【生命の輝跡】アースソウルの祈り

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 61 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜08月07日

リプレイ公開日:2005年08月03日

●オープニング

●ヴィルヘルム領・領主館
 領主ヴィルヘルムは床に伏せっていた。生来身体の丈夫な方ではなかったが、春先から大きく体調を崩し‥‥床に就いて久しい。
 その領主の下へ訪れた友人がいた。クレメンス・ランカッツァー、壮年の薬師である。
「クレメンスか‥‥久しぶりだな‥‥ゴホッ!!」
「ずいぶん窶れましたね、ちゃんと食べていますか?」
「説教は止めてくれ‥‥」
 にこやかな表情を浮かべながら吐かれた、友人としての発言とも、薬師としての発言ともつかぬ一言に領主は口元を歪ませた。以前よりこけた頬に翳が差し、薬師でなくとも領主の体力の衰えを感じただろう。
 大丈夫か、などと聞きはしない。大丈夫でないからこそ、奥方フィリーネがクレメンスを探し出し、ここへ招いたのだ。彼を師匠と仰ぐ弟子も名を馳せるほどの腕を持っている。彼の腕は押して知るべし、だ。加えてヴィルヘルムの友人となれば、彼に縋(すが)らない道理はない。
 昔話を織り交ぜながらクレメンスはヴィルヘルムへと具体的な症状を尋ね‥‥会話に疲れた領主が寝入ってしまうまでの短い時間を過ごした。

 か細い寝息を立てるヴィルヘルムへ布団を掛けなおし、そっと部屋を出ると‥‥いつから控えていたのだろう、領主夫人のフィリーネが顔を上げた。
「クレメンス様、良いお薬はございますか‥‥?」
「症状を抑え、快方へ向かわせることはできそうですが‥‥私の手持ちの薬では、量が足りません。ヴィルヘルムを置いて採取に行くわけにもいきませんし‥‥」
 瞳を曇らせるヴィルヘルム。手持ちの薬草を調合し薬を作ることは出来るが、どう足掻いても15日分が精一杯。
 館に滞在し、病状を見ながら与えねばならないことを考えると、クレメンス自身が採取に行くのは不可能だ。
「パリの商人ギルドへお願いすれば‥‥」
「珍しい薬草ですから、入手できても時間がかかると思います。当面の不足を補った後であればそれも良いと思いますが‥‥」
 購入して用が済むのであればそれに越したことはないが、時間が限られている。
 もっと早く、確実に手に入れる方法は‥‥手に入る場所へ赴き、採取すること。
「クレメンス様、はっきりと仰ってくださいまし! 何処で手に入るか、ご存知なのでしょう?」
 歯切れの悪い物言いは、心当たりのあることを匂わせていた。薬師クレメンスの心当たりと言えば、採取場所に違いない。そして、クレメンスは命を重んじる性格、採取場所を隠すとは思えず──となれば、歯切れの悪さは採取するためには超えねばならない困難が横たわっているだろうことを暗示しているのだろう。
 フィリーネの射抜くような眼差しを、クレメンスは視線を伏せることで肯定した。
「この館から丸2日ほど東へ進んだ場所に森があります。その森で採取できますが‥‥」
 溜息と共に吐き出されのは、少々難度の高い障害だった。
「では、冒険者ギルドにお願いいたしましょう。難しい依頼であっても、こなしてくれる冒険者がいないとは限りませんわ。同時に商人ギルドへも依頼をしておけば、可能性は多少なりとも増えますわよね」
 フィリーネの判断には一瞬の逡巡もない。それは愛する夫を救いたい一心の、22歳とは思えぬ即断だった。

