イギリス『二丁目』のママ伝説 その壱
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■シリーズシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月16日〜11月21日
リプレイ公開日:2004年11月24日
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●オープニング
「足りない。人手が足りない」
一見和風美人の彼女の名は『虎夢』。
生物学上の性別はれっきとした男性だ。
もちろん中身も男性だ。そんじょそこらの男性達より男前(紳士的)にも関わらず、なんでジャパンの女物衣装を着ているかというと、実は彼が仲間と共に経営する居酒屋の一風変わった趣向によるもので、断じて変態のたぐいではない。
ジャパン生まれの虎夢さんが経営するジャパン風味の居酒屋、その名も『NICYO―ME』。
ジャパン表記『二丁目』という酒場で、店員の男性達が女装をはじめとして異国の衣装をまとい、男女問わず店に訪れたお客を楽しませつつ紳士的にもてなすというような役割を果たしている。まあ要するに物珍しい酒場と言うことで一部のお客さんに人気なのだ。
と、その一部で人気の酒場『二丁目』。
実は流行風邪で従業員が高熱に倒れるという事態が続出していた。店を経営している虎夢さんを始めとした店主的な役割にある人間は合計五人、それぞれ『ママ』という愛称でお客さん達に親しまれているが、皆さん趣味で店を経営しているため多忙も多忙。
というわけで。
虎夢さんは商売服の和装(女装)ではなく、きっちりとした男性服でギルドに現れた。その身のこなしといい、言葉遣いといい、文句なしの紳士。なのに女装して酒場を切り盛りしているわけだから世の中は不思議である。
「すみません。八人ほど店の従業員のアルバイトがほしいのですが、募集をお願いできますでしょうか? 従業員且つ用心棒です。たまに問題を起こすお客さんもいるもので。期間的には二、三ヶ月ですが‥‥人手が足りないときにきてもらうという形で‥‥」
かくして一風変わった酒場の従業員の募集がかけられた。
今回の退治相手は、毎度ながらの酔っぱらいオッサン三人。
巷の野党のような男達だが。
ただですむとは思えない、とはギルドのおっちゃん談である。
●リプレイ本文
「しまったぁー!」
キャメロットの珍妙な酒場『二丁目』の開店時間前である。雇われた冒険者達は思い思いの思惑で『ママ』を承諾。かくしてそれぞれ衣装持参で赴いた‥‥はずだったのだが。
「‥‥どうした‥‥団長」
袖に緻密な刺繍が施された長袖の上着にの上から、黒と金地のひとつなぎのスカートという異国の衣装を纏っていたシスイ・レイヤード(ea1314)は、雄叫びをあげた仲間をのぞき込む。ルカ・レッドロウ(ea0127)が荷物をひっくり返していた。
「超セクスィーな衣装を忘れちまったぁ!」
意気消沈。そこへ先ほどから姿の無かったヴァイン・ケイオード(ea7804)が戻ってきた。二丁目に来る途中、「これは費用を稼ぐ為なんだ、費用を稼ぐ為なんだ」と必死に自己暗示をかけていた男である。彼は衣装を持ってこなかったらしいのだが、何故か白い着物に赤い袴というジャパンの『巫女服』で登場してきた。
「虎夢ママさんがジャパン人だから貸してもらえた。どうだ? 弓使いに見えるか?」
見えるかってゆーか、巫女服ってゆーか。胸に詰め物してる時点でノリノリだ。
それをきいたルカは虎夢ママの所に走っていった。丁度入れ替わるようにして朱華玉(ea4756)が控え室に顔を出す。ずぼらな男性陣には「すね毛や脇毛もはよ剃ってこんかい」とビシバシ身だしなみチェックしていた華玉は本日化粧係兼バーテン役。
「何ぼさっとしてるのよ! もうじき開店だってゆーのに化粧おわんないじゃない。シスイ‥‥は化粧含めて女装済み、なのね。くぅ、さすが最強プリンセス」
感心する観点がちょっと違う。と、ヴァインは華玉の背後に隠れてる仲間を発見した。しかし暗くて顔も見えなけりゃ、姿も見えない。
「おまえの後ろ、誰だ?」
ヴァインの声に華玉はにたり、と笑みを浮かべる。
「よってらっしゃい、みてらっしゃい! あたしの傑作よってなわけで、ご覧あれ!」
ぐいっと物陰から引きずり出す。紅地に白梅柄の華国服。物陰に立っていたのは美姫に化けた天宵藍(ea4099)だった。イメージを言うなれば華国の貴妃、艶姫といったところ。
「‥‥化けたな」
「‥‥そうだな」
宵藍の顔の傷については化粧でごまかしきれないので髪で隠していた。扇で口元を隠した宵藍は色香と哀愁を漂わせつつも何処か遠くを眺めている。
「女装なぞ‥‥わしには縁遠いものと思っていたが、これも一つの修業。請負ったからには完璧を目指す! 売りは毒舌トーク! 言葉も『わらわ』に改め、媚びることなく尊大にしてナンバーワンの座に!」
結局こいつもノリノリだった。前途多難どころか出だし快調の様子だ。
「‥‥他は‥‥もう店か?」
「そうよー、シス‥‥『紫・闇・マ・マ』。リフィーナママも、黒耀ママも、サファイアママも、エレンママも、犬千代ママもみーんなお店に出てるわ。面白いわよ?」
華玉はにっこり笑う。この場にいない男性五人がどうなってるのか知らない三名は、化粧担当の華玉の笑みに一瞬色んな意味で寒気を感じた。噂の五人は誰かと言うと?
