【思いを継ぐもの】箱の中の未来
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月07日〜10月12日
リプレイ公開日:2006年10月14日
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●オープニング
それは、遠い記憶。
在りし日の幸せな庭の思い出。
「リフ、そなたには私の一番大切なものを託そう。できるなら私があの子達の元に行くまで、守ってくれ‥‥」
「旦那様、そんなことは、どうかおっしゃらないで下さい」
「そうですわ。私、いいえ私達は最後までお仕えいたします」
「いや‥‥、自分の事だからな、よく解っているつもりだ。お前達には面倒をかけるが‥‥最後にはきっと神が導いて下さるだろう。幸せへと‥‥な」
忘れられない。あの優しい笑顔。
身寄りの無い自分達を最後まで守ってくださった主人の‥‥思いを。
イギリスを揺るがす大事件がようやく収束を迎えかけた頃、それを見計らったかのように彼はやってきた。
「冒険者の皆様。もし、お手が空いたのでしたら、私の依頼を聞いては頂けませんでしょうか?」
やってきたのはスタイン。ある家に仕える家令だった。
彼の訪れに、下がる頭がある。
かつて、一人の青年を守護する依頼を受けた。
青年はある陰謀に巻き込まれ、記憶を失っていた。それでも、何かをなすべきだと口にする青年をスタインは守り、希望を成し遂げさせて欲しいと依頼したのだ。
冒険者は彼を狙う陰謀の真実を知り、それを為す悪人達を捕らえることに成功した。
だが、その過程で青年の命を危険にさらしてしまったのだ。
青年は命をとりとめ、先日意識も取り戻したという。
報告を聞き、依頼人であるスタインは冒険者を責める事は一切なかった。
代わりに静かな口調で告げる。
「依頼は一つ。若い二人の未来を開く手助けをして欲しいのです」
抽象的かつ、難しい依頼を‥‥。
「あの事件の後、私はリフとルシール。二人の若者に、伯爵家を引き払い我が主の下で働かないか、と言いました。しかし、二人は別々の理由で断ってきたのです」
青年従事リフは鍵を握り締めて言った。
『私は、全てを失った者。守るべき主を守れず、愛する者も忘れ、主人の仇をとることもできなかった愚かなな男。しかも、旦那様は‥‥私を信じては下さらなかった。こんなはりぼての鍵を命をかけて守ってきた自分の愚かさを思うと、もう新しい主にお仕えする自信が、いいえ、何をする自信も無いのです』
「あの事件の後、リフは男達が奪おうとしていた宝石箱を、預かっていた鍵で開けようとしました。しかし、鍵は合わず、開かなかったのです。それ以来、自分にかつての主人は嘘をついた。自分は信頼されていなかったのだと落ち込んで、下町の小さな家に隠れるように住み着いてしまったのです。心折れたかのように‥‥」
メイドルシールは主から貰ったと言う不思議な形の十字架を握り締め、言った。
『私は、もうあの人を思う権利がありません。それに私は‥‥ご主人様の‥‥思い出の館を守らなければ』
「ルシールは、老伯爵の家に自らの命を捧げると言っていました。彼女はあまりにも深くあの老伯爵の家と思い出に括られてしまっている。そんな事を、主人も決して望んではいないでしょうに‥‥。ですが、同時に私は彼らの気持ちがよく解る。解りすぎるほどに。‥‥私では彼らを説得できない。故に皆さんにお願いいたします。二人を説得し、未来」
そして彼は、机の上に箱を置く。
美しい宝石で飾られた箱。家督横領の兄弟達が金目のものとして奪っていた箱である。
「この箱をお預けします。聞けばこの箱はリフとルシールに故伯爵が管理を任せると遺したもの一つ。リフの鍵では開きませんでしたがきっと開ける手段がある筈。そして、それはあの子達の未来を開く手助けになるでしょう」
