●リプレイ本文
冒険者達が塔の階段を駆け上がり、2階部分へとなだれ込んでいく。
「白き輝きは月の光、日の光の元、照り返しその色を桃色に染めし変態に、正しき血筋の由来の元、断罪に集まりし一統我ら名前を尻風連! アルト殿、レオンロート殿、先ずは我らにお任せを!!」
「左様! 我ら名前を尻風連! 振るう尻は相手を選ばず! 逃げねば訂正削除の海となる!!」
と、実に勇ましい(?)台詞と共に、イレイズ・アーレイノース、及びルーラス・エルミナスらが先頭に飛び出してきた。頭には編み笠、黒の僧服のような衣装で統一し、手には棒というスタイルだ。
それを迎え撃ったのは‥‥。
「負けないぞ! 僕達カマのエキスパートが、このイギリスを素敵色に染め上げるんだ!」
「がおーん」
背中に樽を背負った上半身裸のジャイアントと、その肩に乗った半ズボンのシフール。そしてその回りを9体のゴブリンが取り巻いている。部屋の中央には真ん中に目が描かれたでっかい球体が転がっていたが‥‥何かのオブジェだろうか。
「はっはっはっはっはっは!!」
高らかな男の笑い声と、ぱちーんぱちーんという音。
冒険者達の中から、さらに1人の男が進み出る。
指を鳴らす度、切れ目を入れて細工した服がはらりはらはら夢のように落ちていき‥‥やがて全ての衣服がなくなると、大きく胸を反らして、彼は言った。
「私の名は、赤き全裸のバルツァー! 死出の土産に覚えておくがいい!!」
‥‥レオンロート・バルツァー(ea0043)だ。目の部分のみ赤いマスクで隠していたが、他に隠す所がいくらでもありそうな気がする。
「いけ! ジャイアント・カマ!!」
「がおーん」
「我ら集まれば、カマの10人や20人!!」
かくて、カマ軍団と冒険者の先陣が正面から激突した。
衣服と悲鳴が乱れ飛び、ついでに冒険者とかゴブリンの身体も時々派手に宙に舞う。
ゴブリン達も華仙教大国のぴっちりドレスっぽい衣装とか、紫の帽子を被って前髪を垂らしたカツラを装着した、なんか不死身っぽく見える奴とか、色々とバラエティに富んでいる。
「私は衝撃の龍華! 冒険者を舐めるなぁぁぁ!!」
何故かアイパッチをした青龍華も、オーラショトを放ちながら突っ込んでいった。
「‥‥久しぶりだねぇ、大●君。まさか君とこういう形で会うとは」
と、低い声。都合により一部の声に聞き取りにくいところがある事をお許し願いたい。
「さぁ、カマから離れなさい。そこは君がいるべき場所じゃない」
催眠術師のような語り口調で半ズボンのシフールに言う人物もまた、シフールであった。頭に布を被り、どこか中東っぽい扮装をしているのは、ハーモニー・フォレストロード(ea0382)だ。その格好で、鉄劉生の肩に乗っている。
「がおーん」
劉生もまた、そんな言葉しか話さない役目のようだった。ちなみに額には大きな三日月の金具を装着している。水中型かもしれない。いや、やっぱりなんでもない。
「残念だよ大●君。君の事は好きだったのに」
という台詞と共に、劉生の両手がまっすぐにジャイアント・カマに向けられる。そのまま両腕を飛ばしてパンチ‥‥なんて事はもちろんできないが、とにかく前進を開始した。
「解説するです。鉄劉生の怒りが頂点に達すると、彼は超人機(以下14文字検閲削除)」
元気な声でイングリッド・バイアステン(ea0491)が解説しつつ、弓に矢をつがえて構える。
「そして、この矢は当たるとバナナが無性に食べたくなったり、メイドさんを無意味に追いかけたくなっちゃたりする、とってもレア度の高いものなのです。というわけで‥‥一発必中バナナメイドアローーー!」
どっからどう聞いても信憑性のない事を言いつつ、発射。
──ひゅん‥‥‥‥ぶすり★
「ああああぎゃぁぁぁ〜〜〜!!」
‥‥誰かの悲鳴が響いた。ゴブリンとか相手のジャイアントとかシフール少年ではないっぽい。
