【ちまっと探検隊】赫の迷宮

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:12人

サポート参加人数:7人

冒険期間:02月09日〜02月14日

リプレイ公開日:2007年02月22日

●オープニング

「ダンジョンが見つかったですってぇぇ!?」
 吉報に目の色が変わる女性が一人。依頼人でもある、女商人ルシアン・ドゥーベルグさんです。
「ルシアンさん、落ち着いてくださいませ」
 あわあわと年若い女司祭が声を掛けますが、耳には届いていない様子。
「扉の開け方も解っちゃったしルシアン抜きで遊びに行っちゃおっか、ねぇ、雛ちゃん♪」
「わぁい、雛もっと遊ぶぅ!」
 万歳と手を上げる雛菊さんと、彼女を膝に抱えるスレンダーな女性に、ぎりぎりと悔しそうな歯軋りをします。けれど、ルシアンさんはお仕事が忙しくすぐに何日ものお休みを取るなんてちょっと難しそう。
「わかったわ、もうちょっと待って頂戴。何とか休暇を作るから!」
「報酬は?」
「もちろん上乗せするわ! 保存食に、そうね、例の羊皮紙もつけるわよ」
「乗った♪」

 そんなやり取りがあったのが少し前の話で。
 約束の日がとうとうやってきたのでした。

「ちまっと探検隊、集合!!」

●今回の参加者

 ea0547 野村 小鳥(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb5612 キリル・ファミーリヤ(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)/ 宮崎 桜花(eb1052)/ ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)/ シャリン・シャラン(eb3232)/ アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)/ 黒之森 烏丸(eb7196

●リプレイ本文

●ちまっと探検隊 ダンジョンに挑む! 燃えるは龍華、萌えるはルシアン‥‥?
「雛ちゃん久しぶりですー、今回も楽しみましょうねー♪」
「小鳥お姉ちゃんなのー、きゃー!」
 ふっくらした手をきゅっと握って野村小鳥(ea0547)は再会を喜ぶ。その手をぶんぶんと振り返して、雛菊(ez1066)も最初からテンションMAX☆
「‥‥‥遊びで済めば良いがな‥‥」
 シリアスの影にうっすらと滲む王娘(ea8989)のちょっと悔しそうな本音に気付いて、セフィナ・プランティエ(ea8539)は、小鳥さんと雛ちゃんのどちらに嫉妬していらっしゃるのでしょうね、と微笑む。
「無事になんて済むはずないわ、だってダンジョンなのよ!」
 ぐっと拳を握ったのは、誰よりも熱い青龍華(ea3665)!! ──ではなく、依頼人であるルシアン・ドゥーベルグだ。その瞳はまるで燃え盛る炎のよう。もちろん、龍華もルシアンとがっつりと拳と交わしている。
「そう、ダンジョンは危険なのよね!」
