【ちまっと探検隊】黒の扉

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 67 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月16日〜01月24日

リプレイ公開日:2007年01月27日

●オープニング

●事の起こりというべきもの?
 ある廃村に、不思議な文様の描かれた大きな大きな扉がありました。
 それは硬く閉ざされた石の扉でした。押しても、引いても、開く気配がありません。
 中にあるものは、エックスレイビジョンでも見通せない謎の扉です。
 しかも、その扉は‥‥あろうことか、枯れ果てた井戸の底にあるのです。

 冒険者を中心に熱く秘かなファンを増やしつつあるちいさなお人形、通称『ちま』を持った冒険者が廃村を訪れたのは、決して偶然ではありませんでした。心を病んだ少女の治療のためと、村に住み着いていたコボルドが確かにいなくなったことを確認するためと、それから、どうして村が廃村になってしまったのかを解明するために訪れたのですから。
 でも、この扉を見つけたのは、本当に、ただの偶然にすぎませんでした。

 その扉の不思議な文様は、扉全体に掛かる大きな円が先ず目につきます。円を描く線の幅は5センチくらい。良く見ると、ゲルマン語ではない何かの文字がとても細かくびっしりと綴られているようですが、風化してしまって読み取れません。
 真ん中──ちょうど胸の辺りに、横へ向かう線があります。線はちょっと波打っていて、全体的に上の方へ緩やかな弧を描いているようにも見えます。線よりも下のほうを中心に、三角や四角がたくさん散っています。線よりも上の方は、小さな点が散っています。
 色々な図形や模様がありますが、円は2つしかありません。まあるいものと、円が二つ重なった、三日月のようなものです。まあるいものは、外側の大きな円の線上にあります。ぴったり頂点、扉の境目です。
 三日月のような二重の円は、やはり大きな円の線上にあります。しかし、左の何とも中途半端な場所です。
 扉にはいたる所にうっすらと切れ込みがあるようでしたが、どれも鍵穴ではないようでした。

 その、なにやら曰くありげな扉に興味を示したのは、女商人のルシアン・ドゥーベルグさんです。ノルマン王国のパリで大きなお店を構えていた彼女がキエフに支店を出したのは、夏の盛りのことでした。美貌‥‥があるかどうかはともかく、才覚とノウハウは確かに兼ね揃えたルシアンさんはキエフの支店もめきめきと大きくし、商人ギルドも無視できない存在になってきています。
 そんな彼女にもひとつだけ、誰に諭されても止めることの出来ない趣味がありました。そう、ダンジョン作りです。ルシアンさんがいまいち大金持ちになれないのは、きっとそれが理由でしょう。ダンジョンを作っては冒険者に攻略させる、彼女も確かに好事家と呼ばれる人種に違いありませんでした。

 好事家で冒険者とも親しい彼女が、自分の依頼した仕事で発見された扉を気にしない訳がなかったのです。

 心配していた少女の心の病気も回復に向かい、仕事も軌道に乗って順風満帆。
 ルシアンさんの悪い虫がうずうずし始めたのは、雪も積もった、そんな時期でした。


●冒険者ギルドINキエフ
 冒険者ギルドには、ドワーフの係員さんがいます。もっさりした自慢のお髭を三つ編みにしている、老齢に差し掛かろうというおじさんです。冒険者をしていたらしくて、とても風格もあります。ルシアンさんの値引きに負けない、商才に長けていそうなギルド員さんは、ルシアンさんとお互いにライバルだと認め合う関係。
 今日もルシアンさんと笑顔の裏に火花を飛ばしているようです。
「あの扉を何とかして開けてほしいのよ」
「そりゃまた随分と怖いもの知らずじゃの。モンスターが溢れかえるかもしれんというに」
「もちろん、開けても何も問題がない、と判断できればよ? 当然でしょう」
 むっとした表情でルシアンさんが言いました。分別がある‥‥のとはちょっと違います。モンスターが出てきたら商売に支障があるから‥‥とも少し違います。モンスターを解き放ったルシアンさん、という評判が出てしまったらせっかく築き上げてきた信用ががた落ちになってしまうからです。
「それなら、まあ良いがの。ということは、その扉の由来を調べ、問題がないと判断できれば扉を開ける、という依頼でいいんじゃな?」
「ええ」
 こくりとひとつ頷くルシアンさん。
「ちま好きの冒険者さんたちが発見してくれたのだし、ここはちま好きさんにお願いしたいところね。無理にとは言わないけれど」
「ふむ。雛菊嬢も付いて行きそうな話じゃの」
「付いて行きたいというのなら私は止めないわ。迷惑でなければ連れていってあげてほしいわね」
 あの少女なら、置いて行っても後を尾けかねないけれど。
 そう思い至ったルシアンさんはくすりと笑って、すぐに表情を引き締めました。ここからが勝負なのです。
「危険はないと思うし、報酬は保存食だけでいいわよね」
「いやいや、経費もあろう。食料だけというのは少々乱暴ではないかね?」
 ギルド員さんは三つ編みのお髭を撫でながら、にっこりと笑いました。ちょっと怖いです。
「あら、保存食だって無料じゃないのよ?」
「しかし、冒険者が納得すまい。慈善事業ではないのだからの」
「‥‥それじゃあ、保存食は無し。報酬を支払うことにするわ。危険は少ないと思うから少しだけね」
 頭で少し計算して、損の少ないように報酬を変更します。
 けれど、ギルド員さんは「解ってないのう」と言わんばかりにやれやれとわざとらしく溜息をこぼします。
「危険が付きまとう仕事の可能性もあろう、まだ調べていないのじゃからな」
「はいはい。もし危険があるようなら危険手当を追加するわよ」
 ちょっぴり不貞腐れて、ルシアンさんは譲歩しました。でも、危険はないだろうと踏んでの譲歩のようです。
 それ以前に、おばさんの域に踏み入れつつあるルシアンさんが不貞腐れても、可愛くありません。
「煩いわね」
 ‥‥いひゃい。記録係をつねりゅのは反則でしゅよ。

