【狩人の少年】少年の日の終わり
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■シリーズシナリオ
担当:夢村円
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 42 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月08日〜03月14日
リプレイ公開日:2005年03月17日
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●オープニング
村はずれ、レグザム家の朝は怒鳴り声で始まった。
「まだ言っているのか? ダメだ。絶対に許さん! この村を捨ててどこに行くつもりなんだ?」
「誤解しないでよ。父さん。村を捨てるつもりなんかじゃない。ただ僕は‥‥」
「ああ、もう話しなんぞ聞かんぞ。羊の世話に早く出ろ! 先に行く!」
「父さんの解らずや!」
悔しげに叫ぶ声を無視して父はドアの向こうに消える。
「‥‥フリード、本気なの?」
「母さん‥‥。うん、僕は本気だよ」
「この村が、嫌になったのかい? 羊飼いになるのが、嫌なのかい?」
母の表情に浮かぶ心配と、悲しげな目線にフリードは慌てて首を横に振った。
「違う、違うよ‥‥。ただ‥‥」
首にかけた牙の首飾りが白く光る。足りない言葉、伝えたい思いに勇気をくれるように。
「もう一度、父さんと話してくる」
踵を返し外に駆け出していく息子が大きく、でも遠く見える。
彼女は深く、思いため息をひとつついて、戸を閉めた。
羊小屋の奥に動く影が見える。フリードはそれに近づいていった。
「父さん‥‥」
「ほら、向こうの羊に水をやれ。早くしろ!」
羊の小屋の掃除をする父親の姿は背中だけ。
こちら見ようともしないが‥‥自分を感じている背中に少年ははっきりと自分の思いを告げた。
「僕は、この村を捨てるつもりは無いよ。僕にとって一番大事なのはこの村だもの。ただ、この村を守れるようになりたいんだ。ベルや村を、守ってくれた冒険者のように、だから‥‥」
「羊に水をやれと言っただろう! 早くしろ!」
「‥‥」
軽い靴音は外に向かって駆け出して、水桶を運ぶ。
二人は、いつもの仕事を始めていた。
思いは、まだ背中合わせのまま‥‥。
「家出でもしちゃったら? この間みたいに」
「‥‥ベル‥‥。あれは別に家出じゃなくって‥‥」
少し膨れたような不機嫌な幼馴染の物騒な言葉に、フリードは頭を抱えた。
「皆、凄く心配したのに、解ってないでしょ?」
長からも、父からも、大人達からも目一杯怒られたが、その中で一番彼女が怒っていた。
まだ、完全に許してくれてはいないのが口調からも解って思わずため息が出た。
「心配を、かけたのは解ってるよ。でも、あの時はどうしても身体が止まらなかったんだ」
「そして、今は、気持ちが止められないんでしょ? 冒険者になりたくて」
「‥‥うん」
そう、あの時、気付いてしまった。
自分自身が村を守れる存在に、冒険者になりたいのだと。
それまでの漠然とした憧れだけではない。絶対の思いへと変わったそれは、もう胸の中で止められなくなっていた。
「ホントに内緒で家を出る? 本気なら協力するわよ?」
ベルの言葉にフリードは首を振った。
「ううん、本気だからこそ、内緒では行かない。ちゃんと解って欲しいんだ。父さんと、母さんに‥‥」
「‥‥そっか、うん、そうよね」
「フリード、ちょっと来なさい」
隣に座っていた少女に軽く合図をしてフリードは呼ばれた相手の元へ駆け寄った。
その人物は村長だ。
「何でしょう?」
