♯少年冒険隊コンチェルト♭ 終曲のコーダ
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月24日〜04月30日
リプレイ公開日:2007年05月02日
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●オープニング
●プレリュード
青空を駆ける鳥は雲を越えて行った。
過去という名の記憶を閉じ込めた水晶の輝きは美しい。
歩んできた道は優しくて帰ることを思い出したく無い。
もし過ぎ去って行く時の足跡を今、感じているのなら。
それはきっと、君が成長した証だろう。
伝えたいことがあっても俯いていては伝わらない。だから彼は前を向いた。自分の中にある弱さと立ち向かうことを選び、いくつかの光を見つけ進んできた。そう、今までは・・・・。
言葉の数だけ真実があるとしても選び取るのは、人の意思。
先日村で起きた出来事はたいした事ではない。ありきたりでどこにでも転がっている話。
だが、理想は現実の前に倒れた。倒れた後からみつけるものがあるとしても、理解するに少年は幼い。胸の奥にしまった想いを本人が秘めたところでいつか、噴出すかもしれない。
理由は知っている。諭され納得し、幼稚な自分に憤りを感じた。
それでも彼は、その事実をまだ心から飲み込むことはできない。大人になるという事が何かを失う事ならば、その大切なもの失うことは、自ら立てた誓いを破る事と同じだと彼は思う。だからと言って何が正しいのかは分からない。
プースキン、ボクはどうすればいいのだろう。
少年は空は仰ぎ見て思う。その目に映った青い高みに浮かぶのは、自らよりも強く、高く、そして温かなものへの思い。彼はプースキンの大きな手が好きだった。
触れられるたび落ち着く、プースキンは物言わぬけれど、その瞳は優しい。
湖上に立つ小さな島の隠れ家は、その少年アレクにとってまどろみに誘うゆりかごのようなもの。そう、あのままであるかぎり何も変わらないはずだった。
その過去の安らぎはどこにも無い。会いたいと思っても、今の自分では、まだ会うことはできない。
上を向いて歩いて行きたい、何かを守るために進んでいこう。
少年はあの時、空に願いを懸けた。引き裂かれた日々を忘れないために。
難しい言葉で誤魔化すのは簡単だ、一時の理由をつけるのも良い。けれど結局、嘘であることに変わりはない。
握った拳をどこに向ければ、この気持ちは消えるのだろうか。落ちる粒が零れないように精一杯アレクは空を見上げた。それでも頬を流れていく滴を止めることはできない。
寂しさ・・・・それが彼の胸に満ちる想いの源だから。
そんなアレクの姿を見、ジルは声を掛けるか迷っていた。
いったい何ができるというだろう。疼く痛みは自分の内にもある。背負った影が消えたわけではない。そう思ったジルは歩み寄ったあと、黒い瞳を地に向けて立ち止まる。
このまま立ち去ろう、一瞬そう考えた。だが、それではいつもと同じ。
「こんなところにいたのか? って昔の泣き虫に逆戻りか」
掛ける言葉はいつものまま、特別必要なことなんてきっとない。慰めや同情は俺には似合わないから、ジルはそう思い言った。
その声を聞いたアレクは、掛けられた言葉に返事もせずに走り寄る。驚くジルをよそにアレクはジルに抱きついた。
いつものアレクなら、憎まれ口に反応するはず。ジルはそう思っていた。だが泣きじゃくるアレクにジルは戸惑いを隠せない。
「お、おい」
「・・・・・・どこにも・・いかないよね。ジルは・・・・ずっといっしょだよね・・」
ところどころ詰まりながら紡ぐ言葉、今ここにいるのは真っ直ぐに前を向き、彼に嫉妬を感じさせた、あのアレクではない。
自分の胸元に顔を埋めて泣いている少年が放つのは、とても弱くて壊れてしまいそうな光だ。
ジルは気づいた。アレクはまだ子供なのだ。だからこそ自分が失ったはずの輝きをまだ保っている。その輝きは美しいが、とても脆いもの。
これが試練だと突き放すことも考えた。自らの過去に比べれば恵まれているとも感じる。