●今回の参加者

 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

●キエフスペシャル・ちまっと探検隊 〜井戸の中に作られた謎の扉の秘密を追え!!〜
 目に染みるような快晴が、ちまっと探検隊再集結の日の天気だった。
「いーい天気ねぇ。朝は雪が降るかと思ってたのに」
 抜けるような青空の中をゆったりと流れ行く雲を数え、ローサ・アルヴィート(ea5766)は眩しそうに目を細めた。
「皆、日頃の行いが良いもの。セーラ様とタロン様の贈り物よ、きっと」
 皆のお母さんとも言うべき仲間、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)はにこにこ顔。しかし今日は、ラブラブ(のはず)の旦那様が同行していない。
「今日は、パパさんはー?」
「天気が良くなったからね、掃除でもしてるんじゃないかしら」
 良いお天気は良い子の味方なものであるが、主婦と主夫の味方でもあるようだ。
 しかし、本当に早朝の曇り空を吹き飛ばしたのは、きっと、初日からとてもとても張り切っているこの人だろう。いや、この人はいつも何事にも一生懸命なのだから、この表現は間違っているかもしれない。初日から、他の人たちよりもずっとずっと気合の入っている人、が正しい表現になるだろうか‥‥そう、青龍華(ea3665)です。思えばちまっと探検隊初出動の時も、誰よりも気合が入っていたのだった。
「ふんふふ〜ん♪」
 羊皮紙に何かを書き付けながら機嫌よく漏れる鼻歌に、エレメンタルフェアリーのリュミィは興味津々だ。そんなリュミィに気付き、飼い主のフィニィ・フォルテン(ea9114)が龍華の手元を覗き込んだ。
「ご機嫌ですね、何を書いているんですか?」
『か〜?』
「ノリと勢いは探検隊の基本だと思うのよ」
 力説する龍華の手元の羊皮紙には、何か‥‥『キエフスペシャル・ちまっと探検隊 〜井戸の中に作られた謎の扉の秘密を追え!〜』とか書き綴られている。
「そういえば、前回の報告書も龍華さんが小見出しを作ってましたね。記録係さんを目指すのですか?」
『ですか?』
 首を傾げるフィニィさんとリュミィの質問に、龍華は思わずぷっと吹き出した。
「あはは、そんなことないわよー! 報告書を纏めるより拳を磨く方が性に合ってると思うしね」
 『謎の扉の先にあった物は!?』だとか『謎の扉の真実を見た!!』だとか、何だか他にも色々書いては消し、消しては書き、本気で悩んでいる様が羊皮紙上だけでもありありと伺える。
「待たせたな、これで足りるか?」
 ちま用の材料を買出しに行っていたゴールド・ストームが色々な荷物を抱えて戻ってきた。一人ひとりの材料は少なくとも、全員分ともなればそれなりの量がある。
「ありがとうございます、助かりました♪」『た♪』
「んで、彼女は来たのか?」
「‥‥‥」
 寂しげに首を振るフィニィ。彼女というのは一緒にちまっと探検隊として出発するはずだった友人のことである。約束の時間になっても姿を見せなかった彼女をギルドで待ちたい皆のために、ゴールドが全員分の材料を纏めて買出しに行っていたのだ。
 しかし、そのゴールドが戻っても彼女は姿を見せなかった。
「ここで待っていてはちまを作る時間がなくなるな‥‥」
「ギルド員さんに伝言を残して取り掛かるのはどうかな〜?」
「そっすね、調べたいこともありやすし‥‥キエフを発つのは明日っすから、来るかもしれやせんしね」
 ちまっと探検隊として自由を与えられている依頼であり、依頼人も気さくな女性であるが、お金をもらう依頼であり仕事であるのだからやるべきことはやらなくてはならない。王娘(ea8989)とパラーリア・ゲラー(eb2257)の言葉に頷いた以心伝助(ea4744)はお兄さんらしく皆を促した。
「では、私も情報収集をしてきますね。皆さんの新しい衣装を楽しみにしてますよ」
 にっこりと人の良い笑顔を浮かべてそう言ったサーガイン・サウンドブレード(ea3811)の黒い瞳を、娘が胡散臭げに一瞥(いちべつ)した。が、サーガインは気付いていないようだ。
(フッ、人形遊びですか‥‥そのうち、自分自信が人形になら無いよう、せいぜい気を付けて下さい)
 昏い思考が滲んで口の端が少しだけ、歪んだ。野に生きる猫という、その二つ名の通り野生的な何かを持ち続ける娘の、その『何か』が、サーガインを信用しきっていないのだろう。直接口には出さないものの、にこにこと「楽しみにしていてくださいね」と言うセフィナ・プランティエ(ea8539)や雛菊(ez1066)‥‥娘の大切な真っ白い心の者たちを、そっと背後に庇った。