「大丈夫です。バナナはとっても栄養価が高いのです。きっともっと元気一杯になって、僕の頭をお食べとか、そんな台詞を笑顔で言えるような子供のヒーローになれます。間違いないのです」
真顔で被害者にそう告げる彼女であった。
「‥‥あう、なんなんですか、これって‥‥」
敵と、そして味方のはずの仲間達の行動を見回して、途方に暮れた声を出す少年が1人。
「僕は不思議ワールドに迷い込んじゃったのかな。なんだか敵も味方もおかしいです‥‥」
頭を抱え、青い顔でぺたんとその場に座り込んでしまうのは、アルト・エスペランサ(ea3203)だ。今日も不幸人生全力疾走まっしぐらな、か細くて儚いオーラを立ち昇らせている。
「大丈夫ですよ。元気を出してくださいね」
しかし、そんな彼の肩にぽんと手を置いて、優しく語りかける女性の影。
「え‥‥?」
アルトが振り返ると、柔らかく微笑んだカレン・ロスト(ea4358)が立っている。天使のような邪気のない笑顔に、一瞬アルト君は魂が救われた気がしたのだが‥‥。
「貴方が志半ばで倒れようとも、怪我は私がリカバーで、カマの方に弄ばれ、挫けた心にはメンタルリカバーで再び勇気を取り戻させて差し上げます。そしてもし、立ち向かう気になれないとおっしゃるなら、グッドラックで暴れ馬のように突き進める希望を、貴方の心に湧き上がらせてみせましょう。ですから、踏まれても、蹴られても、もっととんでもない事をされても、何度でも、それこそズゥンビのように立ち上がり、向かっていって下さいね。カマに」
「あぁぁあぅあぅあぅ‥‥」
心休まる笑顔と声でもって告げられたカレンの言葉に、アルト君は空気が漏れたみたいな声を発して崩れ落ちた。それはもう、全身の骨が溶け落ちたみたいな、見事な崩れっぷりだ。
「‥‥」
同時にカレンの言葉を聞いて、彼女の背後にいたサヤ・シェルナーグが、目にじわっと涙を浮かべる。ちょっと怖くなったらしい。
「あらあら。サヤちゃんは大丈夫ですよ。危険な事は全部お兄さん達が引き受けてくれますから、私達は後方でおとなしくしていましょうね。何かあったら、みんなが守ってくれます。もちろん、私もですよ。だから泣かないで。ね?」
サヤの頭を撫でつつ、カレンはアルト君の時とはまったく違う内容の台詞を口にする。
前線で戦っていたはずの衝撃の龍華も戻ってきてサヤを抱き上げ、頬にすりすりしていた。
「‥‥」
それらに安心したのか、ニコっと微笑むサヤである。
なんとなく、周囲はほっとするような空気に包まれたが‥‥。
「‥‥前略お母さん。やっぱり冒険者の現実って厳しいです。厳しすぎです‥‥僕が信じてきた常識が何ひとつ通用しないし‥‥なにもかも疲れました」
そんな空気とは対極の雰囲気をまとって、アルト少年は冷たい石の床に突っ伏すのであった。
「絶好調である!」
「がおーん」
劉生の頭の上でばさっと羽を広げ、ハーモニーが叫ぶ。
「絵画が人の妄想本能をかきたて、世にカマ歴史が来るとでも思ったのかね!? 確かに、我らが妄想本能のままに行動すれば、カマ歴史が来るかもなぁ!?」
‥‥血走った目から察するに、もう自分の言葉の意味が分かっているのかすらちょっと怪しい。前回馬に頭を噛まれたショックで、頭の配線がいい感じな所に繋がってしまったのかもしれない。
「誰一人として救えなかった、友として何もしてやれなかった、そんな自分に腹が立つ!!」
レオンロートも、吼えていた。
彼の足元には、尻に矢が突き立って力尽きた尻風連の変わり果てた姿がある。矢を放ったのは敵ではなく味方だったりするのだが、まあそれはこの際言うまい。済んだ事だ。無論、ゴブリンも殆ど尻丸出しで倒れている。
「もうこれ以上の犠牲は沢山だ〜〜〜!!」
拳を振りかざし、レオンロートは漢の涙の尾を引いてジャイアント・カマに殴りかかった!
