【銀の乙女】村の小さな太陽

■シリーズシナリオ


担当:夢村円

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月10日

リプレイ公開日:2004年10月04日

●オープニング

 それは、今年最初の収穫を喜ぶ楽しい祭りとなるはずだった。
 僅か十数戸の山奥の村の全てが集まり、旅の詩人も請われて楽しげな音楽を紡ぎだす。
 並べられた焼き菓子、今日の為に作られたご馳走。そして‥何より今年一番の収穫で作った出来立ての麦酒。
 笑顔と、歌声と、楽しい時間。
 太陽が消えても、照らされた松明の下続くと思った祭りの最中、逢魔が時に‥それは起こった。
 ガタン!
 村一番の酒豪と呼ばれていた男性が、突然テーブルに突っ伏した。
「ウガー‥ウゴー‥」
 完全に意識が飛んだ男の呼吸だけが響く。
「おいおい、まだ酔うには早いぜ‥って‥グワッ‥」
 横に座っていた青年が、彼を揺り起こそうとしたが‥突然力が抜けたように重なって倒れた。
 椅子が倒れる音が、やけに大きく響いた。
 そして‥まるでそれを合図とするかのように‥大人達が次々と倒れていく。
「‥な、何だ‥目の前が、暗い‥」
「お父さん!」
「‥く、苦しい‥」
「母ちゃん! しっかり!」
 吟遊詩人も竪琴を取り落とした。音楽は止み、静けさの中、唸り声と子供たちの泣き声だけが村の広場に響く。
 阿鼻叫喚、さながら地獄絵のように‥
 チリーン!!
 鈴の音が鳴る。みんなの視線が祭りの輪の中心に立っていた銀髪の美少女が集まると持っていた鈴の音よりも透き通る、リンとした声が皆の心に響き渡った。
「みんな! 落ち着いて! 泣いている暇は無いわ。倒れた人たちを集会所に集めて! 大人達を助けられるのは私たちだけなのよ」
「ベル‥」
 言葉より早くベルと呼ばれた少女は真っ先に倒れた男性に駆け寄ると‥その肩を渾身の力で持ち上げた。自分より遥かに大きな男。体重も細身の少女の倍はあろうかというのに‥少女の力でその身体はゆっくりと前に進んでいく。
「! ベルの言うとおりだ。皆! やろう!」
 我に返ったかのように、子供達は動き出した。ベルの持った反対側の肩の下にベルよりもほんの少し大きな身体が滑り込む。
「フリード‥ありがとう」
 ベルの呼び声に、フリードは笑顔を返した。
 語らっている暇は無い。
 倒れた大人28人。全員を一箇所に集め、寝かせる。
 たった10人の子供達は‥小さな力を全て集めて、それを‥やり遂げた。

「悪魔の業火?」
 祭りに参加しなかった長老の妻、エルシアはフリードに支えられてやってくると倒れた大人達の様子を見てそう言った。
「ええ、ずっと昔も同じようなことがあったの。村祭りの人々が倒れて‥たくさんの人が死んだわ。‥誰も、薬を買いに行くことすらできなかったから‥」
「薬を飲めば直るの?」
 多分、大丈夫だとエルシアは語った。だが、それはキャメロットの街にしか売っていないとも。
「あの時と同じ薬を飲めば‥」
「無理だ! キャメロットまで往復1週間はかかる。それに行ける大人が誰もいないのに!」
 フリードはやり場の無い怒りを、壁にぶつけた。エルシアには頼めない。エルシアは‥足が不自由なのだ。
「‥私が行くわ」
 病人の頭に濡れタオルを置くとベルは立ち上がった。真剣な表情に彼女が本気である事を知る‥
「ベル?」
「無茶よ!」
「だって‥、このままみんなが苦しむのを、黙って見てなんかいられない! キャメロットに行けばみんなが助かるのなら私、行く!」
「なら! 僕が‥行くよ。君を危険な目にあわせるなんて‥」
 立ちふさがるフリードの手をベルはそっと払った。
「ダメよ‥フリードは馬に乗れないでしょ。それに‥ここでみんなを守らなくっちゃ」
 この街で今動けるのは子供達だけ‥。そして、一番年上のフリードかベルが残らなければ病人の看病も、さらに小さい子達を守ることも出来ない。それは、解っている。でも‥
「でも‥」
 危険すぎる。その言葉をフリードは飲み込んだ。微かな笑顔を浮かべたその表情、真剣で美しい蒼い瞳。全てを知った上での決意なのだ。
「絶対に‥戻ってくるから心配しないで‥ね」
「ベル‥」
 フリードにも、エルシアにももう、止める事はできなかった‥。