 こうして、ちまっと探検隊の初日は幕を開けた。


●街中に潜む極楽鳥の謎 〜その時彼は歴史を垣間見る‥‥か!?〜
「確か、この辺って‥‥」
 伝助はキエフの裏通りをきょろきょろと見回しながら歩いていた。馴染みの酒場で聞き込みをしたところ、蛮族の集落を回る怖い者知らずの吟遊詩人の噂話を聞いたのである。どうやら色々な意味で怖い者知らずのようで、ここ数日は派手派手しい格好をし治安の悪い一角で大盤振る舞いをしているのだとか。それならばすぐ見つかるだろうと足を伸ばして来たものの、なかなか見つか──ったようだ!
「あの、蛮族に詳しいとお聞きしたでやんすが、森の中の廃村なんていうのも知ってやすかね?」
「場所にもよるけれどね、まあ僕より詳しい人はなかなかいないと思うよ」
 リュート片手に、なんだかとても芝居がかった男が『ふぁさぁぁ‥‥』と前髪をかき上げた。金の髪がふわりと風に舞う‥‥伝助が麗しい薔薇を貸したら、二度と返してくれなさそうな吟遊詩人だ。
 あまり色々教えたくないが真実をヴェールに包んでしまっていては時間の限られた中での情報収集は難しいと考え、伝助はかい摘んで事情を説明することを選んだ。
「あの辺りの蛮族はフロストウルフを森の護り手として崇め、昔ながらの生活を頑なに守っているのさ。その一点において、互いに協力し合っているようだよ」
「廃村は蛮族が昔住んでいた場所だということっすか?」
 最近のキエフはこんな人物ばかりがやけに目に付く、と先日酒場で見かけた同郷の士を思い出しながらそう訊ねた。すると男はひょいと肩を竦めてぽろろんとリュートを鳴らす。
「ロシア王国の歴史がとても浅いのは知っているね? 僕たちの知っているロシア王国はほんの一握りに過ぎないんだよ。ロシア王国に組み込まれていない蛮族の集落ではハーフエルフを混血として嫌っているところもある‥‥なんて知らないだろう?」
「それは初耳っすね」
 素直に頷く伝助に満足げな吟遊詩人は更にリュートを鳴らして、歌うように語り始めた。

♪ 遠い遠いはるか昔 ロシアに人がほんの一握りしかいなかったあの頃 蛮族と人々は隣人であり友人だったのさ
 それは沢山の集落が 互いに助け合い時には寄り添って 深い暗黒の国に確かに息づいていた
 人々は 友の誓いを証に残し この森を護ることを生き抜くことを誓い合っていた♪

 韻も何もない唯の歌だった。が、それは確かに歴史の一部に違いなかった。
「‥‥つまり、あの村は蛮族と共存していた集落の1つ‥‥ってことっすかね?」
 ぽろろん。リュートが肯定するように鳴った。

♪ 永き永き時が流れ 命は増え誓いは薄れていった 友の誓いもまた然り
 そして 古の誓いを忘れ 森を裏切り生命に固執した 平野の住人がいた
 そして 古の誓いを忘れ 森に息づき野生に執着した 森の住人がいた
 しかし 古の誓いを護り 護り手と共に生きる道を選んだ 森の住人もいた♪

 じっと耳を傾ける。しかし吟遊詩人はそれ以上語る気はないようで、リュートの調べだけが路地裏を駆け抜けて行った──‥‥


●道を失った男 〜彼はキエフに真実を見出すことができるのか!?〜
 教会の書物を紐解き、目を通していたサーガインはふうと溜息を零した。
(あの娘を手に入れるためとはいえ‥‥ばかばかしい)
 たかが人形遊び。扉の中に何があるかは知らないが、彼にとって利益となる可能性は決して大きくはない。
 そして、ラテン語やゲルマン語で綴られた書物の山からあるかも解らない情報を探すのはひどく面倒なものだった。
 しかし投げ出して信頼の礎を自ら壊すほど、彼は愚かでもなかった。
「‥‥おや。これは伝助さんの描かれた絵に似ていますね」
 適当に紐解いた書物で、事前に伝助が描いてくれた絵と似たものを見つけたのだ。
「しかし‥‥これは少々難解ですね‥‥」
 のたうつ文字を指で追う。どうやら難しい書物のようで、彼のラテン語能力を以っても全てを解読することは困難のようだった。

