眠れる魔剣〜罪なる翼
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■シリーズシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月04日〜09月10日
リプレイ公開日:2007年09月09日
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●オープニング
マオを救出して後、つまり王宮が阿修羅の剣の本体を確保してから幾日かが過ぎた頃、蒼きパピヨンの若親分ダグは血相を変えて王都にいる海戦騎士団提督カフカ・ネールの元を訪れた。アンビリヨン島の入り江にバの国のものと思われるゴーレムシップが停泊しているのを、手下の者が発見したのだ。ダグはバラドゥールが再び武装し始めた事を伝える為に飛んで来たのだが、カフカはすでにその事を知っていた。彼はダグを客間に通し丁重に礼を述べてから、給仕が運んできたワインの栓を開けて香り高いその酒を男に勧めた。ダグの目にはカフカがすでに少し酔っている風に映っていた。
「ゴーレムシップだけじゃあない。フロートシップも入ってるらしいぞ。しかも大層な手土産を抱えてね」
「そいつは、マオの代わりに残ったという例の天界人からの情報か」
「そうだ。とりあえず今の所彼は生きている。今の所はな」
そう言葉を切ってからカフカはテーブルに転がっているオレンジ色の果物を片手で拾い上げては、暫くの間それを掌の上で弄んだ。
「おい、そういうのはあまり行儀の良い酔い方じゃねーな‥‥」
大柄の海の男は日に焼けた腕をぬっと差し出して、カフカが手の中で握り潰しかけた果物を取り上げた。オレンジ色の果実から甘酸っぱい香りが部屋中に立ち込める。
「敵が大っぴらに武装するなら好都合じゃねーか。こっちも同じようにゴーレムとやらをじゃんじゃん出せばいいんだろ? なあに、剣の事なら心配いらねえ。その小僧の身柄を確保したなら俺たちが総出で打って出て、魔物から剣を奪ってやろーじゃねーか。‥‥ああ、誰もあの島からは生きて帰さねえ。バラドゥールも魔物もカオス兵も、みんな纏めて俺たち蒼きパピヨンが片付けてやるから心配すんなって!」
若親分はそう言って、わざとらしく豪快に笑って見せた。いや、大事な仲間を殺された上、愛娘にまで手を出されたのだ。『敵は一人も生きて帰さない』とは恐らく彼の本音だろう。
だが、カフカは憂鬱そうな顔で酒を煽り続ける。その様子は明らかにいつもの凛とした金髪の貴公子の姿とはかけ離れていた。
「俺たち海賊が信用出来ないのか? なら、そうとはっきり言ってくれ! 無視されるのは一番腹が立つぜっ」
「そうじゃないっ!」
「‥‥?」
「すまない‥‥ダグ、そうじゃない。腹が立つのは自分にだ」
「どういう意味だ?」
「阿修羅の剣は城から持ち出せない。我々は偽の剣を持って取引に応じる」
「なんだってぇ? そんな事をして、もし敵にばれたら‥‥」
「即、戦闘だ」
「じゃあ人質はどうなる? 人質を返してもらう前にもし剣が偽物だと知れたら?」
答えるまでも無いだろうという風に、カフカは眉間に皺を寄せながら瞳を閉じた。
「そんな‥‥あの小僧は俺たちが助けに行くのを待ってるんじゃないのか」
「琢磨は知ってる。こうなる事をあいつは初めから察していた――王宮が一度手に入れた魔剣を手放すわけは無いとね。だから無理を承知でマオさんの奪還作戦を私に申し出たのだ」
「マオを助ける為にか! あんたはそれを承知で琢磨を‥‥っ」
「私も出来る限りの手は尽くしたっ!! 王宮に剣の持ち出しを何度も嘆願した。人の命が掛かっているのだと! だが‥‥っ!」
人の命が掛かっている。そうだ、琢磨はこうも言っていた。阿修羅の剣よりも目の前にいる仲間が大事だと。命――彼はその尊さを誰よりもよく知っているのだ。恐らくはこの城の中にいる他の誰よりも。
