●リプレイ本文
乾いた音を上げて、扉に何かが突き立った。
──矢だ。
中程に、手紙が結び付けてある。
扉の中から太い腕が突き出され、それを掴むと素早く引っこ抜き、中へと戻った。身体は見えない。
「‥‥これでよし、と。お膳立ては全て整ったの」
丘の上に立つ城‥‥の絵が描かれた板を前面に貼り付けただけの掘っ立て小屋を眺めつつ、オーガ・シン(ea0717)が満足そうに頷いた。実に人の良さそうな笑顔で。
「来るなら来なさい‥‥カマ」
弓を下ろしつつ、ルア・セピロスが呟く。矢文を放ったのは彼女だ。すでに体中から戦いのオーラを放っている。
「しかし‥‥こんなみえすいた誘いに乗ってくるのか?」
閃我絶狼(ea3991)がふと疑問を口にした。
「くふ♪ とってもだいじょうぶ、なの」
が、その言葉を聞いて、レン・ウィンドフェザー(ea4509)がクスリと笑う。今日も混じり気のない、天使の微笑。何故か今は小坊主風の衣装を着ており、用意された大きな屏風になにやら楽しそうに筆を走らせていた。他の者達には裏しか見えないので、絵柄は分からない。
‥‥レンがはっきり言い切るのには、もちろん理由がある。
矢文には、こう記されていたのだ。
『今からそちらにいい男とカマ狩りが一緒に向かう。首とかいろんなとこを綺麗にして待ってろ』
果たして‥‥。
「いやぁぁぁ〜〜〜んvv いいオ・ト・コ〜〜〜vv」
内側からどばぁんと扉が開かれ、なんか派手な色彩の者達が飛び出してきた。原色キンキラキンの着物を着た将軍様と、同じ格好の取り巻き‥‥ゴブリン達。
「あぅぅ‥‥本当にあっさり誘い出されてきました‥‥あの人達‥‥」
それを見て、細い声を上げる者が約一名。
ジャパンの町娘風の着物姿で、ほっぺと口にぐりぐりと紅で朱を描かれて、背中には”お供え物”と書かれた紙が張られたその人物は‥‥アルト・エスペランサ(ea3203)であった。
「前略、お母さん、お姉ちゃん、お元気ですか。僕はイギリスの平和の為にがんばっています。何故か囮の生贄ばかりで毎日がでんじゃらすでがけっぷちです。この前も筋肉でムキムキなカマに‥‥カマ、に‥‥」
切々と手紙をしたためはじめたが、じわっと目に熱いものが浮かんでくる。
「落ち込むこともあるけれど、僕はキャメロットがとても好きです‥‥たぶん」
‥‥かくんと肩を落とすアルト少年。
でもがんばろう、いつか故郷に錦を飾るんだ。と思い、ぐっと拳を握る。
それも、長くは続かなかった。
「あはははははははは! 砕いていいんですね? カマも、城も、粉々に‥‥は、はは、あはははは! さあ行きましょう囮さん! 正面から行ってカマに滅びを! 奴等の尻を17分割して差し上げましょう!」
「え? あの? わーーー!」
クリス・シュナイツァー(ea0966)がアルト君の襟首を掴み、全力で走り出す。爽やかな笑顔で笑っているが、なんかどこか壊れているっぽい。これまでの戦いが、いろんな意味で彼自身の何かにズキュンとキているようだ。
「よし、俺も行くぞ! 我、掲げるは降カ魔の剣! 褌狼! 流絶!(ふんろう・ながぜつ)」
絶狼もキリリと顔を引き締め、クリスタルソードを作り出す。時間を置いて2本創り、柄の終端を合わせる形で構えた。
‥‥いや、それはいいとして‥‥何故褌一丁になる。
背後では戦いの音楽をリュートを奏でつつ、ガイン・ハイリロードが絶狼の格好を遠い目で見つめている。
記憶を無くすのは仕方がないが、もっと何か別のモノを亡くしてないか‥‥? と、声に出さずに問いかける彼だ。
「ふふふ、出おったな悪の将軍め。噂には聞いておるぞ。幾人もの男を裸痴‥‥ではない、拉致し、どこかの半島に連れて行くそうじゃな! 悪の枢軸とか呼ばれ‥‥うぉ、な、何をする! お主等何者じゃ!?」
‥‥何やらシンが将軍様に指を突きつけて糾弾しようとしたが、腕に『検閲』と書かれた腕章をした黒子集団がどこからともなく現れ、彼の口を塞ぐと、いずこかへと連行していった。
「ふむ‥‥相変わらずよくわからんが、こちらも人の事は言えぬな」
それらの人の動きを眺めつつ、紅天華(ea0926)がひとりごちた。格好は華国の民族衣装を模した儀典服‥‥なのだが、少々スリットが深い。
コホンと咳払いをひとつすると、彼女は長めの赤珊瑚の数珠を手に、良く通る声でこう宣言した。
「心に宿す修羅の名の下に、この世に蔓延る不浄なる者に断罪を! 慈愛と友愛の美少女僧侶、菩薩に変わって仕置きに処す! と‥‥これで良いのか、姐? 私には何の事やらさっぱりなのだが‥‥」
と、大真面目な顔で背後に振り返ると、そこには彼女の従姉妹のニミュエ・ユーノがいる。格好も台詞も、彼女の指示であったらしい。ユーノは満足そうにうんうん頷くと、
「ええ、とってもよろしくてよ! さあ、我々も参りましょうか! 毎回毎回やられてばかりと思ったら大間違いでしてよ!」
カマではなく、自分の馬に向かって指を突きつけた。
が‥‥。
──ぱかーん★
ノーマークだった天華の馬、星(シン)に後頭部を蹴られ、ぽーんと飛んだ所でユーノの馬、月(ユエ)にさらに迎え撃たれ、蹴られる。
「ふむ、見事なパスワークだ。でもって、今まで一番飛距離もありそうだな」
おぼえてらっしゃいー! と顔に足型を付けたユーノが戦場のど真ん中に飛ばされていくのを見やりながら、感心した様子で頷く天華であった。
「カマが男性を狩るのなら、僕はカマを狩る者になってみせます! 目には目を、尻には尻を! 汝右の尻を打たれたら左の尻を出しなさいー!」
レッツダンス中の将軍様とその取り巻きの中にクリスが到着。早速ゴブリン達をスマッシュでどっかんどっかんぶっとばし始める。
「将軍様マン──」
心の準備もできないままに一緒に飛び込んでしまったアルト少年は、シンに教わった合言葉を言おうとしたが、たちまち謎の黒子集団に取り囲まれ、口を押さえられた。
そこに‥‥。
「今日も来ました! 謎のヒーロージェストXさん参上なのです! わるいこちゃんは、まとめて面倒みてあげるのですー!」
エクセレントマスカレードで素顔を隠し、衣装は礼服、という、なんかヤバイパーティの帰りみたいな人物がいきなり馬走拳で突っ込んできて仲間もろとも敵をまとめて吹き飛ばす。
ぽんぽんぽーんと空に舞い上がるゴブリンとかカマとかクリスとかユーノとか絶狼とかアルト少年。
‥‥果たして、ジェストXさんの正体とは?
