【銀の乙女】盗賊来襲
 |
■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月15日〜10月25日
リプレイ公開日:2004年10月18日
|
●オープニング
一人の吟遊詩人が街道を歩いていた。
「やれやれ、まったく酷い目にあったよ」
苦笑しながら彼は思い出す。たまたまたどり着いた村の祭りでのことを。
麦酒にへんな毒がついていたらしいが、村人共々病気になり、本当に死ぬかと思うほどの目にあった。
「まあ、これもいい経験だと思えばいいか?」
口では愚痴を言いながらも、声は明るい。
彼はそんな目にあったにも関わらず、村人を責める気が起きなかったのだ。
不可抗力でもあるし、それに‥
「キレイだったなあ、あの子」
自分を助け、看病してくれた村の少女の美しさが、彼の詩人としての心を思いっきり動かしていた。
空を映したような蒼い瞳、月光と太陽の光を混ぜて編み上げたような艶やかな銀の髪、しなやかな腕、細い足。何より美しく、前向きな心。
「あんな山奥の村には勿体無い位の美少女だった。うん、貴族の姫と言ってもおかしくないくらいの」
いつか、あの子の美しさを歌に歌おう。そんなことを考えながら、彼は道を急いでいた。
「しまった‥ペース配分を誤ったか」
地図を見ながら彼は頭を掻いた。もう日暮れだというのに周囲に民家は見えない。次の町には遠く、前の町に戻るのは辛い。地図上では街道の丁度ど真ん中あたりなのだろう。
「仕方が無い、今日は野宿を‥ん?」
覚悟を決めかけたその時、街道から少し離れたところに彼は小さな灯りを見つけた。
「灯り? さっきまで気付かなかった。人がいるのか‥よし、なんとか頼んでみよう今夜泊めてもらえないかって」
彼は背中の竪琴を背負いなおすとゆっくりとその灯りの方へと近づいていった。
結論から言おう。彼はそこに泊めてもらうことはできなかった。
(「な、なんだよ‥この家は‥」)
窓の下に身を隠した後、詩人は動くことさえできない。
怖かった。何故ならそこにいたのは‥
「うわっははあ! 今日も大漁でしたね、親分」
「この銀細工、高く売れやすぜ」
テーブルの上に収穫の飾り物を山のように積み上げ、酒をかっくらって叫ぶ男たちの集団だったからだ。
「傑作だったよな、あの時の主人の顔。すっかり怯えきってよお、面白かったよな」
「あのガキの泣き声には参りましたよ。まあ、静かにしてやりましたけどね」
詩人の想像力を働かせるまでも無く、彼らの素性は判る。‥盗賊だ。間違いなく。
10人程度の男達に囲まれ、その中央には男がやはり、ニヤニヤと笑いながら酒を飲んでいた。
しっかりとした体躯に知性のある瞳。服装や、周りの男たちの態度からも、彼が首領らしいことは解る。
(「ヤバイ‥。こんなところにいるのよりは、野宿の方がよっぽど安全、とっとと退散」)
だが、男の足は動かなかった。理由は恐怖ではない‥
「ああ、そうだ。親分、例の銀の髪の娘の村、解りやしたぜ」
そう言った部下のあげた村の名は、詩人がほんの数日前までいたあの少女の村だったからだ。
(「何故、こいつらがあの村を?」)
「そうか‥なら今準備している仕事が終わった‥そうだな、5日後にその村をやるぞ」
トン、テーブルに置いた麦酒のジョッキの置く音を掻き消す男たちの歓声が沸き起こった。
「好きにしていいんですよね? 親分」
「ああ、思う存分暴れろ」
「やったぜ!」
喜ぶ男達の横で見ていた近侍の男は、首領の空いたジョッキに酒を注ぎながらも不信そうな表情だ。
それに首領も気付く。
「どうした?」
「あ、いえ、あんな村をわざわざ襲う理由があるのだろうか、と少し。どう見ても見入りは良く無さそうなんっですけどね」
口調は丁寧だが拒絶が込められた言葉に、首領は二杯目の酒を啜りながら小さく笑う。そう言うと思ったと、いう表情で。
「確かに、あの村には金はねえだろうよ。だが、それ以上のお宝があるのさ。‥金貨200枚は下らない最高の宝がな」
