【鬼種の森】挑むべき危険〜潜入〜
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■シリーズシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 43 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月17日〜03月30日
リプレイ公開日:2005年03月25日
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●オープニング
鬼種の棲む森、オーガの巣と呼ばれる場所がある。
そんな場所でも、宙に浮いているわけではない以上、どこかの領地に組み込まれているわけで──当然、領主というものも存在する。
街道が走っている周辺、交易の基盤を中心として住み着いてしまったオーガ種によって領地の交易収入は圧迫され、蹂躙するオーガ種によって近隣の村の生活は脅かされ、しかも繁殖してしまって駆逐もできず、と、領主にとっては頭痛の種でしかありえなかった。
──しかし。
「冒険者というのは、意外に役に立つものだな」
「そうでございますね」
領主が見ているのは、先だって冒険者に作らせたオーガの巣の地図だ。といっても、半分程度の地図しかできていない。
しかし、個々の巣の所在だけでなく、その巣に住み着いているおおよその個体数、種族名や外見上の特徴、果ては地形までが細やかに記入されている。
だが、どこからみても半分でしかない。パリ側の半分だけ‥‥上位種についても、その個体数はほとんど記されていない。
それは、まだまだ、調べきれていない巣や種族が残されているということに他ならなかった。
しかし、調べられたということは、情報と戦力をそろえれば、追い詰めることも可能だということに他ならない。
オーガ種がいなくなれば、打ち捨てられた街道は活気を取り戻し、領内での交易も盛んになり、経済が活性化するだろう。そしてなにより、領民の暮らしに安全と安心が取り戻せるのだ。
「まずは、オーガの巣の完全な地図を作り上げることからだな」
「またギルドに依頼を出されますか?」
「そうだな」
軽く頷いて、執事の差し出したワインを手にする。甘やかな香りを楽しみながら、ふと思いついた言葉を加えた。
「そういえば、パリの冒険者ギルドにはオーガが出入りしている、という話があったな」
「はい、オーガの少年‥‥と言って良いのでしょうか、まだ幼いオーガが冒険者と懇意にしているようです。彼の命を救うためにノルマンのみならず、イギリスの冒険者まで動いたと‥‥領民の口の端にまで上っております」
「そのオーガ少年にも是非来てもらいたいものだな。オーガについて、新たな発見があるやもしれん」
実際に人間社会で暮らそうとしているオーガがいるというのは、多くのオーガ種を抱える領主にとって興味深い話である。
領主は、オーガ種と共存ができるとは思っていないようだが、どのような形であれオーガ種を利用できるものなら利用したい、という腹積もりもあるようだ。
静かに芳香を放っているワインの器を回すと、紅の液体がゆっくりと妖しく揺れた。
「承知いたしました。パリに滞在しているとも限りませんが、時間の許す限りオーガの少年を探させましょう」
この場合、探すのは領主でも執事でもなく、依頼と依頼料を冒険者ギルドへ届ける使用人である。鷹揚に頷く領主、出発までの数日とはいえ、使用人にパリでの休暇を与える気は全く無いようだ。
「冒険者諸氏には、地図と合わせて効果的な利用方法、排除方法も考えてもらうか。面白い案が出てくるかもしれん」
今ですら人里に被害が出ているのだ、これ以上増えてしまえば本格的に人里への侵略が始まるだろう。
住み分けや、人里へ降りてきたオーガ種の排除、などという生易しいことでは対処できない事態になってしまっている。
それらを踏まえた上での対処療法ならそれでも良し、効率的な殲滅方法であればそれも良し、利用して経済的価値を生じさせるならそれも面白い。
「もちろん、進言というのであれば目を通さないこともないがな。冒険者という輩(やから)の考えに触れてみるのも面白かろう」
まぁ、そちらにばかり頭が行き地図が完成させられない‥‥などという本末転倒な事態に陥るような冒険者の意見なら、聞く価値もないのであるが。
