祈りに似ている?―Active minority―

■シリーズシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月12日〜01月24日

リプレイ公開日:2005年01月19日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドにある数名の冒険者が憂鬱な表情で現れた。
「ごく最近のもので護衛か何かの話はありませんか?」
 何処か伺うような響きがあった。受付がぱらぱらと依頼書を探す。
「はい、ありますね。これですがお受けになりますか?」
 細工師ダンカンに髪飾りを依頼したリリア家からパーティ護衛の話が来ていた。最近盗賊やゴブリンが出没し、奥様が大事にしている髪飾りをもらうといった類の予告状や、息子をもらう等様々な脅しがきているという。貴族とは大変だ。バース市の別宅ホールで知り合いの貴族達を集めて大きなパーティを開く予定にあわせ、会場の警備に力を注いでいるらしい。
 冒険者達は顔を見合わせた。

   † † †

 時は細工師から受けた仕事の話に舞い戻る。
 突如黒い人影に攫われた彼らは古びた屋敷に連れて行かれた。残してきたシャールダニカという仲間の身を案じつつ、彼らは「怪我はあるか」と冒険者達を振り向く。ネイと共にいたのは男性だった。年の頃はよくわからない。
「怪我の心配をしてくれるとは予想外ですね。一応怪我人はいませんよ。それで我々から髪飾りを奪うつもりですか?」
「今奪う必要はない。ギルドの依頼通りに細工師に返せばいい。細工師は貴族に届ける。その後、西方領土を担当しているブランシュが‥‥仲間が盗みにいくだろう。あんたらの仕事は商人から奪い返す事、義務は果たせるだろう? 助けたのは連中に宝石を渡さない為とリストに名前のある者を掟に従い保護する為だ。お気に入りに我々は干渉しない。傷つけてもならない。一種の保護対象者か」
 冒険者の数人が眉をひそめる。男が笑った。
「そろっと心当たりのある奴もいるんじゃないか? 心当たりがある奴に言うぜ。かの方を問い詰めてくれるな。関係は言わんがコレはあくまで我々の意思だ。俺達は多くを監視している。あんたらの情報はほぼ入手済み。心配すんな、今は敵じゃない。俺は多数派のレアリテという」
 男は疲れたとばかりに長椅子に倒れこんだ。ネイは相変わらず窓辺に立っていたが、何故か細工師の弟子であるパールに一声かけると、室内の別の扉をノックした。ネイはパールをつれてゆく。
 慌てた冒険者達をみて、長椅子に寝転がっていた青年が身を起こした。
「行かせてやれ。あいつの兄弟子に会わせてやるだけだ。姿は変わり果てているけどな。さて、こっちも話を進めようか。これがなんだか分かるか?」
 眉をしかめる冒険者達に青年は懐からある物を取り出して見せた。指の間に光る二粒のスタールビー、紛れもない『ブラッディローズ』だった。
 男が手にした二粒はかつてカルト教団が所有していた物だった。一人の娘の裏切りで、魔物にカリヨンベルを奪われたので取り返して欲しいという依頼を受けて村を訪れた冒険者を通じ、一介のギルド職員の者の手に渡った後に、収益を社会事業や救済運動に寄付する目的で行う各種の事業や催しに出されて市場に流れたものだった。
「その宝石、魔法に関する物とは思えませんが。以前、回収しなければならない物だとか」
「そう睨むなよ。簡潔に言うとコイツは未来の災いの種なのさ。宝石自体には魔力も何もないが。元の持ち主は化け物だ。全部で十三個。参謀から口止めされてる事は言えんが、全て連中の手に揃うと将来的にバースの北方・西方領土から領主が消える可能性がある」
 かつて宝石は人ならざる者の手にあった。ある時一人の盗賊が盗み出し、宝石は流れてバースの貴族の手に渡り、一人の貴族から繋がりを持つ貴族達に分配され、以来家宝に近い形で脈々と受け継がれ続けた。近年になって当時の有力貴族達の子孫達は多くが没落し、宝石は多くが流出して表舞台に現れたらしい。ある理由から宝石が破滅を呼ぶと判明。以来、彼らは総力を挙げて回収に取り組んでいるという。
「一次、二次の災いはもう止められない。なら残る不安分子を即刻取り除くべきだろう? 宝石に関してのみ少数派も多数派も手を組む事になってる。先代領主が治めたバースの北方領土は平穏だったが、今は最悪だ。領主は監禁され、後妻の子息が領主代理として北方領土を掌握。病魔に冒された先代を助けても先は長くないしな」
 バースは今、北方領土の民衆が武力蜂起するのは時間の問題だという。多数派のパステルという若者が何度か実験を行ったそうで、理由様々だが追い詰められた民衆にラスカリタ家は見向きもしなかったらしい。現在の次期ラスカリタ伯爵家当主は領主の器でないと判断し、多数派は新たな当主に相応しい人材を探したそうだ。外の繋がりばかりを重視して領地を放置する領主代理、対して多数派が用意した人望に厚く、領主として器に秀で、血統も申し分ない人間の存在。
 民衆がとる行動はひとつしかない。
 またBlackRozenは様々な意見の相違から分裂。多数派・少数派・中立の三つに分かれ、今の中立はネイを残して皆が分かれたという。少数派は宝石回収等で多数派と手を組む反面、ラスカリタ家に味方し、現在の治世を維持しようとしていた。
「今回マトモに接触したのは多数派の仲間にならんかと誘う為だ。戦闘能力は二の次、我々には頭のきれる優れた協力者が必要だ。戦乱が始まったら宝石捜索は疎かになるのは確実。その前に可能な限り動く必要がある。ひとつ聞く、百を犠牲に一を救うか、一を犠牲に百を救うか。百が民で、一が賢君ならどちらを選ぶ?」
 しばしの沈黙の末に冒険者達の一部は言った。
「当然百ですね。どれほど優秀な命でもより多くの命に劣る物など」
「百の犠牲で一を助けるわ。知らない誰かより、偶然にも今日を供にした皆を助けるのが私の理よ」
「僕は一を犠牲に百を救う。身分は関係ないけど、賢君さんなら自分で助かる方法考えられると思うから」
「良き統治により多くの民が救われるなら、多くの幸福を優先するため賢君を助けます」
 男はにぃっと笑う。
「ふぅん。あんた達にとってはバースの民は赤の他人だ、けど多くの人間を助けたい、もしくは英雄になりたい、生死を分ける場所で戦いたいと思う人間には丁度いい舞台だな。根性があるなら関わればいいし、厄介事が嫌なら関わらなければいい。仲間になるなら参謀に引き合わせるし、情報も流そう。これは派閥に限らないBlackRozenの掟だ」
 話を戻そう、と男は言った。
「色々と気になる奴、最後まで関わる気がある奴は後日ギルドからある依頼を受けるといい。北方領土の貴族から護衛の依頼が流れる。その護衛の中で『シルベリアスの手記』を手に入れてくれないか」
 シルベリアスとはラスカリタ家数代前の女領主である。彼女の残した手記に散ったブラッディローズの詳細が載っている事が最近になって判明したが、少し前に手記はラスカリタ家の塔の財宝を巡って盗賊に奪われた。調べたところ盗賊の討伐に当たった冒険者達が財宝とともに取り返したらしいのだが、手記を手に入れたと思われる執事が、事件後行方不明であるらしい。消えた執事が最近、様々なパーティで時折目撃されるという。
「俺達は他の宝石の回収があるし、他の奴らも動けないんだ」