少しの間迷った後、ジルは
「ああ、ずっと一緒だよ。お前はさ、一人だと危なっかしくて見てられないからな」
アレクの癖のある赤毛に手のひらを置いたあと、はにかみ照れながらも、優しくそう言った。
●洞窟
滞在していた女学者がキエフに戻った頃、村で一つの事件が起こっていた。
「ニーナ祖父、その話は本当か?」
原色のローブを着たニーナの祖父は、なぜか村人に名前で呼んでもらえない、色々と不憫な祖父だ。とはいえ、彼はかなりの腕前を持つウィザードでもある。
「我輩の散歩の結果、不死の洞窟の奥に地下への階段を確認した」
不死の洞窟とは、先日アンデッドが大量発生した洞窟に名をつけたところである。村より少し外れた場所にある森、その奥にある洞窟のことだ。
村としては、危険な事とあまり良い思い出がある土地ではないため、誰も近づいてはいなかったが、どうやらその洞窟に地下への階段があるらしい。
「時期がまずい、特に危険が無いのなら放置しておいても良い気もするが」
「うむうむ、そう言うとおもったぞ、そこで我輩が私財を投じて調査隊を派遣しようと思うわけだ、というよりもニーナがなぜかあの森と洞窟に行きたがってな」
精霊が守った森に繋がった原因となった洞窟、ニーナは鎮魂の意味も込めて一度足を運びたかったのかもしれない。
「今は微妙な頃合いだ、あまり周囲を刺激しないようにな」
「了解、了解、それでは我輩はキエフに戻るぞ」
村長は要請した警備の軍がいつやって来るのかに気をとられ、この話を流した。それがどういう意味を持っていたのかも知らず。
かくして運命の歯車は静かに回りだした、終曲の伴奏とともに・・・・。
●コーダ
この広い世界の中、一握の砂にしかすぎないなら、今だけでも生きているという証が欲しいと思った。世の行く末なんてどうでもいい。定められた刻印に涙し痛みを感じるくらいなら、手のひらに掴める幸せだけできっと十分だから。
「けれど、それは本当に君の意思なのかい?」
律された砂時計の動きに合わせ、いつでも何かを悟り、分かったように振舞い求め続ける人の群れ、その世界という名の箱庭の上に彼は住む。
高みに立つ使者は、訪れも告げず始まりと終わりを見守り続けるだろう。ゆえに彼は全てを知る者、運命と呼ばれる。
もし、その身に絡まった運命の鎖を断ち切り、未来を夢見るならば、人の子たる君たちは、定めの車輪を打ち倒して進むしかない。
屈して泣き、逃げて倒れるのも許された道。しかし光はその手を伸ばさなければ手に入らない。待つだけの者の前には闇が舞い降りるだろう。
では、聞こう? 君は何が欲しい 光か闇か? それとも違う何かなのか。
輝きの欠片を集めて綴った物語も終曲を奏ではじめた。
その先に続く道はまだ。
――拓かれていない。
●リプレイ本文
●オーヴァーチュア
荷物を詰め終わったあと、ミュウ・リアスティ(ea3016)は、なんとなく自分の胸に手を当ててみた。からかわれるほどでは無いと自分でも思う。
それでも、決して大きくはないことも分かってはいる。とはいえ、これから冒険へ向かうのに、そんな事に悩んでいる自分が可笑しいと感じた。
そう大きさなんて些細なことそれよりも中身、中身。
彼女は一人納得すると、愛用の鍬を握り締め、朝の情景へ歩き出した。
ケイト・フォーミル(eb0516)は、色々な武器を集めて積み込んでいた。話に聞いた悪魔に対する対策のようだ。
しかし、それよりも彼女は少女ニーナの事を思い浮かべていた。
行動の予測できない少女を守るために、自分はいったい何ができるだろう?
対策について真面目に考えては見たが、難しい作戦など大事ではないような気もする。 それよりも、ニーナの傍らに一緒にいて、守ったほうが自分には向いている。
ケイトはそう納得するとニーナの待つその場所へ向かう。
セシリア・ティレット(eb4721)は背伸びをしている自分がいることを感じていた。
その少年に向けてメッセージを贈ることが自分の思いなのか、それとも単に今までの見守ってきたことから来る保護のようなものなのか?
