♯少年冒険隊コンチェルト♭ OP.2♪
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 25 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月22日〜03月28日
リプレイ公開日:2007年03月31日
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●オープニング
●時の残滓
運命という言葉を聞いてどう思うかは人それぞれだろう。
逆らえないもの、切り開くものどちらでも構わない。
何かを求めた先にある挫折、それはいつでも心に深い傷を残していく。後ろめたい気持ち、悔しさに挫け消えていった光と希望の欠片は、数え切れないほど空に輝いている。
もし、涙の向こうにあるのが後悔だとしても、優しさに流す雫もまた現実。未来に試練があるとして、過去を振り返らず進むしかない。だが、運命は気まぐれに、絶対服従を求める奴隷を創る。
時の刻印、時の残滓は落ちた果実にて食すものは冒す。哀れなれど縛られた鎖に従うのが、愚か者の末路・・・・。
男は、自らの誓いと定めに従うため歩き出した。
●プレリュード
弱さを感じた自分に別れ告げた時に少年は誓った。
何かを守るために生き、誰かを守るために力が欲しい。
きっと誰しも自らの誓いによって道を選ぶだろう、例えそれが何者にも価値を成さず、意味も無く、その背負った傷をいつの日か、見出すことになるとしても。
願った誓いの意味。
それをまだ、彼は理解していない。
教会の聖堂に飾られたロザリオを眺めながら、赤毛の少年アレクは、一人考え事をしていた。剣を握り、冒険をこなす様になってそれなりの時間が経つ、歳に似合わぬ修羅場も幾つか経験した。
確かに、アレクにとって冒険者になることは夢であった。
彼は、友達を守れなかった自分に対する後悔、その記憶と経験が強さを求めるという想いへとつながった結果、冒険者を目指した。
強くなることそれが願いだった。けれど自分は本当に強くなったのだろうか?
幼いながらも、アレクはふとそのような考えに思いを寄せ教会を立ち去った。
春の足音、森の息吹も目覚めるころ、ジルは魔女の森の入口に立っていた。
(色々あったなあ)
彼にとってここ数ヶ月は激動とも言って良い日々だった。それを思い起こすと複雑な想いが胸に中に渦巻く。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか
「ジル、魔女に会いたいのデスか?」
雪だるまをさっきから一生懸命作っていたちっちゃな女の子が、完成した手のひら大のだるまを持ってやって来た。
「ニーナか。せっかく人が想い出に浸ってるのに、邪魔すんなよ」
「ブー、胸の大きさだけ追ってるのほうが、ジルにはお似合いデス」
「ひどい言われようだな。俺をなんだと思ってるんだ」
「変態」
真顔でニーナは言った、ジルは呆れたような表情で
「ちびっ子好きの商人に売り飛ばすぞ」
「じゃあ、青少年好きの商人に売り飛ばすデス」
相変わらず、二人は元気のようだ。しかし約一名が・・・・。
少年は珍しく一人、森近辺を歩いていた。彼にとってもこの森と遺跡は色々な出来事のあった場所。それに対する思い出が無いわけではない。その少年アレクは、ぼんやりと森の木々の中を進んで行く。
そんな時だった。
「そこを行く少年。この森に用なのか、ここは危険だ帰りなさい」
かけられた声に振り向くと、男がいるた。見たことがない男、蒼黒の彩りに包まれた背の高い男。
こうして、アレクは彼と出会った。
●願いの彼方
世に悪は確かにある。だが、裏返せば皆同じかもしれない。
一つ季節戻る頃、村に善良なオーガがいた、オーガは神の名の下に追放される。
時は流れ、ある村人が言った。
「我々の生活のためには仕方がないことだ」
誰も頷かないが否定もしない。森にそれは住み、彼らは森を拓くためやって来た。
精霊は森の守護者、人は森の開拓者。
立ちふさがる木霊に斧持つ村人、何が正しいのかなど誰も分かりはしない。
しかし、意思はいずれぶつかるだろう、それは必然だ。
今日も森の入口に気絶した村人が転がっている。開拓を進めるために森を拓こうとするたび、邪魔が入る。中にいるのはきっと木霊、森の精霊だろう。このまま見過ごすこともできる、けれど村の生活も決して豊かとはいえない。
