イギリス『二丁目』のママ伝説 その弐
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■シリーズシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2004年12月21日
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●オープニング
ちょっとおしゃれ且つ変わったお店、その名も『二丁目』。
大の大人、成人男性が美女になってもてなす変わったお店だ。
そのお店を経営するママ達はちょっとした問題に悩んでいた。というのもお店の常連さんが結婚したのである。これは祝ってやらねばなるまぃと騒いでいたママ数名。なんと新婚カップルは『二丁目』で小さなパーティをやりたいと言って来た。どうも身内だけで貸し切って騒ぎたいらしい。しかし人手が足りない。なにせ下っ端従業員は再び風邪をこじらせてしまったのだ。体調管理しようよ、皆さん。
「料理どうします、虎夢ママ」
虎夢ママに尋ねたのは色白で細身の男性だった。これでもかってくらい腰が細かった。彼の名前は『蘇芳ママ』。女性客にも男性客にも人気の華国出身青年であり『二丁目』主運営に携わる一人である。今は普通の男性服だが、商売服の華国服(やっぱり女物)を着ると虎夢ママと共に店を切り盛りする凄腕ママに変身する!
というのはさておいて。
ジャパン出身の虎夢ママは腕を組んで唸っていた。
「実は板長ママが腕を振るってくれるって言ってたんですよ。忙しいのにありがたい、ありがたい。蘇芳ママは勿論、華国の服でダンス頼みますね」
「‥‥‥‥俺だけにさせないでくださいよ」
「あとは魅夜ママが多忙で今回欠席か。有樹ママは当日に来てくれるそうなので、実際動けるのが私と蘇芳ママ、有樹ママ、板長ママは料理専門。やっぱり人が足りないですね」
さてどうしようかと頭をひねる。
「あー、ママ達が悪巧みしてるー」
「ネイちゃん、ノックぐらいしなさい」
二丁目常連の一人が扉からひょっこり顔を出した。準備中と札を立てかけてもやってくる辺り大分古い馴染みのようだ。ネイと呼ばれた女はてへへと笑う。
「ごめーん、虎夢ママ。どうせならギルドに頼めば? 私も手伝ってもいいし。前の可愛いママ達に会いたいなぁ」
その手があったか、と虎夢ママは手を叩いた。
かくしてギルドに再び招集がかかった。
今回の役目は新婚夫婦のパーティを盛り上げる役目である。料理はジャパン料理。冒険者達はママとなって会場を飾り付け、接客にはげむべし。尚、危険物の持ち込み禁止とは虎夢ママ談である。
●リプレイ本文
「認めたくねえもんだな、この状況に慣れてる自分を」
何処か遠くを眺めて格好いい言葉で決めつつも、女装というその姿はいまいち決まらないむなしい気配を漂わせる。シェアムママことヴァイン・ケイオード(ea7804)は現在仲間と共に店内の飾り付けを行っていた。此処は魅惑の居酒屋その名も『二丁目』。どこかいかがわしい気配を漂わせつつも着実に常連客を捕らえつつある店は現在、常連さんの結婚祝いをするため準備に大忙しだ。
「おーう、お疲れみんなァ、酒の準備は万全だぜぇ」
最近髪も伸びてきた(イヤ禿げていたわけではないけれど)芸に命を懸けるマルコ・ゴールデンママことルカ・レッドロウ(ea0127)は、やっぱり女装したまま準備に勤しんでいた。きっと彼の知り合いは職場(二丁目)を見たいと思いつつ、生き生きとしたマルコ・ゴールデンママの姿を見たくないに違いない。好奇心と現実は時に過酷である。
「花束もできたし、名簿も万全。我ながら‥‥あぁそうだ。団長‥‥頼むから、腹踊りだけは‥‥しないでくれよ?」
店の奥から出てきた紫闇ママことシスイ・レイヤード(ea1314)は最近脱ぎ癖が出てきたルカに心配して釘をさす。シスイは新郎新婦含めて良い想い出づくりをしようと精を出していた。花束はささやかなお祝い。ルカはからからと笑う。
