─日蝕─ 「死線」

■シリーズシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 76 C

参加人数:12人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月08日〜07月16日

リプレイ公開日:2008年07月21日

●オープニング

●守護者

 門を通り抜けると、屋敷は立つ。
 通り抜ける女の傍ら立つ男は大きな斧を背負っている。
 女は、無言のまま屋敷へと向かう、森に佇む屋敷は、古風な造りだった。 
「暑いわね」
 自らに言い聞かせるように女は言った。隣に立つ女と同等の背丈しかない男は、巨躯ではない。だが、周囲を圧倒する何かを発している。
 聞いた男は顎鬚を数度撫でた後、静かに答えた。
「夏が来る」
 走る風は涼よりも湿を運ぶ、女は纏わりつく湿気を払うよう手で髪を梳くと
「そうね」
 答え、無言で進む二人。
 木陰を割って現れたのは荘厳というには厳しい、主の精神を映したような館が現れる。 その白亜の城は──アースガルズ家の館だった。


●ヴォルニフ

 ソレイユは不機嫌だった。
 何が原因かは彼女も分からない。
 問題が何なのかとても些細なことだ、他人から見れば。
 ジルは珍しく故郷に帰った。そのさい、彼は旧友である赤毛の少年から手渡しである物をもらった。
 彼は、贈り物をとても喜んで、大事にしている。
 それがソレイユは気に食わなかったようだ。
「君、ちょっと浮かれすぎなんじゃない、そんな手袋一つでさ」
「うっさいなあ、いいじゃん、嬉しいんだから」
 ジルのはしゃぐ姿を見た、ソレイユは無言のままで、怒った勢いで実家に戻った。
「なんだあいつ」
 怪訝そうなジル。
 どうやら、ジルはやはり、ジルのままのようだ。


●陽が落ちる

 騎士は馬上にて、配下に命じる。
「駈けぬけよ、目指すは守護の結界。旗を持て」
 傍らに控えるデビルがおずおずと、漆黒に塗られた旗を差し出す。
 奇怪な翼の生えた馬、乗る騎士はそれを振ると厳かに告げる。
「破壊を」
 行軍が静かに始まる。
 目の前に広がるのは・・・・・・。
  


 日蝕
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●状況
 
 ヴォルニフが、襲撃されました。
 襲撃した軍勢はデビルの軍です。
 こちらの目的は襲撃されたアースガルズ家を解放することです。
 彼らは篭城していますが長くはもたないでしょう。
 なお、ソレイユは館にいます。 

●陣容

 敵は三陣に別れています。
 簡単にいうと、前衛・中衛・後衛。
 数については、かなりの脅威な数です。
 前衛は、主に直接戦闘主体、中衛は将がいます、後衛は長距離と後詰です。
 あちらは、館を攻撃していますので、そのあたりも考えてみると良いかも。

●タイムスケール

 今回は、純粋に戦闘のみなのですが、タイムスケールもどきがあります。
 一日を朝・昼・夜の時間で考えます。
 その三つにどのように人員を振り分けるかも考えなければなりません。 
 必ず誰かを振り分けなければいけないわけではありませんが・・・・・・。
 予想としては、何もしなければ館が陥落を持ち超えられるのは二日程度です。
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5195 ルカ・インテリジェンス(37歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

霧島 小夜(ea8703)/ 上杉 藤政(eb3701)/ 鳳 令明(eb3759)/ 水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

