【泣いた山鬼】現れたオーガ
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月02日〜02月07日
リプレイ公開日:2008年02月09日
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●オープニング
その村の外れにはオーガが住んでいた。
「よお! オーグ! 元気か?」
「食べ物持ってきてやったぞ! 風邪引くなよ」
村人達は気軽に彼に話しかけ、彼は
「うがっ!」
嬉しそうに笑い返した。
彼が村にやってきた当時には怯え、排除を考えていた村人達も今は彼と良い関係を築いている。
彼は村を守り、山の獣を取ってくる。
それと引き換えに村人は彼の面倒を見るのだ。
そんな関係がもう四年近く続いている。
村を訪れる旅人は顔を顰めるが、それでも彼らは上手くやっていたのだ。
あの事件が起きるまでは。
「オーガに襲われた?」
村長の言葉にキャラバンの長は頷く。
その表情は怒りに紅く、オーガのように染まっている。
「そうとも! 身体が紅くて大きなオーガがワシらを襲っていったんだ。荷物を全て、食い物や馬まで奪われた。この村のオーガだろう? オーガを出せ!」
確かに命からがら村にたどり着いたという彼らキャラバンの様子は、オーガに襲われたものだったらしかった。破れた服、壊された積荷の箱。そして‥‥商人達の傷。
「でもオーグじゃないよ!」
「そうよ! オーグはずっと家にいたもの!」
子供達の反論は
「煩い!」
その一言で一蹴された。
「オーグ、村のオーガはそのような事はしません。何かの間違いでは‥‥」
村長もとりなそうとするが商人達の怒りは収まる事をしらなかった。
「この村のオーガでないというのなら、その証拠を出せ!」
「そうとも! 荷物を奪い、ワシらの‥‥財産を奪ったオーガをワシらは許さんぞ!」
確かに荷物や財産を奪われた彼らの気持ちも解らないでもない。
それに、近くにオーガがいるなら村を襲ってくるかもしれない。
オーグが守ってくれるだろうが‥‥放っておくこともできない。
「冒険者ギルドに依頼を出してみよう。街道で人を襲ったオーガの討伐を。オーグの無実を晴らすためにもな‥‥」
村長の言葉に村人達、子供達。そして、キャラバンの者達も誰一人、反対するものはいなかった。
冒険者ギルドにオーガ退治の依頼が出された頃、
「うがっ?」
森を歩いていたオーガ、オーグは足を止めた。
かつて、村人に受け入れられる前に自分が暮らしていた洞窟に、何か、気配を感じたのだ。
そっと、覗いてみる。
そこには‥‥。
彼はそのまま洞窟を離れた。
振り返る彼の瞳には、一筋の涙が浮かんでいた。
●リプレイ本文
○オーガとオーグ
オーガというのは基本的に人間に対して害を為す者が多い。
基本的に思考、考え方が違うのだ。
けれども、稀に人に対して敵意以外のものを見せるオーガもいる。
かつて出会った少女を助けたオーガしかり、これから行く村のオーグというオーガしかり。
「勿論、全てじゃないって解ってるけど、人と共存できる性格のオーガはいる。人に害を為さないオーガなら滅ぼす必要は無いと思うし、オーグの事もキチンと助けてあげられるといいんだけどな‥‥」
気持ちは解る。アルディス・エルレイル(ea2913)の言葉にウィンディオ・プレイン(ea3153)は大きく頷いた。
「濡れ衣は晴らしてやりたいものだな‥‥だが」
「だが?」
言い澱むウィンディオの思いをヴァイン・ケイオード(ea7804)が補足する。
「人と共存を望むオーガってのは逆に言えばそれだけでレアだってことだ。問題のオーガが皆、そいつやみたいのなら話は別だが、そんなオーガが何匹も纏まって居るなんて稀だしなあ」
確かに‥‥。アルディスは目を伏せた。
この村のオーガが人を襲っていないのなら、確実に『人を襲うオーガ』がいることになり、それは退治しなければならないのだ。
「同族退治っていい気分はしないだろうが‥‥」
「む〜、でもそれは我慢してもらうしかないと思うの〜。キャラバンを襲ったオーガを退治するのが仕事だから〜。せめて、その場には居合わせないようにしてもらってついでに濡れ衣も晴らすの〜」
