●リプレイ本文
「全軍突撃! かかる一戦はある意味イギリスの存亡を決するものなり! 皆さん命をかけて奮戦しましょう! 特に男の人達は! 我に続けー!!」
ダイモン・ライビー(ea4676)が、先頭に立ち、冒険者達は一気に塔の3階になだれ込んでいった。
そこに待っていたのは‥‥。
「あらん、おいしそーなボーヤちゃん達がいっぱぁ〜い。アタシ、どうしましょう〜」
と、身をくねらせる筋肉男。足の間には何のつもりかおっきなホウキを挟み、両目の周りには黒い丸を描いている。目が良くなるおまじないだそうだ。
さらに、両脇には金髪でちょっぴり小生意気そうだけど本当は寂しがりやに見えそうなオークと、やや太目でチェスが得意そうなオークを従えていた。
「ふっ、貴様達に譲れない思いがあるように、私にも譲れぬ熱き魂がある!! この戦い決して負ける訳には行かぬ!! ゆくぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
レオンロート・バルツァー(ea0043)が雄叫びを上げ、ポージングと共に身体に力を入れた。すると、あらかじめ切れ目が入れてあった服が弾け、鋼の肉体が露わになる。
「見よ! これこそが正義! これこそが愛! これこそが世界の全て! 今こそ貴様達にも教えてやろう! 大脳皮質にとくと刻み込むがいい! まずは腕! 上腕二頭筋の力瘤! イギリス中央部にそびえるペニン山脈にも負けはせん! うりゃぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
「きゃ〜ぺにんさんみゃく〜☆」
カマは腕じゃなく、なんかレオンロートの下の方を凝視しつつ、黄色い声を張り上げた。
「お母さん‥‥ああお母さん、僕はイギリスの平和のためにがんばっています。あう、この不思議空間汚染地帯から、今回もいろんな意味で無事に帰ってこれるのかな‥‥」
レオンロートの背後に隠れつつ、彼の身体から迸る熱い筋肉オーラに悪酔いしたみたいに青い顔になってじりじり後じさる薄幸そうな少年‥‥アルト・エスペランサ(ea3203)が、お尻のあたりを押えながら呟いていた。今回も既に、戦う前から犠牲者の空気を二重三重に纏っている。
「‥‥大丈夫ですよ」
さらにアルトの背後から、彼にそっと語りかける細い人影。
振り返ると、そこにはカレン・ロスト(ea4358)が立っていた。
「貴方にグッドラックの魔法で希望を差し上げます。万が一、えーと‥‥その(ゴニョゴニョ)な目に遭っても、その時はメンタルリカバーで再び立ち向かう勇気を、さらにもっと目一杯(ゴニョゴニョ)な事をされて再起不能になりかけたとしても、リカバーという名の愛の奇跡で、貴方にはズゥンビの如く、死してもなお立ち上がる生命力を取り戻させて差し上げます。だから、遠慮なく頑張って下さいね」
「‥‥あの、とてつもなく優しい笑顔で、とてつもなく非道な事をおっしゃってませんか? 所々何を言っているのか聞こえませんけど、聞こえない方が幸せな気もします‥‥あう」
「そんな事はありませんよ。アルト様は、きっとそういう星の下にお生まれになったのです。ほら、貴方自身、何か感じませんか?」
「そ、そういえば、ここに来て以来、ずっと胃のあたりがキリキリ痛むんですけど‥‥」
「まあ、それはきっと‥‥愛です」
「愛‥‥これが、愛‥‥?」
‥‥きっと、神経性胃炎という名の愛だろう。頑張れアルト君。
「空は良いです‥‥」
塔の窓から外を眺めていた人影が、くるりと振り返った。イングリッド・バイアステン(ea0491)だ。
「それにひきかえ、貴方達はなんですか。尻は桃に似てるです。それはバナナ党のIGさんに対する挑戦ですね? そうですね? IGさんはその挑戦受けたです。そもそもカマが人類にもたらすもの、それは繁栄ではないです。思い上がったカマ達が行き着く先は‥‥破滅なのです」
なんか強引な論理を語ると、おもむろに弓を取り出す。
‥‥その足元にも、小さな冒険者がいた。
