一緒に居たいのか? なら、魔戦士も連れて一緒に逃げたらどうだ」
「ランディ、何を!」
「まあ、この二人の実力を持ってすれば、あながち不可能では無いな」
「アリオス殿まで何を言うか! それはメイを、アトランティスを知らぬ御仁ゆえの考えだっ。この世界でカオスニアンと人間が暮らせる場所などあろうはずも無い!!」
普段は冷静なリューズが取り乱す様に、仲間たちは皆困惑の色を隠せなかったが、彼女を支持するようにクーフスも言葉を繋いだ。
「俺も正直、イザク殿は武人として敬意を払える相手だと感じている。感じてはいるが‥‥カオスニアンとの確執は今に始まった事ではない。遥か昔、ロード・ガイの時代からずっと、この大地に根付いて来た慣習なのだ。そう簡単に人々の意識が変わる事は無い」
「でも、大切なのは一人でも多くの人が幸せになる事じゃないですか?」
「響‥‥?」
いとも簡単に聞こえるとんでもなく難しい課題を、天界人の響は言い放った。
「だって‥‥諦めちゃったらそれで全て終わりじゃないですか。でも、信じて頑張れば開ける未来だってきっと‥‥!」
「あんた、琢磨と似たような事言うわね」
「地球人は平和ボケしてますから♪」
「んー、よく分かんなくなったけど、まずは建設的に具体策を練らないと駄目ね」
エルシードが一旦場を仕切り直し、姉妹が定期的に会える場所を用意する等、他の者が具体案を出した。
「貴女がバの軍に身を置き続ける事は、シャルロット殿を危険に晒す事にも繋がります。どうか今一度お考え下さい」
リューズがマリアとは視線を合わせずにそう言って場を退いた。
皆の話を黙って聞いていたマリアはやがて、静かに語り始めた――。
「私とイザクはただ突き進む事だけで己の在る場所を感じていました。カオスニアンはいくら戦功を上げたとて人として認められるわけでは有りません。ですから、彼も私もバに忠誠を尽くしているわけでは無いのです。ただ‥‥こんな形でしか生き続ける術を見つけられなかったのです」
「お姉様」
「でも、妹が私を忘れずにいてくれた‥‥こんな醜い自分勝手な姉の事を‥‥」
マリアの綺麗な瞳から、涙が止め処なく溢れては零れた。
「分かりました。もし、次の戦で我々が敗北したなら、私はイザクと共に砦を出て皆さんの言われる通りに致します」
「今からじゃ駄目なんですか」
「戦に負ければ、私もイザクを説得出来るでしょう。今の私にはこれ以上の事はお約束出来ません」
「そんな‥‥」
ベアトリーセが悲しげにマリアの手を取ったが、彼女はその手を丁寧に差し戻した。
「戦場で決着を」
「マリアお姉様っ!」
「シャルロット、いつか貴方にも分かる日が来るでしょう。この先もし大切な人に出会ったなら、世界中を敵に回してでも貴方だけはその人の傍にいておあげなさい。それが女の心意気と言うものです」
マリアは泣き腫らした目でにっこり微笑むと、妹を抱き締めて後、再び砂漠へと去って行った。
決戦の時が冒険者に迫っていた――。