【負の閃光5】〜クレナ島決戦

■シリーズシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月10日

リプレイ公開日:2008年09月16日

●オープニング

 バ軍がアビスを前面に押し出してクレナ島への上陸作戦を開始したのを受け、王宮はヴォルケイドドラグーン1騎をクレナ島へ出陣させることを決めた。
 バの国から海を渡ってきた敵軍は、輸送に手間がかかる恐獣部隊を主力にはおかず、かわってゼロ・ベガなどのゴーレムを主力に持ってきた。彼らはアビスが切り崩した城塞の一角にフロートシップを着けて、ゴーレム部隊を展開。
 危機を察した王宮はオルトロス級、アルメリアを含むゴーレム部隊を、急ぎクレナ島の城塞に布陣させることも決定した。

 だが、先の依頼に参加した冒険者たちによって、カフカとKBCは『クレナ島のアビスは陽動で、別働隊がクテイス岬を突破してティトルの首都へ向かう』という情報を入手している。
 オークランド卿はこの別働隊を潰してティトル侵攻を阻止し、手柄を立てようとの目算のようだ。
 加えて、わざわざカフカと縁の深いジイド卿を己の指揮下におく理由も気になる。
 偽の村人たちの証言に乗せられて謀反人にされたヘルメス卿、カフカを暗殺するよう仕向けられたロミオの例もあり、魔物か否か、正体の掴めないオークランドの副官ユリシーズがこの状況をどう利用してくるのか、予断はならない。
 そこでカフカは、『クレナ島上陸作戦阻止に参戦する部隊』と『クテイス岬を守るオークランド卿率いるゴーレムシップ部隊』の両方へ冒険者を派遣することにした。

「オークランド卿、それでは私めの船を先頭に、そのうしろに一隻おいて、卿の船をもっともティトルに近い側へ配備してください。バのゴーレムシップなど、私が撃破してご覧にいれますが、もし万一の場合は、ティトル港に布陣しておられるネール卿へ援軍を要請し、必ずやティトルの防衛を」
「承知している。ジイド卿が我が隊におられればまさに百人力だ。バの別働隊など、ルラの海の藻屑にしてくれる」
 クレナ島城塞で十分な補給を終え、クテイス岬にゴーレムシップを着けたのち、岬に設置した陣営に落ち着いたオークランドとジイドが細かな作戦を練り始めたところへ、副官ユリシーズが入室する。
「よろしければ私めをジイド卿の船にお乗せくださいませ。航海術は多少会得しているものの、私は海戦の経験が浅い。さほどお役にはたちませんが、ぜひジイド卿のお傍で働きたく存じます」
「わ、私は構わんが」
 ジイドが慌ててオークランドを見る。オークランドは少し驚いた顔をみせたが、信頼している副官の申し出を彼は快く承諾した。
「では、ユリシーズをジイド卿の船に同乗させるとして、今回こちらにも冒険者が回されるようです。別働隊となれば敵の精鋭部隊の可能性もある。接近戦になって甲板で白兵戦ともなれば、腕のたつ者が多い方がいいでしょう。彼らも乗せてはいかがですか」
「いえ、司令官はオークランド卿です。どうぞ閣下のお傍に」
 ジイド卿の進言を、オークランドは小さく笑って退けた。
「私の傍には騎士団の優秀な騎士が何人もおります。冒険者ごときの手は借りません」
 そうだった。彼はガチガチの保守派で、よそ者や傭兵をひどく嫌うのだ。
 ジイド卿は厚く礼を述べ、3人は海図を広げて再び論議に入った。

 なお、クレナ島の司令官にはカフカの叔父にあたるルネ・シェバリエ卿が選ばれており、ゴーレム部隊に関しては騎士団の鎧騎士よりも冒険者にその指揮権が優先されるものとする。
 ルネは作戦中、フロートシップより全軍の指揮系統を統括する。

 最後に、クレナ島に前回姿を見せた魔物については、見つけ次第退治すること。
 魔物は剣豪で、その上飛行能力があるようなので、注意が必要である。


■依頼内容:クレナ島城塞に布陣し、飛行型ゴーレムアビス2騎を倒し、バ軍を退ける。また、同時にクテイス岬の守りにつくジイド卿のゴーレムシップに乗船。バ軍のゴーレムシップで編成された別働隊を封じること。
 よって、冒険者は担当を最低一名以上、クテイス岬とクレナ島に振り分けることが必須となる。