だが、その答えを彼女自身が出すのは今では無いとも分かっている。
今回の旅はどうやらこれまでよりも困難が待っている気もする。自らの言葉を伝えることが出来るかどうかは、これを解決してからの話。
彼女は、そっと自らの唇に触れると気分を戻し、剣を腰に吊るした。
旅立ちを前に、キール・マーガッヅ(eb5663)は自らと同じ血を引く彼らと言葉を交わした。その彼らに頼んだ情報収集やその他の関連事項について確認したあと、キールは家に戻り、無言のまま矢を矢筒につめている。
全て終ったあと、またここに戻ってくるとしても一時の別れには違いない。そう思ったキールは、無愛想な別れを場にやって来たラクへ告げた。キールの挨拶を受けたラクは、明るく答え、励ました。
その後、キールを見送ったラクもまた、自らの愛する女を見舞い看護するため歩みだした。
ジュラ・オ・コネル(eb5763)は・・・・あれ、門ではなくてこっちにいる。
多分坂道で転がっていてギルドにたどりつけなかった結果だろう。眼帯お姉さんが別れの挨拶をしたがっていたようだが、いないのでは仕方がない。
彼女に代わって、今までありがとう。そう、言っておこう。
だが、別に眼帯さんが死んだわけでは無い。
元眼帯さんは、今度は新たファッションに開眼し、キエフで暴れているという噂もあるようだ。
と、ジュラを紹介するつもりだったのだが・・・・横道にそれた、彼女は今回まるごとこっこ装着で「手羽先戦士・チキンハート」どうやらノリは何処でも変わらないようだ。
リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)は普段より朝早く起きると街角に歩んでいた。立ち上がった彼女の背は女にしては高い。道を歩く人々をやや高みより見下ろす彼女は、歩きながらも、浮かぶ考えに没頭している。
推定ではあるが、分かっている事実と問題は多々ある。だが、解決するの手段は、また違うものだ。
導き出す答えと事実の破片を組み合わせながらも、朝の澄んだ空気を浴び気分を落ち着かせた彼女は、旅立ちのために戻る。
リン・シュトラウス(eb7760)はリュートの弦に触れ、そっと爪弾いた。
今までの出来事からして、彼女の中で引っかかることが多い。この一連の出来事には何かしらのつながりがきっとあるはずだ。
リンは、その生まれた疑問を解決するべく、あえて皆と共に行動することを遅らせ調査することを選んだ。
選択が導く答えはまだ定かではないが、決して無駄では無いはずだ。リンはそう自らに言い聞かせると。リュートをもう一度弾き鳴らした。
マイア・アルバトフ(eb8120)は、朝の礼拝を終えた。神の力を信じていないわけではない。でなければ、クレリックなどしているはずも無い。
どちらにしろ、進む道がエゴとエゴのぶつかり合いなら、その最善をみつけるための手段が信仰というものなのかもしれない。
そんな風な疑問が一瞬よぎるが、すぐに消えた。
なぜか珍しく真剣な自分に、どこからしくなさを感じた後。そんなことよりもいい男がどこかにいないだろうか? そう思い周りを見回す彼女。
やはりマイアである。リディアとどちらが先に嫁にいくのだろうか?
シャルロッテ・フリートハイム(eb9900)は眼帯に手をやった。
名ばかりの正義を唱える者に対する下卑たる思いもあるが、それを判断の理由にする自分も、また俗物になりうるのかもしれない。
正義など人の数だけある。自分にとっての正義がどれなのか? シャルロッテはふと考えみたが、そんな事を言い訳するような生き方は本位では無いと感じた。
どうせ斬るしかないのなら、意味など必要はない、正義は理では無くただの方便、そして扱う者の理屈だ。
シャルロッテは剣を抜く。
きっとこの白刃こそが彼女の意志なのだろう。
ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)は古代魔法語で記された書物を手にとったあと、溜息をつき思う。
遺跡か・・・・。
封印が解けた洞窟から湧き出た死者、死者を封印しておくからには何かしらの意味があるに違いない。ラドルフスキーは、それを確認するためいくつかの文献を当たってみた。 しかし、類した記述を見つけることはできなかった。