●今回の参加者

 ea0254 九門 冬華(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0836 キラ・ヴァルキュリア(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea1514 エルザ・デュリス(34歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1519 キリク・アキリ(24歳・♂・神聖騎士・パラ・ロシア王国)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シュナ・アキリ(ea1501)/ シーン・オーサカ(ea3777)/ シェリル・シンクレア(ea7263

●リプレイ本文

「参加者が特別って? このパーティ普通じゃないの?」
 フードから顔を出したユラ・ティアナ(ea8769)は目を丸くした。キリク・アキリ(ea1519)は共に見回りをしていたユラに他の護衛達から聞き出した事を話す。外を巡回していたキリクは古くからリリア家に仕えているという老騎士ガルドに「若いのに偉いな坊主」と声をかけられた。身の上を心配され少々話し込んだ時に注意を流されたという。
「ガルドさん最後に言ったんだ。『バースの北や東の貴族達はシキタリに縛られとる。いいか坊主、このパーティに出席した連中は罪人に連なる血筋の末だ。今日の集いに参加した貴族に情を持っちゃなんねぇぞ。つらい思いをするからな』って」
「‥‥血生臭い歴史でもあるのかしら。後でみんなに話したほうがいいかもね」
「僕、姉ちゃん達が心配になってきたよ」

