【闇の魔方陣】 暗色の魂達

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:11〜17lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 24 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月07日〜07月12日

リプレイ公開日:2006年07月14日

●オープニング

 夜の闇の中で、会話する二つの魂。
『どうするつもりだ? よりによって冒険者に追われて手傷を負わされ、さらに‥‥』
『正体を、見られたわけではない。次に会った時には必ず!』
『そうであって欲しいものだな。だが、奴らのせいで花嫁探しは、完全に乗り上げてしまったぞ』
『確かにな。だが、まだ手は有る。心配する必要は無い』
『正直に言えば、花嫁など俺には興味はない。だが俺の望みを邪魔するというのであれば、だれであろうとも‥‥な』
『ふっ、その心と魂こそは契約者に相応しい。お前が役割りを果たすなら、望みは叶うだろう‥‥』

 扉が開かれた。
 お客かと前を見るが視線の先には人影が無い。
「ん? あっ!」
 首を傾げるより早く彼らの足元。
「ねえ、冒険者のお兄ちゃん、お姉ちゃん」
 その女の子はひょっこりと、カウンターから顔を覗かせた。
「おや、あんたは?」
 目線を下に降ろした係員の顔が微かに緩む。
「ヴィアンカ。勝手に先に行っては危ないと言ってあるでしょう? 申し訳ありません。このような場所に不似合いであるとは解っているのですが、どうしてもついてくると聞かず‥‥」
 後ろから息を切らせながらやってきた若い司祭が、こつんと軽いこぶしで頭を叩いた。
 拗ねたように頬を膨らませる女の子を宥めるように係員は笑って頭をなでてやった。
「いや、知らない顔じゃないから気にしなくていい。で、どうしたんだ?」
 意味深な言葉に首をかしげながらも若い司祭は、そうだと頷いて用事を告げる。
「先日、皆様に調べていただいた事実から様々な手段を講じることができました、これも皆さんのおかげと心から感謝しております」
 今まではっきりとしなかった敵の存在がデビルとはっきりしたこと。
 そして神に仕える娘を狙っていると解ったことは、防衛の面で大きな収穫となったという。
、悪魔がどうやら若い女性。しかも神職に有る者を集中的に捜し狙っていると判明したことで、その後教会の娘達や、旅の者達にも注意を促し、結果その後、事件らしいことは起きずにすんでいるようでだと彼は語る。
 冒険者達にもホッと一息の思いがあった。
「ですが、教会の娘は未だ体力が回復しておりません。悪魔が相手と考えれば、おそらくデスハートンで魂を奪われたものと思われます。魂を取り戻さない限りは一生このままですし、そうでなくても悪魔がこの街を跋扈しているのはやはり許されることではありません」
 だから、と続けられた依頼の内容は一つ。
「デビルを退治し、その脅威を取り除いて下さい」
 だが無論、それは簡単なことではない。デビルが今回の事件の本ボシと解っても、原因も、能力も何も解っていない。ましてデビルには協力者がいる可能性がある。前回、被害者の少女が知らせてくれた二人の会話を思い出せば、油断など一欠けらも許されそうに無いのだ。
「良ければ、私も手伝おうか〜。っていうか、手伝わせて? リゼットの仇を討ってあげたいの!」
「えっ?」
 今まで。黙って司祭の言葉を聞いていた女の子が、声を上げた。
 思いもかけない申し出に、冒険者達より何より、怒って声を荒げたものがいる。
「ヴィアンカ! どうしてもついてくると言い張って聞かなかったのはそれが理由ですか? ダメです! 貴女は教会に預けられている身なのですよ。しかも‥‥」
 司祭の諌める声など、少女には聞こえない。
「だって、リゼットは私の友達だもん。あんな目に合わせられて許せないよ。それにね、一緒に外出した時にね私、見たよ。変なおじさんと、凄い綺麗な男の子。リゼットに占いした後、路地の裏の方に入っていったの。場所も覚えてる、だから、ね?」
「ダメです。いくら世話役のリゼットが無理を出来ない今、貴女を勝手に外に出すことはできません!」
 お願いしますと一礼した後、半ば無理矢理の様子で、司祭は少女の手を引いた。
「だから、助けたいのに〜。お兄ちゃん、お姉ちゃん。お願い〜!」
 引きずられ去っていった女の子の申し出はともかく、冒険者達のやるべきことは決まっているだろう。

