♯少年冒険隊シンフォニー♭ 『帰省』♪
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月01日〜08月07日
リプレイ公開日:2007年08月09日
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●オープニング
●これまでのあらすじ
キエフより少し離れた開拓村に、アレクという男の子が住んでいた。
アレクは、村外れにある遺跡に住むオーガと友達だった。
そのオーガは暴れることもなく遺跡に住んでいたため、村人とお互い仲良く距離をおいてくらしていた。
そんなある時。
村を訪れた黒い装束の僧侶が、オーガを追放するように村人をそそのかした。
その話を聞いたアレクは、村の近くにある魔女の森に住むという魔女の力を借りることにした。
森の魔女に出会ったアレクは、彼女の助言によって冒険者の力を借り、僧侶を撃退する。しかし、一度こわれた信頼が元にもどることはない。
オーガを魔女にあずかってもらうことなり、自分が無力である知ったアレクは、冒険者を目指すようになるのだった。
村に住んでいた友達や、訪れた冒険者達といくつかの冒険を経て、冒険者となったアレク。
その前には、宿敵ともいえる僧侶の影が忍びよる。
どうやら僧侶は、遺跡に封印されていたデビルを復活させるために動いていたようだ。
封印されていた洞窟で、復活したデビルと冒険者たちが対峙する。
冒険者の前にデビルが敗退するのを見た僧侶は、自らの手でその息の根を止め、立ちはだかる冒険者と戦い敗れると、その場から逃げ去るのだった。
●ソナタ
粉塵舞いゆき、焦げた匂いが鼻を刺すそこで、男は崩れゆく様を見ていた。
立ちのぼる煙の中、男が何を思いその場を進むかは定かではない。あるいは何も思わず歩むだけなのかもしれない。
かねてよりの約定を果たした衝動を絆と呼ぶのならば、その絆は遠い過去のおぼろげな記憶の底に沈むもの。
落ちた意識を現世に巻き戻したのは、かすかな翼の羽ばたき、その音に混じった問いに彼は振り返る。
「招待を受けるかどうか? 貴方の意思しだいです」
宵闇より来たる使者は、暗き刃を携えて彼に問う。
きっと答えを迷う必要などない。
この手にそれを求めることだけが、男に残された唯一の望みだから。
「──行こう」
短い応えの後、赤が静かに世界を覆っていった。
★★★
熱気溢れるその部屋で、少年は少女に叩かれていた。
キエフの郊外に立つある一軒家に間借りをしているその少年は、珍しく自分の部屋で勉強をしているようだ。
どうやら、本人がやりたいわけではなく、友達の付き添いらしいが・・・・・・。
「しばらく見ないうちに、アレクのバカ度はさらにあっぷデスね」
傍らに三角帽子を置き、まんまるの薄緑の瞳を少年に向けた少女が杖で指した先、そこにあるのは古代魔法語のスクロールらしい。
なにやら変な記号が乱雑に並んでいるだけで、言語としては意味不明。一般人、一般冒険者は、読めなくて普通といえば普通の代物だろう。
「ちゃんと本も読めないのに、いきなりこれって・・・・・・できるの?」
戸惑い返す少年は、くしゃくしゃになった赤髪に何度も手をやったあと、少女に聞くが
「文句は解析できるようになってからいう、はい、次」
そう言って少女は机を力強く杖で叩く、少年はしぶしぶ机の上の羊皮紙に目を移すが、何を書いてあるのか分かるはずはない。
実際、はじめに勉強していたのはその少女ニーナで、少年アレクは見ていただけなのだが、いつのまにか逆転しているのは、きっとニーナが飽きたせいだろう。
「よう、差し入れを。って、お前ら何やってるわけ?」
開いていた扉から顔を覗かせて中の様子を伺う青年。いや、青年というにはまだ若い。 どこか愛嬌のある顔立ちをした彼、めずらしく勉強しているという話を聞いて、手土産を持ってやって来たようだ。
「ジル、たすけてよ。自分があきたからって、おしつけてくるんだよ」
「できないからって人のせいにするなんて、最低デス」
そして、ジルと呼ばれた青年へ同時に顔を向ける二人、その姿を見たジルは呆れつつも
「相変わらず、仲の良いことで、平和、平和」
そう言って笑うのだった。
という感じで、のほほんとした日常を送っていた彼ら。
その元へ、ニーナの祖父がもたらした報は自分たちの住んでいた村についての話だった。
ある事件により襲撃され崩壊した村。
最近復興してきたとはいえ、村の周辺はいまだに危険な地域が多い。
村が襲われた原因が原因のため、領主を頼みとするわけにもいかない。その現状を知るに周辺に存在する遺跡などを冒険者の手で偵察して欲しい。
話を聞いたアレクたちが、乗らないわけはない。
なぜなら、あの場所は自分たちの住んでいた村、いつかは戻る故郷なのだから。
