【泣いた山鬼】 二人のオーガ
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2004年10月12日
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●オープニング
「い・痛くなんかない‥ぞ。ってやっぱり痛いよ〜。お母さ〜〜ん」
転んで足をくじいた少年の耳に何かが聞こえてくる。
ガサッ、ガサガサ‥落ち葉を踏む音、近づいてくる大きな足音‥
「う、うわ〜〜! た、食べないで〜〜」
「ウガッ?」
触れた手は、固く、でも暖かい‥
「えっ? 君は‥‥?」
秋の山は実りの季節。
どんぐり、栗、胡桃にキノコ。
惜しげもなくその宝を人々に分け与えてくれる。
人であれ、動物であれ、モンスターであれ
人々が最も森に多く集まるのもまた秋。
多くの者が仕事の合間を縫って森にやってくる。
だが‥
「グガア〜〜!」
「うわ〜、お・オーガだ〜」
男はキノコの入った籠を取り落とした。
無理も無い。熊の身体に、猪の顔。巨体を揺らめかせオーガが突然目の前に現れたのだから。
そのオーガが、自分に向かって近づいて来たのだから‥
ぐしゃり、簡単に籠は足で踏み潰された。草を踏んだかのように、なんの障害にもならない。
一歩、また一歩とオーガは近づいて来た‥そして手に持った斧を振り上げる!
それが自分に落ちれば簡単に命など切り落とされてしまうだろう。逃げなくては!
だが、腰が抜けて動かない‥
(「やられる!」)
‥‥‥
目を閉じた男は、予想された衝撃がいつまでもやってこないことに(もちろんやってこないに越したことはないのだが‥)気付き‥おそるおそる上を見てみた。
「うわ〜!」
眼前数センチにある斧はピタリと動きを止めている。ゆっくりとその下から身体を逸らすと男は斧の柄を、さらにそれを持つものの手を、腕を、身体を‥顔を見つめた。
鬼の顔は、男を見ていなかった。男の後ろの林を見つめている?
そっと、そっと‥そっと、身体をゆっくりと後ろに向けていくと‥そこには‥焼けたレンガのような肌をした男が立っている。
いや、男ではない。その証拠は額の二つの角‥
「ま・またオーガだ〜〜!」
熊の身体のオーガは、ピクリ! 肩を揺らすと男の方を見た。まるで思い出したかのように。
「しまった!」
もう一度斧が上にあがり、また振り下ろされる! はずがまた落ちては来ない。
目を再び固く閉じた男の耳に聞こえたのは、何かが何かにぶつかった音。
地面が揺れるような太く吼える声。
ドスドスドス!
走り去る二つの足音。そして‥自分の呼吸の音。
「た、助かったのか‥?」
手もある、足もある。首もちゃんと付いている。なんとか‥動く。
男は籠を抱えると一目散に山を降りたのだった。
村に戻った男は森での出来事を早速、皆に話した。
「裏の森にオーガが出たんだ! それも2匹。猪の頭の奴と‥赤い身体の奴が!」
潰された籠が、その爪跡が、何よりの証拠。
人々の声がざわりと揺れた。
「俺が襲われた。生きて帰れたのが不思議なくらいだ。みんな、もう森に行かない方がいい!」
「そんな森は、ワシらの命だ。いつの間に住み着いたのか知らんがオーガなどに巣食われては狩りも、樹の伐採も、何も出来ん!」
「これから冬に向けて、今、キノコや木の実が取れなかったら困るぞ」
「それに、森では子供たちが良く遊んでいるわ、子供たちの前に鬼が現れたりしたら、大変よ!」
「じゃあ、どうしたらいいんだ? 長!」
ざわめく村人の視線を集めた村長はしばらく考えると、こう宣言した。
「オーガは、退治せねばならん。森を渡すわけにはいかんのだ!」
さらに人々は揺れた。オーガを退治するのはいい。だが、誰が戦うのだと。
「‥冒険者に依頼しよう。オーガを倒してくれ、と。彼らならやってくれるはずだ」
そこには、村人に被害が出ないようにしようとする長の計算もあった。
とにかく村長の決定に否も無い。村人達は全員が頷き準備を始めた。
‥いや、正確には全員ではない。