 太陽を天頂に輝きしとき 月は紅き涙を誘う
 紅き涙は獣の涙 つたいし雫となりしとき
 獣は其を導かん 天なる道へと導かん

「詩‥‥関係がある、のでしょうね‥‥ふむ」
 小さく、嗤った。
 そして、決して仲間の目に触れることがないよう‥‥己の記憶にのみしっかりとそれを刻み込み、教会を後にした。


●ちまっと探検隊出発準備! 〜生存競争はここから始まる! そして姿を見せたものとは!?〜
「ねぇねぇルシアン、ちまスクロール用に羊皮紙を安く手に入れたいんだけどっ」
「いつもながら唐突ね、ローサさん」
 依頼人である女商人ルシアンは思わず苦笑い。
「今回は別のものを作るつもりなんだけど、やっぱりスクロールは欲しいところなのよねぇ‥‥」
 片手を頬に当て、ふう、と溜息を零すローサ。
「書き損じを削った中古か、工程で失敗して売り物にできない羊皮紙くらいなら安く手に入れられないこともないわよ」
「ほんとっ!? じゃあ今度ぜひぜひ入手よろしく! もちろん親友価格でねっ☆」
 やれやれと肩を竦めたルシアンを横目で見、細い毛糸を賢明に編み上げていたセフィナは小さく首を傾げた。
「ローサさん、いつからルシアンさんと親友になったのでしょうか‥‥」
「さあ、私にもさっぱりです」
『です』
 衣装を変えたリュミィがフィニィの真似をする。
「よーし、それじゃ今日はしっかりと気合いを入れてキューピッドボウを作るわよ〜っ! って、パラちゃんそれは何?」
「葱‥‥に見えるのですけれど‥‥」
 どうみても葱‥‥のような、木彫りの何か。ちまに葱というどこかアンバランスなものが気になって、フィニィも尋ねた。
「聖剣ねぎすかりばーだよぉ♪ でもその真の姿は!! ネギリス特産フライングねぎなのだぁっ☆」
 ちまパラちゃんの手で作りかけの『ねぎすかりばー』をぐぐっと握る。やわらかいちまに木彫りの硬さは新鮮かもしれない。
「フライングねぎ〜??」
 耳慣れない言葉にきょとんと目を瞬く雛菊。
 にこにこと純真な笑顔で、パラーリアは求められるままに説明をする。
「うん。えいやっとお尻に刺して魔力を注ぐと空が飛べるんだぁ☆」
『???』
 大きな瞳はきらきらと星を浮かべたままパラーリアを見つめる雛菊。その両耳は危険を察知した龍華とリュシエンヌの美しすぎる連携でしっかりと塞がれていた。
「雛ちゃんは、まだ、知らなくていいのよ」
「そういうのはおじちゃんが全部やってくれるからね」
 流石にやってくれないと思うけどっ、というローサ心の突っ込みはさておき、不思議そうに首を傾げたパラーリアをどうにか宥めてその場は無理やり丸く収めたのだった。
 一方、娘とフィニィはちまっと探検隊ロシア仕様の毛皮もこもこバージョンを作成中のようだ。
 ラビットファーでふわふわもこもこ♪ フィニィは帽子、娘は猫耳ももちろん忘れずに☆
「♪ふっかふっか ぬっくぬっく ぽっかぽか〜♪」
『ぽか〜♪』
 切れ端を貰ったローサは、こちらはこちらで姉妹品とも言うべき『ふさふさ襟巻き』を追加で作るつもりのようである。
「‥‥来ないねぇ〜?」
「雛ちゃん?」
 ぽつり呟かれた言葉を聞きそびれ、セフィナはにっこりと友人の顔を覗き込む。
「雛のこと、嫌いになっちゃったのかなぁ‥‥」
 うるりと潤む大きなまなこ。きゅんと胸を締め付けられて、セフィナは優しく雛菊の肩を抱いた。
「そんなことありませんわ。どれだけ大切に想われているかは雛ちゃんが一番よくご存知ですわよね?」
「‥‥でも‥‥」
 しょんぼりとした雛菊の頭をそっと撫で、しゃがみ込んで視線を合わせた。
「こんな時期ですもの、体調を崩されて来たくても来られないのかもしれませんわ。雛ちゃんがそんなことを考えてたと知ったら、とても悲しまれてしまうと思いませんか?」
「‥‥! じゃあ、雛、今度会ったときに渡せるように、もう1つ肉球手袋と肉球靴下作っとくの。そしたら喜んでくれると思う〜?」
「ええ、もちろんです!」
 セフィナは優しい少女の言葉ににっこりと笑顔を浮かべた。
「私も作ろうかな‥‥」
「いっそ、全員お揃いでも可愛いかもしれないわね」
 それぞれが作っていた馬もゴールが見え始め、龍華とリュシエンヌにも欲が出てきたようだ。
 黄色い声が飛び交う中、ちまたちの初めての共同作業──ちまっと探検隊隊員お揃いコスチュームが着々と進められていた。

