【少年と少女】雪と馬と少女
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 17 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月24日〜03月05日
リプレイ公開日:2008年03月02日
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●オープニング
孫娘の護衛。
それがハーキュリー老男爵からの依頼である。
「先日はどうもお手数をおかけしました」
ハーキュリー男爵家の使用人、バクスターは冒険者ギルドの係員に頭を下げる。
少し前、彼は主人からの大事な預かり物を無くし、冒険者の力を借りたのだ。
下町の子供に掏られたその預かり物は、冒険者の協力のかいあって無事、主人の下へ、有るべき人物の元へと還った。
「お嬢様はプレゼントもさることながら、冒険者の皆さんと知り合えた事をとても喜んでおられました。皆さんをとても慕い、憧れておられるようです」
一人娘を亡くし、その忘れ形見である孫娘アデーレを目の中に入れても痛くないほどに可愛がっている男爵は彼女を今まで殆ど領地の外に出してはいなかった。
だが、彼女は今までそれを苦にしている様子は無かった。
彼女には沢山の友達がいたからだ。
馬と羊という。
領地の牧場だけは自由に出入りを許されていたので、彼女は貴族の娘ながら牧場で動物の世話をする事もあった。
「ところが、今年の冬は雪が多くてで領地も結構な大雪に見舞われたのです。向こうでの生活がやや不便な事、お嬢様を正式に後継者としてデビューさせたい等、いろいろ旦那様も意図がおありだったようで、お二人でキャメロットにいらしていたのですが、そんな中、お嬢様が可愛がっていた馬が出産を控えていて‥‥お嬢様はなんとしても手伝いに戻ると‥‥」
祖父であるハーキュリー男爵は仕事の為、同行できない。
「そこで、冒険者の皆さんに護衛をお願いしたい、と。お嬢様を領地まで連れて行き、馬の出産に立ち合わせ、無事連れ戻って頂きたいのです」
「護衛ってのは、道中のか? 獣とかモンスターから守るって事で‥‥」
「ええ、基本的にはそれでかまいません」
ん? 係員は書類を書く手を止める。
「基本的、ってどういうことだ?」
バクスターは困った顔をして、答えた。
「私の口からはなんとも‥‥。まだ確証の持てないことですので。ですから、皆さんは全ての危険からお嬢様を守る、くらいのおつもりで頂けると幸いです」
何か事情があるようだが、ギルドに依頼に来る、ということは皆事情がある、という事。
それに雪が酷いと言う事は歩きにくくはあるだろうが、モンスターや盗賊などが出る可能性も少なかろう。
余計な事は、今は聞かずに係員は依頼を受理する。
冬の農場、馬の出産に少し、興味を持ちながら‥‥。
男爵は、仕事の手を止め静かに呟く。
「何事も、無ければ良いのだが‥‥」
孫娘の護衛。
その意味を本人も、冒険者もまだ知らない。
●リプレイ本文
○雪と少女
金色の髪、優しい笑みの少女がそこにいた。
(「あれ? 誰かに似てる?」)
アネカ・グラムランド(ec3769)は首を捻った。
何故そう思ったのか、誰に似てるのか自分でも解らない。
ただ、感じたのだ。
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「わああっ!」
そんな叫び声と共に、ばふっ。雪の中に何かが倒れた音がした。
「大丈夫でござるか〜。アデーレ殿?」
よたよた、となれないかんじきを、なんとか履いて歩くのが精一杯だった少女は立ち上がり、ぷるぷると顔を振るわせた。
「だ、大丈夫です」
葉霧幻蔵(ea5683)にアデーレ、と呼ばれた少女は無言で差し出された叶朔夜(ea6769)の手を握って立ち上がる。
「無理はしちゃダメですよ。疲れたらいつでも言って下さい」
「そうそう。その為に兄様、馬ソリも用意したんだもの」
雪だらけの服を払う少女に兄、ショコラ・フォンス(ea4267)に軽くウインクしたチョコ・フォンス(ea5866)は言ったし
「アイギスに乗ってもいいんだよ〜」
アネカも声をかける。幼い少女の足に踝まで積もった雪は歩きにくいだろうと。しかし