「これから、キャメロットに買い出しに行く者達がいる。支度をして一緒に行きなさい」
「えっ?」
突然の話に状況が解らず困惑した目のフリードに、長は続けて一通の手紙を差し出した。
「そしてキャメロットの冒険者ギルドに行ってこれを届けるのだ」
「冒険者ギルドに? 何か困ったことでも起きたのですか?」
本気で心配している少年の頭を村長は軽く撫でると首を横に振った。
「そんな事は、気にせずとも良い。早く、旅支度を整えてくるのだ」
「はい」
走り出した村の未来を、村長は細い目で見つめていた。
冒険者ギルドで、係員はその手紙を読んで唸った。
また、それを渡された冒険者達も同じように声を出して唸っている。
「あの‥‥何が書いて有るんです? その手紙」
覗き込むような様子の少年の仕草から手紙を隠して、彼らはもう一度内容を確認した。
『冒険者の皆様
かようなことをお願いする事をお許しください。
我が村の若者フリードが冒険者として旅立ちたいと申しております。
その思い、生半可ではなく、また決意も固いようでありますが、我らにとっては心配と不安が付きまとっております。
そこで皆様にお願いいたします。我らが村の子、フリードにその才と能力有るや否や、判断して頂きたいのです。そして、無理と思われたら、どうかこの子を村にお連れ下さい。
そしてもし、冒険者として、友として認めても良いと思われるなら正しく導いてやって欲しいのです。
どうぞ、よろしくお願い致します』
さて、どうすべきか。そう思った時だった。
冒険者ギルドに小さな依頼が張り出されたのは。
「ここから南に歩いて二日くらいの村の森に、狼が現れたらしい。村を積極的に襲ってくるわけではないが、子を産んだ親狼がいて、今後襲われるのでは、と心配なんだそうだ。ちょっと見てきてくれないか?」
子を産んだ狼? ぴくり、フリードの耳が動いたのを冒険者は見た。
心も動いているのを彼らは知っている。
彼らは思った。
これは‥‥いいチャンスかも知れないと。
共に、旅をしてみようか? 共に歩いてみようか。
今、自分も考えてみたい。
『冒険者』の意味を‥‥。
●リプレイ本文
その日は、よく晴れた日だった。
村に戻る大人達から放れ、冒険者ギルドの扉を開いた少年を、旅支度を完全に整えた冒険者達が出迎える。
「‥‥あの‥‥皆さん?」
まだ、状況が解っていない様子の少年にマリー・エルリック(ea1402)はツッと近寄って顔を見つめた。
自分より、彼はほんの少し背が高い。少し首を上げてマリーは小さな声で口を開いた。
「フリードさん‥‥私のお師匠様はいつも言ってました‥‥子供の時は‥‥嫌な事は‥‥嫌ってはっきり言えって‥‥。大人に‥‥なっちまったら‥‥たとえ‥‥嫌な事でも‥‥嫌っていえない事が‥‥山ほどあるんだと‥‥」
「えっ?」
目を瞬かせた少年フリードに向けてフレイア・ヴォルフ(ea6557)は軽くウインクをする。
「これからあたし達は依頼で出かけるんだ。そう、この間頼まれた狼の親子のさ」
「本当ですか? あの‥‥」
「あの‥‥、なんです?」
言いよどむようなフリードに李彩鳳(ea4965)はニッコリ笑いかける。何かを待っているようにだ。
「‥‥あの、僕も‥‥僕も連れて行って貰えませんか?」
「ふむ、いい目を‥‥しだしたな。第一関門は合格っと」
ポン! 笑ってフリードの背中を叩くフレイアの言葉にフリードは、意味が解らない、という目を見せるが、それを今、冒険者達はあえて説明はしなかった。
「こっちがイヤだと言っても来るつもりだろ? しっかり付いて来いよ」
「‥‥反対はしない。『冒険者』とは何か、自分で考えるんだ」