その場に居合わせた数人がそっと抜け出していった事を気付いたものはいなかった。
集会所から抜け出したのは、子供達だった。
彼らは彼らの緊急会議中だ。
「どうする? フリック? このままじゃオーグまで‥」
「そうよ、オーグがいなくなったら、もっと森が大変なことになるわ」
「だけどさ、あの頭の固い父さん達にオーグの事なんて話せないよ‥ どうする? フリック?」
フリックと呼ばれた少年は、深く考えた。その様子は父とよく似ている。
「解ってる。‥いいか? 俺が親父と一緒に街に行って冒険者を止めてくる、もし、俺が止めきれないで冒険者が来たら、森に行ってオーグに知らせるんだ」
いいな? フリックの言葉に子供達は頷いた。
「俺達が、絶対にオーグを守るぞ!」
「えっと、オーガ退治、ですね。標的は二体。オーガと、これはバグベアかな?」
係員の問いに村長はええ、多分。と頷いた。
今までは王城の加護からかモンスターの襲撃などには無縁だった集落の長には区別など付かない。
怪物は、怪物なのだ。
「あの森は我々の宝です。どうぞ、お願いします」
そういうと村長は報酬を預けてギルドを出ていく。扉が動き一つの影が外に出たのを確認し係員は、あれ? と疑問符を浮かべた。
「一人? あの人、子供を連れてたような‥って‥わっ! 君なんでそんなところに?」
係員は、思わず後ずさった。カウンターの下にでも隠れていたのだろうか? 一人の少年がいきなり飛び出したのだ。
カウンターの上に飛び乗り、係員を見る。
彼は、10歳くらいだろうか、意志の強そうな目が真っ直ぐに視線と言葉をぶつけてきた。
「お願い! その依頼取り下げて!」
「は?」
少年の言葉に、係員は首を傾げる。そして、静かに首を今度は横に振った。
「それは、できないよ。この依頼の主は君じゃない。依頼人以外は取り下げられない」
明らかに落胆した様子の少年は、呟いた。
「だって‥、取り下げてもらえないとオーグが‥」
「オーグ?」
「オーグは友達なんだ、悪いことなんかしない。だから‥、オーグを殺しに来ないで!」
悲痛なまでの少年の叫びに、冒険者の一人が声をかけた。好奇心半分、興味‥半分
「そのオーグって一体?」
「オーグは‥」
「フリック! 何している、帰るぞ! 夜までに村に戻るんだからな!」
少年がいないことに気付いたのだろう。父親が外から彼を呼ぶ声がする。
慌てて口を押さえた少年はカウンターから降りると、一度だけ振り向いた。
「その依頼、受けないで‥、村に来ないで‥、森とオーグは僕達が守るんだ」
それだけ言うと、彼は走り去って行ってしまった。もう‥見えない。
大人の依頼
「バグベアとオーガを倒すこと」
子供の依頼
「『オーグ』を殺さないこと」
何をどうしたらいいのか?
冒険者達もまだ答えを出すことができなかった。
●リプレイ本文
影が動く。一つ、二つ‥ いやもっと‥
「やっぱり、ダメそうなのか?」
「ああ、多分聞いてはくれない。だから‥解ってるな」
「うん」
そして‥影は闇に‥森に消え‥朝が来た。
「ふわ〜、眠い。しっかし男ばっかりで旅すんのもつまんね〜な」
朝日を浴び始めた街道を7つの影が進んでいく。
伸びをしてドワーフのヲーク・シン(ea5984)はあからさまに息をついた。いくつもの小さな苦笑が重なる。
「まあ、こういうこともあるさ。見事に野郎ばっかりで色気がないが‥仕方ないだろう」
アーウィン・ラグレス(ea0780)がぽぽん、とヲークの肩を叩く、気分上はまったく同感なのだが愚痴っても仕方ない。
さらに歩いていくと‥五百蔵蛍夜(ea3799)が指を指した。
「あれが、例の村じゃないかな」
「ん? 何か騒がしくないか?」
耳を済ませたアーウィンの言葉に銀零雨(ea0579)も目を擦った。
「早朝だと言うのに、随分人の動きが‥」
「何かあったのかもしれない。急ごう」
アリオス・エルスリード(ea0439)の言葉に仲間たちも頷く。
「早くしろよ! 置いて行くぜ」
「今行く! まったく厄介な依頼になりそうだ」
ハインリヒ・ザクセン(ea7422)は先に行く鉄劉生(ea3993)の声に剣を装備しなおすと、仲間と共に走り出していった。