「どうも今晩は、リフィーナです、これからもよろしくお願いします」
水色のドレスを纏った小顔の青年。しなりしなりとした立ち振る舞いで礼儀正しくお客様に接しているのはラディス・レイオール(ea2698)その人だ。さぞ複雑な気分だろうが、仕事は仕事。にこにこ笑顔でお客のおっさんの相手にテキパキ酒をついだりと忙しい。
「いやぁ、かーわいいなぁ。本物の女の子なんじゃないかー?」
「またそんな、私はれっきとした男ですよ? あと犬千代ママも」
「お待たせしました、ご注文の品です〜♪」
犬千代ママこと不破真人。この二人はタッグを組んで接客中。所変わってサファイアママことサフィア・ラトグリフ(ea4600)と紫闇ママ(注:シスイ)、虎夢ママから浴衣を借りたマルコ・ゴールデンママ(注:ルカ)のテーブルはとみやると、サファイアママ(注:サフィア)の姿がない。どこに行っていたのかというと。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。ネイ様」
にっこり笑顔でお見送り。若いんだから生足勝負! とかいう発想の元、真っ白な上着にフリフリエプロン、スカートは膝上丈フレアととびっきりの愛らしい美少女と化していた。送り迎えも営業基本! ときっちりしている事が幸いしたのか、何故か『女性の常連客』をがっちりつかんだ模様である。
「親父‥‥オレは遠い異国の地で、こんなに‥‥立派にやってるよ‥‥」
哀愁にじませる橘瑛蓮ことエレンママはさておき、瑛蓮と真人に加え、もう一人お運びに専念している美人(注:男)の姿がある。双海一刃(ea3947)である。
一刃はというと、黒地に鮮やかな瑠璃色の蝶が飛ぶ柄の着物に、赤系帯と黄帯締め。帯揚げは薄い緑。重ね襟は薄い水色。草履は茶系。要するに清楚可憐な和服美人で接待と相成った。梅紅ママ(注:宵藍)とシェアムママ(注:ヴァイン)と一緒のテーブルだ。三人そろって黒髪のしっとり系美人が売り。
「お待たせ‥‥しました」
黒耀ママ(注:一刃)の白い首筋にこぼれる艶やかな黒髪。野郎どもはため息もんだ。
「依好、よくぞ参った。今宵はわらわが相手して遣わす」
梅紅ママ(注:宵藍)もノリに乗って気分は女帝。苦しくなったら華国語で誤魔化したりもしているようだが、いやはや、‥‥みんな天職なんじゃないか? と思ったのはさておき、それにしても店内はにぎやかだ。声がやまない。
「ハッハァ! いっちょ俺の武勇伝でも話してみようか、そう、あれはパーティの護衛をした時の‥‥」
「次のお酒は何にします? 帰られますか? ええお会計はこちら。お次ー! 紫闇ママご指名よ!」
「分かった‥‥今行く。ん、女装に抵抗ないかって? ふ‥‥いつものことだ」
「困ったことがあるなら吐き出してみた方がいいと思うんです。アドバイスならリフィーナにお任せください。是非ともリフィーナをあなたの支えに‥‥」
「あぁ、リフィーナママ。実は俺‥‥」
なんか怪しげな雰囲気も一部にあったりする。そんなに相談に乗って大丈夫かリフィーナママ(注:ラディス)。
「サファイアママー、ご指名ー!」
「はーい、ただいまぁ! ‥‥そーいや、年齢制限はいいんだろーか、この店」
「なんか俺、この状況に慣れた気がする」
‥‥その道を極め出そうとしている人が此処にも数名。新しいママが入ったと聞いてやってきた客も多いらしい。入り口の人の出入りは激しくなるばかりだ。と、そこへ荒々しく踏み込んできた男達が三人。噂に聞く酔っぱらいのようだ。虎夢ママが頷く。
全員の目が光った!
その時機転を利かせたバーテンの華玉が大声を出す。
「はーい、皆様ご注目! エキストラが到着したのでこれより虎夢ママの提案により新人ママ達の一発芸を披露するわ! シチュエーションはある日ある時酔っ払いに絡まれたらどーするかしら? ってなわけで一番手メーイホーンママ(注:宵藍)」
イベントに見せかけて派手に追い払うつもりらしい。
「Its a showtime! 10カウント頼もう」
なんと梅紅ママ(注:宵藍)は店内の客にカウントさせながらオーラショットをぶち込んだ! 派手に吹っ飛ばされる一名。やり過ぎたとばかりに「対勿起(ごめんなさい)」と言いながら小走りで近づき、本来の低い声で出ていけと凄む!
周りの客はイベントとしか思ってない!
さらにシェアムママ(注:ヴァイン)が弓で脅し、サファイアママ(注:サフィア)と紫闇(注:シスイ)及びリフィーナママ(注:ラディス)達が二組そろって笑顔で退去頂きますとばかりに一人を連れだし、黒耀ママ(注:一刃)は「お客様‥‥おやすみなさいませ」春花の術を放って眠らせた! ‥‥のはいいのだが、閉鎖された空間であるため近くの人間と自分まで眠ってしまった。
外に連れ出した四人が戻ってくると店半分の客とママ数名がぐーすか寝込んでいたという。
こうして数日間の騒ぎは嵐のように過ぎ去った。ただし、酔っ払い客だけに限らず派手に技をお見舞いした数名は虎夢ママに説教食らっていたようである。華玉に化粧をしてもらった人間が化粧代金と言う名の料金徴収(かつあげ?)にあったという話もきいたが、ひとまずは一件落着したっぽい。‥‥多分。