こうして、村の周辺状況を偵察するため、彼らと一緒に村を目指す冒険者が雇われることになった。
冒険へGO
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●目的
キエフから徒歩で2日弱程度にある村、
その村の周辺偵察のようです。偵察ですので行動はそれなりに自由です。
●場所
周囲には、遺跡・悪魔の門、不死の洞窟という二大アトラクションがあります。
悪魔の門を目指す場合、地下二階へ行くためにはパーティーを二つに分けたほうが無難です。
●用意したほうが良いもの
目的によって変わりますので、臨機応変が合言葉です。
●関連事項
今回は特にありません
●その他
村はある事件により復興中です。
よって、アイテム補給を完全にできるわけではありませんので、日用品はお忘れなく。
※登場人物
■アレクセイ・マシモノフ 人・12歳・♂
ファイターです。実力は子供のわりに強いかな程度。
前向きですが迷いを感じることもよくあるようです。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・17歳・♂
かなりの実力をもつレンジャー。
深刻な感情を内に秘めていますが、最近はそれほど表にだしません。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
風魔法使いの女の子。ウインドスラッシュ・レジストコールド、ライトニングサンダーボルトが使えます。
脳内は、結構まともなお花畑のようだ・・・・かなりわがままです。
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●リプレイ本文
目の前に広がる光景。
ところどころ焼けこげた家屋の残骸、その群れをのぞみ道を進むと、開かれた大地に出る。その地にぽつりと寂しそうに立っている墓。
供えられているのは変色した布とおぼしき物、丘から駆け下りてきた風になびいた布。
墓を前に立つ少年は、布をつかみ取り指でなぞる、返ってはきたのはざらついた感触、時の流れがある。
布を墓に戻し、彼は心の中で一度挨拶する。
ただいま・・・・・・と。
交差する二つの視線の先にあるのは記憶の残影、繰り返される幾たびの過去は立ち昇って消える。
移りゆく季節はすでに夏、秋が終り、冬は眠り、春も通り過ぎていった。
だが、脳裏に巡るのは思い出というには、早い日々。
雲の波間に陽はかげる。
刺すような日差しの合間、隠れる一瞬。訪れた涼に覆われた場、集った彼らは汗を拭く。
旅がまた始まる。
行く道は分からずとも、いつか──その場所にたどり着くために。
「髭だよ、髭。ってか、ドワーフってめずらしくない?」
黄色、半そでの短衣を雑に着こなして、すらりとした体、短く髪を切り揃えた青年というには幼い? ハーフエルフの青少年であるジルは、見下ろした視線の先にいる毛翡翠(eb3076)を見て言った。
「こら、髭をひっぱるではない」
翡翠の横には、同じ背丈ほどのエルフの少女が、彼女の特徴的な髭をひっぱっている。
「ひげーひげー」
暑くても三角帽子は着用、それがニーナ・ニームのポリシー。着ているローブのそであたりに変な熊の刺繍が目立つ。
ケイト・フォーミル(eb0516)は背が大きい、彼女は壁が大好きである。
大好きというとよりも壁に隠れるのが本能のようだ。そんな本能存在するかどうか? それについてノーコメント。
さて、ケイトは先ほどから髭を引っ張っているニーナを見て。
(た、楽しそう)
内心、自分も引っ張ってみたい思ったが、
「ニ、ニーナ。やめるのだ」
普通にたしなめた。
「ぶー。ケイト、わっしょい、わっしょいデス」
ニーナが言っている「わっしょい」とは、どうやら肩車のことのようだ。それを聞いたケイトは、ニーナを担ぐと歩きはじめた。
残された翡翠は、なんとなくジルに視線をやる。
「な、なんすか、そのつぶらな瞳は」
「じー」
「お、俺は線が細いで有名なジルなので」
ジルは普通の体格だ。
「じー」
彼女は何も言っていない、ジルを見ているだけだ。決して肩車をしてくれと自己主張しているわけではない。
「あ、でもこれって、もしかして役得!」
そういうとジルは手を叩く。確かに、翡翠もドワーフとはいえ女の子だ。これはめったに、ないチャンス! かもしれない。
ともかく、その関係が絡むとジルの行動は妙に早い。さらうように翡翠を強奪し担ぐとケイトと一緒にそこらを歩き出した。
リン・シュトラウス(eb7760)は、そんなジルたちを遠くから見守っていた。
「一歩成長しましたね、ジル君」
なにやら、満足気にうなずくリン。
どんどん違う方向に成長しているのは、気のせいだろうか?
