【闇の魔方陣】 闇の囚われ人

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:12〜18lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月21日〜06月26日

リプレイ公開日:2006年06月28日

●オープニング

 ‥‥彼を見た者は、誰もがその姿に心奪われたという。
 美しい金の髪、新緑の瞳。
 才に恵まれ、誰からも愛されていた少年。
 だが‥‥、人の子の美しさなどはいずれ奪われてしまうものだ。
 遠くは時の神によって。近くは人の恨み、嫉み、妬みによって‥‥。
「はっ!」
 悪夢を見たのだろうか。彼はそまつな寝台から身体を上げて息を切らせている。
 流れる髪は窓から差し込む月光を弾く。
「眠れないのか?」
 暗闇から光る目が自分を見つめている。
 大丈夫、と彼は答え窓の外を見た。
 空に浮かぶ月は眩しいほどに美しい。何かを思い出すように顔を沈め苦笑すると‥‥
「俺は、こんなところにいていい人間じゃない。取り戻すんだ。必ず。あの月のように輝いていた日々を‥‥」
「‥‥」
 闇よりも暗い眼で語る彼に、何か言おうとする者は、誰もいなかった。


「事は急を要します。教会に属する娘が一人、行方不明となりました。戻っては来たのですが、今までの娘達と明らかに様子が違って‥‥」
 前回とは明らかに違う、焦りを抱いた顔で若い司祭はそう告げた。
「行方不明になったのは、リゼット。前回、冒険者の皆さんに護衛して頂いた娘です。彼女にはあれ以降教会からも注意を与えていたのですが‥‥ある日、他の娘達と同じように行方不明となり、翌日戻って参りました」
 路地裏に倒れていた娘に、衣服の乱れや大きな傷は今までと同じように無かった。だが‥‥
「リゼットはほぼ丸一日、視力を失っておりました。どうやら呪いをかけられたらしいと判明し、直ぐに解呪はなされたのですが視力は戻っても‥‥他の娘達が一日程度で戻った体力は今もって戻っておりません。上級の司祭様方は‥‥生命力を奪われたのではないか‥‥と」
 係員の背中にぞわりと冷えたなにかが走る。
「悪魔‥‥か?」
 頷いた司祭の顔を見ながら思い出す。
「彼女は人で無いものの恐ろしい気配を感じたと言っていました。それが悪魔である可能性は高いと思われます」
 そういえば、前回冒険者の一人が言っていたっけ。
『まるで悪魔が生け贄候補を捜しているようだ‥‥』
「呪いをかけられた為、リゼットは相手の顔を見ることはできなかったようです。ただ会話を聞く限り、相手は二人だったようだ‥‥。そして、自分の事を『惜しいが違う‥‥』と言っていたとも‥‥」
 教会で学ぶシスター見習いである彼女は、何故か他の娘達よりも誘拐時の記憶を覚えていたらしい。
「リゼットは無事に戻って参りました。ですが、『惜しいが違う』ということは娘を攫っている者達の目的はまだ終わっていないと言うこと。そして‥‥その目的の人物が見つけられたとき、リゼット以上の呪いや、恐ろしい何かが起きるかもしれないと言うこと‥‥」
 だから、と彼は続けた。
「改めて調査を依頼いたします。娘達を攫う犯人を捜し、その目的を調べて下さい」


 怯えた震えの止まらない娘に、少女は気遣うようにそっと手を握る。
「大丈夫? リゼット? そんなに怖かったの?」  
 はい、ともいいえ、とも言えずにリゼットは自分自身を抱きしめる。
 最初は、あの心引かれた美しい少年にもう一度出会いたいだけだったのに‥‥。
 だが、思い出すたび震えが走る。

『やはり、神の娘が一番か‥‥』
『だが‥‥この娘。悪くは無いが‥‥あの方はお喜びになられない。あの方は‥‥もっと強く、高貴な力を求めている』
『最初の時、間違いないと思えるほど、強い力を感じたのだがな‥‥』
『早く、捜すのだ‥‥黒の花嫁を‥‥』