 彼女は、無謀でも無思慮でもない。夜に馬を飛ばす愚を十分知っている。
 エルシアに相談し、村の財産を預かり、馬の用意をし、旅の準備を整えて早朝、朝日と共に出発した。
「フリード、みんなと、父さん達をよろしくね‥ みんな、フリードとエルシア伯母さんの言う事をよく聞いて待ってるのよ」
「ベル!」
「気をつけて!」
 子供たちの涙声に、ベルは輝く笑みを返し、それから馬に鞭を入れた。
 山道と、街道を通ってキャメロットまでは歩いて4日、馬で2日の距離。だが、当然少女の一人旅が安全であろうはずはない。
 立ち尽くす子供達とベルの背中を見ながら、フリードは思った。慟哭するのは容易い。だが、今それはするべきことではない。
 空を仰ぐ、白い鳥が空を飛ぶ。その時思い出した。今、自分がベルの為にできるもう一つのことを‥
 家に駆け戻り、羊皮紙に文字を綴る。そして‥鳥小屋の扉を開いた。
「頼む! 無事に届いてくれ!!」
 足に小さな希望を結ばれ、その鳥、鳩は空を駆け抜けて行った‥。


「手の‥空いている冒険者はいるか!」
 酒場の扉が壊れんばかりの勢いで開かれて入ってきたのは街外れに猟師だった。手には小さな紙が握られている。
「どうしたんだ? 一体?」
 ギルドの係員も周囲の冒険者達も、只ならぬ気配を感じて身構えた。
「これを‥見てくれ、俺が‥狩りで仕留めた鳩が足に結んでいたんだ」
 差し出された手紙には山奥の小さな村で病気が発生したこと。薬を買いに行くために少女が一人村を出たことが書かれていた。そして‥
『おじさん! でなければこの手紙を見た人、誰でもいい。直ぐにベルを助けに行って‥そして、村を助けて! フリード』
 宛名は街外れの牧場主。この村出身で緊急の連絡先を勤めていたという。緊急の事態を理解した猟師はここにやってきた。
「今すぐ、この子を捜し出してくれ。頼む!」

 ある村の宿でベルはもどかしげに空を見上げた。山道を急いできたが、それでも‥思ったより遅れてしまった。
 村のみんなは‥大丈夫だろうか?
 女一人の夜道と旅の危険さは十分に知っている。でも‥
「明日は、ちょっと危険でも先に進もう‥」
 今、彼女の頭にあるのは村のみんなのこと
 ただ、それだけ。
 ‥リン!
 髪を縛るリボンの鈴が小さく揺れた。