言葉を尽くして説得するのも良い、行動に示しても良い。箱を開けれれば言葉以上に説得力のあるものが見つかるかもしれない。
方法は冒険者に任せるとスタインは言う。
「あの子達が未来を見た上で、選んだ道であれば、どのような道であろうと祝福しましょう。我が主に仕えよと強制するつもりはありません。ただ、あの子達に未来を。よろしくお願いいたします」
彼らを慈しむ、スタインの心を思い冒険者は箱を手に取る。
精密な箱。ジーザスの彫刻が刻まれた箱。
かつて、リフが持っていた鍵に勝るとも劣らない美しい箱。
箱。
‥‥なぜか、ふと思い出した。真実を見つけ出すのに精一杯だったあの依頼の日。
目の端に通り過ぎたもう一つの箱を。
最低限の調度しか残されていなかったあの部屋の応接間に、何故あんな箱が飾られていたのだろう‥‥と。
少女はその箱をそっと応接間の一番大切な場所に飾る。
古い、飾り気の無い小さな木箱。
老伯爵が亡くなった時、その枕元から落ちた箱だ。
何故、こんな箱を老伯爵は大事に持っていたのか解らない。
だが、今となっては大切な形見だ。
「旦那様‥‥。せめてお別れを言わせて頂きたかった。何を、思っておいでだったのですか‥‥」
箱は答えない。
その内に秘密を隠したまま、静かに口を閉ざしていた。
●リプレイ本文
○過去に囚われた二人。
「ご存知ですか? ”箱の”中には”八個の”色々な想いが詰まっているものですよ‥‥」
反応なし。周囲の様子は冷たい以前のものだった。
「‥‥う〜ん、今の駄洒落で笑うところなんですけど‥‥無理ですか?」
流石に無理かもしれない。場を和ませようと思った大宗院透(ea0050)の意図は見事なまでの空振りに終わったが、仲間達の心を僅かに緩めることには成功したようだ。
くすり、と小さく笑って夜桜翠漣(ea1749)は両目を閉じた。
前回依頼を受けた時の悔いは小さいものではない。
「なんだかなぁ〜でござる」
あの葉霧幻蔵(ea5683)でさえ、僅かながら落ち込んでいるのが見える。他の者達は、おしてしかるべきであろう。
「まあ、俺達まで過去に囚われてちゃあ、あいつらを助け出すことなんてできやしない。俺達がすべきなのは今、どうするかだと思う」
真っ直ぐなキット・ファゼータ(ea2307)の言葉にそうですねぇ〜と気の抜ける口調でエリンティア・フューゲル(ea3868)も頷く。
「リフさんとルシールさんを未来に繋げるですぅ〜。きっと、あの二人を縛り付けることなど、前のご主人さんも望んでなんかいませんからぁ〜」
「私も、そう思います。話を聞く限り、亡くなられた伯爵という方は、お二人に嘘をついて騙すような方には見えません、いえ、思えませんでしたから」
私も、とシエラ・クライン(ea0071)の言葉をリト・フェリーユ(ea3441)は繋ぐ。
「今のような二人を望んでいる筈はありません。きっと。‥‥過去を無くしてしまったリフさん。過去に囚われてしまったルシールさん。半分こすればきっと未来が見えてくる筈なのに」
「‥‥以前、知人から箱にまつわる依頼を聞いたことがあります。あの時はお金には替えられないものが入っていたと。きっと箱が開けばお二人の‥‥リフさんとルシールさんの未来も開く。そんな、気がするんです」
控えめに、だが、揺ぎ無い思いの篭ったワケギ・ハルハラ(ea9957)の様子を隣でクル・リリンやタケシ・ダイワは見つめていた。
「ああ、見えてきましたね。あの屋敷がハリス伯爵家。今はルシールさんが一人で守っている家です」
ワケギや、手伝いの冒険者にシエラは指し示す。
秋の色を湛えた庭と館は、まるで手を伸ばし、冒険者を待っているように見えた。
○二つの箱
銀のトレイに乗せられたハーブティを並べて、館を守るメイドは冒険者達に頭を下げた。
「先日は、本当にありがとうございました。おかげで‥‥ご主人様の館と財産を狙う者達を追い払うことができ‥‥本当に感謝しています」
