光の行先 〜Alef〜
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月28日〜03月05日
リプレイ公開日:2007年03月08日
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●オープニング
●失われた時間
朽ちたテーブルに乾いた黒パンの屑が載っている。
少女は、瞬きだけを繰り返し何も言わず立ち尽す。
ぼろぼろになった壁、埃だらけの床。
何かを求めるように腕を伸しても空を掴むだけ。
左右に少女は首を振ると、伸ばした腕で自分を慰めるように抱きしめた。
その温もりは優しい。なのに、とても冷たいから声もあげずに泣きはじめる。
通りで厳かな鐘が鳴る。
あの日々は失われた時間。
今はもう、ここに。
――誰もいない。
●過去の事件
雪の舞う寒い日の午後、その初老の神父はギルドにやってきた。
「考えすぎだと思うのですが」
ちょうど執務中だった中年ギルド員が神父の話を聞き思い出したのは、頭の片隅に埋もれていた話だった。
「確か、10年ほど前の話だったかな」
「そうですな、それほど経ちましたか」
「キエフの猟奇鬼、憶えてるよ。あの事件はギルドにも色々依頼がきたな。ただ、目撃証言が一切ないうえに魔法で痕跡も探れないのでは、空振りばっかりだった。そういえば目撃者で唯一生き残りの女の子は、ショックで口を聞かなくなった。そんなオチじゃなかったか? そのうちに事件と犯人の話も聞かなくなったが」
「私の話はその目撃者についてです」
神父の依頼は、事件後預かったその生き残りの目撃者についての話だった。
最近、彼女の様子が少しおかしい、さらに見慣れない人影が教会周辺現れたような気もする。気のせいかもしれないが、起こった事件が事件であるので、少しの間保護と警備を頼みたい。
それを聞いた中年ギルド員は首を傾げつつ
「でも、もう事件は終わってるんだろ? いまさら何のために」
「世間が忘れてしまっても、当人の中では何も終わっていないもの。例え忘れてしまったほうが良いとしても、上手くいかないものですな」
「だな、世の中そんなもんさ。とりあえず依頼は受けた、募集してみよう」
景色を見つめる空虚な表情、向こうを見つめる少女。その名をナターシャという。彼女はある事件の唯一の生き残りで目撃者。
しかし、生き残ったことが幸せかは分からない。だが、生きているのは確かであり、全てを失ったことも、また事実だ。
●光の行先
昨日には絶望が蔓延り、今日は虚しさだけが満ちた。世界中のどこを探しても幸せなんてない。このまま消えてしまうくらいなら、自ら時を止めたほうが良いのだろうか? 渇いた心は塵のよう、崩れて積んで、また散り、崩れる。
空の青さが目に痛い。
けれど歌を忘れてしまう前に、もう一度だけ、そう、もう一度だけ。
想い出はきっと心のどこかに残っている。夢で逢えたら、それだけで・・・・。
振り返った空の彼方、雲が風に乗って泳いでいる。掲げた手の平を透かす陽光、吐く息の白さと赤い頬。消えてしまった想いを探していた。
ずっと、ずっと。
遠く地平線、走り出しては何度も転び、雪にまみれる。それでも彼女は手の伸ばす、胸に残る微かな光。
その行先を求めて。
情報便覧
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●まとめ
とある事件の生き残りの少女を保護して欲しいという依頼。
場所はキエフ郊外の教会。確証はないようですが、何者かに狙われているようです。
少女は、話すことはできるのですが、自ら言葉を封印しているようです
可能なら彼女の心を癒し開いてあげて欲しいのですが
それ以前に今さらなぜ狙われるのか? 事件の犯人は誰だったのか?