「ただいまっすー」
「何だか楽しそうですね?」
「「「「「‥‥‥‥‥‥あ。」」」」」

 訂正。
 ちまっと探検隊『女性隊員』お揃い装備。


●森に潜む廃村を目指せ! その時、少女たちの身に襲い掛かるものとは!?
 翌日。
「来ないねぇ‥‥」
「来ませんわね‥‥」
 雛菊とセフィナはよいしょとつま先で立ち、冒険者街の方を凝視している。初日に現れなかった友人が、二日目には顔を出してくれるのではないかと淡い期待で小さな胸をいっぱいにして。
「‥‥時間っすね。今生の別れって訳でもありやせん、土産話を山のように抱えて帰ってくるのがちまっと探検隊の任務に加わった、そういうことっすよ」
 少女たちを慰める言葉を投げかけながら履きなれた魔法の草履を再び履き、伝助はトントンとつま先で地面を蹴る。
「そろそろ行きやしょうか。準備は大丈夫っすかね?」
「あたしはオッケーよ☆」
 ヒラソールに荷物を載せてローサが親指を立てる。リュシエンヌは愛馬に跨れば出発ができるようだ。渋々としゃがみ込んでブーツの紐を結っていたセフィナも、心配そうに見上げるシャスールの頭を撫でて立ち上がる。
「それじゃ、私はオリヴィエを引いていきますね」
『ね♪』
 自身は魔法の靴を履き、フィニィは手綱を握った。オリヴィエの背にはとりたてて重いものは載っていない、が‥‥山のような荷物が載せられていた。全26種類にも及ぶまるごとシリーズ‥‥彼女も数いる愛好家の一人のようだ。山のように防寒具を積まれたオリヴィエは、さぞかし暖かいことだろう。
「娘ちゃんとパラーリアちゃんはどうするの?」
 龍華は魔法の靴を持たぬ仲間を振り返る。
「私は徒歩で構わん。雛菊とのんびり行こう‥‥」
「あ、にゃんにゃんってば意外に策士?」
「‥‥意外とはどういうことだ」
 きゅむっと雛菊の手を握る娘をからかうローサ。ツッコミどころはそこなのね、とリュシエンヌとフィニィが苦笑する──口にすればぷいっとソッポを向いてしまうだろうから。
 それでも言ってしまう人もいる。
「娘姉さんは策士といわれるより意外といわれた方がショックだったのですね。ふふ、愛らしい策士ですね‥‥」
 目を細めたサーガインの鳩尾に鳥爪撃が鋭く決まる!!
「‥‥ぐっ!」
 くぐもった声を漏らしうずくまるサーガイン。パラーリアが「大丈夫?」と覗き込むが、虚勢を張る元気もないようだ。
「素手だっただけ、ありがたいと思え‥‥!」
 眼光が鋭くサーガインを射抜き、ああやっぱり、とフィニィとリュシエンヌは肩を竦めた。
「あ、雛ちゃんさえよければ、ちろの背中に乗ってく〜? 力持ちだし、あたしと雛ちゃんが乗ってもビクともしないと思うよぉ♪」
「わぁい、雛、パラちゃんお姉ちゃんとちろに乗るぅ!!」
 幼いロック鳥の大きな足にぎゅむりとし抱きつく雛菊。その後ろからさらにしがみつくパラーリア♪
「娘ちゃんも乗ってみる〜? ちろなら3人乗っても頑張ってくれると思うんだ、ね、ちろっ☆」
 頷くように大きな翼を僅かに広げてみせるちろ。
「‥‥共に向かうだけにしておこう」
 そう言って娘はフライングブルームを取り出し、跨った。
「なんだ、本当に策士だったのね」
 笑う龍華を鋭い視線が射抜き、セフィナが慌てて龍華の袖を引っ張った。
「げほげほ‥‥すみません、パラーリアさん。娘姉さんの代わりに私を乗せてもらえませんか?」
「おっけーだよぉ♪ ちろのペースがちょっとゆっくりになるかもしれないけど、それでも皆と同じくらいのペースは余裕だよ、きっと!」
「ありがとうございます」
 にっこりと微笑んで、ちろの背に乗った雛菊が飛ばぬよう、少女に覆いかぶさるようにサーガインもしっかりとちろに捕まった。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
 その姿を見てローサと龍華がこそこそと小声を交わし、真っ赤になってサーガインが否定する。
「違います、そんな趣味はありませんってば!!」
「ちろって大きいよね、って言っただけなのに〜」
「そんな趣味ってどんな趣味〜?」
 うふふ、とこんなときばかり妖艶に微笑む悪女が二人。
 そして鬱屈とした魔力を箒に注ぎ込む少女が一人。
(策士、策に溺れる‥‥って言うんすかね、こういうのは‥‥)
 すっかり雛菊の隣を掠め取られた娘に、伝助は優しい笑顔を浮かべていた。


