宮本武蔵の弟子達 三

■シリーズシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月20日

リプレイ公開日:2007年10月25日

●オープニング

 神聖暦千と二年と十の月、隠岐から流されてきた姉弟、初音と長治は京都で宮本武蔵と名乗る暗殺集団を追っていた。
 しかし追う過程で長治は信念を大きく歪められてしまった。そこで初音は長治を連れ、一度隠岐に帰ることにした。

 帰島した初音は始めに、長治を連れ道場に向かった。特にこれといった名前は無い道場だが、島最大にして唯一の剣術道場である。名前は特に必要なかった。
 師範は宮本武蔵。しかし今は高齢のため、一番弟子であり免許皆伝の腕前のてるが師範代を務めていた。
 てるも既に頭に白いものが混じり始めている年齢ではあるが、実践派である武蔵とは異なり理論派であり教えるのは上手かった。しかし本人を前に年齢の事を言うのは禁句とされている。

 初音達が道場に着くと、てるは道場で禅を組んでいた。
「ご無沙汰しております、師範代」
 初音と長治はてるから三尺離れたところで正座し、頭を下げる。するとてるは半眼のまま答えた。
「あなた達はあまり無事というわけでは無いようですね。特に長治、呼吸が乱れています」
「‥‥」
 いきなり痛いところを突かれて長治は閉口、初音は話を逸らそうと話題の変更を試みた。
「‥ところで師範は?」
「持病の食中毒で腰を痛めて寝込んでいます。それで何があったのか、話してくれますね」
 てるから放たれる威圧感に屈する形で初音が事の次第を話し始めた。
「‥つまり初音は京都にいる偽者を倒したいと?」
「はい」
 初音から一部始終を聞いたてるは、一計を案じた。
「ならば敵が来るのを待つのではなく、敵を誘き出しなさい。何も相手の土俵で戦う必要はないでしょう?」
 てるの言葉を受け、初音は長治を残し、一人京都へと戻っていった。

 そして数日後、初音は京都冒険者ギルドで作戦参加者を募集していた。
「それで敵をおびき出すための餌を探したいわけだな?」
「はい」
「見つかる確率は?」
「‥‥」
「まぁいい。上手くやれよ」
 手代は依頼書の作成に取り掛かった。

●今回の参加者

 ea4266 我羅 斑鮫(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ec1064 設楽 兵兵衛(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「食中毒が持病とは、並じゃないお師匠さんなのですね」
 山に向かう途中で設楽兵兵衛(ec1064)は初音に話しかけると、初音は額に手を当てて困ったような表情を見せた。
「器‥という意味では確かに並じゃないと私も思います。もう剣を教えていただいてそれなりの期間が経ちましたが、未だにお師匠様の底が見せませんから」
「それは剣の実力という意味もあるのじゃろう?」
 西天聖(eb3402)が尋ねると、今度は初音は大きく頷いた。
「それはもちろんです。西天さんも一度立ち会われてみるといいかもしれませんよ」
 そういうと、西天は目を輝かせた。
「立ち合せてもらえるのじゃろうか?」
 勢いづく西天に初音は一つだけ条件を加えた。
「お師匠様の持病が治まっていれば、ですけどね」
「やっかいな食中毒ですね」
 設楽は笑顔で言うのだった。

 やがて問題の山が見えてくる。今回の当事者である初音は一番狙われやすいということから付近の村で姿を隠すことにし、冒険者達は早速二手に分かれて行動を開始した。
「それではお互い気をつけるとしよう。万が一の時は合流するということで頼むのじゃ」
 小坂部太吾(ea6354)が指揮をとって話し合いをもとに隊を二つに分けた。
 表の洞窟側にベアータ・レジーネス(eb1422)、西天、小坂部、李明華(ea4329)の四名を、裏の小屋側にジークリンデ・ケリン(eb3225)、我羅斑鮫(ea4266)、設楽、山本佳澄(eb1528)の四名に分担した。 