「神様、どうか‥‥お助けください」
 華やかな六月の光の裏で、暗い何かが確かに蠢いていた。

●今回の参加者

 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

マギー・フランシスカ(ea5985)/ 青柳 燕(eb1165

●リプレイ本文

○不吉な予感
「ん?」
 突然振り返ったエヴィン・アグリッド(ea3647)の様子に隣を歩いていたレイ・ファラン(ea5225)はふと足を止めた。
「どうか? したのか」
「‥‥いや。何でもない」
 そうなのか? と微かに首を傾げたが深い追求は止める。
「なら先を急ごう。まず捜すべきはその占い師だろう?」
 レイの言葉にエヴィン首を縦に動かす。
 先の依頼で事件に関与しているのでは、と思える人物が二人いた。
 一人は誘拐された少女達の共通項。金の髪の美しい少年。
 だが、彼とは直接出会うことはできなかったし、それにセレナ・ザーン(ea9951)が言っていた。
『様々な要因から察して実行犯の【金髪の綺麗な少年】は人間ではなく、悪魔の化けた姿のような気がいたします』
 マギー・フランシスカや悪魔に詳しい者達の意見もそれに近しい。
 ならばまずはそれに関連しているであろう人間を調べた方がいいように思える。
 すれ違った限りあの男は悪魔には‥‥見えなかった。十分に怪しかったが。
「その占い師や前回の話をもっと良く聞かせてくれるか?」
「ああ」
 エヴィンは再び、歩き出す。独り言のように一度だけ思いを吐き出して。
「不吉な予感、いや気配がする。‥‥考えすぎだろうか」
 冒険者の背後を、黒猫が見つめていたと気付くこと無く。

 今年、この年のキャメロットはいつもと違っているようだ、と尾花満(ea5322)は路地を歩きながら思う。
 ‥‥熱い、熱病のような空気が漂っている。
 だが不快ではない。
 冒険者や、旅芸人達。巡礼者までもが楽しげな笑顔を湛えている。
「欧州ではこの時期が結婚のピークらしいな。ジャパンではまったく聞かぬ風習である故、かなり印象深いのだが‥‥」
「ジューンブライド、だろ? 確か六月に結婚すると幸せになるって言い伝えがあるんだよ」
 隣を歩くフレイア・ヴォルフ(ea6557)が笑って言う。
 結婚式というものは、当人は勿論それを祝う人々もどこか熱くするものだ。
 まあ自分達は六月に、という訳にはいかなかったが。
「フレイア? 思うのだが‥‥」
「なんだい? 満?」
 微かに目線を上げ、隣に立つ満の目を見る。真剣な眼差し。
「よもやこの事件」
 微かに喉が鳴る。
「その男とやらが悪魔の力を借りて結婚相手探しでもしておるのであろうか?」
 がくん! 身構えていただけにフレイアの膝が折れる。
「あのねえ〜。どこからそんな発想が出てくるんだい?」
「いや、決して不真面目な考えではないぞ。顔が不自由というその男、結婚したいという願いを悪魔に叶えて貰おうとして女性を集めているのではと本当に思ったのだ。結婚を願う男の気持ち、解らぬでもないからな」
 微かにフレイアの頬が赤くなる。
「それは‥‥つまり?」
「コホン!」
 小さな咳払いに、二人は慌てて背筋を伸ばす。
 そういえば、今は二人きりでは無かったのだ。青柳燕の生暖かい視線を受けて気合を入れなおす。
「じ・じゃあ、急ごうか?」
「そうだな」
 楽しげで明るい空気を暗く濁らせる闇を、少しでも早く打ち払わねば。
 そうして彼らは歩き出す。
 一緒に歩ける喜びを感じながら。