 一方その頃、キリク達に身を心配されている姉達ことエルザ・デュリス(ea1514)とシュナの二人は面識のあるアリエスト家に接触を試みていた。一種の恩人なのだ。エルザと同じ名の次女がいるが、エルザが助けた娘は今、何かに憑かれて幽閉されているらしい事を含め、ラスカリタ家をよく思っていない事、このパーティに来た貴族は大きく分けて二つの勢力に分かれている事を聞きだした。話し込んでいるとシュナがエルザの腕を引く。
「何? どうしたのよ」
 エルザは失礼のないように気を配っていたが腕を引かれて視界が変わる。シュナの視線の向こうに老人がいた。気配が薄く、注意しなければ気づかないような老人だ。
「いやがった。例の執事だ。早く!」
「申し訳ありません。またいずれご挨拶にお伺いをいたします。仕事がありますのでこれにて失礼を。いくわよシュナ!」
 老人は自分に向かってくる二人に気づくなり、脱兎のごとく逃げ出した。
 今回のパーティはバース地方の北方と東方に領土を持った貴族達が多い。手記の捜索を含め冒険者達の多くは護衛として礼服に身を包み会場を歩いていたが、問題がおきた。
 かの傑作と歌われる『蒼天』のモデル本人では、あれはアナイン・シーの『精霊の使い手』では、そこにいるのは『エロースとプシケ』のモデルでは‥‥ひそひそと囁く声は止まない。九門冬華(ea0254)や天城月夜(ea0321)はじめ、五名に貴族達が群がっていた。
「‥‥モデルをやった弊害がこんな所で。自分達が目立っては密かに探すのも無理そうですね、仕方ありません。他の方に任せましょう。このまま皆さんと話すか、逃げるか」
「‥‥夫人に色々と紹介してもらって大方の人や堕天使画を依頼した執事殿がリリア家の執事と分かったのは良しとして。全く動けぬでござるな。護衛になってない」
 こんな具合で休む暇もなく囲まれていた。バース地方の貴族に対し絵師マレア・ラスカのモデルをした肩書きは絶大な効果を示した。会場の多くが彼女に投資していた者達らしい。下手に小細工しなくとも人間エルフ関係なく貴族達はモデルに好意的に接してくる。
「何やっているんですか。失礼致します、皆様。彼女達も仕事がございます故」
 女性陣に目映い笑顔を振りまきながら颯爽と現れたシアン・アズベルト(ea3438)が、二人を人の群れから救い出す。シアンは月夜とシェリルと交代を告げに現れたのだ。「助かりましたシアンさん」とシェリルが声を返すと、シアンは辺りをきょろきょろ見回した。
「交代時間です。私はエレネシア家のヴァルナルド老と会ってきますが、ご存知ですか」
「隅のテーブルでラスカリタ家の子息殿の一緒に話していたでござるな」
 シアンの表情が厳しくなる。彼らは来る途中に通った東領土で様々な人々を見た。肥沃の地に住まう人々は一見豊かに見えても、財の多くが貴族へ行き貧しい糧を感謝して暮らす。噂によればバースの北は東より更に生活水準の差が激しく、治安も悪いと聞く。道の途中で私を買わないかと自分に笑いかけた細い少女や幼女を騎士の彼はどう思っているだろう。シアンは探し人の元へ行き、月夜達が警備へ戻り、会場に残った冬華は走り行くエルザ達に気づいて身を翻す。
 一方全く気づいていないキラ・ヴァルキュリア(ea0836)やエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)、シーンの三人は囲まれたままで、特にキラは例によって例のごとく男達に言い寄られていた。エルシュナーヴに関してはキラを女性と勘違いしている部分もあってか、喜んでいるような節も見られたが。
「‥‥惨い。女装が板についたかと思えばこの仕打ち。え、テラスに? いえ初対面の男性の誘いに乗るのは、お父様から禁止されていますので‥‥困ります」
「殿方、僕の連れに何か?」
 キラとエルシュナーヴの真後ろから現れた人影は男装の令嬢だ。金の髪と澄んだ碧眼、三人は『見知った顔』を見た。キラとエルシュナーヴが「マ‥」と声を上げかけたが突然シーンに阻まれ「ウィタはん!」と声を放つ。ウィタエンジェ・ラスカリタは笑った。
「此処で周知の事を気にする意味はないのに。久しぶり可愛い人。僕と一緒においでよ」
 エルシュナーヴ達の手を引いてゆく。取り残された貴族達は何かを囁きあい『何もなかった』かのように散った。何かが異様だった。ウィタはキラが女装だと気づかないのか上機嫌である。エルシュナーヴが「貴方がウィタさん?」と問うと「そうだよ」と返す。
「ウィタさんのお家の執事さんが最近行方不明になったって聞いたけど‥‥」
「そうそう。大変なのではなくて? 探すのならお手伝いするわ」
 次第に打ち解けていった。曰く執事は休暇を取った途端に蒸発したらしい。容姿などを聞きだし、家族の事なども話に上る。姉と妹が死に、今は兄と弟に妹一人。他の貴族と仲が良いかと問えば「そう見える?」という声。キラ達は顔を見合わせた。会場は賑やかで華やかなパーティなのに、肉のマスカレードを被った人形が踊り笑っているかのようだ。
「気づいた? 此処は同胞の集いが基盤。僕と兄妹は後妻の子故に血の半分は余所者だから同胞じゃない。さて質問、流れ者の君達に彼らが好意的な『意味』を知っているかい」
 一方、シアンはヴァルナルド・エレネシアとサンカッセラ・ラスカリタの所にいた。「灰の教団事件、私達の力不足ゆえに多大なご迷惑をおかけしました」とシアンが頭を下げるとヴァルナルドは軽く首を振った。君達は最大限尽くしてくれた、それで十分だと短く返す。シアンは各貴族についての評判や力関係を尋ねるつもりだったが、しばし耳を傾けた。領主代行のサンカッセラが領主のありようを述べていたのだ。
「民衆は我等の為にあり、彼らの働きに答える為に我等貴族がいるというもの」
 最近ラスカリタの領地は荒れていた。怪しげな薬に手を出し自滅するものが増えているという。それらに対してサンカッセラは続けた。
「自ら道を踏み外した愚か者など知らん。物事には優先順位がある。天災などにより真に貧しい者に富を分け与え、世にはこびる不正を正すが領主の役目。そうは思わないか」