「では、依頼の手配をいたしましょう」
こうしてギルドにもたらされた依頼は、またしても依頼人である領主の顔も出ず、執事の顔も出ず‥‥馬を駆って依頼の記された羊皮紙と規定量の金貨を運んだだけの、たった一人の使用人を通じて、冒険者へ示された。
そして、使用人の青年は、幸か不幸か──パリ郊外の丘で、鼻歌を歌いながら歩いていたギュンターらしき少年を発見したのだった。ギルドで聞いたとおり、そして貰った似顔絵のとおりに独特のマスクをしている。
子供の身長に身の丈ほどもあるバトルハンマーという組み合わせも、冒険者に聞いたとおりだ。
「あの‥‥ギュンターさん、ですか?」
「‥‥うが? おぢさん。だれ? なんでぎゅんた、しってる?」
恐る恐る話し掛けた青年は、首を傾げる仕草に、郷里のオーガとは違う雰囲気を感じ取ったようだ──素顔を隠してくれているスマイルマスクのおかげかもしれない。強張っていた顔から、少し、力が抜けた。
そして、本題を口にする。
「僕の故郷に、オーガ種がたくさん住んでいる場所があるんです。人間が入ると殺されてしまう場所です」
ここまでは本当のこと、真実の話。そして続いたのは、領主の用意した話。
「でも、同じ場所に住む者同士‥‥何とか一緒に暮らしたい‥‥だから、彼らが暮らしている場所をきちんと知りたいんですが、手伝ってもらえないでしょうか?」
「けんかしないなら、ぎゅんた、てつだってもいい」
どこか棒読みの言葉に、気付けるギュンターではなかった。胸を痛ませながら、青年はせめて対等の存在としてオーガの少年を扱おうと努力していた。
「もちろん、報酬は冒険者同様にお支払いしま‥‥」
「ぎゅんた、がんばる! おがねかせいで、こだいおうこくさがす!!」
「はいぃっ!!」
勢い良く、元気良く返事をしたギュンターの声に、青年は思わず首を竦めた。
(「‥‥オーガと共存‥‥やっぱり、例え話にしかならないかな‥‥」)
青年の耳には──少年オーガの元気な声が、郷里を蹂躙する、似て非なるオーガの叫びと重なって聞こえていた。
●リプレイ本文
●降り立ちし港
「へっへっへ〜、生ギュンターだぜ!」
三味線バードのアリア・プラート(eb0102)はギュンターの片腕に陣取って楽しそうに笑いながら船を降りた。
「‥‥遊びではありませんよ」
「ちっ、わぁーってるよ」
船内での地味な作業がなかったからか、今回はクライフ・デニーロ(ea2606)も酔わなかったのだが、苦手意識を持ってしまったようで幾らか顔色が悪い。しかし、そんな具合の悪さを押して冷静に釘を刺した。
もちろん、アリアとてそれは充分承知している──今は危険がないと割り切っているだけで。
次いで、竜胆 零(eb0953)と王 娘(ea8989)が地を踏みしめた。
「回復役が必要だな‥‥依頼人に提案してみるか」
四方八方を水に囲まれた船上に少し慣れたのだろうか、大地への安堵をまったく表情に出さず、脇腹を押さえる竜胆を見ながら娘はそう呟いた。
娘が知っているのは、船内に担ぎ込まれた竜胆。甲板でギュンターを鍛えようと模擬戦をしていたらしいのだが、二日目、避け損ねた一撃が竜胆の脇腹を打ち据え‥‥吹っ飛んだ彼女は、危うく船から落ちそうになったらしい。
船員が予備のポーションを提供してくれたため、今の竜胆には名残の大きな痣しか残っていないのだが‥‥これから、この危険な森と関わっていくためには、傷を癒してくれる存在は不可欠なように思えた。
「そうですね」
気をつけてと初めての依頼に送り出してくれたシェーラ・ニューフィールドに成功の報告をできるようにと祈りながら、サーシャ・ムーンライト(eb1502)は噛みしめるように頷いた。
「無駄話をしている時間が惜しい。さっさと出発するぞ」
「うんうん、さくっと行って、さくっと終わらせようね。そしたらいっぱい遊べるし♪」
ルシファー・パニッシュメント(eb0031)は一行を急かすように、まだ地に足がついていない状態でそう言った。その肩に掴るように飛びながら、ターニャ・ブローディア(ea3110)は楽しそうに言う。彼女の好奇心は、この依頼で満たされるのだろうか。
「こちらに、馬車を用意してあるようです」
依頼人の気まぐれか、港には馬車が用意されていた。仲介役の青年は手綱を握り、馬車に乗るようにと促した。