 2人はダンジョン・ドリームを吼えるように語り始めた!
「部屋に入ったらいきなりモンスターの巣窟だったり!」
「切り抜けたと思ったらうっかり罠踏んでやられちゃったり!」
「たまに血迷って自分の武器を胸に突き刺して、『残念だけど、私の冒険はこれで終わっちゃった、てへ♪』みたいな恐ろしい事もあるのよ!」
「それはないと思うにゃー」
 おおっと、どうやら聞いていたらしいパラーリア・ゲラー(eb2257)、勢いに流されずしっかり突っ込んだ!
「あたしはねぇ、ダンジョンは6人ぱーちーが基本だと思うんだぁ☆ 人が多いのも賑やかでいいけどね〜♪」
「そういえば、私も以前自作ダンジョンを攻略してもらったときは、6人パーティーでお願いしたわね」
 一理あるわね、と腕を組むルシアンの背を龍華がばしっと叩いた。
「ダンジョンがメインで探検隊もメインだけど、ちまだからいいのよっ」
 確かに、目を転じればキリル・ファミーリヤ(eb5612)がちまきりるの手をうーんと伸ばしてうめいていたり‥‥
「馬車に届きません‥‥!」
 その隣でローサ・アルヴィート(ea5766)のちまローサがコルサを巧く使用して馬車に乗ってみたり‥‥
「ほぉーら、早く乗らないと置いてっちゃうよー♪」
 お見送りの仲間たちもちまを抱えて、ある人は見守るように、ある人は羨ましそうに、ある人はとても悔しそうに、それぞれに見送っているのだ‥‥今回の主役はちまだと言っても、決して過言ではあるまい。
「こんだけちまがいれば、ダンジョンも一発クリアね! おとーさんごめんね、楽しんでくるわ」
 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は見送りの旦那ににこやかに手を振ると、振り返ることなく馬車に陣取った。お父さんはそれがまたちょっぴり悲しかったりする模様。
「馬車は二台っすか。気合い入ってやすね、ルシアンさん」
 以心伝助(ea4744)は用意された馬車と仲間たちを交互に見遣る。確かに、二台に分乗した方が荷物のように窮屈な思いはしなくてすみそうだが──自然と、彼の目は小鳥と戯れる雛菊を追っていた。このメンバーで、雛菊と離れてもいいという人間が、果たして何人いるだろうか。
「お雛ちゃんと、ルシアンさんは一緒としやしても‥‥」
「あの‥‥わたくしと、小鳥さんと、フィニィさんと、龍華さんは一緒の馬車にしていただけないでしょうか?」
「それじゃ、こっちへおいでー。ママさんもよね?」
 セフィナが小さく手を上げる。事情を知っていたローサは馬車の上から4人とリュシエンヌを手招いた。
「それじゃ、必然的に私は娘姉さんと一緒ですね」
 司祭らしく優しげに微笑んだサーガイン・サウンドブレード(ea3811)を一瞥することもなく、娘は雛菊の手を引いて馬車に乗り込むのだった。
「いよいよ出発ですか‥‥【ちまっと探検隊 ダンジョンに挑む!】、緊張しますね♪」
『すね♪』
 フィニィ・フォルテン(ea9114)の言葉尻を、ペットのリュミィが真似た。って、書きかけの報告書を読まないでください。


