【生命の輝跡】古城の嘆き

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 2 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜08月31日

リプレイ公開日:2005年09月04日

●オープニング

 古い城があった。その城には、今もまだ『領主』と呼ばれる人が住んでいて。
 その人は臥せっていたけれど、決して人の出入りが途絶えることはなかった。
 けれど、その古い城だけは、その変化を如実に感じ取っていたに違いない──その内に巣食う者たちの変化を。

 その日は──激しい雨が、降っていた。
 雷鳴が轟き、雷が落ちる。
「いや、止めて‥‥止めてぇぇ!! いや!! ‥‥きゃあああああっっ!!」
 ──ゴロゴロゴロ‥‥ドォォォン!!
 悲鳴をかき消すように、全てを洗い流すように。

 そして雨が上がった古城の中庭には‥‥
 ‥‥女性の遺体が、無残な姿を晒していた。


「‥‥ヴィル、この期に及んで調査はしないなんて、冗談ですわね?」
「調査はしないよ、フィリーネ。どんな調査をしようと、仮に犯人がみつかろうと‥‥死んだ者はもどらないのだから」
 驚愕に目を見開き、思わず声を荒げるフィリーネ。冒険者たちが去ってから約半月、クレメンス・ランカッツァーが調合した薬がよほどしっかりしたものだったのだろう、ヴィルヘルムはみるみる回復し血色も良くなっていた。
 まだベッドに伏していることは多かったが、明らかに健康を取り戻しつつある領主ヴィルヘルムは──自分たちの住む場所で、自分たちのために働いている使用人が死んだというのに、腰をあげようとはしなかった。
 これで何人目だろうか‥‥4日おきに振るわれる凶刃は、確実に人の命を奪っていく。
 失われた命は戻らない、それは判っていても‥‥犯人を見つけるのは当然の話で、ましてや領主という統治する立場であれば犯罪者を野放しにすることなどあってはならないこと。
 フィリーネは「調査はしない」などと世迷言を口にするヴィルヘルムを信じられず、最愛の夫の顔をじっと見つめた。
 ──男性として、夫として、領主として、敬意と愛情を抱ける高潔な人物であるはずなのに。
「フィリーネ、君が何と言おうと‥‥調査はしない、これは決定だ。そんなことで心を病まないでくれ」
 ‥‥抱き寄せる。そして唇を重ねようとするヴィルヘルムの腕の中で、フィリーネはそっと顔を背けた。
 妻の髪にそっとキスをするその優しさは、その温もりは、その仕草は‥‥何ら変わりはなくて。
「おやすみ、良い夢を」
 火の入っていない暖炉の前に一人残された妻は、燭台の灯りに背を向けた。

 ──零れる涙を隠すように‥‥

 そして、フィリーネは『尽力いただいた方にお礼をするのは礼儀ですもの』と主張し、関係する冒険者を招待することにしたのだった。

●今回の参加者

 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6572 アカベラス・シャルト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0631 ヘルガ・アデナウアー(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●古き城、その主
「遠いところを、ようこそいらしてくださいました。先日は夫のために危険な仕事をありがとうございます」
 シュティール領の要となるのは古城にて冒険者を歓待するのは領主夫人のフィリーネ。
「ほっほっほ! 気にしなくてよろしくてよ!」
 頬に手を添え、高飛車に笑うアミィ・エル(ea6592)。高飛車かつ優雅‥‥アミィにしかなし得ない技であろう。
「あの、アミィ様‥‥フィリーネ様は領主夫人、貴族様ですよ。少々失礼ではないでしょうか?」
「あら、招かれたのはわたくしたちよ? 媚び諂うのは却って失礼ではなくって?」
 慌てた城戸烽火(ea5601)の言葉に、自信を持ってぴしゃりと言い切るアミィ。そんなものなのだろうか、と耳がきちんと隠れていることを確認しながらフィニィ・フォルテン(ea9114)は何か引っかかるものを感じつつも頷いてしまった。
 ローサ・アルヴィート(ea5766)は着慣れぬ礼服に身を包み、作法やら振る舞いやらばかりが気になってしまって、振舞われる食事もあまり喉を通らない。
「夫は未だ顔をお見せできる状態ではないと申しまして‥‥申し訳ありません。わたくしの前では、そんなに緊張なさらなくて結構ですわ」
 ローサの緊張を見て苦笑しつつ、フィリーネはこの日のために用意させたイルカ肉のプディングを切り分けさせる。
 奥様に恥をかかせるわけにはいきません、と育ちの良さを上品な面持ちに滲ませるアカベラス・シャルト(ea6572)は肩肘を張ることもなく優雅に切り分けられた料理を口にし、舌鼓を打つ。同じく貴族によってこのような場に招かれた経験を持つシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)とヘルガ・アデナウアー(eb0631)も、さほど緊張はしていない様子である。
「このような場にお招きいただいたお礼に、拙いですけれど、ご領主様に一曲お送りさせていただきますね。一日も早く、お元気な姿を拝見できますように」

