【泣いた山鬼】 誰がために‥
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2004年11月01日
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●オープニング
小さな事件の後、村と山は暫し、静かな時を迎えていた。
朝の空気が涼しい森の中をキノコ狩りの男が歩く。
騒ぎの前と変わらない、静かな森だ。ただ一つの変化を除いては‥。
「あっち、だっけか? あのオーガ野郎が住んでるのは‥」
岸壁のほうをちらり見ると、子供達の声が聞こえる。男は顔を慌てて背けた。
「子供らを誑かして、この森や村を乗っ取る気じゃねえだろうな?」
自分で言っていて嫌な気持ちになるが‥、子供たちのように素直にあのモンスターを隣人とは認められない。
この気持ちはどうしようもなかった
足元の落ち葉を蹴飛ばしながら、歩く彼はふと自分の足が止まったのを感じた。
理由は解らない。だが‥何故か、これ以上先に進んではいけない気がしたのだ。
身体を樹の影に隠し、そっと‥向こう側を見てみると‥そこに見えた恐怖に男の全身から血の気が引いていった。
「オーガの‥群れ‥?」
森の外れに屯するそれはオーガ族の群れだった。赤褐色の肌をした、子供のようなオーガ、犬の顔をして棍棒を握ったオーガもいる。その数は‥10以上はいそうだ。
そして、明らかに彼らを指揮している、高位のオーガ。猪の顔を持つそれは‥かつて冒険者が倒したと同じバグベアだった。
右腕をだらり垂らしているが、左腕は太い棍棒を檄を飛ばすかのように高々と上げる。
「グオーウッ!」
「「「ウォーー!!」」」
男はそっと樹の影から離れると一目散に逃げ出した。
(「鬼だ、鬼だ!! 鬼が、またやってきやがった!!」)
「どうしたの? おじさん?」
かけられた声に、動転しきっていた彼の意識がハッと我に返る。
子供達と、彼らを肩に乗せるオーガ‥
「降りろ! フリック。お前らも村に直ぐに帰るんだ。‥オーガの群れが森の向こうにいた。襲ってくるかもしれんぞ! オーガに近づくな!」
「おじさん!」
くってかかろうとするフリックを止めるように、そのオーガ、オーグと呼ばれる鬼は肩から優しく下ろすと首を横に振る。
「ぐあわーれーー」
「帰れ? オーグ? 何するつもりなの?」
心配そうな彼は答えるかわりに、子供達の背中を男に向けて押す。そして‥
優しく手を振ったのだった。残ろうとする子供たちも全て村に帰して‥
キャメロットの冒険者ギルドに、彼らは集められた。
「あんたら、この村は知ってるな? 少し前に行ってたはずの村だ。この村から早馬で緊急の連絡が入ってる」
「緊急? 一体なんだ?」
「村の周りに、オーガの群れが来ているらしい。その数は10匹前後。で、それを仕切ってるのは片腕のバグベアだとよ」
「何だって!」
「大至急、助けに行ってやってくれないか?」
『戦え!この先も子供たちと共にありたいのなら!!』
閉じた目を開き、オーグと呼ばれていたオーガは前を向いた。
眼差しの向こうに‥オーガ達が見える。
村と言う大切なものを背中に、オーグは金棒をしっかりと握り締めていた。
●リプレイ本文
風を切り三つの影が村に着いたのは、村人達の想像よりも遥かに早かった。
「皆さん!」
よっ! 明るくサインをきるヲーク・シン(ea5984)に駆け寄る村人達からも安堵の笑みがこぼれる。
「話は大体聞いたが、奴らは?」
箒から飛び降りてアーウィン・ラグレス(ea0780)は周囲を見た。まだ襲われた様子は無い。
「森の奥に集まっているようです。村にはまだ来ておりません」
「見つけたの、昨日の夕方なんだ」
「じゃあ、来るとしたら今日の夜あたりかもな」
アリオス・エルスリード(ea0439)は考える。多くの場合、夜の方がモンスターの行動は活発になるものだ。
「罠の準備をして後発組を待とう‥オーグは?」
「‥‥」
村人達の口が一斉につぐんだ。
「?」
「こっちだよ」
首を傾げる冒険者達をフリックや子供達が手を引き、森と村の境まで連れて行く。
「ぐお?」
「やあ、オーグ。久しぶり」
冒険者達の顔を覚えていたのだろう。オーグはどこか嬉しそうな顔で彼らを迎えた。
「皆、オーグがここにいるのを怖がってるんだ。オーグのせいでオーガ達が来たなんて言ってる人もいる。オーグが村を守ってるの何で解んないのかな?」
頬を膨らませるフリックにアリオスは膝をついて目線を合わせた。
「そうだな。でも単純な事が大人になると解らないものさ。それを教えてやらないか?」
「どうするの?」
手招きした子供達にアリオスとヲークは何かを耳打ちした。
