【闇の魔方陣】 黒の花嫁 

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2006年06月14日

●オープニング

 彼は、思っていた。
 この境遇は全て周囲が悪いのだと。
 自分を取り巻く環境は、本体こんなものであってはならない。
 人々に称えられ、崇められ、高き者として敬われなければならないのだ。
 こんな道端で、何の力も持たない民草の投げる金で永らえるなど、あってはならないことなのだ。
「あ、占い! やっていこうか?」
「そうね。実は、私好きな人が出来て‥‥」
 ‥‥甲高い声を上げて近寄ってくる者達がいる。
 若い娘だ。こんな尻軽で頭の軽そうな女はきっと違うだろう。
 だが、試してみる価値はあるかもしれない。
(「早く、捜さねば‥‥花嫁を‥‥」)
 そんな思いを口に出すことは無く、彼は目の前の水晶玉を繰る真似をした。
 歌うような、小さな呪文を口にしながら‥‥。

 最近、イギリスもいろいろ物騒になってきたらしい。とあちらこちらで耳にする。
 モンスターも増えてきたし、街の中でさえ犯罪やトラブルもよく聞かれるようになったのだ。
 再開された冒険者ギルドに、ある日、それを象徴するような依頼が舞い込んだ。
「最近、女性が‥‥特に12〜17.8歳くらいの少女といえる娘さんたちが、何者かに付きまとわれ攫われているようなのです」
 教会の信者からの悩みを耳にしたとその若い司祭は手を前に祈るように組んで告げる。
「攫われているようなのです、ってそんなの悩み以前の問題だろう? おい、そんなに悠長に構えてていいのか?」
 焦ったように言う係員に、司祭はそれは大丈夫、と頷く。
「攫われた娘達は全て、一晩で返されています。今現在、行方不明になっている者はいないようですからそれほど焦る必要は無いでしょう」
「一晩で帰って来ている? まさか、そいつは‥‥」
 濁した係員の言葉の意図も、司祭は首を横に振って否定した。
「身体には乱暴されたりした様子もありません。衣服の乱れも殆ど。ただ‥‥」
「ただ?」
「肩や、背中、手の甲などに痣のようなものが刻まれていたのだそうです。全員が、同じ形のものを‥‥。傷というより蚯蚓腫れのようなもので2〜3日で消えたそうですけれども‥‥」
 そう言って司祭は羊皮紙に痣の形を書いた。それは明らかに五芒星。
 魔方陣と呼ばれるものだった。
「戻ってきた娘達は、殆どが何も覚えておらず、記憶もあいまいで‥‥その後は何も無く普通に過ごしております。ですが、怪しいことに変わりはありませんし、教会には司祭の見習いや、事情で預かった少女など年頃の娘もおります。現に、買い物に出た教会の娘が怪しい者の気配を感じたとも言っておりました」
 それが、ここに来ることを決意するきっかけだった、と司祭は正直に告白した。
「少女達にこれ以上危害が加えられませぬよう、どうぞよろしくお願いします」

 依頼書を見ながら冒険者は感じる。言葉にならない何か。
 背筋に何かが冷えたものが走るのを。
 今の時点では、この依頼、ごく普通の調査依頼に過ぎないのに、何故だろう。
 その冷えた何か。
 それが言葉にならない『嫌な予感』だと言うことを今は、まだ知る者はいない。 

●今回の参加者

 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 人と、人との縁は不思議なもの‥‥。
 出会いと、再会。
「おや? お久し振りなのである」
「お元気そうで、何よりですね」
「あ、貴方方は‥‥」
 教会で出迎えた若い司祭はマックス・アームストロング(ea6970)や夜桜翠漣(ea1749)に笑顔で頭を下げた。
 司祭の後ろでぴょこと顔を覗かせる少女に
「まあ、貴女様は‥‥お元気そうで何よりですわ。私のこと覚えておいででしょうか?」
 膝を折り、身をかがめたセレナ・ザーン(ea9951)の微笑みに
「うん!」
 少女は天真爛漫の笑顔で答えた。
 回る運命の輪に冒険者は、ほんの少し、微笑み、ほんの少し幸せを感じていた。