「はい。でも、雪道で馬も大変だと思うから、もう少しがんばってみます」
彼女はそう言って笑う。ソリは殆ど使用されていない
「頑張りやさんだね」
冒険者達は微笑んだ。
貴族のお嬢様と聞いていたが、ここ数日に一緒に旅をしもう今は、もう妹のような親しみさえ感じる。
「でも雪道は大変だよね〜。歩きづらいし、寒いし〜、何とかする方法ないかな〜」
顔をわざと顰めてアネカが呟く。
それに答えるかのように
「♪〜羊がいっぴき羊がにひき、さんびき〜」
明るく澄んだ歌声が雪の野原に響いた。
「リンちゃん?」
歩きながら軽く竪琴を爪弾くリン・シュトラウス(eb7760)
「‥‥雪、寒さ、変わらないの‥‥キエフも。寒い時、辛い時は唄って、踊って楽しく‥‥ね?」
「小羊呼ばれてメリ〜♪ よんひき小豚でぶぅぶぅぶぅー♪」
笑いかけるリンの歌声に、少女の楽しげな声が重なる。
「小羊呼ばれてメリ〜♪ よんひき小豚でぶぅぶぅぶぅー♪」
アネカやリン、チョコも加わって音は広がっていく、口を尖らせ冷えた頬を手で押える。おどけてみせた互いに作った変な顔。
どんな寒さ、どんな所からでも楽しさを見つけられる彼女達に心の中で拍手を贈りながら幻蔵やワケギ・ハルハラ(ea9957)達は、前と後ろから守るように歩いていた。
○後に付く影
明日には目的の領地に着くという夜。
「アデーレちゃん、寝たよ〜」
宿屋の奥から戻ってきたアネカを迎え冒険者達はテーブルを囲んだ。
「お疲れ様です。アネカさん。それで‥‥皆さん、気付いていましたか?」
静かに告げるワケギに、冒険者達の半分は頷く。
「えっ? なになに?」
「?」
目を見開くアネカと、首を傾げるリンに、
「我々の後を着いて来ている者がいる、ということでござるよ」
幻蔵は囁くように言った。
「「えっ?」」
驚き声を上げる二人にチョコは指を一本、唇に当てる。
「声が大きいですわ。相手もこの宿にいるんです」
小さく口を動かす。後ろから自分を見る彼らに気付かれないように。
気をつけながらなるべく、さりげなく、不自然にならないように、アネカ達は黙って朔夜が身体で隠して示した指の先を見る。
部屋の隅、キャラバン風の風貌をした男の二人連れがパンを食べ、エールを飲んでいる。
一軒ごく普通の旅人に見えるが、
「これは、直感でござるが、どうも素人では無い様に思うでござる」
「同感だな。付かず離れず、万が一気付かれたとしても偶然と言える距離を保ってついてくるのは只者ではない」
忍者二人の出した結論に
「只者では無いって‥‥何? どういうこと?」
アネカはまた声を潜めて問う。
「‥‥実は野営中はアデーレさんの耳に入ると思って言いませんでしたが男爵が今回、アデーレさんの護衛を我々に頼んだのは彼女の身に危険が及ぶかも知れないと思ったから、だそうなのです」
「それは‥‥そうではないのでしょうか? 獣とか雪道とか危ないから‥‥護衛を雇ったんでしょ?」
まだイギリス語に堪能ではないリンは、ワケギが言外に言おうとしている事が良く解らない。でも、ここでアネカは理解した。
「それは‥‥誰かが、彼女を狙うかもしれない‥‥ってこと?」
「おそらく。男爵は固有名詞まで上げる事はしませんでしたが、職業柄彼を狙う者は少なくないそうなので‥‥」
「彼女は何も知らないようだがな」
ワケギと朔夜は異口同音に頷く。貴族の後継者となれば財産争いに巻き込まれることはある意味仕方ないのかもしれないが‥‥。
「そんなの許せないよ! それに彼女のおじいちゃんにも恩があるもん! よ〜し! グラムランドの名に賭けて、アデーレちゃんをお護りするよ!」
「私達は、もう友達です。友達は必ず守ります」
「私も‥‥」
娘達の手に力が込められ意気はあがる。
「とにかく、今は下手にこちらから手を出して言い逃れされるのも困ります。とりあえず向こうが仕掛けてくるまでこちらも知らん振りで」
「それがいいと、私も思います。チョコ。皆さんも無理は禁物ですよ。まずはアデーレさんの安全第一で行きましょう」
頷き輝く彼女達の瞳。軽く男達は諌めながらも、どこか頼もしく嬉しく感じていた。
○命の誕生
ハーキュリー男爵領、ウッドグリーンは村と言うには小さい、牧場を中心とした集落だ。
ウィルトシャーとしては南だが丘陵地帯なので雪が多い。
夜になるとかなり底冷えもする。