しかーし!
「負けるな! ジャイアント・カマ!」
「がおーん」
ジャイアントが背中に背負っていた2つの樽のうちのひとつを手に取ると、それを全力で放り投げる。
「のぐぉぁっ!」
レオンロートは直撃を受け、大股を広げて吹き飛ばされた。やはりジャイアントのパワーは並ではない。
さらにその上、
「わーーー! こっちに来ないで下さいぃぃぃ〜〜〜!!」
落下点には、お約束のようにアルト君がいる。逃げようとしたが、もちろん手遅れだった。
どかーん、と2人は激突。もつれ合ってそのまま転がり、壁にぶち当たる。レオンロートの両足がアルト君の顔を強く挟み込んでいた。むぎゅーと生温かい正体不明の素敵物体が顔に当たるのをアルト君は感じたが、それが何かを知る前に後頭部を打ち付け、気を失う。
「‥‥ぷ♪ きょうはカマさんも、エs‥‥イケニe‥‥じゃなくて、おとこのひともいっぱいなの♪ かーにばるなの、ふぇすてぃばるなの、しりょうのぼんお●りなの、あ●まのどくどくもんすたーもおおよろこびなの♪」
‥‥正義の戦いを天使の微笑で眺めつつ、部屋の片隅にちょこんと座ってスケッチ中のエルフ少女がいた。レン・ウィンドフェザー(ea4509)だ。今日もお気に入りのメイドさん人形を胸に抱き、聖人君子が見たらショックで殉死しそうな絵をニコニコしながら描いている。
と──。
「‥‥」
ふと、その手が止まった。
レンの瞳は、自分と同じように戦いの様子を絵にしたためている半ズボンシフール少年を捉えている。
無言のままにトコトコ近づき、その絵を眺めると、自分の絵も突きつけた。
「なかなか、ひかるものをもっているの」
「‥‥へえ、そういう君も、やるじゃないか」
互いにニヤリと笑う両者。
好敵手が現れた‥‥のかもしれない。
「ふっ、さすがにやるな! だがこれしきの事で!」
レオンロートが起き上がり、再び突進。気絶したアルト君がまた股に挟まったままだ。
「はうぅ〜、こんな妹欲しいです〜」
と、カレンはうっとりした顔でサヤを眺めている。
「うーん‥‥やっぱりアルトっていう人は、ハーモニーっていうシフールの人とのカップリングが良いのかな。ほら、どっちも受けっぽいし、お互いに心と体の傷を慰めあっているうちにそれが愛に‥‥」
と、半ズボンシフール少年が彼等を見ながら言ったが‥‥。
「それは、ちがうの」
レンがぶんぶんと首を振った。
「ああいったタイプは、しょけいにんみたいなまっちょにつかまって、うすぐらいちかしつとかにかんきんされて、うまれてきたことをこうかいするくらいの『せめ』をうけているすがたがあうの。それがうれせん、なの」
「えー、鬼畜なのはちょっと‥‥」
「‥‥ふっ、これだからおこちゃまは」
ちょっとだけ気だるげに言って、髪をかきあげるレン。なんか意見が合わないらしい。
そこに、話題の当人であるハーモニーが来た。
「ペンを使ったことは‥‥?」
と半ズボンシフール少年に問い、彼が頷くと、
「それは結構。勝負!!」
懐から羽ペンを取り出し、一気に肉薄する。
が‥‥。
「できた、なの。さあ、しんじつをそのめにやきつけるといいの」
恐るべき速さで描き上げた絵を、シフール達に突きつける。
題材は‥‥どこかレオンロートに似た男に、ハーモニーが地獄煉獄鬼畜的にあれやこれな事をされている姿で、それでいて苦しさの中にもハーモニーの顔には背徳の喜びの影が見え隠れ(以下43文字検閲削除)