 忘れられるだろうか?
 あの恐怖に怯えた少女の涙を。
 悲しいまでの思いを。

 光を信じるものと、闇を追い求めるものの戦いが今、始まろうとしていた。

●今回の参加者

 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3647 エヴィン・アグリッド(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6970 マックス・アームストロング(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

○託された願い
 神の前に少女は祈りを捧げる。
「リゼットが元気になりますように。そして、お兄ちゃんやお姉ちゃん達が、無事に戻ってきますように‥‥」
 足元に佇む小さな獣。それを抱きしめて少女はまた瞳を閉じた。

「ちゃんと待ってくれるかねえ? あの子」
 思わず口をついたという感じのフレイア・ヴォルフ(ea6557)の呟きに
「不安は残りますが‥‥今は、後ろを振り向いている時間はありません」
 夜桜翠漣(ea1749)は揺ぎ無い眼差しで前を見た。
「まあ、絶っ太を置いてきたし、大人しくしてくれるだろ。っていうかそうでないと困る」
「‥‥あの子に怪我をさせるわけにもいかないしね」
 フレイアと閃我絶狼(ea3991)の会話に大丈夫、とセレナ・ザーン(ea9951)は割り込んだ。
「ヴィアンカ様は決して無思慮な子ではありませんわ。自らの成すべき事を理解してくれたなら、きっと待っていてくれるでしょう」
 静かに、信頼を込めた声で彼女は手を祈るように組んだ。
 教会でのことを思い出す。

 翠漣がリゼットを見舞い、戻ってきた時、絶狼とヴィアンカは神の前で‥‥言い争っていた。
「私も連れて行って。お願い!」
「連れて行ける訳ねえだろう! 俺達は遊びに行く訳じゃないんだ」
 はっきりと突き放す絶狼になおも食い下がるヴィアンカ。
「ついて来られた所で被害者が増えるだけなんだ」
「そんなことない! 私にだってできることがあるもん! 連れて行かなきゃ教えないし、それに、私‥‥」
「止めな!」
 ヴィアンカは振り返った。そこには硬い表情のフレイアがいる。
「えっ?」
「お前さんが動くことで、誰かが死ぬかもしれない。そしたらね、お前さんを大事に思う人たちに顔向けできないよ」
「それに俺達は仇を討ちに行くんじゃねえ、悪魔の被害をくい止めに行くんだ」
「仇討ち、恨みに対して暴力で返すのは良くない事‥‥、教会ではそう教えているのではありませんか? わたくし達はリゼット様達を救うために戦うのですわ。ですから仇討ちには協力できませんの」
 絶狼だけでなくセレナも味方にはなってくれない。ヴィアンカはそれが解っていてもなおまだ退こうとはしなかった
「だったら、私も戦う。リゼットを助けるために戦うの!」
 真っ直ぐな眼差し。大事な者を守りたいと願う思い。それが、誰かを思い起こさせてセレナは自分の眼差しと心が優しさを帯びるのを感じていた。
 だが、それでもここは譲れない。
「ヴィアンカ様は魔法の武器をお持ちですか? 悪魔やその協力者への有効な手立てがおありでしょうか? 足手まといにならないと本当に言えますか?」
「‥‥」
 俯く少女に
「でも、貴方にしかできないこともあるのですよ」
 翠漣はそう囁いた。
「確かに大切なものを守るためには時に何かを傷つける必要があるのかもしれません、でも、今はそれよりも大事な、貴方にしかできないことがあると思うのですが‥‥」
「私にしか、できないこと?」
 そう。
 静かに頷いてセレナはヴィアンカの手を取る。
「戦うことだけが『リゼット様を救う』手段ではありませんわ。わたくし達に悪魔の情報を伝えてくださることも、リゼット様を傍で励ますことも、『リゼット様を救う』手立てになりますわ」
「人の心の闇は形ある悪魔なんかより手ごわい、リゼットさんのそばに居て支えになってほしい。リゼットさんの事を知り、本当に想う貴方ならわかってもらえますよね?」
「それにね、せっかくお日様の下に出てきたんだろう? 大事な人もできた。ならもう闇に戻っちゃいけないよ」
 顔を上げた少女の前に、ほら、と絶狼は小さな獣を放した。その獣は決してなつく訳ではない。
 ただ、無言で足元にいた。
「絶っ太置いてく。そいつしっかり見張っててくれ。それも『できること』だ」
「‥‥うん。解った」
 小さな瞳と瞳が合った時、ヴィアンカはそう言って顔を上げた。
「ならやくそく。絶対、リゼットを助けて‥‥」
「ああ、必ず助けるよ」
 フレイアの手が、ヴィアンカの手を叩く。その手を祈るように抱きしめて彼女は頷いた。