「金貨200? そんな宝があの村に?」
男の驚きに満足そうに、首領は笑った。
「まあ、よっぽどの奴でもなきゃ、それに気付きはしねえだろうがな。どうして、あんな村にあるんだか? それにあの娘そのものも高く売れるだろうよ。今度はお邪魔虫も出ねえ。バカにされた礼をたっぷり返してやるさ」
「首領、遊びすぎて壊さねえで下さいよ」
「ああ、解ってるさ。いいとこ味見くらいかな?」
「ボスの味見じゃあ全部無くなっちまいますよ」
「ま、否定はしねえがな」
「「「「ハッハッハッ‥‥」」」」
(「た、大変だ‥」)
詩人は精一杯の力と気力で足を動かすと、馬の嘶きを横に聞き、ひたすらにキャメロットを目指した。
冒険者ギルドの係員は冒険者達を呼んだ。
「あんたら、ベルって娘を覚えてるか?」
覚えてる、と答えた彼らにもう一つ、質問が飛ぶ。
「そいつを助けた時に、へんな盗賊みたいな男ら逃がさなかったか?」
逃がした、そう答えた冒険者の答えに係員はため息をつく。
「どうやら、間違い無さそうだな‥」
「だから、本当だと言ったでしょう‥」
聞き覚えのあるその声に冒険者達は振り向いた。そこには一人の吟遊詩人が立っていたのだ。
「あんた、ベルの村にいた‥」
「その節はお世話になりました。ですが‥今とんでもない事態になっているのです」
そう言うと彼は昨晩聞いた話を冒険者達に語った。
事態を知るに従い冒険者達の顔も蒼白になる。
「なんて‥ことだ」
夜通し歩いてきたのだろう。詩人の靴も身体も疲労の色を消すことは無い。
だが、その目は真摯に冒険者達を見つめた。
「私ではあの村を、彼女を救えません。お願いです。‥助けに行って下さいませんか?」
リン! 小さな鈴の音が鳴る。少女の足が歩みを止めた
「どうしたんだい? ベル?」
「‥何でもない、何でもないんだけど‥嫌な予感がするの? どうしてかしら‥」
少年と、少女は深い森と、その中を貫く街道を見つめた。
滅多に人など訪れぬ細い道。
そこに迫る闇色の足音を、まだ彼らは知る由も無かった。
●リプレイ本文
街道へ向かう門の前に冒険者達が集まっている。
「逃がすんじゃ無かったよ、こんなことならね‥、っとはい。アルさん」
アルノー・アップルガース(ea0033)は呟きながら箒をアルノール・フォルモードレ(ea2939)に渡した。何故か毛布が巻いてある。
アルとはアルノールの愛称だ。
「これがフライングブルーム‥見るのも使うのも‥初めてです。大事に使わせて頂きます」
「今回は急ぎだからな。よろしくな」
今は真面目な顔で速水才蔵(ea1325)はアルに頭を下げた。
「拙者らは先行して準備をしておく」
「お願いします。私達も急いで行きますから。シルバー、頼むわね」
愛馬の首を軽く叩くとレジーナ・フォースター(ea2708)は笑った。彼女は李彩鳳(ea4965)とアルノーとで馬で急ぐつもりだ。
「俺は‥歩こう。ジャイアントの俺では馬が気の毒だ」
ギリアム・バルセイド(ea3245)は苦笑する。前回は馬にはかなり無理をさせた。仕方ない。
「アルさん、無理はなさらず」
「キミも本気で頼むよ。ふざけてるようなら‥解ってるよね」
アルを気遣うレイン・シルフィス(ea2182)とは正反対に緲殺(ea6033)は才蔵を睨み付ける。
「解っておる。拙者はベル殿を守る! いつかお兄ちゃんと呼ばれるまで!」
「そういう所が‥ああ、こいつには気をつけてね。貴女方も」
振り返って殺は新しい仲間に声をかける。成人のアクテ・シュラウヴェル(ea4137)はともかくアリシア・ハウゼン(ea0668)は美少女の部類。危険だ。
「あの‥?」
首を傾げるアリシアに殺は何でもないと手を振った。思えばそれどころではない。
「じゃあ、後で村で‥ 行きますよ、才蔵さん!」
「よし、っと、うわあ!」
「では私達も!」
手綱を引いて彩鳳達、騎馬先行組も駆け出した。そして徒歩組も‥?
