【負の閃光】1の巻〜モナルコス制圧
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■シリーズシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月29日〜02月04日
リプレイ公開日:2008年02月05日
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●オープニング
情報通の冒険者の間ではすでに噂に上っていることではあるが、昨年より続いているメイとバの国との武力紛争を押し留めるべく、現在メイ・ジェト・バの三国の間で停戦に向けての交渉がにわかに執り行われている。
だが現実的にはこういった上層部の思惑に反して、リザベ領やサミアド砂漠周辺を中心としたメイとバの小競り合いは、今もなお執拗に続いていた。
そのような中、リザベ領の一角において河川の対岸に駐留するカオスニアン恐獣部隊を牽制すべく派遣されていた騎士団のベースキャンプで、ある異変が起きた。
当初、騎士団はモナルコス2騎をもって川向こうの敵の動向に睨みを効かせ、両岸を結ぶ橋の手前に堅固なバリケードを築いた。
しかし、のちに敵恐獣部隊に後方部隊からの増援が確認されると、河川東方の集落に被害が及ぶのを懸念した隊長は、すぐさま王宮に援軍を要請。王宮はこれを受理して、現地にゴーレム部隊を向かわせた。だが、この増援部隊がこともあろうに味方を背後から攻撃、隊長以下逆らうものを全て拘束し、部隊の指揮権を剥奪、彼らがせっかく築いたバリケードも全て自分たちの手で撤去してしまった。
この反乱部隊は十分な兵糧があるにもかかわらず、付近の集落から食糧を奪い、数名の村人を兵舎に引き入れて、身の回りの世話までやらせているという。
まさにそこいらの野盗となんら変わらない、堕落しきったこの部隊を即刻制圧するため、王宮は冒険者ギルドに依頼を発した。
ただし、今回は騎士団より正規の指揮官をつけない。
傭兵である冒険者に作戦の全権をゆだねるものとし、可能であればヘルメス卿以下の反乱兵士を捕縛。もし彼らがあくまでも抵抗した場合は、反逆罪で成敗も止む無しとのことである。
情報を整理すると、先に駐留していた部隊の構成は
モナルコス 2騎
騎士(鎧騎士含む)6名 隊長は騎士侯オークランド卿
兵士20名
援軍に向かったゴーレム部隊の構成は
モナルコス 3騎
騎士(鎧騎士含む)8名 隊長は騎士侯ヘルメス卿
兵士10名
なお、彼らが使用している兵舎だが、もともとは村人たちが集会所として使っていた建物を、急場で増改築したものらしい。
この主要兵舎のほかに見張り櫓として、川沿いの西方、見晴らしの良い場所に小さめの宿営を設けている。
ヘルメス卿を隊長とした反乱部隊は合計モナルコス5騎を所有した事になり、オークランド卿に従う騎士は卿ともども監禁あるいは拘束されている可能性が高いが、兵士20名については、ヘルメス卿の指揮のもとでバリケードの撤去作業をさせられていたとの、村人からの報告も上がっている。
また、対岸のカオス兵恐獣部隊はこの様子を静観中のようだが、この先どう行動を起こすかは不明。
なにしろ邪魔だったバリケードはすでに外されているのだから、容易に攻め入ることも可能だろう。
もっと詳しい現地の情報を入手したいところだが、カオス兵たちがそれを大人しく待っていてくれるとは限らない。
以上のように大変厳しい状況ではあるが、なんとか事態を収拾できるよう最善を尽くして頂きたい。
■ 依頼目的:反乱を起こしたヘルメス卿率いるゴーレム部隊をすみやかに制圧すること。村人には極力被害を出さないこと。
【使用可能なゴーレム】
モナルコス 5騎(この場合は輸送艦1隻)
※5騎まで、NPC鎧騎士の対応が可能です。
※冒険者の状況に応じて以下を追加可能とする