●死線

 館の周辺にたどり着いたの夜が白み、明ける頃だった。
 パーティーは奇襲をかけるかどうか迷ったが、かえって混乱が生じて乱戦になるの避けた。
 生まれた夜が明ける短い時間、少し離れた場所で彼らは陣を張った。
 遠くには炎のきらめき、かすかだが怒号のようなものも聞こえる。
 ほんの一時の間だったが彼らはそれぞれ休息を取った。
 久しぶりに再会したかつての部下に向かって、 
「揃いも揃って、むさくるしい面、まあ相変わらず元気でなにより」
 ルカ・インテリジェンス(eb5195)は、そう声をかけた。お互いの間に何があったかはこのさい、置いておこう。
「呼んだのは隊長殿でしょうが、こういう厄介事の時はいつも、いつも」
 馬若飛(ec3237)はルカのかつての部下だ。
「何か言ったかしら、事態が事態、四の五の言わず黙って命令を聞きなさい」」
「了解であります。隊長殿。まったく──隊はもう無いのに」
 ぶつくさ言う馬とは別な一人
「・・・・・・」
 ハロルド・ブックマン(ec3272)は無言のままで何事か書き連ねている。
 その内容はこうだ。
『元隊長に声をかけられ仕事を受ける。
 デビルの軍を相手にすると言う厄介な内容のようだ。しかし、放置して良いわけは無く 誰かがやらねばならず、それが出来る力があるならばやらねばならぬ。
 そういう事も時にはあるだろう―――――あまり気はすすまないが
 ハロルド書記』
 筆を走らせているハロルドに気がついたルカは、
「ハロルド、文句があるなら口頭で述べよ」
「・・・・・・」
 しかし、ハロルドは答え無い。
「強情。いいわ、戦えるなら問題は無い。じゃあ準備」
 ルカは部下を引連れて戦いの場へと赴いた。


「正義ってなんなのでしょう」
 遠くを見つめて沖田光(ea0029)はそんな言葉を呟いた。隣にいたシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)は、
「自分が大事な物を守る事、じゃないかなーっと」
 ちょっとだけ恥ずかしそうにシシルは答えた。
「大事なものですか、大事なものか」
 沖田は頷くと自分の考えに沈んだ。
 エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は、二人の会話を聞いていた。
 大事なもの、彼女にとって一番大事なものはいったいなんなのだろう。浮かぶものはいくつもあってどれが一番選ぶことが出来ない、
「い、生き残ることが幸せだと、自分は思う」
 エリヴィラが悩んでいるに見えたケイト・フォーミル(eb0516)はエリヴィラの肩を叩くとそう言った。
「そうだよね、ソレイユも助けないと駄目だし! それよりジル君は?」
 エリヴィラはケイトにジルの所在を尋ねた。 
「う、うむ。しょげている。セシリアとイルコフスキー、そして」
 ケイトの視線が話の主へと向けられていた。

 ジルは、贈られた手袋をみつめていた。
「ねえ、セシリー。俺が一緒にいてあげれば、なんとかなったのかな」
 問われたセシリア・ティレット(eb4721)はどう答えれば良いのか迷った。
「ジル君、そんなに悩まなくても、そのためにおいらたちが来たんだ」
 イルコフスキー・ネフコス(eb8684)はジルに諭した。
「そうですよ、きっと大丈夫」
 セシリーはジルを労わるように言った。
 マクシーム・ボスホロフ(eb7876)は、様子を眺めている。マクシーム自身、何を言うべきか探した。
 だが、彼の内に答えは浮かばない、迷った末にマクシームは珍しく、真剣な表情を浮かべて
「まだ終わったわけではない。若い奴は早急すぎる、ほらオヂサンは人生経験豊富だから、前向き、前向き、悩んでいても何も解決しないってな」
 おどけた口調にジルはマクシームの気持ちを感じていた。
 ジルは、仲間達から離れて涼みに向かった。
 離れた場所にいたのは、フォックス・ブリッド(eb5375)。孤独を満喫していた彼はジルの様子を見ると、何気なくこぼした
「愛するものは自分で守るもの。たとえ愛していないとしても、好きな人は」
「守りたいよね」
 応えたジルにフォックスはゆっくりと頷いた。
 フォックスの脳裏に誰の姿が浮かんだかは彼自身がよく知っている
 最後に彼を迎えたのは、アレーナ・オレアリス(eb3532)だった。
「ジル君、ソレイユちゃんと何かあったの?」
「何もないよ、何も」
「素直じゃないな、もう少し女の子の気持ちを分る男の子になると嬉しいな、今のままじゃ駄目かな」
「女の子っていったって、あれは男みたいなもので」
「駄目、駄目、女の子はね」
 アレーナの話が続く、ジルはそんな彼女の温もりに触れて嬉しかった。

