●リプレイ本文
「‥‥今回も来てしまいました。なんで僕に回ってくるお仕事って、こんなのばかりなんでしょう‥‥胸が痛いです。相克の痛みって聞いた事があるかもしれませんけど、もしかしたらそれでしょうか。あぅ‥‥何言ってるのかな僕。もう自分でもよくわからないです‥‥」
草原をてくてく歩きながら、アルト・エスペランサ(ea3203)が呟いていた。
空は雲ひとつない快晴だが、少年の心にはどんよりとした黒雲が立ち込めているようだ。
「戦う前からそんな事では駄目です。それでは相手の思う壺ですよ」
と、クリス・シュナイツァー(ea0966)が、アルト少年の肩に手を置いた。年下の騎士を思いやる優しい言葉とその眼差し、心意気は実に素晴らしい。
「‥‥」
が、アルト少年は彼へと振り返り、ふぅと溜息をついて、ますます肩を落としてしまう。
‥‥それもそうだろう。
クリスは全身天然羊毛100%の丸ごとメリーさんを着込み、顔には魅惑のマスカレード、手にはリュートを持ってぽろんぽろぽろと爪弾いている。他人を励ますような格好には到底思えない艶姿だ。
「‥‥行くぞ」
そんな2人に背を向けて、閃我絶狼(ea3991)が歩き出す。
せめて自分だけでもしっかりしようと心に誓い、スピアを握り締めて‥‥。
「最近仮面男達が大人しくなったと思ったら、今度はカマとな? して、カマとはどういった輩なのだ?」
丘を登っていく囮の男性陣を眺めつつ、下で待機している別働隊の1人、紅天華(ea0926)がふと尋ねる。
「カマか‥‥ふっ、それを説明するには、遠く神代の年代まで遡り、語らねばならぬじゃろうて‥‥」
オーガ・シン(ea0717)が長い顎鬚をさすりつつ空を見上げ、ふと遠い目をした。なんだか知らないが、何か知っているのだろうか。
「なんでもいいわ。それにしても長かった‥‥ようやく、カマを滅する機会に恵まれたわ」
拳をコキコキ鳴らしつつ、朱華玉(ea4756)は微笑んでいる。瞳の奥に、やる気の炎が燃えていた。
「大きなお屋敷ができたと伺い、雇っていただこうと参ったのですが‥‥さて、どのような方々なのか、私も楽しみです」
やや離れた位置で、矛転盾(ea2624)は何やら帳面を手に、真面目な顔で立っている。
「‥‥あらたなカマさんのとうじょうなの、とうようのしんぴなの、とうしがめらめらなの♪」
そして、レン・ウィンドフェザー(ea4509)は、ファンシーな柄の敷物の上に行儀良く座り、蒼い双眸に期待の色を浮かべていた。背中にはメイドさん人形を背負っている。
‥‥そんなこんなで、既に彼等の準備は整っていた。
待ち受けていたように、カマも現れる。
丘の頂上に建つ城‥‥のハリボテの脇から、バラバラと飛び出してくる複数の人影。
「あっはぁ〜ん。きゃわゆいボーヤ達、いらっしゃぁ〜い♪ 歓迎するわぁ〜ん。カマだけに、歓ゲイ、なんちてなんちて、きゃは♪」
いきなりピンクの着物姿でもじゃもじゃヘアのごっつい男が現れたかと思うと、そんな事を言って身体をくねらせる。
隣には、同じくピンクの着物のオークがいて、お腹を抱えてカン高い声で笑っていた。どうやら笑い上戸らしい。さらに、背後にもずらっと、着物姿のゴブリン達を引き連れている。
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
一瞬言葉を失う冒険者達。
‥‥ダメだコイツ。カマだからというわけじゃなく、人としてダメだ。
そう感じさせる空気を、ぷんぷん放っている気がする。
が、あっけに取られている場合ではない。次々と冒険者達は我に返った。
「アレがジャパンの城‥‥? はて、文献で見たのとは全然違うな。そしてあいつらがカマ‥‥か。ジャパンではあんな連中が闊歩しているというのか? ええい面妖な! だが俺は負けん! きりりと締めたジャパン製フンドーシがきっと俺と俺の魂を守ってくれよう!」
過去の記憶を失っている絶狼は、カマとか城のハリボを見比べた後、頭を振って戦意を無理矢理奮い起こす。色々と間違っているが、ツッコミを入れている暇はない。
「ええっと、僕も噂は聞いた事があります。確か‥‥お国の狗のくせに、自分の名前を彫り込んだ偽造貨幣をばら蒔く犯罪者、でしたっけ?」
アルトもそんな意見を口にして小首を傾げた。こちらもなんか間違っているっぽい。
「よくわからんが、とにかくこの依頼の命運は、有志の殿方の頑張りにかかっているという事なのだな」
と、天華は納得する。真面目に考えてもしょうがないと判断したのかもしれない。