●ちまっと探検隊 女商人ルシアン見参! そして予想外の事態が隊員を襲う!!
 吹雪の中を疾走した二台の馬車は、足場の悪い森も抜け、廃村へと辿り着いた。
「おっかえり〜☆」
 大きなちろを風除けにしていたパラーリア、手にしていたものをさっとバックパックに突っ込んで、満面の笑みで仲間たちを迎えた。しかし、現れたのは凡そちまっと探検隊には相応しくないと思われる、半死人のような友人たちだた。
「う‥‥気持ち悪‥‥」
 口元を押さえ、転げ落ちるように馬車から駆け下りるローサ。
「だから言ったのよ、手元ばっかり見てたら駄目だって。ちまスクロールなんて、もっとゆっくりしたときに作らなくちゃ」
 呆れたように言う龍華に何か言い返そうとしたローサだが、陸揚げされた魚のように喘いで口をぱくぱくするばかり。精霊文字もどきを書いてちま用のスクロールっぽいものを作ろうとしたのだが、馬車に酔ってしまったようだ。
 手分けしてサプライズ・プレゼントを用意していたフィニィ、セフィナ、小鳥の三人も同様に顔色が悪い。
「‥‥‥」
 じっと足元を見つめるフィニィ、リュミィが髪を引っ張っても構ってやる気力が沸かない。
「キャンプの時にした方が良かったですかね〜‥‥」
「でも、驚かせたかったですし‥‥ルシアンさんのためですわ」
 ちょっと後悔する小鳥の手をきゅっと握り、青ざめた表情のままで微笑むセフィナ。
「みんな、大丈夫?」
「水、飲みますか?」
 苦笑して様子を伺うリュシエンヌの後ろから覗き込んだキリルが水袋を差し出した。冷やさなくてもキンキンに冷えた水が喉を潤す。
「顔色悪いよ、大丈夫〜?」
 朗らかなパラーリアの言葉が、声が、今は恨めしい。
「あの、すみません‥‥ちょっと静かにしてもらえますか‥‥」
 リュミィの言葉を飲み込ませたときのように、青白い顔をしたフィニィは、パラーリアの唇を人差し指で押さえた。
「‥‥!?」
 そして、驚愕に目を見開いた。
 そういえば、パラーリアは雪かきをしながら待つと言っていなかっただろうか。
「えへへ、ちょっと冷えたけど大丈夫だよぉ〜♪」
 吹雪の中に雪かきをするのは流石に色々間違っている気がしたのだろう。手を擦り合わせ、息を吹きかけ、身体を温めるパラーリア。吹雪の中ではちろの最高速度を出せばパラーリアの身体は凍りつかんばかりに冷えてしまう。ペースを落としたものの、三時間は耐えられると踏んでいた防寒服は極寒の吹雪の中では期待通りの効果を発しないようだった。ちろに寄り添っていなければ、手足は凍傷になってしまっていただろう。
「せっかくのちまっと探検隊で風邪をひいてはもったいないですよ」
 ふわりと、バックパックから取り出したヴェーツェルのマントをパラーリアの肩に掛けた。
 と、ここに来てリュシエンヌが俯きっぱなし黙りっぱなしのユキ・ヤツシロ(ea9342)に気がついた。フィニィの影で、彼女の服の裾をぎゅっと握りしめ、酔っているのか具合が悪いのか、蒼白な顔色をしていた。
「ユキ、どうしたの? なんだか変よ?」
「リュシエンヌさま‥‥」
 すがるような眼差しで見上げ、そして甘えを否定するように首を振る。そしてフィニィの裾を握っていた手を離し、膝までは優にあろうという深さの新雪に膝をついた。
「雛菊様、この間は本当にごめんなさいっ!」
 正座をし、雪に顔をうずめるように土下座をする。突然名を呼ばれた雛菊は、ルシアンと手を繋いだまま、きょとんと目を丸くする。そんな雛菊の顔を見ることもできずに、ユキはただひたすら頭を新雪にこすり付けた。
「例えどんな理由だろうとやってしまった事に変わりはありません。お仕置きでも罰でも受けますから嫌いにならないで‥‥」
 ぽろぽろと流れる涙がぴしぴしと凍りつく。相変わらず何のことか首を傾げる雛菊の代わりに、事情を察したセフィナがユキの肩をそっと抱き起こした。
「雛ちゃんがそんなことを気になさるかどうか、ユキさんもご存知でしょう?」
「でも、どんな理由があるにせよ‥‥雛菊様との約束を破ってしまったのは事実ですの‥‥」
「大丈夫よ、雛ちゃん、何のことかわからないくらいだもの。うちの旦那のお菓子でも食べて、落ち着くといいわ」
 リュシエンヌも慣れた様子でユキの身体についた雪を払う。しかし、ユキは首を振る。
「ごめんなさい、雛菊様‥‥」
 誰の言葉も彼女の心を動かさない。娘とキリルは視線を交わし、雛菊の背を押した。
「雛菊さん、何か言ってあげてください」
「ん〜? ユキお姉ちゃんは、忍者じゃないから泣かなくてもいいのよー?」
「‥‥?」
 素っ頓狂な慰めに、真意が読めず視線を上げるユキ。
「雛はねー、約束破るとねぇ、兄様が一緒にいてくれなくなっちゃうの。だからいっぱい泣いて我慢するなの。でもユキちゃんは忍者じゃないから、いっぱい泣いて我慢しなくてもいいなのね」
「‥‥ということらしいっすよ?」
 目を細め、敢えて汲み取った雛菊の意思は伝えずに──伝助は雛菊を抱き上げて笑った。
「‥‥はい」
 涙を拭って、ユキは立ち上がった。そしていよいよ、大いなる謎の解明に向け、ちまっと探検隊出撃!!