「ありがたいです。正直、移動は一日‥‥いえ、半日短縮できるだけでも助かる」
オリバー・マクラーン(ea0130)は素直に礼を述べると、自分の馬に颯爽と跨った。
「馬車が軽い方が移動も早いかもしれんな」
ルシファーがそれに倣うと、そうですねと頷いてサーシャも愛馬ファーディナンドに跨った。
そして、一瞬の間すら惜しむように馬たちは走り出した。
●禍々しき森
『オーガの巣』と呼ばれる街道に入って丸二日、パリから数えて五日半‥‥以前、冒険者たちが襲撃を受けた場所へと辿り着いた。
「この気配‥‥何度訪れても、何日滞在しても、慣れるものではないな」
テントを張りながら、オリバーが溜息をついた。ねっとりと纏わり付くような、粘着質な悪意。常に監視されていると思える鈍い殺意。首筋をナイフで撫でられるような嫌な感覚だ。
「ではルシファーさん、よろしくお願いしますね」
頭を下げるクライフの言葉に、指名されたルシファーはにやりと笑ってみせた。そしてもう1人、立候補した者がいた──サーシャだ。
「私もベースキャンプの護衛に残ります」
そして、ふと、思い出したように付け加えた。
「そういえば、先日の依頼の報告書を読ませていただいたのですが‥‥先日の依頼は二班に分かれて調査したようですが、今回は全体で行動するのですか? ベースキャンプは、待機の方が移動させていたようですけれど‥‥それも、全員が戻ってから一緒に移動するのでしょうか」
二班に分かれて、それでも半分探索するのが日程的にギリギリだったようですが‥‥サーシャの素朴な問いかけに、クライフが口をつぐんだ。
「ベースは二日間ここに‥‥」
「でも、それって見つけてくれって言ってるようなものだよね。ここで襲われたこともあるって、クライフ言ってたもんね?」
首を傾げたターニャの言葉で、冒険者の間に気まずい沈黙が流れる。話が纏まっているようで、実は全く纏まっていないことに‥‥ここに来て気付いたようだ。
仲間たちに改めて偽装工作を施していた竜胆が、これみよがしに、大仰に溜息をついた。
「‥‥幸い、到着までに一日短縮できています。戦力を割くには人数が少ないですから、ルシファー殿には負担をかけてしまうが拠点を守ってもらうことにして、テントは一日ごとに移動しましょう」
「そうだな。ここまで来ておいて話し合うのも馬鹿馬鹿しい、そんな暇があるなら仕事をした方が効率が良いだろう」
「難しく言わないで〜っ! 要するに、ダメそうになったら考えようってことだよね?」
オリバーの提示した折衷案にルシファーが同意し、冒険者たちは頷いていく。ぶんぶんと腕を振り回し、オリバーの顔を覗き込んで必死に尋ねるターニャの姿が、荒んだ空気を和ませた。
そうと決まれば冒険者たちの行動は早い。テントを張り、馬やドンキーに載せた荷物をルシファーに預けると、早々に森へと消えていった。
「うあ!! ぎゅんたも、が‥‥がんばる!」
「「「しーっ!」」」
「うぇ?」
●満たされる泉
二日目の昼、曇天の下、娘は油断無く意識を配っていた。
(「何かと縁があるなこの土地は‥‥最後まで見届けるのも悪くは無いか」)
ジャッド・カルストからナンパついでに半ば強引に贈られたパラのマントはまだ被っていない。今、娘が身を包んでいるのはレザーマントだった。
「恐らくこのマントがあれば濡れるのを防げると思うが‥‥」
油断無く辺りを見回しながら小声でそう呟くと、フードを被りなおす。動物の耳を思わせる突起に、ギュンターが目を細めた。
「うあ! わん、かわい!」
「‥‥そうか」
フードに触れたそうにする少年オーガの手から逃れ、彼が本当に役に立つのか湧き立つ疑問を眉間に示しながら、ギュンターを見上げた。ある一定の状況下では戦力にならないとは聞いているのだが‥‥無邪気な彼は、とても戦闘に向いているとは思えなかった。
娘にするりと逃げられて落ち込むギュンター少年に柄にもなく慰めの言葉をかけようとした時、頭上から声が届いた。
「あったよ」
大きな木に身軽に登って周囲を確認していた竜胆、木のない箇所を見つけたようだ。木がないということは、地面がないということ──すなわち、水場である可能性が高い。
するすると身の丈ほどの枝まで降りてくると軽やかに地面に跳び、更に頭上を見上げた。
「周囲にはオ‥‥色々、何組もいるけど、確認しながら行けば充分避けて通れそうだよ」