○差し出された手
 教会の廊下を歩きながら手元を見る。指先の『蝶』は動く様子が無い。
「異常は無しと。‥‥おや、お帰りなさい」
 夜桜翠漣(ea1749)はやってくる閃我絶狼(ea3991)に小さくお辞儀した。
「こっちの様子は変わりない?」
「はい。とりあえずは。そちらもあまり変化は無いようですね」
 まあね、頭を軽く掻きながら絶狼は頷く。
「いろいろ聞き込んでみたけど、どうも具体的な何かが見えてこない。‥‥畜生」
 やりばのない怒りを抱える彼を翠漣は促し歩き出した。
 歩きながら絶狼は、もう一つの気がかりを言葉にする。
「で? どうよ、あの娘の様子は?」
「以前に比べれば、落ち着いたようですけど、まだ‥‥恐怖の記憶が残っているようですね」
 今は、アリッサ・クーパー(ea5810)達が付き添っていると加え、翠漣は答えた。
「そうか。元気に、とはいかないまでもな、持ち直して欲しいものだが。‥‥慰問用に絶っ太置いてってみるかね?」
 もう少し落ち着いたらぜひ、と翠漣は微笑む。
「でも焦る必要は無いと思います。ゆっくりと心を落ち着けて貰いましょう」
「それはいいけど‥‥なんでそんなもん持ってるの?」
 話の区切りがついたところで、今まで聞かなかった事を絶狼は聞く。
 彼女の両手には服装には似合わない大籠が抱えられている。
 だが運ぶのを手伝おうかというのも憚られるその荷物は白い卓布、カソックやスカート。早い話が洗濯物だ。
「部屋で塞ぎこんでいるのも身体に悪いですし、いい天気ですからお洗濯でも一緒にやりませんかと誘ってみようと思うんです」
 女性ならではの励まし方だな、と絶狼は思う。
 ならば‥‥
「リゼットさん! 皆さんも、一緒に手伝ってくれませんか?」
 リゼットを部屋から連れ出す翠漣。彼女の意図を察してか、明るく声を上げながら洗濯を始める少女達。
 彼女達の場所に絶狼はそっと祈りを込めたタリスマンを置いて、教会を出た。
「惜しいが違う、か何が惜しかったんだろうな? 教会、悪魔、呪いによる失明、回復しない生命力、年頃の娘‥‥やっぱ邪悪な連中は神聖な、それも少女を生贄に使うってのが定番かね? 俺の知る所で、これ以上そんなことをさせるわけにはいかないけどな」
 巡回と聞き込み。自分にできることをする為に。
 