♪病に伏せる 領主有り
 命つなぎし 友の技
 薬いつしか 尽きかけて
 願を聞きし 者達は
 薬草もとめ 森へ行く
 精霊住まう 森へ行く♪

 歌い手として一流の技量を持つフィニィ。デニム・シュタインバーグ(eb0346)もレイ・ミュラー(ez1024)も、心を癒す優しいその旋律へ目を閉じて聞き入った。
 寝室から姿を見せぬヴィルヘルムの耳にもこの旋律が届くように、そして少しでも早く病が回復するように、フィニィは祈りを込めて歌い続ける‥‥


●古き城、その謎
 城戸、シャフルナーズは領主夫人フィリーネと共に執務室で声を潜めていた。
「犯行時刻や被害者に共通することはありませんか」
 尋ねられたフィリーネは首を振った。
「夜だったり、昼間だったり、様々なのですわ。共通するのは、激しい雨の降っている日‥‥それくらいでしょうか」
 被害者に共通する点といえばシュティール領の出身であることだが、それはこの屋敷に仕える全ての者がシュティール領で生まれ育った者である為、共通事項とは呼べまい。
「侍女であったり、騎士であってり‥‥共通するのは刃物での切傷、ということでしょうか」
「刃物‥‥武器ということでしょうか。騎士以外では、武器を使う人はいないのですか?」
「ヴィルヘルムは嗜みとして剣を扱うことができますわ。それから、一部の侍女も武器を扱う訓練をしておりますわね」
 城内には剣だけではなく、魔法を嗜む者もいる。それは領主を‥‥ひいてはシュティール領を守るためにとそれぞれが率先して学んでいるものなのだという。
「犯行のある場所は、やっぱり中庭が多いの?」
「そうですわ。最近では庭師も足を踏み入れるのを嫌ってしまって‥‥事態に収集がつくまで無理強いするのも酷ですし、お陰で中庭は荒れ放題ですわ」
 中庭が荒れることで犯行が止まれば万々歳なのだが、そうは問屋が卸さない。何故か自ら進んで足を踏み入れる者が後を絶たず、凶刃は振るわれ続けている。
 領主へ忠誠を誓った騎士たち、身を粉にして使える侍女たち、その誠意を、忠誠を弄ぶような事態に何故賢明さを謳われたヴィルヘルム・シュティールが腰を上げないのか‥‥
「‥‥‥」
 二人の冒険者は顔を見合わせた。
 ‥‥そして、ふと湧いた可能性を否定するかのように首を振った。

「レイ君、大丈夫かなぁ」
 ローサがぽつりと呟く。こんな時だからこそしっかり支えて差し上げるつもりです、と笑顔で行っていたレイ。けれど内心は相当複雑に違いない。
「まぁレイ君のことはレイ君に任せるとして、あたしはあたしの仕事よね。レンジャーらしく何かの痕跡探し!」
 ぐっと拳を握ったローサは中庭にいた。空を厚く覆う雲のカーテンからは水滴が降り注ぎ、全てを洗い流すかのように中庭をも満たしていた。
 血痕などは激しい雨に打たれ流されてしまったのだろう、既に残っては居ない。
「むー‥でも諦めたら終わりだもんね、気合い入れないとっ」
 前回の犯行から4日‥‥つまり今晩が数度目の凶刃の振るわれるであろう日だった。


●古き城、その従者
 アカベラスは、先代より領主に仕えるという老執事と相対していた。
「ヴィルヘルム卿の御回復の兆しが見られたというのに、何故奥方様はあんなに暗い顔をなさっているのか‥‥」
「奥様には、領主代理としての公務があらせられますから‥‥それが負担になっているのでございましょう」
 一線を画す穏やかながらも淡々とした物腰を崩さずに、老執事はアカベラスへの答えを返す。
「そうですか‥‥ではクレメンス氏はどうなされたのでしょうか? 持ち直しているとはいえまだ半月、快癒とは程遠いでしょうし」
「アカベラス様はご存知ありませんか。ヴィルヘルム様は生来病を患っておりまして、快癒することはございません。お生まれになった時、医師が判断した命の刻限はとうに過ぎておられます」
 クレメンスは病弱なヴィルヘルムの体が限界を迎えていることを知っている。知っていて、少しでも生を引き伸ばすべく薬を調合しているのだ。自分に出来ることは薬を調合することだけ、あとはヴィルヘルムの行きようという意思だけが全てと知っているからこそ、薬を置いて旅に出る。
「ここ半月のお元気な様子が、私めにとっては寧ろ不思議なほどでございます。‥‥このまま蝕む病が消滅するのであれば、それが一番喜ばしいことでございますね」
 元気な領主を不思議だなどと言った言葉を掻き消すように笑顔を浮かべ、老執事は失礼いたします、とアカベラスの前を去った。