その頃、セシリア・ティレット(eb4721)は、赤毛の少年を探している。当の本人であるアレクは、どうやら、ここにはいない。
「あら? セシリー君。誰か探しているの?」
セシリーに声をかけたのはマイア・アルバトフ(eb8120)。とりあえず、まだ酔っていない。白というには、白っぽくないクレリックのお嬢さん。ではなくて、微妙なお年頃のお姉さんだ。
「その」
口篭ったセシリーを見て、マイアは閃いた。
「アレク君ならボーっとした彼のところよ」
「べ、べつにアレクさんを探してるわけではなくて」
「なくて? 何なのかな」
挙動不審のセシリー、にやりとしてるマイア、なぜなのかは知らない。きっと色々あるのだろう。
さて、当の本人であるアレクは、
「鉢植えが好きなの? 面白いのかな」
ディディエ・ベルナール(eb8703)のところに居た。
鉢植えを離さないディディエを見て、アレクは不思議そうに聞いた。
「面白い、面白くないというより、育てるのが趣味ですから」
「趣味なんだ。ボクお花とかに興味ないから」
「草花は、見ているだけで心が休まるものです。女性へのプレゼントへも最適です」
アレクはその言葉を聞いて、答えた。
「そうなんだ、こんどお姉ちゃん贈ってみようかな」
なにやら、ここだけのんびりとした雰囲気だ。
シャリオラ・ハイアット(eb5076)は素直という二文字とは、かなり縁遠い女である。ということで、仲良く遊んでいるように見える、仲間を遠くから観察していた。
特に自分から声を掛ける必要もないと思いつつも、勢いで声を掛けようとしてみた、けれど、それは自分の性格にあっていない。
だからやめた。
「愚者と黒の僧侶、いずれヤツラには天罰が下るはず! って、別に悔しいからここにいるわけではありませんよ」
シャリオラは、ちょっと強がった。
「相変わらず、素直ではないようですね」
それを聞いたリディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)が微笑み答える。リディアとシャリオラは旧知の仲である。
ちなみに、リディアは、初代「行き送れ」、そしてみんなの先生である。
初代というからには、二代目もいるはず。しかしその名を彼女はいまだ、誰も譲る気はない、現役である。なお、単に独身というだけなので、深い意味はないことに注意されたし。
「また一緒になった。よろしく頼む」
そんな二人の下を訪れた男。
名をキール・マーガッヅ(eb5663)ジルの師匠というべき彼、最近はやや自由放任主義の方針を貫いているようだが、ジルが敬愛している男だ。
だが、そう言うなりキールは黙る。これでは間がもたないが、リディアもシャリオラも半ば慣れているようで、気にもせず二人で話し始めた。
さて、残った一人。皇茗花(eb5604)。
彼女は、家事の修練をつんだため、結構大変な目にあったようだ。
「皇さん、ボクおなかすいたー」
「おなかすいたデスー」
「保存食はまずいし、キールさんと一緒に獲物とってきた。皇さん調理して」
という感じで、色々へとへとになったらしく。
「・・・・・・これもきっと修行」
彼女はそう呟くのだった。
●探索
『洞窟』
デビル・ニバスが封印されていた洞窟を訪れた一部パーティー。
アンデッドが沸いたという事実もあり、警戒しつつ中へ進む。
先頭を進むキールの手引きにより何の障害もなく、ニバスと戦った空洞にたどり着いた。元々内部は、それほど広くはないようだ、少し進むと行き止まる。
かつて訪れニバスと戦った者は、その戦いを思い出していた。
「何もいないようね」
マイアが言った。確かに何もいないようだ。
「奥に何かありますよ」
いつのまにか、進んでいたディディエの言葉に向かう彼ら、奥にあった壁、ニバスが安置、封印されていた場あたりに、何事か記されている。