だがその寒い夜。厩舎の明かりはまだ消えていなかった。
「食事の用意をしてきました。交代で休憩して下さいね」
料理をショコラが運んでくる。
慌しく動いていた冒険者と厩舎の人間は喜んでそれらを口に運びながらも、馬から目を離すことはしなかった。雪かきをした道とは言え外は寒い。中は熱い程だというのに。
「おなかも張ってるし、乳ヤニも多い。多分もう直ぐです」
馬の出産。
そう言うアデーレが馬を見る目つきは真剣そのもの。
だから依頼外ではあるが冒険者達は全員ができることで手伝いをしようと決めたのだった。
「頑張って。アリス。母様が応援してくれてるわ」
「アデーレちゃん」
チョコは兄の作った料理を差し出し損ねてしまった。
旅の道で聞いた事を思い出す。
母親は物心付く前に亡くなって、父親の顔も知らないまま祖父の手元で育てられたこと。
愛してはくれたが忙しい祖父。一人残される寂しさを動物達は癒してくれた。
「特にアリスは、お爺様が下さった私の家族なの。お母様と同じ名前で‥‥」
「アデーレちゃん!」
悲鳴にも似た声をアネカは上げた。
「どうしたんです?」
「足! 出てる出てる!」
「えっ?」
厩舎の中にいた者が全員その声に駆け寄った。見れば流れ落ちる雫と共に確かにびしょ濡れの馬の足が見える。
「これからどうすればいいの?」
「足を引っ張って助けてあげるんです。母親と呼吸を合わせて!」
「了解」
アネカとアデーレが足を握り、チョコとワケギが母馬の身体を撫でてやる。
「頑張ってね‥‥あと少しだからね‥‥」
声をかけるチョコ。リコは優しい調べで陣痛を忘れさせる手助けをした。
冒険者達の力を借りた長い戦いの中。
ゆっくりと、だが少しずつ出てきた足が、腹に繋がりやがて顔が‥‥。
「最後です。力を貸して下さい」
「よ〜し! 行くよ。そーれ!」
不思議な音がして、同時に掴まれていない方、前足が、床に触れた。
「生まれた!」
新しい命の誕生だ。
「やった〜! 凄いよアリス!」
はしゃぐアデーレ。冒険者達は、生まれてきた子馬の顔を拭いてやりながら、その身体をゆっくりと撫でる。
最初は濡れた小鳥のようだった身体は、心配そうに寄ってきた母馬に舐められて、少しずつ栗毛の馬の滑らかな毛並みを取り戻して行く。
ほんの少し前まで産みの苦しみを味わっていたのに母親とは‥‥。
「あれ、なんだろう? これ‥‥」
アネカは目元を服の袖で擦った。
何が原因であるかは解らない。
でも涙は止まらなかった。悲しみの涙ではない。
きっとこれは感動の涙だ。
生まれて直ぐに自分の足で立つあの子と、母親。
そしてそれを見つめるアデーレを、冒険者達は眩しげに見つめていた。
○消えぬ予感
「ほら! ファルス、こっちよ!」
走り出すアデーレの後を、軽い足取りでファルスと呼ばれた馬は追う。
恩人の少年の名前を借りたのだとアデーレは笑う。
そして同じ雪の上
「ほら! アデーレちゃん。ファルスくん。かくらまだよ〜」
「それを言うならカマクラですよ。知ってますか? カマクラはキエフの隠れた名物で‥‥」
楽しげな娘達の笑顔が咲いた。
「兄様も一緒に遊びましょう?」
「気にしなくて大丈夫。楽しんで来るといいですよ」
妹の誘いを軽く交わしてショコラは告げる。
「解りました。アデーレちゃん、みんな〜。木の実沢山牧場の人から貰ったんです。かくまらの飾りにしましょー」
「だから〜、カマクラですよ〜」
力いっぱい楽しげだが、彼女達も遊んでいるように見えてちゃんと注意はしている筈だ。
アデーレと馬の警護は彼女達に任せて、
「いなくなりましたね」
男達は状況を確認していた。
「領地内に入るまではいた。その後も一日くらいはいたようだが‥‥その後消えたな」
いつの間にか消えてしまった追跡者。
「彼らの目的は何だったのでしょう?」
いくら話し合っても答えは出なかった。
「とりあえずは、無事にアデーレさんを守って馬の出産も成功したからよしとしましょう」
あの笑顔を守れた。それだけでも十分な成果だと思う。
「後は、彼女を無事に連れ戻れば依頼終了だろう」
朔夜の言葉に冒険者達は頷く。帰路の準備が始まる。だが
「これで、終わりではないですね」
ワケギが思わず呟いた心配、予感は数日後現実のものとなった。
キャメロットに戻った冒険者達は知る。
ハーキュリー男爵、失踪の知らせを。