●ちまっと探検隊 扉の奥で眠る謎の迷宮を制覇せよ!
「じゃあ、開けやすね」
 伝ちゃんの言葉にちまには難しい、神妙な面持ちで頷くきりる君と小鳥ちゃん。扉の向こうは二人にとって未知の世界なのである。先達て多少は様子を知ることの出来たちまっと探検隊の仲間たちは、小鳥ちゃんときりる君、そして大きなルシアンを護るように気合いを入れる! そう、新人を護るのは先輩たちの役目なのだ!!

 ゴゴゴ‥‥

 重い音を響かせて扉が開いていく。ふたたびぽっかりと口を開けた通路に、心構えをしていたちまっと探検隊も息を呑んだ。ランタンの明かりが揺れると、まるで誰かが潜んでいるかのように陰が揺れる。何ら聞こえる音の無い空間。風も吹かず、石畳の通路が延々と伸びている。
「怪しいものはないかにゃー?」
 ぱらちゃんは飛び跳ねながら先頭を進んでいく。
「むっ、なかなかやるわね? ぱらちゃんも偵察部隊に入れてあげるっ」
「にゃっす!」
 隊員認定されてぴしっと背筋を伸ばし、ろーさ部隊長に敬礼!!
 小鳥ちゃんとちまにゃんは、まるでいつもと立場が逆。
「あれは何だろー?」
「はわわ、突進すると危ないですぅぅ〜」
 ぴゅーっと進むちまにゃんを止めようと追いかける小鳥ちゃん。しかしちまにゃん、急停止!!
「お? これは何かなっ」
「はわわ〜!?」
 勢いあまった小鳥ちゃん、壁に激突!!
「んも〜、きちんと前見てなくちゃだめだよー」
「ちまにゃんは、後ろも見てくださいです〜‥‥」
 おでこを撫でる小鳥ちゃんにろーさ部隊長が手を差し伸べる。そんなのが、前衛の人たちの様子だった。
 それを後ろの方から見守るように眺めているのは伝ちゃんとろんふぁちゃん。
「それにしてもダンジョン攻略なんて、どんどん本格的な探検隊になってきたわねー。お姉さん、ワクワクしちゃう」
 その上、休憩時間にはお菓子とお茶が出て、ちまと可愛い子たちに囲まれて、ろんふぁちゃんと後ろの人にはまるで文句のつけようのない幸せ空間だ。ちょっと、暗いけれど。
「いや、懐かしいっすねぇ。あっしの一番最初の冒険もこういう迷宮というか遺跡だったんすよ」
「あら、経験者なのね!」
「‥‥幽霊に出会って逃げ帰ってきたっすけどね」
「それじゃ、ちまっとリベンジしちゃいましょう☆」
 決してへこたれないろんふぁちゃん。
「はふぅ、雛、暑くなってきちゃったなの‥‥」
「中は意外に暖かいんですねぇ。上着、脱ぎますか?」
 ひなちゃんを左手で抱えたまま、右手でぐいっと額を拭う雛菊。きりる君はひなちゃんの手袋と靴下を取ってあげ、キリルは雛菊のマフラーや手袋を外した。ほんのりピンクに上気した幸せそうな顔でお礼を言われ、きりる君はひなちゃんの手をきゅっと握った。
「置いていかれちゃいますね、急ぎましょう。マーチ、ひなちゃんも乗せてくださいね‥‥って、うわぁぁ!?」
「伝ちゃんお兄ちゃん、助けてなのー!」
 悲鳴が響く! 慌てて駆け寄る伝ちゃんとろんふぁちゃんが見たのは、うさぎのマーチにかじかじと齧られるきりる君の姿だった‥‥合掌。
「しくしく‥‥早く、もっと仲良くなりたいです‥‥」
「だいじょぶ? 痛いの痛いの、とんでけなのー!」

 ──なでなで。

「あ、もう痛くなくなったみたいです!」
「キャンプするときに、小鳥ちゃんにマッサージしてもらうといいわよ」
「ええ、そうします」
 ろんふぁちゃんの提案に素直に頷くきりる君。痛くなくてもけがちまはけがちま。針と糸でちまちまっとマッサージしてもらって、身体を直さないといけないのだ! 後ろへの警戒も怠らないままに、後衛のちまたちは何だか波乱万丈な探検を行っているようだ。
 そしてハイテンションとハイテンションに挟まれた真ん中の辺りのちまたちは‥‥
「ふふ、皆さん元気いっぱいですわね」
「そうですね、微笑ましくていいですね」
 せふぃなちゃんとさーがいん君がのんびりと言葉を交わしていた。そしてちまうたふぃにぃはじっとランタンの火を見つめている。
「あの‥‥だ、大丈夫ですわ、ふぃにぃ姉さま。油さえ切らさなければ、火も消えませんから‥‥」
 一生懸命に励まそうとするちまゆきの心は嬉しかったが、不安げにおどおどとされては不安が伝染してしまう。いや、そもそもふぃにぃから伝染したのかもしれないけれど。
「ほら、ふぃにぃもあんまり暗くならないのっ。歌でも歌う?」
 皆のちままに励まされ、ふぃにぃとちまゆきも元気に声を張り上げた!
「ちまっと探検隊♪ ちまっと探検隊♪」
「ちまっと探検隊、ちまっと探検隊っ!」
 二人の歌は前衛の方のちまたちと、後衛の方のちまたちにも広がっていった。
(まるでピクニックか何か‥‥いや、そのままピクニックなんですね、やれやれ)
「さーがいんさん、何だかお顔が黒いですわよ?」
「は、肌が褐色なのは元からですっ」
 ぶんぶんと首を振り、サーガインは少々音程を外しながらも元気良く一緒にちまっと探検隊の歌を歌い始めたのだった。
「ちまっと探検隊っ、ちまっと探検隊っ」
 警戒し静かに探検するつもりだった何人かが苦笑したことは、サーガインに非はないはずである‥‥。