●戦闘

 なお、今回の戦闘における順番は次のようだ。

[各位の時間帯担当]

・朝
メイン:ケイト、若飛、セシリア、ジル
サブ :エリヴィラ、ルカ、アレーナ
休み :マクシーム、フォックス、沖田

・昼
メイン:エリヴィラ、フォックス、沖田
サブ :マクシーム、ケイト、セシリア
休み :ルカ、アレーナ、若飛、ジル

・夜
メイン:マクシーム、アレーナ、ルカ
サブ :フォックス、若飛、沖田、ジル
休み :ケイト、エリヴィラ、セシリア

魔力が尽き次第、休息:シシルフィアリス、ハロルド、イルコフスキー 




 昇る太陽と供に進軍が開始された。
 敵の数は百に届くかどうか、立ち塞がる壁を前に、吸う息、吐く息がある。
 前に立ったのは、魔術師二人。
「やりますか」
「・・・・・・」
 敵兵にデビルは思ったよりも多くはない。だが、その数は脅威だ。
 初撃。
 敵陣の群れに向かって、彼らは詠唱を始める。
 巻き起こされた氷、渦巻く嵐が吹き込む。彼女の周りを包む大気の温度が急激に低下する魔力は収縮し二つの呪文の詠唱が同調する。
 一の音の主は女
 二の音の主は男。
 シシルがまず、唱える。
 凍の剣、風の刃が吹く。
 不意を衝かれた敵兵が浮き足立つ、そこへハロルドが再度、
 氷の顎、風の槍をぶつける。
 二つの呪文が重なり合い、一面に氷柱が立ったのが戦いの合図だった。


 奇襲をかけられた敵の軍勢は、態勢を立て直すまで一時的な混乱に陥った。
 それに乗じて、アレーナが先駆けを果たす。
 上空からの攻撃呼応して、射撃と前衛が切り込んだ。
 戦いは一進一退を繰り返す。
 初日は決定的な事態には陥らず、館の陥落も免れた。


 そして二日目の昼の出来事だ。
 崩れた陣を破り、少女は独り将の下へ切り込んだ、
「退け、女一人で勝てると思っているのか?」
「やってみないと分からない、強いよあたし」
 魔将の前に立ちはだかり虚勢を張るエリヴィラ、肉体はすでに疲れ果てている。
 血と汗は混ざり頬にこびりついている。錆びついた臭い鼻腔を刺し、口腔には切れて流れ出たのだろうか塩気を感じる。
 蹄を上げ、威嚇するように地を蹴る異形の馬。馬上の騎士は槍を手に取るとエリヴィラに言った。
「敬意を評そう」
 突き、刺す槍。
 勢いを殺すように受けたあと、よろめく体で柄を握り反撃しようと試みるエリヴィラを馬が襲う、なんとか回避すべく動いた彼女だったが、避けきれず、吹き飛ばされた。
 転がり混戦の只中、敵の渦に弾き飛ばれされるエリヴィラ。
「エリヴィラさん」
 後方からその倒れるエリヴィラの姿を見た沖田は、どうするか迷った。
 今、立ちはだかる敵を倒すまでいかなくても道を切り開く必要がある。
 放置しておくわけには──。
「このままで終わりはしない・・・・打ち砕け炎! 道は僕が切り開きます、だから誰か彼女を」
 叫び、瞬時に詠唱を始める。
 沖田の体が炎に包まれた。炎を身に纏いあえて彼は翔けた。
 目の前の敵を一体切り倒したケイトは、エリヴィラの状況を把握した。
「セ、セシリー、こ、ここは任せた」
 ケイトが声を掛ける。理解したセシリアは
「任せてください、私だってやれます」
 剣を握る。
 セシリアの視線の先、高まる鼓動、重い緊張がもたらすものは、どこかに吐き気にも似ている。
 そう、戦うということはこういう事だった。
 感じた彼女は目を瞑った。訪れた暗闇に彼の姿をみた。
「私には、帰る場所がある」
 彼女が迎える敵は、それほど多くはない。
 