結局、村までの道のりいろいろ考えたがガブリエル・シヴァレイド(eb0379)の案以上に何をするべきか冒険者は思いつくことができなかった。
オーガを退治しなければならないのなら、せめて‥‥。
いろいろな思いを胸に、彼らは目の前に見えてきた村へと足を踏み入れたのだった。
○伝えられない思い
道を歩いていた冒険者達は不思議な音を聞いた。
ぴー、ぽー、ぱ。
音楽ではない、ただの音だ。
「なんだろ? 笛?」
耳をすませたアルディス。音は目的地である村はずれの狩小屋から聞こえる。
「ほら、ほら、オーグ、違うってば。解らない? こうやって指を使うの」
「グ〜? ガ〜?」
思わず冒険者達の頬に笑みが浮かぶ。
小屋の入口に穏やかな日差しの中、オーガが座っていた。
服を着て、穏やかに笑うオーガ。その膝には女の子と言える年の少女が座り、何かをオーガの手に持たせている。音は、どうやらそこから聞こえるようだ。
「こんにちわ? 何をしているのかな? 楽器?」
ひらりと少女の前に舞い降りてお辞儀をしたアルディスに少女はニッコリ笑って
「そうよ。オーグにね、笛を教えてあげていたのよ。でも、まだ上手にできないの」
持っていた笛を見せた。
「オーグにあんまり無理させんなよな。で、お兄ちゃん達は父さんが言ってた冒険者?」
家の中から出てきた少年の言葉に少女は目を瞬かせる。
「冒険者? オーグを助けに来てくれたの?」
父さん、と言った事で解った通り彼らは村長の子。
「君達が依頼人さんの子供なんだ」
頷くとフリックとリコと名乗った二人は冒険者に笑顔を咲かせた。
「オーグは僕らの大切な友達なんだ。疑いを晴らしてよ!」
「勿論、そうするつもりだよ。でも、その為にオーグとちょっと話をさせて欲しいな」
真摯な子供達の言葉にアルディスとウィンディオは微笑んだ。
「君達にもちょっとお願いがあるしね〜。いいかな〜?」
ウインクするガブリエルに子供達は瞬きして、頷いた。
「そのオーガ‥‥オーグについてはアルディスとウィンディオに任せる。子供達はガブリエル頼むな。俺は、村の方で聞き込みをしてくるから」
「了解だ。後で、私も行こう」
四人は三組に分かれ、聞き込みを始めるべく動き始めた。
それを、子供達がオーグと呼ぶオーガは寂しげな表情で見つめる。
『ねえ、オーグ君、ちょっと話を聞かせてもらえるかな?』
テレパシーで話しかけてきたアルディスに向かい合うまで‥‥、いや、向かい合っても。ずっと。
「主にキャラバンを襲ったオーガは、森の奥の方から出てきて、そちらに向かって帰っていくそうだ。村とは方向が違うから冷静に考えればオーグでは無いと解る筈だがな」
「服も着ていたそうですからな。キャラバンの者達も今はオーグ本人が襲ったとまでは言わないようだが‥‥まあ積荷を取られて気が立ってるんだろうよ」
「とりあえず、退治が終わるまではリコちゃんとフリック君にオーグの事を見てて、って頼んだの〜。先に見つけて倒しちゃえば濡れ衣は‥‥。って、どうしたの? アル?」
それぞれの情報収集を終え、目的地に向かおうとする冒険者達。情報交換をしながら歩く彼らの中、ウィンディオの肩でたった一人沈黙を続けるアルディスにガブリエルはふと問うた。
「あっ! ごめん」
考え事の時間を割られ、ハッと顔を上げたアルディス。その様子を心配そうに見つめる仲間と犬に彼は、
「大したことじゃないかもしれないんだけど、ちょっと気になったんだ」
彼は気がかりの原因を答えた。
「オーグが何か、知っているかもしれない?」
そう、とアルディスはヴァインに頷いた。彼が片言のオーク語で話かけた時には首を傾げるばかりだったオーグだが、アルディスのテレパシーだと話をすることはできた。
「でも、何か様子が変だったんだ。オーガの事を何か知ってる? って聞いても、知らない。彼らにあったことないって」
冒険者に対して敵対心を持っている様子でもなかった。ただ、人間で言うならあれは‥‥
「誰かを庇うか、何かを隠しているかの様子、だったんだよね」
「オーガを倒す事には何も言わなかったの?」
ガブリエルの問いには頷くアルディス。