「何か、歌の題材になりそうな事をご存じないですか?」
 フィニィとアミィは使用人や侍女をターゲットに情報収集に励んでいた。
「歌の題材になるような華やかなことは‥‥」
 瞳を曇らせる侍女を見逃すアミィではなく。
「華やかなことがないなど、寂しいばかりですわね。気が晴れるのでしたら、どうぞお話しになって? わたくしこれでも口は固い方ですのよ」
 にっこりと微笑むのも話術の一つ。言葉を弄することだけが話術ではない。
「‥‥数日おきに、殺人事件が起きているのです‥‥領主様や奥方様の身に何か起きたらと思うと‥‥」
「ご自分の安全より、領主様や奥方様の安全の方が重要なのですか?」
 フィニィが穏やかに聞き返すと、当然だとばかりに頷く侍女。
「もちろん、怖いです。友人や仲間が死んだ場所になんて近寄りたくもありません! けれど‥‥領主様たちに何か起きることの方が、もっとずっと怖いです」
「貴女だけではなくて、この城の使用人や騎士は皆そう思っているのかしら?」
「賢君と名高いヴィルヘルム様は私たちの誇りですから」
 我が事のように胸を張る侍女。
 こんな侍女が欲しいと思ったアミィと、その心に打たれたフィニィがこの侍女と言葉を交わしたのは‥‥これが最後だった。


●古き城、その夜
 地面を濡らしていた雨は、夜を迎えるころには叩き付けるような激しさを孕ませた。
 凶刃を恐れ誰も立ち入らない中庭に男性のものと思われる足跡があった‥‥とローサからの報告を受けたヘルガは、中庭の隅に身を潜ませていた。中庭を見下ろせる場所に仲間たちもいるはずだが、灯りを灯すわけにもいかず、中庭は闇と豪雨に覆われ‥‥ただただ闇だけが支配する空間を織り成していた。
「うぅ、ベッドが恋しくなるわね‥‥風邪ひいたらレイさん、少しは心配してくれるかしら」
 油を染み込ませた毛布に身を包んでいるものの、ヘルガの小柄な体を打ち付ける雨は様子を伺うために開けてある顔から、僅かに覗かせている腕から、白い肌や金の髪を伝って毛布の内側へと侵入を試みる。
 足元の水はけは多少良くしてあるものの、それは雨足を弱める役に立ってくれるものではない。
 そして、ヘルガの熱をじわりじわりと奪うのは雨だけではなかった──数時間前の記憶、それもヘルガの心を凍えさせていた。
「それなら、二人のアリバイをお互いに主張できるでしょ? それとも、お芝居でもあたしと一緒だったなんて‥‥嫌かしら?」
 万一の時は、一緒にいたことにして欲しい‥‥そう望むヘルガへ、レイは首を振った。
「すみません、私はフィリーネ様の身辺警護をさせていただくので、そのアリバイに協力はできません。それに‥‥いつか貴女に人生を共に歩む人が現れた時、私と一晩共に過ごした‥‥そんな過去は、お芝居であっても後悔するものにしかならないと思いますよ」
 優しく、金の髪を撫でたレイ。その言葉はヘルガの想いを優しく、けれどはっきりと拒絶するものだった──ヘルガと人生を歩むのは自分ではないのだと。
 優しい微笑みは、兄が妹を見守る眼差しに似ていて‥‥頬を伝うものが雨なのか涙なのかそれとも何か他のものなのか、もう、自分では判らない。
「レイさん‥‥」

 止めてください、止め‥‥──キャアアアア!!

「!?」
 激しすぎる雨音に紛れた足音に気付いたときは既に遅かった。
 けれど甲高く響く悲鳴は断末魔の叫びとなり古城を伝わり冒険者たちの耳へと届いた! 耳にした者たちは手すりを乗り越えんばかりに身を乗り出して中庭へと目を凝らし、耳を澄ます!!

 ヘルガの目の前で、一人の侍女がその命の灯火をかき消された‥‥。

 ──ゴロゴロゴロ‥‥ドォォォン!!