 沖田の血路を開く攻撃に他のメンバーはエリヴィラを救うどころではなかった。なぜならほとんどが接近戦向きではない上、敵の進行を妨げるので精一杯。
 そこでケイトが行くことになる。
(やるしかない)
 ケイトは深呼吸をすると刀を構える。向かうは魔将のいる陣。エリヴィラの元。
 走り出した彼女に敵の攻撃、魔法が振りかかる。今はそれを気にしているどころではない。
 ここさえ抜ければ、そう抜ければ。
 よろめき立ち上がったエリヴィラ、魔将の見えない瞳。
「無駄な足掻きを」
「足掻いてやろうじゃない、まだ終わってない、なめんな!」
 ふらつく足、視点も定まらない。その肩を支えたのは、
「大丈夫か? ここは自分に任せてもらおう」
 ケイトだった。
「で、でも、独りじゃ」
「いいから、それでは足手まといだ。早く行け」
 ケイトは強く言い切る。戸惑うエリヴィラだったが今の彼女では、
「ごめん、助けにくるからそれまでは」
「任せておけ。まだ死ぬつもりはない」
 去っていくエリヴィラを守るかのように、ケイトは将の前に立ち塞がった。
「次はお前か?」
「簡単にやられる自分ではない」
 無事に戻ってくれ。
 ケイトは、ただそう念じ続けた。


「まったく、無理しちゃだめだよ」
 後方に無事下がったエリヴィラを治療していたイルコフスキー。
 傷だらけだったエリヴィラの傷はふさがったが疲労はまだ取れていない。
「あたし、助けにいかないと、だから」
「まだ休んでないと完全じゃないよ」
 エリヴィラは治療したての身体を起こし立ち上がった。そこへ
「うるさくて休んでいられやしない、何かあったの?」
 ルカがやって来た、エリヴィラはルカに経緯を話した。
「・・・・・・そろそろ総攻撃をかけても良い頃かもしれないわね、よしやるか」
 ルカは休んでいた数人をたたき起こすと言った
「死力を尽くすのよ、これで突破して挟み討ちにする、生きるか死ぬか、それだけ」
「毎度いきあたりばったりですね、隊長」
 若飛が言った。
「いいから、黙って私のために死になさい」
「無茶苦茶言うな、この姐御・・・・・・」 
 ルカの態度に若飛が溜息をついた。
 その様子を見て、
「あの二人仲がよいね、何かあったのかな」
 気になったイルコフスキーは聞こうか迷ったが
「人には色々事情があるから」
 そんなエリヴィラに、イルコフスキーは
「ケイトさんを、助けたいんだよね、それじゃあ、おいらのとっておきを」
「とっておき?」
 イルコフスキーはエリヴィラにとある事を提案した。

「弓隊、前へ」
 ルカの号令によって、 マクシーム・フォックス・若飛が並べられた。
「味方に当たるんじゃないのか?」
 一旦戻ってきていたマクシームが素朴な質問をした。
「気にしている場合ではないわよ」
 ルカにすっぱり切られた。
「遊撃します」 
 フォックスはそう言うと、空へと上昇する
「とりあえず、自棄だ撃ちまくるぜ撹乱は任せろ」
 若飛が馬に乗り準備を始めた
「俺もガンバリまっす」
 ジルも撃ち始める。
「白薔薇の名にかけて、この戦は勝利に導く」
 アレーナも愛馬と供に空に昇った。羽ばたく白い翼が陽を反射している。
「さて、のるかそるか・・・・・・大勝負、いくわよ野郎ども」 
 ルカが声をあげる。
 矢が撃ちこまれる。
 敵陣に残っていた沖田は得物を抜き、切りかかる。
「僕だって武士です。やれます」
 そう、やるしかない。
 そして、セシリアもまた傷つきながらも、自分が戦えることを再確認していた。
「痛いな、やっぱり」
 戦い慣れていそうで慣れていない彼女。傷だらけの顔に浮かんだのは