●謎の廃村に隠された、真実の片鱗に迫る──果たして、彼らは何を見てしまったのか!?
「さ、寒かった‥‥」
「空の方が寒いみたいだったねぇ〜。ちろは早いから、余計に寒く感じたのかもっ?」
 真っ青になり震えているサーガイン。どうやら、防寒服もまるごともバックパックに仕舞ったままで非常に寒い思いをしたようだ。
「‥‥大丈夫〜?」
 リュシエンヌに貰った手袋を嵌めた両手で、雛菊は一生懸命サーガインの手を温めた。
「寒いときには動くのが一番だよぉ♪ 皆が着く前に雪かきでもしよ〜☆」
「ええええ!?」
 パラーリア、強し。

 そして井戸の周囲の雪が邪魔にならない程度に除雪を終えた頃、ちまっと探検隊本隊が到着した。
「井戸に挑む前に、きちんと情報収集するべきよ!」
「ろんふぁちゃん、ダジャレ?」
「‥‥ちっがーう!!」
 ろーさのツッコミにぴょこんぴょこん、ととび蹴りをかますろんふぁ。
「落ち着くのよ、皆! ここで騒いだら生死に関わるわ!」
「了解だよぉ〜」
 ぴしっとねぎすかりばーを腰に括りつけたぱらちゃんが敬礼!
 右にならって全員敬礼!!
「偵察部隊のろーさ隊長と伝ちゃんは先に現地の確認」
「「了解!」」
「せふぃなは危険な動物がいないか確認すること。ぱらちゃん、護衛は頼むわよ」
「「はいっ」」
「私はろんふぁ特派員と行くわ。他の皆も危険には充分注意して、扉に関する情報収集よ!」
「ラジャ!!」
 気合いだけは小さな身体がはちきれんばかりに詰まっているちまっと探検隊一同。
 ちうまの『しろぱん』『ぱんちゃ』二頭立ての馬車──もといおもちゃのソリにおしくら饅頭状態で乗り込んで出発!!

「怪しげな足跡はありませんわね‥‥」
「でも油断は禁物だよぉ」
「ええ──ぱらちゃんさん、ちょっと待ってくださいませ‥‥あそこに見えるは茶色のふわもこ、狐さんですわ!」
「むむむ、怪しいやつっ。ふぃにぃちゃんには尻尾一本触れさせないよぉ〜☆」
 伝ちゃんの子狐さんの、ふわふわの尻尾。
 ふれても良いかも〜‥‥と二人が一瞬思ったのは、愛らしい獣の罠に違いない!!

 仲間から離れて人形遊びを止めて廃村を眺め歩いたサーガインは、半ば雪に埋もれた遺骸に気付いた。
(ここでコボルトの子供までも倒されてしまったようですね‥‥今は安らかに眠って下さい‥‥)
 クレリックとして、祝福を受けぬオーガ種を大手を振って認めるわけにはいかない。けれど、本当に彼らの存在が間違っているのかなど、サーガインには解らない。
(モンスターとも言葉が交わせれば‥‥いや、相応の知能が無いと‥‥知能の高い悪魔なら‥‥)
「雛菊さん、必要となれば貴方の御力をお借りする時が来るかもしれません。その時はお願い致します」
「雛のこと呼んだ?」
 独り言に返事があり、さしもの彼も肩を震わせた。振り返れば、そこには雛菊が立っていた。小さく手招いて「少しだけ、私の力の一部をお見せいたしましょう」と目を細めた。
 クリエイトアンデッドの魔法が、コボルトの遺体をアンデッドとして蘇らせた。短い命令に従い、森に消えていく小柄な影。少女の眼差しに信頼の光が見えた。
(今は雛ですが、何れ鳳凰となるその日まで‥‥)
 ちらりと、野望の火が燃えた。

「わ〜い、久々のちまっと探検隊だ〜♪」
 ちまっと伸びをしたちまにゃん、ふぃにぃちゃんと一緒に歌いながら家々の探検だ。

♪不思議な謎を 追い求め 今日も元気に 出動だ
 たまにはケンカも するけれど すぐにニコニコ 仲直り
 進め ちまっと探検隊 きらめけ ちまっと探検隊♪

 二人の行くところ、必ず歌がもれ聞こえる。元気なことこの上ない。
 しかし。
「きゃあああ!!」
 突然の叫びが二人を呼び戻した!
「あっちなの!」
「行きましょう!」

