【銀の乙女】未来へ向かって‥
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:11人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
‥あれから10数年も経っているなど嘘のよう。
「甘えるな‥」
闇の中でまどろんでいた時、そんな声が聞こえた。
懐かしい鈴の音と、子供達の呼び声が聞こえたような気がした。
‥あれは夢では無かったのだろう。
今、私の腕の中には成長した子供たちがいるのだから‥。
「妻が、心を取り戻してくれたことを、私は心から嬉しく思っている。まだ記憶の混乱はあるようだが、段々に収まっていくだろう。娘と、妻、さらに家の名誉まで救ってくれたことに礼を言う。ありがとう」
冒険者ギルドにやってきた伯爵は、まず、そう言って頭を下げた。
「私は‥報酬より彼との‥まあ、それは後でにしましょうか?」
怪しく語る女性も居たが‥冒険者と伯爵は話を続ける。
差し出された報酬はかなりな割り増しが入っている。冒険者達はそれに関しては素直に受けることにした。だが‥
「私は、まだ納得はしていませんわ。あの奥方の心の弱さは間違いなく今回の事件の原因の一つです。もっと厳しく言って差し上げるべきだったかしら」
「あの弟はどうするつもりなんだ。それから‥ヴェルの去就もだ。伯爵、どう考えている?」
「禍根を残すことになりかねません。例え家名の恥であってもちゃんと処分をなさってください。15年前の事件にすら関わっていそうですし‥」
「白いブラン鋼の鈴、あの鈴について詳しい事を聞かせて頂けませんか?」
「ベルさんに対してもどうなさるおつもりか、伺ってもいいでしょうか?」
「ベルはさ、きっと貴族の生活なんて望まないと思うよ。無理強いはしないで欲しいな」
「俺は、彼女の村や過去について詳しくは知らない。だから、言えるのは彼女の選択を第一にして欲しい。それだけだ‥」
長く、関わってきただけにいろいろな思いを抱いている。一気に語られた彼らの考えや願いに、伯爵はまあまあ、と冒険者達を抑える。その時だった。
BANN!
扉が壊れんばかりの勢いで開かれた。
「ベルの本当の親、ってどういうことですか? 毒が必要って一体!」
「フリード!」
息を切らせ駆け込んできた少年に、何人かの冒険者は慌てて立ち上がった。
「し、知らせを受けて‥大急ぎで‥おじさんと来たんですけど‥一体、何が‥どうしたんです?」
あちゃ! 軽く魔法使いが頭を抱えた。村にそういえば伝書鳩を飛ばした。ベルが危険だと。結局毒を使っている間は無かったのだが‥。
「シフール便での知らせは、すれ違ったようですわね‥大丈夫です。ベルさんは無事ですわ」
安心からか、へたへたと地面に座り込む少年の背後から、一人の男性が姿を現す。
「あなたは‥」
「ベルを、助けていただいてありがとうございます」
彼は無骨な手で帽子を取り、頭を下げた。優雅な伯爵の礼とは違う。だが‥心の篭った感謝だ。
「彼は、ベルさんを育ててきた、お父様でいらっしゃいますわ」
「! マリーベルの‥」
伯爵は目を瞬かせた。暫し、言葉も無く、視線を合わせ‥ただ沈黙だけが二人の父親の間に流れる。
ポロン〜♪
それを破ったのは、吟遊詩人の竪琴だった。
「とりあえずは、話し合いましょう。いろいろな事を‥解れるにしても共に生きるにしても‥まずは話し合い、伝えあわなければ‥」
言い聞かせるような彼の言葉に、伯爵は首をもちろん縦に振った。立ち上がり彼らに宣言する。