【上陸中の敵兵力】
●クレナ島
 アビス  2騎
 ゼロ・ベガ 1騎(隊長騎)
 バグナ  10騎程度
 グライダー 5騎程度

●クテイス岬
 ゴーレムシップ 3隻(ユリシーズの情報より)


【味方兵力】
●クレナ島  司令官シェバリエ卿
 ダロベル(デロベ級2番艦)1隻(ルネ・シェバリエが乗船)
 
 ヴォルケイドドラグーン 1騎
 オルトロス 2騎
 アルメリア 1騎
 モナルコス 10騎まで
 グライダー 5騎まで
※NPC鎧騎士使用可能(専門レベルまで)


●クテイス岬 司令官オークランド卿
 ゴーレムシップ 3隻

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●序
「なんだかいろいろややこしいことになってるけど、戦いに負けちゃったらお話にならないから、とりあえず敵さんはやっつけとこう!」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)が開口一番にニコニコ笑顔でそう言った。
 戦地で二手に分かれてしまうこともあり、 冒険者たちは出航前に密かに集まって簡単な打ち合わせを行っているようだ。

「敵軍だけでもアビスとかいて厄介なのに、ユリシーズの陰謀やら得体の知れない魔物の出現にまで気をつけないといけないなんて、そうとうめんどくさい状況になってるね」
 と続けてエイジス。
「だが、内部にいるカオスの魔物はどうにかしておかなければならないだろう。ということで、俺はクテイス岬の方に行くことにする」
「俺もユリシーズの監視とジイド卿の護衛を兼ねて岬へ行こう」
 敵兵力の撃退に専念するというエイジスに続いてアリオス・エルスリード(ea0439)と風烈(ea1587)がクテイス岬へ名乗りを上げる。
「それなら、これをジイド卿と弓兵に渡して頂けませんか。『お守り程度ですが、ご武運を』と」
「ああ、承知した」
 イェーガー・ラタイン(ea6382)が烈に渡したのは銀矢だった。魔物には通常の武器は通じない。
「軍の上層部に食い込もうとするカオスの魔物を放置しては、後の最大の禍根となる。ロミオさんの件もありますし、敵がシェバリエ卿を狙っても対応出来るよう、私はダロベルの警備に付きましょう」
 イェーガーとファング・ダイモス(ea7482)がダロベルに乗り込むことになり、シュバルツ・バルト(eb4155)、バルザー・グレイ(eb4244)とクーフス・クディグレフ(eb7992)がクレナ島城塞のゴーレム部隊に合流する。ドラグーンを駆るのはシュバルツと決まった。
「クレナ島は陽動かもしれないが、俺達は自らの役目を果たすだけだ」
 と、クーフスがバグナ隊殲滅に静かな闘志を燃やす。
「我らはオルトロスに搭乗するゆえ、アルメリアに騎士団から弓鎧騎士を派遣して頂かねば。司令官殿とはくれぐれも協議を重ねておくこととしよう」
「私からはマジッククリスタルをグライダー隊隊長に渡しておきます。彼らならきっと役立ててくれるでしょう」
 それぞれに担う役割は違っても、目的は同じなのだ。
 冒険者たちは十分な準備を整え、互いの武運を祈りつつ戦場へと向かっていった。