 街の中はほんの少し浮き足立っているように思える。
 夏の到来も間近な太陽は華やかな笑顔を明るく照らす。
 ジューンブライドの祭り前だからだろうか、路地に占い師、広場には旅芸人。それに魅入る人々。
 足元をすり抜ける黒猫や犬達までが幸せそうに見えた。
 そんな中を少し肩をいからせて歩く女性がいる。
「こんな幸せで楽しげな時に、女の子に危害を加えるなんて許せないね! 絶対に捕まえてやるから!」
 隣に立つ男性はフレイア、と呼びかけてまあまあ、と宥めるように笑った。
「気持ちは解るし、誘拐と言うのは穏やかでは無いと思うが、あせりは禁物だ。調べるにも知識と情報がない。まずは現場周囲の聞き込みに参ろうか」
 尾花満(ea5322)の諌めにフレイア・ヴォルフ(ea6557)はそうだね、と照れたように笑って広場の近くを、じっと見つめた。
 裏町にそう遠くないこの近辺で、行方不明になった女性達の多くは見つかったそうだ。
 ぐるりと周囲を見回すと‥‥
「あ、あっちに第一子供発見! ちょっと言ってくるわ。満。あれちょうだい」
「ああ、気をつけてな」
「ありがと。お〜い!」
 皮袋を持って駆けていくフレイアの元気な背中を見送って、
「さて、俺も仕事と行くか。確か、あっちに露天商がいたはず‥‥」
 満もまた動き出した。

「突然の呼び出しに応じて頂いて感謝するのであ〜る!」
「えっ?」
 教会の司祭から、呼び出されてやってきたその少女は目をぱちくりとさせた後、微かに後ずさった。
「マックス様、それでは驚いてしまわれますわ。私、セレナ・ザーンと申します。この度はご不安でしたでしょうね」
「失礼。俺達は教会の司祭から、君達の誘拐事件について調査を依頼された冒険者だ。問題解決の為に優良な情報を求めている。協力してもらえまいか?」
 長身のマックスに少し怯んだものの、セレナの礼儀正しく優雅な仕草や、エヴィン・アグリッド(ea3647)の微笑を湛えた願いを見て、彼女の警戒も解けたようだ。
 良く見てみればマックスも柔らかい笑顔と礼儀正しい態度をしている。
「‥‥私が、解る事なら‥‥。でも、本当に良く覚えてないんです。なんだか、凄く記憶があいまいで‥‥」
 翌朝、気がつくまで怖かったとかそんな覚えも感覚も無かったと言う。
「なんだか、夢を見ていたような‥‥そんな感じでしょうか? 丸一日だるかったですけど、あとはなんでも無かったし」
 着衣の乱れも、身体に怪我らしい怪我も無かった。との説明を冒険者達は真剣に聞いた。
 今まで今回の事件に関わったらしい女性達に冒険者は話を聞いていた。
 教会に相談に来た解る限りの女性達にだ。彼女達の証言は一致している。攫われたという実感が彼女達の大半に希薄なのも同じ特徴だ。
「では、貴方が浚われる前、何かに付きまとわれる気配がする前、何か変わった事が起きたり、珍しい人物に会ったりしませんでしたか? 思い出せる範囲で教えてくださいませ」
 セレナは少し考えて、話題を変えるように問うた。
 ならば、ここから先の答えも同じなのだろうか?
「そうですね。広場のあたりで旅芸人の公演を見たり、占い師に占いをしてもらったりしてました。暫くして私を誰かが見ている気配を感じることがあって‥‥そして」
「そして?」
 最後の記憶はと、彼女は考えを巡らせ‥‥答えた。
「ある日帰り道、とても美しい男の子を見ました。リュートを持ったまるで月の化身のような綺麗な少年。その子に手を取られて‥‥、そしたらとっても綺麗な歌声が聞こえてきて‥‥」
 微かに顔を赤らめて、彼女は俯いた。
「その後のことは、何にも覚えてないんです。相手は小柄で、本当に子供みたいでした。あ、私、通りすがりの人に身体を開くような女じゃないし、子供になんて興味離し、実際何にも無かったって‥‥でも‥‥」
「でも、その少年に一瞬心惹かれた。そうなのですね」
 はい。柔らかいセレナの口調に照れた顔で彼女は頷く。
「だって、その、本当に綺麗だったから‥‥」
 後は翌日の朝、広場の隅でボーっとしているのを用意をしにきた露天商に声をかけられ我に返ったという話だ。
「その少年の身長って、どのくらいだか覚えているか?」
 ぶっきらぼうなエヴィンの問いに、だが彼女はこれくらいだった、と手を上げた。
 セレナより小柄な彼女より、頭一つ分ほど低い。高さにして1.2mというところだろうか? 
「なるほど‥‥な」
「随分小さいであるな。人としてもかなり小柄ではあるまいか?」 
「ええ、パラでも無い限りは子供の身長ですね。すみません、最後によろしいですか?」
 セレナは大人びた口調で二人に言うと、もう一度彼女の方に向き直った。
「なんでしょう?」
「不思議な痣があったところは、どこですか?」
「私は手の甲です。ほんの少し血が滲んでましたけど、今はぜんぜん‥‥あっ!」
「どうしたのですか?」
 何かを思い出したような彼女にセレナは問う。なんでもない、と言いながらも彼女はさらに顔を赤らめて言う。
「あの子が、私に最初に触れたところだった気がします。どこか冷たい感じの感覚が‥‥」
 そう言って彼女は口を閉じた。
「なにやら不可解な部分が多い事件だな‥‥」
「けれども、共通点も‥‥ありすぎるのである」
「ええ。同じでした」
 冒険者達は頷き合う。
「月の光のような、美しい少年」
 攫われた女性達、全員が唯一残している最後の夜の美しすぎる記憶。
 その少年こそがこの事件の重要な鍵を握っているように思えてならなかったのだ。