目立たないようにと匍匐前進でずりずり進んでいるのは、シフールのハーモニー・フォレストロード(ea0382)である。イングリッドの声に思わずビクッと身体を震わせると、反射的に自分に対してリカバーを使ってしまう。もちろん、なんの効果もない。
「ふ、ふふふふふ‥‥」
一瞬がっくりとその場に突っ伏すと、ややあって低く肩を震わせて笑い始めた。
「やはり、リカバーではダメなのか‥‥手に入れなければいけない。あの、賢者の‥‥賢者の尻を!」
拳を握り、顔を上げるハーモニー。レオンロートとかアルトを見ると、その頬がポっと赤らんでしまう。
「ああ‥‥だ、駄目だ! 何故か今の僕は、男の人を見ると心がざわめく! いけない! いつから僕はこんな! こんなぁぁぁぁ〜〜〜!」
がっこんがっこん床に頭を打ち付け、苦悩する。
「やはり、手に入れなければならない! 賢者の尻‥‥何かを成しえるには代価が必要、その等価交換の原則から外れた存在‥‥噂ではここに眠ってると言う話。僕はそれで、失ったモノを取り戻す!!」
どっかで聞き齧ってきたらしい間違ってるっぽい知識を信じ、彼はまたずりずりと前進を始めた。
「皆さん、その調子です! じゃあボクも‥‥!」
と、ライビーも魔法を発動させようとしたが‥‥。
「待て! 待つんだライビー! 君のような可憐な女の子が何故カマなんかと戦わなきゃならない! 杖を引くんだ!」
ふと、そんな声。
「ああっ、キミはっ!」
どこからともなくピアノの不協和音が聞こえ、ライビーが驚愕の表情を作る。
風が流れ、運命を予感させる花びらがその場に舞った‥‥。
そこにいたのは、ライビーと友達以上恋人未満だとお茶の間の皆様にも知られている(予想)杜乃縁その人だったのだ!
『以下、驚愕の展開を迎える次回を待て!』
‥‥と書かれた小さな看板を、後ろ手にライビーが持っていた。
「くふふ‥‥ついにおーらすなの、なごりおしいけどらすとすてーじなの、らすぼすとうじょうなの、ですとろい ぜむ おーる、なの♪」
入口の脇、皆からやや離れた位置に敷物を敷いてちょこんと座り、冒険者達の戦いっぷりを小さな手で布キャンパスにデッサンしている愛らしい少女。彼女の名はレン・ウィンドフェザー(ea4509)。
隣にはメイド服を着た人形を置いてあり、さらにフリフリメイド服を着たカイ・ミストを従えさせて、高そうなティーセットに紅茶を淹れさせていたりする。
画材も今やちょっぴり高級なものに変わっていた。大きな声では言えないが、それらは全てカマの血と肉でできていると言ってもいいかもしれない。なぜなら、今日も天使の微笑で彼女が描いているのは、素人が見たら神に許しを乞う程にぎっちょんぎっちょんな超越級ハード絵画なのだから。金持ちの好事家には大人気らしいが‥‥その辺はよく分からない。あまりその事を口にすると、とんがり帽子の覆面をした謎の筋肉集団に連れ去られ、とってもワンダーランドな目に遭うともっぱらの評判である。真実かどうかは謎だが‥‥。
手を止め、じっと戦いの場に目を向けるレン。
「なんていうか‥‥こう、もうちょっと、こうずにへんかが、ほしいの」
芸術家の目で、ポツリと呟いた。
「ならば我等にお任せを!」
それを聞いて、天井からくるくるすたーんとクラム・イルトが降りてくる。
無言で頷くレンがすっと戦場を指差すと、クラムとカイは猛ダッシュで迷わず突っ込んでいった。
チェスが上手そうなオークに近寄ると、おもむろに襲いかかり、噛んだり噛まれたりの大乱闘を展開する。
「うん、すこしよくなったの♪」
その様子をじっとみつめながら、またニコニコと超越絵画の作成に取りかかるレンであった。
「まだまだゆくぞ! 見よ! この見事に割れた漢の腹筋! さらに愛らしい尻えくぼを形作るこの尻の筋肉! 大殿筋及び中筋殿の凹みっぷりは、スコットランドのフィヨルドにすら負けはせん!!」
「あぁんふぃよるど〜〜〜♪」
レオンロートの筋肉大会に、眼を輝かせるカマ。レオンロートの尻にはいつしか金髪の小生意気に見えるオークが食らいついていたが、彼は一切気に止めず、ポージングを続けていた。まさに漢だ。筋肉だ!