前方によろめく人物を見つけ、彼らは立ち止まった。
「‥すまぬ、一緒に行かせてくれ‥」
「才蔵さん、どうしました?」
駆け寄ったアリシアにもたれるようにその忍者は、体を揺らす。
「フライングブルームより落ちた。‥あれは二人乗りするものではない。死を覚悟せねば‥」
バッタリ、倒れた才蔵を殺は仕方ないなあ、という顔で助け起こした。
アルは心配しながらも先に進んだ。時間はあまりない。
「仕方ない‥だが、3日以内に村に着くからな、覚悟しとけよ皆」
ギリアムはにやり微笑む。頷く仲間達。もちろん、才蔵も。
箒、馬、徒歩。全ての者とその思いは、銀の少女、ベルの村へと‥向かって行った。
最後の徒歩班が、村に着いたのは三日目も遅い頃。
「やあ、来たね。待ってたよ」
「足元に気をつけて」
アルノーとフリードが村の境石でカンテラを掲げて立っている。待っていてくれたようだ。
「間に合ったようだな」
周囲を見てギリアムは安堵の息をついた。暗闇の中、資材や木材があちこちに見える。
「アルさん、結構頑張ってくれたみたいだよ。村を救ってくれたく薬草師って話が早かったらしい」
レインの方も彼を見つけた子供たちに囲まれている。
「お兄ちゃん、また音楽聞かせてね」
「ええ、待ってて下さい」
恩を‥村人達は忘れてはいないようだ。
「こっちに‥。村長達が待ってる」
彼らを案内するフリードが指したのは村の集会所。学校も兼ねているここが一番広い建物なのだ。
扉を押し中に入ると、先行していた仲間。村の主だった大人達。そして‥
「先日はありがとうございました」
銀の光が笑顔と丁寧な礼で迎えてくれた。ベルだ。爽やかな鈴の音と共に。
「お噂どおり美しい方ですわね。私アクテと申します」
アクテやアリシアは初対面だが、美しき民、エルフの彼女らから見てもベルは確かに美しかった。
促され冒険者が席に付くと奥にいた男性が立ち上がる。横にはエルシア。村長なのだろう。
「先日は村を救って頂きありがとうございました。お礼もせぬうちこんな事になり‥申しわけありません」
村長は頭を下げる。
「そんなことは構わないよ。でも協力してくれるね?」
はい、殺の言葉に村人達は答えた。既にこの二日で食料や水の準備、資材集めなどを進めていると彩鳳は説明した。
「皆さんのことは私達がお守りします。ご安心下さいませ」
不安を少しでも軽くと、アリシアは微笑んだ。
「それにしても夜盗が村を襲いに来るなんて‥何か心当たりはありませんか?」
村人の首は横に振られた。
「何も。この村はお世辞にも裕福な村ではないので」
「聞く限り、ベルさんが狙いのようなのです。ベルさん、何かお持ちでは?」
‥少し考えてベルがアクテに差し出したもの。それは純白の‥鈴だった。
「これ以外、あの時の持っていた物はありません」
「その鈴‥とても澄んだ音色ですね。両親から頂いたのですか?」
「あっ!」
何気ないその言葉にフリードが顔を顰めたのをレイン見た。ベルは小さく首を振り告げる。
「‥私、捨て子だったんです」
目を瞬かせた冒険者達にベルの『父』が続ける。
「14年前、私がこの子を拾ったのですよ」
王都から少し離れた森の中に置き去りにされていた。と彼は語った。
上質なおくるみと古いマントに包まれ、ナイフと首から下げた鈴。そして‥銀の髪が眩しく光っていた、と。
「!?」
鈴を見たアクテの目が光った。彼女にはある心得がある。それは鍛冶と鉱物知識‥
「どうした?」
「まさか‥ブラン? 本物?」
「え!」
ざわめきが走る。ブランなら‥夜盗が狙っても不思議は無い。
「‥ベルさん‥貴女の本当の家族は‥」
「関係ありません」
レジーナの言葉をベルは遮った。その瞳には最初の出会いから変わらぬ錆びない真っ直ぐな光。
「これが何であれ、私には大事なお守り以外の意味はありません。そして‥私はこの村のベルなんです」
「ベルはこの村の子だよ。ね、そうだよね。皆」
必死に問うフリードに答えるようにベルの細い肩を父が抱きしめた。村人達も‥誰一人ベルを差し出そうとする者はいない。
「安心してね、ベルさんも村の人も村自体もボクが守るから‥ボクの身に代えても」
「ダメです。身に代えたりしちゃ‥」
間髪入れぬベルの返事に‥殺は笑った。背後の仲間達を見て。
そこには一人も欠ける事無い仲間達の晴れやかな顔があった。
盗賊が昼間来る事は少ない。夜こそが彼らの時間だ。
小さく静かな村をぎらつく目で睨む男がいる‥彼は、低く笑うと背後に控える部下たちに号令をかけた。
「野郎ども! さあ、狩りの時間だ。兎をとっとと引き釣りだせ!!」
「おう!!」
轟く雄叫びと共に馬の嘶きが街道に響く。盗賊達は勝利を確信していた。
「来たよ、みんなっ。準備はいい?!」
「貴方に力を‥」
声が、木の上から横から聞こえると盗賊達が気付いた、そのほんの数瞬後
「水よ!」
「大地よ、穴を穿て!」
「「「ぐあああ!!」」」
炸裂した水の弾、足元を取った暗闇の穴。二つの声とそれに数倍する悲鳴が森に木霊した。
「お前ら、一体‥うわあっ!」
後続の男が仲間に駆け寄ろうとしたその時、その何人かの半分が馬から地面に叩き付けられる。
急に止まった馬の足、一体何が?