今また、願いの意味を試すかのように、ギルドに一つの依頼が舞い込んだ。
冒険へGO
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●目的
開拓の邪魔をしていると思われるアースソウルを退治するのが依頼の目的です。
●場所
例の村の近くの森です。魔女の森周辺ですが、彼女のテリトリーではありません。
●用意したほうが良いもの
村の近所なので村までたどり着ければ、後は基本装備とお金があれば、
まず大丈夫でしょう。
●関連事項
今回は特にありません、悪魔の門側に多少関係あるかもしれません。
●その他
依頼目的をどうするかは、皆さんの意思次第です。
アレクが出会った男は、なにやら村人を魔女の森に寄せ付ないため巡回しているようです。
森で何かあったのかもしれませんね。
※登場人物
■アレクセイ・マシモノフ 人・12歳・♂
へなちょこファイター。人を疑うことをあまり知りません、素直で直情型です。
普段より少し大人しめです。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・16歳・♂
それなりの実力をもつレンジャー。
深刻な感情を内に秘めつつも、前向きになろうとしているひねた青少年です。
昔より、明るくなってよかったですね。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
風魔法使いの女の子。ウインドスラッシュ・レジストコールドが使えます。
脳内は、少しまともなお花畑のようだ・・・・。
いつも通り、おつかいできマス。
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●リプレイ本文
●オーヴァーチュア
歩き出した後に残ったもの。
繋いだ二つの手の向こうにあった未来を遠くに眺め、変わらない過去はずっと立ちつくすだろう。楽しかったあの時よりも、悲しみに暮れる日々。その記憶は少しだけの痛み、と一緒に残る。それでも遠い空に輝く光は見守っているだろう、いつまでも。
冒険者達は自らの意思でここにやって来た。この先に待つ出来事。本当は、選ばなくても良いことなのかも知れない。けれど、想いには答えを出す必要がある。その答えがなんであれ、自ら紡いだ糸の行き着く果てを見つめるため。
砕けてしまった欠片。大人になった今も心に胸に残っているのだろうか? 胸に手を当て、その鼓動を感じたい。
もうすぐ、冬が終わる。
赤毛の少年ことアレクは、普段どおりの生活をしていた。とりわけ世情に敏感なわけでも無い彼は、村の深刻な様子に気づいたわけではない。
それでも、キエフから冒険者がやって来るのを友人のジルから聞いた時、何かあったことに多少気づいた。
「でも、最近平和なのに」
アレクの問いにジルは、呆れたように
「お前、相変わらずバカというか・・・・まあいいや。そういや、あの人たちが来てるぞ」
「あの人たちって?」
「ああ、えーとな」
得意げにジルは語り始めた。
「くしゅん」
「リディア君、風邪か?」
村で用意した宿で、今回の出来事について考え事をしていたリディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)が突然くしゃみをしたのを見、キール・マーガッヅ(eb5663)は聞いた。
「いえ、何でもありません。それより、一つ良いですか」
「なんだ」
リディアは少し声をひそめると
「説得、それが効果を成すと考えますか?」
キールは何事か考えていたようだったが
「両者に利害ある限り簡単では無い。不可能だとは言わないが困難だろう。だが、やる前に言っても仕方無い」
「そうですね。私としたことが、これでは先生として失格でしょうか」
リディアの言葉の後に、キールが何事か言おうとした時、後ろで騒動が起きた・・・・ようだ。
「ひゃっほーデス。ようこそ冒険者さんたち!」
「こら、ニーナちゃん、返しなさい」
ちっちゃな女の子を追いかけて、セシリア・ティレット(eb4721)は先ほどから宿の中を走り回っている。
「や、デス」
ニーナはセシリー愛用、幸せの銀のスプーンを奪ったらしい。
「可愛い盗人さんか。とりあえず、俺のマグナブローで捕まえるか、しかしどうして必殺の拳なんだろうな」
ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)は杖を握ると、被った帽子に空いた手の指をかけて言った。あまり深く突っ込まれると困るが勢いというものだろう。
「朝は、畑で鍬職人。農業大好き! ミュウ登場。人の物を盗んだら泥棒さんですよ」
農家騎士、ミュウ・リアスティ(ea3016)はニーナを捕まえるべく、セシリーと挟み撃ち作戦準備中。
そんな様子を眺めつつ。
「・・・・相変わらず賑やかだな。というか、酒はまだか」
「姉ちゃん、昼間から豪気だな」
宿の親父の持ってきた酒を受け取ったのは、眼帯アネゴ騎士のシャルロッテ・フリートハイム(eb9900)。
「酒は女の嗜みだ、とりあえず大ジョッキでな」
それが何杯目かは知らない。ただ、シャルロッテはかなり呑んでいるようだ。
「呑みすぎは駄目よ、体に悪い」
「どの口でその科白を、いったいそっちは何杯めだ」
シャルロッテの隣に座る女、名をマイア・アルバトフ(eb8120)。白クレリック、多分独身。リディアと同じく行きおくれ、エルフなのでかなり遅刻。酔うと絡み酒になりやすい。
「いいのよ。あたしは適用外。愛を広めるためには燃料が必要なの」
どういう理屈かは知らないが、マイアも飲酒中らしい。
「捕まえた! 女の子はもっと大人しくしないとね」
「うー、新入りさん逃がしてくださいデス」
今回初顔合わせのリン・シュトラウス(eb7760)に捕まったニーナ。マイアもそうだった気もするが、彼女はひとまず酔っ払い同士でシャルロッテに任せおくとしよう。
「新入りって。うーん。アレク君を呼んできたら逃がしてもいいよ。女の子もいいけどやっぱり男の子です」
頷くリン。色々不穏当なイベントが起こりそうな気配もする。まあ、昔もそういう事態はあったので良いことにして。
「ニ、ニーナ。返すんだ」
「ケイト、ケイト」
その大きな姿を見たニーナは彼女、ケイト・フォーミル(eb0516)に向かって走り出そうとじたばたしている。
「よ、良い子にしていたか?」
「うん」
良い子はスプーンを盗まないと思うが、きっとニーナの感覚では良い子なのだろう。
「ほら、動きたかったら返しなさい」
リンの言葉に、ニーナはどうするか考えていたが。
「セシリーありがたく受け取るデス」
偉そうにスプーンを取り出したニーナを見て、一瞬怒ろうか彼女は迷った。けれど、ちびっ子と泣いた女性を敵に回すのは辛い、それが人情というものである。セシリーは何も言わずスプーンを受け取ると自分の定位置に入れた。
幸せを呼ぶという銀のスプーン、その幸せに導かれたのかは知らないが、また少年が宿屋に一人。
「ニーナいますかー? ここにいるって聞いてきました」
その赤毛の少年は内部を見て驚いた。カウンターで飲んだくれている酔っ払いが二人、なぜか無意味に散らばっている椅子とひっくり返っているテーブルたち。自分がここに来たのは失敗だった。そんな気分になっていたところ、
「きた、少年!」
リンは嬉しそうにアレクに走り近寄ってゆく。アレクは年上の異性に弱いため、恥ずかしそう。けれどその初々しさがまたいい。
リンが、そんなことを思っているのかは知らない。けれど、ちょっとからかうような態度だ。こうしてアレクは硬直した、このままでは話が進まないため。
「ういーす、皆ここにいると聞いてやってきました」
ジルが来襲した。今日は秘密ファイルは持参していない、ジルがやって来たのを見て、キールが無愛想なりの挨拶を彼に飛ばす。
「ジルか」
「キールさん」
ジルは、キールに懐いているのでしばらくキールと話をしていたが、ずっと赤面現状のアレクを助けに行こうとしたとき。
「おージルじゃないか、呑め、男なら呑め」
「そうよ、これからの男は掃除・洗濯・家事もできて当たり前なのよ」
シャルロッテとマイアに捕まった。
や・ば・い。
ジルは危機感を感じ、すぐそばでニーナと一緒に、古代魔法語のお勉強をしているラドルフスキーへ視線で助けを求めるが
「で、こう読むわけだ」
「そうデスか、ラドラド凄いですね」
いつのまにか、省略されている・・・・ついでに気づいていないようだ。
しかたない。先生だ、先生ならきっと助けてくれる。そんなジルの期待は、
「最近ちょっと太ったので、たまに一食を抜いてるんですよ」
「そうなんですか、私もお誕生日記念に食べすぎちゃって」
