【円卓の騎士の娘】誘拐された少女

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2009年04月09日

●オープニング

「助けてください。ヴィアンカ様が誘拐されたんです!」
「なんだってぇ!!?」
 教会のシスターの一人が飛び込んできて告げた依頼にギルドの係員は驚きの声を上げた。
 ヴィアンカという少女は冒険者達もよく知っている。
 円卓の騎士パーシ・ヴァルの娘。
 教会でシスターとしての勉強をしている11歳の少女だ。
 父であるパーシは仕事の為殆ど城を離れられない。
 その為や、他の理由もあって教会に預けられている筈の彼女が何故?
 ヴィアンカの世話役でもある若い、ミシアと名乗ったシスターは
「司祭様の御用事でヴィアンカ様と街に出ました。用事を終え下町を歩いていた時、いきなり数人に囲まれて‥‥」
 いきなり背後から頭を殴られ、気絶させられてしまい、気が付いた時にはヴィアンカはいなかった。と語る。
「なんとか見つけ出して頂けないでしょうか? お願いします」
 頭を下げるシスター。
 確かに円卓の騎士の娘が誘拐されたとあれば、場合によっては大変な話になる。
「? だが‥‥その割になんで駆け出しの冒険者指定なんだ?」
 依頼書を確認して係員は首をひねる。
 確かに依頼書には、ベテランの冒険者ではなく、可能なら駆け出しの冒険者を、と書いてある。
「‥‥実は襲われたときに感じたのですが犯人は子供のようなのです。それも複数の‥‥」
 微かに聞いた声にもなんとなく覚えがあった。
 下町でのボランティアなどで接したことのある、ストリートの子供達かもしれない。
「もちろん、子供達が大人に操られている可能性もありますから楽観はできないのですが、できるならあまり事を荒立てたくないのです。だから、とりあえず最初は若手の方に‥‥」
 まあ、一応筋は通らなくは無い。だが
「それから‥‥できればお父様に心配をおかけしたくもないですし、教会に知られるのも私の責任問題が‥‥。それに大事になればヴィアンカ様の身に危険が及ぶことも考えられます。‥‥だから、その‥‥遊びに出たといことで教会の上層部には伝えておきますのでなんとか内密に探して頂けないでしょうか?」
「そっちは依頼を受けた冒険者次第だな。まあ、一応伝えてはおく」
 微妙に勝手な言い分だが、とにもかくにもヴィアンカを探さなければならない事は事実である。
「でも、身代金とか言われたらその時は伝える必要がある。それは解かっておけよ」
「はい」
 係員は依頼を受け取る。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 頭を下げた時のミシアの笑みにどこか、何かを感じながら‥‥。

 眠り続ける少女がいる。
「キレイだなあ」
 金の髪の女の子。目を開ければきっと青い瞳で天使のように微笑んでくれる。
『‥‥絶対に逃がしては駄目よ。足の鎖も外しては駄目。起きたらすぐに伝えなさい。しっかり見張っているのよ』
 姉はそう言ったけど、それを守るつもりは男の子には無かった。
「早く起きないかな。そしたら一緒に遊べるのに‥‥」
 そう願いながら少女をどこか優しいまなざしで見つめていた。

●今回の参加者

 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

デフィル・ノチセフ(eb0072)/ 鳳 令明(eb3759)/ ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)/ ラティアナ・グレイヴァード(ec4311

●リプレイ本文

○熟練の冒険者達の眼差し
 蓋を開けてみれば熟練の冒険者ばかり。
「あの‥‥皆さんが私の依頼をお受けくださるのですか?」
 依頼に参加を表明してきた冒険者達に、依頼人であるシスターミシアは驚いたように瞬きをする。
「そうです。精一杯努めさせて頂きますわ」
 セレナ・ザーン(ea9951)は誠実に微笑むが見逃しはしなかった。
 ミシアのどこか当ての外れたような表情を。
「年で言えば俺達も若手だ。事を荒立てずに事件を解決すればいいんだろう? それとも熟練の冒険者では不都合があるのか?」
「いえ! そんな事は‥‥」
「キットさん! 失礼を。シスターミシア。ところで怪我をされたとの事ですが、具合はいかがですか?」
 ワザと事を荒立てるようなキット・ファゼータ(ea2307)の物言いをシルヴィア・クロスロード(eb3671)は諌めるように声をかけるが彼女も本心はキットと近い位置にある。
 無論、閃我絶狼(ea3991)もだ。
「後ろから殴られたんですね、傷とか見せて貰えます? あ、もう治しました? ほう、だとするとリカバーは使えるんですか、だって教会に内緒だったら神父さんに治して貰う訳にも行かないでしょう?」
「ええ、まあ基本的な技くらいは‥‥」
「そうですか〜。じゃあ。あとは事件発生時の状況を詳しく教えて下さい。あと、犯人は子供らしいと言ってましたが、何人ぐらいかと思います?」
「それは多分五、六人で‥‥」
 説明するミシア。
 彼女の言葉から耳を、様子から目を冒険者達は一瞬も離す事はしなかった。