●冒険者ギルドINパリ
「あら、レイさん。難しい顔をされて、どうなさったんですか?」
 エルフのギルド員、リュナーティア・アイヴァンが声を掛けたのは、とある男性。
 眉間にしわを寄せ複雑な表情を浮かべて掲示された依頼書を眺めていたレイ・ミュラーだった。
「あ、いえ、難しい依頼だな、と思っただけですよ‥‥そう、難しい依頼だな、と‥‥」
 表情に浮かんだ動揺には気付かなかった振りを装い、リュナーティアは憂い顔で頷いた。
「そうですね。アースソウルから薬草の生える場所を聞き出し、採取してくるだけでも難しいでしょうに」
 アースソウルは大地の精霊。森はアースソウルの領域であり、アースソウルが冒険者を発見するのは容易いことだろう。
 しかし、姿を見せるかどうか‥‥となれば、精霊の気紛れに委ねるしかない。
「しかも、その森のアースソウルは金属の匂いが嫌いで金属を持っていると現れない──ですものね」
 全てのアースソウルがそうであると聞いたことはない。金属の武器で攻撃されたなど‥‥何か嫌な経験でもしたのだろう。
 しかし、問題は原因ではない。
 金属の匂いがすると現れない、その行動こそが問題なのだった。
「森には当然、モンスターや危険な動物がいるでしょうね」
 けれど、金属の携帯は出来ない。武器、防具に限らず‥‥鞍、指輪、勲章、ランタンなども金属を使用している。
 また、ペットに積んでいても金属の匂いは消せるものではないし、誤魔化せるものでもない。
 そして、依頼を達成できなければ、か細く揺れる領主の命の灯火は‥‥やがて消えてしまうだろう。奥方の涙と共に。
「本当に難しい依頼です‥‥」
 胸に焼きついたフィリーネを思い、知らず溜息を吐き‥‥難しいですね、ともう一度呟いた。

 憂い揺れる視線を瞼で隠して‥‥

●今回の参加者

 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6572 アカベラス・シャルト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0631 ヘルガ・アデナウアー(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●いざ、シュティール領へ
「困っている人がいるなら、誇りあるシュタインバーグ家の男として騎士として見過ごす事なんてできません!」
 握った拳に気合を込め、誠実な面持ちのデニム・シュタインバーグ(eb0346)は力強く頷いた。困っている人を見過ごしてはならない──それは彼の性格である以上に、育った環境によるところが大きいのかもしれない。
「病気の領主様の為に、薬草を採ってくれば良いんだね。頑張ろうねっ」
「ヴィルヘルム卿‥‥大事なければ良いんですが」
 シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が元気を溢れさせ、太陽のような眩しい笑顔で言ったのとは対照的に、アカベラス・シャルト(ea6572)は曇天を写し取ったような憂い顔で溜息を吐いた。
 薬師が付き添い続けねばならないという状況は、決して良い状態ではないはずだ。むしろ、最悪の状況に限りなく近いことを感じさせ、氷の彫像を思わせる美麗な顔を曇らせていた。
「でりけぇとなアースソウル‥‥なかなか難しそうね。ただでさえ気まぐれさんだからなぁ」
 顎に手を当て、ローサ・アルヴィート(ea5766)は難しそうに首を傾げた。アースソウルに限らず、精霊と呼ばれるものたちは往々にして気紛れな存在であるという話だ。
「レイ君、何か良い案ってある? ──って、元気ないね。どうしたの?」
 友人レイ・ミュラー(ez1024)へと話題を振ったローサは、彼の表情もまた曇っていることに気付いた。いや、ここ数日間、目を離すと表情に翳りがさしていたことは知っていたのだが‥‥。
「レイさん、なんだか元気がないみたいだけど、何かあったの? あたしでよければ相談に乗るわ」
 常にレイの左隣を陣取っているヘルガ・アデナウアー(eb0631)もまた、恋する乙女としてレイの表情を気にしていた。
「すみません、ご心配をおかけして‥‥何でもないのです。何でも‥‥」
 心配をかけまいと微笑みを浮かべるものの、無理に作られたその微笑みは時間が経つと淡雪のように消えてしまう。
「悩むのは良いことですわ。けれど、いつまでもうじうじと悩んでばかりなのは、ただ優柔不断なだけ。わたくしのように優秀なものでなければ、簡単に履き違えてしまうものなのでしょうけれどね」
 つんと顎を上げ、アミィ・エル(ea6592)はぴしゃりと言い放った。自信に満ち溢れたアミィの態度は、確かにレイにはないものだろう。
「‥‥そうですね。思い悩むだけでは変わりませんし、まずは自分にできることからやっていってみます。ありがとうございます、アミィさん」
 何かスッキリとしたのだろう、普段どおりの微笑みを浮かべてアミィへと頭を下げるレイだった。