「託された思いと、約束。絶対に事件を解決いたしましょう」
「ああ」
 フレイアは頷き手を握り締める。その手はヴィアンカのぬくもりが残っているようだった。

○少年と男
 路地裏の小さな小屋。
 その一つをレイ・ファラン(ea5225)は物影から見つめていた。
「あそこが、例の占師の住処らしい、ということであったな?」
 尾花満(ea5322)の言葉に静かに頷く。
「ああ、時に子供づれだったり、時に黒猫と一緒だったりするらしいがな」
「それは‥‥」
 満は言葉を捜した。
 悪魔がらみのこの事件。だが、情報が足りない。
 確実なのは、悪魔と思われる金髪の美少年が絡んでいるということと、その少年の周辺にあの占師がいるということだけだ。
 ならば、警戒しつつも踏み込んでみるべきなのかもしれない。
「おそらく互いに近くで行動して居ると思われるし、片方を押さえればもう片方を引きずり出すことも可能になるであろう」
 それぞれに思いながら視線を交差させる。
「! 戻ってきた!」
 身体を隠し、気配を隠し占師の帰還を確認する。
 彼は確かにあの中に入っていった。
「明かりがついている。人の影も見える。家の中に他に誰かいるのか?」
 確信が持てぬまま小屋を睨み続けるその頭上から
「ん? わあっ!」
「し、静かにである!」
 飛びこんできたものがあった。まだ残る夕日がマックス・アームストロング(ea6970)だと冒険者に知らせ安堵させる。
「どうしたのだ?」
「先ほど、ヴィアンカ殿からの情報を得られたのである。それによると彼女はリゼット殿とこの周辺で、美少年と占師の二人組みを見たと言っていたのだとか。幾度かあった悪魔との戦闘。行方不明になり、戻ってきた乙女達の発見場所もここからそう遠くは無い。と、いうことは‥‥」
「やはりここが、奴らの本拠地の可能性が高い、ということだな。なら、行動有るのみだ」
 剣を握りかけるエヴィン・アグリッド(ea3647)に頷きながらも、レイは少し待って、と手で彼を押さえた。
 周囲はすっかり濃紺に染まっている。 
「あの男、自分の容姿や声が他人に与える影響を自覚し、それを効果的に使う方法を知っている。それに月魔法は夜こそ本領を発揮する」
 彼が悔しいのが解る。前回、あやうく魔法をかけられそうになったあの悔しさは自分のものでもあるのだから。だが
「ここは冷静に。皆と一緒に仕掛けよう。決行は明日の朝、だ」
「解った」
 振り返り、見張りを除いて彼らはその場を離れる。
「さて、吉と出るか、凶と出るか‥‥」
 小さく呟いた満の独り言が、不思議なほど冒険者の明日を言い当てていた。