ギリアム・バルセイド(ea3245)の励ますような言葉とは反対にエヴィン・アグリッド(ea3647)は静かに、でも強い口調と眼差しをフリードに送る。
「私達は狼との関わりが深い貴方を、依頼に連れて行こうかと考えています。ご一緒しませんか?」
優しく微笑むアクテ・シュラウヴェル(ea4137)の言葉にピンとフリードの背が伸びた。
「一緒に行っていいんですか?」
「決めるのは君だよ? フリード。付いてくるならお客さん扱いはしないからね」
アルノール・フォルモードレ(ea2939)が問いかけた言葉に返事が戻るまでの時間は僅か数瞬。
「行きます。足手まといにはならないようにしますから‥‥お願いします」
「なら、ちゃんと準備を整えて村の者達に言ってくるんだ。大丈夫、待っているから」
五百蔵蛍夜(ea3799)の言葉にフリードは真っ直ぐな返事を返した。
「はい!」
キラキラと輝く目をして駆け出す少年を初めて出会ったときの事を思い出しながら、彩鳳は見つめる。どこか眩しいものを見るような目で。
(「最初にお会いした時は本当に小さな男の子でしたのに、今ではこんなに立派になって‥‥」)
そんな思いまだ、彼女は口にはしなかった。
旅の途中。野営の準備を彼らはしていた。
「フリード、水汲みを手伝って貰うよ。料理は‥‥できる?」
「少しくらいなら‥‥」
テントの用意、火の準備。アルノールとフリードが水汲みをしている間に仲間達も手分けして用意をして、やがて彼らは火を取り囲んだ。
「‥‥あの時の狼かな? 家畜を襲う事を覚えた狼は‥‥排除した方がいいかもしれんぞ」
食事の後、依頼について相談し合う冒険者達の会話を聞いていたフリードは蛍夜の呟きにふと、そちらを見る。
「‥‥あの時って‥‥蛍夜さん」
意味は彼も十分に解っているはずだ。だから、説明はせずに彼は真っ直ぐにフリードの目を見た。
「フリード、お前は、どうしたい?」
「‥‥僕は‥‥」
手が心臓の上で軽く握られる。そこにあるものに問いかけるように目を閉じた少年は再び目を開けたときちゃんと答えを出していた。
「殺さずに、逃がしてあげたいです。どこか‥‥遠くに」
(「第二関門、合格、というところか」)
エヴィンは無言のまま手元の薪を火に投げ入れた。パチパチという音が拍手にも似て聞こえる。
「まだ、具体的にどうしたらいいかは‥‥解らないけれど、罠とか使えたら‥‥」
「そうですわね。罠と餌、後は煙で‥‥」
「眠らせられなかったら‥‥少しは痛い目を見せる事も‥‥」
「人に懐かせてはいけない。馴致させる事が、良いこととは限らないからな」
彼らの話は夜遅くまで続いた。
翌日の夜。彼らは小さな村へとたどり着いた。
フリードの村とほぼ同じくらいの村。
だが、土が温み、花々と動物達の息吹が聞こえてくるようだと冒険者達は頭を廻らせた。
水仙、カウスリップ、菫。
春の気配が感じられる。
「ようこそおいで下さいました」
出迎えた村長は軽く挨拶をすると、冒険者達に森の一角を指し示めす。
「あの森の木の洞の中で狼が子を産んだようなのです。はぐれた狼らしく、母狼と父親らしい狼。それから‥‥子供が数匹いるようでした」
幸い春で獲物が森にいるのだろう。村を襲ってくる事はない。だが‥‥言いよどむ村長にエヴィンは腕組みをしながら告げる。
「その狼だが‥‥まだ人に危害を加えていないなら殲滅するわけにはいかん。ただ危険かもしれないと言うだけで排除するのは人間の勝手だ」
「それは‥‥そうですが‥‥」
「村に危害を加えさせないよ。遠くに連れて行くからさ」
言い切るフレイアに村人も村長もそれ以上の反論はしなかった。
動き始めた冒険者達。
それを見る村人達にはフリードも、冒険者の一員に見えていたのかもしれない。
