【異国の忍】帰郷
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■シリーズシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:12人
サポート参加人数:7人
冒険期間:01月05日〜01月20日
リプレイ公開日:2006年01月20日
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●オープニング
●パリ某所──雛菊の部屋
そういえば、あの時のGを退治していない。
雛菊は、ふとそんなことを思い出してしまいました。
●ノルマン王国パリ──冒険者ギルド
冒険者ギルドのカウンターによいしょっと背伸びをした雛菊さんがぶら下がって──いいえ、しがみ付いていす。相手をしているのは、例の如く、エルフのギルド員リュナーティア・アイヴァンです。
「雛のひなちゃんと一緒にGさんたちをめってしてほしいなのよー」
「新年早々そんな依頼では、皆さん嫌がられるのではないですか?」
苦笑を浮かべたリュナーティアに、雛菊さんはしょんぼりとしてしまいました。
大きな目がうるりと揺らいで、リュナーティアはびっくりしてしまいました。
「でも、雛、今度の月道で帰らないといけないなの〜‥‥だから、もう、時間がないなのよぅ」
その言葉に二度びっくり。確かに冒険者はあちこちに移動しますが‥‥雛菊がいなくなることなんて考えてもみなかったのです。
話を聞くと、兄様からのシフール便が届き、急遽ジャパンに帰ることになってしまったようでした。リュナーティアは知りませんが、帰れるということは、きっと、雛菊の『お仕事』は終了したのでしょう。
「そうですか‥‥それでは、急いで退治しなくてはなりませんね」
(「やり残したまま帰ったら戻ってきてくれたりしないでしょうか‥‥」)
そんなことを思ってしまったリュナーティアを咎める人はいません。思っただけですものね。
「そうなのー。おうちに帰る前にめってしてこなくっちゃたぁいへんなのよねー」
ノルマン国内ではあちこちで雪が降っています。あの時の廃墟にも雪が積もっているでしょう。
きっとあのGたちもどこかに隠れているに違いありません。寒さで動きの鈍った今なら、ちまたちでも退治できるはずです!! ‥‥多分‥‥きっと。
「それでは、一緒に行く冒険者を探してみましょう」
「あとね〜‥‥」
こっそりと口を開いた雛菊は、寄せられたリュナーティアの長い耳に囁きました。
「雛、一人でおうち帰るの寂しいなの。途中まで一緒に行ってほしいなのね〜‥‥」
リュナーティアは難しいかもしれない、と思いました。月道を使うにはとてもとても沢山のお金が必要だからです。小さな雛菊には、とてもそんなお金を払えないでしょう。そんなに懐の温かい冒険者も多くありません。
でも、そんなことは口にしませんでした。
「わかりました、探してみますね」
寂しいけれど、それが雛菊のためにできる最後のことです。
ありがとなの、と満面の笑みを浮かべた雛菊は腕をずるっと滑らせひっくり返ってしまいました。
──ゴッ!!
慌てたリュナーティアも足を滑らせすっ転んでしまったのはご愛嬌です☆
●リプレイ本文
●何はともあれ‥‥
「雛ちゃん〜♪」
「桜花お姉ちゃん〜♪」
パリの寒空の下で、宮崎桜花(eb1052)さんが雛菊さん(ez1066)をぎゅっと抱きしめました。甘く蕩けた表情は、大好きな妹分の雛ちゃんが元気に生きている幸せを味わっているからでしょうか。雛ちゃんも負けずにぎゅっと抱きしめ、桜花さんにすりすりと頬っぺを摺り寄せました。
「雛菊様‥‥」
けれど幸せいっぱいな雛ちゃんは寂しそうなユキ・ヤツシロ(ea9342)さんに気付き、桜花さんに縋るようにますますぎゅっと抱きつきました。ひょんなところで出会った時、雛ちゃんともっと親しくなりたいその一心でユキさんはハーフエルフであることを告げたのです。
「ユキ‥‥雛菊‥‥」
小さく胸を痛め王娘(ea8989)さんが視線を落としました。どちらの気持ちも苦しいほどに理解できるのでしょう。ハーフエルフながらに友人の地位をゲットした娘さんですが、ジャパンの小さな友人が心を開いてくれるまでの紆余曲折‥‥命を賭した事実。雛ちゃんの心が一朝一夕で解けないことは誰より骨身に染みている娘さんなのです。
「確か、Gを退治する前にちまを作らないといけないのでしたね」
「私もできれば作ってみたいですね‥‥とはいっても、家事全般あまり自信はありませんが」