モナルコス 5騎まで
アルメリア 2騎まで
ゴーレム輸送艦 2隻まで
※騎士団の騎兵・歩兵が必要な場合、妥当な数を含めて申請のこと(最大枠30人まで)
※現地へは輸送艦に同乗、あるいは馬、馬車などの陸路で移動
↑北
仝〃〃〃〃〃〃〃〃……〃〃〃〃岩岩仝仝仝仝
仝〃凹凹〃〃〃橋橋橋〃〃〃∴∴岩岩∴∴仝仝
〃〃〃〃〃…………〃〃∴∴岩岩∴∴∴∴仝仝
〃〃〃…………〃〃∴∴∴岩岩∴凸凸B∴∴仝
〃〃……〃〃∴∴∴∴岩岩∴∴凸凸∴∴∴∴∴
………〃〃∴∴∴∴岩岩岩岩∴∴∴∴∴∴∴∴
…〃〃∴∴∴∴∴∴∴∴∴岩岩∴∴∴∴∴∴∴
〃〃〃∴∴∴∴A∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
〃岩岩∴岩岩凸凸∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
∴∴岩岩岩岩∴∴∴∴∴岩岩∴∴∴∴∴∴■∴
∴仝仝∴岩岩∴∴∴∴岩岩∴仝仝∴∴∴■■■
仝仝∴岩岩∴∴∴∴岩岩∴仝仝仝仝∴■■■∴
∴∴岩岩仝仝∴∴∴∴∴仝仝仝仝仝仝∴∴■■
凹/カオス恐獣部隊駐屯所
…/川
〃/河原
∴/平地
岩/岩場
仝/木々
凸/見張り櫓A・兵舎B
■/集落
●リプレイ本文
●現地入り
「ざっと話すとこんな感じだ。まあ、ヘルメス卿もオークランド卿も王宮から将来を期待されている有能な騎士で、今回の事件との因果関係は今の所見つからないな」
モナルコスを積んだ輸送艦を敵に見つからないように村の後方へ着けると、冒険者一行は村長に断りを入れてから村外れの空き家に集まった。
事件の関係者の経歴などを簡単に説明した後、琢磨が要点をまとめる。
「彼らに問題がないとすると、やはりカオスの魔物が絡んでいる可能性が高いのかな」
と、風烈(ea1587)。
「偵察に向かう者へ『石の中の蝶』を貸し出そう。どこまで反応するかはわからんが無いよりましだろう」
そう言って魔法のアイテムを差し出すのはバルザー・グレイ(eb4244)だった。
それを、日暮れから兵舎の偵察に向かうアリオス・エルスリード(ea0439)が受け取った。
「ともかく理由がわからない以上、多少強引だが夜襲で一気に決着を付ける方がいいだろう。ぐずぐずしていて、カオス兵に動かれると被害が増すばかりだ」
「首謀者をとっ捕まえて吐かせるのが、早くて確実だしな」
アリオスの提案に、ランディ・マクファーレン(ea1702)も賛同する。
「夜襲はいい案だな。ちょっと調べてみたんだけど、これまで恐獣部隊が夜襲を掛けてきた例は極めて少ないんだ。恐獣ってのはもともと昼行性だし、麻薬を使うとはいえ、夜に奴らを動かすのはそれなりに骨が折れるのかもしれない」
「なるほど。では、夜間の大物としてはゴーレムに的を絞ればよいのでゴザルな」
琢磨の説明を受けて、服部肝臓(eb1388)が頷く。
「制圧任務なんだから、ゴーレムは多少壊しちゃってもいいよね♪」
と、なぜか嬉しそうにエイジス・レーヴァティン(ea9907)。
「なあ‥‥狂化したハーフエルフに『加減』とかできんのか?」
「俺に聞くな‥‥」
アリオスに尋ねてみたものの、明確な答えは返ってこなかったので、ほどほどにと琢磨が促す。
「琢磨さん、投降してくる兵士たちに穏便な対応を取ってもらうことは出来るだろうか」
やや不安顔で烈が尋ねる。出来れば無用な殺生は避けたいのだろう。
「うん。取調べにきちんと応じてくれたら、恩赦もあると思う。今の所村人に人的被害も出てないようだし‥‥」
烈が納得すると、後に控えていたクーフス・クディグレフ(eb7992)とフォーリィ・クライト(eb0754)が声を上げる。
「俺は騎士団と共にモナルコスで待機することになるが、ともあれ電撃作戦を成功させるためにも状況の把握を第一に」
「あたしも隠密行動とか苦手だから、得意な人に任せるけど‥‥よろしくねっ」