「解った。では、貴殿らを我が館に招待しよう。5日後、感謝を込めたパーティを催すつもりだ。それまで自由に行動されよ。さまざまな意見を聞く。質問も答えられる限りは答えよう。そして‥その日までに全てを決めよう。弟や‥ベル‥いやヴェルのこと。我が家のこと。妻のこと‥そして‥マリーベルの事も。未来への道に最後まで立ち会って頂けると嬉しい。‥無論、貴方方も‥だ」
伯爵が差し伸べた手の向こうには、フリードと、ベルの父もいた。
「何が、どうしたのか、解らないけど‥僕はベルを村に‥ おじさん?」
掴みかかりかねないフリードを軽く手で制して、彼は伯爵に向かってお辞儀をする。
「セイン・デーンと申します。謹んでご招待をお受けしましょう。いいな、フリード」
それは、さっきまでとは違う貴族のたしなみを知る正式な礼。フリードは小さな驚きを湛えながらも尊敬する大人の言葉に従った。
「おじさん‥うん」
「ならば、決まりだ。お待ちしている」
伯爵家の館の一室に積み重ねられた布。布、布。
「ありがとう。これで‥多分、できると思うの」
「お嬢様‥一体何をなさるおつもりなのですか?」
お嬢様じゃないわよ。そう前置いてからベルは布と、テーブルの上に置かれた水晶の欠片を見つめた。
「伝えたいの‥言葉で伝えられない感謝を‥。そして‥返事を‥」
冒険者達に正式な招待状が彼らに届けられたのは、その直ぐ後だった。
●リプレイ本文
伯爵の館は久しぶりのお客と、パーティの準備に沸いていた。
心を取り戻した貴婦人。少年ヴェルと少女ベル。そして招かれた冒険者達。
それぞれが、それぞれの思いを抱いて、今、静かな時を過ごしている。
「どうしたんだよ! おじさん」
アルノール・フォルモードレ(ea2939)と李彩鳳(ea4965)はふと足を止めた。
言い争う二人。フリードと‥
「なんでもない。気にするな‥」
おじさんと呼ばれたベルの父はフリードの言葉を無視して館へと戻っていく。
「どうしたんです?」
心配そうに声をかけた二人にフリードは素直に悩んだ顔を見せた。
「‥ベルって、貴族の娘だったんですね‥」
二人は彼の悩みを察する。
「おじさんは何か変だし、ベルはずっと部屋に篭りきり‥ひょっとして‥もう」
俯く肩をアルノールはポン! と叩いた。
「大丈夫ですよ。二人を信じて!」
「ベル様がどういう選択をしようと笑顔で受け入れて差し上げてくださいね。例え貴族でも彼女は、ベル様ですわ」
「‥はい」
少年を二人は見送り、それぞれに何かを考えていた。
「‥これ‥何?」
目を白黒させながら緲殺(ea6033)は箱と布の山を見つめた。
箱の中は服。布の山も服。虹のように眩いドレスの山だ。
「ヴェル様よりお好きな服をと。着て頂かないと私どもが叱られますぅ」
殺はハッとする。そうだ、確かにヴェルに聞いた。
『晩餐会てどんな服を着ていけばいい? 僕は武道着しかないんだけどさ‥』
(「ヴェル、僕の服でも良ければお貸ししますって言ってたけど‥これが『僕の服』?」)
赤、青、黄色。こんな華やかな服を目の前にした覚えはそう無い。
いや、始めてかも‥。
戸惑う殺の前に鮮やかな白地に金の縫い取りのドレスが差し出された。
「これなど如何? 肌が白いので映えるかと‥」
「落ち着いた蒼もお似合いですわ」
「髪も結って‥まあ、滑らかな御髪♪」
「ちょっと待って。だから‥ね」
楽しげにドレスを並べる召し使い達を、言葉で止める手段を殺は知らない。
逃げる訳にもいかない。
かくて着せ替え人形、誕生である。
広い廊下を召し使いは歩く。
いくつも重ねた箱を抱えて。ふと箱が揺れる。
「わっ!」
ガサッ!