村に冒険者達が着くと‥一人の神聖騎士が村の中央で人々を宥めるように押さえている。
その騎士にアリオスは声をかけた。
「リュウガ! どうしたんだ?」
挨拶だけして先行していたリュウガ・ダグラス(ea2578)の姿を見つけ、冒険者達は駆け寄っていく。村人は見慣れない男の集団に少し不信の目を見せたが‥村長はそれを制して頭を下げる。
「冒険者の皆さんだ。すみません、おいでくださり感謝します」
「で、どうしたんです?」
ハインリヒの問いに答えたのはリュウガだった。
「子供達が、居なくなったんだ」
「えっ?」
「こういうこともあるかと俺は一足早く来たんだが、遅かったみたいでな‥」
彼がここに着いた時、丁度子供達は森へ逃げ出す直前だったという。
止めようと思ったが‥間に合わず声はかけたが‥止められなかった。
周囲の親たちは心配そうに顔を合わせている。
リュウガの声に気付いてみれば娘、息子がいない。聞けば消えたのは8歳から12歳の子供7人。
村長の11歳の息子フリックも消えている。
「あの子達には森は庭も同じ。普段だったら心配も無いが‥今は時が時。恐ろしいオーガがいる以上一刻も早く連れ戻さねば」
「待ってくれ。焦るな。俺達の仲間が追う。改めて言うが俺達は依頼を受けてオーガ退治にやってきた冒険者だ。詳しい話を聞かせて欲しい」
いかにも強そうな蛍夜の言葉。男達もオーガ退治と聞けば頼りになりそうで、村人達はざわめきを止めた。
「まずは情報収集が先決だな‥子供達は任せたぜ〜?」
軽くウインクをしたアーウィンの合図に頷くと何人かが森の方向へと進んでいく。残った二人は情報収集を始めた。
「じゃあ、まずは出たって言うオーガの外見を‥」
村人達は、口々にオーガの恐怖を語り始めたのだった。
二人が村人を引き付け情報収集をしている間、森に行った仲間からも一人外れ、アリオスは村を歩く。
「きっと‥誰か‥ん!」
捜していたもの。扉を小さく開けてこちらを見ている子供を、アリオスは見つけた。
まだ小さい、5〜6歳くらいの女の子だ。
アリオスはゆっくりと少女に近づくと膝を折って目線を合わせた。
「君は‥フリックという子を知っているかい?」
幼いその子は頬を少し赤らめて小さく頷いた。
「フリックは‥お兄ちゃん。あたしは‥リコよ」
「じゃあ教えて欲しい。君たちの友達‥オーグのことを‥」
少し迷った顔をしながらもリコはアリオスの顔を見た。流れる銀の髪。頬がますます赤くなる。
「オーグ‥苛めない?」
サラの問いに、アリオスは嘘をつかなかった。
「フリックはここに来るな、と言った。倒すにしても、助けるにしても、話が解らなければ無理だ。それに‥」
「それに?」
「モンスターだからと言ってやたらに倒すつもりは無い。共存もできると思う。それは約束する‥だから‥」
自分を見つめる蒼い瞳。リコは頬を真っ赤に染めた。そして頷く。
「じゃあ、教えてあげる‥あのね‥」
リコは語った。大事な友達、オーグの優しさを‥
二手に別れて彼らは森に入った。そう大きな森ではないが不慣れな場所。足取りは思うように進まなかった。
「結構‥深い森だな。二人とも大丈夫か?」
リュウガは振り返り、後ろの仲間たちを見た。
「ああ、なんとかな。ちいと歩きづらいが‥」
なんとか山林を歩く要領で元気に歩く劉生とは反対に実戦経験の少ないハインリヒはやや疲れ気味のようだった。
「大丈夫‥だが‥まったく、やっかいな。モンスター等、調査せずに一気に殲滅すれば後の憂いがなくて良いものを‥」
「おい!」
思わず出た愚痴だったろうが、その言葉にリュウガは顔を顰めた。次の瞬間!
べチャ!
「うわっ!」
「大丈夫か?」
ハインリヒは顔を押さえて蹲る。顔に大きな泥団子が完全命中していた。
「オーグを苛める冒険者! 森に来るな!」
小さな、でも高くその声はが森に響いた。
「子供達か‥」
森のざわめきが、姿と声の居場所を隠し、察することが出来ない。
「こらお前達、一体何を‥」
マントで顔を拭い立ち上がるハインリヒにまた一つ
ヒュン!