「隙ありなのです! ジェイ・ク●ース!!」
そこを見逃さず、イングリッドが弓を握ったままの拳で金髪小生意気オークの尻を殴りつける。
「‥‥けど、ここには仲間が! 護りたいお尻があるのよ!! 分かって欲しいの。ボクはオカマさんを倒さなくちゃいけない‥‥これは使命でも何でもない、ボクの意志なんだから!」
一方、あたかも宇宙空間に浮かんで語り合っているような、そんな2人だけの世界を展開させていたライビーと緑の間にも、進展の気配。
「君はそこまで‥‥分かった、僕も手伝うよ!」
「ああ‥‥緑! やっぱり緑なら分かってくれると思ってた♪」
いつの間にか礼服とドレスに着替えた2人がくるくる回りながら抱き合い、合体技を発動させる。
「ボク達の拳が真っ赤に燃える! カマを倒せと轟き叫ぶ!! 食らえ! 必殺!!」
「石!!」
「破!!」
「らぁ〜ぶらぶ!! デストロイドキャノン!! ぶれいくぶれいくー!!」
──ずどどーん★
ライビーのディストロイと縁のグラビティーキャノンが、カマとかオークとか味方とかを、遠慮なく吹き飛ばしていた。
「なんて恐ろしい‥‥でも、カマ退治の犬に成り下がったとしても、必ず僕は女性にトキメク自分を取り戻してみせるんだぁぁぁ!!」
相変わらず匍匐前進を続けていたハーモニーが、とても大事なものが隠されているという床の隠し扉の前に来る。そこにはセントバーナード並みにでかい犬が寝そべっていた。
「ふふ、可愛いですね、この子」
などと、いつの間にか先に来ていたカレンに頭を撫でられてご機嫌の様子な犬だったが‥‥。
「ぼ、僕もこちら担当で頑張るです。どうやらおとなしい犬みたいですし、これなら僕にも──」
と、これまた近づいてきたアルト君を見ると、とたんに犬はばうばうがうがうと吼え始め、嬉しそうに彼の尻にぱっくり噛み付く。
「ひぃぃぃ〜〜〜! お尻ですか! やっぱりこの犬もお尻が大好きなんですか〜〜〜!!」
黒い巨体にのしかかられ、押し倒されるアルト君。
「今だ! 今しかないっ!!」
好機と感じたハーモニーが、目をキュピーンと光らせ、一気に隠し扉を開ける!
そこには‥‥。
「あら、確かこの方は‥‥カマに襲われ続けている事で有名な、ケン・タケマッジーさん24歳独身(仮名)ですね」
カレンが、あっさり言った。
芸術的な形に縄で縛られ、白目を剥いたその人が‥‥安置されていたのだ!