「そうすれば、オーグの事、解ってくれるかな」
「ああ」
「じゃあ、頑張るよ」
駆け出した子供達とオーグを見つめ、まだ見ぬ敵の事を考えながらも彼らの心は微笑んでいた。
箒組から遅れること少し、馬で五百蔵蛍夜(ea3799)とリュウガ・ダグラス(ea2578)が到着した。
早速リュウガは猟師の知識を活かしながら、アリオスと一緒に罠作りを始めた。周囲の観察は怠らないが‥幸い敵はまだ来ない。
蛍夜が村長や村人に作戦の説明を終える頃、徒歩でやってきた残り三人はオーグとの再会を果たしていた。
村の外周の偵察に行った銀零雨(ea0579)が離れ、残ったのは二人。
手持ち無沙汰で、落ち着かないであろうオーグの肩を鉄劉生(ea3993)はポンと軽く叩いた。
「まあ落ち着けよ。それよりちっと話さねえか?」
「が‥?」
こちらを向いたオーグに座れの仕草をすると劉生は横の草の上に座った。
「なあ、オーグ?」
「んが?」
「相手にトドメさせるか? ささなきゃお前は駄目な位置にいるってことをわかってくれよ? リコや他のガキを守りたいんだろ?」
「‥‥」
帰らない答えに劉生は息をついた。
「何かを得れば何かを失う。いい加減覚悟を決めることだ」
後ろで黙って話を聞いていたハインリヒ・ザクセン(ea7422)は厳しくオーグに言い放った。
「よっし! ちょっと敵が来るまでちょいと戦ってみるか? ほら、来いよ」
立ち上がると‥劉生はビュッ! 拳をオーグに繰り出した。殺気は無いが強い拳をオーグは金棒で受け止める。
押し返された力に手が痺れる。劉生は軽く笑うと込めた力をフッと分散させオーグの足元を払った。
抵抗に失敗しオーグは尻餅をつく。何が起きたか解っていないだろう。
「守る為には手を上げなきゃいけないときもある、だが必ずしも殺さなきゃならんとは限らねぇ。力を上手く使うことが『強さ』なんだ。わかるか?」
オーグの手を劉生が取って立ち上がらせる頃、ハインリヒは森影を見つめこう言った。
「遊びは終わりだ。そろそろ来るぞ」
日は西の山に沈もうとしていた‥
カランカラン〜
鳴子の音が森に響き渡る。偵察の零雨が待機場所へと駆け込んできた頃には
「来ました! 用意は?」
「勿論だ」
「行くぞ!」
それぞれが武器の用意をして立っていた。村のかすかな明かりとカンテラを頼りに冒険者達は身構える。
オーグもまた金棒を手に前に戦おうとするが‥劉生とハインリヒがスッと押さえた。
「お前の出番はまだだ」
「貴様はそこで見てろ! 今、出て来られては計画が台無しになる」
「うぐ?」
そう言って走り出そうとする冒険者達にオーグが見せた表情は、心配? それとも‥
ハインリヒは小さく苦笑するとオーグに笑いかけた。
「私達を信じて持ってろ、一番美味しい所は残しておいてやる」
(「今までの私だったら考えられないことだな」)
自分にそう苦笑してハインリヒは剣を抜くと目の前の敵へと走り出していった。
敵の陣形はかなり崩れている。
「近づいてくる。主にゴブリンとコボルト。数は12〜3って所だ」
目を閉じてデティクトライフフォースの効果を確認していたリュウガは周囲の仲間達にそう指示をしたあと呪文を詠唱し始めた。
「再現の神、大いなる父の力を持って聖なる結界をここへ! ホーリー・フィールド!」
結界が村への入り口を見えない力で塞ぐ。村への侵入を止めたり安全地帯にできるはずだ。
ビュン!
風を斬って飛んだ一筋の矢が先頭を駆けていたゴブリンの足を射抜く。
悲鳴を上げて倒れたゴブリンを気にする様子も無く踏みつけて次のゴブリンがやってくる。
「やはり下衆か‥」
ザクッ‥ 零雨の呟きと共に二匹目が地に付した。
一匹一匹であればゴブリンもコボルトも歴戦の冒険者達には大した敵ではない。罠で足を取られるもの、動きに隙が出来たもの、それを彼らは的確に討ち取っていった。
「アリオス? そろそろか?」
弓に魔法を付与しながら蛍夜はアリオスに声をかけた。全体の数もだんだん減ってきている。
「ああ‥ よし、もう一息だ!」
仲間でなく、森でもなく、村に向けて放たれた言葉に小さな影が動いて走った。
それを見届けるとアリオスもナイフを抜き、戦闘に加わる。蛍夜は仲間達の背後を守る形で動いた。
さてその頃、唯一戦いの中で息が上がりかけた者がいる。
「神の名の下に滅せよ! ホーリー」
「ぐはっ」
倒れたコボルトに剣を振り下ろすとハインリヒは懸命に呼吸を整えた。
「っく! なんて凶悪なモンスターだ!」
影が襲いかかる‥。一際大きなその殺気はバグベアのもの。必死でかわすと大きな声で彼は叫んだ。
「このままでは‥だっ誰か〜助けてくれ」
声は村人にも、そして‥オーグにも届いて‥
ガキン!