確かに、エルリック・キスリング(ea2037)さんもレナーテ・シュルツ(eb3837)さんも、お裁縫にはあまり縁がなさそうな手をしているようです。いかつい顔のエルフさんがニヤリと口元を歪めました。多分、にっこりと微笑んだのだと思います。
「私で良ければ御教授しよう。といっても、ちまを作るのは初めてなのだが‥‥」
「あれぇ? ヴィクトルおじちゃんはちま持ってなかったなのー?」
「ああ、そうだ。折角だから作ってみることにするかな」
雛ちゃんが素っ頓狂な声をあげました。ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)さんは自分の容姿はちまにそぐわない、となんだか酷くネガティブな理由でちまを作っていなかったのです。
「わ〜いなの〜♪」
意を決して作るちま、けれど準備したその布はみんなの布より大きい様子。奥方リュシエンヌ・アルビレオさんのちまより一回り大きなちまを作りたいのです。けれどちままは他のみんなのちまより一回り大きいサイズ。ヴィクトルさんのちまはちまと呼び辛いサイズになってしまっていますが、エチゴヤ印のお姉さん‥‥もとい、エチゴヤエプロンのフェリーナ・フェタ(ea5066)さんはぐっと堪えました。怖い顔だからって神経が図太いとは限りません。傷付けたくはありませんものね。
「リュナーティアさんも非番でしたら是非ご一緒したかったのですけれど‥‥」
エルフのギルド員、リュナーティア・アイヴァンさんは今日もギルドのお仕事が忙しくて一緒にちま作りをする時間がなかったのです。残念そうに溜息を吐くフィニィ・フォルテン(ea9114)さんに、セフィナ・プランティエ(ea8539)さんがにっこりと笑いかけました。
「大丈夫ですわ。先日フィニィさんたちが雛菊様‥‥雛ちゃんを助けに行かれるのをお見送りした日、お見送りをした皆様と一緒にちまを作られたそうです」
雛ちゃん、と言い直したセフィナさんが懐から取り出したのはリュナーティアさんのちま人形。意外にちゃっかりしてるわね、と九重玉藻(ea3117)さんが肩を竦めました。嫌気が差したとか、呆れたとかではなくて、どちらかというと気に入ったみたいですが♪
「でも、あまり時間がありませんね。‥‥Gは強敵ですし、スケジュールを確認しながら早めに出発しましょう」
ヴィクトルさんと同じくらいにすっかり保護者が板についてしまったウェルナー・シドラドム(eb0342)さん、予定をしっかり皆の頭に刷り込みます。元気いっぱいに返事をする友人たちへ、よくできました、と爽やかに微笑んだウェルナーさん、皆の向こうからじーっとこっちを見ている視線に気付きました。
「うるさかったでしょうか‥‥すみません」
「あ‥‥いえ、ジャパンに行くというような話が聞こえたもので」
じーっと見ていたことに漸く気付き、そのお姉さんは朝霧桔梗(ea1169)と名乗りました。
「よろしければ、ご一緒させていただけないでしょうか」
「構いませんよ。ジャパン人の方なら雛菊さんも馴染みやすいでしょうしね」
そんなこんなで──雛ちゃんと1ダースの雛ちゃんマニアさんたちの大移動が始まったのです♪
●いざ神妙に‥‥
レーヌを抱き抱えてエルドールの鋭い目に怯えながら、スキムファクシに跨り、シュトルムと戯れ、フィンと一緒に歌を聞き、エルネストから転がり落ちそうになった雛ちゃんは最終的にはトゥルーグローリー号の鞍に縛り付けられそうな勢いで座らされたのでした。
「エルリックお兄ちゃん、雛ちゃんが落ちないように気をつけてくださいね?」
信頼できる人に預けることすら不安だと全身から漂わせる桜花さんに神妙な顔で頷いてトゥルーグローリー号の馬上でしっかりと手綱を握りました。はらはらとしっぱなしの桜花さんがずっと馬から離れなかったのは言うまでもありません、だって雛ちゃんは抱かれていても縛られていても、きっと馬から落ちてしまうに違いありませんから。
♪ち〜ま〜 ちまちま ちまっちま♪
フィニィさんの歌声に合わせて皆で合唱しながら夜を越すと、やがて廃墟がその姿を現しました。
「難易度は高いが、やりとげるしかない。皆、油断するなよ‥‥」
仲間を振り返った怖い顔のおじちゃんがチャキッ☆ っと取り出したのは、だでぃ〜ちまです。そのギャップに誰かがクスッと笑いました。何だかパパさん、かわいい♪
◆
まずはGを退治する‥‥前に、敵を探さなくてはいけません。
「‥‥私がやろう」
もぞもぞと何かを準備していた娘さんがそう言って取り出したのはマジカル☆にゃんにゃん、略してマジにゃん!!