何があるか、何がいるのかは分からない? としても、やはり行くしかないだろう。
まあ、それはそれでいいさ。
彼はそう独り納得すると、エルフの少女の姿を思い浮かべた。今はまだ子供だが、時が経てば・・・・。
そんな想いが一瞬よぎるが振り払うと彼もまた旅立った。
今ここに十の欠片が集った。回りだした歯車を止める術があるとしてもその方法と手段を、まだ誰も知らない。
●ロザリオ
何者かに襲撃され傷跡を残す村。
その様子を見て驚きつつも彼女は情報を集めるべく活動を開始した。リンは洞窟に向かう一行から離れ村にやって来ている。
その理由を簡潔に述べるなら、黒の僧侶がヴォルニフ領、領主となんらかの関係があるからではないかと睨んだからである。
リンと関係の深いジャンが、彼女の意を受けて調べたヴォルニ領主についての情報。
分かったのは、領主には子供がいたということだけだ。それが養子なのかどうなのかはキエフを調査の足がかりとするのでは、はっきりはしないだろう。
そして彼女は、当初の目的であるロザリオへと向かう、教会は先日の襲撃のさい大きく崩壊し建物としての形をなんとか残しているだけだ。
リンは今にも崩れそうな、教会に踏み入れる。埃と土煙の起こるここにある目的のロザリオは崩れかかった聖像に掲げられているようだ。
理由を言ってロザリオを借りようとした彼女だったが、この状況では村長がどこにいるのかも分からない。
(ちょっとだけ、借りますね)
半ば崩れた像に祈りを捧げると彼女はロザリオを借り受けた。
●情報
キールの今回の情報収集の焦点は、先日手に入れたある依頼についての依頼人についての確認のようだ。彼は親戚であるラクなどの助けを借り、それについてギルドや村人などから手に入れる活動を行った。
手に入れた情報はそれほど芳しいものでは無い。噂に伝え聞く村の襲撃と関係した人物たちも、的を外れていたようだ。
だが、一つだけそれらしい情報がギルドで手に入った。
「そういえば、赤? というか朱色の鎧を着ていたような気がする。使者は無骨な戦士風だったよ」
「戦士?」
「戦士というか、もっと身なりのいい奴だな」
どうやら、それ以上は明確な答えは出ないようだ。村での収集もそれほど成果は出ず、このままでは合流するのが難しいと判断したキールは、調査を断念し洞窟へと向かった。
●洞窟へ
青空の下。
「でさ、アレクは真面目に泣いてんの。俺はびびったね」
陽気な声が道に溢れている。
「ジル君、年下に優しくしないと駄目ですよ」
「えー、ザ・暴力女に・・・・言われたくないぜ」
それを聞いたミュウは、いつもの鉄拳の代わりに鋤を構えた、相変わらず顔は可愛いが胸は無い。その鋤でジルを耕すのだろうか?
「な、仲良いことは良いことだ、うん」
「んだ、んだ」
ニーナを肩に乗せたケイトは、その様子を見て満足に頷いている。
ケイトは最近、壁に隠れていないような気がするが、壁隠れ病を克服したのだろうか? というかニーナが新しい語録を取得したような気がする。だが、微笑ましくないので、ちょっと却下。
「相変わらず、なんていうか平和ね」
白クレリックなのに、少々世間に対して風当たりが強いマイア。愛を説くよりも愛を探すほうが今のところ優先課題らしい。
隣でのほほんと歩いているリディア先生と行き遅れ合戦を演じているが、今のところ30年ほどマイアに分がある。
ただ、あるからといって別に得するわけでもないので、早く行ったほうが良いような気もするが。
「私は、行き遅れではありませんよ」
「リディア君、誰に言っているの?」
「いえ、別に」
なぜか惚けるリディア。
「もしかして、あたしに対する挑戦」
そんな対決をしている暇があったら、キールあたりに紹介してもらえばいいような気もするが・・・・。
「セシリーお姉ちゃん。デートの続きは?」
アレクセイ・マシモノフはこの歳にして、すでに片鱗をみせている。何の片鱗かはご想像にお任せするが、いずれこの男は無愛想を越える鈍感へと成長することであろう。
そう、罪と罰だ。
「続きは・・・・ですよ、アレクさん」
アレクの無邪気なアタックに、セシリーは恥ずかしそうに俯いた。
その緊張感の欠片もない光景を眺めている美しい眼帯の女は、心の中で呆れていた。そこへいつものテンションで走りよって来たのは
「れっつー眼帯仲間!!!!」