「ふーん。俺らは国に仕える騎士じゃねえ。俺たちは俺たちの流儀でやらせてもらう」
「ダグ!」
「心配すんな。偽の剣の話は聞かなかった事にしてやる。俺もいい年をした大人だから、貴族であるあんたの立場も分からないわけじゃねえ。だが、めそめそしてる暇があるなら真剣に、自分がどう動くべきかもう一度考えろ。失ってしまってからじゃ間に合わんぞ。蒼き蝶はいつだってあんたに協力してやる。王宮じゃなく、盟友カフカ・ネールにな」
ダグはそう言って部屋を出た。扉を閉める前に、ワインは大層上手かったとだけ友に伝えた。
そうして静かになった広い客間でカフカは考える。先の依頼の報告によると魔物は自分の手で魔剣に触れる事で、それが本物か否かを見極められる。その間魔物は剣に意識を集中せざるを得ないし、あるいは判断するのに多少の時間を要するかもしれない。周囲にいる賊も当然その成り行きに注目するに違いない。であれば、琢磨を助ける事が出来るのはその機をおいて他には無いとカフカは思った。
それにしても、なぜ敵はこの局面でゴーレム兵器まで持ち出すのだろうか。当然こちらもゴーレムで対抗する事になるわけが、たかが剣一つにこれではまるで茶番だと彼は思う。
そして彼はふと心に浮かんだ言葉を口に出した。
「魔物は我らが互いに憎み争い、血を流し合う姿を見たいのか‥‥」
魔物を護送したゴーレムシップでの惨劇がカフカの脳裏を過ぎる。バの恐獣部隊も脅威ではあるが、それとは違う空恐ろしさをカフカはこの時感じていた。
■依頼内容:アンビリオン島での人質交換において偽の魔剣で魔物を欺き、人質を奪還、敵を殲滅(あるいは撃退)する。
・琢磨がチャームを使って賊から聞き出した情報によれば、全滅した恐獣部隊に変えて今回はバのゴーレム、バグナが3騎島に配備されている。また、敵のフロートシップにはバの金属ゴーレムらしきものも搭載されているらしい。
・魔物は身の丈が2m以上あるりりしい大男で、普段は物腰も穏やかだが、彼を怒らせた賊は一瞬のうちに炎に焼かれたという。
・赤い髪をした美形の優男や黒髪の美人魔術師、浅黒い肌の美少女は島にはいないらしい。
・『阿修羅の剣(偽物)』は提督カフカ自らが持って取引場所に向かうので、もし可能であれば冒険者にも供を願いたい。
↑北側:丘陵
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□/敵施設
仝/木々
∴/平地
┃/木の柵
●/バグナ
▲/取引場所
【敵兵力】
・バのフロートシップ
・金属ゴーレム(機種未確認)1騎
・バグナ 3騎
・魔物
・カオスニアン歩兵及び海賊少数
・グライダーについては未確認
【使用可能なゴーレム】
・強襲揚陸艦グレイファントム
・カークラン 1騎
・モナルコス 3騎
・ゴーレムグライダー 4騎
・チャリオット 1騎
・騎兵30
※金属ゴーレムはグレイファントム、それ以外はゴーレムシップにて島まで輸送する。
※蒼きパピヨンの加勢は可能。
●リプレイ本文
●取引
「例え琢磨さんの救出に失敗したとしても、生きて帰ってやるべき事がある立場だと言う事はどうか忘れないで下さいね」
ティラ・アスヴォルト(eb4561)はそう言って提督カフカ・ネールに吉光の毛衣と防火服を手渡した。魔物の炎攻撃から少しでも身を守る為の防具である。同様に彼の身を案じたシルビア・オルテーンシア(eb8174)もエクソシズム・コートを貸し出しており、カフカは状況に応じて着脱可能なようそれらを工夫して羽織った。
「ご心配召さるな。私は約束を違えるつもりはない。琢磨殿は必ず我らが助け出してみせる」
普段より幾分顔色が冴えないカフカを今度はリューズ・ザジ(eb4197)が励ました。すると、女性に心配を掛けるなど騎士の面目が立たないとカフカは苦笑し、そしていつものように背筋をピンと伸ばしてみせた。