「では、私が殿についてアリオスさんと肝臓さんの三人で偵察に出ましょう。まずは人質の居場所を確かめないと」
「それにゴーレム駐機場、そして指揮官の指揮所を特定するでゴザル」
ファング・ダイモス(ea7482)に続いて肝臓、アリオスが偵察の段取りを取り纏め、冒険者は一旦解散した。
●情報整理
偵察部隊が無事空き家に戻ったところで、再び夜襲についての相談。
だが、兵舎から戻った肝臓たちの様子が変だ。
「なんというか‥‥みな規律正しい騎士たちだったでゴザル」
「どういうことだ?」
烈の問い掛けに三人が眉を顰めた。
「少なくともギルドに報告があったような野盗まがいの堕落した‥‥というのは間違いだな。オークランド以下騎士は皆一室に監禁されているが、無体な扱いを受けている様子はないし、なにより屋内にいる村人が怯えていない」
「進んで食糧を届けている感じなのです。兵士の労をねぎらうように」
アリオスやファングの動揺が冒険者たちも伝わった。だが、事を早く収拾しなければ川向こうのカオス兵の動きが気になる。
「石の中の蝶の反応はどうだ」
ランディが尋ねるとアリオスが更に眉間に皺を寄せて答えた。
「大有りだ。だが‥‥」
「絶えず反応していたので、個を特定できないでゴザルよ」
「複数いるかもしれないってことか」
珍しくエイジスが小さく溜息を漏らす。
確かにこれがアイテムの限界だ。だが、魔物が絡んでいるという確証が得られただけでも有効だった。
「兵士たちはまたバリケードを組み始めたみたいだぜ。なんでも、前のは基盤の板がもろかったからヘルメスの命で再構築が提案されたんだと」
と、そこに村へ調査に入っていた琢磨が戻ってきた。
「王宮に届けられた情報と現地の情報が一致していない‥‥俺はこっちの線が気になるから、もう少し調べてみる。皆は夜襲を決行してくれ」
「ちょっと琢磨っ、怪しいって思うなら、ひとりで動くのはマズイわよ!」
相棒を心配してフォーリィが怒鳴ったが、琢磨は引かない。鼻がきく記者はこれだから困るのだ。
「やれやれ‥‥止めてもきかぬ御仁だ」
バルザーはバックパックから幾つかの魔法アイテムを取り出し、琢磨に預けた。
「まぁ、両方とも保険程度のものだし無理はせんようにな」
バルザーに礼を言い、騎士団の歩兵に同行してもらうと約束して琢磨は再び村に向かう。
そして、冒険者たちも緊張した面持ちで夜襲の準備に取り掛かった。
●夜襲決行
「何者だっ、貴様たち!」
「俺たちは王宮の命を受けて来た者だ。オークランド卿を解放してもらいたい」
「ば、ばかなっ! 王宮がそのような命を下すはずがないっ」
「本当でゴザル。ここは一先ず拙者らに従って欲しいでゴザルっ!」
騎士たちが監禁されている部屋の前で烈と肝臓が守衛の兵を取り押さえ、オークランド卿らを無事開放した。
兵舎の村人たちは、彼らが到着する以前にすでに家に戻ったようで、烈と肝臓は卿とともに屋内にいるヘルメス一派の制圧を進めていった。
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一方、フォーリィ、エイジスとファングの三名はゴーレム部隊の制圧に向かう。
「エイジスと組むの久々ねー!」
「うん、楽して勝つために、コソコソと頑張らなくちゃねっ」
意気揚々のハーフエルフふたりの後に大柄なファングが続く。
ゴーレムの見張りに立っていたふたりの兵士を手際よく倒すと、エイジスはさっそくモナルコスの足をバーストアタックで壊し始めた。
異様な物音を聞きつけて現れる騎士たちを、フォーリィとファングが次々に取り押さえる。
「大人しく降伏して下さい! 我らは王宮から使わされた冒険者です!」
「王宮からだとっ?!」
ファングの説得もあって騎士はひとまず剣を納める。だが、一度狂化したハーフエルフの勢いは止まらず、結局3騎のモナルコスの足が壊された。