●シュティール領領主の館
「わざわざご足労いただいてしまって、申し訳ありません」
 曇天と現すには雲が厚くなりすぎ、ぱらぱらと雨粒が散り始める頃、冒険者たちはヴィルヘルム・シュティールの屋敷に到着した。
 床に臥せっている領主ヴィルヘルムの代わりに冒険者たちを出迎えたのは、依頼人でもある領主夫人フィリーネ・シュティールだ。
「お出迎えありがとうございます。領主様のお加減はいかがですか?」
 城戸 烽火(ea5601)が奥方フィリーネに領主ヴィルヘルムの容態を尋ねると、奥方は視線を伏せて小さく首を振った。
「芳しくありません。本来なら一晩ゆっくりお休みいただくのが筋なのですが‥‥」
「あ、構いません、お気になさらないでください。私たちもここからは徒歩になりますし、御領主様のためにもすぐに出発するつもりでしたから」
 申し訳ないと頭を下げる奥方フィリーネへ、フィニィ・フォルテン(ea9114)が慌てて言葉を返した。
 そして、遠慮がちに続ける。
「ただ‥‥その、申し訳ないのですが‥‥問題のアースソウルは金属が嫌いということなので、動物や金属製の荷物を預かっていただけないでしょうか‥‥?」
 鞍に金属を使っている馬や驢馬、そして乗っている荷物にお金、アクセサリなど、金属製品は意外に多いものだった。
 責任を持ってお預かりします、とフィリーネは確約した。
「金属類はダメなのだと解ってはいるのですが、ただ正直、剣を持てないのは物足りな‥‥で、ではなくて、不安です」
「‥‥気持ちはわかります」
 帯剣することが常となって久しいデニムとレイは、その存在を誇示する重量がなくなったことで物足りないような、心細いような、不安な気持ちに陥っていた。その影で城戸もクナイの一本もないのは寂しいと内心で激しく同意していた。
「それでは、金属製品が残っていないかどうか、最後にお互いにボディチェックをしましょうか」
 フィニィや城戸が持ち運ぶ荷物についても念入りに確認をしたのだが、アカベラスは念には念を入れてとボディチェックを提案した。
「あ、無論女性は女性同士で、ですよ。デニム君はレイさんに調べて貰ってくださいね?」
 元より女性相手にボディチェックなどする気のなかった二人の騎士は僅かに頬を赤らめて当然です!! と姿勢を正して返事を返した。
 金属を探すボディチェックが終了すると、冒険者たちが対面を求めていた薬師クレメンス・ランカッツァーが姿を現した。
「遅くなってしまってすみません。ヴィルヘルム様がようやく眠られましたので‥‥」
 クレメンスの言葉が終わるのを待たずに、城戸は薬師に尋ねる。
「薬草が生えやすい場所を教えていただけませんか? 少しでも詳しく知っておけば探すのも容易になりますから」
「サンワードが使えるように、細かい特徴も教えていただけるかしら? アースソウルのこともね!」
 アミィに自分の希望を述べられたアカベラスは羊皮紙を取り出し、クレメンスの言葉を仔細漏らさず記入しようと羽ペンを準備して様子を伺う。
 しかし、首を傾げたシャフルナーズはもっと大胆だった。
「サンプルを貰うことはできないかな? アースソウルに聞くのも、サンプルがある方が早いと思うんだけど」
「あら、でも薬草は今あるものでギリギリなんじゃなかったかしら?」
 ヘルガが疑問を口にした。残量が限られているからこそ、そして領主の命に関わるからこそ、日程まできっちりと指定の入った依頼となってギルドに掲示されていたはず。
「今の量では、あなた方に提示した日程が限界です。サンプルを渡すとなれば、それだけ早く戻ってもらわなくてはなりませんが、アースソウル相手に予定は立てられませんから」
 案の定難色を示すクレメンスにフィニィが意見を述べた。
「‥‥薬草を入手してからセブンリーグブーツを使用して誰かが先行して届ければ、時間が稼げると思いますが‥‥」
「そうだよ! あたしたちに使える時間は変わらないんだし‥‥それに、こんなこと言いたくないけど‥‥あたしたちが間に合わなかったら手に入らない可能性もあるんだよね?」
 それならサンプルがあった方が期日以内に発見できる可能性は高いんじゃないかな、とローサもシャフルナーズを後押しする。
 しばし思案し、やがてクレメンスは少量の薬草を取り出し、シャフルナーズに預けた。
「必ず‥‥必ず、間に合わせてください。領主様のために‥‥いえ、私の友人のために」
 それは、本心からの依頼だった。
「その薬草は岩陰などのあまり日の当たらないところを好むようです。ですから、闇雲に探すよりはアースソウルに尋ねる方が入手できる確率は高いです。それから、あの森のアースソウルは好奇心旺盛です。それで痛い目にあったことがあるのですが、それでも好奇心には勝てないようです。我侭な子供というか、動物のようなものですから‥‥会話は難しいかもしれませんが、煽てたり宥めたりしていけば大丈夫です」
「アースソウルさんなどわたくしが軽くあしらってさしあげますわ。おっほっほ!」
 薬草の所在とアースソウルの扱いについて少しだけ助言をし、クレメンスは薬の準備をしに足早に部屋を後にした。交渉については自信があるのだろう、アミィが高笑いをし早々と勝利を宣言した。
「それでは、急いで行きましょうか」
 奥方フィリーネと視線を合わせないようにしながら、レイは仲間たちに出発を促した。
「お待ちくださいな」
 それを止めたのは、他ならぬ奥方自身だった。二十歳を過ぎたにしては小柄であまり凹凸のない体型のフィリーネは、ヘルガの元へ歩み寄ると、ヘルガの髪をそっと梳いた。
「貴女はハーフエルフなのですね。シュティール領内ではナスカ・グランテの惨劇からハーフエルフに過敏になっている領民がとても多いですから、耳は隠して置いた方が宜しいですわ」
 寂しそうにそう呟き、ヘルガの耳を髪で隠すフィリーネ。そして他の冒険者を振り返った。
「レイさんも、皆さんも、気をつけてくださいね。ヴィルヘルムは私にとってかけがえのない人ですが‥‥あなた方の不幸の上に成り立つ人生なら、あの人も喜んではくれませんから」
「‥‥‥無事に戻ります、フィリーネ様‥‥」
 騎士の礼をし、儀礼的に向き合うレイへ、シャフルナーズは小さく言葉を贈った。
「何となく予想はついちゃったんだけど‥‥騎士ってのも大変だね。思い詰めちゃダメだよ?」
 苦い笑みを浮かべ、改めてシャフルナーズを、仲間たちを促した。
「‥‥行きましょう」
 ぽつりぽつりと落ちていた雨粒はいよいよその勢いを増し、分厚い雲が夜でもないのに随分と薄暗い空を覆う。
 ごろごろと鳴り響く雷鳴を聞きながら、冒険者たちはヴィルヘルム・シュティールの屋敷を後にした。