ティラは更にバックパックの中から聖剣『シーグル』を取り出す(彼女は工房に頼んで聖剣に施された十字架の部分を誤魔化してもらった)。カフカはそれを受け取ると深く礼を述べて、王宮よりせしめた本物そっくりの『偽の鞘』の中にそれを収めた。
やがてグレナム・ファルゲン(eb4322)がチャリオットと騎兵の準備が整った事を告げにやって来ると、冒険者たちの間に緊張が走った。
「カオスの魔物共め、卑劣な手の借りを必ず返してくれる!」
「ここがいわゆる正念場っ、気合を入れていきますか!」
グレナムに続いてフォーリィ・クライト(eb0754)の勇ましい喝が飛び、やがて彼らは入り江から目的の敵施設を目指して移動を開始した。
**
現在入り江には海戦騎士団と蒼きパピヨンのゴーレムシップ2隻が停泊していた。敵フロートシップが現れた際、火力は多いに越した事は無い。冒険者はまずモナルコスをバグナの鼻面に布陣させ、グライダー2騎を上空に配置した。チャリオットと騎兵らはカフカを守るようにして囲いの前まで進軍し、策の前で待機。音無響(eb4482)は予め月魔法を施した上でグライダーを囲いの南側に着けて、自身は交渉に付き添う為カフカに合流した。又、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)はカークランに搭乗し、グレイファントムと共に入り江付近の上空で『その時』が来るのを待っていた。一方で、アリオス・エルスリード(ea0439)は艦が入り江に着いた時点から先行して単身島に上陸していた。インビジブルのスクロールを用いたならカオス兵や賊の目を欺くのは容易い事だ。彼は取引場所近くにある林の木々の中から最も射線が通るものを選んで登り、取引が開始されるのをじっと待った。
「今回は序盤からお出ましのようね」
モナルコスの制御胞の中から敵施設の上空に姿を現したフロートシップを睨んでエルシード・カペアドール(eb4395)が呟くと、クーフス・クディグレフ(eb7992)の乗るモナルコスも同じ空を見上げる。
「バグナも艦も捕獲してみせる。メイの国で奴らに好き勝手はさせん!」
「金属ゴーレム回収は良い儲けになるよ〜♪」
同じくモナルコスに搭乗していたティラはエルシードのこの言葉に思わず噴出しそうになったが、改めて気を引き締め直すと眼前で不敵に構えるバグナを見据えた。
すると、矢庭に施設の入口付近が騒がしくなる。いよいよ魔物のご登場だ。
●決戦
身の丈2mを越える長身の魔物はその容姿からして『罪なる翼』と呼ばれるものに間違いは無さそうだった。りりしい出立ちをした魔物が先頭に立って歩き、やがて囲いの中へと入ると、その後にカオスニアンの歩兵が数名続いた。その中には、両腕を後ろ手に縛られた上、乱暴に髪を引っ張られながらカオス兵に連れられて歩く黒髪の青年の姿がある。ぼろぼろに引き裂かれた衣服や血の痕から彼が賊から相応のリンチを加えられた事は明白であった。
「‥‥琢磨っ!」
「すまんね、お嬢さん。私は客人に手荒な事はするなと言っておいたんだが、彼も少々口の聞き方が悪かったようだ」
魔物が冷ややかな笑みを浮かべると、フォーリィは思わず剣に手を掛けたがカフカがそれを押し留めた。と、同時に響がカフカに思念で話し掛ける。
(琢磨くんは大丈夫です。合図の事は伝えたました。いつでもOKだそうですよ)
提督はちらりと琢磨の方を向き直り、敵の数を確認した上で魔物と交渉を開始した。
「剣と人質は同時交換よ。うちの親分が例の剣を差し出すから、人質も放して頂戴っ」
フォーリィが絶対に引かないという風に魔物の前に立ちはだかり、その脇からカフカが偽の阿修羅の剣を魔物に渡すと、魔物は注意深くその鞘を眺めた。
「もしこれが偽物だったら、どうなるか分かっていますね」
「本物だ」
カフカはきっぱりと言い放った。
魔物はゆっくりと剣の柄に手を伸ばし、恐る恐る柄を握り締めたその直後――。
ズズズゴゴゴォォ――――――――ォォォン!!