●ちまっと探検隊 危険の中で一夜を過ごす‥‥今、決別の危機!?
「なんだか、時間の経過がよく判らなくなってきますわね‥‥」
 セフィナが溜息を漏らす。
「結局初日は半分買い物で潰しちゃったしねー、効率的に進めたいとは思うんだけど」
 小鳥とユキ、そして娘と龍華が中心となって腕を振るった、どこか華国の味付けに偏っている気がする‥‥そんな夕飯を口に運んで、リュシエンヌは舌鼓を打った。
「リュシエンヌさま、お下げいたしますの」
「ありがと、ユキちゃん」
 にこりと微笑み、リュシエンヌは広げた毛布の上で大きく伸びをした。石畳にテントを張ることも出来たのだが、ルシアンが断固として反対したのだ。曰く、ダンジョンに傷をつけるなんて美しい芸術品をジャイアントソードで打ちのめすようなものだ、と。もっとも、地中ゆえかダンジョン内はほんのりと暖かく、テントを張らずともそれなりに快適に過ごすことが可能だったことも一因なのだが。
「それにしても、まるで迷路だよねぇ」
「そうよね。キリル君の地図が問題なく出来上がるところを見ると、フォレストラビリンスみたいな魔法も掛かってないみたいだけど‥‥意外に広くてびっくりだけど」
 パラーリアとローサがそんなことを言いながら、キリルの描いた地図を見る。大人しく言われるがままになっているキリルは苦労性な性格に新人という状況、そして強すぎる女性陣という条件がみごとに揃い踏みしたこの場では、なんとも立場が弱いようにも見えた。
 炎を絶やさぬよう、二つのランタンに火を灯して車座になる。もちろん、人数が多いため二重三重になっているところもある。
「ルシアンさん、少々質問があるのですが宜しいでしょうか?」
「何かしら?」
 サーガインの言葉に、手を止めて首を傾げるルシアン。
「目的はダンジョンを探索する事、手に入れた品物は戴いてしまっても構わないのでしょうか?」
「サーガイン」
 娘が咎めるように低く名を呼ぶが、彼の口が休んだのはひとときのことだった。サーガインの口を再びあけたのは隊長格の龍華。
「私も気になってたのよね。分配? それとも依頼主のルシアンさんの物?」
「ダンジョンといえば宝というのは、お約束というより夢かもしれませんけれど」
 ちまっと探検隊の場で生臭い話を聞きたくないらしい娘やリュシエンヌは眉間を顰めたまま。しかし話題に興味はあるようで、耳をそばだてている雰囲気が伝わってきた。
「ちゃっかりしてるわねぇ。言わなければ判らないだろうと思ってたのに」
「待って」
「ぉぃ」
 ローサや娘の剣呑な反応に肩を竦めた。キリルやセフィナなどは、むしろその逞しいまでの商魂だかダンジョン愛だかに賞賛の眼差しを送っているほどだったりするけれど。
「まあ、実際はモノに寄る、というのが正直なところね。ダンジョンと関わりが深そうなら譲るつもりはないし、皆で分けられそうなものならそれもいいと思うし、‥‥見なかったことにして持ち出さない方が良さそうなものも、中にはあるかもしれないでしょう?」
「‥‥確かに、そうですねぇ。ダンジョンなんて、基本的には人の侵入を拒むためのものですしー」
 歩き疲れていたフィニィにフットマッサージを施しながら、小鳥はのんびりと零す。
「このダンジョンは洞窟を改造したのではなくて、1から誰かが作り上げたような印象ですよね」
 最初こそ遠慮したものの、小鳥の巧みなマッサージにうっとりと目を細めていたフィニィはダンジョンにそんな感想を抱いていた。
「そうですわね。迷わせるためのもの‥‥という感じがいたしますわ」
 毛布の上でもしゃんと背を伸ばして座っているセフィナは、ぽつりと呟いた。そして隣に寝袋を用意した雛菊の手をそっと握った。
「雛ちゃん、お渡しになりませんの?」
「ふえ? はわわ、雛、忘れるとこだったなのね。はい、ユキお姉ちゃん。これあげるー」
 もぞもぞと取り出した肉球つきのちま手袋と靴下をちまゆきの手にぽてちと渡すひなちゃん。何も怒っていなかったのだと涙を滲ませたユキの背をフィニィが叩いた。
「雛菊さんは、そういう方ですよ?」
「そうでした‥‥良かったですの‥‥大切にしますね、雛菊様‥‥雛ちゃん」
 照れた雛菊がてちてちと伝助に隠れるように、まふりと抱きついた。
「心の篭った贈り物ですもの、贈る方も贈られる方も、あったかですわよね」
 見ている方もあったかですものね、とほわほわ〜とセフィナは頬を緩めて──小鳥とパラーリアをちらりと見た。
「ルシアンさんルシアンさん、プレゼントがあるんです〜」
「ちまるしあんちゃん、皆でつくったんだよぉ☆ だって、ちまっと探検隊だもんねっ」
 代表した二人の手には、赤毛のちまるしあんと、ちまっと探検隊おそろいの肉球模様の手袋&靴下がちょこんと乗っていた。
「あら‥‥いいの?」
「ええ、皆で作りましたから、是非とも貰っていただけると嬉しいです」
「ルシアンさんのお陰でちまっと探検隊を結成することができたのですし」
 膝に上ったプリュイの喉を撫でながら、セフィナはフィニィと微笑みあった。ちまるしあんも、レースをあしらったちまるしあんの服も、そしてちまっと探検隊の衣装も、とても気に入ってくれたようだ。