 教会にはベル、という少女がいる。
 ヴィアンカの従姉妹。教会のシスターである。
「イースターの祭事でござるか?」
 教会の事情を問う老婆にええ、とベルは応えた。
「今度の祭事でヴィアンカは司祭様の助手をするかもしれなかったんです」
 ちなみに外見に似合わぬ言葉遣いをする『彼』は葉霧幻蔵(ea5683)。性別男性である。念のため。
 教会内の情報を得に来た彼にベルは
「別に大行事という訳ではありません。でも人前に立つ場に憧れるシスターもいますからヴィアンカが祭事までに見つからないと選びなおしになるでしょう」
 と心配そうに告げた。
「ヴィアンカ殿はそれを楽しみに?」
「ええ。でも、人前に立つよりあの子は友達と遊ぶ方がいいと言っていましたわ。ボランティアの仕事もだから‥‥」
 下町の子供たちに食べ物を届けに行くのはシスター達がよく行う慈善活動だが、ヴィアンカが参加すると子供達は特に喜ぶのだとか‥‥。
「大丈夫でしょうか? もしヴィアンカに何かあったら‥‥」
「大丈夫、なのでござる!」
 ボン! 幻蔵が大きすぎる胸を叩く。
「拙者たちが必ず見つけて見せるのである。だからご安心を、なのである」
「よろしくお願いします」
 もし、ここにシスターミシアと出会った冒険者がいれば気づいた事だろう。
 この時のベルの表情こそが本当に人を心配する顔であるということを。

○小さな証言者
「おや?」
 突然目の前で足を止めたフレイア・ヴォルフ(ea6557)。
 ラルフィリア・ラドリィはその背中に突進した。
「わわわ!」
 ドン!
「だいじょうぶ? ラルちゃん?」
「わ! ごめんよ。大丈夫かい? 怪我は?」
 心配そうに駆け寄ってきたのはフレイアだけではない。ラティアナ・グレイヴァードや、彼女を追いかけていた子供達もだ。
「だいじょぶ‥‥」
 立ち上がって埃を払うラルとその周りの子供たちに気づいたのだろう。
「はじめまして。驚かせてしまいましたか? 私はリースフィア・エルスリード(eb2745)と申します。今日は教会より奉仕の為に参りました」
 丁寧な物腰の美しいシスターは微笑んだ。
 少し腰が引けた風の子供達に彼らの言葉を代弁するように七神蒼汰(ea7244)が前に進み出た。
「いえ、こちらこそお騒がせを。我々もここの子供達に援助をと思いやってきました。同伴の子供達が仲良くなったのでいろいろ話を聞いていた所です」
 蒼汰とフレイアは後ろを見る。いつの間にやら子供達はまた遊び始めている。二人の小さな仲間達も一緒に、だ。
「‥‥それで、どうでした?」
 仲間の口調に戻ったリースフィアに、フレイアと蒼汰も周囲を伺いながら頷き情報を刷り合わせる。それはヴィアンカの目撃情報と、彼女の評判が主であった。
 基本、ヴィアンカは人に嫌われるような少女ではない。実際下町でも子供達には好かれていると言ってもいいだろう。
 そう子供達には‥‥。
「ある程度以上の年の子には彼女のしている事が何不自由ない金持ち娘の道楽に見えるんだろうね。そうじゃないんだけど‥‥さ」
 反感を持つ人物が何人かいるという話、そしてそれらしい人物の情報をお互いが交換した時、
「あら? なんですか?」
 自分の服の裾を引いた小さな女の子にリースフィアは微笑みかけた。
「おねえちゃん、キレイ」
「あら、ありがとうございます」
 子供とのたわいも無い会話。
「おねえちゃん、おうちに来て?」
「それはちょっと‥‥」
「だって‥‥フーのおうちにはいるんだよ。金のおねーちゃん」
「「「えっ?」」」
 だが、今はそれが最高の情報源であった。

