【Silent Voice】子供達の声

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

●消えた、ハーフエルフ
 昨日と同じ今日。何も変わらないはずの日常に隠された変化を、過敏に感じ取っていた者たちがいた。
 そこはキエフから徒歩で丸一日ほどの距離にある開拓村。人間、エルフ、ハーフエルフにジャイアントまでが混在する、ロシアでは珍しくもない村である。
「絶対に変だ」
 森に作られた秘密基地。ハーフエルフ、エルフ、ジャイアントという種族を越えた3人の少年と1人の人間の少女が広くはないその場所に身を寄せ合っていた。
 4人の表情へ一様に現れているのは、大人たちに対する不信感。
「僕が人間と同じ速さで成長していたら、何か教えてもらえたかもしれないのに。悪いね」
 皮肉気に言い片頬を歪めるエルフの少年に、人間の少女が首を振る。
「イヴァンが大人だったら、きっと同じことを言ったわ。子供には関係のないことだ、って」
「ヘルガの言うとおりだ。きっと、俺たち子供だけが気付いたのはタロン様の導きだ」
 ジャイアントの少年が、ゆっくりと噛み砕くように言った。
「イヴァン、ボリス、ヘルガ。大人たちはデビルに操られているかもしれない」
「デビルっ!?」
「しっ、静かに!」
 そうじゃなければ、人が1人消えたことを気にしないなんておかしすぎる。
 ハーフエルフの少年、ニコラは仲間たちに順番に視線を向けた。
「でも、デビルだったら私たちだけじゃ太刀打ちできないわよ」
「なら、ラリサは見捨てるのか」
 外に漏れないように、小声で囁いたヘルガをニコラとイヴァンが睨みつけた。だが──大人の腕力に対してでさえ太刀打ちできるのはジャイアントのボリスだけ。魔法が使えるわけでもない、頭が良いわけでもない、子供の体が恨めしい。
「俺、少しだけならお金がある。皆のお金を集めたら、冒険者、呼べないかな」
「‥‥それしかない、か」
 子供ならではの、純粋で強い思い。それが彼らの武器だった。頷きあい、絆を確かめるように互いの拳をぶつけ合うと‥‥静かに隠れ家を後にした。


●冒険者ギルドINキエフ
 各国に存在する冒険者ギルドには、常に厄介ごとが持ち込まれている。
 一口に厄介ごとと言っても夫婦喧嘩の仲裁であったり、戦争の戦力要請であったり、種々多様だ。
 そして今日も、厄介ごとが持ち込まれていた──‥‥

 うろうろとギルドの前を行ったり来たりする挙動不審な少年が2人。エルフのイヴァンとハーフエルフのニコラだ。
「どうかしたかのぅ?」
 見かねたドワーフのギルド員が、2人の少年へ声を掛けた。
「冒険者に助けてほしいときは、ここで頼めば良い‥‥んだよな?」
「なんじゃ、依頼か。こちらでうかがおうかの」
 途端に『ぐぅうう〜』と子供たちの腹の虫が鳴いた。
「わははは! 茶ぐらいなら出すぞ」
 2人の少年を招きいれたギルド員は、言葉のとおりに蜂蜜をたっぷりと入れたハーブティーを用意し、少年たちの話をゆっくりと聞いた。
「要するに、ラリサというハーフエルフの少女を探せばいいんじゃな」
「そう。遠いところに行ったとか、子供は知らなくていいとか、そんなのは嫌だ」
「ラリサはあんまり話さないけど、何も言わずにいなくなるような奴じゃない」
 ラリサの弟・イヴァンでさえ彼女の行方は知らされていない。何か事情があるにせよ、本当にデビルに操られているにせよ、子供たちにとってその状況が異常なものであるのは確かであろう。
「よし、わかった。手の空いている冒険者を探してやろう」
「おっちゃん、話がわかるな」
「俺たちの仲間にしてやってもいいぜ!」
「そうかそうか。それじゃ仲間に飯くらい食わせてやらんといかんな」
 小さな皮袋に詰められた金が子供達の全財産であることは明白だった。そろそろ自分の仕事時間が終わることも考え、ギルド員は一晩だけ、子供達の面倒をみることにしたようだった。