事件に関係があるのかさえ分からない状況ですので、ひとまず保護するのが先決かもしれません。
ちなみに心を閉じているので、少女の考えは読めません。
※登場人物
■ナターシャ
ナタリーと呼ばれています。ハーフエルフです。
これが本名なのかは彼女が名乗らないので分かりません。
通常は手のひらや羊皮紙を使って筆談するか、仕草と声だけで何かを伝えようとします。
年齢は15ほどですが態度は脅えた子供にしか見えません。整った顔立ちですが平凡で美少女ではないです。
どこか影があるため人の眼を引きます。相手の態度を伺って動くため、痛々しいといえば痛々しい。
うっとおしいと言えばうっとおしい。
男性を極度に恐れるところがあります。特に見た目成年男子の場合、気をつけないとすぐ泣きます。
■中年ギルド員
いわずと知れたキエフ冒険者ギルド所属、無駄飯喰らいのサボリギルド員。
やる気の無さは折り紙つき。珍しく紹介された彼、情報源として今回は結構役にたつかも。
ちなみに裏依頼斡旋でリベートを受け取っていたという過去があるが、知っている人はたぶん少ない。
■赤毛のアレク
少年冒険隊という名を持つポップトリオの多分リーダー。
最近、両親を説得・・・・というより事後承諾完了で、暇を見てはキエフに滞在しつつ冒険者ギルドを尋ねているらしく
ギルドにたまに居ます。
依頼には同行しないようですが、中年ギルド員とお友達なので知りたいことがあったさいに話しかけると
情報の仲介をしてくれる時も、ただ子供のため難しいことは分かりません。そして必ず居るわけでもないようです。
彼について何も知らなくても、この依頼に関してまったく問題はありません。
※注意
事件について性的な事柄とは一切無関係です。よってその方面から突っ込んできてもスルーします。
しかし、実体はもっと酷いかもしれません。
知らないほうが良いことは、世の中には色々とあるものです。それを興味本位で暴くことを目的と
するのなら止めません。知ったことでその重荷を背負うことができるのなら・・・・。
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●リプレイ本文
●情報収集
訪れた男の挨拶を聞き、不精髭を生やした中年の男はあきれたように言った。
「また情報か、お前たちも飽きないことだな」
情報を収集するためギルドを訪れた銀色の髪をもつウィザードであるセツィナ・アラソォンジュ(ea0066)の前にいたのは、先客である黒髪の女戦士クロエ・アズナヴール(eb9405)だった。
目礼を交わした二人は、それぞれ目的である「キエフの猟奇鬼」についての資料を調査するべくギルド内の報告書を探る。先日に既にやって来ていたニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)、マリオン・ブラッドレイ(ec1500)の調査内容と合致するもの以外を探ることが彼らの役目でもある。
中年ギルドは、落ち着かない様子で二人を眺めていた。彼は猟奇鬼の事件とは直接関係はない。けれどソリュート・クルルディアス(ec1544)が言付けとしてよこした幽霊という言葉を聞いた瞬間、記憶のどこかひっかかるものがある。
幽霊。確か・・・・。
「一つ聞きたいのですが」
物思いにふける彼へクロエが尋ねる。
「なんだね」
「裏依頼斡旋とはなんでしょうか?」
無表情のクロエと中年ギルド員の強張った顔。ニーシュがもたらした噂を元に鎌をかけたクロエの言葉に、中年の雰囲気が一変する。
「またか・・・・あの金髪の坊やもだが、詮索は怪我の元だお嬢ちゃん。お互い命は大事にしようぜ」
中年ギルド員の醸しだす鬼気せまる空気に、さすがのクロエも気圧された。この件に関して触れるためにはなんらかの手段が必要だろう。
「そういえば、なぜ幽霊なんだ?」
中年の疑問はもっともである。ソリュートの勘なのかもしれないが、殺人鬼と幽霊が関係する、そんな突飛な発想は滅多に浮かぶものではない。