●アースソウルの森で
「申し訳ないですわね」
 本心ではないとわかる口調でアミィは謝罪した。彼女は森に入る前に一枚だけ持ってきていた金貨でサンワードを使用したのだ。ところが、得られた回答は『わからない』というものだった。クレメンスから聞いた話と総合して考えれば、目的の薬草は日陰に生えているわけで、サンワードの対象範囲には含まれていない。
 あわよくば‥‥と僅かな期待を抱いての魔法は、やはり期待通りの効果は発してくれなかったのだった。
 けれど、アースソウルに会わねば薬草の在り処は解らない‥‥というのは全員が薄々感じていたことだったようで、アミィの労を労いつつ、森の奥へと分け入っていく。
 そんな森で頭上の枝を逃げるリスを見かけると、フィニィはテレパシーの詠唱を行った
『リスさん、アースソウルには何処へ行ったら会えますか?』
『あーすそうる、しらない』
 動物たちは人間が動物たちやモンスターたちを示す単語を知らない。具体的なイメージを送り、それに対する反応を見るのが確実な方法なのだが‥‥あいにく、アースソウルの外見を知るものはパーティー内にはいなかったようだ。
「レイ君、泉があるみたい」
「少し休憩しましょう。根を詰めすぎるのも良くありませんから」
 そう言ってレイは泉の畔での休息を勧めた。野営をするのならここになるのだろう。
 普段は驢馬フィンで行動しているフィニィは歩きつかれた足を泉に浸した。その口から、自然と歌が毀れ落ちる。