「古代魔法語ですか。やはり、あの遺跡と何かしらの関係があるのでしょうか?」
それを見たリディアが言った。
彼女は解読を試みる、分かった単語は、
『二つ・鍵・解放』
程度しか解読できなかった。
「鍵が二つ、鍵とは?」
リディアの問いかけ、それに答えられるものは、その場にはいなかった。
『悪魔の門』
湖底に立つ遺跡、悪魔の門。
最近では訪れる者もいない。こちらのパーティーには昔、門の探索に加わっていた皇、シャリオラもいるため、内部事情についてはある程度わかっている。
遺跡の入口となる、古代魔法後の石碑の前に立つ髭が咳払いをしつつ言った。
「悪魔の門はあくまで・・・・・・おっほん」
なぜか、ひんやりとした空気が湖から遺跡に流れ込んできた。
「つっこみどころ満載ですよ、翡翠ちゃん」
例の肩車から、ジルにちゃんづけて呼ばれるようになったらしい。
「気安く呼ぶでない! それにシャレではないぞ」
「はいはい、それはいいとして、下りるんですか?」
そのジルの問いかけに、
「あんな危険なところへのこのこ行くなんて、死にいくようなもんですよ」
シャリオラの言うことは、もっともだ。
「そうですよね。そういえば、俺たちの中に古代魔法語を読める。そんなインテリジェンスを備えてる人いますか? 確かこの遺跡ってほとんど古代魔法語仕様だったような」
ここに来た人の内訳
→ 素直クール
→ 天邪鬼クレリック
→ 髭
→ 流星
知的ぽい→ いるような、いないような。
「・・・・・・メモしてあとで見せればいいと思うが」
皇が、まともなことを言った。
「確かに、じゃあ適当に描けるものを書きましょうか」
ジルの言葉のあと、彼らは重要そうなのものを適当にメモしはじめるのだった。
『魔女の森』
セシリーとリンは、アレクを引き連れて魔女の森の入口にやって来ていた。
途中、お花畑でリンがちょっとしたレッスンをしたが、それはここでは省く。
「どうして、魔女さんに会いたいの?」
アレクの問いにセシリーは、自らの疑問を話すべきか迷ったが、
「アレクさんがお世話になった、お礼を言いたいだけですよ」
今はまだ話さないようだ。
「予定どおりなら、ジラニィが登場ですね」
なぜか、わくわくしているリン。
彼女は狼が好きである。何ものにも縛られない自由、原野を駆けるその姿に魅せられているらしい。
「魔女さんは、きまぐれだから会ってくれないかも。でも、そのわりに、いつも会ってくれるけど」
アレクの素朴な疑問は、聞かなかったことにしよう。魔女にも色々都合があるのだろう。
しばらくすると、巨大な狼が迎えに来た。
アレクは、いまだ魔女の家に行くつもりはなく、セシリーとリンだけがその黒い狼についていった。
「アレク君は、まだ彼に会うつもりはないんですね」
リンが何気なく言った。
「ああ見えて、強情ですから。自分の意思は曲げる気は無いと思いますよ」
「何かセシリーは、お母さんみたいですよね。まあ仕方ないか、子供だもんね」
セシリーは、それを聞いて、少し寂しそうに笑った。
ということで、魔女の家についた彼女たち。内部で起きたことは色々あるが、特気になった点を少しだけあげよう。
セシリーの問いに魔女は答えた。
「一つだけ言えるの、あたしを含めて三人とも昔の知り合いってことだよ。あの僧侶は全てを奪われた。奪われる前がどうだったのかは、憶えちゃいない。ただ、選んだ道が違うだけで誰も彼も縛られているのは、結局同じさ・・・・・・。ま、あの男は執念深いからね。どうせ、あっちからまた会いにくるだろう。気をつけることだ」
魔女は、そう言うと黙った。
●村
崩れた教会を前にして、シャリオラは、なぜか説教していた。
「そういう、怠け者根性が間違っているのです! さあ祈りなさい」
