眠れる魔剣〜コルセア討伐
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■シリーズシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月07日〜08月13日
リプレイ公開日:2007年08月14日
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●オープニング
邪悪な『カオスの穴』をも塞ぐという伝説の竜戦士の魔剣『阿修羅の剣』を復活させる為、シーハリオンに巫女が降臨してからすでに幾日も月日が流れた。
現在、巫女ナナルによって魔剣再生に必要とされる『七色の竜の涙』の収集が行なわれているが、肝心の魔剣本体を今だ王宮は確保出来ずにいた。
先の『カオス戦争』が終結した折に魔剣を封印する宝庫を差し出したと思われる海賊の子孫『蒼きパピヨン』の協力を得て、バの精鋭私掠船団バラドゥールの縄張りにある小島へと冒険者が向かった所、宝庫に剣は無かったものの、彼らは偶然にも貴重な巻物を入手する事が出来た。
否、偶然では無かったのかもしれない――。
なにせ竜の力が宿るという曰く付きの魔剣なのだ。剣が自身の主となる者たちを呼んだとて不思議はない。
さて、話を戻そう。
前回の偵察(依頼「海賊の島、遠い島」)で冒険者が双子島から持ち帰った巻物の中に、ある島の地図と『もう一つの隠された宝庫』の在処が記されていた。
ある島とは海賊の根城である要塞島アンビリヨン本島であった。
『蒼きパピヨン』の親分や長老たちの見解では、そこに書かれた文面や状況からして『阿修羅の剣はほぼ間違いなくその隠し宝庫に眠っている』らしいのだが、巻物の主文の末尾には気になる暗号文のようなものが記されていて、おまけに途中で文が切れている。どうやら、対の巻物があるらしい。
宝庫の場所は地図から読み解けるので剣の探索は可能だが、暗号文がやや気になる所である。
だが、バの国の侵攻が激化している最中にあって、王宮はもうすでに悠長な事を言っている場合では無かった。
『海戦騎士団の大軍とその実力を持って、バの私掠船団バラドゥールを殲滅。
要塞島諸共に海賊を一網打尽にした後、一刻も早く阿修羅の剣を堀り出して王宮に持ち帰る事』
これが、若き海戦騎士団提督カフカ・マクシミリアン・ド・ネール卿に課された命であった。
「ふー、結構な数の火器にバリスタだな。でもダロベルを出せるなら、そう問題は無いんじゃないか」
敵の要塞島アンビリヨンの図面を睨みながら琢磨は言った。ダロベルとは先頃造船されたばかりのメイの大型戦闘艦である。
「フロートシップの他に精霊砲を積んだ我が軍のゴーレムシップを2隻出す。これで海賊どもの船も押さえられるだろう。残る問題は‥‥」
「対の巻物か」
対の巻物――これはあくまで不確定要素である。
現在KBCと蒼きパピヨンはそれぞれのパイプを通じて可能な限りの情報を集めてはいるが、有力な情報は得られていない。又、双子島の宝庫に例の巻物の片方がまだ残っていたとしたら、すでに敵の手に渡っていると見て間違いない。
だが、それもあくまで仮定の話であり、王宮が言うように剣さえ確保出来るのであれば暗号なぞ不要の長物。
然しながら、その代物が伝説の魔剣であるだけに、琢磨もカフカも意味不明の暗号文への関心を捨て切れずにいるのであった。
「じゃあ、少々厄介だが島に上陸した後、敵の親玉を殺さず捕縛‥‥ってのは? どの道コルセアは逃がしたら後が面倒だ。どうせまた別のスポンサーを見つけて復活するに決まってる。であれば、極力退路を断って捕縛、抵抗すれば武力で制圧するしかないんじゃ」
「こちらの人的消耗を極力抑えて‥‥だな。その為のダロベルと金属ゴーレムの出撃だ」
琢磨とカフカは互いに目を合わせて後、深く溜息を吐いた。
『阿修羅の剣』――誠に厄介な代物である。
■依頼内容:海戦騎士団と共に要塞島を攻撃。ゴーレムを上陸させ、島を押さえて海賊バラドゥールを殲滅する。