竜胆が木から下りるのを見て、テレスコープで周囲を見回していたターニャがギュンターの肩へと降りてきた。オーガと言わなかったのは、彼女なりの心遣いだろう。──そして、どこかふらふらしているのは、焦点がうまく合わないからだ。
少し離れて地図に地形を書き込みながら待機していた仲間たちも、そろそろと寄ってくる。
「クライフ殿」
「ええ。‥‥──サーチウォーター」
オリバーに促され、クライフが魔法を唱えた。隅から隅までサーチウォーターをするには魔力が足りないが、疑わしい箇所で魔力を使えば大幅に節約できる。
「水、ですね‥‥たぶん、泉だと思います」
「じゃ、行ってみよう♪」
ターニャの言葉に頷き、一同は音を立てぬように、気配をさせぬように、細心の注意を払いながら水場へと移動した。
●憩いの焔
──パチ、パチ‥‥
火のはぜる音が静かな夜に響く。
そして、その音に乗せて‥‥囁くような歌声。
「歌ってみろよ、教えてやっから。な♪」
アリアがギュンターに、ノルマンの童謡を教えていた。クライフは漏れ聞こえる小さな歌声を咎めることもせず、オリバーもまた止めずに愛馬にもたれ掛かり、押さえられた穏やかな焔が照らし出す穏やかな光景を微笑みながら眺めていた。
「一日に何度も、群れと遭遇していると」
「うあ‥‥うた、うたう‥‥〜♪」
耳に心地よい旋律にぎこちない旋律が重なり、サーシャは目を開けた。
「あ、ワリ、起こしちまったか」
「いえ‥‥ちょうど良いですし、そろそろ見張り交代しましょうか」
クライフが警戒を解いていないことを確認し、乱れた髪を手櫛で直しながら微笑むサーシャに、アリアはゆっくりと首を振った。
「もう少しで覚えそうなんだ、せっかくだしな」
「では、見学させていただきますね」
細くなった焔に小枝をくべ、オリバーから暖かい飲み物を受け取ると‥‥サーシャもまた、穏やかな光景を眺めた。
●訪れし遭遇
それは最終日、探索班を送り出した後‥‥テントや焚き火を片付けていた時だった。
──がさ
「‥‥ようやっとお出ましか」
ロングスピアに手を伸ばしながら、ルシファーはその口元に酷薄な笑みを浮かべた。巡らせた視線が捕らえたものは、3匹のオーク。
オークが様子を窺っている隙に、ルシファーの詠唱が終了した!!
「さすがに退屈していたところだ‥‥手加減はせん! ──ミミクリー!!」
躊躇わずオークの中へ飛び込むルシファー!!
ロングスピアの長い間合いが、不自然に伸びる!
『GRRR!?』
ミミクリーで腕の長さを伸ばし間合いを広げたルシファーのロングスピアが、先頭のオークの文字通り出鼻を挫いた!
顔面に大きな傷を負い、血を滴らせるオーク!
サーシャは落ち着きをなくした馬たちへ駆け寄り、その鬣(たてがみ)を撫でる。
「大人しくしていてね、ファーディナンドも、皆も」
宥めながら、サーシャもショートソードを抜いた‥‥馬たちへ寄ってきたオークへ、躊躇わず全力攻撃を仕掛けた!!
「お願い、帰って!」
ショートソードでのスマッシュは幸運にも棍棒を握るオークの腕を大きく切り裂いた!
『GGAAAA!!』
その間にも、ルシファーのロングスピアは間断なく、浅く深く、オークを傷つける!!
「とどめだ!!」
しかし大きく突き出した一撃はオークに辿り着かない!
ミミクリーの効果が切れ、腕が元に戻ったのだ。
「逃がさん!!」
チャンス、とばかりに逃走を試みるオークたちを追おうとするルシファーを、サーシャが止めた。
「ルシファーさん! 私たちの仕事はベースキャンプの護衛です! 手も足りません、深追いは止めてください」
その言葉で我に返り、ルシファーは追うことを諦めた。戦闘は好きだが、そのために依頼を失敗させるつもりはない。
「──ちっ! 命拾いしたな、オークどもめ‥‥」
「疎まれる存在オーガ種か‥‥私達ハーフエルフはどっちかな」
ルシファーの言葉に、サーシャはぽつりと呟いた。
●吹き荒れし嵐
ベースキャンプに残った二人が鬼種と遭遇していた時、森に入った探索班もまた、鬼種と遭遇していた。
遭遇した敵は‥‥ゴブリン4匹と、それを率いる赤い肌のオーガだった。
「うああ!! けんかする、だめ! やめて!!」
問答無用で切りかかってきたゴブリンとオーガから術士たちを守るため、竜胆、オリバー、娘の三人が飛び出した!