鳥が来ました。こっこ、こっこ。少しだけ思うのだけど暑くないのだろうか? そんなこと言い出すと、楽しいまるごと世界が崩壊してしまうので、ここでは忘れよう。
シャルロッテは、羽をばたつかせているジュラを見て茫然としている。
「これもきっと芸術ってやつだな」
その楽しそうな二人? を見て、ラドルフスキーはなんとなくそうは言ってみたが、こっこが羽ばたく姿は芸術なのだろうか。
それでは、にわとりが刀をもって暴れている様子を想像してみよう。
バタバタバタバタ、コケー、バッサリ。
ああ、美しい。これこそ天上の楽園・・・・なんて思うわけない。
「ラドラド、勉強するデス」
「少しは上達したか? ニーナ」
ケイトの肩から飛び降りたニーナが、ラドルフスキーとお勉強タイム。というより歩きながら勉強って可能なのか。そんなことを気にしてはいけない。きりがない。
さて、キールはどうやら、まだこの場にはやって来ていないようだ。
そのせいかジルは手持ち無沙汰のようで、ミュウをからかって殴られ、容姿で差別する男は真の男では無い。そうマイアとリディアに説教をされるなど、とても快適な時間を過ごしている。
そんな時ミュウは、ニーナにこの前のドラゴンについて聞いた。
「ニーナちゃん、どらごんどうだった?」
「今日は持ってきてないデスか」
「もってきてるよー」
「どらごん、どらごん」
ミュウの大事などらごんのぬいぐるみは、ニーナも大好きのようだ。
このように、冒険隊と仲間たちは今日も。
「どっかーん」
「ちょっとニーナ、ラドラドぶっ飛んでるよ」
って、なんですか、 ニーナちゃんとアレク君。せっかくまとめようと思ったのに・・・・
「ラ、ラドルフスキー君。まったく、後で説教ね。とりあえず回復するわよ」
「ニーナ、魔法は人に向けて撃っては、だ、だめだぞ」
マイアが驚いて回復しに向かった、ケイトの言っていることは矛盾しているような気もする。
「やったー!! せいこーデス」
どうやらニーナが新しく憶えた、ライトニングサンダーボルトとかいう奴をラドルフスキーに向けて発射したようだ。
「これだから女ってのは怖いね」
シャルロッテが自分も女なのに、なぜかそんなことを言っている。
「ニーナさん、新しい呪文はアブラカダブラじゃないんですね」
セシリーは相変わらず呪文がお好きのようだ。アブラカダブラはイアイアナントカよりはメジャーな呪文である。
「やれやれ、お子様だな」
ジルがそう言ったが、ニーナと彼はよく考えると数年しか生きている年数が変わらない気もしないでもない。
「惜しい。僕が標的なら、それこそ焼き鳥だったのに」
なぜか悔しそうなジュラ。彼女は、いったいどういう立ち位置を狙っているのだろうか、さらにハイセンスなギャグキャラクター?
ということで、最後に控えるのは先生です。
「ニーナちゃーん、分かっていますよね」
「や・で・す、バイバイ」
そんな逃げるニーナを捕まえるの、そう彼女。
「これもきっと定めなのよ、ニーナちゃん。私だって好きでこんなことは」
と言いつつやる気満々のミュウ・リアスティは、両手を開いて待っている。
暴力反対! でも、分からない子にはお仕置きも必要。
ということで、哀れニーナはお尻叩きの刑に処されたのだった。
めでたし、めでたし。
なのだろうか?
●魔女の森
さて、冒険隊と仲間たちがシリアスのシの字もなく冒険しているころ。
比較的哀愁の旅人を地でいくリンは、問題の核心へと迫るため魔女の森にやって来ていた。例の暑苦しいリースを森の入口にかけた彼女、ちょっと趣味が悪いなと思いつつも、少し待つ。
すると、大きな黒い狼がやってきた。これで二度目の邂逅の彼女、狼はついてくるよう首を振り歩き始める。置いていかれない様にリンは、必死になってその姿を追いかけた。
何処をどう歩いたか分からないが、一度見た風景が彼女の前に広がる。
「それで、何を聞きたいんだい」
通されたリンに魔女はそう聞いた。
「どうして、貴方はこの森に住んでいるのですか?」
リンの質問に魔女は何事か考えていたが、
「この場所が唯一残った過去だからだよ」
そう言って黙ったきり無言のままだ。リンはその重苦しい空気をなんとかしようとして冒険隊について触れてみた。
「ということなんです」
「そうかい、そういえば、さっきロザリオがどうしたこうした言っていたね」