「狼を、見つけましたわ。村人が言った通り大人の狼は二匹。後は生後間もない子供が四匹ですわ」
「子供は巣の中を動き始めたばかりだ。本当に、今がチャンスかもな‥‥」
あの時の狼か、までは判らなかったけれど‥‥。彩鳳とエヴィンの言葉に仲間達は頷く。
木の箱で作った檻の中に猟師セットの罠を置く。
狩りで射止めた兎を罠の中にしかけて冒険者達は様子を見た。
まずは巣の中の親子を‥‥。
入り口で彼らは煙を炊いた。
ピクン! 周囲を警戒するように母狼は耳を立て、鼻を動かした。
利きすぎる鼻が母狼は顔を顰めた。
アクテとアルノールが調合した薬草が混ざった煙の不思議な匂いに、子供達を置いてよろよろと、外に出てくる。
「よし! 今だ!」
よろめいて出てきた狼の足をアルノールのプラントコントロールが止めた。
そこに彩鳳が素早く外套を被せる。暴れる母狼を引っ掻かれながらも檻の中に彩鳳が入れるのになんとか成功した頃。
煙の中の仔狼確保にエヴィンと蛍夜も成功していた。
後は‥‥
「上手く罠に入ってくれるかねえ」
巣から少し離したところに置いた自作の罠の様子を見守りながら思う。
自分のとマリーの狩猟罠を使い、いくつか罠を作ってみた。これは、願いにも近いかもしれない。
餌に兎を使い、それを殺したとしても、救える命は救いたいものだ‥‥。
「来たぞ!」
ギリアムの声に彼らはじっと息を潜める。
獲物を探し顔の狼が、一匹‥‥血の匂いを感じて近寄ってくる。上手く入って欲しい。
その願いは狼には通用しなかった。若狼がくるりと踵を返しかけた時だ。
ビシッ!
一本の矢が狼の足元に突き刺さる。
(「フリードの矢か?」)
ほんの瞬く間、足を止めた狼の懐にギリアムは一気に飛び込んだ。
ロングソードで、一閃。足を切り裂いた。
ギャウン!
狼は足を崩し、崩れるように倒れこんだ。すかさず檻の中に狼を押し込む。
「‥‥死んだのですか?」
「いや、手加減はした。‥‥頼めるか」
「‥‥判りました」
マリーの唱えた白い光が気を失った狼の傷をそっと、閉じる。
そして、見合わせた彼らの顔は安堵の明るさを、優しい笑顔を浮かべていた。
それから冒険者達は村からかなり離れた森の中に、狼達の入った箱を運んだ。
箱を開き、狼達をそっと外に降ろす。そして、素早くその場を離れる事にした。
影から様子を見ていると、彼らはゆっくりと新しい住処へと、森の中へと還って行く。
痛い目にあったことで人間を恐れるようになってくれればいいのだが‥‥。
「狼と人。関わりあわないのが‥‥一番だな」
蛍夜の呟きにマリーは横で小さく頷く。
「やっぱり‥‥親子は‥‥一緒に暮す方が‥‥幸せですね‥‥」
「でも、意外だったな。狼を飼うとでも言い出すかと思ったが」
にやり笑ったギリアムの言葉にフリードは小さく首を振った。
「僕が、助けた狼も人と関わらなかったら、きっともっと生きていたかもしれない。彼らは犬じゃないから‥‥」
「‥‥そうだな」
くしゃくしゃ、フリードの頭をギリアムは撫でた。
「お前には冒険者を始めるのに十分な技術がある。足りないのは経験と覚悟だ」
「どうだ? 皆。俺は‥‥合格点をつけてやるつもりだが‥‥」
「フリード様なら冒険者になれると思いますわ」
「あたしも十分やっていけると思うよ」
「‥‥明日は‥‥晴れますかね‥‥私は‥‥それだけが‥‥心配です」
「何の‥‥話ですか?」
首を傾げるフリードにエヴィンは一枚の羊皮紙を差し出した。
「これは‥‥」
村長からの手紙にフリードの目が丸くなる。
「冒険者とは他人に認められるものではなく自身の意思でなるもの。
必要な意思と能力と賢さ。仲間として信頼する、される才能。