「以前も子供達を守る為に同族と戦ったこと、あるみたいだしね。僕達が戻るまでは大人しく家にいるって約束はしてくれた。ちょっと浮かない表情ではあったけどね」
その理由をアルディスは同族が殺されるかもしれないせいか、と思ったのだが‥‥。
「まあ、その疑問の解決は後、だな。問題のオーガは何はともあれ倒さなくてはならない」
「一匹なら先手を打てればそんなに手間をかけずに倒せると思うの」
「‥‥うん」
戦いとなれば、ホンの少しの疑問と迷いが生死を分けることもある。油断はできない。
「奴は、向こうから、こっちに向けて来たらしい。この辺で待ち伏せだな」
気になる気持ちと共に 疑問を一旦アルディスも棚上げすることにした。
○オーガとの戦い
冒険者が様子を窺い続ける事暫し、
「! 来たの〜。間違いないの〜」
微かな気配に呪文を発動させたガブリエルが小さく声を上げた。
彼女が指差した先に、確かにオーガがいる。オーグとよく似た、だが良く見れば体格も表情も違う別人(?)だ。
「武器も持っているし、‥‥あれだな」
「先手必勝なの!」
「アル殿? どうかしたのか?」
敵を倒そうと動き出す仲間達。何かを言うならここが最後の機会だった。
だが、アルディスはまだ自分の考えに自身を持てずにいた。だから
「ううん、なんでもない」
「行くぞ!」
先端の口火は切られてしまった。
ガブリエルがスクロールを広げ、行動抑制の呪文を展開する。
身体に見えない鎖が撒きついたような圧迫感と敵の気配にオーガが気付いた時にはもう、冒険者達は目の前に立っていた。
「聞け! 落ち着いて話を‥‥」
「グアアア!」
相手を敵と認識し、手を振り上げるオーガ。ヴァインの呼びかけにも聞く耳を持たない。
唸り声と共に金棒がヴァインの頭上に落とされようとしている。
「危ない!」
ウィンディオが盾ごと彼の前に立ちふさがり、攻撃を受け止めた。すかさずガブリエルの第三魔法氷の波が放たれる。
「ガアアッ!」
(「話はやはり無理か」)
微かな悔やみを胸にヴァインは弓を番えた。今は、絶好のチャンスだ。
額に狙いを定める。
「待って!」
止め様としたアルディス。だが氷で視界を奪われ破れかぶれになったオーガが投げた金棒がアルディスを狙っていて‥‥。
「危ない!」
今度はヴァインが声を上げた。同時に放たれた矢は狙い違わず、オーガの眉間を射抜いていた。
「あっ!」
声も無くオーガは地面に倒れた。ほぼ即死だったであろう。
「‥‥これで良かったのかな」
自分が守られ、他に方法は無かったと解っていてもオーガを見つめるアルディスの胸からその思いは消えることが無かった
その後冒険者は足跡を辿って見つけた洞窟に、オーガが奪った積荷を見つけた。
食料を食べ服を使った気配があったので一部ではあったが。
○消えた何か
オーガ退治を終え、荷物を取り返しオーグの家の前にやってきた冒険者の前に、半ば涙目の子供達が走ってきた。
「オーグがいなくなっちゃったの!」
「ちょっと目を離した隙に外へ行っちゃったんだ」
「何?」
冒険者達は目を瞬かせた。目的のオーガを倒した以上危険は無い筈だが、彼が約束を破るとは‥‥。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。おねがい。さがして!」
「また悪いオーガに間違われたら大変‥‥って、オーグ!」
「えっ?」
背後を振り返る冒険者達。そこには確かにオーグの姿があった。
無言で佇む彼の姿が‥‥。
『何かあったのかい? オーグ?』
アルディスは問いかけるオーグは首を横に振る。しかし彼は感じていた。最初に『話した』時と同じ印象を。
(「誰かを庇うか、何かを隠している?」)
でも、それを追求するのは今は止めた。少なくともそれを暴くのは今回の依頼ではない。
「キャラバンを襲ったオーガは倒したからもう大丈夫なの〜」
ガブリエルの言葉に子供達は笑みを浮かべ
「よかったね。オーグ」
オーグに笑いかける。
「グガ」
笑みを返したオーグ。だがその笑顔はどこかやはり寂しげだと冒険者は感じずにはいられなかった。
依頼を終えキャメロットに戻った冒険者達にオーグが倒れたという報告が届いたのはそれから数日後の事である。