凄まじい爆音が天空に鳴り響き、巨大な火の玉が大地に堕ちて燃え立った。グレイファントムの精霊砲が火を噴いたのだ。
「ぐあっ」
「うぐ‥‥ッ」
と、同時に琢磨を取り巻いていたカオス兵の喉元や胸に矢が突き刺さる。
「アリオスさん!」
響は味方の支援を確認すると自らも剣を抜いて琢磨の縄を断った。そこへ白兵要員を乗せたグレナムのチャリオットが勇敢に敵を振り払いながら全速力で囲いを突破する。
「琢磨殿、今助けるッ!」
「よぉ〜し、琢磨は任せたっ!!」
それまで魔物の鼻先に剣を突き付けていたフォーリィがソードボンバーを繰り出そうとしたその瞬間、だが僅かに早く魔物の剣が鈍い光を放って空を割いた。フォーリィは咄嗟に身を翻す。
「こいつ‥‥ブラインドアタックをっ」
「私を見縊られては困るな」
魔物は偽の剣を投げ捨てると、今度は炎の息を吐いた。
炎の息――精霊砲の威力に勝るとも劣らないその業火は一瞬にして敵味方を纏めて飲み込んだ。炎は扇状に南に広がったので東西にいたゴーレムは巻き込まれなかったが、チャリオットや兵は相当の痛手を受けた。が幸いバグナが盾となった為、エルシードは直撃を免れた。だが‥‥。
「響殿! しっかりしろっ!」
グレナムも負傷を負ってはいたが、響は更に重傷であった。
「魔物はこっちで引き付ける! その間に負傷者を拾えっ!」
フレイムエリベイジョンとレジストファイヤーで体勢を整えたアリオスが林の中から駆け出すと、フォーリィも一気にポーションを飲み干し剣を構え直した。
業火の第二波を怖れた二人が魔物に果敢に攻撃を仕掛ける間に、リューズとシルビアのグライダーが琢磨らを回収、グレナムも熱さと痛みに耐えながらチャリオットを動かした。
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「敵味方の区別も無しとはなんと卑劣な!」
西のバグナに対峙したティラは怒りに任せてバグナの脚部へポイントアタックを炸裂させる。
「騎士としての誇りを捨て、あのような魔物に与する賊に遅れはとらん!!」
「こいつっ、言わせておけば!」
一方、挑発に乗せられた東のバグナが勇み足で踏み込んだ所をクーフスは余裕で受け流すと、狙いを定めて斧を振り下ろす。
「し、しまった‥‥っ」
盾を落したバグナの肩にクーフスの斧が音を立てて減り込んだと思うと、バグナは盾を拾い上げる事も叶わず片膝を着いて項垂れた。又、エルシードも炎のダメージで士気が下がった敵にすかさずダブルアタックをお見舞いし、これを撃破していた。モナルコス隊はこのまま一気に雑兵の殲滅に動いたが、その時敵のフロートシップが急速に地表に近づいたと思うと、囲い南側にカタパルトを使って金属ゴーレムを降ろした。
グレイファントムは直ちに敵フロートシップの頭上からバリスタと精霊砲をお見舞いしたが、敵はそれらを避けもせず、力づくでグレイファントムの船底を押し上げるべく突貫し、不意を付かれたグレイファントムは止む無く船体を一旦後方へ引いた。
「私が降ります! カタパルト、開けて下さいっ」
