堕天使たちの砦〜誰が為に祈るのか

■シリーズシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月03日〜07月09日

リプレイ公開日:2007年07月10日

●オープニング

「これは、シェバリエ卿。お待ちしておりました――さ、どうぞ奥へ」

 カフカ・ネールはノックの音と共に開いた扉を向き直ると、素早く席を立って敬礼して後、自分よりも年上のその男に丁重に着座を勧めた。
「マックス、いやネール卿、遅れて申し訳ない」
 カフカの事をマクシミリアンの愛称で呼ぶ者は彼の幼少時代から近しい者あるいは、同族縁者に限られていた。つまり、その男は貴族であった。
 口元に生やした八の字の髭は左右にピンっと跳ね上がっていて如何にも軍人然とした引き締まった面構えで、恰幅の良い体には、かと言って余分な脂肪が付いているわけでもなく、その広い胸元を飾る数々の勲章は挙って鈍い光を放っていた。
「海戦騎士団の提督とは、すっかり男を上げられたな。幼き頃はどうしようもない泣き虫で、父君が大層お嘆きであられたのが嘘のようだ」
「卿、昔の話はっ‥‥どうかご勘弁下さい。それより今はまず東の砦を落す事が肝要なのです」
「うむ、そうであった」
 二人の貴族の親しげな会話を表情も変えずに無言で聞いていた琢磨が、男が着座するのと入れ替わるようにして席を立った。
「じゃ、俺はこれで」
「琢磨、そう急がずとも――」
「上城殿、お初にお目に掛かる。私はルネ・シェバリエ、ネール卿とは遠縁に当たる者だ。さしてお役には立てないかもしれぬが、今回の作戦では宜しくお願いする」
 ルネは初対面の若者に快く自分から名を名乗り、挨拶をした。それは階級制度を敷いている世界において極めてリベラルな態度である事を琢磨は十分承知していたが、彼は敢えてそれには興味を示さないように振舞った。
「こちらこそ。それじゃ他に行く所があるんで、俺はお先に」

 サミアド砂漠の東側――東の砦と呼ばれるカオス兵の根城を睨んで敷かれた騎士団の屯営内にカフカを補佐する任を受けて到着したルネは、予想以上の暑さに思わず額の汗を拭った。
 加えて、KBCの記者が陣営に出入りしている事は聞いていたが、本作戦の司令官であるカフカと一介の記者が親しい関係である事はルネには正直驚きであった。

「なんとも、人見知りの激しい御仁だな」
「人見知りというか何というか‥‥ね」
 琢磨が出て行った扉を何処か寂しげに見詰めながら、カフカは小さく溜息を吐いた。
「さて、大方の事は此処に来るまでに報告書で読んではきたが。私の役目は騎兵たちの束ねで良いのかな?」
「騎兵とモナルコスもです」
「モナルコス‥‥ふむ。あの石で出来たでかい巨人の事かね」
「近頃では金属で出来たものもあるそうですよ。シルバーですとか‥‥」
「銀の巨人か! いやはや‥‥私も一度試しに乗ってみないといかんな」
「本気ですか? 叔父上」
「当たり前だっ! 指揮官たるもの、己の兵の事は可能な限り熟知しておくのが務めというもの」
 この言葉はルネの本心から出たものである。
 上級の騎士であれば、鎧騎士としての訓練を受けてはいても滅多な事では実践でモナルコスに乗り込むような事は無い。概して彼らには彼らの、士官としての役目が他にあるからだ。
 然しながら、この奇妙な乗り物に乗って敵の横っ面をぶん殴ってやりたい――という思いを、彼は常日頃から持っているようである。 
「流石に叔父上です。シルバーゴーレムに乗りたいだなんて畏れ多くて、僕のような未熟者は頭が下がりますよ」
「お前に下げられても、嬉しくも何ともないわいっ!」
 この時、ルネはまだまだ頼りなく見える身内を叱咤しながらも、移ろい行く年月の早さに思いを馳せずにはいられなかった。
「それで、実際の所、敵の大将は如何な者かな」
「‥‥。対峙してみない事には何とも。ただ‥‥」
「ただ?」
「早めに大型翼竜を叩かなければ、こちらの士気に関わります。気持ちで負ける事が戦場では何よりも怖い」
 ふとカフカが眉を顰めるのを見てルネは一つ大きく咳払いをし、カフカが気付いて振り返るなり、彼は心配要らぬという風に首を横に振って後、落ち着いた声で言葉を続けた。
「分かった。陸の事は私が引き受けよう。――敵の恐獣部隊はこちらで叩けるだけ叩く。それで良いのだな?」
「はい! 北はフロートシップから騎兵を降ろして砂漠への道を塞ぎます。恐らく、陸では戦力の厚い砦の南側が主な戦場になると思いますが、砦の見張り兵を含めて北からも攻められるだけ攻めさせます。北にはミケーネを置きますので、南を叔父上にお願い出来れば」
「承知した」
「今回は砦内にまで攻め入る必要は有りません。もし奴らが砦に逃げ込めば、こちらも一旦兵を引きます」
「うむ」
「今回の目的は、空と陸からの力攻めで可能な限り敵の兵力を削ぎ落とす事です。この作戦で大型翼竜にダメージを与える事が出来なければ、後が辛くなるのは目に見えている。此処が踏ん張り所です」