♪ 緑生い茂る深き森 生命を育み
 育まれし生命たちは 森を愛さん
 春の芽吹き 夏の茂み
 秋の実り 冬の落葉
 愛し愛され 森は育つ
 愛し愛され 命は育つ

 ゆったりとした、けれど明るいメロディーラインに合わせてシャフルナーズとアミィが舞い、デニムが笛を吹く。
 ヘルガはシフールの竪琴を取り出して爪弾き始め‥‥ローサもいつしか足でリズムを取っていた。
 溢れる音楽に城戸はその場を後にした。──誘われてモンスターが現れる可能性もゼロではなかったからだ。
 アカベラスは曲に身を浸すように集中し‥‥それは呪文の詠唱をするのに似ていて‥‥けれど、まったく別の性質のものだった。

 ふと顔を上げたアカベラスの隣には、一人の子供が楽しげに腰掛けていた。
「‥‥アースソウル?」
 口を突いて毀れた言葉に、子供がアカベラスを見上げた。
 ここぞとばかりにアミィが話術で畳み掛ける!
「あなたは、人のために何かしていますか。この世のすべての者が少しずつでも人のためにがんばれば、世界は平和になると思いませんか。今、病に倒れている方がいらっしゃいます。その少しの善行のために協力していただけませんか」
 けれど人間社会の価値観は精霊に通じるものではなくて。
 アースソウルは不思議なものを見る眼差しでアミィを見上げた。
「薬草を譲ってもらえませんか?」
 アカベラスはゆっくりと区切るように言葉を紡ぐ。言葉が通じないのか、意味がわからないのか、アースソウルは大きな眼をパチパチと瞬くばかり。
 そんなアースソウルに、ローサは何か親しくなる方法を求めて‥‥その方法を思いつき、アースソウルの前に屈み込む。 同じ目線の高さにすると、にこりと笑い‥‥
「はいっ☆」
 何もない手に、クレメンスからシャフルナーズが預かった薬草を『ポン☆』と取り出して見せた──簡単な手品である。
 ビックリして目を丸くするアースソウル。興奮しているのか鼻の穴が大きくなり、ローサの手をまじまじと覗き込む。
「私達の知り合いが病気で困ってるの。助けるにはこの薬草が必要なんだ。お願い、薬草の有る所、教えてくれないかな?」
 シャフルナーズの言葉を何とか伝えようと、ヘルガとデニムは手を振り足を振り百面相をし‥‥ジェスチャーで用件を伝えようと悪戦苦闘!!

 ──ぽむ。

 意味を理解したらしいアースソウルはぴょこんと飛び上がり、とてとてとてっと倒木の裏へ走りこむ。
 すると‥‥倒木の陰に、よく似た草の合間に、その薬草が生えていた。
「こちらにもありますわ!」
 アミィが声を上げる。その泉の周辺にある日陰にはちらほらと目的の薬草が生えていたのだ。
「どうもありがとうございます‥‥!」
 デニムとレイ、そして仲間たちが頭を下げると、にっこり笑ったアースソウルはその姿を消した。
「ローサさん、先行をお願いしても宜しいでしょうか?」
 セブンリーグブーツを取り出したフィニィと仲間たちに乞われ、任せて! とローサは駆け出した!!
「あら、見つかったんですね」
 ローサの足音が聞こえなくなる頃、ようやく戻った城戸にデニムが尋ねた。
「どちらに行かれていたのですか?」
「モンスター退治ですが? ‥‥いえ、退治はしていませんけれど」
 傷を負い今にも倒れこみそうなほど疲労を蓄積した城戸が嘘をついているとも思えず二人の騎士が様子を見に行くと‥‥歌に惹かれて集まってしまったのだろう、3匹のジャイアントアント、数匹のグランドスパイダ、兎や鹿などが穏やかな寝息を立てていた。
「‥‥春花の術ですか‥‥流石ですね」
 命を奪わず、命を救う。
 共存できればそれが一番良いことなのだと、アースソウルは伝えたかったのかもしれない。