 ──そして、冒険者ギルドに一件の依頼が掲示されたのである。

●今回の参加者

 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea9383 マリア・ブラッド(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5183 藺 崔那(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5604 皇 茗花(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5631 エカテリーナ・イヴァリス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5900 ローザ・ウラージェロ(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ブラック・アンバー(ea6853)/ 高円寺 誠十郎(ea7413)/ ウェルリック・アレクセイ(ea9343)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ 緋宇美 桜(eb3064)/ 天津風 美沙樹(eb5363)/ ミランダ・アリエーテ(eb5624

●リプレイ本文

●子供たちの事情
「そんな‥‥ラリサちゃんが‥‥とってもいい子だったのに‥‥」
 大きく目を見開いたマリア・ブラッド(ea9383)は、次の瞬間ニコラの手を両手でしっかりと握っていた。
「急に居なくなるなんて普通じゃないわ。私にも手伝わせて」
 きっと助けてくれる。そう信じていた大人の一人に巡り合えて、普段なら憎まれ口を叩きながらその手を振り払ったであろうイヴァンとニコラは明らかにホッとしたように、ずっと張り詰めていた表情を緩めた。
「俺たちだけじゃ、もう本当に、どうしようもないんだ」
「大人たちは何も教えてくれない。子供だと思って‥‥悪魔にのっとられたのかもしれないけど」
「こんな所までやってくるとは、まったく困った子供達だ。危ないだろう? 悪魔の危険があるなら尚更だ」
 眉間に深いシワを刻んで、皇茗花(eb5604)は普段よりトーンの低い声で唸るように叱る。ライバルと認めたメイの言葉にイヴァンは口ごもる。
「だけどっ」
「確かに異常事態です。ですが‥‥だからと言って、あなた達二人だけでここまで来るのは無謀にも程があります」
 エカテリーナ・イヴァリス(eb5631)の言葉は取り付く島も無い。彼女は彼女なりに深く心配をしているのだが、そんな優しさを厳しさとしてしか表現できない不器用な性格なのだ。それを多少なりとも知っているニコラは言葉を詰まらせた。
「道中に何かあったらどうする気なんだ。ラリサが戻ってきた時に二人に何かあったら悲しむだろう」
「そうですよ。あなた方にまで何かあったら、残った皆に更に不安を与えてしまうのですから」
 矢継ぎ早に言葉を振り掛ける茗花とカーチャから子供たちを庇うように、膝を突いたアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)が力の限りに抱きしめた。怒られることなど覚悟の上で、それでも頼らずにいられなかった子供たちの心境を誰より汲み取っていた。
「ニコラ、イヴァン、なんて無茶するのよね‥‥」
「今でさえ、こうして心配を掛けているのだ。次は──」
 シフール便を使えと言い掛けて茗花は言葉を濁らせる。ギルドはシフール便を介した依頼を受け付けていないのだ。戦時下であったり、よほど地位のある者であれば話は違うかもしれないが‥‥そもそも、シフール飛脚は手紙を運ぶことは請け負ってくれるが、基本的に荷物であれば例え銅貨一枚、例え羽ペン一本であろうとも運んではくれないのだ。
「‥‥注意はこれぐらいにして、ラリサの事は本当に心配ですね。良くない事態になっていない事を祈るしかないですが‥‥」
 話を変えるようにカーチャが切り出す。けれど──
「状況からすると人買いの線で確実なのですが‥‥」
「ええ。しかし‥‥ハーフエルフを高貴とするこのロシアで、当のハーフエルフである子をただ売り買いするというのは‥‥どこか不自然な話ではありますよね」
「居なくなった子がもし引き取られたのなら、その事を黙ってる理由が分からないんだよね」
 カーチャの転じた視線の先では、子供たちと面識の無いローザ・ウラージェロ(eb5900)とウォルター・バイエルライン(ea9344)、そして藺崔那(eb5183)の三人は、祈る以外の具体的な対応を探そうと文殊の知恵を引き出すべく頭を寄せ合っていた。
 もれ聞こえる言葉が子供たちの耳にまだ相応しくないと考え、アンナは友人のミランダ・アリエーテや天津風美沙樹らと二人を連れ出した。
 そんな仲間たちの会話を右から左に聞き流し──ているわけでもないのだが、そうとしか思えない人物が一人。
「すまないねぇ‥‥ちょいと預かってもらえないかねぇ‥‥。家がないもんで持ち物全部こいつに積んでたら、見ての通りさ」
 ひょいっと肩を竦めて見せながらリスティ・ニシムラ(eb0908)は苦笑した。ギルド員にペットと荷物とその他諸々を預けようとしていなければ二つ返事で頷いてしまうような笑顔で。
「ちょっとばかり、積みすぎてしまってねぇ‥‥」
 ‥‥もっとも正当な理由があれば、よほどの危険物や貴重品でない限り預からないということもないようで、ギルド員は不承不承というスタンスを崩さずに馬と荷物を預かった。
「ん? 終わったかい? それじゃあ出発といこうかねぇ」
 ある意味、誰よりもビジネスライクなリスティ姉さんだった。