●今回の参加者

 ea0033 アルノー・アップルガース(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1325 速水 才蔵(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2708 レジーナ・フォースター(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4965 李 彩鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6033 緲 殺(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 膝を付いた猟師の前に、差し出された手があった。
「私達にお任せください」
 さらり流れた金の髪。無骨な手が白い手を掴むとレジーナ・フォースター(ea2708)は軽々と彼を立ち上がらせた。
「手紙貸して‥ああ、銀の髪、蒼い瞳の女の子ね。OK、解ったよ」
 落ちた手紙を拾い上げるとアルノー・アップルガース(ea0033)は読みながら頭に入れる。
「急ぎならできるだけの人間が先に行ったほうがいいな。馬が借りられるなら俺も先行しよう」
 ギリアム・バルセイド(ea3245)は鎧と剣の音をかすかに鳴らして立ち上がった。
「うん、急いだ方がいいと思うよ。だから、馬に乗れる僕達が先に行ってていいかな?」
 アルノーの言葉に李彩鳳(ea4965)はそうですわね、と頷いた。
「ことは一刻を争いますしね。私たちは後から‥」
「それでいいよ。いざという時の合流地点は牧場でね」
 緲殺(ea6033)は冷静に先行組にそう告げた。彼らは素早く外へと飛び出していく。
「‥口惜しや。拙者も馬に乗れたのならベル殿を救いに馳せ参じるのに‥。まあ、よい。行くぞ!」
「まあ、待ちなって、僕らには他にやることがあるんだから‥」
 飛び出していきかねない速水才蔵(ea1325)を殺は軽く目線で諌めるとレイン・シルフィス(ea2182)とアルノール・フォルモードレ(ea2939)を見た。
「悪いけど、君らは薬について調べてから来てくれない? 可能なら入手してきて欲しいんだけど」
「言われるまでも無く僕はそうするつもりです。この知識と生業をこういう時に活かさねば何の意味があるでしょう」
 薬草師の使命に燃えるアルノールとは反対にレインは控えめに反論した。
「僕も? ですか‥」
「結構急いでいくし、それに薬調べるのも、買ってくるのも一人じゃ大変だろう?」
 どうやら、知り合いみたいだし‥、と続けられた言葉にレインは同意した。。
「解りました。アルノールさん、またよろしくお願いしますね」
「助かります。あ、僕のことはアルとでも。何か名前似てる人いるし‥じゃあ僕達は早速!」
 二人もまたギルドの扉を開けた。
「私たちは野営の準備を整えて、それから追えばいいでしょうか?」
「そう、急いでいった彼らのフォローをして‥ってコラ! 少しはこっちの話聞けって」
「ベル殿、今お助けに‥」
 またも突っ走る才蔵の襟元を掴みながら、殺はため息をつく。
「年下の可愛い少女は、みな義妹である‥おお、良く見ればそなたらもなかなか‥拙者をお兄様と‥」
「‥殺すよ‥」
 怒鳴り声でない分気配は怖い。以降、才蔵は殺には逆らわず、大人しく従ったという‥

 アルが読み終わった本をレインは一つ一つ片付けていた。
 自分の知識だけでは足りず図書館に調べに来たのだ。
「え〜っと‥これかな?」
 ある植物の書に、それは載っていた。
『悪魔の黒き爪‥ 稀に生える毒の麦。通常の穂の他に黒い爪のような穂が覗く為こう呼ばれている。多量を摂取すると命にかかわる。毒は解毒剤で中和が可能』
「可能性は高いでしょう。植物系の解毒剤なら、私も一つ持っていますが‥」
「解毒剤‥エチゴヤに行こう」