「じ、自分も、気をつけている」
脆くも崩れさった。
リディアは、ケイトやセシリーと体重の話をしているようだ。
そんなバカな! ま、まだ最後の切り札、彼女がいた。
「助けて! ぺたんこミュウ」
「ジル君。もしかして喧嘩売ってる?」
笑顔の敵意、ミュウ。秘密ファイルに記されたミュウのサイズはぺたんこ。だが、この土壇場で同じ過ちを繰り返すとは、ジル・ベルティーニ・・・・漢である。
(ジル、それも試練)
キールは、いやいや給仕をさせられているジルを遠くから応援している。
それなら助けろよ! きっとジルの心の声だろう。
その後アレクがどうなったのかは謎である。多分ケイトあたりが、なんとかしてあげたと思いたいものだ。
●二律背反
元々この問題は、どちらにとっても悲劇を生むかもしれない。そうマイアは心のどこかで感じている。白の宗派を信じる身としては、皆が幸せになるのは目的であり願いだ。
しかし、開拓と自然との共存。それは言葉の上では綺麗とはいえ、見方を変えれば開拓する側からの押しつけともいえるだろう。
だからといって、大人げなく彼女はヒステリックに持論を唱えるでもなく、話し合いをを傍観していた。
セシリーとリンは森の精霊の保護、村にたいして森との共存を進めるために説得をする手段をとることを選んだ。リディアとミュウの助力を元に村を説得する気らしい。
ラドルフスキーは、彼女たち提案した打開案について彼なりの意見を加えた。多少否定的要素を含んでいたのは、彼もまた説得は無理だと、どこかで感じていたからだろう。
こうして、説得をするべく動き始めた者もいる。
一人森へ向かったキールは森についての特徴を調べていた。森といっても今だ冬であり木々は半ば枯れている。
この先この森がどうなるかは分からないがキールは、森の可能性を探るべくやってきた。
(本当にここにいるのだろうか)
確かに話しに聞くだけで、実際それが精霊なのかどうかを確かめたものは居ない。だが、森の入口に村人が気絶して放置されていたのは事実である。ただ、凍死しないように配慮はしてあったようだが。
ひとまず、森についての調査を終えると彼、情報を仲間にもたらすために戻る。
キールが森へ出かけているころ、シャルロッテは酒場で剣を磨いていた。彼女は始めから自らの成すべきことが一つであることを知っている。それを行うことになるかどうかは、自分の意思というよりも仲間たちの行動の結果ではあるが。
なんであれ、そこに理由は必要ない。なぜならば、彼女の持つ力を語るものではなく、振るうものだからだ。
酒場で話し合いが終わったあと、ケイトはニーナの相手をしている。ニーナは何も知らず和やかに遊んでいる。これから起こることがなんであれ、彼らに影響がなければいい。
ケイトは、ふとそう思った。
●森
セシリーたちが村人の説得に向かった頃。
アレクとジルは魔女の森周辺へ出向いた。彼らだけでは、危険ということで数名のメンバーがついてきたようだ。
道中、アレクたちは無邪気に森についての話を語った。
ミュウはそれを聞いて、笑顔で、
「うん、すごいね」
どこか心ここにあらず。
そのうちに、アレクが森で出会った不思議な男の話をはじめる。その男に興味があったケイトとラドルフスキーは、すかさず男についての様子を聞きはじめた。
「で、どんな奴なんだ?」
ラドルフスキーの問いにアレクは
「強そうな人かな」
「つ、強そう? 自分よりもか」
ケイトが聞いた。
そういえば、ケイトにはケイトキックや、ケイトスープレックスという荒業がある。ただし使う相手は限定されているようだ。たまに、ニーナに遊びで掛けて喜ばれているようではあるが。
彼女の問いに、ケイトをじっと見つめていたアレクは、
「ケイトさんも強いからなあ、なんとなくさびしそうだったよ」
そう答えた。
「寂しそう、か」
ラドルフスキーの言葉。
そのあと、件の人物についてはそれほど対した情報は手に入らなかった。なぜか、ジルがミュウに禁句をまた言ってしまい、鉄拳を喰らっていたようだが、きっとわざとだろう、意外とミュウはからかいやすいのかも知れない。
たどり着いた魔女の森の近辺、そこには村人は滅多に近づかない。魔女の名前のせいや黒の僧侶が大暴れした騒動なども関係している。だからこそ子供たちにとっては絶好の遊び場ともいえるのかもしれない。
そこで彼らはそれに出会った・・・・。
●村