「貴方の担当した依頼の報告書、これを見たのではないでしょうか?」
そこへセツィナがある報告書を読みやって来た。彼の指摘したそれは中年が大分前に担当した依頼の報告書であった。
以下に報告書の詳細を挙げておこう。
【退治の始末】
表向きは、ゴブリン退治の後始末依頼。
だが、報告書によるとなんらかの魔力が施された洞窟で、魔法実験を繰り返していた月魔法使いの暗躍により、前任の退治に向かった冒険者はすでに殺害されていた。その背後には貴族が関係していたとも言われるが定かではない。
周辺情報としては、村に曰くありげな昔話の存在。洞窟内部に一対の墓を発見。
【幻影の慕情】
同洞窟に現れたゴースト騒ぎの顛末。
報告書によると、ゴーストは二体いたが一体は浄化、もう一体は村人に憑依したまま逃走、その後村人は街道付近で無事発見される。洞窟内で発見された墓と退治の始末の昔話に関する補足として、この洞窟に昔追われて逃げ込んだ夫婦がいたことが発覚。
彼らはある貴族の手により殺害されたと推測される。なお、当時夫婦には子供がいたらしい。
追記、情報収集の結果。
【キエフの猟奇鬼】
キエフに名だたる犯罪者の一人。
しかし、その実態を誰も知らない。犠牲者は把握しているだけで20人以上。
特徴としてはやや裕福な中間層で子女をもつ者、それに限定して殺害されたところにある。目的は金銭ではないらしく現場から金品が持ち去られたことはない。
なお、その殺害方法は常軌を逸しているため、詳しくここでは触れないが、原型を止めているときと無いときの二つがある。どうやら殺人を芸術として扱うタイプらしい。
官憲も動いたが、足取りは一切つかめない上に動きも鈍かっため、その背後では色々な噂があったものの、いつのまにか騒動自体を聞かなくなる。
目撃者は、最後の事件と目されている事件で生き残った女性のみである。
(代わり映えしないですね)
セツィナはさらに調査を続けていた。だがどれを見ても先日持たらされた報とあまり変わらないものだった。これ以上の情報を得るのは難しいと考えた二人は、ギルドを後にして一度教会へ向かうのだった。
やや西から陽射しが照ってくる。
西日とはいえ暖かいことに違いない。そう感じながらも、春の足音に溶け始めた雪を踏みしめ男は歩いていた。ささやかな望みながら、出来るならば光の灯火を掲げその先を照らし出したい。それがきっと騎士である自分の務めだから。そう思いつつニーシュは腰の剣止めを軽く触れる。
そんなニーシュの様子に連れ立って歩くマリオンは気づくと声をかけた。
「剣が気になるの?」
かけられた声に明るくニーシュは返す
「ウィ。いえ、たいしたことではありませんよ」
そう、たいしたことではない。
だが、この守る力でさえ凶器になるのなら、その力に傷つけられた者は刃を見てどう思うだろうか? ニーシュは、皆でナタリーに挨拶したさいの脅えた目を思い出す。
「さっきまでの軽口はどうしたのよ、いきなり黙られると怖い」
「これはマドモワゼルにいらぬ心配をおかけしました。お詫びに今度お茶でもいかがでしょうか?」
「まあ、考えておいてあげるわ」
「期待しています。しかし、思ったよりも口が堅いですね」
「そうね、というよりも何も知らないと言ったほうが正解かしら」
二人は事件現場の調査にやって来ていたのだが、それほどの結果は得られなかった。事件自体を覚えている者は多数いるのだが、その内容について詳しく知っているものいない。
「今日はこのあたりで切り上げましょう。夜になる前に戻らないとね」
空を仰いだマリオンの言葉通り、陽は西に向かって走り始めていた。
●教会
「人影とナタリーの様子ですか?」
神父に話を聞くべく部屋を訪れたソリュート。やや吊りあがった糸のような目、そこから向けられる視線に何を込めているかは計りかねない。
彼女の質問を聞いた神父は暫し考えると言った。
「そうですね。単数だったような気もします。あの子は普段から脅えたような態度ですが、特に最近それがひどいのです。満足に眠れないようで生活も不規則になり疲労が蓄積している」