○少年と占師と悪魔
 吉と凶で占えば、冒険者達の目は凶と出たのかもしれない。
「何か、御用ですかな? 随分と私をお探しのようでしたが」
 朝、占師が家から出てくるのを確認し、冒険者達はそれを取り囲んだ。
 幸い、この路地裏なら人目もつきにくい。
 周囲を取り囲まれても平然とした顔で言う男に、翠漣は確信した。
 この男は、決して人の説得などで自らの考えを変える人物ではない。
 ならば踏み込むのみ! 指輪を確認しながら向かい合う。
「この家の中に悪魔がいるようです。私達は人に害を与える悪魔を探しています。中に入らせて頂けますか?」
「イヤだと言ったら?」
 口調が変わる。表向き穏やかな口調が殺気を孕む。冒険者達は無意識に身構えた。
 六人の冒険者を前にしても目の前の男が変わる様子はない。
「力ずくでも。貴方が信念の元に自らの意思で動いているなら、わたしは貴方を否定しない、そして、わたしの信念の為に貴方を倒します」
「奇遇だな。私は自分の信念を曲げる気は無い。望みを叶える為には何でもするし、誰であろうと容赦はしない」
 顔を隠していた布を取り払う。直視した顔に冒険者も息を呑んだ。一度見たことがある者さえも。
 黒く爛れた顔面は、半分が美しく、端麗なだけに悲惨に見えた。
 一瞬の空白。
 その隙に男は呪文を詠唱した。踏み込む冒険者、その眼前に暗闇が展開される。
「くそっ! やっぱり来たか!」 
 一瞬足を止めたエヴィンは小さく唸る。レジストマジックの魔法はかけておいたが、このような周囲に効果を及ぼす魔法には、仲間が言ったとおり、やはり効き目は無い。
 だが、
「少なくとも直接攻撃の魔法は来ないはず!」
 側の仲間の気配を確認し、エヴィンは一気に闇を走り抜けた。
 わずか数秒が長く感じる。そして闇を抜けた後、占師は先の場所から消えていた。
 攻撃の為の助走をとったのか、それとも逃げようとしたのか。身を返す占師を
「逃がさぬ!」
 横から回り込むように満と絶狼が押さえる。
「お前の考えていることなど、お見通しだ!」
 間合いを開け、全員が戦闘力を奪われないようにという作戦が当たった。
 これ以上呪文を唱える時間は作らせないと言わんばかりに満と絶狼、そして闇を抜けたエヴィンが武器を構え肉薄していく。
「く、くそっ!!」
 ぎりぎりで、かわす攻撃は二回が限度、三度目、大槍のリーチが確実に占師の足を狙い‥‥捕る!
「ぐああっ!!」
 膝をつき、俯く男。そこに‥‥剣が拳が、迫っていた。
「さあ、白状してもらうか? お前は一体何の目的で‥‥?」
 絶狼の問いに下を向いたまま、男は答えではない、答えを出した。
「出て来い! さあ、私を助けるのだ!」
 翠漣は指輪に目をやった。石の中、蝶が羽ばたいている。
 これ以上無いほどに、強く、強く!
「気をつけて。悪魔が来ます!」
 古ぼけた小屋の扉が開き、何者かが出てくる。
 占師の声に応え出てきたのは予想通りの美しい少年。
 手元には、なにやら不思議な白い玉を持ち‥‥
「何をしているんだい? ガゼル」
 無垢に微笑んで。
「あいつは!」
 後衛のさらに後ろ。占師と相対する仲間から離れて状況を見つめていたフレイアは怒りと共に矢を番えた。
 あの時見た人物と同じ顔。ならばあれこそが‥‥悪魔!
「相手も罠なりの出迎えの準備をしてるであろう。なら突撃有るのみ!」
 同じように上の上、下をずっと伺い、時を待っていたマックスは自らの命を預けた箒に力と魔力を込めた。
(「相手が変身、もしくは魔法を使う前に一気に決める!」)
「うおおっーー!!」
 矢を番えたままフレイアはタイミングを見計らっていた。マックスは悪魔の登場と共に突撃をかけると言っていた。
 ならばその瞬間を狙えば、いかに悪魔といえど隙ができるはず。
 頭に狙いをつけ、矢を放つ。身動き一つしない少年に全力のスマッシュを打ち込んで、一気に殲滅する。
 伏兵二人の攻撃が、今、相手を滅ぼさんと奔ろうとした直前。
「えっ?」
 セレナは見た。敗北を目前に助けを求め今破れようとしている男が笑っているのを。
 そして、足元を駆け抜けるあれは?
「ダメです! 待って!」
「!」「!?」
 セレナの叫びは届いた。
 だが、矢は放たれ、剣は抜かれている。そして、それはもう返らない。
 ザシュッ!
「うわあっ!」
 鈍い、肉を切り裂く音。骨を砕く音がした。天地を裂く悲鳴が轟いた。白い玉は地面を転がる。
「な・何だ?」「‥‥まさか!」
 一番最初にそれを感じたのは攻撃を放った二人だった。
 今の感触は紛れも無く‥‥
「悪魔じゃ‥‥ない?」「人間の子供?」
 弓を取り落としたフレイアを見て、満は少年の元に駆け寄った。
 地面に崩れるように倒れた少年の血肉は紛れもなく、人のもの。
 最後の瞬間の制止のおかげか即死の致命傷こそ免れているが、このままでは命が無くなる。
 とっさに薬を喉に流し込む。
「フレイア! 薬を! 早く!」
 その呼びかけがフレイアの心を呼び戻した。駆け寄るより早く薬を差し出す。
 そして冒険者は見つめていた。ほんの半刻前まで敗者になるはずだった人物が、
「望んでいた器を、簡単に壊してよかったのか? ガゼルよ‥‥」
「器など、また捜せばいい。大切なのは俺だけだからな」
 目の前に現れた勝ち誇ったように立ち上がるのを、見つめていた。
 背後には大きな黒豹がその背を守るように立っている。
 攻撃はできない。男の指先はさっきの少年を指している。
 瀕死のあの子供にもし、魔法の一撃でもあればその命は吹き飛んでしまうだろう。
 レイは唇を噛み締めながら
「人を傷つけ、少女の魂を狙う、お前達の目的は何だ! その傷を消すことなのか。それとも‥‥」
 叩きつけるように占師ガゼルに問いかけた。
「俺の目的はただ一つ。俺に相応しい姿を取り戻し、謝った運命を正すことだ。その為には他者などどうでもかまわん。この身、この命さえとうに悪魔と共にある」
「この者の力は、まだ必要だ。黒の花嫁を見つける為‥‥そして御方の復活の為。今は、まだ失う訳にはいかぬ!」
 二人の周囲に黒い炎が燃え上がった。踏み込もうとするエヴィンは
「くっ!」
 思わず足を止めた。邪を拒む結界とは正反対の邪界が結ばれている。
「ここが潮時か。ガゼル、戻るぞ。このままむやみに花嫁探しを続けていも、邪魔者が増えるだけだ」
「もう一度調べなおす、か。良いだろう。‥‥冒険者、我々の邪魔をするな。もし邪魔を続けるなら次は、もっと血が流れるだろう。お前達のも、そうでないのもな」
「待て!」
 冒険者の前の地面が抉れるように吹き飛んだ。飛ぶ埃と土に奪われた視界が戻ったとき、そこにはもう、誰もいなくなっていた。