「はいよシルバー!」
 その頃3人の冒険者は街道をかなり進んでいた。
「この辺りは物騒だそうだから、早いとこ見つけんとな」
「そろそろ‥ってあれは?」
 アルノーの指差した先に、レジーナも気が付く。真っ直ぐに走ってくる銀の光。
「おい! 後ろに殺気がついてくるぜ」
 ギリアムは剣を抜いた。言葉の意味を理解し二人も抜刀した。
「た、助けて!」
 光は少女となり、冒険者たちの間をすり抜けた。そこはワザと空けて置いた場所。少女を庇うと彼らは馬を寄せる。
 進路を遮られ、背後からやってきた騎乗の男二人は当然、足を止めることとなった。
 年長らしい男が一歩、馬を前に進める。
「そこをどきな? 俺たちはその娘に用があるんだよ」
 だが、脅しが効く相手ではない事に彼らは直ぐに気付くことになる。
「あら? 怪我をするのはどちらでしょう」
「嫌がる女の子を追いかける男、それは悪人なんだよ〜」
「去ればよし、さもなくば怪我をすることになるぞ‥」
 臨戦態勢の三人の戦士、しかも‥決して弱くは無い。それが男達にも解ったのだろうか‥
「仕方ない‥戻るぞ」
 馬首を返した男達を見送ると、冒険者は剣を収め少女に向かい合った。
「ありがとうございます」
 馬を降り礼儀正しく頭を下げた少女は銀の髪、蒼い瞳‥ 髪を飾る白い鈴からリン、小さく爽やかな音が響く。
「貴女がベルさんですね。フリードさんからの依頼でキャメロットから村までの護衛をお受けしました冒険者です」
「冒険者? フリードから?」
「ほら、これ‥君が心配だったんだろうね」
 伝書鳩の持っていた手紙をアルノーは閃かせた。
「‥フリード‥」
 今にも泣き出しそうなベルの肩をギリアムはぽん、と叩いた。
「勇敢な譲ちゃんだ、関心したぜ。此処からは俺達が手伝ってやるから安心しろ」
 禿頭に強面の顔、怖がられるかとギリアムは躊躇したがベルは逃げたりも怖がったりもしなかった。
「ありがとうございます‥」
 彼女の表情はさっきよりも、少しだけ少女の輝きを取り戻していた。

 彼らが急ぎ道を戻った頃はすでに夕方。
 徒歩組が牧場で先行組と、調達組を待っていた。
「よく頑張りましたわね‥偉いですわ」
 ギュッ 彩鳳に抱きしめられたベルは、慌ててそこから抜け出した。
「私‥偉くなんか‥あ、急がないと」
「薬も後発の仲間たちが持ってきてくれるはずですから、少し落ち着いてください」
 でも‥と言葉を濁すベル。そこに‥
「なんとけなげな、まさしく義妹の鏡! 拙者が命にかけてもまもる」
 妙にハイテンションの才蔵がレジーナと彩鳳を押しのけベルの前に立った。
「そなたの為なら、たとえ火の中水の中! 報酬などいらぬ、ただ一言‥お兄様と」
「止めなってば。君が無理しちゃ何にもならないよ」
 殺の止めが入った時、牧場の扉が開いた。
「薬持ってきました」
「これで、多分いいと思うんだ。あ、君がベルさん?」
 レインとアルが運んできた包みにベルの瞳が輝いた。
「これです! どうして?」
「フリード君の手紙で調べてね」
「ありがとう‥本当に‥」
(「美しい‥」)
 その様子を見ていたレインはベルに見入っていた。
 ベルの美しさ、髪、瞳。いや、それ以上に美しい強い意志と‥涙
「‥絶対に村の皆は助かります。いえ、必ず僕たちが助けてみせますっ!」
 力を込めたレインの言葉に冒険者達は頷いた。

 夜、レジーナはアルを呼び止めた。どうしても、気になることがあったからだ‥
「ねえ、アルノールさん? あの解毒剤のお金は?」
「‥無理を聞いてもらっての後払いです。信用してもらうのに財布、丸ごと預けました‥」
「そうですか‥。いざとなったら大赤字を覚悟しないといけませんね‥」
「‥ええ」

 早朝早く彼らは牧場を出て、村へと向かった。
 レジーナが馬で先にという意見も出たが女性一人の旅が危険であることに変わりは無い。
 少しペースを速めて進み、疲れたものがアルノーとレジーナの馬に乗る。
 それで行軍は進められた。
「馬車が借りられれば楽だったんだけどね」
「ケンブリッジが復興したばかりですし、僕達も文無しでしたから。すみません」
 殺の呟きにアルが頭を下げた。
 皆のはやる心をレインは歌で慰める。
「ただの歌ですけどね‥ ベルさんと皆に一時の安らぎを‥」
 その音は、夜もほぼ徹して歩き続けた冒険者達の心を、確かに癒してくれていた。