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます。押えて下さって」
召し使いの感謝にレインフォルス・フォルナード(ea7641)はなんの、と微笑を返した。
ついでに荷物の半分を自分の腕に重ねる。驚くが、どこに運ぶ? 快活な笑顔に彼女は答えた。
「ベル様のお部屋へ。伯爵様と奥方様がご用意されたドレスですわ」
箱から覗く服の豪華さに思わず口笛を吹く。
「お二人は、ベル様が愛しいのですわ」
「無理も無いか。ところで仕事が終わったら一緒に食事でも‥」
「あら‥」
笑う二人を、一つの影は見送り‥そして踵を返した。
トトン。
ノックに答えた声の許可を得て一人のウィザードが伯爵の書斎に入る。
「何か御用かな?」
アリシア・ハウゼン(ea0668)は礼儀正しくお辞儀し、伯爵に向かい合う。
「単刀直入に申し上げます。ベルさんとヴェルさんはどうするおつもりですか?」
本当に単刀直入だ。苦笑する伯爵にアリシアの言葉は続く。
「ようやく返ってきた実の娘、可愛くて‥手放したくないのは分かります。でもベルさんに考える時間を与えてはどうでしょうか?」
(「自分の生き方に後悔することをベルさんにはして欲しくない‥」)
それがずっとアリシアの思ってきた事。
「彼女は、人に守られなければ歩けない弱い子ではありません。ですから‥」
懸命に言葉を選ぶアリシアに‥伯爵は微笑む。
「野ばらは‥野に‥か‥」
彼は少し寂しげにそう、答えた。
「皆さん、どうぞ」
「ありがとう‥見違えたな。ヴェル‥」
杯を置いたギリアム・バルセイド(ea3245)は迎えに来たヴェルの髪を撫でた。
破れたドレスでギルドに駆け込んできた少年が、今、凛々しく立っている。
ギリアムはそれが嬉しかった。
「ヴェル‥」
「何ですか?」
「水野がなんか企んでいるらしい。気をつけろよ」
「はっ?」
声を潜めたギリアムの言葉の意味が解らぬうちに、その心配が投網と共に飛んでくる。
「フフフ‥『狩る!』我が報酬。ヴェル君‥GET!」
「わっ! な、何です?」
身動きを奪われたヴェルの首筋を、ちょろっ! 爬虫類のような長い舌が擽る。
「おねーさんとあっそびましょお!」
水野伊堵(ea0370)の頬ずりに戸惑うヴェルは、助けをギリアムに求め、彼はそれに答えた。
「水野! 俺の話は終わってない。パーティもまだだ。もう少し待て!」
「‥チッ! まあいいでしょう」
スルスル、網から開放された少年は、ギリアムの背後に隠れ首半分だけを身体の影から覗かせる。
「う〜ん、可愛い♪」
舌なめずり+開いた口は涎を垂らさんばかり。どうやら余計に萌えたらしい。
「もう始まりますわ。‥行きましょう」
礼装のレジーナ・フォースター(ea2708)の冷静な声。
促され彼らが広間に現れたのは暫くの後であった。
「ダメ‥絶対似合わないって!」
「そんなことはありませんわ。お似合いですわよ」
しり込みする殺は彩鳳の後ろへと隠れた。薄藍のドレスは本当に殺に似合っている。
皆が集まった頃、広間の中央で伯爵は杯を掲げた。
「心からの感謝を込めて‥乾杯!」
「乾杯!」
チン! 涼やかな杯の音が広間に響くと、楽師の竪琴や笛の音が楽しげな曲を奏で始めた。
テーブルに並べられたご馳走が暖かい湯気を上げ‥
「皆さん!」
ベルが駆けてきた。冒険者達と父、フリードの眼差しを見つけて村娘の笑顔で。
銀の髪が銀の波のように流れる。白いレースのドレスはシンプルだが華やかで、天使か夢の女神のようだ。
「本当に貴族なのですわね‥」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)が複雑な思いで呟くのを、レイン・シルフィス(ea2182)は黙って聞いた。
野林檎のような赤い頬を見つめ。風のように笑う。
「綺麗ですよ‥ベル‥さん」
「ありがとうございます」
ベルの手を取るレインはふと気付く。完璧に美しい少女の指先だけが妙に荒れて‥?
