●リプレイ本文
晴れた日の朝だった。
礼拝を終えたナターシャ・アスガルズの元に、神父がやって来て急に言った。
「ナタリー、式だよ」
「式? ですか」
起き掛けで、整っていない金髪に手をやったあと、ナタリーは軽く欠伸をこらえながら聞き返す、どうやら昨日は夜更かしをしたらしい。
彼女の目の周りが腫れぼったい、
「結婚式だよ」
「結婚! 私、神父様とは親子だと思っていて、その、確かに今まで、心の準備」
ナタリーは動揺した。
神父に好意がないわけではないが、さすがにそれは困る。
一人で慌てているナタリーを見て、神父は、
「誰も、私たちの結婚式とは言っていないよ」
「え、じゃあ誰のですか?」
「来ればきっと分かる」
含むような言い方をした後、神父は微笑んだ。
クロエ・アズナヴール(eb9405)は、丘の上に立つ教会を眺めた後、歩き出した。
彼女にしては珍しく、赤それも礼服だ。
元々どちらかというと、陰のある大人の女性ではあるため黒がやや似合うのだが、今日は赤を基調としているようだ。
結婚式に露出度の高い赤。
大胆すぎないか、クロエ・アズナヴール。
教会を訪ねると、彼女が出迎えた。
「クロエさん!」
「元気にしていましたか、ナタリー?」
ナタリーは、クロエに抱きついたあと、皺がよったドレスを見、やってしまった。そう思いつつ、照れ隠しに言った。
「今日は黒くないのですね」
「式ですから」
「クロエさんが結婚するの? 誰と」
ナタリー微妙な嫉妬を感じた。
「私ではありません。そのうちに分かります」
クロエもまた、含むような言い方をした後、微笑んだ。
ロザリー・ベルモンド(ec1019)とヤグラ・マーガッヅ(ec1023)がある意味今回のメインなのだが、その前に。
マイア・アルバトフとユーリィ・マーガッヅに永遠の愛を。
「ユーリィ君、幸せにしないと地獄に落とすわよ。なんてね。幸せにして頂戴。これからたくさんね」
「???????????? え」
話を一つも通してなかったらしい、いいのかそれで? 押しかけというより強奪女房という感じだ。
お幸せに。
ルイーザ・ベルディーニとケイト・フォーミルに永遠の愛を。
「まぁこんなあたしでいいのなら。元々大好きだしね。誓い、一緒にやろうかケイトちん」「じ、自分でよいのか」
おいおい、百合は教義違反だろう? いや神様は余所見した。
みないふり、みないふり。
お幸せに。
こうして行き送れ三羽烏のうち、二人を行ってしまったのでした。残された彼女は隠遁するのだろうね、きっと。
──控え室に通された、ロザリー。
の元へ、やってきたのはヤグラの親族? である杏である。
「困ったときはいつでも相談に乗るわよ、夫婦生活とか特に、ね?」
杏が夫婦生活で役に立つのか、かなり疑問ではあるが、とにかく杏はヤグラには姉妹が七人居る話をして部屋を去る。
「ロザリーさん、おめでとう」
入れ違いにナタリーが入ってきた。
「ナタリーさん」
手を取り合う二人、和やかな事で良い。
ちなみにロザリーは、神父にナタリーを養子にする話をしたらしい。
「あなた達は、ご自分のお子様を育てるよいでしょう。ナタリーに会いたければ、ここにいるのですから」
と、真っ当な返事をされて諦めたらしい。
「ロザリーさんが結婚するのだ! びっくりした。相手はヤグラさんなのだ、そのプロポーズの言葉って」
ヤグラのプロポーズの言葉は、確か
「毎朝自分の作った朝御飯を食べてください。ですわ」
ヤグラは会ったときからその言葉を用意していたそうだ。狙いすぎ。
「ロザリーさんは、料理をしないの」
ナタリーの質問に、
「わたくしは、そういうことをしたことがなくて」
ロザリーはそういえば、どこかのお嬢様という触れ込みだった気がする。
「あ、良かったら私教え」
「やります。ええ、力いっぱいやります。やらせていただきますわ」
ナタリーが言い終わる前に、ロザリーは即答した。
ということで、式の後とロザリーはナタリーと一緒に教会で家事の勉強することになったらしい。
──控え室に通された、ヤグラ。
ヤグラ・マーガッヅの前に、アレクセイ・マシモノフという少年がいる。
彼自身は彼と面識がないような、あるような、思い出すのも大変なので、ないことにしておこう。
しかし、色々あってなぜか知っている。
そしてアレクがここにいるのは当然、け・つ・こ・ん・し・き。
おねえちゃんに、責任をとってもらおう。
「はじめまして、結婚って何するの?」
「一緒に暮らして愛するのですよ」
そう言った。
「い、いっしょに、愛、僕」
ヤグラの言葉にアレクは、なぜか赤面した。
「好きなら当然のことですよ」
ヤグラはにこにこしている。
さて、それでは。
──メインイベント
セシリア・ティレット(eb4721)。彼女の名前は、ある意味伝説となるだろう。
一部の分かる人間にとってでしかないとは言え、彼女は、
「赤毛を奪った人」
ちなみにアレクの身長は、セシリーより少し高くなったので、釣り合いは取れはじめている。
アレクは、式の会場に彼女に連れて行く途中言った。