 蒼い空に生える白い洗濯物。
 濡れた身体を太陽にさらして少女達は空を見上げていた。
「暖かく優しき太陽。神が私達を見守って下さる証拠ですね。リゼット様」
 アリッサの言葉にリゼットの身体が硬くなる。
「‥‥神は本当にいるのでしょうか」
 シスターのとは思えぬ言に冒険者達は一瞬目を瞬かせた。
「だって‥‥神は私を守っては、下さらなかった。あんなに‥‥」
 あんなに恐ろしかったのに‥‥。自分の身体を抱きしめるリゼットはこの快晴の下、震えている。
「怖いですか? わたしは怖いです。だって悪魔かもしれないですよ」
「えっ?」
 あまりにもあっさりと恐怖の根源を口にした翠漣に、リゼットは俯いていた顔を上げた。
 苦笑と言えるものだったかもしれないけれど、間違いなく彼女翠漣は笑っている。
「どうして‥‥、笑えるんです? 殺されるかと思ったのに‥‥どうして」
「わたしは悪魔を倒すことができる。わたしだけでは勝てない時もあるけど助けを求めることはできます。だから、きっと負けません」
「神はいつでも見守っておられますよ。神に仕えるものを悪魔に渡すようなことをセーラ様はお許しにはなりません。貴女の苦しみはきっとセーラ様が貴女に与えた試練なのです」
 翠漣の言葉をアリッサが引き継ぐ。
「皆さんは‥‥お強いですね。私には‥‥とても」
 思い出すだけで身体が強張る。だが
「強さってなんなんでしょう」
 そんな彼女を包み込むように翠漣は微笑んだ。漂ってくる香りと同じように優しい笑みで。
「いくら力が強くても、ちょっと油断すれば、そこで終わりです。力が強くなろうと心が折れればそこから崩れます。でも心が強いだけでもダメ。強さを定義するのは難しい。貴方にとって強さとはなんですか?」
「私の‥‥強さ?」
 ふわり、手が重なる。リゼットの手に重ねられたセレナの手が自分を励ましているとリゼットは感じていた。
「確かに恐ろしいことを思い出すのはつらい事ですわね。ですが、犯人を捕らえることができなければ、犯人が目的を達するまで次々と被害者は増えてゆくことになりますわ。もしかするとリゼット様のお知り合いが次の被害者になるかもしれません」
「そうですね、貴方が何かを見たかは存じませんが其のことを教えて下さることによって他の信者の方々が襲われるのを未然に防げるかもしれません。そして、それができるのは貴女だけです」
「特に犯人が求める『当たり』の被害者はリゼット様よりさらに危険な目に合うと思いますの。そんな被害者を出さない為にも、リゼット様、どうか勇気を出して下さいませ」
「私、誰かを? ‥‥勇気‥‥」 
 折れていた少女の心が頭をもたげる。それを見ると翠漣は、身体を起こして立ち上がった。
「強さとは、戦うこと、だけではありません。貴女が何を強さと思うかそれは、貴方次第です」
 そろそろ結界の時間も切れるだろう。仲間達と共に戻ろうとする翠漣は、
「行きましょうか?」
 リゼットに手を差し伸べた。
「はい。あの、聞いていただけますか? 私も強さを持ちたいから。神の名にかけて‥‥」
 彼女は震えながらもしっかりと、前を向きその手を握りかえしたのだった。

○落とした何か
 少し離れた路地からレイとエヴィンは建物の影に店を構えるその占師の卓をじっと見つめていた。
「あれが、件の占い師か‥‥」
 位置があまり良くないのに、客は結構やってきているようだ。
 腕がいい、というのは事実なのだろう。
「ここからだと良く見えんな。服装は似ているが‥‥おい、本当に行くのか?」
 歩き出すレイにエヴィンは手を伸ばす。
「やはり接触してみないと解らん。一緒に来てくれるか?」
 微か肩をすくめるとエヴィンは頷いて、レイの後を追った。丁度人の切れたタイミング。
「ちょっといいか?」
 レイは布で顔を隠した占師の前に立った。
「何をお望みでしょうか? 失せ物、探し物、それとも恋の行く先、未来の行方?」
 少し甘い、聞きほれるような声に問われレイは小さく唸る。そういえば何を頼むか考えていなかった。
「あ〜っと‥‥探してる人物がいるんだが、それは見つかるかな?」
「暫しお待ちを‥‥我が水晶が貴方の未来を予見しましょう。この水晶を見て下さい」
 レイの斜め後ろからエヴィンは占師を観察していた。
 この間、会った男に間違いは無い。
 顔の傷に不似合いな美しい金髪。水晶に翳す手は若い。まだ20代から悪くしても30代の筈だ。
「ん?」
 その時微かな違和感にエヴィンは顔を上げた。
 小さく予見の呪文に紛れて聞こえた、あれは魔法では無かったか? 占師が一瞬銀の光に包まれたように見えたのは、あれは気のせいだったのか?
 自分達の周囲に違和感は無い。だが‥‥
(「この感覚は何だ?」)
 目の前の人物にさっきまで持っていた怪しいと思う気持ち、敵対感が消えていく。
 魔法を意識し、抵抗したからこそ、自分はおかしいと感じている。
 だが‥‥。エヴィンは椅子に座っているレイを見た。水晶の中を見ている彼はこれに気付いているのだろうか?
「探し人は見つかります。貴方にとってよき出会いとなる筈。その人物を大事にされるとよろしいでしょう」
「ああ、ありがとう。ためになった」
 金を置き、立ち上がるレイをエヴィンは強く引き寄せた。そして路地の影へと。
「レイ! 大丈夫か?」
「何がだ? あの占師、そう悪い奴でも無いように思うんだが‥‥」
「来い!」
 掴んだ手はそのまま、エヴィンはレイを引き、早足でその場を離れた。
 足元をびっこの黒猫が通り過ぎていく
 占師は追ってはこない。
 二人は走る。この気持ちを落とさぬうちに確かめないといけないから。