「イヤだねぇ『紫闇ママ』、俺がそんなつまらないことをするわけが無いじゃないかァ」
「そうか? ならいいが」
まさかもっと凄いことを行う予定だとは、この時シスイは知る由もない。
「こらそこー! さぼらない! もうすぐ来ちゃうわよ」
本日も元気なバーテン朱華玉(ea4756)。お祝い料理を神業的早さで仕上げていく『くじょえもん』の愛称で常連に親しまれる伝説の料理人『板長ママ』と、冒険者と演技打ち合わせをしているダンスの達人『蘇芳ママ』を除き、虎夢ママ達はお客さんを出迎えに出払っていた。つまり冒険者達に内装と準備は一任されているのである。ばしばしと指示を出しながら、華玉は化粧がまだの者を引きずってゆく。忙しさのあまり今は化粧代請求(カツアゲ)の暇もないらしい。
「あのー、誰か裏路地で踊ってる梅紅ママと蘇芳ママを止めてください」
犬千代ママこと不破真人が泣きそうな顔で店に顔を出す。梅紅ママとはこの日の為に山籠もりまでして踊りの特訓をしたという驚異の天宵藍(ea4099)の事である。
と、そこへサファイアママことサフィア・ラトグリフ(ea4600)と板長ママと共に料理の手伝いをしていた黒耀ママこと双海一刃(ea3947)が料理を運びに現れた。俺が行って来ようと手を挙げる。一体何があったのかと一刃が裏路地を見に行くと。
「まだ腰の振りがあまい! 手が振り切れていない! もっと情熱的に!」
「うむ! 精一杯祝う為にもわしは負けぬよ、蘇芳ママ! 血反吐を吐く程の厳しい特訓であろうと、見事耐えて素晴らしき舞を会得してみせようぞ!」
踊り狂っている二人のママの姿があった。蘇芳ママの鬼のような特訓というか、これは確かに誰にも止められないように見える。片や凄腕ママ、片や女帝を冠する艶姫。とりあえず普通に声をかけても聞こえていないママ二人に一刃がとった行動は。
「水浴びて着替えないと間に合わないぞ」
スタンアタックで二人を気絶させるという荒技に出た。ずるずると『大人の男』二名を引きずってゆく。忙しい二丁目の会場は着々と進められていった。賑やかになりそうだ。
「ネイ様、板長ママ、料理の追加できました!?」
姫袖生足の美少年サファイアママことサフィアは調理場に駆け込んできた。もくもくと煙の上がる厨房では、今回手伝いに来た常連客ネイと板長ママが猛スピードで料理を仕上げていた。ずらりと並んだ小皿を眺め、サフィアはママ達数名を呼び寄せる。
「エレンママ、ゆかりママ、犬千代ママ、黒耀ママ、みんな早く運ぶ運ぶ」
仕切り屋は此処にもいた。一刃はふと料理を運びながら我が身を振り返る。
「黒耀ママと呼ばれるのにも慣れてきたな。そろそろ、お運び以外の接客にも積極的にならんと給料が」
「此処で株を上げればお給料UP間違いなし」
一刃にポチ扱いされ虎夢ママに売られた(良いように格好を遊ばれた)和装メイドのゆかりママこと葉隠紫辰が一刃の手伝いを行う。ふとエレンママこと橘瑛蓮がお客達を眺めてぽうっと呟いた。
「親父、今日もオレは頑張ってるよ。結婚っていいなぁ」
「夢見る少年してないで! ってエレンちゃん、地味! 髪くらい飾って飾って!」
サファイアママモードのサフィアにずるずると引きずられていく。さてその頃会場ではバーテンの華玉と主要な盛り上げ係の皆さんが芸の準備に取りかかっていた。
「本日のメニューはオートブルにママのお勧め隠し芸、メインディッシュに二姫による華国舞踊、また、味付けに演奏、デザートに一発芸となっておりま〜す」
まず一番手は一刃と助手の紫辰である。大和撫子的しとやかさ勝負に出た黒耀ママはオロオロと絶対狙ってるだろお前って位しとやかに登場した。しずしずと現れ頬を染める。
中身は男だけれど、本当は男だけれど。
ヤローどもノックアウト準備はオーケー。いざ勝負!