○見つかった被害者?
 ウー、ウーー!
「絶っ太。本当にここでいいんだな?」
 確認する主を、愚問だというように狼は見つめる。
「おそらく、ね」
 鳳令明の聞き込みやセレナの絵による聞き込み、そして冒険者達の集めた情報からも、ここがそうであることは間違いないだろう。
「ここ、フーっていう子とその姉さんの家、というか住処なんだってさ」
「レンくん‥‥この辺の子供達の纏め役の少年もその可能性が高いと言っていました」
「子供達の何人かがフー少年が秘密の宝物だと女の子を見せてくれた、と言っていたのでござる!」
「主犯はフーという少年の姉、リリンと見て間違いないでしょう。彼女は下町の娘。ヴィアンカの事が気に入らないとよく言ってたらしいですから‥‥」
「やれやれ。世の中には幸せそうに見えるってだけで相手を憎む奴もいるからなあ、詳しい事情も知らないくせによ」
「ここに、いるんだな?」
 フレイアの説明も、絶狼の言葉も、仲間達の話も、どうやら先頭に立つキットの耳には入っていないようだ。
 絶狼の手の中のレインボーリボンを取り返して手に結ぶと、もう剣を‥‥
「ちょっとキットさん。何を剣を抜いているんです? 聞いたでしょう? 何人いるか解かりませんが犯人は子供です。おそらく主犯の女性もまだキットさんとほぼ同じくらいで‥‥」
 手に持ったデュランダルを押さえてシルヴィアは諌めるが、キットの表情は変わってはいない。
「関係ない。大丈夫だ。手加減はしてやる。もし、ここにいなかったらヴィアンカの居場所を聞かなきゃならないからな」
 冷静に、冷静だからこそ残酷に告げるキット。
「だから!」
 シルヴィアの制止などもう聞いてはいまい。
「家の中に‥‥ヴィアンカはいるな。中に強敵はいなさそうだ」
「蒼汰さん!」
「なら、迷う必要は無い。突入あるのみだ! ヴィアンカを助ける!」
「キットさん!」
 それ以上止める暇さえ与えず、キットは正面から扉を思いっきり蹴り開けた。
「ヴィアンカ!」
 そこで、キットと後を追うように飛び込んだ冒険者達が見たものは
「次は、フーくんの番だよ‥‥って、あれ? キット?」
 小さな男の子と楽しそうに遊び、冒険者に満面の笑顔を向けたヴィアンカの姿だった。

○いなくなった誘拐犯
「ねえ、キット。フーちゃんをいじめないで?」
 足かせから開放されたヴィアンカは懇願するようにキットを見つめた。
 まだ、憮然とした表情ではあるが、流石のキットもヴィアンカの目の前で7歳の男の子を切れまい。
「フーさん‥‥ですね。どうして、ヴィアンカさ‥‥ちゃんとここに一緒にいたのですか?」
 キットを除いてこの中で一番年の近いセレナが男の子と目を合わせる。
 フーと呼ばれた少年は
「おねーちゃんたちにたのまれたの! ここでヴィアンカをみててって」
「おねえちゃん? ですか?」
「うん。ヴィアンカがおきたら、いっしょにどっかに行くって。でも、ぼく、ヴィアンカとはなれたくなかったから、ヴィアンカにおねがいしたの。おねえちゃんがいるときはねたまねしてて‥‥って」
「どこかに連れて行かれるのは怖かったから、一生懸命寝た振りしてた。そしたら女の人の声で『どこか悪いところでも打ったのかしら? 計画が変わってしまうから相談にいかないと‥‥』って声がして‥‥」
「計画‥‥相談‥‥」
 蒼汰のみならず、冒険者達もある人物の顔が頭に浮かぶ。
 今は、教会で仕事をしている筈のある人物‥‥。
「で、その姉ちゃんはいつ帰ってくるんだ?」
「わかんない。二、三日帰ってこないこともあるよ。食べ物はもってきてくれたから」
「‥‥解かった。フー。今回は見逃してやる。ヴィアンカは連れて帰るがな」
「えーっ?」
 不満げ、というか寂しげな少年に、
「これは誘拐といういけない事なんです。事情を話して下されば、お手伝い出来る事もあるとお姉さんに伝えて下さい」
 シルヴィアは視線を合わせ静かに言い聞かせる。
 だが小さなフーの心を何より占めていたのは
「もう、ヴィアンカと遊べないの?」
 小さな願い。それに
「そんなことないよ。また町に来るから一緒に遊ぼう!」
 被害者だった筈の少女は笑顔で答えたのだ。
 冒険者達の半ば諦めた様なため息交じりの暖かい視線に守られながら。

 フーはヴィアンカの卵も大事にしていた。
「もう勝手にどっかに行くな。でも良かった」
「そうですね。心配しましたわ」
「うん、心配かけてごめんね」
 卵を抱き歩くヴィアンカと寄り添うキットと、セレナの影を踏みながら
「思ったよりも根が深いかもしれませんね」
「パーシ様にまた報告しておかないと」
「ベル殿にも注意するよう伝えるのでござる」
 冒険者達はこれで終わりではない何かを、暗い陰謀の予感を感じずにはいられなかった。