敵の逃走は極力阻止。可能であれば敵の親玉を捕縛。もし巻物を持っていれば出させる。
【敵兵力】
・島要塞(精霊砲4、バリスタ7)/ゴーレムシップ1隻
・中型恐獣部隊1〜2個群
・海賊の数 30〜50(詳細は不明)
【使用可能なゴーレム】
・デロベ級大型戦闘艦ダロベル
・オルトロス級カッパーゴーレム 3騎
・モナルコス級ストーンゴーレム 5騎
・グライダー 3騎
・チャリオット 1騎
・騎士団より 上陸部隊騎兵50
↑北
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│…………入江……船〃〃〃〃▲仝〃〃┃……│
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│……〃凹〃……………〃〃▲▲〃〃┃………│
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凸/精霊砲(小型射程100m)
●/バリスタ
凹/見張り櫓を含む敵施設
〃/島・平地
仝/島・森林
▲/島・丘陵
━/島・城壁
※この海域では国籍不明のフロートシップが度々目撃されています。
●リプレイ本文
●準備
「伝説の阿修羅の剣を探す旅に加われるとは、鎧騎士名利に尽きるというものだな」
長身の鎧騎士グレナム・ファルゲン(eb4322)はダロベルの広い船内の一室で、座標軸が記された海賊島の地図を見ながらどこか楽しげにそう言った。
座標とは、戦闘中に敵の精霊砲の位置をより正確に伝達する為にと音無響(eb4482)が書き込んだものである。
「やっぱ空を飛べるっていいよな。索敵には持って来いだし」
「じゃあ、琢磨さんも一度操縦してみます?」
「えー、キャノピが付いたなら考えてもいいよ」
「相変わらず慎重ね、琢磨は」
シルビア・オルテーンシア(eb8174)とエルシード・カペアドール(eb4395)に突っ込まれながらも、琢磨は自身の姿勢は崩さなかった。まあ、単純に彼らほどの勇気と冒険心を備えていないだけなのだが。
「ところで肝心の阿修羅の剣だが、すでに敵方に掘り出されてるという事は‥‥」
と、グレナムの隣でバラドゥールに関する資料を眺めていたクーフス・クディグレフ(eb7992)が不安げに呟いた。
「巻物の事ですか」
「取られたなら取り返すまでだ!」
グレナムの力強い言葉に皆が頷く。続いて彼は、天界人である琢磨が阿修羅の剣をどう思っているのか知りたかったので尋ねてみた。
すると、虹竜と巫女が必死になってる所を見ると本物なのだろうと他人事のように彼は答えた。
「でも、俺にとっては魔剣より目の前にいる仲間のが大事だけどな」
命より大切なものは無い――これが彼の信条である。
「うへー、流石に軍隊はきついや‥‥俺、ちょっと休憩‥‥」
刹那、琢磨の後ろのドアが開いて疲れた顔の響が入ってくる。
大型船舶について勉強中の彼は、ダロベルに乗り込むなり早速艦長に目通りを願い出て船内の作業を手伝っていたのだが、予想以上にこき使われた様である。
それでも響は十分に満足そうであった。
その頃、船の格納庫に配備されたモナルコスを動かす者が二人。ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)とティラ・アスヴォルト(eb4561)だ。
(あなたに向いていない事をさせて申し訳ないけど力を貸して頂戴ね)
機体に搭乗したジャクリーンはそっと心の中で呟きながらゴーレム弓の調子を確かめる。実戦に備えての気合の篭った準備であった。
一方、ティラは工房から戻ってきたゴーレムブロッカーの持ち手部分をモナルコスに乗って確かめていた。
ゴーレムブロッカーはゴーレム工房で作られたものではないのでゴーレム用に仕様を変えるのであれば、きちんと工房に出す必要があったのだ。
彼女はその盾で恐獣どもを豪快に薙ぎ倒す様を思い浮かべながら、入念に武具を検めた。
**
「あーっ!! いたいた、ちょっとアリオスっ!」
「ん?」