 教会には何人もの人々が働いている。彼らの多くは教会内部や周囲に住んでいるが、中には通いで手伝いに来ている者もいるという。
「‥‥にしてもおかしいよな?」
「何が、でござるか?」
 隣を歩く閃我絶狼(ea3991)に黒畑緑朗(ea6426)は小声で聞いた。前を見ながら顔は背けず。絶狼も同じようにしながら自分が口にした疑問を補足する。
「だから、記憶が無いってことがだよ。気絶させられたまま一晩たったとしたってその前に何をしてたかくらい覚えてても良いもんだ、魔法では記憶操作は出来ないと思うんだが‥‥」
「確かに。誘拐されて眠らされて、しかも何もされなかったのであればそういうこともあるかもしれぬでござるが‥‥。これだけの人数を、騒ぎにならずに誘拐しているのだから、疑われずに近づける手段‥‥魔法か薬でも使っているのであるまいか」
 考えながら歩き続ける。
 彼らの前方には教会帰りの少女がいる。近いうちに正式に修行に入ると言う彼女は何物かの気配を感じていた一人であった。もう一人は教会で預かっている女の子。事情があり、彼女はめったに外には出ないという。
「前方で翠漣さんが見張ってくれてるけど、俺達も周囲に気をつけないといけないよな」
 彼女にはできるだけいつものように振舞ってくれるように言ってあった。
「捜査・護衛を大々的にやれば、犯人はよそで犯行を行う恐れがあるでござるしな。しかし‥‥」
 一種の囮のような形になってしまうことに心配は勿論あったが、今までの被害者から聞いた傾向からして数日中には手がのびる可能性がある。
 ならば普通どおり行動してもらい、その周辺を調べ、彼女を危険から守るのが一番だろうと冒険者達は考えたのだ。
「今のところは問題ないようだね。翠漣さんもいつもどおり‥‥どうしたんだ?」
 ふと黙り込んでしまった緑朗の様子に絶狼は首を傾げた。見れば足も止まっている。側に寄り添う犬も心配そうだ。
「何かあったのかい?」
「いや、魔方陣と聞いて、ずっと気になっていたのでござるよ。魔方陣‥‥以前、悪魔に関わったから思うのであるが、まるで‥‥」
「まるで‥‥なんだい?
「生け贄候補を探しているようだと‥‥ん!」
 ふと、緑朗は前を見た。
 頃は夕刻。逢魔が時。何時の間に入ったのか人が少ない裏町の広場で、彼女は足を止めていた。
 何かを見つめて。
 側にいた翠漣も気がついて駆け寄るのが見える。
「絶狼殿!」
「ああ!」
 二人と一匹は全力で駆け出して行った。

「う〜〜〜ん」
 合流してからずっと、歩きながらも唸りっぱなしのフレイアの肩を満はぽん、と叩いた。
 子供達から得られた情報が頭の中からどうも離れない。
『お姉ちゃんと手を繋いで歩く子供を見たよ』
『俺達の知らない奴。楽器もってさ。旅芸人とかかなって思ったけど?』
『でも、とっても綺麗な男の子だったよ。話してたお父さんみたいな人はブ男だったけど』
「綺麗な男の子ねえ〜。子供が犯人だなんて思いたくはないんだけど‥‥う〜ん」
「何時までも唸っていても仕方あるまい。そろそろ皆の所に行って相談するが良かろう。実はその醜男というのにも少し心当たりがあるしな」
 少し考えて、フレイアは俯いていた頭を頷いて上げる。
「そうだね。みんなに相談してみないと‥‥って、満! あれ!」
 満は目を瞬かせてフレイアの指の先を見た。
 そこには少年がいた。夕暮れにも鮮やかな金の髪の‥‥子供達が言っていたのと同じ。
「あれが、話に聞いていた子か? 確かに美しい子だが‥‥」
「そんなことより! あっち!」
 フレイアは指先を少年から外した所に向かわせる。そこには、少女が一人。そして‥‥
「まさか!」
「行くよ! 満!」
 返事も待たず駆け出していくフレイア。
 満も迷うことなく後を追っていった。

