宮本武蔵の弟子達 四

■シリーズシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2007年11月26日

●オープニング

 京都某所、雪と嵐は御大にこれまでの事の成り行きを説明していた。
「いい感じに仕上がっていると思いますよ?多少手違いはありましたけど」
「隠岐に引っ込んだ宿敵もそろそろ出てくることかと思います」
 二人の言葉に御大は「そうか」と短く答えた。

 神聖暦千と二年と十一の月、初音は師匠宮本武蔵と面会していた。
「ご無沙汰しておりました、師匠」
「うんうん、ご無沙汰しちゃったね」
 木刀を手で弄びながら武蔵は答えた。
「何か色々あったんだって?」
 問いかける武蔵に初音は答えた。
「できれば師匠にもご出陣願えないものかと」
「それは無理だよ、船酔いするから。君がしっかりやるんだ」
「しかし‥‥」
「長治君もつけよう。それでいいね」
 言い終わると、武蔵は再び奥へと戻っていった。
「最近冷えてきたから風邪ひいちゃってね、今日はこれで失礼するよ」
「師匠、最後にこれをご覧ください」 
 初音が取り出したのは前回の冒険で見つけた書簡だった。
「何か、見覚えは無いでしょうか?」
「‥‥かつて私が使っていたものに似ているね、模倣したものかもしれん。一人一人当たれるものなら当たってみる方がいいかもね」
 そう言葉を残し、武蔵は退室する。しかし傍に仕えていたてるはその後旅の支度を始めた。

 京都に戻った初音は長治の事を気にしながらも調査を開始、書簡に書かれた名前を当てに一人ずつ捜索していく中で一つの気になる情報を聞き出した。
「随分昔だが、郊外の山に酒を届けたことがある。そこの屋敷でそんな名前を聞いた記憶があるよ」
 男は昔郊外の山の中で酒造りをしていたらしい。そして近くの山に何度か酒を届けたことがあるということだった。
「今にして思えば、刀を飾ってある割に忍術の練習みたいなのをしている変な屋敷だったよ」
「どの辺りの山です?」
 確信めいた自信をもって地図を開く初音。勢いに押されつつ男が印をつけた山は、今まで戦闘を繰り広げた山に程近い場所だった。
 その後、初音は自分自身に最後だと心がけながら冒険者ギルドに向かった。

  

●今回の参加者

 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 ec1064 設楽 兵兵衛(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「みなさん、よろしくお願いします」
 依頼を前に初音は冒険者に一礼、続いて弟の長治も一礼する。
「弟も別に根に持ってはいませんから、ね?」
 前半を冒険者に向けて、後半は長治に向けて初音が言う。長治が多少引きつりながらも頷くと、安心したのか李明華(ea4329)は胸をなでおろした。
「‥‥あれは俺の修行不足。そう認識している」
 まだ言っていることは硬いが、洗脳じみた暗殺者達の暗示は解かれているらしい。そして総勢十名となった戦士達は一路目的の山へと向かった。

 元酒屋の言うとおり、問題の山には一軒の家が建っていた。それほど大きくは無いが二階建てらしい、屋根が段違いに存在している。
「三人とも‥‥あの館の中のようですね」
 宿奈芳純(eb5475)がダウジングペンデュラムで確認する。ペンデュラムは所詮占いに過ぎないが、それゆえに占術を得意とする陰陽師が使うと成功率も高いという噂である。ここまで一致するとかえって不安にさえ感じてしまうほどだった。
「年は‥‥流石に分からんか」
「流石にそこまでは」
 我羅斑鮫(ea4266)の質問に宿奈はすまなそうに答える。表情こそ見えないが、幾分トーンが落ちていた。
 一連の騒動を引き起こした御大。その素性が不明となっている事が、冒険者達の一つの不安の種となっている。部下と見られる雪や嵐の身のこなしを見る以上、御大もそれなりの腕前だと予想される。加えて忍術の使い手となると楽観視は出来なかった。
「一応例の酒場の人からの話をまとめておいたわ」
 山本佳澄(eb1528)が取り出したのは一枚の書簡、全員の顔を見回してからゆっくりと読み始めた。
「氏名不詳、年齢不詳、性別男性、身長五尺五寸、中肉中背で常に何かを考えているような印象があったと彼は言っていますね。あとは金払いが良かったとも」
「どこに金があったんじゃろうな」
 小坂部太吾(ea6354)が周囲を見回して呟く。辺りには荒れ果てた畑などはあるものの、とても食べていけるようなものには見えなかった。
「仕事‥‥じゃろうな」
 明言は避けるものの、西天聖(eb3402)は仕事、つまり暗殺業で食べていると考えたのだろう。自分自身の発言ながら罰の悪そうな顔をしている。
「ところで屋敷には何か仕掛けはあるのじゃろうか?」
 気を取り戻して西天が尋ねると、我羅が首を横に振った。
「例の元酒場の主人も仕掛けは見たことがないということだ。当時無かったのか、それとも主人が来る時のみ罠を外していたのかは不明だがな」
「‥‥素直に考えたら前者では?」
 今まで沈黙を守っていた琉瑞香(ec3981)が口を開いた。
「罠を外すことは確かに可能でしょうが、再び罠を設置するのに時間がかかります。それに罠を再設置の手間を考えれば、御大が屋敷の外まで酒を取りにいけばよかっただけの話でしょうし」
「一理あるな」
 しかし罠があったと仮定しても、どんな罠なのか知りようもない。かといって正面入り口以外には出入り口らしきところも見当たらない。そこで我羅が先頭に立ち、警戒しつつ中に侵入することになった。