「此処に取り出したるは一枚の金貨」
金運の縁起を担ぐという説明をした後、金貨をほいほいと出す手品を披露。なかなか好印象である。そして紫辰にカップを幾つか持ってこさせて金貨を隠す。自分は一歩も動いてないあたり助手がこき使われているようだが気にしてはいけない。最後に新郎新婦に金貨が何処に隠されているかを当てさせて、新郎の株を上げてみた。審査員は有樹ママで、物陰から客の受けについて審査している辺り『二丁目』を色濃く意識させる所がある。
酒も入って賑やかになってきた。シェアムママことヴァインが『気を付けよう。身の回りに良く居るモンスターへの対処法』と銘打って声音芸を披露し出す。
「ま、最近はイギリスも変態よかきな臭い事件の方が増えてきたんだ。そんな暗さも吹き飛ばす様に、ここは明るくパーッとやろうじゃないか」
二丁目の店の趣向と客の趣向と皆さんの格好を考えると変態の単語はなんだかな、という節があるが、ここは立派な酒場。ヴァインの言うのは別の変態と判断するとして、問題の芸。本当に基礎的な知識ではあるのだが、なんとこの新郎新婦、新居は森が近いという。覚えていて損はない。ヴァインは最後にこういった。
「神に仕えてるっていう巫女装束着てる訳だし、折角だから‥‥神様、お二人の中が永遠に続きます様にどうか宜しくっ、と。ま、ご利益あるかは分からないけどね」
次は華玉に化粧をしてもらった宵藍こと梅紅ママと蘇芳ママの待ちに待った華国の舞。お客に酌をしていた時の紅梅ママは「依好、よくぞ参った。わらわが相手して遣わす」と前とかわらぬ見事なまでの女帝全開だったのだが、ステージでは真面目な表情をしている。
挨拶も短く二人は舞台で待った。紅梅ママの舞の腕はプロではないにしろ本場仕込みで直前まで延々踊りをたたき込まれていたのだ。本人曰く山籠もりしたという。
顔の傷を扇で上手く隠しながら、艶然とした微笑を絶やすことなく踊り続ける。狭く薄暗い空間の中に浮かび上がる男と思えぬ白い四肢。紅地に白梅柄の衣装は朧な光の中で鮮やかに映えた。二丁目が二丁目たるが所以の、妖しくも惚れ惚れとする光景があった。
「恭賀新婚(ご結婚おめでとうございます)、謝々」
わっと賑わった。拍手がこぼれる。さて次は竪琴持参の紫闇ママことシスイの出番だ。用意していた花束を新郎新婦に渡して微笑み、つたないながら演奏を行う。竪琴の音色は今までの妖艶な雰囲気とは違って、清々しい穏やかな音色だった。皆思い思いの方法で常連客をもてなしている。店員の給料を牛耳る有樹ママの関心も高い。
さて最後は誰かと思えばルカだった。自信満々の表情で竿を手にして現れ「さァて、釣りでもしようかねェ」と狭い空間で竿を振り回す。もしや新郎新婦をつり上げるのかと思いきや、なんと自分のドレスの裾をめくりあげた!
下から覗いた桃尻に輝く『六尺褌』。
「いや〜ん、まいっちんぐゥ!」
刹那シスイの双眸が輝いた!
手にした異様に長い肩掛けでルカの体をぐるりと締め上げる。華麗な手さばきで知人を簀巻きにしたシスイは、持ち前の美貌で観客に微笑を向ける。
「皆様お見苦しいものを‥‥お見せしました、ゆっくりしていって‥‥下さい」
投げキッス飛ばしながらルカを部屋の隅に転がす。まるでコントだ。
紫闇ママの色香にやられる客と爆笑する客。
「はいっ、以上本日のデザートでした! これからサファイアママが食べる方のデザートの配布と解説をやってくれますのでお楽しみに〜」
「みなさーんご注目」
そうして宴会騒ぎは深夜まで続いた。
「お疲れさまでしたー」
冒険者達が帰った後になる。片付けを終えた虎夢ママと有樹ママ、板長ママの三人が冒険者達のお給料についてと評価を招集していた。蘇芳ママは踊り疲れて近くの椅子にへこたれている。
「今回もバーテンの華玉ちゃんが働いてくれましたね。切り盛りはまたお願いしたいところです。ありがたい」
虎夢ママがにこにこしている傍ら有樹ママは採点の羊皮紙をめくってゆく。
「成績優秀なのは黒耀ママと紅梅ママと紫闇ママあたりでしょうか。ああ、でもサファイアママあたりは格好に気配りが。新郎新婦を意識してくれた子はなかなかです」
「おいちゃんの料理の手伝いが上手かった子が居たな。サファイアママだっけ。家事でもよくやってる子なのかな」
「ウケとりはマルコ・ゴールデンママと紫闇ママがぶっちぎりでしたね。シェアムママの講座については予想外に新郎新婦に喜ばれましたし。店の評判も上々です」
新しい予約も入ったことだし、再びギルドに頼みに行こうと虎夢ママが笑う。そんな中。
「何か忘れてる気がするんですけど‥‥あ」
疲れに疲れた会計担当の蘇芳ママはとんでも無いことを忘れていた。
本日の衝撃ハプニング。
蘇芳ママ、疲労のあまり頑張りに頑張った冒険者達に『お給料を渡し忘れ』る。
がんばれ二丁目、がんばれママ達、物事はきっとお金だけじゃない。
ハートだ、ハートが大事なんだ!
尚、『忘れ去られたお給料』は次の時にでもご褒美含めて足して渡そう、とは虎夢ママ談である。