──ギィン!!
オリバーのライトシールドがオーガの斧を止めた!!
相手の先手を取った娘は鳥爪撃でゴブリンに襲い掛かった!!
「悪いな。鳥爪撃(ニャオ・ジャオ・ジィ)!」
細い足がゴブリンの首筋にめり込む!!
「その程度の攻撃に当たると思っているのか?」
竜胆は3体のゴブリンを引きつけつつ翻弄! 当たらない攻撃に、ゴブリンたちはムキになってきたようだ。
「けんかする、だめ!! やめて! うわあああん!!」
ギュンターの瞳から涙がこぼれ、慟哭が冒険者の胸を抉る。
「交渉を!!」
「そんな余裕があるように見えるか!?」
クライフの叫びに、珍しく娘が声を荒げた。襲い掛かってきたのは向こうだ。しかもギュンターの手前、自分たちからオーガを攻撃することができない。
「アリアさん、メロディをお願いします! ターニャさんも補助を!」
「任せろ!!」
「わかった!」
二人が詠唱している間も戦闘はやまず、オーガを1人で引きつけるオリバーの左腕はシールド越しの衝撃で痺れが走り始めた!
「──マジカルミラージュ!」
ターニャのマジカルミラージュが冒険者の映像を作り出したのと同時に、アリアのメロディが発動した!
「♪ おーれはオーガだ。お前のもんは〜おれのもん。おれのもんは〜おれのもん♪ でも、森に人が来ないですから〜っ、残念!!」
一行への戦意を喪失したゴブリンとオーガは、距離を置いて現れた幻想の冒険者へ意識を向け、駆け出した!!
「今のうちに逃げましょう! ギュンター君も一緒に!!」
「うああ‥‥けんか、だめ‥‥なかよくする‥」
ターニャ、アリアに続いて娘も鬼種とは逆の方向へと駆け出した!
クライフに腕を引かれて涙を拭く間もなくギュンターも駆け出し、殿(しんがり)を勤めながら竜胆とオリバーもその場を後にした。
最終日まで、探索班の戦闘はこの1度だけだったが‥‥両手で数え切れない遭遇は、この森に住む鬼種の生命力を感じさせた。
●ふらりと吹く風
「はい、確かにお預かりします。お疲れ様でした」
森に点在する10ヶ所を越える鬼種の巣や細やかな地形など様々な情報の書き込まれた地図と冒険者からの提案を記した羊皮紙を受け取り、代理人の青年は冒険者たちを労った。そして船を降りたばかりなのに、別の船へ移る──忙しい話だ。
「さて‥‥名残惜しいが、ギュンター殿もまた旅立つのだったな」
「うぇい! ぎゅんた、こ‥‥こだいおうこく、さがす!! だから、いく」
しんみりした空気が流れた。共に過ごすということは‥‥相手を受け入れることと似ている。
そして、良くも悪くも純粋で‥‥心の荒む森における清涼剤になってくれたギュンター少年。
彼は、またふらり旅に出てゆくのだ──彼自身の目的のために。
「じゃあな、気ィつけろよ」
「うあ。ぎゅんた、またあう!! お、まじない!」
「へ?」
ギュンター、アリアへと‥‥出立前に薊 鬼十郎が自分にしたのと同じ『また会えるおまじない』をした──その唇に、そっとKiss。
柄にもなく赤面するアリア。
「ギュンター!! てめ、仮にもオトメの唇をぉぉ!!」
「なんでおこる?」
「‥‥なんでもねぇよ。またな」
「う、また、あそぶ。それまで、ばいばい!」
冒険者に手を振って、冒険者も手を振って、お互いの歩む道へお互いを送り出した。
ギュンターは覚えたての童謡を風に乗せ、またどこへともなく旅立っていく。
後姿を見て思う──共存できるオーガもいる。できないオーガもいる。
現実は、厳しく横たわっていた。