「そんなことはいいんだけど‥‥、ねえ、ルシールさん? 本当にずっと一人で、この館にいるつもり?」
言葉を捜していたリトは決意したように顔を上げた。目線が合った少女は寂しげに笑うと、はい‥‥と頷いた。
「私は、この家を守らせて頂こうと思っています。旦那様と約束しましたから。最後までお仕えすると‥‥」
「でも、それは‥‥」
彼女の悲しい決意。何かを言いかけたリトをすっ、と翠漣は手で留めた。
「どんな決断であれ信念をもっているのであれば、わたしはそれを否定しません。でも‥‥ルシールさん?」
「はい」
「『思い出の館』とはこの館だけのことですか? 伯爵様やリフさん、貴女の思いを含めてではありませんか? 故伯爵様に仕えるのはこの館で無いとできないことなのですか?」
「‥‥」
言葉を無く下を向くルシール。その手は服の胸元を探り、手に触れたものを縋るように握り締めた。
沈黙が場に広がる。
それを、
「こほん!」
大きな咳払いが無理やり破った。少し上向いた顔、動いた視線を受けて幻蔵は一つの『箱』を取り出し、机に置く。
「まずはこの箱をお返しするでござる。この箱は例の悪党共が持っていた箱。伯爵殿の大切なものであったのでござろう?」
「はい、とても大切なものである‥‥と旦那様は‥‥でも‥‥」
ルシールの顔は、また落ちた。彼女もこの箱がリフの鍵で開かなかった事を知っているのだろう。
「この箱、実は拙者、術と技で開けようとしたのでござるよ。でも‥‥開かなかったでござる。この箱の鍵のカラクリだけで一財産になるでござるな。鍵を使わずに開こうと思えば、叩き割って壊すしかないかもでござる!」
「そんな!」
大事な主の形見を。驚くルシールに慌てて幻蔵は首と手を横に振る。
「無論、そんな手段は使わないでござる。だが、それだけの細工の『箱』伯爵にとって“余程の物”が入ってる様でござる」
「余程のもの? なら‥‥どうして‥‥旦那様は」
震える手で胸元の十字架を握り締めるルシール。それを見てシエラは
「ルシールさん? あれ、なんですか?」
彼女の後方、暖炉の上を指差し意識を切り替えさせた。質問があったのは本当だが。
「あっ‥‥はい!」
振り返ったルシールは、シエラの指した『あれ』を暖炉の上から下ろし、冒険者達の前に置いた。
二つの箱が机の上に並ぶ。大きさはほぼ同じ。だが、外見はまったく違う。
一つは宝石に彩られ、精緻な彫刻のなされた箱。中央の十字架も精緻に刻まれている。
そして、もう一つ。頑丈に作られ、鍵もしっかりとかかっているが隣の箱に比べるとあまりにも粗末な箱だ。
「これは?」
「旦那様の枕元にあった箱です。旦那様の形見なので‥‥」
「なるほど‥‥。この二つの箱には家主の何かメッセージが込められていたのではないでしょうか‥‥。古い箱と綺麗な箱、この二つが揃って何かが‥‥」
「箱が‥‥二つ? 二つ揃って‥‥!」
突然、今まで黙って話を聞いていたキットは椅子を蹴倒すように立ち上がった。そして、
「ルシール! その箱を開けてみようとしたことはあるか?」
つかみ掛かる一歩手前の勢いで、ルシールに詰め寄った。後ずさりながらルシールは首を横に振る。
「い、いいえ? ご主人様のものですし、鍵がかかっていますから‥‥」
「キットさん。落ち着いて下さいぃ〜」
「ルシールさん。旦那様はお二人を可愛がっていたのでしょう? なら リフさんだけでなく ルシールさんにも何か託されている筈ですぅ〜。何か、鍵とか預かっていませんかぁ〜?」
エリンティアはやんわりとキットを止める。動きを止めたキットから身をかわすと、ルシールはリトの問いかけにもう一度首を振った。
「私は、特には何も‥‥。ご主人様から頂いたもの服など以外では、この十字架だけですから‥‥」
「その十字架が? そうか! すみません。その箱貸して下さい!」
「えっ?」
言うが早いかワケギはその箱を手に取り、小さく呪文を詠唱する。光に包まれる術者と箱。
