祈りに似ている?―血塗られた宝石を君に―

■シリーズシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月27日

リプレイ公開日:2004年12月31日

●オープニング

 私は旅の語り部に過ぎぬ。
 囁くは旅の歌声にすぎぬ。
 されば休息のひと時と心得て耳を傾けたもれ。
 ある山脈より掘り出されし真紅の鉱物。
 見出せし者はこれを讃える。
 小鳩の血よりも深い赤、遠き星にも似た輝き、真紅の薔薇より鮮やかなる欠片。
 不吉を示せし数に分かたれた十三の宝石。
 人々はそれらを次のように呼んだという。
 天に輝く『紅蓮の星』、生命を苗床に咲いた『ブラッディローズ』という二つ名で。
                 ――――旅路の酒場で聞いた吟遊詩人の詩より

   † † †

「ようやくですね、バートリエ」
「やっとLostPlanの光明が見えたわ」
「バース地方の大盗賊BlackRozen。脆弱種族は何処まで邪魔をする気なのか」
「私達の常に先にいて宝石をかすめ取ってきた者達の名が分かったのは大きな収穫よ」
「あな恐ろしや。お供しますよ、愛しき相棒」

   † † †

 貴方が心優しい賢き英雄であるならば。

 一を犠牲に百を救うか、百を犠牲に一を救うか。
 一が賢君で百が民ならどちらを選びとりますか。例えば民を助ける為には賢君が犠牲になり、賢君を助ける為に民の犠牲が必要であるならば。貴方は数をとりますか、それとも血統をとりますか。
そう例えば。
一を友だと仮定して、友の犠牲一つで見知らぬ百を救えるとするならば。貴方は自ら率先して友をたたき落とし、友の全ての未来と可能性を阻み、憎まれると承知で絆を切り捨て、心を殺し、将来遙かに重くなる可能性を持つ枷を。

 それでも重荷として背負う事ができますか?

   † † †

●現在地:キャメロット(PC情報)

 今回冒険者ギルドに依頼を持ち込んだのは芸術家に類する者の一人だった。
 名をダンカン、金銀の装飾品等を加工する細工師である。
「髪飾りを取り返してほしいってか」
 ダンカンは腕を認められ貴族からの発注までも受けているという。髪飾りやティアラ、主に貴婦人達の身を飾る品々を作り上げるのが彼の役目。そんな彼は最近、リリア家の夫人に頼まれて作っていた髪飾りを商人に盗み取られたのだという。
「とりあえず、これがデザインなんだが」
 ダンカンが差し出したのは一枚の羊皮紙。蝶と花をモチーフにしたものだ。中央に涙型の宝石が埋まっているように見える。埋まっている宝石は真紅のルビーであるとダンカンは言った。
「最初は同じ物を作ろうと思ったんだが、此れは奥様からお預かりした宝石でな。とてもじゃないが普通のルビーなんかと比べ物にならねぇほど高品質で、代わりを探しても見つからなかった。商人の奴も此れに目をつけたんだと思うんだが」
 髪飾りを騙し盗んだ商人は現在、キャメロットに滞在しており、貴族や裕福な家庭のお得意様を相手に盗み出した髪飾りを見せては、本物よりも質の劣る模造品を売りさばくというあくどい商売をしているらしい。髪飾りはいつできるのかという催促に困り果てたダンカンはギルドに赴き、髪飾りを取り返してほしいと頼んできた。商人に関してはできれば悪事をおおっぴらにして裁いてやりたいと語る。
「まぁ半分泥棒だが、もともとは向こうが盗んだんだし、奪還て事になるのか。相手の家とかはわかるのか?」
「分かることは分かるんだが、中に入ったことは無い。円柱みたいな二階建ての家だ」
 冒険者は地図を渡されてふぅむと唸る。
「かまわないが、俺たちで本物見つけてこられる保障がな。模造品は一応金細工なんだろ?」
「それなら弟子を連れてってやってくれ。邪魔かもしれんが、目利きは確かだ。なぁパール」
 ダンカンの後ろには人見知りが激しいのか目元までフードを被った者が立っていた。挨拶ぐらいしろとダンカンに言われて顔を見せる。零れた銀髪。象牙の如き白い肌をした細身の娘だ。冒険者達をみても、軽く頭をたれるだけで怯えの色は拭えない。
「ほんとは一番弟子がいればよかったんだがなぁ。あいつなら魔法も使えたし、役に立てたろうが」
「まだ他にお弟子さんが?」
「まあな。キュラスベイって言ってなぁ、いつもニコニコしてる気のいい弟子がいたんだよ。俺の後でも継がせようかと思ってたんだが、ある日何も言わずに部屋から消えちまってな。義理の息子みたいなもんか。今どこにいるのか俺もわからないんだが。なぁパール」
 依頼の話をしながら、ダンカンは寂しそうな声で弟子の事を話していた。