 事件が起きたのは、皆が寝静まった後のことだ。
 ごそごそと蠢く気配に、娘が目を転じる。起きたのは雛菊のようだった。
「どうした‥‥?」
「雛、おてあらい‥‥」
 眠そうに目を擦りながら立ち上がる雛菊の言葉に、娘は渋面を浮かべた。
「一人じゃ危ないよぉ‥‥あたし、ついてったげるにゃ〜」
「‥‥頼む」
 そう言った二人が、そのまま姿を消してしまったのだ。
「くそ‥‥っ!」
 警戒はしていた。サーガインのことならば。
 まさか、迷路のようなダンジョンで迷子になるとは思わないだろう。
「娘さん、そんなに自分を責めないでください。そんなに遠くまで行っていなければテレパシーで話ができますし‥‥」
『雛菊さん、雛菊さん、聞こえますか‥‥?』
『‥‥だあれ?』
 突然の声に警戒しながら返してくる声があった。語りかけた相手が雛菊なのだから、返答も当然雛菊である。しかし、500メートルという距離は広い。
『フィニィです。雛菊さん、今どちらですか? パラーリアさんも一緒にいらっしゃいますか?』
『パラちゃんお姉ちゃんもいるなのー』
『近くに何がありますか? どうやったらそこまで行けますか?』
『えっとぉ‥‥いっぱい曲がって、いっぱい真っ直ぐなの。なんかね、通路より広いみたいな気がするなの』
「どこにいるのかはさっぱりです‥‥すみません」
「任せてくださいやせ。お雛ちゃんの匂いなら、あっしが追えやすから」
 雛菊の返答からは、居場所を推測することができない。しょんぼりとしながらも焦るフィニィや仲間たちにキャンプ地の荷物を纏めるようてきぱきと指示を出して、伝助は犬嗅の術を使用した!
「お願いね、伝ちゃん。キミだけが頼りだわ」
「任せるっすよ‥‥こっちっす!」
「‥‥雛菊っ」
 足早に伝助の後を追う、雛菊の友人たち。最後尾を走るのはキリルだった。何か落としでもしたら、或いはモンスターが背後から現れたら。そんなことを警戒し、最後尾を選んだのだ。
 そのキリルの隣にスッと下がってきた影があった──サーガインである。小走りに仲間を追いながら、サーガインは小声で尋ねた。
「キリルさん、正直この依頼どう思いますか? 私はちまに拘る必要は無いと思うのですが‥‥」
「必要はないかもしれませんが‥‥たまには良いかと思いますよ?」
 こんなときに何を言い出すのかと首を傾げながらも、非常事態ゆえに足は止めない。ひょい、と肩を竦めたサーガインがわざとらしく溜息を漏らした。
「そういうものですかねぇ‥‥全員で行動してしまうと、宝が自分の物になりません。セーラ様に使える騎士として、力が欲しいとは思いませんか? このまま抜け出し、私と別の通路を探索して、力‥‥宝を山分け致しませんか‥‥‥なんてね‥‥」
「‥‥僕は聖なる母の教えに従う者です。僕自身の利益のために働くことはセーラ様の教えに反します。それに、タロン様ならば力という試練をお与えになるかもしれませんが‥‥セーラ様の教えは力で広めるものではありません」
「解っています、ほんの冗談ですよ」
「そうですか‥‥」
 どこか本心が滲んでいたような気もしていたが‥‥気のせいだろうかとキリルは頭を振った。
(皆さん欲が無くて、扱い難いですねぇ)
 再び誰に知られることもなく溜息を零したサーガインの耳に、龍華が大仰に雛菊との再会を喜ぶ声が届いた。