**
「まさかあのオークランド卿が‥‥」
「いや、卿と決まったわけではない。配下の騎士かもしれんのだ」
「ともかく、疑いのある者にゴーレムを任せることは断じてできぬ。我らだけで敵を牽制するのだ!」
兵舎の中の一室で声高に叫ぶヘルメスに、部屋にいた三人の騎士が頷いた。
と、そこへアリオスとランディが強襲をかけた。外ではランディが指示を与えた騎兵20名余りがすでに兵舎を取り囲み、雑兵を押さえにかかっている。
「あんたらが何を考えてこんな暴挙に出たのか、訊きたい事は山程ある。ここで大人しく捕らわれてくれると助かるが、如何に」
「なんだとっ、暴挙とは聞き捨てならん!」
ランディの警告に血気にはやった騎士のひとりが剣をぬいたが、その手をアリオスの矢が射抜く。
「俺たちはギルドの依頼でここへきた。ゴーレムはすでに仲間が押さえているし、ここも騎士団に囲まれている。夜があけてカオス兵が動き出す前に、お前たちを捕縛する」
「隊長ッ!」
騎士たちがヘルメスの命を仰ぐと同時に、彼らに追いついたオークランド卿が部屋に入ってきた。
「ヘルメス卿。貴様の悪行もここまでだ」
「なにを‥‥グフッ‥‥っ!!」
オークランドはヘルメスが腰に下げていた剣を引き抜くと、見事な剣さばきで鮮やかに男の身体を裂いた。
「ヘルメス卿っ!」
アリオスが血みどろの騎士侯に駆け寄ったが、ヘルメスの息はすでにない。
「貴様っ、いきなり斬りつけるとは卑怯な‥‥っ」
「フン‥‥冒険者ふぜいが何を言うか」
オークランドは部屋の中で震え上がっている騎士の面をゆっくり見渡してから、余裕の笑みを浮かべて言った。
「王宮の要請で来たと言うが、見たところ指揮官クラスの騎士侯は同行していないようだ。であるならば、この場の最高責任者はこのオークランドである。ヘルメス卿は根拠なく我らを拘束し、貴重なゴーレムを奪った。これは反逆罪に他ならない」
ランディが悔しそうに奥歯を噛んだ。
「冒険者諸君はよくやってくれたよ。おかげでヘルメス率いる反乱部隊を制圧できたのだ。王宮からたんまりと謝礼をもらうがよかろう。ご苦労である。下がってよし」
オークランドが冒険者に背を向け、残った騎士に指示を与え始めると、アリオスたちはこの場を退くより他なかった。
蝶は相変わらず羽ばたき続けていた。
**
「そろそろ片が着く頃だろか」
兵舎や川向こうのカオス兵の動向に注意しながら、モナルコスに騎乗したクーフスがバルザーに話しかけた。
「そうだな、潜入してからかなり時間が経っている。兵舎の方は無事制圧できたのではないかな」
「しかし‥‥我々は現地で何が起きているのか、本当に知っているのだろうか」
不安げに呟くクーフスにバルザーが答えた。
「確かに今回は情報不足だった。だが、いかなる状況であれ、我らは出来る事をやるしかないだろう」
「確かにな」
小さくクーフスが答えた。
男ならば生きて汚名を雪ぐべし――だがクーフスの思いに反して、ヘルメスは汚名を雪ぐことなく散った。
●朝
「琢磨が戻ってないですってぇ――!」
朝一番にフォーリィの声が村外れの一角に轟いた。
朝になっても琢磨は戻らず、村長の家の近くにバルザーが預けたアイテムが落ちていたという。
「あいつのテレパシーは広範囲に効くはずだ。今だ連絡がないということは‥‥」
「変なこと言わないでッッ!!」
激怒したフォーリィに首を絞められたのが誰かはさておき。
ヘルメスを助けそこねたことでランディはやや塞いでいたが、もしあの場を凌げても、恐らくは指揮権を奪い返したオークランドの手によって朝には処刑されただろうと仲間たちは推測した。彼はヘルメスを生かすつもりなど毛頭なかったからだ。
行方知れずの歩兵と琢磨が戻らないまま出発の時刻を迎えた冒険者は、止む無く現地を後にした。
そうして、この事件はいくつかの謎を残したまま次の展開を迎えることになる。