 その依頼を受けた帰り道、冒険者達は異国の衣装を纏った女に呼び止められた。女はバートリエと名乗り、何故か依頼の内容を知っていた。人気の無い裏路地で、お願いがあるのだと頼み込む。
「取り返した髪飾り、私に譲っていただけませんか」
 何を馬鹿なと立ち去ろうとしたが、女は続いてこう答えた。髪飾りにある宝石は元々彼女の主のものであるという。バートリエの主人が大切にしていた宝石だった。遥か昔、宝石は十三人の盗賊に奪われ『紅蓮の星』あるいは『ブラッディローズ』の名で各地に散り、様々な貴族達の手に売り払われたらしく、彼女は絶望に打ちひしがれる主人の変わりに集めて回っているのだと言う。
「全ては我が主のため。謝礼は十分お支払いしましょう。一人5Gで如何ですか」
 正直、細工師の支払った額の倍以上である。
「答えは急ぎません。あなた方がもし髪飾りを取り返したのなら、私の方から再び貴方達を訪ねます。ご返答はそのときに」
 女は冒険者達に一礼をすると、脇をすり抜けて大通りへ出て行く。
「お、おい待てよ!」
 後を追った者がいたが、大通りにはすでにバートリエの姿は無かった。まるで煙のように姿がかき消えている。呆然とその場に立ち尽くす者に、仲間がぽんと肩をたたいた。
「なーんかやばい仕事だと思うのは俺だけか」
「髪飾りを取り返したら取り返したで細工師のダンカンさんか、今のバートリエとかいうのに渡さすか決めなきゃいけないわけか。‥‥面倒な事になりそうだな」

●今回の参加者

 ea0254 九門 冬華(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0836 キラ・ヴァルキュリア(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea1514 エルザ・デュリス(34歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1519 キリク・アキリ(24歳・♂・神聖騎士・パラ・ロシア王国)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 王都キャメロットの裏路地で男女の言い争う声が聞こえた。羊皮紙の束を手にしている。
「‥‥で、今回の件に灰の教団討伐関係者が六名だったか。名簿は?」
「本リストに名前があるのは九門冬華(ea0254)と天城月夜(ea0321)、天城月夜は完全に手が出せないわ。準リスト対象者にエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)。キラ・ヴァルキュリア(ea0836)は接触は一度、準リストにまでは至ってない。リスト名簿ではないけれど鍵にハーフエルフがいる、ユラ・ティアナ(ea8769)ね。確実に手が出せるのはキラとエルザ・デュリス(ea1514)、キリク・アキリ(ea1519)とシアン・アズベルト(ea3438)の四人よ。警告と回収を急ぎましょう、猶予は残り少ないわ」
「教団の事件で道が決まった。バースと宝石に関わる以上、彼らは我々に協力するしか逃げ道がない。多数派か少数派、協力先の選択次第で互いに殺し合う事になるのか」
 平穏は祈りのようなものだな、と男は呟く。話し声はいつしか消えた。