そんな中‥‥。
「何やら想像とは少々違いますが‥‥扶養家族はオーク一体にゴブリン八匹、経済力はまずまずにございますね。そして、その洒落のセンスですが‥‥それなりに粋は心得てらっしゃるようです。高評価、と」
手にした帳面に何やら書き込みつつ、盾は頷いていた。
その台詞を聞いて、何人かが「なにぃーーー!?」と言いたげな表情で彼女へと振り返る。
「と、とにかくあいつらを何とかすれば良いんだな! よし、行くぞ!」
「あぅ‥‥レンちゃ‥‥いえ、レン様もおられるし、今回もとっても嫌な予感がしまくってるんですけど‥‥がんばります。『前門のカマ、後門の破壊神』ですね‥‥あぅあぅ。あれ、そういえばクリスさん、どこ行ったんでしょう?」
そんな事を言いつつ、迫り来るカマ軍団の前に立つ絶狼とアルト。クリスの姿は、いつの間にか消えている。
「さぁ、いくわよぉ〜ん、そこのボーヤ達。ボーヤボーヤしてると、食べちゃうぞぉ〜♪」
ダジャレを叫びつつ、スキップしながらカマ集団が突っ込んできた。やっぱり相棒オークは笑っている。
その時、
「ちょぉいと待ったぁぁぁーーー!!」
威勢の良い声と共に、大空に響き渡る声。
見上げると、そこには空飛ぶホウキに跨った羊さん──クリスがいた。
「僕は風、戦いの嵐を呼ぶ風! 釜で風は殺せない、殺せはしない! さあ、尋常に勝負──」
──ゴン★
その頭にページの投げた釜が直撃。白目を剥いてまっ逆さまに落ちてくる。
「ああっ! 羊さんがっ!」
「忘れろ! 奴はいい奴だった! 漢ならば、友の死を乗り越えて進め!!」
「いえあの、死んでないと思いますけど、羊さん‥‥」
身構える絶狼とアルト。
そこに、釜の第2弾が飛んできた。
「わぁっ!?」
アルトはしゃがんでかわしたのだが‥‥。
「ふふ、援護は任せておくがいい」
ニヤリと笑ったシンが、後方から矢を放つ。それは見事に釜に当たり、撃ち落した。
「ふぎゃー!」
丁度アルト少年の頭上だったため、落下した鉄釜が少年の頭へと落下する。ごぃん、と、素敵な音。
「んま、やるわね」
「‥‥お主もな」
シンとページの視線が合い、互いの顔の前に雷が閃いた‥‥ように見えた。レンジャー同士、言葉以上の何かが通じたのかもしれない。
おもむろに着ていた衣服をはだけ、上半身を露出するシン。肩口には、見事な菊が描かれている。
「カマの小山に咲いた、この菊の花、散らせるモノなら散らしてみやがれ!」
啖呵を切ると、再び矢を放った。
ページも釜ですかさず応戦する。
「ほう‥‥見事なものだ。それにしてもあの釜は‥‥茶釜に土瓶、鉄鍋も混じっているな。いずれもここでは入手し難い一品であろうに」
天華も目を細めつつ、戦闘の場へと近づいていく。
「天華ちゃん置いていくなんて酷いですわ〜! キャメロット最強(凶)姉妹とはわたくし達のことでしてよ♪ 美しくない物は万死に値します! いっきますわよ〜!」
と、彼女の脇を物凄い勢いで走り抜けていく馬が一頭。乗っているのは天華の従姉妹、ニミュエ・ユーノだ。
「姐(ジェ)あまり飛ばしすぎぬようにな‥‥はて、そういえば姐に馬が扱えただろうか?」
ふと疑問に思った彼女の耳に、止まりなさいこの馬鹿馬ーとか叫ぶ従姉妹の声が聞こえてきた。ものの見事にまるっきり明後日の方向に馬が爆走しているようだ。
「‥‥」
とりあえずいいか、と慌てず騒がず、そのまま進む天華であった。
「カマの相手は葉っぱHEROレイジュにお任せ♪ キャメロットの平和は僕が守る!」
新たな声と共にレイジュ・カザミが登場。今日も元気に葉っぱ一枚で微妙な部分を隠した姿だ。
「うぉぉ〜! ヤられはせん! ヤられはせんぞ〜〜〜!」
絶狼は槍を振り回し、カマ軍団を近づかせない事に必死だ。
「んまぁ、美味しそうな落し物発見〜♪」
釜を投げていたページが、倒れているクリスとアルトを発見。両手に摘み上げ、どちらにしようかな、カマ様の言う通り〜♪ などと迷い始めた。
「私への性的嫌がらせの可能性は皆無にございますね。これは重畳」
その様子を見て、盾がまた帳面に何かを書き込んでいる。
「‥‥らいばるとうじょう、なの」
ページの側に落ちていた描きかけの絵に目を止め、ピタリと動きを止めるレン。
すかさず自分のコレクションから、もっともランクの高い絵を数点選び出し、ページへと突きつけた。それはもう、耐性のない一般人が見たら、この世の神の存在を疑いかねない程の超弩級の絵画である。ちなみに何が超弩級なのかは聞いてはいけない。秘密だ。秘密だったら秘密だ。