「私に任せて! にゃんにゃんらいらい〜魔法の煙! マジカル☆スモーク!!」
火打石をつけたステッキで油を撒いた生の葉や木を燃やし燻り出しにチャレンジです。
「あれ? あれ〜?」
だけどなかなか火がつきません。だって、火打石を使うのは大きい人たちくらいの力とコツが必要なのです。マジにゃんにはちょっと難しかったみたい?
「失敗しちゃったねぇ」
ふぇりーなちゃんがちょっと寂しそうに言いました。マジにゃんの魔法が見たかったのです。
「それでは、台所を探してみましょう」
「‥‥怖いのですか?」
そう言ったせふぃなちゃんに手を握られていた鉢巻ちまのおうかちゃんがそう聞くとせふぃなちゃんはブンブンと凄い勢いで首を振りました。
「こ、怖くなんてありませんわっ」
「だいじょぶなのね〜」
ひなちゃんが反対側の手を握りました。皆がいればG探しも怖くないことでしょう。
しっかり罠もしかけて、あとは結果を待つばかり♪
「ちょっと休憩にしましょー」
折角の台所ですからって、休憩を提案したうぇるなー君が特別に暖かい料理を作ってくれました。
「ちま煮は嫌ですから、鍋に落ちないように気をつけてくださいね」
「は〜い! ‥‥あっ!?」
皆に注意を促した鍋に飛び込んだのは、他ならぬGでした!!
「きゃー!!!」
◆
「‥‥困った、戦闘能力なかった」
ふむ、と顎に手を当てて思索に耽る朝霧さんへ、だからちまを作れば良かったのに‥‥とちまに弓を持たせながらフェリーナさんが肩を落としました。G退治はちまたちのお仕事ですから、大きな人たちの出番はないのです。
「えーい!」
「今度こそ悪いG達をお仕置きですっ!」
マジにゃんが火打石をつけたステッキをくるくると振り回しながら応援します。
ふぇりーなちゃんが放った矢は一直線にGの元へ!! でもGの甲殻に弾かれてダメージを与えられません。もっとよく狙わないといけないようです。
「喰らえ! ──ブラックホーリー!」
「光で彼方へふっ飛ばしましてよ! ──ホーリー!」
パパさんとせふぃなちゃんの魔法が鍋ごとGをふっ飛ばしました!
「ふむ‥‥相手がGならば情けは無用ですね」
そう言った次の瞬間、翻ったメイスがGへ襲い掛かりました!!
「あーっ!」
止める間もありませんでした。GのGたる所以の1つであるスピードが寒さで皆無になっていますから、数匹のGが勢い良く『ぐちゃっ!』とも『ぬちゃっ!』ともつかない音を立てて鍋ごとメイスに叩き潰されました。
恐る恐る振り返ったおうかちゃんの視線の先で、ぷぅっと膨れるひなちゃん‥‥理由を察したえるりっく君が、果物フォークで作ったちまGパニッシャーをトドメに突き立てました!
「駄目ですよ、ちまで攻撃しないと」
──本当は、その振りをしながらエルリックさんがGパニッシャーで息の根を止めたのですけれど★
自分と同じ戦法のえるりっく君にその場を任せて、うぇるなー君は剣と盾を手に皆の背後を守ります──それを見たえるりっく君はちょっと悔しそう。時間が足りなくて盾を作れなかったのです。
でも、目を転じれば暖かい日と食べ物の匂いに釣られてぞろりぞろりとGたちが集まってきます──その数、ざっと30匹は下りません。
「1匹見たら30匹はいると思え──主夫の格言だ」
呟いたパパさんの言葉は、果たして本当なのでしょうか?
◆
「いらっしゃい、エリザベスッ! ‥‥じゃなかった、ちまベザスッ!!」
有象無象のGを前に、たまちゃんが頼りになる援軍の大がま、ちまベザスを召喚しました!!
たくさん準備したちま手裏剣と、それからちまベザスの針の舌が、Gをどんどん退治していきます。
♪Gなんてこわくない だってみんながいっしょだから
Gなんてこわくない ちからをあわせてがんばろう
Gなんてこわくない だいじょうぶきっとうまくいくよ♪
フェアリーベルを妖精の歌声のように響かせながら、ふぃにぃちゃんは一生懸命応援です。どっちかというとベルを振る方に一生懸命なのは大きさに悩まされるちまの宿命でしょう。
でも、メロディで歌に込められた想いは、皆に勇気を分けてくれました。
「今度こそ! えーいっ!!」
よーく狙ったふぇりーなちゃんの矢が、Gの節に次々と突き刺さります!