 商人の家に執事を装ったキラに従者を装ったキリクとエルシュナーヴが向かう。遠く離れた物陰から冬華達が眺めていた。キラが戸を叩くと、中から脂肪の塊と言わんばかりの風体をした凶悪顔の男が現れた。挨拶もそこそこに、キラは話をきりだす。
「奥様のいいつけにより、こちらに素晴らしいアクセサリーがあると聞き、お伺いさせていただきました。よろしければお話を」
「ふむ、どなたかのご紹介ですかな?」
 そう易々と交渉には持っていけないようだ。想像は当たっていたらしく、この男、密かに目を付けた貴族のもとを訪ねて歩き、あこぎな商売を行っているらしい。一向に話がうまく進まない。キラが苦戦しているのを見て取ったキリクが、傍らのエルシュナーヴに耳打ちする。エルシュナーヴはキラリと双眸を輝かせ、ちょっと失礼、とチャームを唱えた。
「‥‥買わせてよぉ‥‥そうじゃないと、エル、ご主人様にお仕置きされちゃうの。おじさまぁ、お願ぁい」
 双眸に涙を浮かべ、色香を武器に商人の親父を上目遣いで見上げる。一瞬で『でへ』と顔をゆるませた商人は、チャームの効果もプラスされて言いなりとは言わないが従順になっていた。エルシュナーヴが交渉を持ちかける、仕方が無いなぁと口にしながら商人は首を縦に振った。しかし金に対する執着はかなりのようで、値段に関して譲歩する気は微塵もないらしく、本物の引き渡し交渉にG四桁を要求した。しばしの話し合いの末。
「えっと、じゃあ明後日お金持って来るから、それまで誰にも売っちゃヤだよ?」
「それでは、また後日お伺いさせていただきます」
 エルシュナーヴが念を押して、キラが執事として口調を崩さず軽い礼をすると三人は商人の家を出てユラ達が見守る路地の方へ歩き出した。キリクがはぁっと溜息を零す。
「エルシュナーヴさん、色っぽすぎるよ」
「交渉も上手く運んだし問題ないよね。あれくらいは全然だよー、キリクくん。エルめちゃくちゃにされたいもん、きゃ」
「こーら、子供が何を口にしてるのよ。さっさと行くわよ、今夜は忙しいんだから」
 そう。今夜は仮装行列を決行予定なのである。

 ジーザスの誕生を祝う夜。聖夜に仕事とは切ない限りだが、彼らは扮装をしていた。その方が怪しまれないだろうと考えてだが、どっちみち目立つんじゃないかという疑問はさておいて。簡単に列挙すると冬華と月夜はまるごとメリーさんを装備し、ふわふわのもこもこ。キラは某村で司会に求婚されたという曰く付きの女装サンタ(?)を披露、キリクとエルザ、ユラの三人は着替えはしなかったが好ましく思っているらしく、シアンは若いサンタで菓子を携え異様に目立っていた。なにやら微笑ましい光景が広がっている。
「流石に少し恥かしいものがありますねぇ」
「これぞアサシンメリーでござるな」
「たまにはいいじゃないですか? さて聖夜祭ということで、どうぞ」
 頬を染める冬華と嬉々とした月夜。シアンはエルシュナーヴとキリク、パールの三人にクッキーを配る。仕事中に不真面目という意見もあるが、こうした季節的なものを楽しむ余裕は歓心を抱く。いずれ今を懐かしむ事になるなど彼らは知らない。
「さて、そろそろいきましょう。エルザさん頼みます」
「了解。インフラビジョンで誘導・警戒にあたるわ。あとよろしく」
 ユラが微笑ましげに眺めながら合図した。エルザが魔法を唱える。用心棒が二人彷徨いているという情報を得ていた。大丈夫そうだと確認した。奪取班はエルザとユラ、月夜とシアン。そして煙突ではなく窓から土足で侵入するサンタ一行。正義の出張聖夜祭だ。パールと共に外で待機したのは冬華とキリク、エルシュナーヴとキラである。
「ねぇパールさん、なんで弟子入りしたの?」
「‥‥あにさま‥‥義兄さまと。キュラス・ベイ義兄さまと一緒によ、‥‥人殺しさま」
 キリクの問いに、其れまで沈黙を保ち続けたパールは憎悪を込めた目を向けた。