シャリオラ自身の根性を直したほうが良い。キールは木陰からそれを眺めふとそう思ったが、そういう意見をいう彼ではなく、無言で周囲の警戒を続けていた。
「キールさん、差し入れです」
キールの元にジルが、食事をもってやって来たようだ。
「元気か」
「うん、キールさんは?」
「俺は相変わらずだ」
キールは、手に持った弓その弦を引き絞り離す。空気を切り鳴った音を聞いたジルは言った。
「久しぶりに俺も射撃の練習しようかな、キールさん教えてくれる?」
ジルの言葉にキールは返す。
「あれを目標にしよう」
何気なく、彼は矢を一本番え、放つ。
飛ぶそれはシャリオラの頭上、教会の印を見事に打つと説教をしているシャリオラに落ちた。
「な、なんですか、これは! もしかして天罰。私はサボろうなんて思ってないですよ、いまからきちんと」
ジルはキールの腕前に感嘆しつつ、シャリオラの慌てる姿を見て笑いをこらえるのだった。
ディディエは、ぼんやり歩きながら、先ほど聞いた話をまとめていた。
「あんたたちは、あの遺跡を知っているのだよな。経緯は省くが、あの遺跡を巡る出来事が起きてから、物騒なことが起きはじめた。なので、前々から警備と調査を送ってもらうように陳情していたのだが、全く音沙汰がなかった。ただ、この前なぜかそれが通った。そしたら、あれだ・・・・・・もともと領主様は少し問題があるからな。まあ、仕方ないかもしれないが」
ずっと派遣するつもりがなかったのに、急にそれも襲撃までしてくるとは。
何か符合していてもおかしくはない、ディディエはそんな疑問をふと感じる。
セシリーの問いに村人は言った。
「アレクの父親なら大分前に亡くなったよ。確か、今の領主様が先代の後を継いだあたりだったから憶えてるよ。村にも結構色々なことがあった時だったし」
「色々なことですか?」
「教会に赤ん坊を抱いた男がやって来たのも、その年かな、はっきりと憶えてないけどね」
リディアとマイアは珍しく差し向かいで呑んでいた。マイアは特に珍しくない気もする。酒はマイアの常備酒のようだ。
「リディア君。生徒たちは元気?」
「はい、私が教えなくても、彼らは立派に育っています」
「そうよね、子供だと思ってたけど、色々あったものね」
「ええ、それにしてもおかしいとは思いませんか?」
「何が?」
「あまりに出来すぎているような気がします」
リディアの疑念にマイアも頷く
「確かに。そうね、魔女に会いに行く時間、もうないかしら」
「黒の僧侶の後ろに、何かいるような気がします」
「考えても仕方ないわよ、どうせあの男のことだから、またあっちからくるでしょう。しつこそうだし、モテナイ男の典型ね」
物憂げな空気が二人を包む。ちなみにどちらも行きおくれだ。
「せんせー! あれ、マイアさん。またお酒?」
やって来たアレクは、出来上がりつつあるマイアを見て言った。
「そうよ、君も呑んでみたらどう?」
マイアにすすめられて、アレクは迷っている間に。
「呑むデス」
外野が掻っ攫った。
「ニ、ニーナ。まだ早い」
「ぶー、もう大人」
ケイトとニーナがいつものように、追いかけっこをはじめる。
「ふーお茶が旨い、旨い。みんな元気でなによりである」
髭ではなく、翡翠はその騒動を眺め一息ついた。
陽の落ちた村は冷気に沈む。
彼女は、いまだ復興していない教会を前に立つ。
鎮魂は場に満ち、歌を奏でるリンは、しばし場に残り歌い続ける、闇を伝い歌は響いてゆく。
炊事を終えた皇は、あと片付けのため外に出ると、その歌を聞いた。
ふと彼女は望郷の念を感じて、遠い祖国を向いて口笛を吹くのだった。
●事後
悪魔の門と死者の洞窟で手に入れた言語を解析するためには、かなり高位の分析者が必要になると思われる。
なお、言語は古代魔法語である。
続