ゆきちゃんのコアギュレイトと沢山の矢で手負いになったGへ、うぇるなー君がとどめを刺しました。
「手負いのGは危険です、気をつけてください!」
「ひなちゃん、危なーいっ!」
「やーなのー!!」
言ってる先からひなちゃんへ襲い掛かるGを裁縫セットの針で作ったレイピアを振るうおうかちゃんが仕留めました! 襲い掛かるGは油壷の木蓋の盾で防ぎます。
「天誅ーっ☆」
叫びながらせふぃなちゃんが布製の十字架よりもっと大きな木製の十字架でベチンッ!! とGを潰しました!
「コアギュレイト──マジにゃん姉様、今です‥‥!」
「オッケー☆ にゃんにゃんらいらい不思議な力〜悪いG達をお仕置きですっ」
と取り出したスコップでGを叩く必殺技のマジカル☆プレッシャー!!
動きを止められたGがペッタンコになりました。
──カサカサッ
「メッ! なのよー」
ひなちゃんが、ふぇりーなちゃんからもらった簪で出てきたGを貫きました。ぴくぴくと痙攣するGの息の根をパパさんがこっそりデスで止めました。
そして見回せば、もう動くGは残っていません。
「やったあ!!」
ちまたちから上がった勝鬨、でもうぉおー!! なんて無粋なのはちまっぽくありません。
自分のちまの小さな手と、隣のちまの小さな手でハイタッチ♪
「ちまっと〜☆」
◆
形の残ったGを木の枝と月道利用チケットで何とか持ち上げ、お墓を作って祈りました。
「例え敵でも供養しないと‥‥化けて出るかもですわ」
ユキさんの言葉に皆は心の底からブルブルっと震え上がりました。
──夜な夜なGズゥンビやGレイスやスケルトンGに安眠を妨害されるなんて恐ろしすぎるっ!!
「あまり時間がありませんよ」
「そうですね、ウェルナーさん」
Gが天に召されることを心の底からお祈りして、船までの時間を口実に、逃げるようにパリへと戻るのでした。
●そして、出立のときへ‥‥
何とか無事にGを退治した皆がパリへ戻ってきたのは船が出港する2時間前、ぎりぎりでした。
「ローサお姉ちゃんは〜?」
見送りの中に友人ローサ・アルヴィートさんの姿が無いことに気付き、雛ちゃんが口を尖らせました。
「都合が悪くて来られない。ローサはそう言っていただろう、もう忘れてしまったのか?」
不服そうな雛ちゃんを周りが良く見えるように肩に乗せ、ヴィクトルさんは宥めるようにそう言いました。
「そっかぁ〜‥‥」
『大丈夫、また会え‥‥ううん、会いに行くから待っててね』
頬を摺り寄せて不慣れなジャパン語でそう言ったローサさんを思い出して、雛ちゃんも納得した模様。
もうじき冒険者を引退するのだと言っていたウェルナーさんの友人、クオン・レイウイングさん。
健康と安全を祈りながら、道中で食べなさいねと奮発して作ったサブレを持たせてくれたリュシエンヌさん
困っていると話を聞いてくれたギルド員のリュナーティアさんと、花屋のドナ・ウェイスさん。
仲良くちまを作って遊んだ沢山の友人たち。
一緒に年を越した冒険者のお兄さんやお姉さんたち。
フィリーネ・シュティールさんの暗殺には失敗してしまったけれど‥‥雛ちゃんはノルマン王国のパリでいろんなことを学び、そして沢山の大切なものを得ました。
冒険者のお兄さんやお姉さんたちは旅をするのが宿命だと言います。ひとつ所に留まっていられないのだと笑う人も沢山います。けれど雛ちゃんは、戻ってこられるかどうかも解りません。
──ボー‥‥
パリの街はいつもと変わらぬ表情のパリの街に、角笛が鳴り響いて──‥‥
(「‥‥私はこれから父様の生まれた国に行きます、今までありがとう さようなら。父様、母様、行ってきます‥‥」)
「パリか‥‥いい所だな」
間近に迫った出立の刻を感じながら静かに感謝するユキさんの隣で、娘さんが小さく微笑みました。
今日も、そこに住むギルド員さんはいつものように依頼書を掲示し、花屋のお姉さんはいつものように恋をして、酒場のウェイトレスさんは銀のトレイを投げているのでしょう。
「雛菊‥‥ジャパンはいい所か?」
「もちろ──‥‥‥‥ひっく」
堪えきれず雛ちゃんは泣き出しました。
吟遊詩人さんは、世界は沢山の出会いと別れで構成されているのだと歌います。
この悲しみを乗り越えて、雛ちゃんはきっとひと回りもふた回りも大きく成長してくれることでしょう。
雛ちゃんが、強く優しく正しく素敵な女性に育ってくれますように――‥‥
泣きじゃくる声と、見守りながら祈る冒険者を乗せて。
次第に小さくなっていく‥‥けれど変わることのない花の都へ背を向け、新たな旅へと船は動いて行くのでした。