 洞窟側に回った四名は李の作るスープに舌鼓を打ちながら、見張りの順番やこれからの行動指針を話し合っていた。
 そして浮かんだ第一案がベアータのダウジング・ペンデュラムだった。
「ではさっそくやらせていただきますね」
 『当たるも八卦、当たらぬも八卦』という言葉があるように、ペンデュラム一つで全てが見通せるものではない。しかし行動の指針にするのなら一つの手とも言えるだろう。
「では早速やらせていただきますね」
 断りを一つ入れてベアータがペンデュラムに念を込める。探す対象は「雪に関係あるもの」と「嵐に関係あるもの」の二種類、これに対しペンデュラムはそれぞれ違う反応を示した。
 雪の場合はペンデュラムは微動だにしなかったのだが、嵐の場合は回り続けて一点を指し示そうとはしなかったからだ。
「どういうことかしら?」
 李がベアータに尋ねるが、ベアータも困った顔をしている。
「何かはあると思うのですが‥私にも判断できませんね」
 顎に手を当て考え込むベアータ。しかし残念なことに、見当はつかなかった。
「だったらまず洞窟に入るのじゃ。こういっては何じゃが、『いかにも』という感じもするのじゃ」
「そうじゃな」
 西天と小坂部に促されるようにして、ベアータは思考を停止させた。
 周囲も暗くなり始めている。小坂部は念のためインフラビジョンで周囲を確認する。
 一方で李は今後のためにも火を起こし易く、かつ見つかりにくいように石を積み上げる。ベアータもブレスセンサーで周囲を確認した後、四人は夜の見張りと睡眠に入ったのだった。

 その頃、小屋の捜索を予定していた四人も作戦を考えていた。
「私が超越のフレイムエリベイションを使えます。きっと役に立つはずです」
 ジークリーグが言うと、設楽は嬉しそうに答えた。
「今回は魔法を使える人が多くいいですね」
 ジークリーグは昼間はエックスレイビジョンとテレスコープ、夜はインフラビジョンとテレスコープというように使い分けもできるらしい。
「しかし行動は夜のほうがいいと思う」
 そういう我羅の意見を取り入れ、主による活動することにした。
「この山は嵐が関係しているんじゃないか?」
「可能性は高いですね」
 山本が同意する。
 この場所は前作戦に使われた場所、つまりは敵が良く知っているはずの場所である。当然嵐がこの場所と何らかの関係があるという可能性も低くは無い。
 そして、四人は夕闇とともに行動を開始した。

 まずは前回山小屋まで向かった我羅と設楽が前衛に立って山本とジークリーグを誘導する。
 そして近くまで接近すると、まず始めにジークリーグがインフラビジョンとテレスコープを併用して山小屋を確認した。
「山小屋は発見しました。しかし光は全く見えません」
 他にも周囲を見渡した限り、人影らしきものも見えないという。足跡も見たいところではあるが、枯れ葉が敷き詰められている今ではそれも難しい。
「雪さんと嵐さんでしたよね、夜目が利く可能性はありますか?」
 ジークリーグが尋ねると、三人が難しい顔をした。
「私見だが、暗殺者を名乗っておきながら夜目が利かないということはないだろう」
 代表して我羅が答える。もっとも彼自身も確認を取ったわけではないのだが、説得力はあると感じたジークリーグは素直に納得した。
「となると、中にいる可能性もあるもあるわけですか」
「とはいえ、いない可能性もあります」
 山本がそう言うと、一同は押し黙った。そこで設楽が一つの提案をした。
「ではもう一日待って動きが無いようなら入ってみるのはどうでしょう?」
 発案者の責任として設楽が中に入るつもりらしい。
 三人はそれで納得し、そのまま小屋を中心に周囲の観察に入ったのだった。