「何を?」
ルシールの問いかけには答えず、ワケギは目を開けると立ち上がった。仲間達を目で促して。
何かの意図を察したのだろう。冒険者達は立ち上がり、それに従う。
ただエリンティアは通りすがり、ルシールにはっきりと言葉を残して行った。
「ルシールさんは死んだ人と生きている人のどちらが大切ですかぁ?」
「!」
立ち尽くすルシールに最後に残った翠漣は、そっと静かに彼女の瞳を見て微笑んだ。
「ルシールさん‥‥わたしは、いえわたし達はこの状況を作った原因の一部を持っているわけですし本当は何を言う権利も無いのかもしれません。失ったものは取り戻せるわけでもないし、償いになるとは思いません。それでも考えてしまうし、言葉が浮かべば言ってしまうんですよね。心配ですから。貴女が本当に幸せになれるかどうか‥‥」
『貴女は幸せになれますか? それを‥‥伯爵は望んでいるでしょうか? 本当にそれでいいのですか?』
言葉に出さない翠漣の問い。ルシールはまだ応えることができなかった。
○遺された真実
仲間から話を聞いてすぐ、キットはここにやってきた。
「待って下さい! 私は‥‥もう‥‥」
小屋の中で膝を抱えるリフをから半ば無理やり太陽の下に引っ張り出す。
「おい! お前は、本当にそれでいいのか?」
キットは無理やり立たせたリフの身体を正面へと引っ張り、目と目を合わせた。
「お前は今のままじゃ、主を本当に裏切ることになるんだぞ。本当に帰るところを無くすんだぞ!」
「‥‥私は主の信頼を裏切ってしまったのです。ルシールも、主も守ることができず‥‥もう合わせる顔などどこにも‥‥」
憔悴しきった男は真っ直ぐな瞳から顔を逸らす。だが、キットはそれを許さず、もう一度顔をこちらに向かせた。厳しい目で睨みつけるように。
「馬鹿を言うな! お前の主殿はお前を責めたりしないし落胆もしない。むしろお前に申し訳ないと思っている筈だ。‥‥なぜか? それは自分がお前を縛って幸福をつかむ機会を逃すと思うからだ!」
「貴方は自分で信頼したからではなく、主に信頼されていたから信頼を返していたのですか? 確かにただ信頼するだけでは妄信でしかありません。でも、信頼されていたから信頼した。は違うと思うかな」
翠漣の言葉に、リフは顔をさらに下に向ける。ふうとため息をつくエリンティア。
「リフさんはそうやって全てを捨てても良いんですかぁ?」
まだ、リフの返事は無い。無言のリフにキットは叩きつけるように言葉を投げた。
「そうか? じゃあ、勝手にしろ。ぐざぐだと落ち込むお前の主は、きっと器の小さい男だったんだろうよ!」
「! そんなことは!」
真剣な顔で反論するリフ。ふと一瞬でキットの目が、口元が、笑顔に変わった。
「怒ったな。それでいい」
「貴方は‥‥」
リフは顔を上げた。人に仕え、人の思いを察し、信じるべきが仕事なのに、いつの間に自分は人を信じることを忘れてしまったのだろう。
「本当に尊敬する相手なら最後まで信じてみろよ。過去の過ちを忘れろとは言わない。過去は背負って見つめてケリをつけて前へ進むためにあるんだからな」
「解りました。例え信じて頂けなかったとしても、私は‥‥」
顔は、もう下を向いてはいない。ホッとした顔のリトの横で翠漣も優しく微笑んだ。
「それに、まだ本当に信じてもらえてなかったのかわかりませんよ?」
「どういうことです?」
「それは‥‥」
事情を説明しリフを促す。
冒険者には、もうなんとなく解っていた。
ワケギが視た箱の中身。そして老伯爵の遺した思いが‥‥。
「これは‥‥」「まさかこんなことが!」
二つの開いた箱の中身を見て誰もが思わず声を上げていた。
解ってみれば簡単なこと。使えていた使用人は二人。箱も二つ。そして、鍵も二つあったのだ。
シエラや透は箱をよく観察した結果。木箱の方の鍵穴がリフの持つ鍵と同じくらいの大きさであることに気付く。
では、もう一つの鍵は?