「心があれば時間はかかれど、お互いに理解はできるはずだと私は思っています」
セシリーの言葉を聞いて村長は言った。
「君は外の人間だ。それに私たちは、君たちに説教をしてもらうために雇ったわけではないぞ」
「けれど、どんな力を手にしても力で訴えてはそれは人ではありません。心だけは強くしっかりと持って失くさないようしないと、今回のことも話せばきっと相手も分かってくれます」
「綺麗事はたくさんだ。では、聞こう。君は我々に飢えて死ねというのか? この村は決して裕福とは言えないし、与えられた目的は達しなければならないのだよ」
どう答えべきか考え黙ったセシリーの代わりに、リンが言った。
「それは先ほどの代替案で」
「その案が軌道に乗るまで何年かかるのかね? 遠くにある利益よりも、目先の報酬。それは君たち冒険者も同じではないのか。私とて無意味に森を拓きたいと思っているわけではないぞ」
「それでは、無闇に荒らさず、今回は畑を作る分の最低限の開拓に留める。このような案はどうですか?」
リディアが自らの考えを示す。村長はしばし沈黙したあと
「何にしても、相手が受け入れてくれるかが、問題だろう」
聞いたリンがさらに口を開こうとした時、扉が乱暴に開き男が駆け込んできた。
「村長! 化物だ、化物が、森」
もたらされた急報は、森から現れたモンスターの話だった。
●森
森の中央にぼんやりと現れた子供のような人型は、こちらを見つけると言った。
「はやく逃げて」
武器を構えたメンバーに精霊とおぼしき物体は早口で続けた。
「奥、奥からやってくる。はやく逃げないと」
何かを警告していることは分かったが、急にそう言われて信じるほど純粋でもない。困ったアレクが、ケイトにどうしたら良いかを聞こうと思った時。
「遅かった、もう僕じゃどうにもならないや、ごめん」
影達がやって来る。森を埋める死人の群れが・・・・。
●村
「ちっ、こんな時に」
シャルロッテは同行しなかったことに後悔した。本格的な探索は戻ってきてから、そういう手はずで、彼らは遊びに出かけた。よってそれに対して彼女が悩むは不可抗力ではある。だが内心問題は開拓以外にもあると予想していた身としては、多少の失策な気分は否めない。マイアとともに準備を済ました彼女は、他のメンバーに先駆けて現場へ向かう。
「やはりこれも、彼の仕業でしょうか?」
「分からない。だが、何かしら関係あるかもしれない」
リディアとキールは、あの男のことを思い浮かべていた。黒の僧侶、黒いフードのあの男が裏で暗躍している? その可能性は捨てきれない。アレクが出会った男とも関係があるのだろうか、二人もまた駆け出した。
「私、間違っていたのでしょうか?」
セシリーはリンに弱々しく聞いた。
「間違ってないと思います。誰だって、自分の意思を通すためには戦うのは当然ですよ。そして、その戦う方法は力だけとは限らない。でなきゃ、私のようなバードや歌なんていらないです」
そういうとリンは自分の楽器を指した。
「ですよね。迷っている暇はないです。今は」
「行きましょう、森に」
セシリーとリンも森へ向かった。
●森の奥
渦巻いた炎に死人の群れは足を止めた。
炎を生み出した魔術師は、続けざまに詠唱に入る。
剣を引き抜き、歩んでくる死体を切り捨てる戦士たち。
「きりが無いな」
ラドルフスキーの精神力もそろそろ限界だ、しかし死人の群れはまだ無数にいる。
ミュウとケイトの振るった剣に死人は土にまた返り、アレクとジルも援護しているが・・・・。
「大丈夫、もうちょっとで皆来ますよ」
明るいミュウの言葉、疲労は隠せない。
押されはじめる彼ら。そして戦線は・・・・崩れた。
防衛線を突破され進行しはじめる死人、倒しても倒しても減らない。いずれそれは森を抜け村を覆うだろう。終りがくるのはいつでも唐突で、無情だ。
●森
彼らが到着したとき、黒い影は森の出口付近まで溢れ始めていた。その行進を防ぐかのように刃を振るう男も一人。彼は凄まじい剣さばきで蹴散らしている。
けれど、やはり数が違いすぎる。ところどころ抜けて進んでくる死人を迎え撃つために皆武器を構えた。
●終りの時
彼女は一人奥に斬りこみ出会った。
それは言った。
「君たちは助けたいのかい、あの村を?」
だから答えた。
「ああ」
「なら、僕の命を使うといいよ。僕はもう疲れた」