 二人の会話が途切れた所で、妙にタイミングよく琢磨が部屋にお茶を運んできた。
 大層香り高いハーブ茶で、手に入れるのに骨が折れたと言いながら、琢磨は持って来た袋を開いては中に入っている落花生を摘まんで食べた。
 ハーブ茶と落花生は奇妙な取り合わせだったが、男3人は文句も言わずにそれを摘まんでは食べた。
 その夜、砂漠に嵐の気配が舞った――。


■依頼内容:東の砦を攻め落とす為、翼竜及び恐獣部隊を叩く。撃墜が無理でも、大型翼竜には少なからずダメージを与える事。

【作戦概要】
○南北から攻める事で敵の退路を断ち、2隻のフロートシップの精霊砲で砦を空爆、翼竜部隊と恐獣部隊を炙り出して総攻撃を掛ける。

北・サミアド砂漠
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↓南・ステライド領

▲/丘陵
凹/砦
□/野盗たちの集落
凸/見張り櫓
騎/騎士団

【東の砦・兵力】
 中型恐獣部隊 ×3個群
 中型翼竜 ×4〜5騎
 大型翼竜 ×1騎
 魔術師 ベリアル他2名(火・土) ※ジブリールは砦にて待機と思われる。

【使用可能なゴーレム】
 強襲揚陸艦グレイファントム/カフカ・琢磨が乗船
 攻撃型高速巡洋艦メーン
 モナルコス 3騎まで(騎士団より鎧騎士NPC投入可能/ゴーレム操縦レベル専門)
 グライダー 5騎まで(NPC投入不可)
 チャリオット 2騎まで(NPC投入不可)
 騎士団騎兵 約100

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

ヴェガ・キュアノス(ea7463)/ ツヴァイ・イクス(eb7879)/ レムリナ・レン(ec3080

●リプレイ本文

●王都にて
 「皆さんがどうか無事に戻って来れますように――」
 冒険者の働きにより、生き別れた姉マリアと無事再会を果たしたミルクは今、王都にある教会でムナイ先生と共に祈りを捧げていた。
 彼女はジーザス教を理解し信者になったわけでは無かったが、それでも誰かが彼女の傍で共に大切な人々の事を心に留め祈ってくれるのは彼女にとって救いのように思えた。
 人間とは弱いものだと潔く認める事もまた必要だと彼女は感じていたのかもしれない。
 一方、同じく王都にあるKBC本部の一室では、琢磨を囲んで冒険者たちがそれぞれの思いを熱く語っている最中であった。