●帰郷と説教と
「イヴァン! ニコラ!! どこへ行っていたの!!?」
 子供たちを連れて村に戻ると、数名の男女がわっと駆け寄ってきた。力強く自分の子供を抱きしめる両親たちは、とても愛情が欠落しているようにも見えない。
「‥‥どうさね?」
 小声でこっそり尋ねられ、ウォルターは会釈するように小さく頷く。指に嵌めた石の中の蝶は羽ばたかない。少なくともこの親たちはデビルではないようである。
 気が緩んだのも束の間、子供たちの頬が張り飛ばされた!
「どれだけ迷惑をかけたか、解っているのか!!?」
「‥‥‥」
 反抗的な目で父親を見上げる二人の少年にカッとする男たち。マリア、茗花やカーチャが割って入る。
「充分叱っておいたゆえ、これ以上は」
「‥‥二人とも反省していると思いますし。そもそも、私たちが借りていたバスケットを受け取りに出向いてくれたのですから‥‥」
「好意から出てしまった行動です、責めるなら、私たちを」
「‥‥事情があるのなら。次は、せめて断ってから出かけなさい」
 男たちにしてみれば小娘という風情の二人は、以前村に訪れた冒険者。外見では計り知れない力を秘めているのが冒険者だと知っている男たちは、それ以上子供を責めるのを止めた。
「皆さんにも、わざわざお送りいただいて申し訳ないばかりで」
 幾分冷静になったのだろう、大人たちが頭を下げる。
「いつまでこちらに?」
「折角来たし、少し子供たちの相手をしてから戻ろうと思っていたのね。友人たちも一緒に来てくれたのよね。ローザもこの辺りの植物や鉱物の調査をしたいっていうから、ちょうど良いと思ったのよ」
 アンナがにこりと笑顔を見せると、安堵したような、困惑したような、複雑な表情を浮かべた。流石に、無下に断るというようなことはなかったけれど。


●いないこだあれ
「もういいかい」
「まあだだよ」
 子供たちの声に混じって、崔那やアンナの声も響く。アンナはともかく‥‥崔那。子供たちよりはるかに年上のはずの彼女に違和感が全く無い‥‥などと言ったらまた烈火の如く怒るのだろうと茗花は小さく苦笑した。
「国境を越えても言葉が変わっても、子供たちの遊びってのはそう大差はないもんだねぇ」
 リスティはどこか眩しそうに目を細めた。本当は一緒に遊びながら様子を探るつもりだったのだが、昨夜の深酒が祟ったか脳裏にこびり付く頭痛がそれを邪魔したのだ。もっとも、彼女は翌日に支障を来たすような飲み方をしたつもりはないのだが‥‥。
 新緑に乱反射する春の朝日のような子供たちの声を聞きながら視線を交わしたマリアとリスティは、開拓に向かわず村の雑事に従事する女性に──ラリサの母親に声を掛けた。
「どうかされました?」
「ラリサちゃんはどうしたんですか? 姿が見当たらないのですが‥‥」
 母親は身体を強張らせた。
「子供達と遊ぶのはいいんだが一人仲間はずれっていうのもなんだろうし?」
「あの子は‥‥‥‥‥‥その‥‥‥‥行儀見習いに、そう、行儀見習いに遣りましたっ」
「‥‥‥行儀見習い、かい?」
「ええ、ラリサもハーフエルフですもの、行儀見習いに行っても不思議は無いでしょう?」
「失礼ですが、どちらへ‥‥?」
「それは申せませんわ。遊びに行ってしまっては困ると、子供たちにも教えておりませんし」
 教えないと言われては詮索できないのが辛いところだ。『行儀見習い』というのが真実かどうかは、その場で判別のできることではなく──仲間と検討する必要があるだろうか。お互いの表情に同じ思考を見出して、マリアとリスティは母親に礼を述べ、ラリサによろしく、と一言付け加えると子供たちに足を向けた。