ゆっくりと頷くシャルロッテ、彼女は自らの行為を恥じてはいない。今から行うことは一つの正義でもある、いや正しいことなんてどこにもない。これは現実でしかない。
彼女は身をもって近くにいたジルに何かを教えたかった。教えるというよりも見せたかった。
「ジル、そこに居るかい? 一度しか言わないから、良く聞きな。私が今からすることからを逸らすな」
言葉の通り剣は振るわれ、無抵抗にそれは受け入れた。
合流したメンバーは、倒れたアースソウルが消えていく姿を見た。彼の姿が消えると同時に奥からやってくる影の姿も減る。このままなら一掃することも不可能ではないだろう。ただいったい何のために、自分たちここにやって来たのだろう。どこかでその疑問を感じつつ、彼らには戦うことしか残されていない。
いつしか戦いは終わり、村は守られた。
帰り道。
無言の中で、彼の言葉だけが響いている。
「あの森の奥にも洞窟がある。そこにこれらがいて、精霊が何かを守っていた。そして守りきれなくなったのだろう。君達はよくやった。なんであれ、彼は森として生き続けることには変わりはない。自ら望んだことだ、悲しむことはない」
けれど、まだ何も終わっていないことに、皆気づいていた。
●村
リンは、これだけは譲れないとばかりに強く抗議する。
「あの精霊が、村を守っていてくれたかもしれないんですよ。それなのに森を開拓するというんですか?」
半ば、彼女の思っていたことの一端は当たっていた。それを今更さら言っても無意味かも知れない。けれど曲げることのできない事だってある。
「そうです。私も最初からそんな気がしていました。無意味に暴れるわけないんです!」
セシリーも気迫のある声で詰め寄る。
二人の剣幕、出来事の手前、村長も強硬に開拓を宣言することはできなかった。けれど開拓をしないわけにもいかない。そこで一部の森を残し、マイアの提案した記念の石碑立てることを彼女たちに約束した。
話し合いが終わったあと、キールは一人散歩を始めた。
(これで終りか)
共存について否定的であったキールも、今回の事には多少責任のようなものを感じているようだった。
「キールさん?」
キールを追ってきたのだろうか、ジルが声をかける。
「ジルか」
「俺、よくわかんないけどさ。これで良かったのかな」
ジルは、シャルロッテの行為を否定する気にはなれなかった。かといって肯定できるほど世慣れてもいない。
「自然のバランスというものは、人為的にどうすることができないものだ。世界の器は我々の届かないところにある」
「じゃあ、何もしないで諦めるのがやっぱり正しいの?」
「分からない。俺だってまだまだ未熟だ」
珍しく落胆の表情を浮かべたキール。それを見たジルは彼も普通の感情を持っていることに知り嬉しくなった。
「まったく寝覚めが悪い結果よね。最初からそう簡単に行くわけ無いとは思っていたけど」
宿屋でシャルロッテと酌み交わしているマイアは、そうこぼすと一杯飲み干した。
「正義なんてのは、人の数だけあるものだからな。今回は私の意思を貫かせてもらった」
「あら、君に正義は似合わないわよ。どっちかというと横暴とかじゃない」
「言うね。何にせよ冒険者が殺しを生業にしてるのには違い無い」
酒に映った歪んだ自分の姿を見ながらシャルロッテはいった。
「そうよね。そこらをどう教えるのか、それがクレリックってやつなんだけど、あたしはお説教苦手かも。もしかして職選び間違ったかしら」
続けざまに酒をあおったマイアは、何かを忘れるように頭を軽く振ったあと、鈍く光る杯を横目に伏し、想いに沈んで行った。
次の日から森の開拓が始まった。
村を後にすべく準備をしはじめ帰路へと歩みだす冒険者たち。そこへ届いたのは、あの森の一部が燃えているという一報だった。
●鎮魂歌
駆けつけた彼女は、赤に染まった森を見た。
照らし出された森の入口に男は何も言わず立っている。
「これが結末、村の答えだな」
燃え上がる炎を背に立ち尽くす男はセシリアを見、淡々と言った。
「貴方が、どうして? 約束したのに」
「我では無い、誰かは知らぬ。君の意見は確かに正しかった。だが、その正しさは万人を統べる物では無かったという答えだろう。だからこそ、この矛盾した世の愚かさを憎む者もいる・・・・最早、詮無きことだ」
枯れた木々を飲み込み火は広がってゆく。その渦はささやかな想い出を焼き尽くすだろう
「でも、彼は村を守って」