「失礼ですがこの教会、随分と小さな規模ですね」
「お恥ずかしい。私は黒の宗派ではなくセーラ様を信仰するもの。ロシアでは肩身が狭いのであまり公に強く言える立場でもなし。支援してくれる方も多いわけではありませんので」
神父は苦笑いを浮かべた。ソリュートはそれを聞くと、礼を言い警備に戻る。
不審な点は多い。しかし目的がナタリーならば、いずれあちらから尻尾を出すだろう。彼女はそう納得すると歩みだした。
崩れる様に見とれていた。
戻れないのなら逃げればいい。それでもなぜだろう諦めきれない。
朽ちていく姿が瞳に残るから、精一杯唇を咬んで我慢した、なのに駄目だった。
溶けてしまえば全部、そう全部。泣きたい、泣きたい、泣きたいのに何も零れ落ちない。だからいいんだこれで。
もし、流した涙の分だけ清められるならば、神様お願いです。
私をここから救ってください、助けて。
「生きることは罪なのだよ。分かっているね」
囁かれる言葉、立ち尽くす間に噴き出し浴び生ぬるい、嫌だ。
「思ったとおりだ。汚せば汚すほどその光は増す。だが」
翼は二枚の望み、望みゆえに絶した場所に生まれたそれは何もかも奪い去り飛んでゆく。緋色の羽が舞い散った、汚れた翼は濁った彩りのまま羽ばたきはじめる。嘘でもいいの、いつかその日がくるまでは、無力だから何もかも、だからお願い。
瞬間、赤い闇に閉ざされた。
夢? また、あの夢だ。
陽の落ちる頃、目を覚ました彼女は、起こした視線の先にまだ見慣れぬ人影を見た。
「おはよう、お昼寝ですかー。って暗い顔だねえ、相変わらず。笑顔は子供の武器なのにね。もったいないよ、うん、もったいない」
ちょっと年増。もとい、妙齢の低身長女騎士アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)は、椅子に逆座りし背もたれに体を預けると足を動かしそれを揺らしている。
起きたナタリーは、その姿に戸惑いつつもアスタルテへこくりと礼をする。ちなみにどちらが子供に見えるかというと、ナタリーの身長とアスタルテはほぼ同じため、一見すると行動は・・・・これ以上は何も言うまい。
「元気だして、お姉さんとあそぼう!」
胸はお姉さんのアスタルテの誘いにナタリーが戸惑っていると、ノックが数回。
「ヤグラです。食事運んで来ました」
扉を開いて現れたのはヤグラ・マーガッヅ(ec1023)だった。彼の姿に目を伏せたナタリーにアスタルテは沈んだ空気を取り成すよう努めて明るく振舞う。
ヤグラは、おずおずと食器を受け取ったナタリーに微笑みかけると、何も言わず扉に向かう。
立ち去る彼の背後で、アスタルテの陽気な声と彼女の連れてきた愛犬セイバーのはしゃぐ鳴声が響いていた。
夜は更ける。
「どうぞ、夜食です。味は保障しかねますが」
見回りを終えたロザリー・ベルモンド(ec1019)にヤグラが差し入れを持って訪れていた。
「あら、気が利きますわね。よい調理人になれますわよ」
「誉めるのは、食べてからにして欲しいのです」
夜気に冷えた身体に、湯気が立つカーシャをかきこむロザリー。その姿にもどこか気品がある、生まれは案外高貴な出なのかもしれない。
「美味しいですわ。卵が塩気を上手くまとめています。いずれ当家専属に」
「自分には過ぎた言葉です。謹んでお断りします」
真面目に返すヤグラにロザリーはおかしさを隠せない。
「そういえば、ナタリーさんの様子は?」
「思ったよりもひどいですわ。アスタルテさんがなんとか相手をしてらっしゃるようですが」
「アスタルテさんも面白い方ですね」
「そうかしら、わたくしはあなたも面白い人だと思うけど、そういえば手紙が届いていましたよ」
「自分は普通ですよ。手紙によると伯父も空振りだったようですね」
ヤグラに届いた調査結果にも芳しいことは書いていなかったようだ。
「残念でしたわね」
「ですね、それにしても寒い」
冬の終りとはいえロシアの夜は冷える。ヤグラが身震いを一つした時、扉が特殊に叩かれた。
「どうやら、いらしたようですわ」