ハインリヒとバグベアの間にオーグが割り込む。オーグの金棒が片手で使うバグベアの斧を弾き落とす。
「オーグが助けに来てくれたぞ〜」
「たっ助かった」
ヲークの声に喜ぶ村人に、ハインリヒは苦笑する。演技半分、本音半分。ややかっこ悪いが仕方あるまい。
力的には互角だが、片腕のバグベアと両腕のオーガ。その力の差は1対1であれば明らかだった。
仲間の援護が受けられないまま。一合ごとにバグベアは後退していく。
樹に背中が触れた時、バグベアは一気に前へと踏み込んできた。懐に飛び込まれかけたオーグの喉元を斧が抉ろうとした時、
バシュ!
鋭い鞭と矢の一閃、黒と白の神聖魔法。トリッピングのダブル攻撃。投げた剣と槍。
全ての仲間が九人目の仲間の為に動いたのだ。
「お前が決めろ! 自分の選ぶ道を!」
動きの止まったバグベアの頭を金棒が真横から打ち抜いた。
渾身の攻撃、次の瞬間に残ったのは頭部を失ったバグベアの身体。
溢れる血、倒れる身体、飛んだ首‥
「‥‥」
凍りついたような村人に冒険者達の息は深く重い。フリックをはじめ、子供達でさえ動かない。
彼らにこの情景は衝撃的過ぎたのかもしれない。
だが、だが‥一つ、結界を抜け小さな影が彼らに近づいてきた。
「リコ‥」
「ありがと、お兄ちゃんたち。ありがと‥オーグ」
小さな手が触れた時、凍ったようなオーグの身体がゆっくりと動き、金棒を捨て‥そしてリコを抱きしめた。
たった今、同族の命を奪った血色の手。
でも、それを受け入れてくれる無垢な心。
オーグの頬に涙が光る。
雫が地面に落ちる前に人々は動き出した。オーグを、冒険者達を取り囲み手を差し伸べる。
「ありがとうございました‥」
彼らは手をしっかりと握りあった。村人と冒険者、オーグそして子供達。
誰の手も同じぬくもりがした。
オーグは村の外れの狩り小屋に住むことになった。
森に一番近く、見張りを兼ねた意味もあったが、そこはオーグにとって住みにくい場所ではなかった。
いつも子供達が側にいる。徐々に大人達も彼を受け入れていくだろう。
それが確信できた時、冒険者達は自分達の役目が終わった事を知った。
「彼が人をを傷つけるようなら冒険者ギルドまでご依頼ください。その時には千の邪魔が入ろうと必ず退治します」
零雨の言葉に子供達はぷうと頬を膨らませた。
「大丈夫だよ」
「お兄ちゃんのいじわる」
子供達の返事こそを望んでいた彼は微笑む。蛍夜はオーグを手招きし耳元で囁いた。
「お前の力は戦うためだけのものじゃない。畑仕事とかもしてみろ」
「が!」
「ありがとうございました。皆さんに心から感謝します」
村長は心からの礼と思いを込めて頭を下げた。
「じゃあな、元気でやれよ!」
劉生はオーグとがっちり握手を交わすと同じ高さで目を合わせ友に笑いかけた。
一生懸命笑顔を返すオーグの笑顔を彼は見た。
照れくさそうに、でも嬉しそうに。
「さあて、帰るか‥綺麗なお姉ちゃんと打ち上げだ」
伸びをするヲークにそうだな、とアーウィンが頷く。零雨は振り返り村を見る。
「彼とも酒を酌み交わしてみたかったですね」
人は何を求め何のために戦うのか。
失うもの、得るもの。その決断は難しい。人であれ鬼であれ。
だが、どんな不可能に見えても道はあると、作れるのだと彼らは知った。
振り返る村は始めて来た時と変わらない。
でも、今はまったく違う輝きを放って冒険者達の目に見える。
オーガの涙。そして笑顔。
普段ならば決して見ることの無いそれを心の報酬に、彼らは村を後にしたのだった。
【シリーズ 終】