  ***

「‥‥」
「ちょっと、ねえ、聞いてんの? 琢磨」
「たっくん、お願いしますっ。ミルクさんの為にも是非!」
 東の砦での決戦に当たり、冒険者が支持する作戦内容を黙って聞いていた琢磨は話が終わった後も暫くは腕組みをしたままで言葉を返す気配が無い。
 そこで、痺れを切らしたフォーリィ・クライト(eb0754)とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が思わず彼に食って掛かった所であった。
「琢磨殿の懸念も分からぬではないが、艦の被害には多少目を瞑ってでも此処はリスクを冒すべきだと思うのだが」
「あ――いや、そうじゃない」
 グラン・バク(ea5229)の問い掛けに琢磨はようやく口を開いた。彼は大型翼竜をグレイファントムに誘い込み、甲板にて擬似的な地上戦に持ち込むというエルシード・カペアドール(eb4395)の奇抜な案に異論は無いが、問題はその後だと指摘した。
「表向き戦死にするって事はだ。つまりは国民を騙すって事で、それは国家への反逆をも意味するんだぜ?」
 琢磨の言葉に一瞬皆の顔色が変わる。
「それにカフカを巻き込むのは絶対に反対だ。奴の部下にだってカオス兵に殺された者は大勢いる。カフカはそいつらの無念をも背負って戦地に向かうんだ。お前ら、そんなカフカを追詰める事になったら嫌だろ?」
「‥‥」
「じゃ、倒す振りして二人を逃がすとか」
「カフカが将として責めを負う事になる」
「では‥‥彼らはやはり討ち取るしかない‥‥のか」
 刹那、リューズ・ザジ(eb4197)が消え入るような声で呟いた。彼女はカオスニアンを憎悪してはいたが、イザクとマリアという個に対して何ら情を持てないほど冷たい人間では無かったのだ。
「いや。生け捕ってくれさえすれば後は俺が‥‥俺がなんとかする」
「おおっ!」
「流石たっくん♪」
「琢磨殿!」
 突如明るい声を発して嬉しそうに顔を上げる仲間たちに囲まれて、琢磨は思わず深く溜息を吐いた。
 勝算があったわけでは無かったが、敵の大物ともなれば必然的に利用価値も高い。バに忠誠を尽くしていないなら尚の事、こちらに引き込む事も可能である。
 であれば打算的にせよ、KBCを絡めて王宮の上層部に筋を通せば、たとえ自由の身にはなれずとも命は拾えるかもしれない――と彼は考えたのである。
「何だかんだ言っても甘いな、お前は」
「るせーよ」
 アリオス・エルスリード(ea0439)に小声で耳元で囁かれて、思わず彼は悪態を吐いた。
「そうだ、ついでに『ハーフエルフ』の戦いぶりも見ておくと為になるぞ」
「なんですってえ?」
「まー兎も角、ミルクさんとマリアさんの為にも、この戦いは負けられないッスね!」
「だな。運があれば、双方生き残る事も出来ようもので」
 フルーレ・フルフラット(eb1182)とランディ・マクファーレン(ea1702)は互いの顔を見合わせて微笑んだ。
 クーフス・クディグレフ(eb7992)はモナルコスで出来る限りの手立てを思案した。
「それぞれの想いを乗せて、我が青春のグレイファントム、いざ発進――――――っ!!!」
「?」
「えっ、俺、最近大型船の勉強も始めたから、つい言ってみたくなっちゃって」
「響‥‥」
「俺、ほんとにそんな気がするんだ‥‥俺って欲張りなんだよね。ミルクちゃんの願いもマリアさんの幸せもイザクの未来も、皆切り開く。その為にも負けられないよね!」
 音無 響(eb4482)の笑顔は仲間たちを十分に勇気付けた。
 彼らを励ます友人たちの見送りを受けながら、冒険者はグレイファントムと共に砂漠へと旅立っていった。

●決戦
 砂漠の砦攻めは南からの空陸総攻撃を以て幕が落とされた。
 モナルコスまでも担ぎ出してのこちらの策に、敵はすんなり乗って来た。
 ディノニクスを従えた恐獣部隊が砦の門から勢い良く飛び出してくると、程なく城壁を越えて翼竜部隊も姿を見せた。
 その様子をイーグルドラゴンパピーのテレスコープで逸早く察知したランディによって、グレイファントムのバリスタ隊にも伝令が飛ぶ。
「そういえば、弓の腕を披露するのは久しぶりのような気がするな」
 位置に着いたアリオスは不敵な笑みを浮かべて後、迫り来る巨大な黒影に目を凝らした。

  ***

 砦の南と東側で壮絶な戦いが始まる一方で、メーンは丘陵を回り込んで砦の北に出ていた。
 メーンを降りた騎兵たちはミケーネの指揮の下で迅速に見張り兵たちを弓で射落とした。
 また、砦の門から出ようとする恐獣の群をメーンが空から急襲した。
 精霊砲の威力は凄まじく、すでにダメージを負った恐獣を兵の長槍で倒すのはそう困難では無かった。
 メーンが昇降台を打ち崩すより先に砦を出たプテラノドンに騎乗した魔術師によって、騎士団はグラビティーキャノンの反撃を喰らうも、それも長くは続かなかった。
 グリフォンに騎乗していたフルーレが、ランスで魔術師を見事翼竜から突き落としたのである。
 勇猛果敢な彼女の戦いぶりは、数で南に劣る北側の兵の士気を高めた。
「皆から心強いと思われるためにも、此処は踏ん張らないとッスね!」
 フルーレと地上部隊がカオス兵を叩く中、メーンは次々に砦の施設を攻撃した。