望んでいなかった事が起きた時、軋む心を偽りで隠すか涙で覆うしかない。だが、隠したところで何も変わりはしないことにも気づいている。無力感よりも涙が先にやって来て、こぼれ落ちた。
「優しいのだな。今はあえてそれは甘さと呼ぼう。いずれにせよ我は旧友の森を守らねばならん。小さき友人に宜しく、もう会うことも無いだろう」
翻したマントが消えるまで、セシリアはそれをじっと見つめていた。仲間達が追いついた時、呆然と立ち尽くしている彼女と、赤から灰に染まって行く小さな森が彼らを迎える。
嘘つき。
込めた力をどこに向かわせれば良いのか、彼女は分からない。
誓った約束を守るなんて都合のいい方便だ。いらなくなった時からそんな事は反故にしてしまえばいい。分かっている。だけど、なぜ泣いているかは分からない。
届かなかった想い、精霊に対する悔恨なのだろうか。それもある・・・・けれど、きっと私は信じたかった。それだけだから。
「お姉ちゃん?」
アレクは、なぜ彼女が泣いているのかは分からなかった。なぜなら、彼は知らないから。
「・・・・ごめんなさい。ごめんなさい」
何かに謝るようにずっとその言葉を繰り返すセシリーに、リンとマイアが向かう。
「アレク、来い」
ラドルフスキーは、アレクの手を引くと炎に照らし出される森を見つめ言った。
「綺麗だな。そう思わないか?」
「うん」
無邪気に頷くアレク。
「きっとこれは浄化の炎だな。崩れていく姿は醜いけれど美しい。この世界のようなものだ」
燃え広がっていく森を観察しながらラドルフスキーは呟いた。アレクはそれを聞いて不思議そうな顔をしている。
「??」
「ああ、難しすぎたか。いつか分かるさ。そのためには」
「そのためには?」
ラドルフスキーはアレクを見
「たくさん、勉強しないとな」
自戒を込めていった。
火焔は天高く舞い上がっている。
そこに居た精霊の生きた証、森は灰になるだろう。この行為を裏切りと見るか、必然と見るか、それは見方の違いでしかない。
守る者がいなくなった森、脅威も消え去った場所を耕すことは、村にとっては生きていくためには仕方ないことだ、誰も責めことはできないだろう。彼らにとって正しいことを成したのだから悔やむことも無い。それでもはぜる炎を見つめていると、なぜか痛い。
この朱が静まった後には、黒の世界が覆う。
嘘もいつか本当になる、皆そう信じているのかもしれない。虚偽であることを忘れてしまえるのならば。だが忘れ去ってしまう前に真実を知る者もいる。その真実を知って彼がどう思うのか、誰も・・・・知らない。
●力の価値
「嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ、信じない」
真実を知った一人の少年は、真実を知っていた一人の少年に怒りをぶつけていた。
「どうしようも無かったんだよ」
「そんなの聞きたくない!」
「お子様はこれだから、じゃあどうすれば納得できるんだ。いってみろよ」
ジルの言葉にアレクは黙る。
「ほら、何もいえないだろ」
「ジルはいつもそうやってボクをバカにしてるんだ。どうせボクは何も知らないし、でも、そんなの嫌だ、嫌なんだよ」
「うっさいな・・・・だったらずっと黙ってろ! 被害妄想ですか? 何の苦労もしてない人間の甘ちゃんに、んなこと言われたか無いね」
ジルのいいたいことをアレクは分かっているつもりだった。それでもどうしようも無い気持ちをぶつけるしかない。
「嫌いだ、みんな嫌いだ」
「ちぇ、ならかかってこいよ。まだお前ごとき、ひよっこにジル様は負けないよ」
「ジルのバカ!」
その挑発に乗って、殴りかかってきたアレクをジルは遠慮なく叩き伏せた。そう理屈じゃない。握った拳をもう一度だけ突き出し、ジルは思った。
「キールさん、これでいいのかな」
腫れた頬、でもどこか清々しさを感じさせるジルの顔。キールはそれを確認すると言った。
「お前たちが納得したのなら」
自分もこんな喧嘩をしたのだろうか? その相手が誰だったろう。キールはふと昔を思い出していた。
「また、派手にやったね。ほら、泣かない男の子でしょ」
ニーナを寝かしつけてきたミュウが、泣きじゃくるアレクをあやす。
「まだまだ子供だね、アレク君」
「・・・・ボクは・・・・」
ミュウの言葉を聞いたアレクは、突然部屋から駆け出して行く、すれ違うように部屋に入ってきたのはリディアだ。
「あらあら、元気ですね。何かあったのですか?」