●城塞
「アビス、前方から来ます!」
 ダロベルの船内に緊張が走る。眼下ではすでにゼロ・ベガ率いるバグナ隊とオルトロス率いるモナルコスの部隊が激しい戦闘を繰り広げていた。
「船に近づけるな! バリスタ照準、撃てぇ――――ッッ!!!」
 弾幕を張らんとするイェーガーの声が高らかに響いた。ファングは魔物の襲来を警戒してブリッジでシェバリエ卿の護衛に付いている。石の中の蝶はアビスが接近するにつれて微妙に羽ばたいた。
 やがて、アビス2騎のうちの1騎が地上へ向かうも、残りの1騎はダロベルを狙って船の周りをしつこく旋回する。
 甲板に出たアルメリアの放つ太い矢がアビスの装甲に亀裂を入れたが、その上空から敵グライダーに砲弾を落とされて、思うようには攻撃させてはもらえない。すると、ドラグーンに乗ったシュバルツの声が風信器から届いた。
「ダロベルの援護に上がります! オルトロス、下にいるアビスを頼みますッ!」
「「承知!!」」
 敵隊長機ゼロ・ベガの抑えをクーフスに任せ、モナルコス隊と共にバグナ隊の脚を尽く打ち砕いていたバルザーが地上に舞い降りたアビスを睨む。
「どこまでやれるかわからんが、こちらとて最新鋭のカッパーゴーレム。翼はなくとも力量では断じて引けを取らんはず!」
 剣を振りかざして気合とともにアビスに立ち向かうオルトロスに、モナルコスも援護に入った。
 実際に、アビスは飛行能力を除けば通常の人型ゴーレムと大差はなかった。稼動時間が短いことが短所でさえもある。
 バルザーがアビスと対で刃を交え始めたのを見て、クーフスも更にゼロ・ベガの鎧騎士を挑発した。
「地上に降りれば、勝負は互角。アビスなど、我らが討ち取ってみせる」
「そんなセリフは私を倒してからにしろ。愚鈍なメイの民め!」
 機動限界ではわずかにゼロ・ベガが上回るのか、敵はクーフスにディザームを放つ隙を与えなかったが、クーフスも己の機動限界のギリギリのところで敵のスマッシュを受け流しつつ耐えた。
「貴君に聞きたい! カオスの力を用いてまで、我が国と戦おうとするのは何故なのだ?」
「カオスの力だと? そんなものは知らぬ、知らぬが我らの王であれば魔物ですら凌駕することも出来よう! 貴様らとて、異界の力を用いて我らの同胞を殺したではないかっ!」
「そ、それは‥‥っ!」
 一瞬の隙をついて敵がオルトロスの脇腹に剣を差し入れようとしたその時、1騎のモナルコスが体を張ってそれを制した。
「い、今です! 敵をッッ!」
「かたじけない!!」
 オルトロスの剣が眩しく宙を斬り、盾を叩き落とされた上に膝を破損したゼロ・ベガは地に伏すしかなかった。
 一方空では、ドラグーンともう1騎のアビスがそれぞれに剣を構えて睨みあっている。
「英雄ペンドラゴン殿に代わって、このシュバルツ・バルトがお前等を討つ!」
「英雄? 大罪人が英雄などと、片腹痛いわ――――っ!!」
 シュバルツの挑発に乗った女鎧騎士はチャージングを用いてドラグーンに斬りかかる。だが、ドラグーンの方がアビスよりもはるかに速かった。
「機体の差だ‥‥勝負は着いたな」
 甲高い金属音が鳴り響いたのち、アビスの装甲を裂いてドラグーンの剣が深々と突き刺さる。
 圧倒的に優位なその性能を、シュバルツは見事に使いこなしたのだ。
 同じ頃、バルザーのオルトロスもモナルコス隊との見事な連携でアビスの片翼を折り、じわじわと追い込んでいたが、女鎧騎士が討たれたのを知るとアビスはよろめきながらも浮上して戦線を離脱、それを追おうとしたドラグーンをダロベルに乗るルネが制した。
 クテイス岬に敵が侵攻していたからである。

●岬
「この剣は対魔物用の剣ですので、どうぞお持ちください」
「これは痛み入る」
 烈が差し出した剣をジイド卿が腰に差すのを副官ユリシーズが冷ややかに見つめる。それを少し離れたところから、駆け出し冒険者を装ったアリオスが注意深く観察し、エイジスもふたりが見える範囲で他の兵士に紛れて身を潜めていた。
「クレナ島の方はどうなっているか」
「はい、ただいまアビスと交戦中との知らせです。目下我が軍が優勢とのこと」
「ドラグーンまで配備しているのだ。ここで勝たねば我らに先はない」
 顎髭を触りながら難しい顔でジイドがそう呟いた時、見張り兵からけたたましい声が上がる。
「前方にバの船が現れました! 数は3隻、すべてゴーレムシップです!」
(きたか!)
 冒険者に緊張が走る。ジイドが敵船を迎え撃つべく進路を指示するが、突然ガクンと船が揺れたと思うと、それきり振動が止まってしまった。
「船が止まったぞ! どうなっておるのだっ!」
 興奮した口調で叫ぶジイドにユリシーズが答える。
「機関室でなにかあったのかもしれません。私が見てまいりましょう。そこにいる者たち、一緒に来なさい」
 ユリシーズはアリオスとエイジスを含む数人の兵士を指差し、ブリッジを出る。ジイド卿の護衛についた烈はブリッジに残された。