「ねえベル、さっき届いたこれ‥何?」
殺は大きめの包みを両手に抱える。全員に贈られた物らしい。
「それは‥私が作ったんです」
「手作り?」
瞬きした殺は包みを開く。中には手縫いの防寒服が一式。触れたウールの温もりは柔らかく暖かい。
「私、お礼がしたくて‥。皆さんには‥本当にお世話になったから‥」
細かく、丁寧な縫い目がベルの心を表しているようだ。冒険者の旅の安全を願う祈りと共に。
「ベル‥ありがとう」
照れたように微笑むベルを見つめたレインは、音を合わせた竪琴を握り、伯爵と婦人の前に立った。
「伯爵、貴婦人‥お願いがございます。一つは‥この場で歌を贈る事をお許しください。そしてもう一つ‥」
願いは許され、レインは広間の中央に立つ。
「僕の思いの全てを‥銀の乙女と‥素晴らしき仲間に‥」
♪〜♪
それは‥ありふれた古謡。
だが聞く者全ての胸に、出会いと別れの不思議を伝えていた。
(「セイン様‥」)
彩鳳はベルを、そしてベルを見つめる父、セインを静かに見つめた。
さっきの話が胸に蘇る‥。
『‥私は昔、伯爵家に仕える執事でした。そして‥14年前。私が‥ベルを連れ出したのです』
賊を雇いベルを連れ去り、後に傀儡とするのが彼の雇い主の目的。その連絡役を命じられていたとセインは彩鳳の質問に淡々と答えた。
盗賊達が約束を違え赤子を殺そうとした時、彼のナイフは賊を貫き、その腕は赤子を抱いていた。
そして‥過去と素性を全て捨て山奥に逃げた。本来なら伯爵家の娘として皆に傅かれて暮らしていた筈の娘に罪悪感を感じながら‥。
(「お辛かったですわね‥」)
誰にも言うつもりは無い。二人だけで墓の下まで持っていく。
〜♪〜♪
竪琴が歌う。選択は間違っていないと心に伝えるように‥
「あ、あの‥伯爵!!」
必死の声でアルノールがそう呼びかけたのは伯爵が、用で部屋を一時出ようとした時だった。
まだ彼に、貴族という身分に威竦むところがあるがレインの竪琴が勇気をくれた。
「聞いて頂けますか‥大事なお話が‥」
伯爵は彼の嘆願を一言残らず聞き‥そして首を縦に振ったのだった。
貴族の宝物は素晴らしい。アクテは興味深そうに剣や鎧、タピストリーなどを見て回った。
「あら? これは‥」
壁に飾られた一枚の肖像画が目に付く。笑い合う剣士と娘、耳にあるのはあの‥ブランの鈴?
「それは先祖の肖像。かつて先祖が遺跡で見つけて以来、あの鈴は家長の証となった品なのだ。一対を夫婦が一つずつ。運命を分け合うという意味がある。あいつとは‥分け合えなかったがな」
声に慌ててお辞儀をしたアクテに、伯爵は苦笑する
意味を理解し、それでもきっぱりと告げた。
「伯爵様‥どうなさるおつもりですか‥、彼の行為は例え理由があろうとも‥」
キリリとした眼差しで彼は問いに答える。
「解っている‥同じ過ちは繰り返さぬ、繰り返させぬ‥」
「そう‥ですわね。何より大事なのは子供達の意志と‥未来。‥踊りませんか? 伯爵?」
思いもかけない誘いに微笑む伯爵を、子孫を、子供達を肖像画は見守っていた。
無言でレジーナは貴婦人を見つめていた。横にそっとアリシアは身体を寄せる。
「どうなさいました?」
ほのかな笑みにもレジーナは答えない。だが、アリシアは微笑む。
「‥お気持ちは伝わりました。あの方は、あの方たちは大丈夫ですわ」
アリシアは笑う。レジーナは動かない。
だが‥彼女の瞳は真冬の森の眼差しから、春の新緑の碧へと確かに変わっていた。
思い出すは冒険の思い出。レインフォルスの記憶は時折、後悔という苦い酒を運ぶ。
いくつかの失敗、悔い。だが今の結果に満足していた。
(「俺は‥剣。守る剣になれた。それで‥十分だ」)
「なあヴェル‥」
ギリアムは何杯目かの杯を干して、少し赤くなった顔で名づけ子を見た。
貴族の酒は美味い。酒のせいにして雄弁に、彼はヴェルにいろいろ話して聞かせる。そして‥
「弱いことは悪いことじゃない。弱いことに甘えて、現実から目を逸らしてするべき事をしない事が悪いんだ。意味が解るか‥」