 落雷が放つ雷光が、闇に紛れ凶刃を振るう悪漢の姿を豪雨の向こうに映し出した。
「‥‥そんな‥‥」
 ある種、冒険者たちの予想は裏切られることはなかった──と言っても良いだろうか。
 落雷が映し出したのは、夜着を纏う、領主ヴィルヘルム・シュティールの姿だった‥‥


●古き城、その地下
 遠くから雨の音が聞こえる。
 古城を守る騎士たちに話を聞きながら、デニムは古城を歩いていた。領主の居室など、近寄ることの許されない部屋は多かったが、それでも多くの場所を歩いた。
 ──それは実際に領主婦人フィリーネがデニムへとその許可を与えたからである。
「それにしても‥‥警備の皆さんは口が堅いですね」
 暗い回廊に漏らした溜息が響く。事件のことが聞けたならフィリーネからの依頼を伏せたままで関わろうと思っていたデニムだったのだが、シュティールに使える騎士たちは総じて口が堅く、言うなれば騎士として行き届いた者たちだった。それ自体は悪いことではなく、寧ろ褒めるべき事なのだが、彼にとって大きな誤算であったことに違いは無い。
「ここにも何も無かったのなら、残るは領主様の部屋ですか‥‥ヒントになるもの、見つけたい所ですね」
 遠くから落雷の轟音が雷光が微かに届く。
 この回廊は地下へと続く回廊。過去に牢と呼ばれていたものがあるらしく、騎士たちも警邏で訪れる以外に許可無く立ち入ることはないのだという。
 ──燭台の灯りを頼りに、湿った空気の中を地下へと下っていく。
 そして階段が途切れ、平らな床が彼を迎えた。
「‥‥うーん。やっぱり何も無いのでしょうか‥‥」
 広い城内とは違い、圧迫感を感じさせる地下。コツコツと自分の足音だけが響く。
 灯りを取り入れるための小さな窓があるらしく、時おり雷鳴と雷光が閉じられた空間を切り裂いて、胸の詰まるような空間の中、デニムに瞬間の安堵を与える。
「──あっ!」
 数度目の雷光に気を取られたデニム、石と石が織り成す小さな段差へ躓いた! 咄嗟に手を伸ばした石壁、その石が体重を受けてズズッと沈みこむ!
「隠し通路?」
 確かに城には主が逃走するための通路が隠されていることは多いというが‥‥こんな所に?
 有り余る時間を持て余す背徳の少年騎士は、石の沈み込んだ壁を入念に調べ‥‥やがて彼が屈んで通れる程の小さな通路を見つけ出した。
「──どういう、ことですか‥‥」

 そこには、氷の棺に囚われた男性‥‥古城の主たるヴィルヘルム・シュティールの姿があった。

●古き城、その闇
「‥‥ヴィルが? そんな馬鹿な‥‥」
 デニムの報告を聞いたフィリーネは眉間に小さな皺を作った。それでは、今伏せっている領主ヴィルヘルム・シュティールは何だというのだろう。
「けれど‥‥夫が犯人だと言うのなら、領主であろうとも‥‥罪を犯した者として捕らえねばなりません」
 真実は、フィリーネの細い神経を圧迫した。ふらりと倒れそうになる奥方を、レイがそっと支える。
「これ以上滞在していただくと、夫が疑念を抱いてしまいます。一度パリにお戻りください」
「でも、それじゃフィリーネさんが」
 シャフルナーズが不安の声を漏らす。領主の凶刃が奥方へ向かないという保障はどこにも無いのだ。
「大丈夫ですわ。まだ命を預けてくれる騎士たちもおりますし、私のことは案じないで下さいませ。それよりも‥‥パリでこのことを調査していただけませんでしょうか。デニム様が見た地下の夫が真の夫であれば、今いる領主は偽者‥‥姿を映すなどということができるものかどうか‥‥」
「ほっほっほ! 調べるなど、造作もないことですわ。安心してお任せになっていただいて結構ですわ」
「けれど、ヴィルヘルム卿の姿を模している者が何者であれ、調べたことを奥方様へ伝えることが出来ないのもまた事実です。どのようにすれば‥‥」
 小声で、けれどしっかりとトレードマークの高笑いを忘れないアミィ。彼女の主張を否定することなく頷き、アカベラスは奥方フィリーネへ指示を仰ぐ。
「数日後、わたくしからギルドを通して依頼という形で連絡いたしますわ。それまでに一つでも多くの事を調べてくださいませ」
 フィリーネの言葉に、城戸は小さく頷いた。
 それまでに調べろ‥‥つまり、次に訪れた際には偽の領主を捕らえ、それが人でなかった場合は殺害し、古城へ平穏を取り戻すということ。
「私たちが、クレメンスさんが助けたのは‥‥本物の領主様だったのでしょうか‥‥それとも、あの後で入れ替わったのでしょうか‥」
 フィニィの呟きは、轟いた雷鳴に打ち消された。

 激しい雨には、まるで涙を流しているように、古城のその輪郭を伝い堕ちていく‥‥

●ピンナップ

フィニィ・フォルテン(ea9114


PCシングルピンナップ
Illusted by 彩瀬カノン