「では、皆さんに起床してもらいましょう」
ヤグラは立ち上がった。
包囲された教会、乱戦、影が襲う。
一つはニーシュが受け持った。
一つはクロエが叩き潰す。
一つはロザリーのレイピアの白刃が光った。
剣もつものども全てにあてがわれる闇。だが、それは寸断の証。
纏まらざるゆえ、唯目的一つ。
「ここから先は通さない、子供を襲うなんてそれが大人のやることかッ!」」
女の後ろ震える体、守らなければいけないものがある。例え、自らの身体を盾にしてでも、弓を構えたアスタルテを前に剣が光る。
・・・・仲間はまだ来ない。
セツィナの放つ魔法に吹き飛ばされた影は一つ。きりがない数の差が大きすぎる。
その状況を冷静に見つめるマリオンは、敵の実力はたいしたものではないのに気づいた。問題は数の差だろう。見張られていたのは結局どちらも同じらしい、けれど今は攻撃するしかないのに、何もできない。 彼女の魔法では味方も巻き込む、歯がゆいままに見守ることしかできなかった。
蹴破った扉の先に女は立っていた。
「無事ですか! ルーテさん」
「遅い、遅いぞ。デートで女の子を待たせるなんて無粋もいいとこだよ」
「パルドン、道が込んでいましたので」
「口が減らないなー、ごめん私疲れた。あと頼むね、ちょっと色々痛い」
小柄な身体を傷だらけにして倒れこむアスタルテを、ニーシュが抱きかかえるように支えた。
そこに、続けて現れたクロエに彼は言う
「ナタリーさんを頼みます。これはこれで役得ですしね」
クロエはそれを聞いて緊張を解く、目の前の少女はじっと彼女の瞳を見つめている。
「もう、大丈夫ですよ」
ナタリーにクロエは一歩進む、それは過去との出会いだ。
自らの中に眠る傷跡をなぞり忘れていた記憶と対峙する。それに何も感じなければどれだけ楽になれるだろう。
「忘れることと、忘れたふりをすることは違います」
道化は所詮仮面、仮面の中で泣いていたとしても誰も気づかない。だからこそ、自分の姿を探り、手を差し出すしかない。
クロエは言った。
「私も弱いのです。きっと同じ。だから、心を・・・・いえ、私に言える科白ではありません。ただ」
その後ろ姿、ぎこちない動作で歩み寄るクロエの背中に、少女の面影をニーシュは見た。
(人は抱えたものが色々あるものですね。これは見なかったことにしましょう)
そう思った彼は、アスタルテを抱きかかえ治療をするべく、ヤグラの元へと立ち去った。
●朝が来る前に
襲撃後、残党は逃げるか自ら命を絶った。倒した相手も身元については一切、明かすものがない。
だが、確実にナタリーが狙われていることはこれで判明した。相手が何かはまだ不明ではあるが、性質の悪い相手であることは間違いないだろう。
薄らいでいく夜、それをぼんやりと教会の外、肌を刺す冷たい空気の中でロザリーは見送っている。
「ロザリー君」
掛けられた声に振り返った彼女。
「クロエさん、それにナタリーさん」
クロエに手を引かれ、やってきたナタリーにロザリーは驚きつつも
「彼女の相手をして欲しいのです。一緒にいるだけでも良いです」
「そうですわね。でも、わたくしでよいのかしら?」
小さく頷いたナタリーを見たクロエは何も言わず、ロザリーに任せると立ち去った。
「さあ、何の話をしましょうか?」
微笑むロザリー、朝はすぐそこまでやって来ている。
(聖別された場所で、血生臭い行為とは野蛮ですね)
振るった剣を拭い、礼拝堂から出たソリュートは遠くに教会へ戻るナタリーたちの姿を見た。二人の姿を見送ったあと、今度一緒に絵を描いてみるのも面白いだろう、彼女はそう考えていた。
その時。
背後に一瞬気配を感じソリュートは振り向く、朝もやの中、晴れていく闇に立つ人影はゆらゆらとおぼつかない足取りで歩いている。影の不審な様子に剣に手をやったソリュートの緊張が高まった。どれだけ時が過ぎたろうか、顔を出した太陽に闇が払われる寸前、人影は去っていった。
あれは何だったのだろう? その疑問を胸に、ソリュートは誰もいなくなった場所をずっと見つめ続けるのだった。
続