○誓い
「リゼット! 良かった!」
「ヴィアンカ」
 頬に健康な赤みが戻った友に少女は抱きついた。
 少年の持っていた白い玉は冒険者の手を経て、正しい主の下へ戻る。
 依頼の成功に安堵しながらも、笑顔を浮かべる者は誰もいなかった。
「悪魔は、あの少年の姿を借りていたのですね。情報と、推察が足りませんでしたか」
「あたしのせいで‥‥あの子は」
「いや、それを言うなら我が輩が‥‥」
「フレイアのせいでも、マックスのせいでもない。あえていうならあの悪魔達のせいだ」
 満は言って、さっきのことを思い出した。
 教会で治療を受けた少年は、先ほど意識を取り戻したという。
 親を亡くして孤独だったあの子は
『君は俺の子供の頃によく似ている』 
 と男に拾われて共に旅をしてきたと話した。
 家族とも思っていた人物にとって、自分は道具だったと思うことも無く。
「あの男。そして悪魔。絶対に捨て置く訳にはいかないな」
 エヴィンは腕組みしながら空を見上げた。
『黒の花嫁』『御方の復活』
 その言葉はどれも背筋を凍らせずにはいられない。
「次に会ったときは、必ず!」
 絶狼の拳が赤く染まる。
『邪魔をするな』とあの男は言った。だが、そんなことはできない。

「今度会ったら‥‥絶対に‥‥」

 それは、誓い。
 神と、彼らに弄ばれた子供達、そして自分自身に誓った強い思いだった。