 やがて機関室に到着した彼らを出迎えたのは、手に武器を持った船員たちだった。彼らの手で船の動力である精霊機関は見事に破壊されていた。
「我ら、『混沌を広げる者』に従ってこの船を占拠する!」
「馬鹿な! おまえたちは惑わされているだけだ!」
 アリオスが叫ぶのを鼻先で笑ってユリシーズが命令する。
「この者たちをみな斬り捨てよ」
「ちょっと、待ってよ! 殺さなくても‥‥うわっ!!」
 エイジスの目の前に長剣が振り下ろされ、寸でのところでかわすも、魔物に操られたとしか思えない船員たちに次々に斬りかかって来られては、応戦せざるを得なかった。そしてユリシーズの姿はすでにない。
「と、ともかくここを制圧して、すぐにブリッジに引き返す! エイジス、やりすぎるなよっ」
 だが、すでに戦闘マシンとして狂化を始めたエイジスはアリオスには答えずに、船員たちを素手で次々とのしてゆく。ここはエイジスに任せて大丈夫と判断したアリオスは急ぎブリッジに引き返した。

 * *

「烈! ジイド卿!」
 アリオスが戻った時、ブリッジはすでに血の海だった。騎士も船員もみな斬られ、背後のジイド卿を庇ったと思われる烈も負傷している。
「アリオス、気をつけろ! こいつは強いっ」
「遅かったな。もう少し私を楽しませてくれないと、帰るに帰れんよ」
 黒い狼にまたがった『混沌を広げる者』の姿がアリオスの瞳に映る。天使の体に梟の頭、手に握られたレイピアからは赤い血が滴り落ちていた。
 アリオスが素早く弓を引き、ホーリーアローが魔物の翼を貫いた。
「‥‥ほお、いい腕だ。だが、君の仲間は指揮官を守るのに精一杯。君ひとりで私を倒せるのかな?」
「い、言わせておけば、この魔物めっ!」
「ジイド卿!」
 烈の後ろから飛び出したジイドに魔物が剣を振り下ろす。が、アリオスの矢が魔物の腕を射抜いた。
「チッ‥‥」
 魔物は身を翻すと、柱の裏に隠れた。と、そこへユリシーズが血相を変えて飛び込んでくる。
「魔物は私が倒す! ジイド卿を外へお連れしろ!」
「しかし‥‥っ」
 ユリシーズが魔物とつるんでいるなら、アリオスをひとり残すのは危険だ。そう躊躇した烈にユリシーズがなおも詰め寄る。
「早くせんか! これは命令だ!」
 そう怒鳴ったユリシーズの目に、黒い光に包まれながら血みどろの屍がもぞもぞと動き出す様が映った。
「奴らを殺せ」
 魔物は騎士の屍にそう命じると、ふわりと天井に舞い上がった。
「くそ‥‥! 死人まで操れるのか!」
 アリオスが弓を番えて矢を放つも、魔物は冒険者の隙をついて姿を消して去った。
 屍はふたりにすぐさま倒されたが、船内の被害は多大だった。ジイドはアリオスが差し出したポーションを受け取ると、自分は飲まずにまだ息のある兵に飲ませた。

●苦い勝利
「そもそも、今回はあれだ。二手に分かれなきゃならない時点で戦力が割かれてるわけだし、ジイド卿やみんなは無事だったから良しとしようぜ」
「おまえに慰められても、嬉しくもないっ」
 任務を終えた琢磨が冒険者に声をかけたが、やぶへびだったようだ。
 肝心のバ軍だが、クレナ島はアビスを1騎打ち落とした時点で勝利はメイに決し、バ軍は後退した。
 クテイス岬はというと、ジイドの船が動けずバ軍を勢い付かせはしたものの、後ろに控えていたオークランドの隊がこれを見事に撃破した。
 あらかじめ情報が筒抜けだったわけだから、オークランドは十分に迎え討つ準備が出来ただろう。
 ジイド卿は戦場では不覚を取ったものの、魔物の進撃を食い止めたことで処分はなし。
 もっとも、ペナルティを負いながらも見事に敵を抑えたことでオークランドの名声は益々高まった。
「それにしても、最後までかき回されっぱなしでしたね」
 疲れた顔でイェーガー。
「こうしてみると、魔物とユリシーズの狙いはあくまでオークランドを出世させることみたいだな。それが表向きはメイの勝利に繋がっているわけだから、こっちもヘタに手を出せない」
「でも、それならば、この先も再びチャンスは巡って来るのではないですか」
 烈の言葉にファングが答える。
 今回は敵と刃を交えることが叶わなかったが、次こそはとファングは思う。
 そう。次こそは――。
 冒険者たちの戦いはまだ終わらないのだ。