 ──乱戦の最中、彼女はまだ健在だった。
「思ったよりもやるな」
「伊達に死線を超えてない」
 ケイトは不敵に笑う、
「それでは、手加減は無しだ」
 魔将が人馬一体の攻撃に移る、気づいたフォックスが牽制の矢を撃ち込むが、壁になった標的が邪魔で届かない。
 先ほどのエリヴィラ同様、ケイトも吹き飛ばされた。続けざまに突き刺される前に、マクシームの矢が一時的に魔将を捉えたことも効果を成した。
 同時に、ケイトを援護に向かったのはアレーナとエリヴィラだった。
 アレーナはケイトの退却の擁護、そしてエリヴィラは、
「さあ、今度こそあたしが相手、借りは返す」
 エリヴィラが宣言した。

 すでに、戦いは決しつつある。
 魔法の攻撃の前大打撃を喰らった敵部隊、パーティーと館の部隊と挟み撃ち間にあっているここにいるのは、魔将と戦士達のみ。
 数合の間、剣、魔法、弓矢の応酬。
 囲まれたその輪に、さすがの将も・・・・・・倒れ残した言葉は、 
「事はすでに決している」
 だった。
 のちに、一騎打ちを望んでいたアレーナは残念がった。
 だが、勝利したことには違いないため言葉を引っ込めたという。

 この戦いによりアースガルズの館は半壊した。
 幸い死者は思ったよりも少数で済んだ。
 この物語の発端、当事者であるソレイユも無事だった。
 しかし、
「母が消えました」
 ソレイユの言う母、それは現アースガルズ家の当主の事をさしている。
 アースガルズ家の当主はどこに行ったのか?
 訪れていたはずの客人の姿も同時に消えたという話もあるが。
 フォックスは話を聞きながら、なぜかあのロザリオを握り締めていた。 


●黄昏の前

 ──悪魔の門の村。

「そうか! 墓所。あの街は墓所なのね。墓所の中央に死せる竜が住む。だから竜を守る一族ではない。竜の眠りを見守る一族が真実。死者の洞窟との関連は、そこにある。あの街自体が墓? 封印が解ければ、墓に住むものが全部溢れ出すということは」
 預かった文字を解読した彼女は解読を終えた。この事実を書記し送らなければならない しかし、
「封印はすでに解けかかっているようね。ここは死者の眠る地の一つ。もう駄目かな」
 村の周囲に不穏な空気と存在が満ち始めたのはこの少し前からだ。
「やるだけやらないとね、せっかくここまで」
 来たから。
 言葉を続ける前にソフィアは、部屋を駆け出した。  

 剣を握った少年は、自らに言い聞かせるように言った。
「いかなきゃ」
 訪れていた少女に彼は言った。 
「最後まで一緒にいきマス」
 頷いた少女は久しぶりに杖を取る。
「危険だよ」
「危険なのは慣れてるデスよ、まだ独りで危なっかしいから」
「ひどいな、でもそうだね、三人じゃないのは不安だけど」
 赤毛の少年は言った。
 

 同時に、かつてヴォルニフ領主の館であった地下に封印されていた何かが蠢いた。
 解けつつある封印の前に目を覚ましつつある
 涼しげに大気に混じり淀んだが流れ出た。
 もはや肉体は半ば朽ちかけ、骨だけになったそれは、多量の死せるものども共に地に触れ出て湧き出すだろう。
「事はすでに決している」
 デビルの将は息果てる前にその言葉を残した。
 ヴォルニフに黄昏がやって来る。
 夜が明ける前に訪れる闇は──濃い。


 続