●ちまっと探検隊 ついに最深部へ到達した探検隊! そしてキリルが見たものは‥‥!?
「‥‥どのくらい前からここ作られてたんだろーねぇ」
 朽ちた罠をつまみ上げ、ちまろーさが首を傾げた。確認した限りでは、それが最後の罠──‥‥
 雛菊とパラーリアが迷子になるハプニングや、朽ちていなければ串刺しになるような鋭い木が仕掛けられた落とし穴、明らかな殺意を持って崩れてくる天井など、多数の罠を越えて辿り着いたのは、キリルの地図に寄れば中央よりやや奥に位置する比較的大きな一室だった。
「お宝、はっけーん!!」
「ちょっと待って、いきなり開けちゃ駄目よ! ろーさ、お願い」
 リュシエンヌが勢いで仮称『宝箱』を開けようとするちまにゃんを止めた。
「んっふっふ〜♪ 罠ならあたしに任せなさい、大船に乗ってお菓子でも食べてる気分でいなさ‥‥」
「じゃあそうしましょうか、私のお菓子もまだあるし」
「ってろんふぁちゃん! 本当に休憩しないで!?」
 大好きな甘いお菓子の、香りだけを胸に吸い込んで。ろーさが推定宝箱をチェックする──罠、たぶん無し。鍵、たぶん無し。
「オッケー、開けていいよ」
「わーい! 小鳥、せふぃな、開けるよー!」
「ええ!」
「ふぁいとー!」
「いっぱーつ!」
 ちまにゃんと小鳥ちゃんの連係プレイで重い音を響かせながら蓋がずれ動いた。
「にゃっ!? 古いコインがいっぱいー!」
「るしあん、これ一枚もらっても大丈夫かなぁ?」
「一番、ろんふぁ、飛ぶわよー!! とぅっ!」
 途端に賑やかになるちまっと探検隊!! ついに隠された財宝に辿り着いたのだから、その喜びも過度なものではない、はず! 古いコインにダイビングしたり、記念に一枚ずつもらったり、そんなのはまだまだ序の口、のはず!!
「おや?」
 宝箱にダイブするちまたちの中で、唯一首を傾げたのはちまきりる君だった。彼だけが違和感を感じ得る条件を満たしていたのだから当然だろう。
「どうしたの?」
「なーにー、面白い話?」
 ちまとちまろーさが声を掛ける。きりる君は細やかに記していたマップを広げた。
「見てください。このスペースに比べて、この部屋がなんだか狭いような気がしませんか」
 きりる君が細かく細かく、できるかぎり正確に記していた地図だからこそ、気付いたのだ。言われてみれば確かに、地図の方が広いような気がする。ちままは、とりあえずきりる君の書き損じの可能性を指摘しようとしたのだが‥‥
「ふっふっふ、覗かせていただきましょー♪」
 ノリノリのちまろーさ、エックスレイビジョン発動!! 壁の向こうを透かし見る!!
「ふんふん、なるほど〜」
「何か見える〜?」
「何がありますかぁ〜?」
 そわそわとちまろーさの周りをうろうろと歩き回るちまにゃんと小鳥ちゃんが、口々に尋ねる
「えっとね‥‥真っ暗!!」
 がーん!! と叫び両方の頬を押さえる二人。しかし、ここでびしっとポーズを決めて見せるのがろんふぁちゃんだ!!
「さては、隠し扉ね!?」
「このるしあんの目は誤魔化せないわよっ!」
 耳をそばだてていたのだろう、疲れ知らずの2人が話題を掻っ攫った!! そもそも、ダンジョンの中でこの2人に大人しくしていろという方が無理なのである。
「ちまっと探検隊が、今、隠された真実を暴こうとしていた‥‥‥行くわよ!!」
 いぶし銀っぽく低い声で語ったろんふぁちゃんは仲間たちを振り返り、ちんまい拳を振りかざした!
「ちまっとぉー!!」
「「「おー!!」」」
 そして14人のちまっと探検隊が、隠された扉を探すべく壁にべったりと張り付いた! その姿はまるでGのように‥‥と例えたら、やはり怒られるだろうか。
「あれ〜? ここ、穴があいてるよ〜?」
 これだけの人海戦術となれば、小さな穴なんてあっという間に発見されてしまうというもの。ちまにゃんの発見したその穴は、どうやら鍵穴のようだった。
「雛のひなちゃんはね、罠はないと思うのー」
 ほんわりと微笑んだひなちゃんの言葉を信じ、伝ちゃんは忍者の秘密の術を使う。
「いざ、開けごまの術〜!!」
 かちん、と小さな音が耳を打った──‥‥