魔女はリンが拝借してきたロザリオを見ると静かに言った。
「もし、その男が私の知っている男なら気をつけることだ。あいつは、悪魔さえも利用する男だ。その目的を達成するため。いや、あの男にとって目的など存在さえしないかもしれないね」
リンがさらに言葉を続けようしたところ遮るかのように、
「仲間がいるのだろう、急ぐことだよ。番犬には飼い主がいる。番犬が服従していなくても鎖がある限り飼い主には違いない、それがどう動くのか分からない。さあ、ジラニィに乗ってゆくがいいさ」
魔女の言葉にリンはたてがみの美しい黒いの狼を、ふと思い出していた。
●影の踊り
番えた弓、軋む弦から放った矢はその影を射抜く。キールは目の前に立つ幻影に向けてそれを放った。
もう何度目だろう、まやかしは実態を伴わず、そこに有ってここに無い。
洞窟で合流し奥へ足を踏み入れた彼ら。障害らしい障害もなく広い空洞へと進んでいた。はじめから予測していた通り、そこにそれは居た。
自然に出来たはずの洞窟に、不釣合いなほど色濃く派手な衣装を身に纏っていた存在を感じたリディアの警告に、臨戦態勢をとる冒険者。
その道化師の姿をしたデビル、ニバスは言った。
「贄か? なかなか良い魂たちだ」
杓杖を振り、舞を踊るかのように体を揺らし始めた悪魔は、歪な三日月の笑みを顔に貼り付けたまま、一歩、また一歩近づいてきた。
すぐさま、魔法を唱えるリディアとラドルフスキー、二重の炎がニバスを包む。だが、焼け焦げた空間から歩むニバス、無傷ではないが決定的とはいえない。
剣を振るい、戦士たちが突撃する。
だが・・・・前衛に立つケイトは幻を見た、幻覚に惑わされ互いに牽制と斬りあいを始める前衛。それを阻止するべくミュウは間を取り持とうとする。
さらにニバスは杖を振った。
眠り、その眠りは覚めることのない安らぎ。落ちていく感覚にセシリーは意識を失う。乱戦となった今、魔法を使う機会も無い。
続けてニバスは漆黒の壁を作り上げた、何物も通さぬ黒い結界。
しかし、マイアの聖なる輝きはニバスを捕らえる、ニバスはマイアを厄介と見たのか、視線を彼女に向け。
いずこと無く消えた。
暗闇の中、ニバスを探すジュラ、何物かに化けているのは確かだろう。背後を警戒していたリディアの視界、だが動くものは居ない。
その時、火炎の柱が燃えあがった。仲間の中心に・・・・
現れたニバスはラドルフスキーの背後にいる。ニバスの呪文により彼を惑った。
自らの意思と反したラドルフスキー、巻き込まれた仲間は炎の渦に焼かれる。
だが、それによって目覚めたセシリーはすぐさまニバスに渾身の一撃を加える。その打撃に、ニバスは呪文を唱えはじめ、次に黒い輝きに包まれた。
それを見たキールは弓を捨てダーツに武器を換えると放つ、突き刺さったダーツの痛みにニバスの顔が苦しみに歪む、続けざまにジュラの刀がニバスを捕らえた。
何度目かの戦い、ニバスの纏っていた衣装はすでにボロのようにも見える、そして冒険者も疲労の極みに達した時。
背後で笑い声が、した。
●終曲
揺らめく灯りに現れた影は、傷ついた冒険者たちの姿を見ると笑い出した。狂おしいほどの何かを秘め、聞く者の心に不安とざわめきを与えるその声は洞窟に響き渡る。
冒険者が向けた視線、そこに在るのは黒い影。闇に紛れた漆黒の僧衣は光の中で禍々しさが際立つ、そして自らの顔を隠すかのようにフードを被った影は、冒険者たちと虫の息のニバスへ歩みよる。
悪魔は、すでに道化師の形を維持できず闇に溶け行きつつある。その命は、もはや消え入る寸前だろう。その様子を見、満足げに頷いた影は両手を大きく交差させた後、胸に下げた十字架へと手をやり言った。
「逝け」
続けざまに放たれた黒い輝きにニバスが包まれる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ、裏切ったがぁはぁ」
憎しみを含んだうめき声ともつかぬ、叫びがニバスの口から迸った。
「弱者に用は無い、欲しいのは力だけ、お前なぞ階段の一つでしかない」
吐き捨てるように影が言い終わると雄たけびは消え。静寂だけ残る。
「さて、約束の地へようこそ。そして、さようなら。お前達」
影の声の後、二匹の獣が現れる。それは滅びの風を此処へ運ぶだろう、始まりが黒ならば終わりもまた黒。伴奏の序曲は今フィナーレを迎えた。