だが、考えている暇は彼らには無かった。立ち上がった瞬間駆け寄ってきた七つの影の攻撃が腹に、頭にめり込んだからだ。
夜の中でも、影達は素早く動いてくる。
「くそ!」
必死に抵抗したある盗賊のナイフは、影をスッとすり抜けた。
「何?」
思考が消える。
「外道にかける情けはねぇぞ‥、死にたい奴から掛かってきな」
馬を失った盗賊は、そう言った男に切りかかったが‥返り討ちになる。
「レジーナさん、来ます!」
「絶対! 通さない たあっ!」
金の髪の戦士の特攻、盗賊は村の入り口にバリケードがあることしか、知れなかった。
「くそっ! 何があったんだ! 一体?」
最後尾で馬を留めていた男は声を張り上げた。それが命運を分けることになる!
「僕等とベルが救った村なんだ。一歩も近づけさせない! ムーンアロー!」
「うわっ!」
胸を貫いた光の矢にバランスを崩し、男は落馬した。一回転し体制を立て直そうとしたとき、彼は目の前に刃が翻るのを見た。
「お、お前は‥」
自分の前にロングソードを突き出し、無言で睨む戦士に男は舌を打つ。以前に邪魔をした冒険者!
「何故、お前らが‥」
「さあ、何でだろうね‥」
必死に隙を伺っていた男の背後から‥声が聞こえた。少女の細い‥声。
「人の物を奪って生きてきたんだ‥奪われる覚悟は勿論あるよね」
「‥残念ながら、ねえなあ!!」
男は足元の砂を戦士に向かって投げつけると、剣を持って少女に切りかかる。彼女を人質に、と思ったのかもしれない。
だが‥
ガキン!
「何?」
剣は六尺棒に阻まれた。彼女は決して弱い少女では無かったのだ。
「許さないよ‥、絶対に」
一対一ならまだ勝てないことも無かったかもしれない。だが‥その周囲を取り囲む影が、二つから六つへ、そして十へと変わったとき、男の意識は闇へと消えていった。
「本当にありがとうございました。二度も村を救ってい頂きなんとお礼を言ったらいいのか‥」
前回村から黙って去った冒険者達。だが今回は村人全てが彼らを見送りに出てきた。
「いやいや、礼には及ばん。だが‥ベル殿、一度お兄ちゃんと‥」
「止めなって」
くすくすと笑う冒険者と村人は荷車に詰まれた盗賊達を見る。数名逃げたものもいるかもしれないが頭目他13名をなんとか捕らえることができた。
「伝書鳩を飛ばしました。連絡が無事届けば騎士団も迎えに来てくれるでしょう」
彼らの護送もかねて冒険者達は急ぎ旅立つことにしたのだ。
「何にもお礼ができずすみません」
頭を下げる村人をギリアムも仲間達も手で軽く制した。
「いや、食料を貰ったし荷車も借り受けた。村も大変だろう。気にするな。怖い思いをさせてかえってすまなかった」
村の苦境を知っている。お金など取れない。
「また、会いましょうね。ベルさん」
彩鳳やアクテ、アリシアは少女の手をしっかりと握り締める。
「近いうちに私達も‥いえ、必ず」
子供達に取り囲まれているレインはまた小さな約束をした。
「お兄ちゃん、また楽器を聞かせてね」
「ええ」
「さあて、行こう。‥箒の後ろに誰か乗りますか?」
「やめとくー。まだ死にたくないから」
苦笑するアルにそれ以上の苦笑でアルノーは答えた。
「レジーナさん、これ‥」
使わずにすんだ小さな鈴。レジーナは渡されたそれを、大事に受け取る。これも思い出だ。
そして、彼らは村を後にする。
旅立つ恩人達に見送る村人達がその姿、消えるまで、いや消えてもなお手を振り続けていたことを、送られた者達はちゃんと知っていた。
王都に戻った彼らは、盗賊捕縛の報奨金を受けることとなる。
一つの盗賊団は壊滅し、小さな村に平和が戻ったのだった。