彼はカマにとって、とても大事なモノらしい。何がどう大事なのかは、大人の人に聞いてみよう。きっと怒られる。
「ふふふ‥‥探したぜェ!! これが賢者の尻!! あぁ、このさわり心地…vv じゃない、さぁ僕を早く元に戻すんだっ!!」
が、ハーモニーにの脳裏には、最早己の願いを叶えるという切なる願いしかなく、ケン・タケマッジーさん24歳独身(仮名)のお尻にうっとりとすり寄ったかと思うと、ハッと我に返ってその白いお尻をペチペチ叩き始めた。
「離して下さい〜〜〜!」
その周りを、犬に尻を噛まれたアルト君が泣きながらぐるぐる回っている。
‥‥その時。
「ほーっほっほっほ! さあ! それじゃあそろそろ決めちゃおうか! 滅びなさいカマ! 全ての悪しきモノと共に!!」
笑い声と共に、下に通じる階段からもくもくと煙が上がり、香夜詩音(ea0636)が現れた。
「助けてください〜!」
と、そっちにアルト君が走っていったが、
「任せておきなさい!」
竜巻の術が炸裂し、犬と一緒に空中に巻き上げられ、くるくる回りながら落ちてくる。
「あ゛〜〜〜!」
そしてそのまま、ケン・タケマッジーさん24歳独身(仮名)とハーモニーがいる秘密の小部屋に落下。
「結社グランドクロス特務怪人、任務遂行に入る」
カマと同じく目の周りに黒い丸を描いたムネー・モシュネーも現れ、カマへと襲いかかろうとしたが、その襟首を背後から細い腕が掴んだかと思うと、あっさり持ち上げて、これまた小部屋の中へと放り込んだ。
ばたんと扉が閉められ、留め金を閉めると‥‥ややあって中からは、ばうばうばうわんわんわんうぎゃーひぃ〜噛まないで食べないで近寄らないでわぁ〜‥‥とかいう悲鳴が響いてくる。
「うん、これでよし、なの♪」
その音色を聞きながら、満足そうに微笑んで、手をパンパンはたくレンであった。
‥‥が、
「‥‥」
ふと彼女が元いた場所に目を転じると、お気に入りの人形に小さな壁の破片があたり、髪の毛がちょこっとだけ汚れているのが‥‥見えた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
なんとなく部屋全体が薄暗くなり、帯電した空気がパリパリと紫電を放つ。
危険な空気の発現点は‥‥若干10歳のエルフ少女だ。
「はっ!! このただならぬ頭痛‥‥! これはもしや!?」
額の傷に痛みを感じ、レンへと振り返ったカマが見たものは‥‥もはや世紀末に現れるという恐怖の大王そのものにしか思えず‥‥。
「──!?」
悲鳴を上げる前に、世界は重力派の嵐に見舞われるのであった‥‥。
「カマ軍団に比べ、我が冒険者の数は30分の1以下(推定)です。にも関わらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故ですか! 諸君! 我が対カマ戦士の戦う目的が正しいからです!」
跡形もなく崩れ去ったカマの塔の瓦礫の山を前にして、イングリッドがなんか演説していた。
塔はこれまでの戦闘で、すっかり脆くなっていたようだ。今回の戦闘には、とても耐えられなかったらしい。
「違う形で出会えたなら、違う結末を迎えられたのだろうか、それとも‥‥」
夕日を眺めつつ、熱い漢の涙を流すレオンロート。丸出しの尻に刻まれた歯形が、彼の勲章だ。
「にゅふふふ♪ 緑の手って大きいんだねー♪」
ライビーと緑は、仲良く御機嫌で去っていった。
「‥‥はやくかえって、きれいにするの」
レンもまた人形を胸に抱き、帰還。
「おカマさんは迫害を受ける対象ですよね‥‥同情してしまいます」
優しいカレンは、ちょっぴり感傷に浸っていたようだ。
詩音も上機嫌でどこかに消えていた。
瓦礫の山から手が突き出ているのは‥‥たぶんアルト君だと思われる。
その側にお座りした黒い犬の口から細い足が覗いているが‥‥これはハーモニーだろうか。なんかもきゅもきゅ咀嚼されていた。消化される前に救出される事を祈ろう。
‥‥かくて、カマに占拠された塔は、その存在ごと葬られ、キャメロットには平和が戻った‥‥‥‥と思われる。
ただ、これが最後のカマとは思えない。
新たな戦いの日まで、全ての対カマ戦士達に安らぎと平穏あれ‥‥。
■ END ■