だが、最後にノワールのコーダを奏でるのは・・・・。
彼だ。
●コーダ
シャルロッテを嬲るように、黒の僧侶は鞭を振った。その勢いに倒れた彼女の手放した剣を足蹴にしたあと、僧侶は彼女の眼帯を剥ぎ取ると蔑むかのように
「醜い、醜い、それがお前の心の傷か? 無様だな。悔しいか。だが、弱者は地を這うしかないよな」
顔を蹴り上げられたシャルロッテの切れた唇から血が引く。彼の視線の先にはニーナを守るように抱きかかえたケイト。
「親子ごっこかい。はははは、よしよし。でもな、そういうのは反吐がでるんだよ。それでは、まずお前からにしよう。天国で二人仲良くするがいいさ」
「ニ、ニーナ、大丈夫だ。自分が必ず守る。だから安心しろ」
なんとか動こうとするケイト、僧侶はケイトを守ろうとする他の仲間を制するかのように獣を仕向ける。
「そうか、お前たちで逝くのは嫌か?」
見回した彼の視線に、アレクとジルの姿が入った。彼は愉悦にも似た微笑を口元に浮かべ、そちらを指差して宣告する。
「あれだな、子供は生贄にちょうどいい」
それを聞いた、キールはジルを守るかのように立ちはだかる。そして傍らにいたアレクをセシリーは抱き寄せると、
「アレクさん、約束してください」
その続きはアレクの耳元にだけ語られる、時間はもう無い。
「美しいな、美しい、美しい、美しい、この偽善者どもめ、ならばお前たちから消えてしまえ」
僧侶は、賛歌を高らかに歌い上げる、その導きにより誘われるのは精神を燃やす命の回復。キールはジルに何も言わない、ただ背だけで語る。ジルがキールにその手を伸ばそうとした時。
詠唱が終り、さらに高らかに僧侶は神への祈りを捧げた。
「さて、名残惜しいが、これで終わりだ」
暗い口がゆっくりと牙を向いた、身のうちに命の炎が巻き戻る彼らは各々の武器を構える。その姿を見た黒の僧侶は、ゆっくりと腕を伸ばし一度だけ指を鳴らした。
指先の短い関節の弾く音は、とても小さくて聞き漏らすほどだ・・・・その音色は悲しみよりも憂いと絶望を含んでいた。
鈍く光る十字が煌いた。唱える聖句は神への祈り、力なきものは滅するその言霊は憐れな子羊に向け放たれる。
ここは深い闇の楽園、その楽園を裁きの神は静かに進んでいくだろう。
死の匂いがする終末がやってくる前に、三人はそれぞれの思いに・・・・。
虚空に突き出した手が戻されると、灯火が消え失せた身が大地に転がる。堕ちた全て、静止した瞬間が動き出すまで、誰も動けない。
「ケイト、ケイト、ケイト・・・・」
動かなくなったケイトへ、うわ言のようにニーナが繰り返す。マイアは痛む体を引きずり動こうとするが、圧し掛かった獣の牙を前に切り裂かれる。
そして時と人が同時に動き出すと。
──三つ命は掻き消えた。
倒れた三人を確認するかのように鞭打つ黒の僧侶は、彼らが命を賭けて守った子供達に言った。
「これが現実だ。泣け、命乞いをしろ。それがお前たちの唯一生き残る道。可愛い坊やたちどうするかね? もう何処にも希望なんて無いのさ」
そして彼は笑った、とても嬉しそうに、だがその言葉さえも憎むかのように。
ニバスとの戦いで意識を失っていたリディアは、散った仲間と脅えている子供達の姿を確認した。転がった灯り、暗闇の死角に彼女はいる。
杖を握った彼女は悩んだ・・・・今の自分にそれが似つかわしいとは思えない。そして正しいわけでもないだろう、けれどそれでも、言わなければならない。
だから、彼女は覚悟を決めて、杖指し言った。
「立ちなさい、アレクセイ。貴方は何のために冒険者になったのですか。私はそんな軟弱な生徒をもった覚えはありません。泣いていないで、剣を握り立ち向かいなさい、今がその時です」
「黙れ」
怒りを込めた僧侶の鞭に、リディアは倒れる。
「まったく大人げないわね。欲求不満なんじゃないの、いい大人ってのは、子供の手本になるものよ」
「同感だな。やってくれた礼は倍にして返すぞ」
マイアとシャルロッテは、ふらつきながらも立ち上がった。
「黙れ、黙れ、黙るがいい。この死に底無いどもめ、お前達に何ができる、そんなに死にたいのなら」
「馬鹿だろ、あんた。過去に縛られてる限り、未来なんてのは見れないもんだぜ。いつまで自分に酔っていれば気が済むんだ」
ラドルフスキーは破れかけた帽子に手をやると言った。