「満! 彼女を頼む!」
「解った」
 盾になってくれていた満の足元に、少女を横たえてフレイアは一歩踏み出し矢を放った。
 対象は子供。一瞬迷うが、振り切って足元を狙う!
『‥‥!』
 不思議な悲鳴と共に少年は足に刺さった矢を強引に抜き取って走り出した。
 路地裏の子供達などに聞き込みをしていた矢先、彼らはその場に出くわしたのだ。
 服装からして、巡礼のシスターか、冒険者。
 彼女が路地裏、膝を抱えて泣く金髪の少年に手を差し伸べ‥‥崩れるように倒れ落ちる瞬間に。
 手に浮かんだ白い玉を見て少年は小さく舌打ちし、今度は逆に自分から少女に手を伸ばそうとする。
 それを見た瞬間、身体が動いた。同時に飛び込み、満が拳と蹴りで牽制。
 その隙にフレイアが少女を掻っ攫って、間隔を開ける。そして再び攻撃に入ったのだ。
 少年はギリギリで満の攻撃をかわす。手の中の白い玉が落ちて転がった。
 悔しげにそれを見つめるが拾っている暇は、無い。
 振り返り駆け出し、路地の向こうへと走り去る。
「待て!」
 フレイアは懸命に追った。だが‥‥
「うわっ!」
 突然足元に飛んだ黒い光。地面が抉られるように弾ける。
 目を閉じ頭を押さえ、その隙に‥‥見失った。
「大丈夫か?」
 戻ったフレイアは答えず満の足元の少女にポーションを飲ませる。だが青ざめた顔は戻らない。
「まさか!」
 向こうに落ちた白い玉。それを拾いフレイアは少女の口元に寄せた。
 吸い込まれるように入っていく白い玉。
 ‥‥目を開ける少女。
「あの私は、一体‥‥」
「フレイア?」
「やっぱり‥‥」
 ぎりりと噛んだ彼女の唇には微かに紅いものが滲んでいた。 

○黒の花嫁
 白い光に身体が包まれる。頭から靄が晴れたように心が覚醒する。
 レイとエヴィンは深呼吸し手をぐるんと回した。
「やはり、魔法にかかっていたか。すまないな。アリッサ」
「いえ。どういうことですか? あの魔法は?」
「あの占師がかけたのには間違いないだろう、あいつ何か疚しい所があるに違いない」
 教会の一室に冒険者達は集まっていた。情報の整理の為、そして事件の真実に近づく為の相談だ。
 一つ解ったことがある。
 リゼットの情報からして少なくとも二人以上の誘拐犯は『あの方』の為に『黒の花嫁』を捜している。
「強く高貴な血を持つ『黒の花嫁』、神の娘ということは聖職者を狙うのかもしれません。リゼットさん本人を狙うことはもう無いでしょうか」
「だが教会に属する者を狙ってくる可能性はある。教会の警戒は怠れないぞ」
「教会に預けられている子もいらっしゃいますわ。貴族とか‥‥いろんな事情の方も。その中に‥‥」
 その時、突然扉が開く。息を切らせたフレイア。その背後には少女を抱えた満がいた。
「どうしたんです?」
「アリッサ! この子の治療頼む! 一応薬は飲ませたし大丈夫だと思うけど」
 部屋の真ん中に横たえられた少女は旅の聖職者。また被害者が出たのかと冒険者の顔が青ざめる。
 治療に入るアリッサの背後で、フレイアは満と共に事情を説明し、そして告げた。
「間違いない。この事件の背後には悪魔がいる」
 それは、確実な宣告。

 この先にやってくる冒険者達の苦闘への宣告だった。