貴方はいずれも持っていると思います。
ですが続けていけるかどうかは‥‥私達自身ですらこの先続けていけるのかどうか分かりません。保障は誰にもできないのですわ」
手紙から目を離したフリードにアクテは諭すように優しく語った。
「君が最初に果たさなければいけない事は、君の両親や村のみんなに、君が冒険者としてやっていける、そしていく事を証明し、承認して貰う事だ」
「説得には、私達の力は貸せません。貴方の最初の仕事ですわ」
「身体で示しな。きっと解ってくれるよ」
言葉を引き継ぐようにアルノール、彩鳳、フレイアが静かに語る。
それを黙って聞いていたフリードは、小さく首を前へと動かした。
「‥‥はい、解ります。僕、皆さんと一緒に依頼を受けて、思いました。誰かを助けられる存在に、支えられる存在になりたい、って。だから、もう一度父さんたちと話して、ちゃんと許可を貰って、また来ます!」
「それが、解っているなら上等だ。ほら、これをやる。何か解らない事があれば、聞きに来ればいい」
エヴィンはそう言うと一本のダガーをフリードの手に握らせた。
いいんですか? と言う目に彼は頷いて優しく笑う。
今まで殆ど見た事の無かったエヴィンの笑顔にフリードの顔も破顔する。
「一案ですけど、先ずケンブリッジの冒険者学校に入学をお勧めしますわ。そこでいろいろ学んでみるのもいいでしょう?」
「親の説得、勉強、大変かもしれないが、これからが本番だぞ」
「君が仲間として戻ってくるのをいつまでも待っているから、冒険者になってからの初依頼は必ず一緒に果たそう。うん約束だ、フリード」
アルノールが手を差し伸べる。それはお互いを認め合った証。
フリードはその手をしっかりと握り締めて、そして思った。
この手の温もりを、この思いを‥‥忘れないようにしよう、と‥‥。
キャメロットに戻らず、真っ直ぐに村へと戻っていく少年を冒険者達は見送った。
「あいつなら、きっと言い冒険者になれるさ」
ずっと、見守ってきた子供の成長にギリアムの目が細くなる。
「そうですわね‥‥」
『またいつか何処かでお会いしましょう』
抱きしめて、額にキスをした時の照れた表情を思い出しながら彩鳳もくすくすと笑う。
アクテはケンブリッジへの紹介状を書いた。蛍夜も署名をしたそれが使えるかどうか、使うかどうかは‥‥彼次第だろう。
「‥‥今度、出会ったら相棒、ってでも呼んでやるかな?」
「フリード、喜ぶでしょうね。きっと」
アルノールは笑ってフレイアの言葉に頷いた。きっと‥‥彼のライバルである自分の友達も、喜ぶだろう。
「さて、帰るとするか」
身体を伸ばした蛍夜と先を歩くエヴィンの後ろで、ギリアムと彩鳳は服の裾と、首をそれぞれ引かれた。
「なんだ?」
「なんです?」
服の裾を引いたマリーと、首元を引いたフレイアはそれぞれ二人に手を差し出す。
「‥‥保存食、返して貰える?」
「忘れてただろ? フリードにバレないように貸しといたけど、近くの町ででも買ってきてくれよ」
「「あっ!」」
旅支度の基本のミスに二人は顔を赤くする。
フリードには見せられない。顔を見合わせた二人の笑い声が晴れた空に響いて消えていった。
一人、彼は街道を行く。
孤独な旅。でも、寂しくは無かった。
カバンの中の二本のダガー。小さなハートのお守り、そして‥‥首のペンダントが微かに揺れる。
一人ではないのだと伝えてくれる。
冒険者とは自由と引き換えに、自分の責任を自分で負う者。
守られるだけの子供時代は終った。
今度は自分が皆を守るのだ、それを‥‥教えてくれた冒険者達のように。
強い決意と意志を持って彼は、自分の責任で果たさなければならない、最初の仕事に向かって歩き出した。
シリーズ 終