 少女を背中に庇いながら翠漣はその少年を見つめていた。
 広場の隅の木箱の上、リュートを持ったまま少年は口も開かずこちらを見つめている。
 ショートカットの金の髪。新緑の瞳。白い肌。
「確かに、綺麗な少年ですね」
 特に強いプレッシャーがある訳でもない。
 ただ、彼は佇んでこちらを見つめている。
「貴方は一体誰です?」
 返事は無い。
 旅芸人の一座を覗き、占い師の男を横目に見て、彼女は普通に帰路に着こうとしていた。
 危険もあるから気をつけて、とも言っておいた。
 だが彼女は今、足を止めている。
 周囲に人影は少ない。大通りから外れたこの近辺はもう少し暗くなれば危険な部類の場所になるだろう。
 なのに来てしまったのは、少年に眼を留めたからに間違いは無い。
 確かに彼には女性なら眼を留めるだけの美しさがあった。歳相応の可憐さも。
 だが翠漣は好感が持てなかったのだ。
 作られたような‥‥紛い物の美しさ。根拠無く感じる邪の気配。
 なぜか、背中が冷える程に。
「翠漣殿!」「大丈夫か?」
「皆さん! ええ、大丈夫です。ただ、彼が‥‥」
 何もしてこない。
 静に佇む彼を翠漣も、駆けつけてきた絶狼や緑朗も犬さえも見つめていた。
 捕らえようとか攻撃しようとか‥‥そんな気が出ない。身体が動かないのだ。
 彼は変わらない。
 だが彼の背後から美しい調べが聞こえるような気がして‥‥。
「満! その子捕まえて! みんな、何してんだい!」
 鮮やかな声に、冒険者達はハッと顔を上げた。
 見れば目の前にフレイア。
 何時の間に。本当に気がつかなかった。
「なにもの! 殺しはせぬ、ただ‥‥ぐっ!」
「満!」「満さん!」
 木箱が崩れる音と唸り声と共に、満が地面に転がった。
 慌ててフレイアは駆け寄る。攻撃をかわされ蹴りを入れられたようだ。
 子供とは思えない動き。
 翠漣は少女を庇い背後に逃がそうとし、絶狼と緑朗は改めて首を振り剣を握り締めた。
 少年に向かい飛び込むその時
「えっ?」
 少年は木箱から地面に向かって飛んでいた。
 木箱と言っても高いものではない。
 広場は他に隠れるものも無く、逃げ出したとしても直ぐに見つける。
 そんな二人の判断は
「何?」
 完全に裏切られた。
 箱が冒険者の死角となり、姿が見えなくなったのは数瞬。
 だがその数瞬で、少年の姿は完全に消失していたのだ。
 残っているのは‥‥リュートと
「猫?」
「ニャア」
 冒険者が驚き手を止めた瞬間。猫は路地の方へと駆けていった。
 瞬きの間に。もう姿は見えない。
「一体、何だったんだ?」
 それは、その場にいる全ての人間の疑問。
 答える者は、誰もいない。

 路地裏や、人気の無さそうな所。
 キャメロットも人の住む街。死角とも言える場所はたくさんあった。
「悪者は、こういうところにアジトを作ると相場が決まっているのである!」
 聞き込みの後、合流の時間までまだ少し時間があると冒険者達は犯人の潜みそうなところを捜していた。
「まあな。だが確証も無くうろつくには危険な所であるのに変わりは無い」
「ええ、皆様と早く合流いたしましょう。情報交換をいたしませんと‥‥あ、失礼」
 ふと、セレナの肩が通りすがりの人物と触れた。
 彼の頭を覆っていた黒いローブがはらりと落ちる。
「も、申し訳ありません」
 セレナは深く頭を下げた。ただぶつかっただけならここまではしない。
 隠していたであろうローブの下が見えてしまったから、だ。
 彼の口元は涼やかだった。長い髪も金色で眩しい程。だからこそ、顔の上半分が痛々しい。
 深く、赤黒く焼けた火傷。
「‥‥‥‥」
 男は黙ってローブを戻し、去っていく。
「びっくり‥‥しました」
「あの男。さっき聞いた占い師ではないか?」
 深呼吸するセレナの横でエヴィンは無表情で言う。
「そういえばレディ達が言ってたであるな。暗くて顔は怖いが腕はいいと評判の占い師がいると‥‥」
 マックスも頷く。彼がそうなのかもしれない。
「でも、なにやら良くない気を感じますわ。人に迷い道を指し示すと言う感じでは‥‥」 
 足元を黒猫が駆け抜ける。
 セレナは黒猫が通ったら不吉がある、などという迷信は知らないし信じない。だが‥‥

 だが、どうにも生まれた嫌な予感というものを、胸から消すことはできなかった。