●グライダー隊VS翼竜
「今回はちゃんと出て来たわね」
 視線の先に映る標的――『翼竜の魔戦士』を睨みつつエルシードは思わず武者震いした。
「まずはこの半球状の陣のまま前進して、遠距離攻撃を以て敵を一定空間に集めるように攻め立てましょ」
「了解っ」
 大型翼竜と中型翼竜3騎を相手にグライダー隊は奮闘していた。
 グライダーのスピードを活用して範囲魔法による痛手を最小限に抑えながら、仲間たちは翼竜が対地攻撃を行なえないように揺さぶりを掛け続けた。
 その間に突貫の機を見計らっていたグレイファントムであったが、敵の大将はその新型の船に照準を合わせたようだった。
「魔戦士が動くぞ!」
 逸早くその気配に気付いたリューズが叫んだ直後、黒く大きな影が動いたかと思うとグライダーはマリアの達人級の風魔法ストームをもろに受けた。
「きゃあああ――ッ!」
「ベアトリーセ!」
 体勢を整えるのが一瞬遅れたベアトリーセの機体に、火の魔術師のファイヤーボムが炸裂した。
「くっ、これ以上はやらせん!」
 弓兵を乗せていなかったリューズはランスを構えると単身中型翼竜目掛けて突っ込んだ。
「フン、一騎打ちとは笑止」
 カオスニアンは向ってくるグライダーから逃げもせず、負けじと己の翼竜を突っ込ませた。文字通り一騎打ちである。
 両者が接近した事で魔法攻撃は免れ、リューズは見事ランスを敵の翼に突き立てる事が出来たのだが、プテラノドンの長い嘴も又、グライダーに飛行不能に近いダメージを与え得た。
「無茶しやがるっ!」
 彼女の後をペガサスで素早く追ったランディが魔術師と操者を討ち取り、深手を負った翼竜は何処かへ飛び去ったが、リューズも一時戦線離脱を余儀なくされた。
 が、その後エルシードらが故意に操者を射落していったので統制を失った翼竜たちはグライダー相手に一頻り暴れて後、砦や丘の向こうへと飛んで行ってしまった。

●モナルコスVS翼竜
 一方、新型艦に攻撃を仕掛けたマリアたちは、予想を上回る船の頑丈さに手を焼いていた。
 又、少しでも油断をすればアリオスが容赦なくバリスタで彼らを追い立てたので、魔戦士は一旦その場を退くべく体勢を変えた。その刹那――。
 甲板上で密かに待機していたモナルコスの長い腕が大きく伸びたと思うと、その手に握られていたランスが勢いよく大型翼竜の脚部に突き刺さった。
 大きく奇声を発して暴れる翼竜に、クーフスは尚もランスを投げ付けた。これはリューズが対翼竜用としてカフカに頼んで船に積んでおいたものである。
「足場が悪いのはお互い様だ。此処で勝負させてもらう!」
 クーフスはありったけの力を振り絞ってランスを投げ続け、抵抗する翼竜に今度はグランとフォーリィがスマッシュを叩き付けた。
「マリア、イザク、お前たちの負けだ!」
「降伏するなら命は助けるって、うちの可愛い坊やが言ってるわよ〜だからさっさと降りて来なさ〜い♪」
 フォーリィは手の甲に着いた血糊を舌で舐めながら、サディスティックな笑みを浮かべた。どうやらハーフエルフ特有の狂化が始まっているらしい。
「命を助けるというのは本当か」
「無論だ。俺たちが必ず守ってみせる‥‥だから此処で貴殿と剣で決着を着けたい」
 イザクの言葉に答えると、グランは改めて剣を構えた。
「承知した。ではマリアを頼む」
「イザク、何を‥‥んっ」
 ふいにイザクはマリアを抱き寄せると、その紅の唇に接吻してから彼女の身体を抱き上げて翼竜の背から放り投げた。
 すると慌てたクーフスが、翼竜の嘴に噛まれてボロボロになった腕を伸ばして彼女を受け止めた。
「待て、イザクッ!」
 いつの間に甲板に来ていたのか、アリオスがイザクを止めようと威嚇の矢を放ったが、彼は身じろぎもせず矢が通り過ぎるのを待った。
「俺は仮にも大将だ。砦で仲間が戦っているのに此処でやられるわけにはいかない。マリアをくれぐれも宜しく頼む」
 そう言い残すと、イザクは傷ついた翼竜を香料で奮い立たせてから甲板の縁を蹴るようにして大空へと帰って行った。
「うわっ、マリア、待て!!」
「あの人を連れて必ず戻ります! 必ず――――!」
 マリアはファイヤーバードを唱えるとイザクを追うように空へと舞った。

 騎士団はまさしく圧勝であった。カオス兵たちは多くの恐獣を失って次々に砦へと敗走し、カフカも兵を引いた。
 冒険者はイザクたちを捕らえ損ねはしたが、ミルクの為にも次の砦落城を以て二人の身柄を確保する事を誓い合った。
 だが――。
 それは予期せぬ出来事によって阻まれる事となる。
 そのユリの花に飾られた柩は、この決戦の一週間程後にKBC本部の琢磨宛てに届けられた。