それがルシールの十字架だったのである。十字架にしては不思議な形をしていると気付いていた者もいた。
そして、冒険者立会いの下、木箱にリフの、宝石箱にルシールの鍵を差し込んで静かに回した。
カチリ、小さな音を立てて箱は開く。
まずは宝石箱を開く。中に入っていたのは幾枚かの絵と‥‥たった二つの指輪だった。
「これは‥‥ご主人様の結婚指輪?」
中に入っていたのは絵を冒険者は広げてみる。それは肖像画である。おそらく妻と、家族。ルシールとリフの絵もある。
「昔、盗賊の長が何よりも大切にしてた宝は思い出だったという話を聞いたことがありますよ」
友から聞いた話がワケギの頭を過ぎった。家族に先立たれた老人にとっても、この絵と思い出はどんな宝よりも大切なものだったのだろう。
そして、もう一つ。リフが開いた木箱の中には丁寧に書かれ、封をされた二通の書簡が入っていた。
一通は教会の司祭立会いの下、書かれた遺言書。
爵位と領地、屋敷も全て王国に返上し、残された財産はリフとルシールに残すというものだった。
「旦那様‥‥」
震える手で、リフはもう一通の書簡を開く。それに目を通したとたん、リフは崩れ落ちた。
手から落ちた書簡をキットは拾ってそっと読み上げる。
『リフ。ルシール。
長年仕えてくれたことに礼を言う。
家族を失い人生に絶望しかけていた私だが、今は幸せだ。お前達のおかげで最期に美しい時を過ごすことができた。
悔いは何も無いが、心残りは一つある。
私は知っているよ。お前達が惹かれあっているということを。
お互いが力を合わせて初めてこのメッセージは届くだろう。
私達の指輪と、全てをお前達に遺す。
幸せにおなり。館に縛られること無く、自由に。心からそれを願っている』
「旦那様‥‥」
涙ぐむルシールの頬をそっとシエラは拭った。
「死にゆく方が遺される人達の心配をする時、そこには嘘の欠片も入り込む余地がないほど、本当の真心が込められているんです。冒険者としてではなく、人としての経験則ですけどね。‥‥ですから、お二人も伯爵様の言葉を信じて上げて下さい」
「これはきっと宝物に違いありませんね。あなた方にはどうですか‥‥」
透の言葉に返事は無かった。ただ
「ルシール‥‥」
「‥‥リフ」
名前を呼び合う二人。
冒険者はそっと部屋を後にする。
振り返りざま見えた。
リフがルシールに手を差し伸べるのが、ルシールがその手を取るのが。
そして二つの影が一つになるのが。
その先は見なかったけれども‥‥。
○開かれた未来
数日後、冒険者達は教会に向かう。
教会では結婚式が慎ましやかに行われていた。
「キレイですね‥‥」
白いドレスにティアラのルシール。その手をしっかりと握り締め、祈りを捧げるのはリフ。
二人の誓いの儀式である。
冒険者達はそれを黙って見つめていた。シェアト・レフロージュが教えた優しい調べも響く。
二人は辛い過去を乗り越えて、前を向いて歩き出した。
冒険者の役目は、ここで終わりだろう。
「結婚式の祝いに、お持ち下さい」
帰りかけた冒険者に差し出された銀のトレイと、その上のスプーン。
差し出した人物と顔を見合わせ、冒険者達は苦笑した。
彼らをここに呼んだ人物。
「スタインさん」
スタインが結婚式を取り計らっているのなら、二人の今後に心配はいるまい。
エリンティアの提案もちゃんと届いている筈だ。
「‥‥色々と世話になった。またな」
それだけ言ってキットはスプーンを取った。いろいろ言いたいことはあるが、言葉が見つからない。
一人、また一人。思いの篭った品を受け取る。
「ん? なんでござる?」
全員に渡った後、幻蔵にはなぜか、トレイごと差し出される。
悪戯っぽく笑うスタイン。
「洋服は差し上げられませんが、お礼にだそうですよ」
「ぷっ!」
笑い声を口で抑えて、冒険者達は教会を出る。
二人の誓いの言葉を聞きながら。
「病める時も、健やかなる時も‥‥。過去は共に在らずとも未来はいつも共に」
「愛し共に生きることを、神と大切な方たちに誓います‥‥」
開かれた扉の外は、透き通るような青空。
二人の未来は、今、箱を破り、美しく輝いている。