 翌日、洞窟探索部隊は西天のペットの鬼火を先頭に洞窟の中へと入っていた。
 背後からの奇襲を考え、ベアータは入る前にブレスセンサーで周囲を確認、その上ライトニングとラップを入り口に仕掛けていた。
 しばらく進むと、洞窟は少し開けた空間へと通じていた。小太刀程度なら振るえそうな余裕がある。
「人工のものではなさそうですね」
 李が土壁の一角を触りながら呟いた。
 洞窟の中はそれなりの広さを誇ってはいるが、人工のものにしてはいびつな形をしている。鉱物資源の発見や避難用にしては不便だと李は判断していた。
「とはいえ、人が入ったことがない場所とも限らんぞ」
 小坂部が壁の一部を指差した。そこには鋭利な物体、おそらく刃物でつけられた傷が残っている。
「自然にこんな傷ができるとは考えられんのじゃよ。誰かがここで刀か何かを振るった、そう考えた方がしっくり来る様な気がするのじゃが、どうじゃろう?」
 よく見ると、傷は一つや二つではない。またところどころに血で染まったかのような赤い染みも存在している。
「そう考えた方が自然じゃろうな」
 西天はそう言うと、自分の小太刀を取り出して傷の一つと比較してみた。
 すると、傷は小太刀よりも厚いことがはっきりと分かる。
「刀の類ではないのじゃろう、傷が広がりすぎているようじゃ」
「となると‥‥」
 ベアータが考える。すると一つの可能性ひいき当たった。
「クナイのようなものでしょうか」
「まだはっきり分からんのじゃが、その可能性も考えておくべきじゃろうな」
 そう言うと、西天は再び奥へと足を進めた。
「答えはこの奥にあると思うのじゃ」
 三人は小さく頷き合うと、先を行く西天を追いかけていった。

 設楽はジークリンデに超越フレイムエリベイションをかけてもらい、小屋の中に侵入していた。
 小屋の中に待ち受けている可能性があるのは忍者。一瞬でも油断は許されない。外に待機する三人も、いつでも突入できる体勢を整えていた。
 しかし全ては杞憂だった。本当に誰も住んでいなかったのである。
「これも罠でしょうか」
 山本はまだ警戒しているが、いないものはいない。ジークリンデが念のためエックスレイビジョンとテレスコープの併用で周囲を確認するが、やはり確認できなかった。
 四人は少しだけ警戒を解き、小屋の物色に入る。すると一冊の日記のようなもの発見された。
「暗殺者が日記ですか?マメというか、多少意外ですね」
 設楽はそんな感想を漏らす。しかしジークリンデは違った印象をもっていた。
「日記なんて生易しいものじゃないですね。どうやら今までの仕事の結果表のようです」
 ジークリンデは婉曲的な表現を使うが、本質は変わらない。つまるところ、今まで殺してきた人間の名前だった。冒頭は苗字の無いどこにでもいそうな名前に始まり、順に強そうな名前へと移って行く。
 そして終盤にはこれからの予定表が書かれている。
「これがあれば先手が取れるかもしれませんね」
 本当に先手が取れるものなのか疑心暗鬼ではあったが、四人は確実に一歩進んだのだった。
 
 四人はその後、洞窟探検隊との合流をはかるために移動を開始する。すると、洞窟探検隊の四名は土を掘って大きな穴を作っていた。
「何をしているんだ?」
 我羅が尋ねると、小坂部が額にうっすらと浮かぶ汗を拭って答えた。
「洞窟の奥でいくつか人骨を見つけたじゃ。すでに白骨化していて詳しくは分からないが、大きなものではないようでな。おそらく子供のものじゃとおもうのじゃよ」
「そこで墓くらいは作ってあげようと思ってね」
 李が補足するように言葉を続ける。するとふと、我羅の頭に一つの可能性が浮かんだ。
「誰かに殺されたものか?」
 我羅が尋ねると、西天が肯定した。
「クナイのようなもので殺害されたとおもうのじゃが‥何か関係があるのじゃろうか?」
 しばらく考え込む我羅、そしてやがて言葉を選びながら答えた。
「ここは雪か嵐か、どちらかまでは分からんが、忍術の修行場だったんじゃないだろうか?」
 小屋で発見した殺害者一覧の始めの方にあった子供のような名前、そして未成熟な骨。断言はできないものの一つの可能性はある。
「では小屋の外にあった墓みたいなものはなんだと思います?」
 ジークリンデが尋ねる。すると再び考え込むような仕草をとって我羅が答えた。
「実際に骨を埋めることは禁じられたのだろう。そこで墓だけをつくったのではないだろうか?」
 そこまで言って、我羅はまた重要なことに気付いた。
「では、彼らに忍術を教えたのは誰なんだ?」
 しかし今、それを調べる時間は残されていなかった。