「ようこそ、俺達の家へ」
 扉を開けると、そこには広めの玄関があった。一斉に二三人は出入りできそうなほど広い玄関だった。そして、奥には板張りの部屋が一つあるだけだった。
「前置きは不要と考えているが‥‥どうだ?」
 板張りの部屋には右に嵐、左に雪を控えさせ中央に喪服の男が小さく座っている。そしてその男の後ろには乾坤一擲とかかれた古ぼけた掛け軸が飾られていた。
「おぬしが御大、じゃな」
 確認するように小坂部が尋ねる。すると喪服の男は小さく「如何にも」と答えた。
「しかし見たところ人数が一人足りない。まだ舞台に上がらないつもりなのか、あのじじいは」
 じじいと言う言葉に初音が反応する。今回の関係者に老人の男の関係者は一人しかいない。
「先生のことですか」
「‥‥今頃気付いたか、どうやらまだ仕込が足りなかったらしい」
「仕込、ですか?」
 設楽兵兵衛(ec1064)が問い返す。すると遠い目をして喪服の男は答える。
「宮本武蔵を名乗るあのじじいは、隠岐に隠居を決め込み簡単には出てこない。だから騒ぎを起こしておびき寄せようとした。簡単に言えばそういうことだ」
「なぜそんなことを‥‥」
 理解できない、といった表情の琉。すぐにも攻撃に移れるように杖を構えている。
「『そんなこと』、それこそそんな一言で済まされる問題ではない。俺の父は武蔵に殺されたんだ」
 聞けば喪服の男の家は元々道場だったらしい。そこへ道場破りの旅をしていた武蔵が現れ、道場ごと叩き潰したということだった。
「あなたの思い込みという可能性は?」
 李が言葉を挟む。多少熱くなりつつある場に収集をつけるつもりだった。だが男は首を横に振る。
「俺はその場に立ち会っていた。武蔵が世で言われる程の剣豪なら命を取らない方法もあっただろうに」
「‥‥」
 初音と長治は二人揃って押し黙った。認めても認めなくても自分の先生の腕を信じていないような気がしたからだ。
「ですがそれを証明する方法はなにもありません。そしてあなたが人斬りをする理由にもなりません」
 宿奈が言い切る。だが雪と嵐が声を合わせて反論した。
「だったら一番大事なものを失った者は何をすればいい? 御大は父親と誇りを失い、私と嵐は家族に捨てられた」
「そして御大は、死んだ父親に代わって武蔵に挑戦する。一方武蔵は老衰を理由に姿を消したと言われていた。だから誘き出すために俺達が一役買っただけだ」
「じゃが暗殺は卑怯じゃ」
 西天は言う。
「そこまでする必要は無かったはずじゃよ」
「そうですね。あなたの考え、共感はしますが納得は出来ません」
 冒険者達が一斉に構える。場は異様な緊張に包まれた。

 嵐に我羅と李、雪に小坂部と山本と琉、御大に西天と設楽が相対する。雪と嵐は武器こそ手に取るものの御大の護衛に入り、肝心の御大は腰に刀を挿したまま、柄に手をかけようとはしない。
「できればこれ以上無用な血を流したくないのだが‥‥」
「それはこちらも同様、だがあなた達は自分達の目的のために無用な血を流しすぎです」
 設楽に言われ、御大も剣を取る。構えは正眼、冒険者達の予想とは異なり、至って普通の剣術らしい。
「忍術は無しですか」
「有ったとしても使う気は無い。俺は父の剣で武蔵を越えたいだけだった。忍の道は所詮かじっただけに過ぎん」
 こうして戦いの幕が開くのだった。

 戦いは冒険者有利に進む。人数の歩もあるが、それ以上に御大側三人が攻めに転じようとしないからだ。
「あくまで血を流したくないというつもりなのですね。ではおとなしく捕まりなさい」
 李が諭す。しかし対する嵐は認めない。
「私は御大に賭けた。そして御大も賭けている。ここでは無用な血を流さない方がいいとな」
 その時、屋敷の扉が開いた。玄関に一人の人間が立っている。一番弟子のてるだった。

「先生からの伝言を伝えます」
 まるで全ての事情を読んでいたのかのように、てるは道場に上がるや懐から書簡を取り出し読み始めた。
「かつての修行の道中に、ワシは多くのものを殺めた。それによって不幸な思いをしたものも多いやもしれん、ワシにはそのような者達の怒りの矛先向けられても仕方ないこともしていることは認める」
 一度区切っててるは周囲を見渡す。そして再び続けた。
「だがワシは決闘自体に他者を巻き込んだことはない。戦いたければ隠岐まで来るがよい」
 読み終わり、てるは再び書簡を懐へと仕舞う。そして御大に向かって言った。
「来るのならいつでも来なさい。ただし今の汚れた足では隠岐の地は踏ませません」
 向きなおして冒険者にもてるは宣言した。
「あなたたちなら歓迎しますよ。大変な道中ですが、それでも来る勇気があるのならいらっしゃい」
 それは喜んでいるようにも試しているようにも見える笑顔だった。

 その後冒険者達は御大達三人を縄で拘束し、役人に渡す。てるの言葉が効いたのか、三人とも抵抗しなかった。
「やはり武蔵殿は器の大きな人物のようじゃな」
「ですね」
 冒険者達はその後、てるや初音姉弟と武蔵の人物像や隠岐への道のりを話しながら京へと戻っていくのだった。