「あの壁の染みは血だったものに違いないわ!」
「そうだったのね───!!」
 元気な二人と違い、ハイテンションなろんふぁとちまま。叫び声はこの二人のものだったようだ。
「もう、びっくりさせないで下さい〜」
 はふぅと安堵の息を零し、ふぃにぃは二人をちまっと睨みました。
 声が聞こえたのでしょう、せふぃなとぱらちゃん、さーがいんとひなちゃんも現れました。
「ろんふぁ特派員さん、何か解りました?」
「村に残っている文字らしいものは、多分、古代魔法語だと思うんだけど‥‥ごめん、ちょっと解らないわ。それから、コボルトじゃないすごく古い骨があちこちにあるから、何かに襲われたのだとは思うのよ」
「でも、それが何かがさっぱりなの。あっちの窓を見て」
 ちままの指差した窓を見る一同。
「あれは何かの動物の爪みたい。隣の家には焦げたあとがあったし、大きな家には戦いの痕跡もまだ残ってたわ」
「何と戦ったんだろうね〜?」
「それが、さっぱり。多数対多数のかなり激しい戦いの痕跡があるんだけど、その割りに襲った『何か』の骨は無いわけ」
「蛮族と蛮族の抗争ならお手上げなんだけどね」
「「「うーん‥‥」」」
 ちまっと探検隊、首を傾げて考える。
 けれど答えは見出せず──偵察部隊を追って井戸の中に潜ってみることになった。


●井戸の奥底に眠る、謎の扉に迫る──その時彼らが見たものは‥‥!!
「ひらけごまの術も効かないとは‥‥!」
 伝ちゃんの衝撃はかなりのものだ。それはどんな鍵でも開けてしまうくらいすごいちま忍術の1つだったから。
「正攻法しかないのかなぁ‥‥っていうかだいたい、何で井戸に作ったのよ、こんなのっ」
 伝ちゃんとろーさは悪戦苦闘中。それは仲間が増えたところで変わらない。
「‥‥伝ちゃんさん、それは何ですの?」
「ああ、剥がれちゃいやして〜」
 縦横に走る切れ込み。スライドさせるには、どこか1つ、パーツが欠ける必要があった。
「隙間にナイフを突っ込んでたら解ったんだけど、これ、同じ大きさに磨かれた石が嵌められてるみたいなのよね」
 ほぼ正方形の石に、模様が彫りこまれている。二つはがせば、それぞれを交換することは出来る。もちろん文字らしき場所も剥がし、交換することができる。しかし、中央上部の太陽らしい丸だけは剥がすことができない。
「うーん、うーん」
 悩み始めたちまにゃんに倣い、皆が頭をひねり始めた。
「とうー!」
 ちまにゃんのとびげり!
 ──くきっ。
「───〜〜!」
 娘のつきゆび! どうやら勢い余ってしまったようだ。表情を変えない娘に、セフィナが恐る恐る声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「‥‥何でもない」
「冷や汗をかかれているようですけれど‥‥」
「気のせいだ」
 ぷいっと顔を背ける娘の手をそっと握り、セフィナはセーラへ祈る。
「‥‥これで大丈夫ですわ」
「‥‥‥礼は言わないぞ」
「ええ、わたくしが勝手にやったことですものね」
 くすりと微笑むセフィナには、娘は勝てそうにない。
「素直じゃない人は損をしますよ、娘姉さん?」
「うるさいっ」
 サーガインの余計な一言に容赦の無い鉄拳制裁!
 セフィナからの気の毒そうな同情の眼差しにサーガインはとほりと肩を落として見せた。
「にゃんにゃんお姉ちゃん、サーガインお兄ちゃんを虐めちゃメッなのー!」
 小さな雛菊が庇いに入る。なんだかサーガインの味方ばかりする雛菊に娘は内心苛立ちを募らせているようだ。
「まあまあ、何もこんな狭いところでやり合わなくても良いじゃない? サーガイン君喜ぶだけだし♪」
「ひ‥‥人を自虐趣味みたいに言わないでくださいっ!」
 明るくいったローサの言葉に憤慨するサーガイン。
「図星を指されると人はよく怒るよね、うんうん」
「なにも、怒らせなくっても‥‥」
『ても〜』
 苦笑するフィニィですが、止めるつもりはないようである。ちまっと探検隊ヒエラルキーの最下層にいるのは、サーガインに間違いない。
「で、さ。やっぱ力ずくじゃ駄目だと思うのよね〜。きちんと解かなくちゃ」
「そういうローサはどうなの〜?」
 口を開いたろーさにあわせてちまにゃんが尋ねると、ふふんっと笑ったろーさは胸を張った。
「自慢じゃないけどさっぱりよっ!」
 胸を張るろーさ。にらめっこをしていた雛菊がふと口を開いた。
「雛はね、このぎざぎざは山の稜線だと思うの。そしたら上が空で、下が地面なのー♪」
「波打ち際かと思いやしたが‥‥言われてみれば稜線にも見えやすね。っていうかお雛ちゃん、よく稜線なんて知ってやすね」
「えへへ、兄様が難しい言葉もいっぱい教えてくれたのー。大人に変身するときには必要なの」
 自慢気に胸をそらす雛菊。大好きなお互いの命を奪いそうになったことも、お互いに間一髪で死なずに済んだことも、2人にとっては任務上の話。今日の友は明日の敵かもしれない、そんなのは忍者にとっては日常茶飯事なのだろう。そして恐らく、割り切れない人は忍者になれない。
「‥‥‥」
 深いところで繋がっている2人を少し羨ましく、そして少し哀しく、龍華は見詰めていた。冒険者よりも更にシビアな関係‥‥ただ笑いあうだけの穏やかな日々が2人に訪れることがないことに、心のどこかで気付いてしまっているから。
「この点々は‥‥星よね、やっぱり」
 2人の言葉を聞きながら、ちままはじーっと睨めっこを続けていた。この模様が星だと思ったからこそ、この日の為に星読みの猛勉強をしたのだ、ちままもばっちりがっつり張り切りモード☆
「これが星空だとすると、これが北極星ではないのでしょうね‥‥」
 せふぃなは一番上の丸を指差した。
「でも、カタチはどう見ても太陽だよねぇ」
 ぱらちゃんの言葉に頷くせふぃな。
「この星の配置は弄ってないのよね?」
「もちろんすよ、戻せなくなったら困りやすしね」
「それなら、この星の配置はこの辺りから見た1月上旬の星空で間違いないわね」
 ちままはきっぱりと断言した。それ以外には全く見えなかったから。
「‥‥1月の星座‥‥星座‥‥1月‥‥」
 ふぃにぃがじっと星座を眺めながら呟いた言葉に、ろーさはちままを振り返る!
「星空が1月を示しているって考えるのはどう? 上弦の三日月は新月の後に来るよね!?」
「でも太陽は動かないのよ?」
「ああっ!」
 ぱらちゃんも閃いた!
「その時の月が何処にあるかを考えればいいんだね〜? 太陽が天頂‥‥つまり、お昼にお月様がどこにいるか!」
 最後まで聞かず、ちままが月を剥がした。そして、太陽の右の石と張り替える!