「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」
シフール2人が、揃って悲鳴を上げた。
「そこまでですっ!」
その瞬間に、響く声。
部屋の中に思いっきり不自然に生えていた木が、1人の少女の姿となる。ミミクリーで擬態していたダイモン・ライビー(ea4676)だ。いままで乙女心をドキワクさせつつ戦いを見守り、出るタイミングを計っていたらしい。
「ボクの名は、人間最終兵器! 静かなるライビー!」
拳を振り上げ、肩のストールを翻すと、おもむろに詠唱を開始する彼女。
「これこそ、たぶん命と引き換えに打つ、キャメロット最大の爆発力(推定)! ビッグ●ンパンチ! だが今日こそ、それを打とう。何故なら、戦っているのはボクだけじゃない。アルトさんも、ハーモニーさんも、その他大勢の人達も、みんなカマとの戦いだった。もうこれ以上の犠牲は沢山です!」
ライビーの体が魔法の光に包まれる。放たれるのはディストロイ。
「キミにはしつぼうしたの、がっかりなの、うんざりなの、うまれかわっていちからべんきょうしなおすといいの」
レンもまた、背後に怒りの炎をゆらめかせつつ、笑顔でグラビティーキャノン。
──ちゅどどーん★
巻き起こる衝撃、湧き上がる悲鳴。宙に舞う漢達。敵も仲間も仲良くアップトゥザスカイ。大空は君達のものだ。
そしてそこに、唸りを上げて黒字にXの字が刻まれた一本の旗が飛んできた。
「カマよ、貴様らは我ら結社の預言成就に役立ってもらおう」
ムネー・モシュネーがどこからともなく現れ、斜め立ちで言い渡す。
‥‥が、階下から突如もくもくと煙が押し寄せ、さらに吹き荒れる竜巻の術。
「なにぃっ!?」
殆どの漢を巻き込んで、突風は彼等の身体を石の壁にめり込ませていた。
「ふっふっふ‥‥イケナイシフールってのはあんたね。まったく‥‥そーいうワルイコには、もっと刺激的な夢を見せて改心させてあげるわ」
などと言いつつ、香夜詩音(ea0636)が現れ、半ズボンシフールをつまみあげると、自分の胸の谷間に放り込む。あとはそのままシェイクすること3分間。出来上がったのはすっかり女性の魅力に目覚めたシフール‥‥という事はなかったが、とにかく白目を剥いてひくひくしていた。
ちなみに詩音は皆が突入前に奇襲をかけたかったのだが、正々堂々行きたいという男達に土下座で頼まれ、仕上げに回ったのだ。
「銀の翼に希望(のぞみ)を乗せて、目指せバナナの大普及! エ(以下4文字検閲削除)様親衛隊イギリス支部No1、イングリッド・バイアステン! 定刻通りにただいま到着です!」
明後日の方を向いて手を振るイングリッド。
「勝った‥‥けど、ボクはカマ狩りの使徒として誰一人救えなかった‥‥戦友として何もしてやれなかった‥‥そんな自分に腹が立つぅぅぅぅぅぅ!!」
ライビーもまたそんな台詞を絶叫したが、ふと笑顔になって振り返ると、
「終わった終わった。早く帰って、ご飯食べよーっと♪」
スキップしながら去っていった。
「‥‥♪」
レンは部屋の壁に飾られた絵をニコニコ回収している。その筋に売るのだろう。間違いない。
「怪我がなくてよかったですね。さ、帰りましょう」
カレンは龍華と共に、サヤの手を引いて帰っていく。
他の男達は‥‥皆冷たい床の上で尻を晒して転がっていたそうな。
■ END ■