リディアは、ジルを見て察したのか。
「ジル君。意外とやる時はやりますね。見直しました」
「お、先生に誉められるなんて俺も、成長したかな」
「いえいえ、まだまだですよ」
リディアはキールに微笑んだ。
その頃外へと飛び出したアレクは一人。夜空を眺めていた。アレクは自分が悪いとは思っていない。それが正しいと今も思っている。
「アーレーク君。何? やってるのかなあ」
「・・・・・・リンさんか」
リンに一瞬視線を移したあと、アレクはすぐに外す。
「あ、ひどいです。せっかくお姉さんが慰めに来たのに」
「知らない」
「もしかして、大人は皆嘘つきだ! かな?」
無言のアレク。
「私ね、全部を救えればいいなと思ってたんだ」
どこか寂しそうにリンは言った。
「結局、それは叶わなかったけど。でもね後悔はしてないよ。どれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心をこめたか。それも大切な事だから」
「心?」
「私は、自分のできることを心を込めて行った。だけど駄目だった。それならそれで良い。無理だから諦めるのは簡単だけど、逃げないで立ち向かった。それで十分。後悔もしてるけど、今はこれでいい」
そういうと、リンはアレクの肩を軽く叩いてその場を去って行った。
「選手交代ー」
「マイアさん、もしかしてお酒のんでる?」
マイアはどうやら軽く酔っているようだ。
「うん。で、あたしが言うことはただ一つ。世の中に一方だけ正しいことなんてありません。かな」
「なんで?」
アレクは不思議そうにマイア
「その辺は自分で考えましょう、悩んで人は成長するものだから。大きくなれよーあたしの伴侶候補になれるくらいにね」
色々大変そうなので、マイアの伴侶には、あまりおすすめしたく無い気もする。物好きも多分いるから頑張って。ということで、マイアもふらふらと去って行く。残されたアレクはじっと何かを夜空の下で考えていた。
次の日。
ミュウは気持ちはどうであれ、斧をもち灰となった小さな森を農地として変えようとしている。アレクはミュウのに渋々つられられてそれを手伝ったあと、ニーナと一緒にぼんやりと遊んでいた。
「アレク、今日は変デス? それに顔」
「そ、そうかな。こ、転んだんだよ」
「悩みでもあるのデスか」
「・・・・・・」
そこへやって来たのはリディアだった。
「色々、あったようですね」
「リディアさん」
「アレク君、時として人の思いや本能は世界を傷つけるもの。今回の事は残念でした。けれど、何が正しくて何が間違っているか、それは自分自身が決めるしかないのですよ」
リディアのいっていることを、アレクは理解しているかは分からない。それでも聞きたかった。
「ボクは間違ってるの?」
「いいえ、それも答えです。私達の為に世界があるのではなく、世界の為に私達が居る
誰かが言った言葉、力は振る者のためにあるものではなく、振るわれる者にも意味があるのです。それを忘れないでください」
去っていくリディア。
「あいかわらず、先生は良いこというデス」
どうやらニーナは理解しているようだ。
「む、ボクは全然わかんなかったよ」
「アレクはバカ」
「バカじゃない、ニーナまでひどいよ」
昨日のこともあって、ちょっと敏感なアレク、少し空気が悪くなりかけたところに
「こ、こら喧嘩はだめだぞ」
「ケイトー」
ケイトがやって来た。落ち込んでいるアレクの様子をみた彼女は、
「自分でよければ何か相談したい事はないか? 何でもいいぞ」
迷っていたアレクだったが、ケイトに昨日起こったことを話す。ケイトはそれを聞いて、
「自分は仲直りするのが良いと思うぞ。アレクにとってジルが大切なら」
そういったケイトは、リディアの顔を思い浮かべる。だが、ニーナがじゃれついて来て遊びはじめたので、うやむやになった。
どうすればいいのかなんて分からない。アレクはその場を立ち去り、一人歩き始めた。
黒灰に塗れた森にリンの弾くリュートの音色が響いている。哀しげな音色は精霊を送るための曲だろう。その場所に、記念の石碑を建てることは意地でも通した。起こした出来事を紡ぐ義務、それは残った者にあるのだから。
音が止む。
森の跡に少年の影が二つ。
陽気な彼らの姿と自らの想いを重ね合わせ、静かにリンは弦を一度つまびく。少年たちの結末を見届けた彼女は楽器に手をやり、次は明るい曲を奏でよう。
そう思った。
続