甲板に出ていたアリオス・エルスリード(ea0439)にフォーリィ・クライト(eb0754)が急ぎ足で駆け寄った。
鎧騎士の参加が多い今回の依頼において、この二人は少々立ち位置が異なるがそれでも味方には大きな戦力である。
次に彼女は回りに仲間が居ない事を確かめて後、アリオスの胸に人差し指を突き立てて尋ねる。
「あんた‥‥琢磨に何か言ったでしょ」
「言ってない」
きっぱり答えるアリオスだが、フォーリィは頗る勘が良い。
「あいつが何か言ったのか」
「んー、そうじゃないけど、久しぶりに会ったのになんか余所余所しいんだよねー。何か言いかけて止めたりとか」
「ふーん」
全く以て世話の焼ける男だとアリオスは思う。彼女に彼氏がいようがいまいが、己の思いを通せば良いではないか。
「あいつが変だと、こっちまで調子狂っちゃうのよね。ナナルまで変な事言い出すし‥‥」
ここで余計な世話を焼くべきかどうか迷っているアリオスの瞳に、仲良さそうに語らいながら歩いて来るカフカとリューズ・ザジ(eb4197)の姿が映った。
(まあ、なる様になるか‥‥)
気にするなと伝えて後、フォーリィを残して彼は甲板を降りた。
●ダロベル進撃
「音無、これより発艦します!」
敵の本島を前にして響とシルビアとエルシードのグライダーがダロベルから出撃した。
3騎のグライダーはまず南から東西に分かれ、陸地と十分距離を保ちながら哨戒し、優良視力を生かした索敵結果を響がテレパシーで各船隊に中継する。
届いた座標を確認しつつ同時に2隻のゴーレムシップが島の入り江を目指して進撃。目障りな南西の小島には蒼きパピヨンのゴーレムシップが早々と鎮圧に向かっていた。
「敵座標伝達完了‥‥ダロベル精霊砲フルチャージ、今だっ、撃てー!」
ダロベルとゴーレムシップ、空と海から同時に精霊砲が火を吹いて、島は瞬く間に壮絶な戦場と化した。
火の粉が舞う空をグライダーは尚も旋回する。
「向こうから見えるという事はこちらからも見えるという事に他ならないからな」
先ほどよりも敵地との距離を詰めて飛ぶエルシードの後部座席から、崖伝いに設けられた櫓内の砲手に狙いを定めてアリオスは矢を放つ。
一人がやられると他の者は挙って持ち場を離れた。所詮彼らは海賊。命を張って国を守る戦士とは端から気構えが違うのである。
第一波で敵の武装を半分近く削った所で、ダロベルは進路を変えた。いよいよ島に上陸するのだ。
正体不明のフロートシップを警戒しつつダロベルは北西に回り込み、その巨艦を唸らせながら島の中心部へと攻め込んでいった。
**
ダロベルはゴーレムと騎兵を降ろし終えると、速やかに上昇し上空から支援に回った。
敵地に降り立った彼らを待ち受けるのはカオスニアンが駆る恐獣部隊であった。
「退かぬならば、力ずくで押し通るまで!」
メイ期待のカッパーゴーレム、オルトロスに搭乗したリューズが吠える。
同じオルトロスを駆るクーフスとグレナムを加えた3人は、その頑丈な体と高い可動性を武器に先陣を切って恐獣部隊へ突っ込んだ。
「ここは我らに任せて、施設の制圧を!」
「了解っ!」
騎士団を指揮して愛馬に跨るフォーリィが移動を開始する。彼女らが狙うのは敵の親玉である。
走リ出した騎兵を庇うようにして、今度はティラのモナルコスが前に出る。
「まずは初戦を抑えて後を楽にしていきたい所ね」
この時の為に用意したゴーレムブロッカーに手応えはあった。彼女は敵の攻撃を盾で受け止めると恐獣の足元を狙って斬り付けた。
「ジャクリーン殿、前、東から来るっ!」
「はいッ!!」
ティラが叫ぶと同時にジャクリーンはゴーレム弓を構える。大きな弓から放たれた矢は勢いよく宙を駆け、フォーリィら騎兵隊を脇から崩そうと襲い掛かる恐獣の首にグサリと刺さった。奇声を上げてデイノニクスが地に倒れ、カオスニアンは投げ出された。
フォーリィはゴーレムに見えるように大きく手を振ると、赤茶に塗られた石壁の施設から飛び出してくる賊たちを次々と捕縛した。
**
一方、瞬く間に恐獣部隊を粉砕したオルトロス隊はグライダー隊と連絡を取りながら入り江付近の武装施設の破壊に当たった。デイノニクスはタフな金属ゴーレムの敵では無かったようである。