それまでは艦の甲板から援護射撃を行なっていたジャクリーンだったが、フロートシップ同士の本格的な空戦になれば甲板から地表の敵を狙うのは困難だ。
「カークラン、同郷の者同士力を合わせて頑張りましょう!」
グレイファントムが一気に高度を下げたのに合わせ、彼女は機体の性能を信じてカタパルトから急ぎ飛び降りた。敵の新手はゼロ・ベガである。機動力と戦闘力でモナルコスを上回るゼロ・ベガは、3騎のモナルコスを同時に押さえ込むべく剣を振るい、その間にバグナの操縦士らは機体を乗り捨て島の東へと駆けた。続いてカークランのゴーレム弓から繰り出された矢をまともに受けたゼロ・ベガは、狙撃手相手では分が悪いと悟ったのかモナルコスを引き摺り倒すと自分も東へと逃亡を始めた。
「逃がすもんですかっ!」
グレイファントムと共にグライダーで敵を追うシルビアとリューズが叫ぶ。
敵のフロートシップはゼロ・ベガを回収する為高度を下げ、同時にグライダーを数機出撃させた。バグナの操縦士らを拾うつもりなのだろう。グレイファントムは敵艦を撃ち落とすべく懸命に攻撃を掛けるが、結果、数の差でシルビアとリューズはグライダーを深追いする事は出来ず、敵艦は相当の痛手を受けながらも撃墜される事なく辛うじて島を去った。カークランに背を向けるの悔しかっただろうが、バグナの仇を討てた鎧騎士の心中は多少は晴れたかもしれない。(やられたクーフスたちは散々だったが)
一方、魔物は何らかの魔法を使ったのか、フォーリィらの攻撃がヒットするにも関わらず疲弊する事はなく、バ軍の撤退と同時にその姿をくらました。
●再会
「はぁ、全く騎士道も何もあったもんじゃないですね」
「あの大男、今度会ったら絶対ぶっ潰す!!」
剣の実力では自分が勝っているはずなのに、魔物を仕留め損ねたフォーリィの機嫌は相当悪かった。
「意気込むのもいいけど‥‥ちょっとは俺の事も心配しろよ」
「琢磨っ?」
いつの間に目を覚ましたのか、船室のベッドに横たわっていた琢磨が呟く。久しぶりに聞くその声に仲間たちは嬉しそうに微笑んだ。
「響は大丈夫か?」
「ああ、心配ない。時々、カオスのバカ野郎ー! とかうわ言で言ってるくらいだからな」
リューズは眠っている響の傍らに腰掛けて、優しい声でそう答えた。
「なんだ、相変わらずしぶといな、お前は」
部屋に入るなり琢磨と目が合ったアリオスは、手に持っていた酒をドンっとテーブルの上に置いた。
「これはかのアーサー王から下賜された一本だ。生還祝いに特別に振舞ってやる」
「アーサー王だぁ? 胡散臭いな」
「お前なあ!」
こんな調子だから痛い目をみるのだろうが、彼が魔物に操られなかったのは幸いだった。
ただし、琢磨が晴れてフォーリィとの約束を果たせるのは、怪我が癒えてからの事になる。
そして、若き提督カフカは多くの犠牲を出しながらも魔剣の確保に成功し、バラドゥールを討伐した。王宮はその功績を高く評価したが、カフカは複雑な思いでそれを受け止めていた。尤も、彼の心中を察する者は限られた者だけだったろう。
最後になったが、例の巻物の暗号文は阿修羅の剣にまつわるデータである事が判明した。これはカオスと戦う者に大きな助けとなるだろう。