「くそっお邪魔虫が増えていやがる」
「ボス、こっちも手数が増えていやすが‥ダメなんですか?」
「夜襲にも、警戒してるしな。仕方ない‥今回は諦めだ。だが‥あの鈴‥」
「どうしやした?」
「いや、何でもない」

 ベルが村を出て五日目の夜。水桶を運んでいた子供は小さな光を見つけた。
 闇の中に浮かんだのは小さなランタンの光と、銀色の髪。
「皆! ベルだ、ベルが帰ってきたよ!」
 飛びついた小さな身体を、ベルは抱きしめた。
 ふらつきながら揺れる身体をギリアムが背後から支える。
「ただいま。遅くなってごめんね。父さん達は?」
「お帰り‥ベル。間に合ったよ。みんなまだ生きてる」
 声を聞きつけ駆け出して来た子供達の一番背後から、少年が優しく笑いかけた。
「フリード‥」
 真っ黒な目元。疲れきった顔。だが‥心からの幸せそうな笑顔で。
「早く、薬を‥」
「おっと!」
 殺は倒れそうなフリードをなんとか支えた。
「僕達も看病を手伝うからさ、ゆっくり休みなよ」
「後は僕らにお任せあれ。手が空いている人は手伝ってくれるかい?」
 アルノーとアルの言葉に嫌がった冒険者はいなかった。
 病人達に薬を飲ませ、疲労困憊した子供達を助け‥レインが竪琴を奏でる。
 その夜‥村には久しぶりに静かな寝息が、安息の時が訪れていた。

 翌日、意識を回復した大人達にアルノーは一本の麦穂を見せた。
「これを見て」
 穂の間から黒い、爪のような塊が覗いている。アルノーとアルが朝、倉庫を捜して見つけたものだ。
「悪魔の黒き爪、今回の事件の原因です。今年取れたという麦のかなりにこれが付着していました」
 一本だけあったレインの植物系解毒薬が利いたことから、二人は麦酒に原因を搾って、そう結論付けた。
 毒麦が原因。アルの言葉に大人達はうな垂れる。
 それは、今年の全ての収穫が無駄になったということなのだ。
「‥我々はどうすればいいのだ‥牧羊と農業しか無い、この小さな村に‥」
 冒険者達は答えることができない。この村に何もしてやることはできない。
「でも‥」
 言いかけた彩鳳の言葉は止まった。小さな太陽が輝いたからだ
「皆、生きてるわ。生きていればいくらでもやり直しできるもの」
「ベルの言うとおりだよ。頑張ろうよ」
 ベルとフリード。二つの小さな光に冒険者達はそれ以上の口出しを避けそっと、その場を後にした。

 黙って村を出た冒険者達はしばらくして、あることに気が付く。
「あれ? この荷物は‥」
 レジーナは馬の背に括り付けられた袋を見つけた。
「うわっ! 凄い大金」
 そこには100枚を遥かに超える金貨が入っていた。ベルが持っていた解毒薬の代金であることは容易に知れる。
「‥支払いはしなくちゃならない、確かにこれは僕達に必要なお金だよ。でも、大丈夫かな?」
 アルの心配は皆の心配でもあった。この金額、村の全財産に近いだろう。
 今年の収穫を失い、財産も失い、あの村は大丈夫だろうか‥。
「大丈夫だろう。何より大切なものを失ってはいない。きっと、立ち直れるはずだ」
「そうだね‥」
 アルノーは思い出す。あの銀の髪の少女の笑顔を、そしてその輝きを。
「いつか、また会えるよ。多分ね」
 冒険者達は同じ予感を抱えていた。きっと、いつか再会すると。

「お兄ちゃんと、呼んでもらうことはできなんだ‥無念」
「本当に殺すよってば‥」

 キャメロットに戻った冒険者は借金を全て清算して財布を取り戻した。
 全ての金額を払ってなお、残った金貨が彼らの報酬となったことは、蛇足である。

●ピンナップ

李 彩鳳(ea4965


PCシングルピンナップ
Illusted by 我新すみ