 ──カチン

 何かが外れる音がした。
「月の場所なんて変わるものじゃないですか?」
 ふぃにぃが首を傾げる。
「上弦になる月は新月から満月に向かう間。新月は月と太陽が大体一緒に出てきて、だんだん出る時間が遅くなっていくの。この石の数からすると、まあ隣かしら、って」
「さすがちまま!」
 拍手喝采!!
 そしていよいよ扉が開かれる──!!
「扉を開けるのは男の人よね、さーがいん君あたりが適任じゃないかな?」
 ぐいぐいっとサーガインの背中を押すろーさ。
「ええ!? 私は頭脳派なんですよ、こういうのは向かな‥‥‥」
「一番に扉を開けるのは、殿方にお願いしたいですわね♪」
「やっぱり、いざというときに頼れる男がいいわよね〜」
 皆まで聞かず、せふぃなとちままは、秘儀『りそうのだんせいぞう』を使った!
「‥‥大丈夫、Gとか出ても骨は拾えたら拾ってあげるから」
 ろんふぁは、秘儀『とくはいんのあとおし』を使った!
「さーがいんさん、お願いしてもいい(ですか)〜?」
 ふぃにぃとぱらちゃんは、秘儀『おねがいのまなざし』を使った!
「うう‥‥」
「たよりにしてるのー、おねがい〜っ」
 ちまにゃんとひなちゃんは、秘儀『おねだり』を使った!
「‥‥出来る限りのフォローはしやすから」
 さーがいんには、あとが無い!!
「娘姉さん、‥‥本当に私を頼りとしてくれてますか?」
「そういうのは、開けてからの話なのーっ」
 きゃいきゃいと騒ぐちまにゃん。けれど、サーガインの視線はちまを通り過ぎ、娘に注がれていた。
 じっと見つめられていることに気付いた娘がすっと視線を逸らすと、サーガインはほんの微かに自嘲じみた笑みを滲ませた。
「大いなる父よ、試練に挑む者に御加護を──」
 ホーリーフィールドを展開し、そっと手を扉にかける。
「‥‥」
 伝助と雛菊、二人の忍者がサーガインのそれぞれ右と左の後方に控える。

 ──ゴゴゴ‥‥

 重い音を響かせて、ゆっくりと扉が開いた。
「──通路、ですね‥‥」
「これはダンジョンと考えて、ルシアンの指示を仰いだほうが良さそうね」
 伝助と数分歩みを進めたローサは、内部が意外に広いことに気付くや否や、依頼人に報告することを提案し──そして皆は、それを受け入れた。