 警備が手薄な家だった。エルザのインフラビジョンとユラが警戒を緩めなかったのも幸いし、あっさり宝石を保管している場所にたどり着く。しかし扉の前に用心棒が二名。しかたなく、月夜とシアンが堂々と歩み寄った。怯える用心棒。
「何者だ!」
「ふむ、この格好を見てわかりませんか。サンタクロースと羊です」
 みたまんまだ。あまりに真面目な答えに、ぽかんとシアンを眺める。その隙に二人の影から現れたエルザがファイヤーコントロールで相手を追い込み、ユラ達がロープで縛り上げた。なんだなんだとドタドタ現れた商人も、月夜のスタンアタックであっさりやられる。
「お主らの主の悪事を暴くため今は騒がれては困るのでござるよ。暫しだけ我慢していてくれ。さて、冬華殿達を呼んで参ろうか。パール殿に見極めてもらわねば困るし」
 用心棒が三流では、今回の冒険者達にかなうすべはない。内部の者達を押さえた月夜達は外の者達を呼んだ。本物の髪飾りを見つけ、偽物を含めて証拠品を押収した冒険者達は帰路につこうとした。ところが道を阻む影がある。
「お返事を頂戴しに来ましたよ」
 ずっと見張っていたのか、バートリエが現れた。シアンが鼻で笑う。
「話になりませんね。正式にギルドと契約した以上、貴方に髪飾りを渡す事は信義に反します。正当性を主張するなら私達ではなくギルドや現所有者の貴族と交渉すべきでしょう」
 シアンは相手に不信感があった。以前関わった事件で直接会ってはいないが、会った者の話を聞いている。其れは彼だけではない。エルシュナーヴが攻撃してきた時に備えて物陰で魔法の準備にかかり、皆が警戒の色を強める。力で来るなら力で返す。
「正当な所有権を主張できるのですし、現持主に直接交渉してくださいそれが筋です」
 冬華の言葉に、突然現れたバートリエは「残念です」と呟きニィッと唇の端を歪め、刹那、姿がかき消えた。一体何処に行ったのかと、冬華とシアンが視線をさまよわせた刹那。
「「危ない!」」
 ユラが二人を突き飛ばし、月夜のダガーが背後に回ったバートリエの刃を受けた。ナイフか何かのようだが、ぎりぎりと嫌な音がして一度はじき飛ばす。月夜の手が、相手の外見からは想像も出来ない衝撃にビリビリと震えた。其処へ天井から三人の人影が落ちてきた。敵が増えたのかと戦慄したが、影の一人がバートリエの相手を引き受ける。人影の一人は一部の者に見覚えがあった。エルザが声を上げる。
「貴女、ブラックローゼンのネイ!?」
「一緒に逃げるの。走りなさい」
 ブラックローゼン。幾つもの事件の影に潜み、人々を操っては殺してきた暗殺者の集団だ。元々はバース地方の大盗賊だったというが、今はそんな事を話している暇はない。
「いきなり何を。貴方達は一体何の目的で」
「死にたいの?! 化け物に目をつけられたのよ、早く!」
 エルザと冬華の声を遮り、ネイと言う名の暗殺者は彼らの腕をひいた。シアン達の目の前で、彼らの護衛に当たった見知らぬ者が腕を折られた。絶叫が響く。早くいけ、生きて戻れ、と声が飛び交う。突然の出来事に目を白黒させたまま、シアン達は強制的にネイ達に引きずられていった。一晩、ある屋敷に連れ込まれ、翌日彼らは傷一つなく解放される。
 髪飾りは無事にダンカンに引き渡され、依頼は無事に果たされた。ただし。
「今回はこれで終わりだろうけど‥‥これからどうなるんだろ?」
 ユラが呟く。彼らは闇の断片を知らされた。
 夜にうち明けられた幾つかの秘密は、確実に冒険者達に波紋を与えていた。