「んま!?」
と、流石のページも、それを見て頬をバラ色に染めた。
「好機!!」
次の瞬間、目を光らせた華玉が馬走拳で突進。進路上の者を全て吹き飛ばす。
ゴブリンとかページだけではなく、絶狼とかアルトとか羊さんとか葉っぱ男も宙に舞っていたような気もするが‥‥多分事故だろう。事故のはずだ。
「長かったわ‥‥カマにたどり着くまで何度嘘の情報に騙されてエセアウトローやら筋肉男に構ったことかと‥‥ああもうイライラしてきた!」
叫ぶと、残りのゴブリン達をどっかんどっかんストライクEXでぶっ飛ばし始めた。
「人に迷惑をかけるカマは‥‥滅ぼす!」
ルア・セピロスが投石で追い討ちをかけ、さらに心的ショックを狙い、ページの絵を矢で射る。
「あぁぁあぁぁ〜〜〜!?」
一発でバラバラになった自らの絵を見て、悲鳴を上げるページ。
しかし、もちろんそんな事では済まされなかった。
「失礼致します。ところで、カマ形様はお見受けしましたところ”岡っ引”なのでしょうか?」
盾が彼の側に寄り、ふと尋ねる。
「‥‥」
設定上は、そうなるかしらねぇ‥‥とページがこたえると、盾は悲しげな顔つきになり、
「そうですか、ならば誠に残念ですが、貴方様は「不採用」にございます。同心ならまだしも、岡っ引では一国一城の主には程遠い‥‥という事で、どうか少々六道世界をお巡り下さいませ」
丁寧に一礼すると、薙刀の一振りでバーストアタックを叩き込み、ページの衣服をコナゴナにしてのけた。
「‥‥さて、そろそろ頃合か」
ただ笑い続けるオークを張り倒しつつ天華が呟き、ディストロイ発射。
「ふぅ‥‥えらい目に遭いました。でも、この位じゃくじけません! なぜなら僕は漢だから!」
一旦フライングブルームで空へと逃れたクリスが、腰に手を当てポーションを飲む。
「くぅぅ〜不味い! もういっぱ──」
顔をしかめたその瞬間、ふっ飛ばされてきたゴブリンが直撃、戦いの真っ只中に落ちていく。
「ふ、ふふふふふ‥‥こうなればもう最後の手段‥‥我が内に眠るジャパンの褌力(ふんどしちから)よ! 今こそ目覚めるがいいーーーっ!!」
倒れていた絶狼がふらりと立ち上がり、絶叫した。服が弾け飛んで褌一丁の姿になる。顔の前でなんかの種が弾け、体が金色に光っているような気もするが、たぶん気のせいだろう。
さあ、大衆よ刮目せよ! 今この瞬間より、絶狼の褌レジェンドが始まるのだ!
‥‥と、思われたが‥‥。
悲鳴と共に走り込んできたユーノの馬にあっさり弾き飛ばされ、彼はどっかに消えていった。当然のようにアルト少年も馬に踏まれていたりする。
「‥‥」
レンは‥‥自分のコレクションを見下ろしていた。
突然上から降ってきたクリスが、その上に直撃していたのだ。
ぞわりと闘気が立ち昇り、美しい金髪が揺れた。光る目で振り返ると、カマが石化したみたいに硬直する。蛇に睨まれた蛙ならぬ、破壊神に睨まれたカマである。
当然のごとく、天罰という名のグラビティーキャノンが放たれたが‥‥。
「漢の勝負、女子供に水は差させぬよ‥‥」
シンがその軌道に拾い上げた釜を投擲、術を相殺してのける。
弾かれた釜は、クリスの頭にすこきーんと当たったようだ。
が、シンの言う漢の戦いも、そこまでであった。
天華のディストロイ、レンのグラビティキャノンがそこかしこで炸裂し、華玉は相変わらずストライク連発で暴れている。ユーノの暴れ馬も、縦横に走り回っていた。
その度に大空に舞う、カマとかオークとかゴブリンとか、アルト君とか絶狼とかはっぱ男とか‥‥。
「うむ、今日も良い天気だ。ところで‥‥貴女は何の為についてきたのだ?」
爽やかな笑顔で、ぐったりした従姉妹を乗せた馬を引き、去っていく天華。
「‥‥くふ♪」
なんか大量の荷物を背負い、天使の笑顔でどこかへと歩いていくレン。
「うん、いい仕事だったわね」
「さてと、次の方の面接に期待しましょうか」
華玉と盾も、意気揚々とこの場を後にしていった。
「‥‥ふむ、おぬし達はよくやった。その活躍は、きっと後世にまで語り継がれるじゃろう‥‥わしが回顧録を出す事になったら、きっと振り返ってやるからの‥‥」
丘に累々とその身を晒す男達に黙祷しながら、シンは自分の矢を回収すると、やはり静かに去っていく。
後に残るのは、燃え尽きた漢達‥‥。
だが、彼等のおかげで、カマ城への橋頭堡は築かれたのだ!
仲間の死を乗り越えて、明日へと進め! 誇り高きカマ狩りの冒険者達よ!
‥‥いや、実際は誰も死んではいないのだが‥‥。
■ END ■