●ちまっと探検隊 隠された部屋に眠るものは!? 探検隊は何を手にするのか‥‥!!
 それは、あまり広くはない空間だった。祭壇のように設けられた台座。そこに安置されたのは、朽ちた木箱。
 ルシアンが手を触れると、蓋は脆くも崩れ落ちた。その穴から、大きな雫型のガーネットが誂えられたブローチが姿を見せる。
「あら、綺麗ね」
 リュシエンヌが横合いから覗き込んだ。綺麗だが、深紅のガーネットはリュシエンヌにはあまり似合わないかもしれない。
 こういったものに先に興味を示すのはやはり女性なのだろう、ルシアンの手からリュシエンヌへ、そしてローサ、龍華、小鳥、フィニィ、ユキ、雛菊と渡ったブローチは、セフィナの手におさめられた。
「すごく大きくて、綺麗ですわね」
「ああ‥‥」
 話題とブローチを振られた娘は、手に乗せられた紅い塊を興味なく見る。それに横から手を伸ばしたのは、サーガイン。
「娘姉さん、私にも見せていただけますか?」
(高価そうなものはこれくらいですか‥‥より強い力をもたらすマジックアイテムでもあるかと思っていたのですがね)
 その手が触れたか、触れないかの距離で──
「熱ッ!!」
 サーガインが手を引っ込めた!!
「熱い? 私は何ともないが」
 何を訳のわからないことを言っているのだと睨んだ娘の手で、ブローチは変わらぬ姿を晒していた。
「ええ!? 今、確かに熱かったんですよぅ、信じてください、娘姉さん〜‥‥っ」
「知るか!」
 まるで漫才のような掛け合いに注がれる視線は様々だ。そして、間で時折りランタンの灯を反射するブローチに向かう視線も。
「待ってくださいやし、そのブローチはもしかして‥‥『炎の涙』‥‥?」
 唐突に閃いて、伝助が目を見開いた! そう、先日これを見たばかり‥‥アルトゥールから見せられた、6つの宝玉の1つに良く似ていた。言われてみれば‥‥とフィニィとローサも改めてしげしげとブローチを眺める。
「‥‥これだけは持って帰ってアル君に見せた方が良さそうね。ルシアン、しばらく預かってもらっていい?」
「ええ、もちろんよ。ダンジョンに縁のあるものかもしれないしね♪」
 ぐっと親指を立てて見せたルシアン。
 サーガインは、その彼女に声を掛けようとして‥‥自分の手のひらを小さく握った。あれは何だったのだろうか‥‥と。


 こうして、ちまっと探検隊の小さくて大きな1つの探検は古いコインとガーネットのブローチという収穫を得て幕を下ろした。
 しかし、ちまっと探検隊の探検は終わらない──そこに謎がある限り、ちまっと探検隊に休息などありはしないのだから!