 刹那悲鳴が上がった。リリア家の夫人だった。招待客に自慢して回っていた髪飾りが、いつの間にか彼女の髪から抜き取られていた。エルザ達は手記を持った執事らしき人影を追いかけ、シアンは話し込み、キラ達は令嬢の元。他は巡回に回っていた。一瞬の隙。例のブランシュとやらだろう。キラ達とシアン達が乗り出した頃、外では笛の音が聞こえた。
「ユラさん! そいつをおさえて!」
「まかせて!」
 キリクの声に答え、的確な射撃がごろつきの足を射抜いた。もんどりうって倒れる。モンスターは他の警備が駆除してくれている。最近治安が悪く、この手の盗賊が多いという。
「観念しなさい。何が目的? この家の息子? 早く吐いたほうが楽になるよ?」
「放せ! 俺達はジプシーの女に騒ぎを起こせといわれたんだ」
 ロープで縛ったわめき散らす男を見下ろし、二人は顔を見合わせる。
「ジプシー‥‥ちょっとまった。旅の途中まで一緒だったネイさんは何処?」
 キリクとユラが疑惑とともに会場へ走り出した頃、冬華達は執事を捕まえていた。老人に「貴方はシルベリアスの手記を所持されてるそうですね、それを渡して頂きたく参りました。次に来る人が我々ほど穏やかとは限りません、どうか大人しく渡しては頂けませんか?」と話しかけても、話が通じない。ワシのものだ。宝を取り返すのだ。ともかく話がかみ合わなかった。そこへ何処からともなくネイが現れ奪えという。さもなくば私が殺すぞと。会場から誘導を終えて来た者達と合流する。エルシュナーヴがチャームで手記を手に入れたがネイに奪う様子はない。執事は手記を奪われるとうわ言を呟いて歩き出す。
「放っておけ。もう理性もない哀れな老いぼれよ。化け物に渡らずに済んだのは幸運か」
u‥‥私達から奪おうとはしないんですね」
「私は戦闘班でなく観察者だ。生憎お前達と正面から戦ったところで勝つ能力は持ち合わせていない。こい」
 一方シアンは月夜達と一人の女を追っていた。会場から誘導する際不審な行動をとった女だった。輪から離れた途端、凄まじい速さで走り出した。逃げられるかと思いきや、シェリルの笛を聞いた方向へ走りこんできたキリク達と合流し離れの庭に追い込んでゆく。髪飾りは渡さないと決めていた。キリクの笛の音を聞きつけて追いついた皆がぐるりと取り囲む。だが、ネイが冒険者達を制した。
「早々に見つかるとはへたくそめ。まあいい、捜査班のお前に能力は期待していない。どうせ会わせるつもりだった事だしな。その方が本望だろう『ブランシュ』よ」
 今まで何処にいたのかは知らない。ネイは「そいつは少数派の者だ」と教えた。協力しているのは本当なのか相手に近づいて耳打ちする。顔は見えないが、髪飾りを手にしているブランシュは明らかに笑った。
「そう。多数派に勧誘されたの。彼女と接触を持つ者に灰の教団討伐者、くわえて鍵に使えるハーフエルフ。多数派は泣いて喜んだんじゃない?」
「――っ!」
「ブランシュの立場で会いたくなかった」
 皮肉気に笑ったBlackRozen少数派の女がウィッグと仮面を脱ぐ。月夜に映えた白い肌に艶やかな髪。冒険者の一部の目が凍った。女は冒険者たちを眺めて酷く悲しげに笑う。
「知らない相手だったら無視したかった。恩人の貴方達に会いたくなかった。何故初代に関わったの」
「‥‥プシュケ殿」

『将来、君達は後悔するよ』
 失われた声が、聞こえた気がした。