泥団子が飛んだ。今度は髪を掠めて落ちる。
「悪戯もほどほどに‥ふがふが」
怒り心頭に来たのか、拳を振り上げるハインリヒの口を劉生はいきなり押さえた。彼とて小さい方ではないが、ジャイアントに羽交い絞めにされハインリヒは動きを失う。
「君は‥フリックの友達だろう? 俺達は彼の依頼を受けてきた冒険者だ」
「信じられるか! オーグを苛めるつもりだろう!」
「俺達は何も全てのモンスターを退治する訳ではない。オーグについて少し話をしてくれないか?」
リュウガは真剣に森に向けて話しかけた。子供に対して嘘は禁物だ。
「てめぇらはオーグを守りたいから俺らに依頼をもってきたんだろ? 俺はてめぇら、の言葉信じるぜ? まあ、こういうおバカもいるがこいつも悪い奴じゃねえんだ。オーグに危害を加えさせたりしない。信じてくれ」
「‥‥」
返事は直ぐには返らなかった、しばらくして‥
「フリックに聞いてくる。そこで待ってろ」
影は‥遠ざかり、リュウガはため息を一つ。そしてハインリヒは劉生から拳骨を一つ貰うことになる。
「オーグを殺さないで、か‥あんなこと言われちゃ気になるよな。俺もヲークだし」
ヲークは森の反対側を零雨と二人で歩いていた。
「森を守るというのが‥少し気になります‥まさか」
それはヲークにも気になることだった。あの間近で見たフリックの目は‥真剣だった。
「オーグ以外のモンスターを自分達で倒そうとしているのかも‥気をつけろ!」
背後に気配を察知しヲークは剣を抜いた。零雨もそれを知り拳を構える。臨戦態勢。
先に襲ってきたのは敵。
「ウガア!」
飛び掛ってきた敵の振るった斧を、紙一重で零雨はかわした。
「くそっ、こいつはオーグなのか? それとも!」
気がかりで本気で向かっていけない二人は受身でその攻撃をかわすのが精一杯だった。
だが、スピードは速く、力も強い。避け続けるのももう少しで限界、そう思った時だった。
「グワアッ!」
「こっちへ!」
敵の動きが止まる。背後からの聞き覚えのある声に二人は迷わず従った。
額にぶつかった泥玉に視界を奪われた敵は、それでも彼らを追おうとした。だが‥
「グウ‥」
あるものを見、立ち止まり、そして‥戻っていった。
「い・行ったみたいだな」
「厄介ですね。あいつは‥でも‥ん!」
呼吸を整え、周囲を見回した二人は息を飲んだ。ヲークは渇いた喉で少年の名を呼んだ。
「フリック‥『彼』は‥」
「来ちゃったんだね。でも、オーグはもう貴方達の恩人だよ。それでも、殺す?」
フリックは『オーグ』の肩から冒険者を見下ろして問う。
二人は首を、躊躇わず横に振った。
「俺達からの情報はそんなところだ。村人はオーガは勿論だが、今まで平和だった森にオーガが住み着くことによって森にモンスターが増えるのを警戒してるようなんだ」
「オーグのことは言わなかった。話が厄介になりそうだったからな」
アーウィンと蛍夜の話をアリオスは頷いて聞いた。
森の入り口でこっそりと彼らは情報を交換した。アリオスがリコから聞いた話も村人へは話せない。
「なるほど‥な。でも現状じゃ村人にそのことを話しても信じては貰えないだろう」
「ああ、どうしたもんかな‥」
腕組みする三人の背後から、森から、影が近づいてくる。
「「「誰だ!」」」
「僕ですよ‥」
その声と顔は良く知った顔。
「零雨、脅かすなよ」
アリオスはため息をつく。森に入った仲間の帰還。他の二人も安堵する。
「で、どうだったんだ? 子供達は‥皆はどうした?」
「話すより、見たほうが早いでしょう。こっちに‥村人には、内緒で‥」
「あ、ああ‥」
三人は零雨に促されて森へと入っていく。それを見た村人は‥村長だけだった。
森の奥に高い岸壁があり、そこに洞穴がある事を三人は近くに来るまで気がつかなかった。
入り口は小さく、木々に隠されていたが‥中は思ったよりも広かった。
ちょっとした、広間であり、子供達には絶好の隠れ家だ。
入ってすぐに彼らは人の気配に気付く。一人や二人ではない空気の色。
カンテラの炎一つの暗闇の向こう、目を慣らした彼らはそこで見た。
他の仲間、数人の子供達。
そして‥立ち上がったフリックの指差した先にいる赤黒い影
「紹介するよ。僕らの友達‥オーグだよ」
彼らは息を呑む。
そこには太い金棒を持った、大きな赤い‥鬼、オーガが静かな目で冒険者を見つめていた。