朱華玉(ea4756)さんからは、事前にこんなコメントを頂いている。
「ジェストXさん? さあ、そんな方、私知りませんわ。おほほほほ」
上品に笑う彼女の荷物から、仮面と礼服が覗いていたのはたぶん偶然だろう。
「うふふふふvv よいではないかよいではないかー♪」
「あーれーおゆるしをー!」
空中では、将軍様がアルト少年の帯を掴んでくるくる回している。
「‥‥さすがは私が見込んだ主力(あるじぢから)をお持ちのお方。見事なぱふぉーまんすにございます。経済力、行動力ともに申し分なく、芸事にも精通してらっしゃるようで」
その様子を、満足げな微笑をもって、矛転盾(ea2624)が遠くから見つめていた。
よーく見ると、なんか全身に歯形をつけたボロボロのロソギヌス・ジブリーノレの姿も空中にあったりする。どうやら盾の願いで内偵に出向いていたようだが‥‥結果はまあ、言わない方が良さそうだ。
「ああ、おいたわしやロソ子様。死して屍拾う者無し、闇に生きる者の哀しさにございますね」
と、目を閉じる盾。が、それも一瞬で、すぐに気持ちを切り替えると、落下してくる将軍様へと近づいていった。
今や将軍というより悪代官っぽく見えるような気もするが、彼女はメイドとして相手を認めたらしい。何をどう認めたのかは、メイドでなければ分からないが。
──ぽくぽくぽくぽく、ちーん‥‥。
なんか妙な音がして、レンの屏風絵が完成した。
「そむさん!」
レンが言うと、
「せっぱ!」
将軍様がこたえる。
「カマはカマでも、りようしたりされたりするもの、なーんだ、なの」
「えとえとぉ‥‥」
「ぶぶー、じかんぎれ、なの。せいかいは‥‥なカマ、なの。えいっ♪」
そして、レンが屏風を表向きにして皆に見せた。
描かれていたのは‥‥これまでに登場したカマにいろんな意味で可愛がられているアルト少年の艶姿‥‥。
その出来栄えは、目にしたアルト君の吐血しながら全身を真っ白にした死にっぷりを見れば明らかだ。
「んまぁvv」
頬をバラ色に染めて落ちてきた将軍様を、盾が出迎える。
「悪代官に身をやつしてなお、カマの誇りを失わぬそのお姿‥‥実にご立派です。将軍様、貴方は全く持って素晴らしい。満点をもっての「採用」にございます。その主力(あるじぢから)を胸に抱かれたまま、私に薙ぎ払われて散ってくださいませ」
慇懃にお辞儀をすると、慢心の力を込めてバーストアタックEX‥‥と思ったが、装備過多だったため、アッパーブロウで迎撃した。
そこに、天華のディストロイ、レンのグラビティーキャノン、ルアの投石、ガインのオーラショット等々が降り注ぐ。
「ふっふっふ、動かぬ証拠を手に入れたぞい! 最早言い逃れはできぬと知れい!」
カマの城の扉が開き、黒装束に”検閲”の腕章をしたシンが現れた。どうやら潜入調査のための自作自演‥‥だったらしいがよく分からない。いずれにせよ、その真実を知る前に、魔法と技の猛威が、城を崩壊させていった。
とどめに、
「羞よ、恥よ、裸よ、尻よ、我に力を与えたまえ‥‥はああっ! 悶絶両断剣!! カマン、ブレ〜〜〜〜ッッッド!!」
いろんなものをかなぐり捨てた絶狼の、渾身のスマッシュEX。
「コレぞ偽りを断つ刃なり‥‥成敗」
崩れゆくカマの城を眺めつつ、自分も他の男性陣と一緒に、仲間とか自分の技の破壊力に巻き込まれ‥‥大空高くぶっとぶのであった。
‥‥かくて、近隣の男を悩ませたカマの城はこの世から消え去った。
だが、それでカマが根絶されたわけではない。
また別の地で、新たなカマが尻を研いでいるに違いないのだ。
彼らが現れるまで‥‥冒険者達にはしばしの休息があらん事を。
特に、この戦いで散っていった、勇敢なる男性陣に、この報告書を捧げるものである‥‥。
■ END ■