 イヴァンを伴い、カーチャはラリサとイヴァンの家を家捜しすることにしたようだ。嫉妬の篭ったニコラの視線がイヴァンを射抜いたのはさておいて、イヴァンの失せ物を探すという口実も、家捜しという行為も。止むに止まれぬ事情があるとはいえ、言い出したカーチャ自身、あまり気分の良いものではないようである。
「これで何か証拠になるものが見つかれば話が早いのですけれど‥‥」
「でも、俺もニコラとボリスと三人で一応家捜しはしたんだぜ? どっかに隠れてるんじゃねーかとか、何か解るものがあるんじゃないかと思って」
「子供の視線と冒険者の視線は、多少なりとも違うものですから。何か、見つかるかもしれませんし」
「そういうもんか?」
「そういうものです」
 けれど、どうやら本腰を入れなければ母親が戻るまでに家捜し終了の目処が立ちそうもない。
 そう判断し、カーチャは下ろしていた金の髪をレインボーリボンで結い上げた。

 ローザとウォルターは村の中や森を隈なく歩き回っていた。
「流石に、犬の散歩では限界がありますからね」
 苦笑するウォルター。ローザの護衛ということにしてしまえば森を歩くことも不自然ではない。
「それで、『蝶』の様子はどうですか?」
「変化はありませんね。デビルの仕業ではなく、あちらの線で考えるのが妥当ということでしょうね‥‥」
 ──人身売買。
 既に何度か考えの至ったその言葉は他国から見れば『ハーフエルフ至上主義』としか思えないロシアに於いて、違和感が漂うものに思えた。
「やはり養子か何かでしょうか」
「けれど、跡取りならばイヴァンを連れて行くのではないですか? 男児ですしね」
 この地の領主には跡取りがいる。ラリサを嫁に、という可能性はあるだろうが、それにしては年齢が合わないのだ──貴族ゆえ、年齢より血を重んじるところは在るかもしれないが。
「子供たちに話していないのは、相手から口止めされていて、罪悪感も相まって漏れ出しそうな子供には言えない、という所でしょうけれど‥‥」
 ローザも頭を悩ませる。領主の所まで向かい話を聞こうかとも思ったが、徒歩では少々時間が掛かりすぎる。事前に集めた貴族の情報からは、この近隣に急ぎ跡取りを必要とするような家は見当たらなかった。