フロートシップの発着場が島内に隠されているのではとエルシードらは懸命に索敵を行なったが、それらしい場所は見当たらず、当のフロートシップも姿を見せなかった。
恐らく『それ』はバラドゥールの所有物ではなく、スポンサー側の乗り物ではないかと琢磨は推察した。
「これほど脆いものだとは‥‥」
ハルバードを打ち下ろす度にあっけなく潰れてゆく木製の大砲を見てリューズは少しばかり感傷的になった。恐ろしいのは兵器ではなく扱う人なのだと彼女は思う。
クースフは斧、グレナムは剣で逃げ惑う海賊どもを南へ追い立てながら、施設を破壊し続けた。
又、敵のゴーレムシップは果敢に交戦するも、2隻の船とその後方に蒼きパピヨンが控えている状況では身動きが取れず、退路を確保出来ずに遂に降参した。
「逃さぬ事が最優先だったな」
ゴーレムシップの脇をすり抜けて出ようとする小船の前に、グレナムは腕を伸ばして剣を突き立てる。
海面を割る高波に揉まれて船が転覆しようとするのをジャクリーンのモナルコスが拾い上げた。
「こちらには火矢もあります!」
「火炎瓶だって用意したんだから、もう逃げられないぜっ」
火打石を忘れた響だったが、それは兎も角。 空からのシルビアの脅しが効いたのか、入り江を出ようとした小船は速やかに陸へ引き返し、船から上がってくる賊たちをゴーレムと騎兵が取り囲んだ。
「逃げたら踏み潰す!」
ティラが大きく足を踏み鳴らすと賊はその場から一歩も動けなくなってしまった。
又、島の東側に網を張ったエルシードはアリオスと共に帆船で逃亡を謀った残存勢力を追撃、粉砕。
ほぼ島を攻略し終えたと判断したカフカは、ダロベルを降下。フォーリィは戦闘の間中偵察に飛ばしていたイーグルドラゴンパピーを呼び寄せて労った。
●捕縛
「アリオスっ?」
「悪い。手が滑った」
縄を掛けられ雁首を揃えて座らされたバラドゥールの一味の中から見知った顔の男を見つけると、アリオスは唐突にその横っ面を張り倒した。
その男はかつて双子島で蒼きパピヨンの少年イブシを斬り付けた輩の一人だった。
「さて、姉島でご老体に矢を射掛けた奴は誰かな」
殺気を帯びたアリオスの態度に流石の賊どもも震え上がったが、そこはカフカが制した。
「頭領は誰だ」
カフカの問いを賊は無視した。が、
「‥‥多分、あの男じゃないかな」
琢磨から事前に親玉の特徴を聞いていたフォーリィが指差す先を提督は見詰めた。そこには薄い口髭を蓄えた如何にも残忍そうな男が不敵な笑みを浮かべていた。
「貴様たちはバの誰の命で動いている?」
「巻物なら此処にはないぜ」
「!」
「どういう意味だっ!」
「まさかすでにバに‥‥!」
冒険者たちの間に不安が広がった。だが、カフカは金髪の巻き毛を揺らしながら平然と答えた。
「その言葉をこの場で真に受ける気は無い。話なら道中ゆっくりと聞けるだろう。騎士団も手厚く貴様たちを迎えてやる」
海賊たちは追い立てられるようにしてゴーレムシップに乗せられた。
空になった敵の中央施設を捜索したいと言って、琢磨は数人の騎兵を借りると蒼きパピヨンと共に暫くの間島に留まった。
ダロベルが飛び立つ前に、琢磨は飲料水を取りに行きがてらフォーリィに声を掛けた。
「今回も無事で良かった。全く毎回冷や冷やさせられるよ」
「大丈夫に決まってるでしょ? あたしを誰だと思ってんの」
「そりゃそうだけど」
予想通りの答えに琢磨は苦笑する。そしてこの一件が片付いたら貴族街で食事をしようと誘った。
「別に他意はないぜ。他意はっ」
「あったり前でしょ!!」
そんな二人の様子を仲間たちは楽しげに観察する。大切な人が待っていてくれると思えば、数倍の力が湧くのが戦士というものである。
「いいなー。ちょっとアリオス、あたしたちも食事行きましょうよ」
「へ? 俺たち?」
「いいじゃない、歳近いんだし」
そういう問題かと思いながらも、エルシードの誘いにアリオスは頷く。まあ、面倒になれば全員誘って酒場に雪崩れ込めば良い。
それは束の間の休息であった。文字通り束の間の――。