「お姉ちゃん、じゃなくて、セシリー。僕で本当にいいの?」
「はい、アレクさん」
「さんじゃなくて、僕も名前でよんでほしいな」
「はい、アレク」
無事、儀式を終えた。
セシリーはアレクに手を引かれ会場へと向かう、それでは式に移ろう。
式の会場では、粛々と進行が行われている。
組が多いため、準備に手間取っている。
そんな中、無表情で見ているのは彼女だ。
マリオン・ブラッドレイ(ec1500)。
この子は、相方は微妙な関係で終わった。
あえて言うならもう少しだったものを。いや、これは心の声だ。
彼女にとって、結婚式というイベント自体を理解するよりも、どちらかというと。
「あの似非お嬢とクロエを楽しませるわけにはいかない」
的はところがあるのかもしれない。
さすがに、式場で大爆発を起こするわけにも行かないので、今のところ大人しくしているが、さて
「そういえば、ナターシャちゃん好きな人がいる?」
ちょうどナタリーの横にいたアレーナが聞いた。
ナタリーは、
「好きですか? よくわからないな」
マリオンは、
「好きという単語の意味自体が分からないわ」
と答えた。
「二人とも面白いね、さてそろそろ誓いのキスかな」
アレーナが言った。
白馬の王子様を目の前にしたロザリー。
神父は言った。
「それでは、誓いの口付けを」
極限の状況に混乱したロザリーがー急に。
「え、えーと、私はいかなる時でも体の弱い夫に無理をさせたり心配かけたりせずに二人三脚で幸せな家庭を築いていくことを誓いますわっ」
(それは、先ほど私が話しました。今は黙って目を瞑ればきっと)
神父は小声が囁いた。
ロザリーはそれを聞いて目を瞑った。
相手であるヤグラは、意外と冷静で、ロザリーの唇を目指しすんなりと・・・・・・。
どっかーん! なんだ暴発か!
「私の好意よ、受け取っておきなさい」
マリオンが花火代わりにやった。さすが期待を裏切らない女。
「マリオンさん、今がいいところなのだめだよ」
ナタリーが言った。
「そうですよ、せっかく私は過去の回想に浸っていた良いところで何てことを! 許しません」
クロエは脛に傷があるようだ。
「うるさいわね、私の贈り物なのよ、似非お嬢への、もう一回」
アレクはセシリーをお姫様抱きしてその場から立ち去った。
ヤグラはいいところで邪魔されたが、続きは夜にすれば良いと思い、料理の配膳に回った。
クロエとナタリーはマリオンを追いかけて走り出す。
ロザリーはヤグラの親族に挨拶周りをした。
こうして式は、無事? 終わったらしい。
そうそう式の後の話だが。
クロエは、ナタリーを呼んだ。
「ナタリー、君はこれから強く生きていけそうですか? もし駄目そうなら何時でも頼ってください。世界中のどこにいても駆けつけますから」
「クロエさん。嬉しいな」
「私の剣、君に捧げてもいいですか? まだ誰にも立てていない騎士の誓いを。ナタリーは私にとってとても大切な人ですから。…これではまるで告白ですね」
ナタリーは捧げられた剣を取ると厳かに言った。
「クロエ・アズナヴール。汝の剣と忠誠を受け入れる。その剣を持って私を守り、私の盾とならんことを。これでクロエさんはナタリーの騎士です。よろしくね」
クロエはナタリーの差し出した手の甲に誓いの接吻をした。
残る一人。
フォックス・ブリッド(eb5375)はナタリーにプレゼントを用意して来ていた。
彼はナタリーに一人告白をするために来た。
「今日は少しだけ背伸びしてもいいのだよ」
用意した贈り物にその言葉を添えて。
そして、彼は式が終わったあと、ナタリーを呼び出しはっきりと言った。
「好きです、君を幸せにさせてください」
驚いたナタリーは、フォックスを見つめ、少し考えていたが、
「フォックスさん、うれしいです。でも」
ナタリーは後ろを振り返ると。
奴らがいる。
これに関して、どうするかはナタリー自身の意思もあるが、ロザリーとクロエの意見が必要だろう。
「却下ですわ」
「無理です。奪うというのなら私を倒してから行きなさい」
まず、この人たちをなんとかしないと、ナタリーはあげられないようだ。
ナタリーはひとまず、彼の告白を断った。
「あの、ごめんなさい。嫌いとかじゃなくて」
殺気にも似た視線を感じつつ。フォックスは、納得したというよりも、
「これを」
一組の指輪を預けた。
「いつか、迎えに来ます」
ナタリーはその指輪を受け取ったあと、何気なくフォックスからもらったリボンを彼の帽子につけた。
フォックスがリボンに目を奪われた時、ほんの一瞬だが彼の頬を何が触った。
それは背伸びをしたナタリーが軽く唇を触れたもの。
「またね、フォックスさん」
笑顔とその言葉を残し、ナタリーは去っていった。
呆然としつつフォックスは、まだ温もりの残る頬に手をやった。
ナタリーは自分の部屋に戻ると、預かった指輪を小箱に閉まった。
フォックスが、今度いつやって来るのかは、まだ分からないが、まあその時は・・・・・・。 考えてみてもいいかもしれない。
君へ花束を。
次の花束を君に。