「そうです、そうやって被害者が自分だけだと思うのも偽善です。私とか胸ないのに頑張ってたりします」
ミュウの言っていることは、あまり関係ないような気がする。
「そして、僕。僕は僕の生きたいように生きるだけ、それで別にいい、今はこれで幸せだもの」
ジュラは、きっとそのまま変わることはないだろう。
「お前たちは、何なんだ。命が惜しくないのか? 死ぬのが怖くないのか」
動揺する黒の僧侶、その時だった。
場にリュートの音が流れる、それは安らぎにも似た音色、そして深い悲しみを映した音色だ。
「望みはただひとつ、上を向いた時、思い出してもらえるような、生き方。そんな歌を歌うこと。痛みと憎しみに囚われて生きる貴方は、哀しみに苛まれる人にしか私には見えません」
最後に現れたリンへ向け、黒の僧侶は己の中にある何かをぶつけるように呪文をぶつける。
その最中シャルロッテは、落ちていた自分の剣を握る。この一太刀がきっと限界かもしれない、踏み込む足に意思と想いを懸けて彼女は斬った。
袈裟に斬られたその刃に、僧侶のフードと血飛沫が吹き飛んだ。そして現れた顔には彼自身の憎しみの根源である源があった。
●エピローグ
恐慌に陥った僧侶は逃げた、その顔にはシャルロッテがつけた傷を刻みつつ。彼が逃げるのは何度目だろう。昔から彼を知る仲間達は半ば呆れつつ笑った。
そして、リンはロザリオを出す機会を逸した。とはいえ、それよりも今は急を急ぐことがある。
遺体を三つ運ぶ必要があったからだ。
運ばれた亡骸は、すぐに搬送され蘇生されることとなった。
「しかし、三つも死体を出すなんて、結構楽しいお祭りだったようだな」
中年ギルド員は帰ってきた冒険者たちを見て、いつもの調子でそう言った。
アレクたち少年冒険隊は、村が襲撃されたこともあって、ニーナの祖父を頼り、エフに当分滞在することとなったようだ。
アレクの両親は、村のほうに後処理で少し滞在するらしいが、そのうちにキエフにやってくると聞く。
ジュラはジルとニーナに、アレクにアドバイスをするように頼もうかと考えていたが、多分もう大丈夫だろうと判断した。彼女は彼女なりに優しいのだが、ちょっと分かりづらいのかもしれない。
「結局あの僧侶は、何のためにニバスを復活させたのかが、不明ね」
マイアはシャルロッテにその疑問をぶつけていた。
「さあ、なぜだろうな。あの手の輩は懲りないからな・・・・用があるなら、あっちからまた来るだろうよ」
その後ろで
「こら、ニーナちゃん、どらごんを返してー」
「や・で・す」
ミュウとニーナがどらごんのぬいぐるみを持って追いかけっこしているらしい。
それを見たラドルフスキーは、
「元気で何よりだ。いつになったら・・・・いやいや」
嘆息した、当分ロマンスは無さそうだ。
「また、お仕置きでしょうか?」
リディアが発言した瞬間、ニーナの動きが止まったとも言う。
少し離れた場所から彼らを見守るリンは、この平和に相応しい曲を奏ではじめる。
そう、楽しく幸せな曲を・・・・。
太陽の輝きの下、剣を握ったアレクはジルに言う。
「ボクは弱いね」
「そうだな」
「でも、分かった」
「何をだ?」
「逃げるんじゃなくて、みとめちゃえばいいんだ」
「そうそう、開き直りって奴も大事だぜ」
「うん、ずっと選ぶのが嫌だったんだ」
「悩んでるのは、やっぱりお前らしくないよ」
「そうかな、ってバカみたいじゃない」
「バカだろ」
「・・・・ひどいよ」
アレクはもう一度剣を強く握ると、ジルと顔を見合わせ力強く笑った。
●最後の言葉の続きを始めよう
「お姉ちゃん、セシリーお姉ちゃん」
目を覚ました彼女は、眩しさに瞬きを繰り返した。どこかで聞いたことのある声が聞こえる。記憶を巻き戻すと、黒い闇が迫る瞬間で途切れる。
記憶が繋がったということは、きっと自分は生きているのだろうか? そんな疑問の中、意識がはっきりし始めた彼女に向かって、その誰かは湧き出る想いを隠さず言う。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
一呼吸置いたあと、彼女も答える。
「アレクさん、約束忘れないでくださいね」
そのセシリーの言葉に、アレクの頬が赤く染まる。
さあ、今から最後の言葉の続きを始めよう。
【少年冒険隊コンチェルト】 了