「はい‥」
いい子だ。素直な子に‥どこか父親の気分になる。
ヒュン! その子の頭上に今度はロープが飛んだ。
「今度は頂いていきますよ。さあ、いきましょ〜ねえ」
「いたいけな少年に変なことするなよ」
ずるずる‥引きづられていく彼に聞こえないかもしれない。ギリアムはレインの歌に心を乗せた。
「前を‥しっかりと前を見据えて進んでいけ」
と。
バルコニーを流れる風は12月の氷色。でも、レインには心地よい。
自分の思いの全てを音に乗せた。会心の演奏だったと自分で思える。
銀の光が踊る月下‥彼は背後の存在に気付き振り返った。
「ベル‥」
月の妖精のような少女は真っ直ぐ見つめた。レインを、透明な蒼の瞳で。
「私も‥貴方が好きです」
唐突な返事にレインは心臓の鼓動を手で押えた。
「でも‥私にはまだ、この感情が恋なのか解りません。感謝しているだけなのか‥それとも‥運命の恋なのか‥」
続いた言葉。ベルが一生懸命、誠実に紡いでいるのをレインは感じてた。だから‥続く答えもしっかりと受け止める。
「貴方は‥旅を続ける方。ですから時間を下さい。本当の恋人になれるか、確かめる時間を‥」
「‥ベル」
駆け寄ってレインはベルを抱きしめた。‥心の底から愛しい。
「待つよ。君が‥運命の恋と感じてくれるまで‥」
「いつか村に来てください。遅い春が村に訪れる頃、約束のピクニックしましょう。皆で‥二人で‥」
愛娘を祝福するように月が淡い光を放つ。
目を閉じたベルの美しさ。そして‥
レインは、唇に触れた甘い感触を何時までも忘れる事は無かった。
「ヴェルく〜ん。あらぁ、ここに食べカスがついてるわねェ‥ぺろおん!」
「うわっ! あの‥ロープ外してください!」
「おい! 最後の乾杯だ。ヴェルを離せ!」
太く鋭い声に、残念、と言わんばかりの未練の表情で伊堵はロープをくるくる回す。
ふらつくヴェルをしっかり抱きしめると、耳元にそっと囁く。
「クックック‥困った時はいつでもお姉さんの所に来なさい‥。力になってア・ゲ・ル」
真剣な瞳にヴェルは瞬きするが、そこにはいつもの伊堵。でもイヤでは無くなったのは何故だろう。
「皆いいか?」
杯を持った手を確認しギリアムは、思いを全て、高く高く掲げた。皆とヴェルを見つめ‥声を上げる。
「それぞれの再出発を祝って‥乾杯!」
『乾杯!』
「マリーベル‥本当にいいの?」
「ええ、私は‥あの村のベルです。この鈴も彼に‥」
「解ったわ。でも‥貴女は私達の娘でもあるの。それは忘れないで‥」
「はい‥お母様」
数日後、冒険者達は馬車を見送った。
セインとフリード‥そしてベルを乗せた村へ帰る馬車。
「お世話になりました」
彼らは頭を下げた。
「伯爵‥お父様が私達の村に援助を下さったんです。春には‥お母様も療養に来るって」
輝くベルの笑顔は最初に出会った頃から、少しも錆びず、眩しい。
「村まで送ろうか‥」
殺の言葉にベルは首を降る。
「また、お別れが悲しくなるから‥ここで‥」
贈られた殺のネックレスとレジーナのティアラを抱いてベルは目元の涙を拭う。
レインの細い指もそれを助けた。
「元気で‥」
「本当に‥ありがとうございました。また!」
カラカラ‥音と共に遠ざかる、声と笑顔。
銀の光を冒険者達は何時までも、見送り続けていた。
小さな太陽。冒険者達の心を照らした少女。
その幸せを心から願いながら‥。
後日、二通の手紙にレインの顔色は青になる。
一通はベルの幼馴染より。
『ベルは簡単には渡さないよ』
もう一通は伯爵家の跡取りより。
『従姉妹姫が欲しければ僕を倒してから‥』
「何ですか? これは‥」
「あのお二人もベル様に思いを寄せておられるのですね」
「ライバルが多いぞ、頑張れよ!」
さりげない言葉の意味を理解して、今度は頬が朱に染まる。
「二人も? ライバル? 何です? 見てたんですか? 皆さん!」
暴走レインを暖かく(?)見守る仲間達。
銀の乙女の恋人? レイン 疑問符が取れる日はいずこ‥
シリーズ 終