 崔那やアンナとて、ただ子供たちと遊んでいるだけではない。
 子供を見る大人たちの目、村の佇まい、置かれている物──隠れん坊や鬼ごっこをして村中駆け回りながら様々なものを見、そして触れて、崔那は村を分析していた。
「でも、やっぱり違和感ないんだよね〜‥‥」
 ごくありふれた開拓村、にしか見えないのだ。
「憑依されている、ということもなさそうなのね」
 隠れん坊をして魔法発動時の発光が人目に触れることのないよう気を使いながら使用したブレスセンサー。それは確かに、隠された呼吸を嗅ぎ取ったりはしなかった。
「つまり、僕たちの調査では‥‥村の人たちが、自分たちの意思で何かをした、としか言えないよね」
「子供たちには、ちょっと辛いことになってしまうかもしれないのね‥‥」
 いつも前向きなアンナにしては珍しく‥‥子供たちの事を憂いてしょんぼりと俯いた。
 もしもデビルの仕業なら。アンデッドの仕業なら、モンスターの仕業なら、冒険者に出来ることは沢山ある。ラリサを奪還することさえも可能なことだ。けれど、大人の事情があり、モラルに反した行いも孕まれていなければ──冒険者に出来ることは激減してしまう。子供たちの声に応えることができなくなってしまうのだ。
 そうなれば子供たちはラリサを失ってしまうだろう。
「だけど、まだ、出来ることはあるよ。子供たちの期待に応える、っていうことがね。嬉しいことも悲しいことも乗り越えて大人になるんだから、知りたいって言われたなら僕たちは出来る限りのことをしてあげよう。きっと、それが明日に繋がるから。ねっ?」
「そうね‥‥」
「ほら、早く隠れないとボリスが探しにくるよっ」
 頷き合い、身体を隠す。まだ時間は残されているのだと、前を向きながら──


●真実の片鱗
 森に作られた悪童3人組の秘密基地に子供が4人と大の大人が7人、窮屈そうに身を寄せ合っていた。
 まず得た情報を提示したのはアンナと崔那。
「村には違和感のあるものはなかったのね。ブレスセンサーでも不自然な呼吸は見つからなかったのよ」
「僕は野羽に匂いを追わせてみたんだけど‥‥村の入り口で匂いが途切れちゃったみたい。馬車か馬に乗ったのかもしれない」
 次に語ったのはウォルターとローザだ。
「私の『蝶』にも反応はありませんでしたね。領主や近隣貴族に跡取りがいることは事前にお話した通りです」
「その関連ですが、村の青年たちに話を聞いた感じでは、特殊な性癖を持つという噂もないようです」
 聞き出す口実に苦労したローザに仲間たちは労いの言葉を掛ける。
 そしてマリアとリスティが母親の言葉を口にする。
「ラリサさんのお母様は『行儀見習いに出した』と言っていました‥‥」
「取ってつけた、と言ったら言い過ぎかもしれないけど、言葉を選んでいたような印象があったからね。真実と見るかどうかは皆の意見を聞きたいところだね」
「最後は私ですね。私はイヴァンと一緒に家捜しをしたのですが‥‥証拠になるようなものは見つかりませんでした。けれど、キッチンの床下に隠されていた金貨を見つけました。ざっと見た感じでも、月道を2回使える程度はあったと思います」
 イヴァンの家はそんな大金があるような家ではない。カーチャの言葉は、懸念を裏付ける様に思えた。真実に近付こうと言葉を重ねようとする仲間たちを遮って、笑みを湛えたままリスティが子供たちを見据えた。
「そういえば一つ確認したいことがあったねぇ。今回の依頼の結果として、知りたくなかったようなことがわかったとしてもあんたらは知りたいかね? 例え辛い事実がわかったとしても」
「‥‥知りたい」
 逡巡したが、それも一瞬のこと。迷いの無い瞳で頷いた4人の頭をリスティは乱暴に撫でた。
「ところで、茗花はどうしたんだい?」
「すまない、遅くなった!」
 噂をすれば何とやら、茗花が狭い空間に身体を捻じ込ませてきた。場所を作るように子供たちの方へ少し詰めながら、ウォルターは現れた女性に尋ねた。
「村ではお見かけしませんでしたね‥‥どちらまで?」
「出入りの商人や隣の村へ話を聞きに、な。しかし、その甲斐はあったぞ」
 勝利の笑みを浮かべ、茗花は
「隣村の男がこの村の方から現れた馬車を見かけたそうだ。見慣れた商人の馬車ではなかったらしい。馬車の特徴から商人に確認してみた話では、キエフ近郊の修道院に出入りしている馬車と酷似しているそうだ」
「修道院、ですか‥‥」
 皆の集めた情報とは方向性の違う言葉。困惑の視線を交わしつつも、乗りかかった船だと心を決めた。

「行きましょう、修道院へ」